ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ

みことマーダラー

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みことマーダラー ◆olM0sKt.GA



私を助けてくれた少年は、零崎人識と名乗った。
いや、助けてくれたという表現はこの場合に当てはめるには少しばかり正確さを欠いた言い方かも知れない。
もちろん、結果だけ見れば私、御坂美琴があのガウルンなる中年男によって命を奪われるという最悪の事態は回 避された。こういうふうな言い方をするといかにも一つの問題に区切りが付いたように聞こえるけど、ガウルン本人は無傷のまま逃げおおせているし、私は私で胸が(殴られたときの衝撃とは別の痛みで)息を吸うだけでやたらと痛むしで、つまり事態は一段落どころか一文節のレベルでもちっとも区切れてなんかいない。

それどころか、現状を冷静かつ客観的に見ると文字通りの意味で私の骨折り損であり、開始された状況は進行するよりも先に沈降してしまっている。
東京西部の3分の1を占める面積と、他地域よりも20年は先を行くと評 される科学技術をもって君臨する学園都市をしてなお、今もって七人しかいない『超能力者(レベル5)』》の一人、「超電磁砲」であるところのこの私がそんな情けない事態に陥ってしまったのは、さらに情けないことに油 断と慢心が理由であると言わざるを得ない。
負けた。
完膚ないくらい。
たかが一回の勝負の勝ち負け、なんて小さい視点からうだうだ語るような真似はできればしたくないのだけど、俯瞰してみたところでそこから見えるのは私の命が風前の灯火であったと言う、もっと見たくない光景だけだ。初っぱなから死にかけた、と独白で語る分にはもう一つ緊迫感が伝わり難いが、正直に言って私の心臓はまだ平静を取り戻せてはいない。
それはそうだろう。

私たちの戦いはまだ始まったばかりだ、とは、その意味合いとは裏腹に物語の終わりによく用いられることで有名な言葉だけど、私の物語は本当に始まった途端に終わる危険さえあった訳なんだから。
助かったのは偶然である。
それも私個人の行動とは全く関係のない、完全に外部から訪れた、運も不運も影響を及ぼさないくらいの、純然たる通りすがりの偶然。
九の死が確定していた私に与えられた、一つだけの生。
通りすがった、少年。
零崎人職。

さて、冒頭でいきなり「正確さを欠いた言い方かも知れない」なんて思わせ振りな事を言っておいてその後ちっ とも触れずにいたけど、そのことが私の国語能力の低さを意味するかというと、そんなことはない。 文章的な 「溜め」の回収をわざと遅らせたのは、何のことはない、あれこれ言葉を並べたてるよりも原因そのものを直接 見てもらった方が、意味するところがより伝わり易くなると思ったからだ。
右の耳に三連ピアス、左耳には携帯電話のものと思われるストラップを二つ付けている。
黒いドライバーグローブに、腕に巻かれたスカーフのようなもの。格好だけ見ても中々にエキセントリックだが この程度なら若者の多い学園都市のこと、チンピラやら勘違いした低能力者を狩っていれば、おかしなファッションに出くわすこともある。
特徴的なのは、目だ。
暗い。暗い暗い、瞳。
夜の闇が凝ったような、などと言う表現では全く、圧倒的に、倒錯的なまでに足りない程に塗り潰されている。
気の弱い者なら見ただけ泣き出しかねない、罪深い色。
吸い込まれそうと言うより、吸いとられそうになる闇深い瞳。

「御坂美琴を助けてた」という純然たる事実が真水のであるとするなら、この少年の底知れない禍々しさはさしずめ墨汁のようなものだ。
たった一滴足らすだけで、たやすく水全体を濁らせる。
仮にも命の恩人であると、結果的にだろうと助けてくれた相手であると、注釈の上に注釈を重ねたところでてんで意味をなさない。
たとえ、電撃を自在に操ろうとも。
たとえ、銃の狙いから外れていても。
たとえ、相手がいかめしい中年でなく線の細い少年であっても。
私は。

