ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ

silky heart

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silky heart ◆UcWYhusQhw



何処か遠い世界。

そこは大きな一つの大陸しかなくて。

その大陸の中央に聳える山脈と雄大な大河を境に2つの大きな国がある世界。

東の国をロクシアーヌク連邦。通称ロクシェ。
西の国をベゼル・イルトア王国連合。通称スーベーイル。

その2つの国は長い歴史の中、戦争を続けていたのです。

運河を挟んで行われる戦争は終わる事が無くずっと続いていました。


しかし……ある時戦争は終わったのです。

『英雄』の歴史的発見よって。

『英雄』はそれを発表する事により戦争を終結させるに至りました。


そして戦争は終わり平和になって行ったのです。

『英雄』はやがてロクシェ王国に属するイクストーヴァ王国の王女で結婚しました。
その後に娘を儲けたと公式発表されたのです。

しかし事実は少し違い……


『英雄』が儲けたのは『王女』だけではなく―――







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「……ねぇ、トレイズ君。何処に向かってるの?」
「北東。エリアが消えるのを確認したいんだ」
「……それで何かなるっていうの? もしかして、脱出できたり?」
「いや、別に。多分消える瞬間が解るだけ……かな」

まだ暗い住宅街を二人の人間が歩いていた。
前を進むのは年季の入った黒い革ジャケットを纏った黒髪の少年、トレイズ。
表情を変え無いその顔は取りあえず端整と言っても可笑しくはなかった。
そのトレイズの後をゆっくりと歩いている赤い制服を纏まった暗い藍色の髪を持つ少女、川嶋亜美
全身から気だるさは出してはいるもの流石は現役のモデル。
艶やかな髪、しなやかなで細い足で歩く様はとても可憐で麗しいものだった。
瞳を潤ませ愛らしいまるでチワワのような視線をトレイズに向かって出しているがトレイズは全く気付いてない。
そしてトレイズのエリアの消失への回答に露骨に不快感を露わにして

「はぁ?……何も意味無いのにわざわざ遠くまで見に行くの? 面倒じゃん」
「だって、手がかりが何もないだろ。なら意味が無くても言ってみるしかない」
「……ったく……案外役にたたねー」
「……聞こえてます」
「聞かせてんのよ」
「……」

亜美のその言葉に凄く微妙な表情を浮かべながら歩くのを続ける。
亜美も何だかんだ言っても着いてきているのは信頼をしてくれるのだろう。
最も他に手段が無いというのも有るのかもしれないが。
コホンとトレイズは一息、間をおいて

「兎も角……取り合えずは図書館に。俺の知り合いや亜美さんの知り合いが居るかもしれない」
「わかったわよ……会って……会って……あたしはどうするのかな? どうなるのかな?」
「……うん?」
「何でもないわよ」

あの後亜美は名簿を確認した。
そこには、高須竜児、逢坂大河、櫛枝実乃梨の三名の名前。
亜美はその名前を見て凄く哀しいようなまたは彼らに抱く感情など持ち合わせてないような複雑な表情を浮かべた。
大切な人達では有る、失いたくないとも想っている。
だけど今更何を思えばいいのだろうと。
こんなものに巻き込まれて、そして色々あった彼らに。
もし、この場で合ったとして何が起きるのだろうか、自分がどうするのだろうか……自問するも答えが返ってくる事は無かった。

「うん、何でもない」

だから今は特に想わない。
淡白と言われるかもしれないけどそれがいいと思ったから。
だから今は考えなかった。
まして彼らが死ぬなんて……考えたくも無かった。

「……そっか」
「何よ」
「別に、何でもありません」
「……ったく、むかつくんですけど」
「それは、すいません」
「だから、それがイラつくんだって……あーもう」

亜美のそんな思いを悟ったかは知らないけどトレイズは解ったようにただ頷いた。
そのトレイズの何かを知ってそれでも聞かない態度何処か気に入らず、亜美は突っ掛かる。
それをのらりくらりと交わすトレイズ。
気にかけてそれでも亜美に何も聞かない。
それが嬉しくもありむかつきもしたりで全く複雑だった。

