「やぁ、すまないね。君も忙しいだろうに」
「お気になさらず。直希さんこそ、体調は……」
「あぁ、僕の体調なら問題ないさ。と、言うか、体調が良くなければ「光輝の書」の天使逹が外出を許してくれん」
「残当な結果であると思われます」
「………解せぬ」
「お気になさらず。直希さんこそ、体調は……」
「あぁ、僕の体調なら問題ないさ。と、言うか、体調が良くなければ「光輝の書」の天使逹が外出を許してくれん」
「残当な結果であると思われます」
「………解せぬ」
からからと、車椅子を押していく龍哉
その車椅子に腰掛けている直希は、むぅ、と首を傾げている
その車椅子に腰掛けている直希は、むぅ、と首を傾げている
年齢でいうと、龍哉の父親よりも年上のはずである。遥の父親の同級生と聞いているから、それくらいの年齢だ
が、元々童顔気味であるのか、それとも仕草のせいか、もう少し若く見える
首を傾げると、長い髪がはらりはらりと揺れた
が、元々童顔気味であるのか、それとも仕草のせいか、もう少し若く見える
首を傾げると、長い髪がはらりはらりと揺れた
直希は車椅子に乗っているが、別に足が悪い訳ではない
あえて言うならば、「身体中すべてが悪い」状態だ
元々病弱であったそうだが、ここ数年は特に酷い、と龍哉は聞いていた
臥せっている事が多く、食欲もかなり落ちている
それでも、体調がいい日はこうして外に出たがるらしい
あえて言うならば、「身体中すべてが悪い」状態だ
元々病弱であったそうだが、ここ数年は特に酷い、と龍哉は聞いていた
臥せっている事が多く、食欲もかなり落ちている
それでも、体調がいい日はこうして外に出たがるらしい
「天地は忙しいそうでね」
「そうですね。「狐」の件で、「組織」はたいへんと忙しいのだと聞いています」
「そうですね。「狐」の件で、「組織」はたいへんと忙しいのだと聞いています」
かなえが心配そうにそう口にしていたのを思い出す
龍哉としては、かなえにはなるべく「狐」の件に関わらないままでいてほしいと感じているのだが、「組織」所属の契約者である以上、どうしても難しいだろう
ならば、どうするか、と言えば、自分逹は自分逹で出来る範囲のことをやっていくしかない
……もどかしいが、仕方ないのだ
龍哉としては、かなえにはなるべく「狐」の件に関わらないままでいてほしいと感じているのだが、「組織」所属の契約者である以上、どうしても難しいだろう
ならば、どうするか、と言えば、自分逹は自分逹で出来る範囲のことをやっていくしかない
……もどかしいが、仕方ないのだ
「しかし、天地も。だからと言って「組織」所属でもない君に頼まなくとも良いだろうに」
「いえ、僕も本日は、特に目的があって散歩していたわけでもありませんので」
「いえ、僕も本日は、特に目的があって散歩していたわけでもありませんので」
苦笑しながらの直希の言葉に、龍哉はにっこり、微笑む
本来、直希の外出に天地が付き合うはずだった………というか途中まで一緒だったのだ
その道中に散歩していた龍哉と遭遇し、少し立ち話をしていたところで、天地に緊急の用事が入ってしまった
直希は一人でも行けるよ、と言ったのだが、天地と龍哉にダブルで却下され、龍哉がそのまま直希の外出に付き合う事になったのだ
天地が「建物毎ぶっ飛ばす」と言っていたような気がするが、気のせいだろう
もしかしたら、また学校町から廃工場が一つ、消えるかもしれないが
本来、直希の外出に天地が付き合うはずだった………というか途中まで一緒だったのだ
その道中に散歩していた龍哉と遭遇し、少し立ち話をしていたところで、天地に緊急の用事が入ってしまった
直希は一人でも行けるよ、と言ったのだが、天地と龍哉にダブルで却下され、龍哉がそのまま直希の外出に付き合う事になったのだ
天地が「建物毎ぶっ飛ばす」と言っていたような気がするが、気のせいだろう
もしかしたら、また学校町から廃工場が一つ、消えるかもしれないが
「龍哉、君は、無茶をしてはいないかい?」
と、く、と直希が龍哉を見上げ、そう問うてきた
にこり、龍哉は微笑んでその問に答える
にこり、龍哉は微笑んでその問に答える
「無茶はしていませんよ。僕は、僕に出来る範囲の事をしております」
「ふむ、ならば良いのだがね」
「ふむ、ならば良いのだがね」
からから、からから
この時間帯、この通りは人が少ない
なにせこの街であるから、人が少ない通りは都市伝説との遭遇率もあがるのだが、龍哉はあえてこの道を選んでいた
人通りの少ない場所の方が、直希の体調が悪化しにくい事をしっての事だ
この時間帯、この通りは人が少ない
なにせこの街であるから、人が少ない通りは都市伝説との遭遇率もあがるのだが、龍哉はあえてこの道を選んでいた
人通りの少ない場所の方が、直希の体調が悪化しにくい事をしっての事だ
「若いうちは、ついつい無茶をしがちだからね………君達の事だから、「出来る範囲の事」と言って、用意周到に色々とやっているのかもしれんが」
「用意周到、とまではいきませんよ。ただ、備えをしているだけの事です」
「君達の場合、「用意周到」の域に入っていると思うけれどね」
「用意周到、とまではいきませんよ。ただ、備えをしているだけの事です」
「君達の場合、「用意周到」の域に入っていると思うけれどね」
からから、からから
がたがた、がたがた
がたがた、がたがた
