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忍者月影抄
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忍者月影抄 ◆F0cKheEiqE
この奇怪なる殺し合いの会場となった地において、
地図の上では「C-2」と呼称される場所に、
一つの古ぼけた神社がある。
地図の上では「C-2」と呼称される場所に、
一つの古ぼけた神社がある。
月は雲で隠されているのか、
『人気の無い』神社の境内は、恐ろしく静かで、
音を発するものは時たま吹く風だけである。
『人気の無い』神社の境内は、恐ろしく静かで、
音を発するものは時たま吹く風だけである。
この神社の境内には大きな御神木があった。
樹齢五百年以上はありそうな欅の木で、
長く数多い枝と、そこから伸びた葉が天に広がっている。
その下は影になって、ただでさえ暗い境内の中で、
もっとも暗い闇に包まれていた。
樹齢五百年以上はありそうな欅の木で、
長く数多い枝と、そこから伸びた葉が天に広がっている。
その下は影になって、ただでさえ暗い境内の中で、
もっとも暗い闇に包まれていた。
ふと、風が吹いた。
賽銭箱の上の鈴の緒がたなびき、
カラン、カランと乾いた金属音が響いた。
賽銭箱の上の鈴の緒がたなびき、
カラン、カランと乾いた金属音が響いた。
それに呼応した訳ではないだろうが、
月を隠していた雲が流れ、
月光が境内を照らし始めた。
月を隠していた雲が流れ、
月光が境内を照らし始めた。
神木の下の闇にも、月影が伸びてくる。
そうして闇が切り裂かれると、
はたして、一人の男の顔が照らしだされたのである。
そうして闇が切り裂かれると、
はたして、一人の男の顔が照らしだされたのである。
男は、今出現したのではない。
最初から、この欅の木にもたれかかる様にして立っていたのだ。
最初から、この欅の木にもたれかかる様にして立っていたのだ。
神社には、今なお『人気は無い』。
そう感じさせるほどに、今その存在が明らかになった男は、
存在感が希薄であり、
もし他人が見れば男を幽霊と思ったかもしれない。
そう感じさせるほどに、今その存在が明らかになった男は、
存在感が希薄であり、
もし他人が見れば男を幽霊と思ったかもしれない。
中肉中背の、やや丸みを帯びた、余りにも平凡な容姿をした男である。
もし、路上で彼とすれ違っても、恐らく十秒も経てば、
彼の顔を忘れてしまっているのではないか――
そう思われるほどに平々凡々な顔立ちであった。
もし、路上で彼とすれ違っても、恐らく十秒も経てば、
彼の顔を忘れてしまっているのではないか――
そう思われるほどに平々凡々な顔立ちであった。
男は額に皺を寄せて、腕を組んで考えるような仕草をしているが、
事実男は色々と考え込んでいた。
事実男は色々と考え込んでいた。
自分が今如何なる状況に置かれているのか、
それがとんと見当がつかないのである。
それがとんと見当がつかないのである。
無人の境内で意識が覚醒する前の記憶、
あの奇怪なる光景と、狐面の怪人物の姿を脳内で反芻しながら、
男はううむと唸った。
あの奇怪なる光景と、狐面の怪人物の姿を脳内で反芻しながら、
男はううむと唸った。
男の名前は如月左衛門と言う。
◆
如月左衛門は、甲賀卍谷の住人にして、
甲賀弾正率いる甲賀卍谷衆に所属する忍びであり、
その腕は上位十指、甲賀組十人衆の一員として数えられるほどのベテランである。
甲賀弾正率いる甲賀卍谷衆に所属する忍びであり、
その腕は上位十指、甲賀組十人衆の一員として数えられるほどのベテランである。
近親婚を繰り返し、意図的に遺伝異常を引き起こすことで、
常軌を逸した「忍法」を操る異形の忍者を創り出すことを、
四百年もの長きに渡り繰り返してきた甲賀卍谷だが、
その上位十指ともなれば、もはや妖気すら感じさせる怪物の群れである。
同じ十人衆が一員、風待将監、地虫十兵衛などは、
最早容姿からして人間から逸脱している。
常軌を逸した「忍法」を操る異形の忍者を創り出すことを、
四百年もの長きに渡り繰り返してきた甲賀卍谷だが、
その上位十指ともなれば、もはや妖気すら感じさせる怪物の群れである。
