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彼女の想いで――(MAGNETIC ROSE) 前編
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彼女の想いで――(MAGNETIC ROSE) 前編 ◆EchanS1zhg
【 生き残った話――(遺棄の凝った話) 後編】
ひゅうと、真っ白な太陽に照らされた明るい青色の空を風が勢いよく切って疾ってゆく。
風は暖かい空気と冷たい空気が作る見えないガイドレールに沿って進み、唐突に急降下。灰色の街の中へと落ちた。
落ちて、円筒形の塔のような建物の屋上にぶつかると、まるで水のようにその中へとするすると流れ込んでゆく。
ぐるぐると螺旋を描き、その中を大きく一周、二周、三周……壁に沿って風は降りてゆき、
そして、進むうちに勢いを失いとうとうただの空気の中に溶けるという寸前に、風は――そこに辿りついた。
風は暖かい空気と冷たい空気が作る見えないガイドレールに沿って進み、唐突に急降下。灰色の街の中へと落ちた。
落ちて、円筒形の塔のような建物の屋上にぶつかると、まるで水のようにその中へとするすると流れ込んでゆく。
ぐるぐると螺旋を描き、その中を大きく一周、二周、三周……壁に沿って風は降りてゆき、
そして、進むうちに勢いを失いとうとうただの空気の中に溶けるという寸前に、風は――そこに辿りついた。
一陣の風が少年の少し長めの黒い髪を揺らす。
「――それで、結局どうなったわけさ?」
幼い少年の声が広々としたコンクリートの床と天井の間に反響し、細波のように広がってゆく。
しかしその声はそこに、つまりはこの立体駐車場のとあるフロアから外を眺めている少年から発せられたものではなかった。
少年は街の景色から目を離すと、彼に声をかけた”それ”へと視線を移す。
しかしその声はそこに、つまりはこの立体駐車場のとあるフロアから外を眺めている少年から発せられたものではなかった。
少年は街の景色から目を離すと、彼に声をかけた”それ”へと視線を移す。
大型の、こんな街中の駐車場には似合いそうもないオートバイが少年の隣に止められていた。
力強さを感じさせるV字型のエンジンに、凛々しい銀色のオイルタンク。引き締まった細身のタイヤに無骨なキャリア。
一見、新しそうに見えて、しかしよく見れば随分と年季の入ったものだとわかる”新陳代謝”を繰り返したその姿。
見た目だけなら厳格な年寄りを連想させるそれは実際には少年の声で少年のように喋るエルメスという存在だった。
オートバイではなくモトラドというらしいが、その違いや喋る理由なんかを少年は知らない。
力強さを感じさせるV字型のエンジンに、凛々しい銀色のオイルタンク。引き締まった細身のタイヤに無骨なキャリア。
一見、新しそうに見えて、しかしよく見れば随分と年季の入ったものだとわかる”新陳代謝”を繰り返したその姿。
見た目だけなら厳格な年寄りを連想させるそれは実際には少年の声で少年のように喋るエルメスという存在だった。
オートバイではなくモトラドというらしいが、その違いや喋る理由なんかを少年は知らない。
「今ここにこうやって生きている。……というのが結局のところの精一杯の結果だった」
少年――トレイズは、エルメスを一瞥するとまた視線を外へと戻した。
その先、遠く離れた所には彼が先ほどまで中にいたひとつの警察署が存在している。
幾重にも死線が重ねられていたそこを見ながら、何があったかを反芻してトレイズはひとりごちるように言う。
その先、遠く離れた所には彼が先ほどまで中にいたひとつの警察署が存在している。
幾重にも死線が重ねられていたそこを見ながら、何があったかを反芻してトレイズはひとりごちるように言う。
「”彼”が”彼女”を連れて来てくれていなかったら、俺はあそこで死んでいた」
それは紛れもない事実だった。
結局のところ、あの中でトレイズが自分の力で何かを切り抜けられたかというと、そんなことはひとつもなかったのだ。
運良く生きているのは”彼女”が自分を助けてくれたからで、その彼女をあそこまで連れて来てくれた彼のおかげにすぎない。
結局のところ、あの中でトレイズが自分の力で何かを切り抜けられたかというと、そんなことはひとつもなかったのだ。
運良く生きているのは”彼女”が自分を助けてくれたからで、その彼女をあそこまで連れて来てくれた彼のおかげにすぎない。
「ふぅん。……それじゃあ、”必要”なものは手に入らなかったわけなんだ?」
適当な相槌を打つと、モトラドのエルメスは少し悔しそうなトレイズの横顔を見ながらいじわるそうな声をかけた。