ちっとも助かった気なんかしていない。


「かはは、まぁこんなもんでいーだろ。まぁそれ程酷くないとは言えいっちまったのが肋骨だけに応急処置っても大したことはできね ーが、折れた骨が肺に刺さりでもしねー限り死にはしねーよ」

私への簡単な治療を終えた零崎は乾いた声で笑った。前述の通り彼に対して若干恐怖に近い感情を捨てられない
でいる私は、ショックが抜けきらないこともあって多少しどろもどろになりながら、それでもなんとか感謝の言葉を述べる。
なんてことはねーよ、と本当に何でもなさそうに言う零崎は、そこだけ取ると単なる気の良い少年のようにも見 えた。
ちなみに零崎の言う応急処置とは、折れた胸部に負担がいかないようタオルと板で固定すると言うもので、謙遜を抜きにしても本当に簡単な処置だが、部位が部位だけにこれでも十全な対応だと言えよう。
腕とかならガチガチに固定することもできるけど、呼吸が関わってくる肺じゃそうもいかないし。
にしても……妙に手馴れてたわね。
何者なんだろう。
助けられといて、疑ってばっかりだけど。
まぁ、状況が状況だしね……。

そう言えばもう一つ追加すべきエピソードがあった。治療に使われた道具は零崎がどこぞから持ってきたものだ。
痛みに呻く私をざっと診察した零崎は(恐るべきことに触診だった)ちょっと待ってろとだけ言い残して天文台の中に消えて行ったのだ。
零崎が調達に行ってる間、当然私はほったらかしの状態だった訳だが、すぐ帰ってくると思われた零崎は中々姿を見せず、これはもう置いてかれたんじゃないだろうかと私が思い始めたあたりになってやっと戻ってきた。
余りに遅いので多少けんの強い調子で何してたのと聞くと、零崎はこともなげに、

「世界の終わりを見てきた」

とやたらかっこつけた表現で言った。
分かり易く言うとつまり、あの狐面の男が言っていた「升の消失」する瞬間を正にその目で見てきたのだという(痛みやら何やらで少し余裕をなくしてた私は用いられたレトリックの意味をとっさに理解できず、何回か聞き返した結果気まずい空気が流れた)。
世界の消失。
36ある升目の……その一つ目。
終わる世界の、始まり。

そのときはそれで終わってしまったけど、こうして人心地付いてみると確かに興味が湧いてくる。
地盤沈下みたいにエリアが落っこちるのか、はたまた霧のようなものにでも包まれるのか、一口に世界の消失と 言っても思い浮かべるイメージは様々だ。
零崎がその瞬間を見てきたと言うのなら、多少の苦手意識を脇にどけても聞いてみなくてはいけないだろう。
とりあえず重要なのは情報だ。「世界の果て」とやらを確認するために放った電撃がさっきの失敗を招いたのだとしても、その好奇心自体は避難されるべき筋合いのものではないだろう。
私は決意も新たに、そう零崎への苦手意識なんてどこかに捨て去ってしまうくらい強く、はっきりした口調で 言った。

「ところで、さ。お礼もそこそこで悪いんだけど聞かせてくれないかしら。さっき言ってた『世界の消失』ってのがどんなものだった のか」
「んあ?俺もはっきりしたことは良くわからなかったが……何かこう、零次元みてーだった」

…………まさかいきなり21エモンに1話だけ出てきた、コンピュータが不要と判断した人間を廃棄するための特殊空間で例えられるとは思わなかった。
何だっけ、おじいさん達がベルトコンベアで運ばれてくの。
ていうか止めて。トラウマが刺激される人が出ちゃう。

「って、何で私こんなこと覚えてるのかしら……」
「かははっ、気にすんじゃねー。『日本で普通に育ってりゃ21エモンを知っていても別にキャラ設定に悪影響はねー』よ」
「いや、そんな誰当てかも解らないような解説を無理やり入れられても……」