進む先にあるマンホールの蓋が、がたがたと、揺れる
「「狐」にプラスして、便乗する厄介な連中も入り込んでいるのだからね。もしかしたら、君達くらいに用意周到なくらいが、調度良いのかもしれないが」
「そうなのですよね。「狐」だけで手一杯だと言うのに、他の問題まで転がり込んでくるのですから、困ります」
「そうなのですよね。「狐」だけで手一杯だと言うのに、他の問題まで転がり込んでくるのですから、困ります」
がたんっ、と
マンホールの蓋をはねのけて、真っ白な鱗を持った鰐が、姿を表した
「下水道の白い鰐」だろう。飛び出したそれは近づいてくる龍哉と直希へと襲いかかろうとする
マンホールの蓋をはねのけて、真っ白な鱗を持った鰐が、姿を表した
「下水道の白い鰐」だろう。飛び出したそれは近づいてくる龍哉と直希へと襲いかかろうとする
だが、龍哉も直希も、驚いた様子も逃げようとする様子もなく
龍哉は直希が座る車椅子を押したまま、直希はいつの間にか手元に古ぼけた本を出現させて
龍哉は直希が座る車椅子を押したまま、直希はいつの間にか手元に古ぼけた本を出現させて
「……穿け、ゾフィエル」
出現したのは、槍を構えた天使
胸元や関節などを部分的に守る鎧をまとったその天使の槍は、吸い込まれるように「下水道の白い鰐」の脳天を貫いた
「下水道の白い鰐」とて、戦闘力は高い都市伝説なのだ、一撃で絶命したりはしない
そして、「下水道の白い鰐」の内側から………槍によって貫かれたその傷口の向こう側で
胸元や関節などを部分的に守る鎧をまとったその天使の槍は、吸い込まれるように「下水道の白い鰐」の脳天を貫いた
「下水道の白い鰐」とて、戦闘力は高い都市伝説なのだ、一撃で絶命したりはしない
そして、「下水道の白い鰐」の内側から………槍によって貫かれたその傷口の向こう側で
何かが、目を光らせ、飛び出してきた
「下水道の白い鰐」には、類似の都市伝説がいくつか存在する。その中の一つが「トイレから出てくる下水蛇」である
親しい存在である故に共生関係だったのか、それとも単に蛇のほうが鰐の体内に勝手に住み着いていただけか
とにもかくにも、蛇は飛び出し、槍を構えた天使へと襲いかかった
槍の穂先から素早く登られ、天使は対応しきれずに
が、「トイレから出てくる下水蛇」の牙は、天使には届かない
ひゅんっ、と言う音と共に二振りの刀が飛んでくる
「大通連」と「小通連」は、くるり、くるりと舞い踊るような動きで持って、「トイレから出てくる下水蛇」へと斬りかかった
すぱりっ、と蛇が斬り裂かれる。「大通連」の方は、そのままどすりっ、と、「下水道の白い鰐」の口へと突き刺さり、「下水道の白い鰐」を地面へと縫いつけた
槍と刀に縫い止められ、身動きできなくなった「下水道の白い鰐」へと、もう一体、召喚された天使が斧を振り下ろして
親しい存在である故に共生関係だったのか、それとも単に蛇のほうが鰐の体内に勝手に住み着いていただけか
とにもかくにも、蛇は飛び出し、槍を構えた天使へと襲いかかった
槍の穂先から素早く登られ、天使は対応しきれずに
が、「トイレから出てくる下水蛇」の牙は、天使には届かない
ひゅんっ、と言う音と共に二振りの刀が飛んでくる
「大通連」と「小通連」は、くるり、くるりと舞い踊るような動きで持って、「トイレから出てくる下水蛇」へと斬りかかった
すぱりっ、と蛇が斬り裂かれる。「大通連」の方は、そのままどすりっ、と、「下水道の白い鰐」の口へと突き刺さり、「下水道の白い鰐」を地面へと縫いつけた
槍と刀に縫い止められ、身動きできなくなった「下水道の白い鰐」へと、もう一体、召喚された天使が斧を振り下ろして
………そして、その通りはまた、静かになった
「……やれやれ。どうにも、反応やら判断力が鈍って困るな。やはり、もう少し実戦に出ねば」
「駄目ですよ、直希さん。ご家族や天地さんが心配しますよ」
「…………むぅ」
「駄目ですよ、直希さん。ご家族や天地さんが心配しますよ」
「…………むぅ」
ぱたむ、と直希が本を閉じると、2人の天使は姿を消す
……姿を消す直前から、天使逹の姿は薄らいでいた
天使の具現化が長時間続けられない程に、直希は弱っているのだ
その事実を、龍哉は改めて確認した
おそらく、天地もこの事実を知っているのだろう
だから余計に、龍哉に直希を頼んだのだ
その点を理解しているからこそ、龍哉は直希の護衛を引き受け、やり遂げる
……姿を消す直前から、天使逹の姿は薄らいでいた
天使の具現化が長時間続けられない程に、直希は弱っているのだ
その事実を、龍哉は改めて確認した
おそらく、天地もこの事実を知っているのだろう
だから余計に、龍哉に直希を頼んだのだ
その点を理解しているからこそ、龍哉は直希の護衛を引き受け、やり遂げる
……それに、直希への「口止め」の件もあるのだし
「さて、それでは。行き先は「ヒーローズカフェ」で良いのですよね?」
「あぁ。あそこでは、海外のヒーロー物の映像も流してくれることがあるからね」
「あぁ。あそこでは、海外のヒーロー物の映像も流してくれることがあるからね」
実に興味深い、と直希は笑う
二人共、先程まで都市伝説に襲われたと言う事実など感じさせぬ表情で、そのまま目的地へと向かったのだった
二人共、先程まで都市伝説に襲われたと言う事実など感じさせぬ表情で、そのまま目的地へと向かったのだった
to be … ?