「あー簡単に解決できる手段とか有ったり、何処かに逃げ込むだけで脱出できれたらいいのに」
「……全く仰る通りで」

その亜美の呟きにまたもトレイズは解ったように返事をして。
亜美はムッとするも特に何も言わなかった。
何となく彼の気持ちが判ったから。
でも、それでも。

「あー本当に……簡単に解決できると……思ったのにな」

そう、呟かざる終えなかった。
トレイズは思わず振り返って亜美の表情を見ようとするも亜美は空を見上げていてその表情は解らない。
それでも、何か後悔しているようなそんな気持ちは受ける事はできて。
トレイズは手をさし伸ばそうと言葉をかけようと想って……それを出来なかった。
出逢ったばかりの自分に何ができるのだと思って。

亜美は変わらず空を見上げて。

ただ、見上げていただけだった。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






また二人は歩き始めて。
言葉もかけることは少なく。
最もトレイズが話を振るも上手く続かなかった。
亜美は何処かそわそわしている様で話をできる感じではなかったのだ。
その様子を見かねたトレイズは歩きながらあるものを探していた。

(しかし……この街並み。ロクシェの首都より発展しているような気がしないでもないけど)

その街並みをみて先ほどからトレイズはずっと疑問に思っていることがある。
道路、時たま見つかる高いビル、明るい街灯などなど。
街並み全体がトレイズが見た事ある都市よりも発展しているのだ。
何処か二十年先の街並みを歩いているような感覚に襲われて。
何か根本的に違うのだろうかと考えて。

(いや……スーベーイルの首都とか行った事ないしな……見識不足かな、俺も)

そこで一旦思考を打ち切る。
そもそも自分もそこまで沢山の街を見たわけじゃないと想って。
見識不足だろうと一旦考えそこで思考で止めた。
今はそれ以上の事を考えるべきではない。
そう考えて。
それでも違和感は消えずトレイズの中に深く残っていた。
トレイズは一旦頭をふってそして探しているものを見つけた。
自分が想定していたものより明るく、大きくてビックリはしたが。

「亜美さん」
「何、亜美ちゃん、可愛くてやっぱり惚れちゃった? 駄目だよそれは~」
「……いや、そうじゃなくて」
「ガン無視……」
「何か言った?」
「別に~。鈍感だなって」
「……まあ、いっか。ほら」
「うん……コンビニ?」
「コンビニ……? まぁ雑貨店」

トレイズが指したのは雑貨店、俗に言うコンビニエンスストア。
最もその言葉はトレイズの世界には未だ存在はしていないのだが。
兎も角、それを指差されて亜美は疑問に思う。

「それがどうしたの?」
「いや……さっきからそわそわしてるから」
「……はい?」
「その……トイレとか」
「っ!?」

そのトレイズの言葉で亜美は先ほどのことを思い出す。
トレイズの水鉄砲によるアレを。
急に顔が赤くなってそしてあの事に今更怒り出して。

「ちょ!? はぁ!? 何そんなデリカシー無い事言ってんの!?」
「え? い、いや気にしているみたいだし……さ……って何そんなに怒っている……の?」
「はぁ!? ちょっと信じられないんですけど! あーもうというかあーーーーえい!」
「ぐぇ!?」

そして先程思ったことを実行する。
結構力を篭めてトレイズの右頬をぶん殴った。
トレイズは蛙が潰れたような声を出してぶっ倒れる。
トレイズは解らず未だにキョトンして亜美を見つめていて。
そんな未だに気付かないトレイズに亜美は苛立って

「あーこのうざいんですけど……このヘタレ!」

そう言ってそのままコンビニに入っていった。
亜美はそそくさ女性下着の所からそれを取ってトイレに向かう。
トレイズは未だに頬を押さえそして全力で落ち込んでいた。

「……ヘタレ……ヘタレ……」

その亜美の言葉に。
普段から色々な人に言われているだけあって結構、いや、大いにショックだった。
溜め息を付きながら立ち上がりこのまま待っていてもしょうがないのでトレイズもコンビニに入る。