ていうか、その発言そのものがクロでしょ。
わざわざ『』でくくったりして。
あるって。悪影響。
イメージとかさぁ。

私の剣呑な空気が伝わったのか零崎はふむ、と顎に手を当てて考えるような仕種をした。男前と称するには背の低さも相まって少し難があるが、それでも、なるほど、真剣な表情をした零崎は結構さまになっていた。 私は同年代の子に比べると色恋にはそんなきゃーきゃー言う方ではない自覚があるけど、こうしてみると確かに 見た目がいいというのは男にとっても確かにプラスになるのだろう。
それでも、単なる見た目どうこうですぐ好きだの何だの言う子の気持ちは、よくわかんないけど。
付き合うとか……。
ないない。
ないって。

私がそんなどうでもいい(本当にどうでもいい。今の状況を考えて見れば事態解決に向けて努力しているだろう黒子に申し訳ないくらいだ)ことを考えている間に零崎は考えをまとめたのだろう、顎から手を放して真っ直ぐに私を見てくる。
何についてかは一体分からないもの、恐らく次に語られる言葉は彼なりに真剣に考えた結果なのだろう。
性別はもちろん、歩んできた人生さえも見るからに違うと知れる人からの意見だ。私とはまた違った視点からの考えが聞けるに違いない。
心するように、手を握る。
唾液を飲む音さえ聞こえてきそうだ。
零崎は、ひどく真面目な表情で、言った。

「まぁアニメ化もされたんだし広い心でいようや」
「直前でやっと戻ってきた私のちょっとシリアスなパート返せ!」

さすがにそれはフォローできない!
アニメ化て!
アニメ化って言うな!
スピンオフも禁止!

「さて、ブラックゾーンに気持ちよく直球を放り込んだところで、だ……」

自覚あったのか。
グレーゾーンですらないって。
零崎が私を見る。

「俺からも色々聞かせてもらおうじゃねーの。電撃使いの女の子ちゃん、よ」

向けられた目からは、
相変わらず、
目を背けたくなるようないやな感じがした。
相変わらずの、凝った闇のような瞳。
罪のような、瞳。

「……いいわ、望むところよ」

それは、束の間のメタパート終了の知らせる合図だった。


と言うわけで、私が一方的な警戒を示しながらの情報交換。
時間がもったいないので歩きながらである。
天文台から続く舗装された道は、他の人間に出会う可能性は高まるものの、だからと言って森林地帯をこそこそ歩くと言うのはいくら何でも現実的じゃない。
それに出会うのは危険人物ばかりでなく、知り合いの可能性もある訳だし。
まぁ、希望的にすぎるけれど。
絶望的なまでに、希望的観測。
次に会うのがまたガウルンのような奴だったとしても、同じ失敗だけはしないように。

零崎が聞きたいと言ったのは、私の操る電撃についてだった。ガウルンに向けて放ったものを見たのだと言う。
超電磁砲。
エレクトロマスター。
学園都市で第三位の、超能力者。
学園都市内ではそこそこ名前が知れてる方だとは思うけど、外部とは偏執的なまでに隔絶されている学園都市のこと、外の人間からすれば実際に目にする能力者が物珍しく写るのは仕方ないだろう。
いや、零崎が学園都市の住人じゃないかどうかは分からないけど。
230万人という人口を考えれば、顔面に刺青なんて派手な格好をしていても目立たないのは仕方無いかもしれないが、能力者でもなんでもないのに身のこなしと勘みたいなもので銃弾をよける(曰く、銃は殺気が直線的な のでかわしやすい。冗談だと思いたい)なんて規格外もいいとこの奴がいれば、噂くらいは聞く……と思う。
ところが、詳しく話してみると、驚いたことに零崎は学園都市の存在そのものを知らなかった。

「知らないもんは知らねーな。学園都市っつったら筑波だろ?わけわかんねー能力の開発ってんなら『殺し名』の連中が嫌って程、そ れこそ頭がおかしくなるくらいやってるが、それだってそんな大々的なもんじゃねーよ」
「日本に居れば知らないなんてないと思うけど……私はその『殺し名』ってのの方が初めて聞くわ」