しかし、ひとつ瞬きをするとトレイズはそれは違うと答え、掌を胸に当てて言葉を続ける。
しかし、ひとつ瞬きをするとトレイズはそれは違うと答え、掌を胸に当てて言葉を続ける。
「まず……”俺”が”必要”なんだよ。ここでリリアを守る為にはね」
それが小さな戦場を辛うじて生きぬいた少年が得た、今回の”必要の話”だった。
武器だとか乗物だとか、食料だとかものすごい財宝とかではなく、少年が少女を助けるのに必要なのは自分の命。
人を無残に殺害してしまう者を見て、それが途轍もない者ばかりだと知り、トレイズは改めてその大前提を認識したのだ。
武器だとか乗物だとか、食料だとかものすごい財宝とかではなく、少年が少女を助けるのに必要なのは自分の命。
人を無残に殺害してしまう者を見て、それが途轍もない者ばかりだと知り、トレイズは改めてその大前提を認識したのだ。
自分を助けることができなければ、他のだれかを助けようとすることもできないのだということを。
ひゅうと、がらんとしたフロアの中を冷たい風が通り抜け、再び少年の少し長めの黒い髪を揺らした。
「それじゃあ、さっさとこっから離れちゃおうよ。そんな”キノ”みたいな人がいるってんなら命がいくつあっても足りないよ」
もっとも、その人がモトラドを大切にしてくれるならこちらとしては歓迎だけどね。と付け加えエルメスはトレイズに移動を促した。
ここで目を覚ましてからというもの、止まっているばかりで満足に走ることすら叶っていないのだ。
走ることが”生きがい”のエルメスとしてはリリアとかいう少女の捜索にかこつけて、道路を目一杯に飛ばしたいところである。
ここで目を覚ましてからというもの、止まっているばかりで満足に走ることすら叶っていないのだ。
走ることが”生きがい”のエルメスとしてはリリアとかいう少女の捜索にかこつけて、道路を目一杯に飛ばしたいところである。
「”キノ”って、君のご主人様だっていう?」
「そう。でもって、君が警察署の中で会ったっていうおっかない女の人みたいにエゲつなく欲張りで強いのさ。
会ったらトレイズも殺されるかもね。あ、でも……エルメスを保護していましたって言えば見逃してくれるかも?」
「そう。でもって、君が警察署の中で会ったっていうおっかない女の人みたいにエゲつなく欲張りで強いのさ。
会ったらトレイズも殺されるかもね。あ、でも……エルメスを保護していましたって言えば見逃してくれるかも?」
拳を顎に当ててトレイズはふぅむと唸り声を漏らす。
こんな陽気なバイクに乗っている人物だから、そんなに危ない人だなんて想像していなかったのだ。
こんな陽気なバイクに乗っている人物だから、そんなに危ない人だなんて想像していなかったのだ。
「ちなみにどんな人なのか聞かせてもらえるかい? キノってだけじゃあ男か女かも――」
「――それなら簡単」
「――それなら簡単」
鏡を見ればいいよ。と、エルメスはトレイズに自分のハンドルミラーを覗くよう促した。
【D-3/立体駐車場/一日目・午後】
【トレイズ@リリアとトレイズ】
[状態]:お腹に打撲痕、腰に浅い切り傷
[装備]:コルトガバメント(8/7+1)@フルメタルパニック、コンバットナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱、鷹のメダル@リリアとトレイズ、
[道具]:デイパック、支給品一式、エルメス@キノの旅、銃型水鉄砲
[思考・状況]
基本::リリアを守る。彼女の為に行動する。
0:まずはここから離れよう。
1:リリアを探して移動する。
[備考]
マップ端の境界線より先は真っ黒ですが物が一部超えても、超えた部分は消滅しない。
人間も短時間ならマップ端を越えても影響は有りません(長時間では不明)。
以上二つの情報をトレイズは確認済。
[状態]:お腹に打撲痕、腰に浅い切り傷
[装備]:コルトガバメント(8/7+1)@フルメタルパニック、コンバットナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱、鷹のメダル@リリアとトレイズ、
[道具]:デイパック、支給品一式、エルメス@キノの旅、銃型水鉄砲
[思考・状況]
基本::リリアを守る。彼女の為に行動する。
0:まずはここから離れよう。
1:リリアを探して移動する。
[備考]
マップ端の境界線より先は真っ黒ですが物が一部超えても、超えた部分は消滅しない。
人間も短時間ならマップ端を越えても影響は有りません(長時間では不明)。
以上二つの情報をトレイズは確認済。
【Accelerator――(光速戦闘) 前編】
「超能力が欲しい?