「……ヘタレ……ヘタレか」

その言葉を幽鬼の如く繰り返しながらあたりを見回す。
やはり、トレイズの目から見ても発展している事が解る。
見た事もない食品、雑貨などなどがあって。
関心と共に驚きを感じながら。
そして目に言った雑誌の一つを手にとって見る。
そこには先程まで自分と行動していた女の子が大きく移っていて。

「あの子……有名な人なのかな」

雑誌の表紙を飾るのは川嶋亜美、その人。
表紙に移る亜美は可愛らしく笑っていて、チワワの様だった。
パラパラと捲って亜美に関するページを見てみる。。
そこにはやはりどれも綺麗に可愛く写っている亜美ばっかり。
トレイズからしても素直に可愛いと思えたのだ。

「モデル……か。やっぱり可愛いんだな」

しっかり今までプロとして生きていたんだろう。
写真からそう感じられて。
だからこそトレイズも思う。

「しっかり返してやらなきゃ……な。だから……護ろう」

亜美を普通の場所に戻す為に護ろうと
そう思って。
可愛い人に殺し合いなどにあわないそう思って。

「終わったわよ……何してるの?」
「いや、別に……いこうか」

トイレと着替えを終えた亜美を見てトレイズはそのまま雑誌を置きコンビニから早々に出る。
ふんと鼻で笑って亜美も追っていこうとしてふとトレイズの置いた雑誌を視線で追った。
そこに写っていたのは自分。
そして少し聞こえていたトレイズの言葉。

「可愛いか……うふふ……護る……か」

浮かぶのは笑顔。
最初に存在していた苛立ちはいつのまにか解消されていた。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





D-2に位置する図書館。
そこは4階建ての大きな近代的なビルで敷地も大きく立派なものだった。

「凄い……立派な図書館だな……首都にあるみたいのものだ」
「大きい~亜美ちゃんビックリ~」
(……やっぱり、何か違う。こんなにも新しくガラスもふんだんに使われて……どういう事だ?)

その立派な図書館に両方とも圧倒されるだけだった。
しかしトレイズの方は疑問の方が多い。
やはり全体的に技術が発達している。
違和感が段々確実なものに近く感じてきている事も。
そんな事を考えながら図書館の中に入っている。

そして早速見つけるのは

「ひっ!?」
「うわっ!?」

広がる血だまり。
輪切りにされたとしか表現できない女――長門有希――の死体。
バラバラに毀れている内蔵。
むき出しの肉と骨。
もはや、人としての形として成り立っていなかった。

「ひ、ひぁあぁ……」

腰が抜けた様に亜美がペタンと座り込む。
可愛い顔からボロボロと涙を浮かべる。
恐怖と哀しみ。

いきなり見せられた恐怖のバラバラの死体。
余りにも唐突で我を失ってしまう。
直視が出来なかった。
思わずトレイズの手を無意識で握ってしまう。

「な、何よ……あれ……」
「…………死体だな……くそっ」

急に現れた死の空気。
襲い掛かる死の現実感。
それに亜美はただ怯えるしかなかった。
この世には存在してはいけないような死体に。

「………………くそっ」
「…………ちょ、ちょっとあんた」

しかしトレイズは舌打ちをしながら死体に向かっていく。
何の躊躇いも無く。
そんな様子に亜美は驚きそして侮蔑の意味で呟く。

「あ、あんた怖くないの? 人が死んでいるんだよ? それなのに興味も無いの? 怖くないの?」

人の死をなんとも思ってないように見えて。
人の死を興味もなさそうに行動を起こそうとしたトレイズが。
侮蔑も篭めて呟いてしまう。

でもそれは違って

「怖いよ……正直怯えてる。情けないほどに。こんな死に方惨すぎるし見た事もない……」

トレイズの膝はガクガク震えていて。
トレイズの全身は小刻みに震えていて。
トレイズの声は恐怖で震えていた。

「じゃあ……どうして」
「だって……」

それでもしっかり歩いているのは。
それでも前を向いて進んでいられるのは。

「―――このまま放っておくなんて可哀想すぎる」

窓にかかっていた大きなカーテンをナイフで切り裂く。
それを長門の前に持って行き全身を覆うように隠す。
白いカーテンが血に染まっていく。
簡易な埋葬であった。

「御免……こんな風にしか出来なくて御免……でもやすらかに……護れなくて……御免」

この子を可哀想だと思ったから。
生者の傲慢かもしれないけどこんな死に方をした彼女が。
ただ、可哀想と。
傲慢なだけだとトレイズでも思う。
でも、それでも弱者であろう彼女を放っておくことは出来なかった。
全部を護れる訳が無い。
リリアや亜美を護ろうと思うだけで精一杯だと思う。
でも、それでも助けられなくて、守れなかった事が悔しかった。