同じ十人衆が一員、風待将監、地虫十兵衛などは、
最早容姿からして人間から逸脱している。
その中にあって一見尋常な、否、「尋常すぎる」容姿容貌を持つ左衛門だが、
彼もまたこのおぞましき血の地獄相の結晶たる存在であり、
常識外の忍法を駆る魔人の一角なのだが、
その「忍法」の実態について述べるのは別の機会にする。
彼もまたこのおぞましき血の地獄相の結晶たる存在であり、
常識外の忍法を駆る魔人の一角なのだが、
その「忍法」の実態について述べるのは別の機会にする。
今、この如月左衛門は実に奇妙な事態に置かれている。
殺し合いをしていたかと思えば、別の殺し合いに巻き込まれていたのである。
殺し合いをしていたかと思えば、別の殺し合いに巻き込まれていたのである。
左衛門がこれまでしていた殺し合いとは、伊賀甲賀の忍法勝負に他ならぬ。
甲賀卍谷衆の四百年の宿敵、伊賀鍔隠れ衆…
今や全国の忍者の頭領となった服部半蔵の定めた不戦の約定により、
互いに憎しみ合いながら、刃を交わす事を禁じられていた両一族であったが、
慶長十九年四月の末、突如この約定は解かれ、
二つの人別帖に記されし甲賀伊賀各々十名が合い戦い、殺し合う運びとなったのだ。
今や全国の忍者の頭領となった服部半蔵の定めた不戦の約定により、
互いに憎しみ合いながら、刃を交わす事を禁じられていた両一族であったが、
慶長十九年四月の末、突如この約定は解かれ、
二つの人別帖に記されし甲賀伊賀各々十名が合い戦い、殺し合う運びとなったのだ。
左衛門は何故、このたび唐突に不戦の約定が解かれたのか、その理由を知らない。
訳もわからぬ内に、気が付けば、この恐るべき血みどろの忍法勝負は開始されていた。
しかし左衛門はその事実には喜びと殺意以外は何の感情も抱かない。
甲賀卍谷に生れし者、老若男女に至るまで、鍔隠れ憎しの一念を胸に、
その魔性の技を磨いてきたのである。
故に、理由など要らぬ。ただ伊賀者惨殺すべし!
先手を打たれた甲賀は、既に五人が討たれている。
人別帖から永遠に抹殺された名前の中には、左衛門の妹、お胡夷の名前もあった。
そんな中、なんとか体勢を立て直し、伊賀者への反撃をいざ開始せん、
そう喜び勇んだ矢先、晴天の霹靂、
左衛門は、この新たなる殺し合いの場に連れ去られたのである。
訳もわからぬ内に、気が付けば、この恐るべき血みどろの忍法勝負は開始されていた。
しかし左衛門はその事実には喜びと殺意以外は何の感情も抱かない。
甲賀卍谷に生れし者、老若男女に至るまで、鍔隠れ憎しの一念を胸に、
その魔性の技を磨いてきたのである。
故に、理由など要らぬ。ただ伊賀者惨殺すべし!
先手を打たれた甲賀は、既に五人が討たれている。
人別帖から永遠に抹殺された名前の中には、左衛門の妹、お胡夷の名前もあった。
そんな中、なんとか体勢を立て直し、伊賀者への反撃をいざ開始せん、
そう喜び勇んだ矢先、晴天の霹靂、
左衛門は、この新たなる殺し合いの場に連れ去られたのである。
◆
組んでいた腕を解いた左衛門は、足もとの黒い鞄を右手で掴み上げると、
木の下を離れて神社の拝殿の欄干に腰を下ろし、鞄を開いた。
木の下を離れて神社の拝殿の欄干に腰を下ろし、鞄を開いた。
この世の闇の世界にして、
人にして人に在らざる魑魅魍魎が跳梁跋扈する
驚くべき忍者の世界に身を置く左衛門にも、流石に理解を超えた『異常事態』である。
人にして人に在らざる魑魅魍魎が跳梁跋扈する
驚くべき忍者の世界に身を置く左衛門にも、流石に理解を超えた『異常事態』である。
今、自分が如何なる状況にあるのか、それを考えるには余りにも情報が少ない。
故に、いったん考えるのを止めて、まずはこの黒い鞄の中身を見ることにした。
故に、いったん考えるのを止めて、まずはこの黒い鞄の中身を見ることにした。
左衛門は江戸時代の人間である。
故に、近代科学の産物たる懐中電灯など、使い方がよく解らない物に
おっかなびっくりしつつ、慎重に鞄の中身を確認していく。
故に、近代科学の産物たる懐中電灯など、使い方がよく解らない物に
おっかなびっくりしつつ、慎重に鞄の中身を確認していく。
(なるほど、この水入れの口には、種子島と同じ技術が使われておるのか…)