なんでそんなことを唐突に――って、あぁそのベッドの端っこでズタズタになっちゃってるコミックスのせいですね。
なんでそんなことを唐突に――って、あぁそのベッドの端っこでズタズタになっちゃってるコミックスのせいですね。
まぁ、理由そのものは聞かないし、聞いたところであなたがそれを回答できるとは思わないのだけど、
とりあえずはそんなことは不可能だと断じてしまいましょうか。
超能力なんてこの世には存在しません。そんな空想的な力はそれこそ空想の中でしか存在しえないものです。
とりあえずはそんなことは不可能だと断じてしまいましょうか。
超能力なんてこの世には存在しません。そんな空想的な力はそれこそ空想の中でしか存在しえないものです。
断言しちゃうなんてって……、
あなた私が質問をぶつければ望みのままの解答が出てくる便利な辞書か何かだと勘違いしているのではないですか?
私も”こういうもの”が専門でないので、ある程度は人づてに聞いたものでしかなくなるのだけど、
極論すれば人の知識というのは全て何づてでしかなくなるのだけど、”超能力がない”というのはもう覆せない事実です。
あなた私が質問をぶつければ望みのままの解答が出てくる便利な辞書か何かだと勘違いしているのではないですか?
私も”こういうもの”が専門でないので、ある程度は人づてに聞いたものでしかなくなるのだけど、
極論すれば人の知識というのは全て何づてでしかなくなるのだけど、”超能力がない”というのはもう覆せない事実です。
ER3……なんてあなたが知ってるわけもないでしょうけど。
ともかくね、世界中の研究者がそれこそ血眼になって超能力が見たい、欲しい、証明したいって、色々な人間を解剖した。
そう。解剖。あなたの乱暴なそれとは全く別のレヴェルの細心の、神経一本まで分解するとある科学の人間解剖よ。
例えば未知の電化製品があったとするでしょう?
その場合、原理を知るに手っ取り早いのはそれを徹底的に分解して部品をひとつひとつ検証して仕組みと法則を発見すること。
至極簡単な理屈で話でしかあるそれを、超能力を求める研究者達は”自称超能力者”達を実験台に実践した。
けれどもね、出てきた結果は――それは彼らはただの人間でしかなかったというただの事実。ペテンの超能力も含めてね。
ともかくね、世界中の研究者がそれこそ血眼になって超能力が見たい、欲しい、証明したいって、色々な人間を解剖した。
そう。解剖。あなたの乱暴なそれとは全く別のレヴェルの細心の、神経一本まで分解するとある科学の人間解剖よ。
例えば未知の電化製品があったとするでしょう?
その場合、原理を知るに手っ取り早いのはそれを徹底的に分解して部品をひとつひとつ検証して仕組みと法則を発見すること。
至極簡単な理屈で話でしかあるそれを、超能力を求める研究者達は”自称超能力者”達を実験台に実践した。
けれどもね、出てきた結果は――それは彼らはただの人間でしかなかったというただの事実。ペテンの超能力も含めてね。
何が言いたいかって言うと、人間の中身なんてもうとっくの、それこそ私達が生まれる前の時代には解明されてたってこと。
人間が何かを知覚し得る感覚は私達が知っている五感の他にはなかったし、人間が随意であろうとそうでなかろうと
作動させられる”部品”は筋肉の範疇にしか存在しなかった。”超能力器官などというものは人間の中にはなかった”。
人間が何かを知覚し得る感覚は私達が知っている五感の他にはなかったし、人間が随意であろうとそうでなかろうと
作動させられる”部品”は筋肉の範疇にしか存在しなかった。”超能力器官などというものは人間の中にはなかった”。
ちなみに、五感というのはこの場合は5つの感覚でなく全ての感覚という意味です。
無数にいる神様を八百万(やおよろず)のって言うのと同じことよ。
あなたからツっこまれるとは思わないけど、人間の感覚は分類すれば両手の指じゃ足りないぐらいあることは名言しとくわ。
無数にいる神様を八百万(やおよろず)のって言うのと同じことよ。
あなたからツっこまれるとは思わないけど、人間の感覚は分類すれば両手の指じゃ足りないぐらいあることは名言しとくわ。
あの子は超能力じみた技を使っているじゃないかですって?