名前からして物騒な集団みたいなので、正直あまり聞きたくはないけど。
果たして、零崎ははぐらかすように笑った。
幸か不幸か。

「かははっ。教えないでおいてやるよ。何だかんだであんたは『こっち側』の人間じゃあり得ねーしな」

うーん…………。
もしほんとに学園都市に隠れて能力を開発してるような組織があるなら、黒子辺りにでも教えといた方がいいのかも知れないけど。
学園都市から隠れて、ってのがそもそも現実的じゃなのよね。
まぁ、それについては今は保留。

「まぁ俺が活動してたのは大体関西だったしな。アメリカに渡ってた時期もあるし、そのせいじゃねーか?」
「世界規模で有名なはずなんだけど……」
「自分が思ってる程周りは自分を見てないって言うぜ」
「何かいいこと言ったみたいに言ってるけど、そこまで内容のある発言じゃないわよね、それ」

私の発言を乾いた笑いで打ち消して、零崎は頭の後ろで手を組んだ。
零崎人識。
能力云々抜きにしても腕は立つようだけど、それはもうずば抜けて立つようだけど、それ以外のことはやっぱり分からない。
学園都市を知らない、ねぇ。
21エモンは知ってるのに。

「だが、イカれた連中には結構縁のある俺だが、それでもあんたみたいに直球な奴は初めてみるぜ。分かりやすくヤバいって奴に会っ たことはそう多くない。いやー、ロギア系こえー」

終始偉そうな態度を崩さなかったくせに天敵に会った途端トンでもない変顔かました自称神様みたいな言われ方をされた。しかもマックスでも二億ボルトの奴。
私になぞらえるにはちょっと低すぎる。
御坂美琴の最大出力は十億ボルトです。
いや、自慢じゃないけど。
誇りではあるかな。

翻って零崎の方はと言うと、これは学園都市の存在さえ知らなかったことからも分かる通り、まったくの『無能力者(レベル0)』。まれに学園都市でのカリキュラムを経ることなしに能力に目覚めるものもいるらしいが、そんな些末な可能性まで一々取り上げる価値が今あるとは思えない。
つまり、生き残るために有利な条件という視点で見た場合、零崎の持つアドバンテージは卓越した身体能力のみ、と言うことになる。
とはいえ零崎の場合はそれ自体が生半可なレベルで収まるものではないので、大抵の能力者なら苦もなく圧倒できるだろう。
私が、されたように。
ガウルンが、私に、したように。
心臓が高鳴る。
フラッシュバックを振り払うように、頭を振る。
口の中が乾いていた。
話題を、変えよう。
真っ先に思い付いたのは知り合いについてだった。

「零崎、あんたは探してる人とかいないの?知り合いとか、会いたい人とか」
「特にこれって奴はいねーな。大将に怒られるのもいやなんで《蒼》は見つけといてやろーかとも思ったが、段々面倒になってきた。 ましてや《あいつ》に関しちゃ、ま──」

探すまでもねーだろ。
会いたくもねーし。
零崎は、出会って間もない私では何とも心情の図りがたい、起伏のない声でそう言った。
含みのある言い方からして何かしらの事情があるのだろうが、だからと言って根掘り葉堀り聞くのは憚られる。
浅からぬ因縁、と言う奴だろうか。

「歯痛くもねーし」
「そいつはあんたのかかりつけの歯科医か何かか」
「会田君もいねーし」
「誰だよ」

意外と薄い関係かも知れなかった。
ていうかほんと誰だ、会田君。

「けど、どうしてもって言うなら、まぁ探してやらなくもないぞ……?」
「うぜぇ……」

わざわざ上目遣いで半疑問形にしてくるあたり、うざさの二乗だった。
零崎がそれ以上の返しをしてこなかったので、この話題はこれにて終了。
零崎の指す人物が名簿上で誰に当たるかも、私の知り合いについても一切伝えずじまいになってしまったが、本人がそれ程乗り気でない以上これは仕方がない。