そんなトレイズの想いからだった。
そして静かに冥福を祈る為に黙祷する。

(へぇ……凄い……でも呆れちゃう)

その様子を怯えながらも静かに見ていた亜美。
そんなトレイズを見て思う。
凄いなとも。
冷静に思ってそれで居てあんな行動を取れたトレイズが。
単純に凄いなと思ってしまった。
冷静にもなれない自分からすると。

でもそれと同時に侮蔑の気持ちも少しだけ持ってしまう。
何故、冷静にできるのに。
何故あの人はそんな優しさを他者に向けてしまうのだろうと。
護るべき人が居るんだろうと。
それなのに死者にまでそう悔いて。
冷静な判断ができるのにそんな甘い選択を選んでしまうトレイズ。
ただそれがとても甘い人間と感じさせそして馬鹿らしく思ってしまう。
ほんの少ししか護りきれる訳無いと解っているのにそれでも無数を望んでしまうトレイズ。
甘すぎる考え。

それはあの見た目がとても凶暴だけど……とても心優しい少年を思い出してしょうがなくて。

不思議なデジャブを感じて苛立ってしまう。
トレイズの考えは甘くて綺麗だろう。
凄いと思うし尊敬も少しする。
でも、それでも。

(いつか火傷しちゃうよ……トレイズ君?)

いつか火傷してしまいそうなトレイズに呆れと侮蔑も感じてしまう。
ちょっと無愛想だけど優しいトレイズに。
あの少しだけ気になる少年に同じような言葉を贈る様に。

そう想ってトレイズを見つめる。

見つめ続けていた。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「じゃあ……俺、探索してくるから……でも本当にいいのか。一緒に来なくて」
「別にいいよ……ちょっと休みたい」
「……うん、解った。じゃあちょっと見てくる」

図書館一階の読書スペース。
ココは机とソファが広がる広い読書の為の空間。
そこの一つの机にトレイズ達は陣取っていた。
取り敢えずは休憩を。
最初は取るつもりはトレイズには毛頭も無かったのだがあの死体を見た後だと取らざる終えなかった。
亜美の精神的疲労が高いと判断したから。
そしていくらか互いに落ち着いて探索に行こうとトレイズは提案した。
だが亜美は休みたいと。
亜美はそのままトレイズの反対意見を押し切って休む事に。
そこの押しの弱さがトレイズ由縁ではあるのだが。

トレイズはそう言ってそのまま本棚の陰になって消えた。
亜美はそれを見送ってふぅと溜め息を付く。
デイバックから水を取り出して一気に飲んだ。
ただ、落ち着きたかった、一人で。
トレイズの事は信頼している、でも一人で居たかった、今傍に居られると頼ってしまいそうで。
クルクルとデイバックに入っていた役に立たないコインを回す。
クルクル回るコインを眺め少し考える。

自分もあんなになってしまう?
そんな事を。
訪れるかもしれない死。
いや、実際訪れる瞬間まで来ていたのだ。
トレイズの甘さで助けられはしたが。
怖いと単純に想ってしまう。
でもそれと同時に仲間がそうなってしまうのも怖いと。
もう既に誰かなっているのかもしれない。
そう考えると少し震えてしまう。
嫌だ……とも。

パタンとコインが力を失い倒れる。

それと同時に考えを止めて立ち上がる。
こんな事考えたくない。
だから、あえて興味ない本を読んでそれを無くそうと思った。
亜美は近くにあった本棚を覗き

(『ラムダドライバとアームスレイブの関連性』?……『必要悪の教会の歴史』?……『フレイムヘイズと紅世の徒』?……『十三階段の秘密』……
 なにこれ? よく分からない単語ばっかり……)