今日は随分と食いつくのね……わからない話をすれば飽きるのかと思ったのだけど。
けど、あなたにしたって普通の人間じゃあできっこない芸当をしてみせるでしょう?
私達やこちら側の世界に踏み入れたものは、人間に人間の規格を越えさせる方法を知っているし、実践もしている。
車より早く走る人間もいるし、素手で鉄を捻じ曲げる怪力もありうるし、空を飛ぶように移動することすら不可能ではない。
けれども、人間の規格は超越していても、人間の存在から外れているものなんて存在はしない。
自分達が振るう、”規格外能力”が”超能力”じゃあないなんてこっち側にいれば誰でも知っていることでしょうに……。
今日は随分と食いつくのね……わからない話をすれば飽きるのかと思ったのだけど。
けど、あなたにしたって普通の人間じゃあできっこない芸当をしてみせるでしょう?
私達やこちら側の世界に踏み入れたものは、人間に人間の規格を越えさせる方法を知っているし、実践もしている。
車より早く走る人間もいるし、素手で鉄を捻じ曲げる怪力もありうるし、空を飛ぶように移動することすら不可能ではない。
けれども、人間の規格は超越していても、人間の存在から外れているものなんて存在はしない。
自分達が振るう、”規格外能力”が”超能力”じゃあないなんてこっち側にいれば誰でも知っていることでしょうに……。
じゃあ脳の中には未知の部分が残されているって?
フィクションの中じゃあ定番だし、あなたの持っている漫画にもそう書かれていたんでしょうけどお生憎様。
脳ミソの中だって、とっくに”解析済み”というのがここ最近の話よ。それも件のER3の功績らしいんだけどもね。
フィクションの中じゃあ定番だし、あなたの持っている漫画にもそう書かれていたんでしょうけどお生憎様。
脳ミソの中だって、とっくに”解析済み”というのがここ最近の話よ。それも件のER3の功績らしいんだけどもね。
しかしこの前の魔法少女になりたいというのもそうだけど、あなたは意外と華々しいものを求めたりするのね。
ええ、そうね。この前はその魔法、魔術というものを完璧に断絶し否定してしまったわね。
その名を自分に冠したり、それそのものを使用してみせるって者も数多くいるけど、私の基準では全てそれは魔法と言えない。
決められた道具を用意し、場面を整え、作法に法り、現象を発現せしめる。それって手品とどう違うんですか?
ええ、そうね。この前はその魔法、魔術というものを完璧に断絶し否定してしまったわね。
その名を自分に冠したり、それそのものを使用してみせるって者も数多くいるけど、私の基準では全てそれは魔法と言えない。
決められた道具を用意し、場面を整え、作法に法り、現象を発現せしめる。それって手品とどう違うんですか?
そんなもの、そこから火が上がろうが、雷が落ちようが、神様を殺したって――私から見れば全部、ただの”策”です。
現実以外の何者でもない。
その気にさえなれば、どことなりから科学者と機材を調達してあなたの脳ミソに電極を刺し、血液以上の量の薬品を投与し、
何度も何度も血反吐を吐いてのた打ち回らせ、とても割りに合わない実験を幾度も繰り返し、人間を作りなおすことで、
あなたを電子レンジ要らずの人間くらいには”改造”できますけど、それはやっぱりあなたの言う超能力者ではないでしょう?
その気にさえなれば、どことなりから科学者と機材を調達してあなたの脳ミソに電極を刺し、血液以上の量の薬品を投与し、
何度も何度も血反吐を吐いてのた打ち回らせ、とても割りに合わない実験を幾度も繰り返し、人間を作りなおすことで、
あなたを電子レンジ要らずの人間くらいには”改造”できますけど、それはやっぱりあなたの言う超能力者ではないでしょう?