ペットボトルの口を開け閉めしながらそんな事を考える。
ペットボトルの口を開け閉めしながらそんな事を考える。
支給品の確認だけで三十分ほど時間を消費し、
一旦外に出した物を鞄に終い終わると、
鞄の外に出ている物は二つだけになった。
一旦外に出した物を鞄に終い終わると、
鞄の外に出ている物は二つだけになった。
名簿と、武器と支給された“竹筒”である。
実際に武器なのは、この竹筒自体ではなくその中身である。
中に入っていたのは、左衛門にも馴染みの深い物であった。
マキビシである。
鉄製で、四方に棘が飛び出した、手裏剣のように投げたり、
地面に巻いて敵の足止めに使ったりするあれである。
実際に武器なのは、この竹筒自体ではなくその中身である。
中に入っていたのは、左衛門にも馴染みの深い物であった。
マキビシである。
鉄製で、四方に棘が飛び出した、手裏剣のように投げたり、
地面に巻いて敵の足止めに使ったりするあれである。
ようやく見知った物が出てきて、
異国で知人に出会った異邦人のように、左衛門は安堵の溜息をついた。
異国で知人に出会った異邦人のように、左衛門は安堵の溜息をついた。
が、その安堵も、名簿に眼を回すや眉間に皺に取って代わられる。
甲賀弦之介―――甲賀弾正の孫にして、甲賀組十人衆の頭領たる若君。
朧―――伊賀のお幻の孫娘にして、忌まわしき鍔隠れの姫君。
薬師寺天膳―――得体の知れない鍔隠れの重鎮にして、伊賀組十人衆の一人。
筑摩小四郎―――伊賀組十人衆の一人にして、天膳の腰巾着。
朧―――伊賀のお幻の孫娘にして、忌まわしき鍔隠れの姫君。
薬師寺天膳―――得体の知れない鍔隠れの重鎮にして、伊賀組十人衆の一人。
筑摩小四郎―――伊賀組十人衆の一人にして、天膳の腰巾着。
(よりにもよって弦之介様が・・・)
左衛門は歯ぎしりをする。
弦之介は卍谷の敬愛すべき若君して、十人衆の頭領、
そして、甲賀組勝利の為には決して欠くことの許されぬ逸材である。
左衛門は歯ぎしりをする。
弦之介は卍谷の敬愛すべき若君して、十人衆の頭領、
そして、甲賀組勝利の為には決して欠くことの許されぬ逸材である。
自分、そして弦之介が抜けたとあれば、
“あちら”に残っているのは霞刑部、室賀豹馬、陽炎の三人。
何れも恐るべき魔人だが、伊賀組の三人を除いても“あちら”に残っているのは、
蓑念鬼、蛍火、雨夜陣五郎、朱絹の四人と、数では劣っている。
“あちら”に残っているのは霞刑部、室賀豹馬、陽炎の三人。
何れも恐るべき魔人だが、伊賀組の三人を除いても“あちら”に残っているのは、
蓑念鬼、蛍火、雨夜陣五郎、朱絹の四人と、数では劣っている。
(しかし、俺の名がこの「人別帖」に記されて無い事を考えれば、
刑部、豹馬、陽炎が呼び出されている可能性もある・・・
そうなると厄介だが、伊賀組の人間ならばむしろ好都合か・・・)
刑部、豹馬、陽炎が呼び出されている可能性もある・・・
そうなると厄介だが、伊賀組の人間ならばむしろ好都合か・・・)
改めて、人別帖を見直し、伊賀組の名前に眼を向ける。
(朧、天膳、小四郎・・・この面子であったのは、実に運がいいな)
左衛門はサディスティクに笑う。
伊賀組もまた、しかもこの三人がこの殺し合いの場に呼び出されているのは幸運だ。
朧は現在の伊賀組の大将、天膳は副大将である。
この二人を討てば伊賀組への打撃は計り知れまい。
(朧、天膳、小四郎・・・この面子であったのは、実に運がいいな)
左衛門はサディスティクに笑う。
伊賀組もまた、しかもこの三人がこの殺し合いの場に呼び出されているのは幸運だ。
朧は現在の伊賀組の大将、天膳は副大将である。
この二人を討てば伊賀組への打撃は計り知れまい。
しかも、朧はあの「破幻の瞳」以外に何の忍法も身につけぬ素人同然の小娘。
筑摩小四郎は所詮小物にして、弦之介様の「瞳術」に顔面を割られた手負い。
薬師寺天膳はやや得体が知れず、不気味な相手ではあるが、自分の「忍法」ならば…
筑摩小四郎は所詮小物にして、弦之介様の「瞳術」に顔面を割られた手負い。
薬師寺天膳はやや得体が知れず、不気味な相手ではあるが、自分の「忍法」ならば…
(人別帖に俺の名前が無かったのは、更なる幸いよ。奴には存在を気取られず接近できる!)