不思議な本が多くて悩見ながらも違う本棚を覗く。

(『起源について』……『ブラックマンタ』……さっぱりよく解らない。しかもなにこれ、同じ本もあるじゃない。似たようなのも沢山ある)

そんな訳分からない本棚に混乱し始めてくる。
まさか同じ本が何冊も似ている本ならもっと沢山ある。
不思議な図書館でただ戸惑うばかり。
亜美は惑いつつも取り合えず一冊とって見た。
それは

「『大陸とイクストーヴァ王国の歴史』か……とりあえずこれにしよう、きりないもん」

イクストーヴァ王国の事。
亜美は元の場所に戻り本を広げる。
そこには……




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




図書館四階。
本が広がるこのフロアで慎重に進んでいるトレイズ。
とは言うものの異変は感じられず恐らくトレイズと亜美しかいないだろう。
そう思うとほっと一息つく。
ふと右を見ると窓から見れるのは綺麗な景色。
そして明るくなってきた空だった。
日が昇るのが見えてトレイズはふと考える。

リリアの事。
先程の死体を見て何も思わない訳が無かった。
リリアも色々な事件に遭遇はしたものの所詮は力の無い女学生に違いない。
幸運とアリソンら彼女の両親の助けがあったこそとも言えるのだから。

だからこそ。
不安になってしまう。
リリアの事を。

「大丈夫、リリアは大丈夫」

思わず口に出してしまう。
口に出す事で安心させるように。
リリアは強い子だと言い聞かせるように。

今はリリアを信じるしかない。
だから彼女の無事をただ信じて。

明ける空を見ながら胸元にある物を握る。
それは何時か約束したもの。
リリアに贈ると約束したもの。

それをリリアの無事を祈るように強く握って。

トレイズは目を瞑って祈っていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「目次……うわ、随分多いのね」

亜美が頬杖を突きながら気だるそうに頁を捲る。
最初に書かれているのは目次。

第一章は「大陸の歴史」
第二章は「長き戦争の歴史とその終結」
第三章は「イクス王国の歴史と秘密」
となっていた。

亜美は第一章を適当に読み飛ばす。
あまり面白そうではなかったから。
取り合えず大きな二国、ロクシェとスーベーイルが大陸の殆どを占めている事だけを知った。
あくまで基礎知識レベルではあるが。

「ふーん、作り物にしてはよくできてるのね」

あくまで亜美はこの歴史を作り物としてみていた。
本来は実在するものだが亜美にとって大陸が一つしかない世界など知る由ものないのだから。
あくまでフィクションとして楽しみながら第二章に進む。
第二章もその二国が戦争をしていた事だけながら読み飛ばしていた。
しかし、ある頁で亜美の興味を引く。

「……『英雄』による絵画発見で戦争が終結……『英雄』……ねぇ」

それは長き戦争を終わらした『英雄』の事。
歴史的発見である絵画を発表する事によって終わらせた『英雄』
かっこいいなと亜美は思う。
ヒーローそのままで。
しかしながら読み進める内に一つの真実を知る事になる。

「『真の英雄』……?」

それは本来では伏せられた真実。
絵画発見をしたのは『真の英雄』である事。
本来はある少年が見つけたと事細かに乗っていた。
その少年の名前も。

「……なんで、隠したのかしら……『英雄』になれたのに」

『真の英雄』の事を不思議に思う。
何で隠したんだろうと。
英雄になれたというのに。

その答えは『真の英雄』しか知らないけど。
そう亜美は思う。
聞く機会があったら聞いてみたいと想いながらも読み進める。

亜美は知らない。

この場所に

『真の英雄』が居る事実を。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


トレイズは一階のカウンター前に戻ってきていた。
そこに居るのは白いカーテンを赤く染めているもの。
もう二度と動かない長門有希の死体だった。
その死体にもう一度、黙祷して一度謝ってカーテンを少し捲る。
相変わらずのバラバラに吐き気を催すが我慢した。
確認しなければならない。
どうやって彼女が死んだかを。

(綺麗に分かれている……どういう事だ? どうすればこんな事になるんだ?)