結局ね。辿りついてしまえばそこにあるのは幻想殺しだけ。後に残るのは経験則と、それを利用する為の策だけです。
さてと、それじゃあ私はまたメールを作る作業に戻りますから、これ以上時間をとらせないでくださいね。
それとその漫画を貸してくれた子には礼儀正しく謝っておくように。
一応は私の監督下にいるわけですから、私に責任の及ぶようなことは慎むよう……せめて、時折思い出すぐらいはしてください。
それとその漫画を貸してくれた子には礼儀正しく謝っておくように。
一応は私の監督下にいるわけですから、私に責任の及ぶようなことは慎むよう……せめて、時折思い出すぐらいはしてください。
……えーと。お兄ちゃんへ。お兄ちゃんって超能力は信じますか? 私は友達から聞いたんですけど――……」
■
真夏の夜に街灯の下を歩けば聞こえてきそうな、羽虫の羽ばたくような音がそこに充満しつつあった。
いや、それはますますと強さを増し、今となっては壊れかけた冷蔵庫でも置いているのかとそんな音が満ちつつある。
一体どのようなことが起きているのかというと、それはそこを一見すればまさしく一目瞭然だった。
いや、それはますますと強さを増し、今となっては壊れかけた冷蔵庫でも置いているのかとそんな音が満ちつつある。
一体どのようなことが起きているのかというと、それはそこを一見すればまさしく一目瞭然だった。
床を、壁を、天井らを舐めるように、大小様々の青白い電気の束がゆらゆらと蠢いている。
少しばかり科学の知識がある者が見たならば、”テスラコイル(共振変圧器)”みたいだと思ったろう。
だがしかし、そこにあるのは決して機械などではない。それもまた一目瞭然。そこにいるのは一人の少女であった。
少しばかり科学の知識がある者が見たならば、”テスラコイル(共振変圧器)”みたいだと思ったろう。
だがしかし、そこにあるのは決して機械などではない。それもまた一目瞭然。そこにいるのは一人の少女であった。
超能力を信奉する20年先を行く学園都市。そこで開発に勤しむ230万の生徒の内、序列3位に立つ超能力者。
彼女を知る者は、御坂美琴を知る者はただ彼女のことをこうとだけ呼称する。つまりは――
彼女を知る者は、御坂美琴を知る者はただ彼女のことをこうとだけ呼称する。つまりは――
――超電磁砲《レールガン》だと。
自分の前に立ちはだかる電撃使い《エレクトロマスター》たる存在を確認し、朝倉涼子は驚愕に目を見開いていた。
警察署の壁をぶち抜いた先程の一撃にしても、イオンの匂いから電流を用いたものだと判別してはいたが、
実際にただの人間からありえない量の電流が放出されているのを見させられると驚くほかはなかった。
警察署の壁をぶち抜いた先程の一撃にしても、イオンの匂いから電流を用いたものだと判別してはいたが、
実際にただの人間からありえない量の電流が放出されているのを見させられると驚くほかはなかった。
「(……あぁ、でも本当は人間じゃないかもしれないって可能性もあるわよね)」
未確定事項は保留とし、朝倉は刀を構えながら電撃使いの少女――御坂美琴より距離を取るように足を動かす。
その手元ではしっかり握っているはずの刀がカタカタと音を鳴らして振動していた。
別に恐怖や何かで朝倉自身が震えているわけではない。美琴の作る電界が金属である日本刀に干渉しているのだ。
その手元ではしっかり握っているはずの刀がカタカタと音を鳴らして振動していた。
別に恐怖や何かで朝倉自身が震えているわけではない。美琴の作る電界が金属である日本刀に干渉しているのだ。
「(さてと、接近戦を挑むのは危険性を考慮すると控えたほうがいいかしら)」
朝倉は移動しながらフロアを一瞥し、バトルフィールドの設定条件を今一度確認する。
警察署の玄関ロビーからひとつ進んで建物の奥側に近いここは、いわゆるオフィスワークをする為の一角らしい。
元々は広々としていたであろう空間は衝立で区切られ、棚や事務机が所狭しと並べられて雑多な印象をかもし出していた。
今、朝倉が立っている場所はそれらを背にした廊下であり、右手には玄関。左手には階段という配置になっている。
そして、正面。まんじりとした視線で朝倉を追う美琴が陣取っているのは、ついさっきまでは休憩所だったスペースだ。