ん。
名簿と言えば……零崎って『名簿に載っていない十人』の一人なのよね。
別に忘れていた訳ではなくそのこと自体は治療の一番最初、名前を交換したときに確認済みではあったのだが、さっきはそれだけで流れてしまった。
だがこれに関してはそれ程広がりのある話だとは思えない。名簿に載っているかどうかで扱いが変わっている訳でもないようだし、個別の、共通ではない支給品にもそれ程顕著な違いがあるようにも思えなかった(零崎の支給品は得意武器のナイフやら鋼糸やらで、私は『航空機燃料』と説明のついた金属製のタンクだった。肝心の航空機がどこにあるか知らないが、燃料の入ったタンクは数える気にもならないくらいの大量だった。これはこれで使いようによっては武器だと言える)。
まぁ、さしあたって考えても仕方のない問題、という奴だろう。零崎がこれに関して何か特別な智慧を持っているとも思えない。
私は、気まぐれとも呼べない些細な感情の揺れに従い、この話題を蒸し返すことを先延ばしにした。

さて、なし崩し的に、それでもそれなりに平坦に、同行二人を決め込んでいる私たちだが、これは天文台から移動しようと思えばまともなルートが実質一本しかなかったことが大きい。逆に言えば、そうでもなければ、汝の隣人を疑えと言わんばかりの状況でどこの誰とも知れぬ、それでいてまともじゃないことだけは知れる、輩と一緒にいることはどれだけ表現を柔らかくしたところで願い下げと言うしかない。
これに関して言えば、さっきから再三に渡って申し立てている零崎に対する本能的な警戒も、私の単独行動をしたいという欲求に拍車をかけており、助けられたという事実を差し引いてもそれは相殺しきれるものではなかった。

そもそも、何で零崎は私にくっついてきてるんだろう……。
ふらっと姿を消してもおかしくないのに。
軽薄そうだし。
まぁそれも目的意識のなさと危機感のなさ(零崎の場合は自信かも知れない)からくるものと言われればそれまでだ。
互いの手札を確認しあえば、次は、さもそうすることが当然であると何者かによって決められているかのように、今後の方針に話題は移る。ここでどちらか片方にでも何か確固とした強い目的でもあればそれを口実に別れることもできそうなものだが、生憎と、私たちは、二人そろって「とりあえず知り合いと合流する」と言う曖昧極まりない目的しか持っていなかった。
右も左もどころか上も下も、一寸先だって分からない暗中模索である以上、仕方のない部分ではあるのだが。

いやもう。
ほんと、どうすりゃいいんだか。
手を封じられた、手探り状態。
投了さえも、ままならない。
する気はないけど。

畢竟、とりあえず施設に描かれた施設でも回ってみるかと言う、問題の先送りとほぼ同義の結論に落ち着く訳だ。

「道なりに行けばまずは神社、ね。何があるとも思えないけど……」

座ってるよりはまし、という程度でしかない。
私のこの呟きも確認というより間を持たせるくらいの意味しかなく、当然だが広がりもない。
零崎もそんなことは分かっているのか特に反応を示さなかった。
いやな沈黙が、降りる。
足音だけが、聞こえる。

…………………………。
ううん。
困った。
私は、終始喋っていないと落ち着かないというタイプでこそないが、それでも、頼りなく光る街灯をのぞけば真っ暗闇に近いところに、この沈黙はいささか苦痛だ。
これで、同行者が黒子のような分かりやすい人間だったなら、たとえ初対面であってもまた違ったのだろうが、現在のところ道連れは未だ得体の知れない部分の残る零崎人識だ。
特に何をしたってこともないし、見た目程危ない奴ってことはないんだろうけど……。

しかし、やはり延々と続く沈黙には耐え難いものがあり、私は何か喋ろうと口を開く。
テーマは、まぁそんなに考えなくていいか。
難しい議論をしようって言うんじゃないんだし。所詮場繋ぎだ。
言葉は、口をついて出た。

「──あんたは、この殺し合い……どう思う?」

出て、しまった。

「──傑作だぜ」

刹那、空気が凍った。
決定的に。圧倒的に。
むせかえる程に濃密で、吐き出したいくらい陰湿な、明確な――。


――殺気?