切断面は余りに綺麗で。
刀や剣など刃物で切断したようにはとても見えない。
何か別の方法と考えるが別の方法が出てこない。
トレイズは頭を抑え考えるが答えが出てくる訳が無かった。

「御免……辛かっただろうな」

有希のあいている目を閉じる。
少なくとも苦しかっただろうとだけはトレイズに理解できた。
だから、だからこそ

「仇は……絶対取ってやる」

仇はとってやろうと。
こんな事をした殺戮者に鉄槌を。
そう思えることだけはできたから。
トレイズはそっと心に誓ってふと気付く。
有希の指が有る方向を指していた事に。
それはカウンターの有る箇所。
そこに有るのは

「なんだ……この本?……鍵?」

ハイペリオンと書かれた本。
そして栞に書かれた鍵という文字。
なんだろうと考えるが想いつかない。
何かの情報なのだろうかと思って考えるが答えは出なかった。

「……取りあえず持ってよう」

取りあえず考えを保留に済ませその本をデイバックに仕舞う。
そして有希に最後にもう一度カーテンを被せ

「……護れなくて御免」

トレイズもう一度謝罪をした。
傲慢なのは解っている。
でも謝りたい……そう本心から思ったから。
少しでも彼女になにかしてあげったから。

それがトレイズの優しさだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「イクス王国……本当に凝っている事」

亜美はそのまま第3章まで読み進めていた。
書かれていたのはロクシェに属しているイクスの事。
イクスの地理とかを読み飛ばしながらも興味深いところだけを見る。

「『英雄』さん王女と結婚かぁ……ロマンチック……うん? 秘密?」

『英雄』が王女と結婚したという記述の後にイクスの秘密というのが書かれていたのを発見をした。
それは戦争を終結できたかもしれないロクシェとスーベーイルを繋ぐ回廊の事。
そして

「隠された王族……」

イクスの古いしきたり。
それは王族の子供は一人であるという事。
しかしながら双子が生まれるケースも有るという。
それが現女王とその女王の子供である事も。
片方は世間的には王族とは関係ないものになっているらしい。
とはいえ王族としては振舞えるらしいのではあるのだが。

そして、現在王女とされている中、王子が隠されて存在するらしい。
残念ながら名前は載っていなかったが。
しかし、王子の証として『鷹のメダル』を持っているらしい。
そこまで読んで満足だったのか亜美は本を閉じる。

「隠された『英雄』の『王子』かぁ……ロマンチックだよねぇ……」

うっとりとしながら一息つく。
考えるのはその『王子』の事。

「かっこいいんだろうなぁ……王子というんだし……あーあ、そんな『英雄』の子がもしここにいたら解決してくれるんだろうなぁ……」

もし、王子が居たならきっとこんな殺し合いなんてさっさと解決してくれるのに。
そう亜美は思って溜め息を付く。
そういえばトレイズが王子とか言っていたがブンブンと首を振って否定する。

「無い無い。トレイズ君が王子なんて有り得ない。ヘタレだし」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「へクション……風邪?」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「あーあ……本当に居たらいいのに」

亜美は居ないはずの王子を夢想をして。
自分を助けに来ないかなぁと。
白馬に乗ってなんて言わないから自分の下にやってこないかなぁと。
そしてその時思い浮かんだのは

「……最悪、なんで高須君な訳?」

何故か高須竜児だった。
王子って柄ではない。
寧ろヤクザだ。
それなのに思い浮かんでしまった。

「何してんのかな……どうせ不用意に優しさ振りまいているんだろうけど」

そう皮肉を言う割には笑顔だった。
それが高須竜児の性格である事を知っているから。
思ったら何故か笑顔になって。
それがやたら腹立たしいような嬉しいような。

「無事かなぁ……無事だよね?」

そして竜児の無事を祈って笑う。


しかし亜美は知らない。

亜美の為に殺し合いに乗った竜児の事を。

そして命を落とした事を。


まだ亜美は……しらない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「よし、行くか」
「……ええ」

探索を終えたトレイズが亜美と合流し、図書館を出る準備をしていた。
二人とも疲れは多少とれ、元気に見えたから。

「とりあえず時間が余計に立ったし方針を少し変えよう」
「どういう奴?」
「1、このまま向かう。2、エリア消失でなくなる施設を最優先で向かう。3山に登って山頂から全貌を眺める」
「……うーんどうしようかな」
「亜美さんが決めていいよ」
「じゃあ……」