如月左衛門の忍法…
それは「変顔」、あるいは「泥の死仮面(デスマスク)」と呼称される。
この忍法は、泥で人の顔型を取り、
そこに自身の顔を押しつけることで他人の相貌に変身し、
その際、髪の毛や身長、体格まで変化させるという恐るべき変装術である。
これに声帯模写を合わせることで、完璧に他人になり済ますことが可能なのだ。
それは「変顔」、あるいは「泥の死仮面(デスマスク)」と呼称される。
この忍法は、泥で人の顔型を取り、
そこに自身の顔を押しつけることで他人の相貌に変身し、
その際、髪の毛や身長、体格まで変化させるという恐るべき変装術である。
これに声帯模写を合わせることで、完璧に他人になり済ますことが可能なのだ。
(小娘と手負いは忍法を使うまでも無い。天膳は他人になって仕留めればよい。
例え、誰か他に伊賀者が居たとしても、伊賀猿など何するものぞ、俺が仕留めてくれる)
例え、誰か他に伊賀者が居たとしても、伊賀猿など何するものぞ、俺が仕留めてくれる)
それに…。
左衛門はさらに考える。
左衛門はさらに考える。
(朧を討てば、弦之介様にも踏ん切りが付くであろう)
突如、許婚と殺し合う事になった為か、
弦之介様は何処か忍法勝負に乗り気でなかった。
その原因はまず間違いなく、朧の存在だ。
だとすれば丁度いい、禍根は今のうちに断っておくに限る。
突如、許婚と殺し合う事になった為か、
弦之介様は何処か忍法勝負に乗り気でなかった。
その原因はまず間違いなく、朧の存在だ。
だとすれば丁度いい、禍根は今のうちに断っておくに限る。
(伊賀組さえ確実に殺(と)ってしまえば、後は弦之介様さえ生き残らせればいい)
今自分が為すべき事は、伊賀組を確実に殺し、
弦之介様を一刻も早く、あの忍法勝負の場に戻す事である。
弦之介様さえ、生きていれば、自分の命などもはやどうでも良い。
今自分が為すべき事は、伊賀組を確実に殺し、
弦之介様を一刻も早く、あの忍法勝負の場に戻す事である。
弦之介様さえ、生きていれば、自分の命などもはやどうでも良い。
左衛門は、一瞬の躊躇いも無しに、自分の死を勘定に入れている。
忍びの命は忍び自身の物ではない。
主、ひいては使命の所有物である。
そのためには忍びは、息を吸うように自分の命を捨てることが出来る。
忍びの命は忍び自身の物ではない。
主、ひいては使命の所有物である。
そのためには忍びは、息を吸うように自分の命を捨てることが出来る。
(方針が決まれば、一刻も早く行動に移らねばな…)
左衛門は名簿を鞄の中に、マキビシ入りの竹筒を懐に仕舞うと、
鞄を背負って、闇の中へ音も無く駆けだした。
左衛門は名簿を鞄の中に、マキビシ入りの竹筒を懐に仕舞うと、
鞄を背負って、闇の中へ音も無く駆けだした。
(まずは誰か適当な奴の顔を貰うかな・・・)
あの人別帖には、自分の知ってる以外に四六の名前があったが、
中には南蛮人の如き名前もあった。
正直得体が知れず、気にかかると言えば気にかかるが…
あの人別帖には、自分の知ってる以外に四六の名前があったが、
中には南蛮人の如き名前もあった。
正直得体が知れず、気にかかると言えば気にかかるが…
(まあ、どうにでもなるわい)
左衛門は不敵に笑う。
左衛門は不敵に笑う。
卍谷に巣食う尋常の姿をした恐るべき魔人は、
音も無く、瞬く間に夜の闇に消えて行った。
音も無く、瞬く間に夜の闇に消えて行った。
【C-2/神社付近の森 /一日目・深夜】
【如月左衛門@甲賀忍法帖】
[状態]:健康、隠密行動中
[装備]:マキビシ(20/20)@甲賀忍法帖
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:朧、小四郎、天膳を優先的に殺す。弦之介を一刻も早く生還させる。
1:情報収集しつつ、伊賀組を探す。
2:誰かの顔を奪うか?
[備考]
※「猫眼呪縛」の章、弦之介の目が塞がれる前から参戦。
【如月左衛門@甲賀忍法帖】
[状態]:健康、隠密行動中
[装備]:マキビシ(20/20)@甲賀忍法帖
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:朧、小四郎、天膳を優先的に殺す。弦之介を一刻も早く生還させる。
1:情報収集しつつ、伊賀組を探す。
2:誰かの顔を奪うか?
[備考]
※「猫眼呪縛」の章、弦之介の目が塞がれる前から参戦。
如月左衛門 次:忍法 魔界転生(にんぽう しにびとがえし)