「まさか、よりにもよって、殺人鬼に向かって、殺し合いについて聞くなんてな──」

椅子取りゲーム。
世界の消失。
生存競争。
殺し合い。

「何て言ってみせたところで、心の底から頭の先まで傑作なのは俺だって変わらない。何故なら俺は今の今まで、この瞬間になるその ときまで、そんなこと考えてもみなかったからだ。 兄貴や大将ならこういうときは嬉々として、鬼気として、いくらだって語り明 かしてくれるんだろーが、残念 ながら俺はそんなことをしようとは思わないし、できもしない。
 何故なら俺に言わせればそんなものは『たかが人殺し』に過ぎないからだ」

私は、このときはっきりと理解した。
いやな感じなんてものじゃない。
やばいなんてもんじゃ――なかった。

「むしろ人を殺すのに意味を求めることの方が俺には理解できない。
 俺は息を吸うように解すし、俺は息を吐くように人を並べる。
 俺はあんたが息を吸った回数だけあんたを揃えるチャンスがあったし、
 あんたが息を吐いた回数だけあんたを晒すことができた。
 それをしなかったのは、まぁ、あの赤色との約束があったからだが逆に言えば、
 そうでもなければ俺には『殺さない理由』がない」

零崎人識は、人を人と思いながら、殺す。
怪我をしたくらいで運不運を考えていたなんて馬鹿らしい。私は既にとんでもない幸運を掴んで、端から消費していたのだ。
私が今まで死なずに済んできたのは。
今の今まで殺されずにいられたのは。

単に、零崎がそういう時期だったからという、ただそれだけのことなのだ。

「お前は今まで食ったパンの数を覚えているのか、なんてレベルじゃねー。お前は今まで呼った空気の量を覚えているのか、だ。かは は。いきなり、息を吸うことについて聞かれても、こりゃ答えようがねーわな。まぁそういうのも丸ごとひっくるめて一切合──」

傑作だぜ。
言って、

「んなとこでいいか?電撃使いの女の子ちゃん、よ」

零崎は笑い。
私は、笑えなかった。


【C-1 道路 一日目 黎明】


【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
【状態】肋骨数本骨折(応急処置済み)
【装備】なし
【所持品】支給品一式 、金属タンク入りの航空機燃料(100%)
【思考】
基本:この世界からの脱出、弱者の保護
1:知り合い(白井黒子インデックス上条当麻)との合流
2:当面は基本方針優先。B-1消滅の半日前ぐらいには黒子、当麻との合流を優先する。
3:人識への恐怖

【備考】
マップ端の境界線は単純な物理攻撃では破れないと考えています。
この殺し合いが勝者の能力を上げる為の絶対能力進化計画と似たような物であるかも知れないと考えていますが、当面のところ誰かに言う気はありません。


【零崎人識@戯言シリーズ】
[状態]:健康 
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、礼園のナイフ9本@空の境界、七閃用鋼糸6/7@とある魔術の禁書目録、少女趣味@戯言シリーズ
[思考・状況]
1:ぶらつきながら《死線の蒼》といーちゃんを探すが、段々飽きてきている。
2:両儀式に興味。
[備考]
原作でクビシシメロマンチスト終了以降に哀川潤と交わした約束のために自分から誰かを殺そうというつもりはありません。
ただし相手から襲ってきた場合にまで約束を守るつもりはないようです。


【航空機燃料】
格納庫に置かれている航空機のための燃料。かなりの量が相当数の保管の効く金属タンクに分けて支給されている。
当然可燃性であり、使い方によっては武器にもなる。



前:とある舞台の人間失格 御坂美琴 次:罪人のペル・エム・フル
前:とある舞台の人間失格 零崎人識 次:罪人のペル・エム・フル


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