亜美が希望を伝え方針を決めたトレイズは立ち上がり伸びをする。
窓から見える空はもう完全に明るくなっていた。
そして亜美は不意に思うのだ。

「トレイズ君……なんであんたは護るの?」
「……うん?」
「あたしを……リリアって人居るんでしょ?」
「ああ、簡単だよ」

何で自分を護るのだろうと。
好きな人が居るのに。
何故亜美を護るのだろうと。
優先すべきはリリアなのに。

それにトレイズは笑って返す。

「護るのに理由なんてないし……護りたいから……かな」
「理由になってねーじゃん……」
「理由なんて要らないよ」
「……はぁ……お人好し」
「何か言った?」
「別にー」

余りにも予想できたトレイズの答えに苦笑いを浮かべるしか無い亜美。
それでも何故かはらだたしくは思わなかった。
トレイズを信頼し始めているのかなと思ってブンブンと頭を振って否定する。

(なんで、亜美ちゃんがあんなヘタレに!)

トレイズはその様子を見て苦笑いを浮かべそして思う。
やっぱり護ろうと。
どんな時でも。
それが『王子』の役割なんだから。

そして、胸元に輝くのは。


『鷹のメダル』だった。


隠された王子の証拠の

メダルだった。



【D-2/図書館/一日目・早朝】
【トレイズ@リリアとトレイズ】
【状態】腰に浅い切り傷
【装備】コルトガバメント(8/7+1)@フルメタルパニック 銃型水鉄砲 コンバットナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱 鷹のメダル@リリアとトレイズ
【所持品】支給品一式、ハイペリオン(小説)@涼宮ハルヒの憂鬱、長門有希の栞@涼宮ハルヒの憂鬱
【思考】
基本:この世界からの脱出方法の検討と西東天と所在を突き止める
1:このままB-5かC-5に向かいB-6かC-6の消滅の瞬間を確認するかエリア消失でなくなる施設を最優先で向かうか山に登って山頂から全貌を眺めるかどれか一つの通りに行動する
2:リリア、アリソンと早期合流、トラヴァスとも出来れば
3:弱い人は全力で守る
4:長門の敵を討つ
5:亜美は必ず返す

【備考】
マップ端の境界線より先は真っ黒ですが物が一部超えても、超えた部分は消滅しない。
人間も短時間ならマップ端を越えても影響は有りません(長時間では不明)
以上二つの情報をトレイズは確認済

【川嶋亜美@とらドラ!】
【状態】健康  右腕に軽度の打撲
【装備】無し
【所持品】支給品一式 確認済支給品0~1(ナイフ以上の武器ではない)、バブルルート@灼眼のシャナ、『大陸とイクストーヴァ王国の歴史』
【思考】
1:トレイズと行動。
2:トレイズはまあ信用
3:知り合いの心配。特に竜児

【バブルルート@灼眼のシャナ】
リアグネが所持する、コイン型の宝具。一見普通のコインと何も変わらない。
弾かれるとその飛ぶ軌道上に幾つもの残像を残し、その残像が金の鎖になって相手の武器に巻き絡まる能力を持つ。
鎖は破壊不能で、さらに絡んだ武器の能力を打ち消し発動不能にしてしまい、相手の武器がどれだけ強力であろうともただの金属の塊と同様にしてしまうところが“武器殺し”と称される所以である。


投下順に読む
前:摩天楼狂笑曲 次:粗悪品共の舞踏会
時系列順に読む
前:みことマーダラー 次:Triangle Wave


前:Noblesse Oblige-王族の義務とその意味- トレイズ 次:アミとトレイズ〈そして二人は、〉
前:Noblesse Oblige-王族の義務とその意味- 川嶋亜美 次:アミとトレイズ〈そして二人は、〉


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