今は吹き飛ばされた壁の破片で灰色一色に上書きされており、その名残というと横倒しになった自販機くらいなものである。
警察署の玄関ロビーからひとつ進んで建物の奥側に近いここは、いわゆるオフィスワークをする為の一角らしい。
元々は広々としていたであろう空間は衝立で区切られ、棚や事務机が所狭しと並べられて雑多な印象をかもし出していた。
今、朝倉が立っている場所はそれらを背にした廊下であり、右手には玄関。左手には階段という配置になっている。
そして、正面。まんじりとした視線で朝倉を追う美琴が陣取っているのは、ついさっきまでは休憩所だったスペースだ。
今は吹き飛ばされた壁の破片で灰色一色に上書きされており、その名残というと横倒しになった自販機くらいなものである。
「(浅上さんはどうかしら? ――と、また”駄目”になってる)」
柱の影に隠れるようにして……いや、実際に隠れてこちらを窺っている少女――浅上藤乃を見て朝倉は溜息をついた。
彼女には”歪曲”という非常に強力な能力があるが、しかし使用できるタイミングとそうでないタイミングが存在する。
理屈を飛ばして端的に言い表せれば、無痛症である彼女に痛みが戻ってきているか否かとそれだけに過ぎない。
そして、柱の影で小動物のように怯えている彼女は痛むのであれば押さえているはずのお腹を押さえてはいなかった。
とすると現在の彼女に痛みはなく、当然の帰結として”歪曲”も使用できない。戦力にもならないと他ならない。
彼女には”歪曲”という非常に強力な能力があるが、しかし使用できるタイミングとそうでないタイミングが存在する。
理屈を飛ばして端的に言い表せれば、無痛症である彼女に痛みが戻ってきているか否かとそれだけに過ぎない。
そして、柱の影で小動物のように怯えている彼女は痛むのであれば押さえているはずのお腹を押さえてはいなかった。
とすると現在の彼女に痛みはなく、当然の帰結として”歪曲”も使用できない。戦力にもならないと他ならない。
「(今回は色々と問題が出てきそうな感じよね。また苦労が重なっちゃうわ)」
状況を確認すると朝倉は足を止め美琴と正対し、不敵な笑みを浮かべて相手からの攻撃を待ち受ける構えをとった。
相対する美琴は朝倉が足を止めたのを見て、どうやらやる覚悟が整ったのだと覚った。
「(私のこの力を見ても逃げ出さないってことは……やっぱり、只者じゃあないのよね)」
先にここから逃したキョン曰く、彼女の正体は”物凄く強くなんでもできる宇宙人”だ。胡散臭いにもほどがある。
もっともそんな言い方をすれば自分だって似たようなものだと思いつつ、美琴はその言葉をある程度は信用することにした。
さっさと物陰に隠れてしまった方に関してはよくわからないが、向かってこないならいいと今は捨て置く。
もっともそんな言い方をすれば自分だって似たようなものだと思いつつ、美琴はその言葉をある程度は信用することにした。
さっさと物陰に隠れてしまった方に関してはよくわからないが、向かってこないならいいと今は捨て置く。
「――あんた、宇宙人なんだってね」
だったら多分、手加減はしなくてもいいはずだ。
殺さないというのはこれで難しいものだが、ついさっき一撃を食い止められたこともあるし、もうそれは考えなくてもいいだろうと、
額の先から10億ボルトの電撃の槍を宇宙人へと向けて、容赦なく――発射した。
殺さないというのはこれで難しいものだが、ついさっき一撃を食い止められたこともあるし、もうそれは考えなくてもいいだろうと、
額の先から10億ボルトの電撃の槍を宇宙人へと向けて、容赦なく――発射した。
発動の瞬間。身体に感じる圧が強くなり、高速現象を知覚しようと処理能力を上げていた朝倉の前で電撃が迸った。
自身の認識の中で、空気中を泳ぐようにゆっくりと近づいてくる電撃に対し、朝倉は持っていた刀を投げつける。
最初に行った毛虫の死骸を使った時のように、電流は何かに流してしまえばそのエネルギーの大半は消耗させられる。
ならば、電撃を放たれる度に適当な避雷針を用意すれば簡単に対処できるだろうと朝倉はそう考えたのだが、
自身の認識の中で、空気中を泳ぐようにゆっくりと近づいてくる電撃に対し、朝倉は持っていた刀を投げつける。
最初に行った毛虫の死骸を使った時のように、電流は何かに流してしまえばそのエネルギーの大半は消耗させられる。
ならば、電撃を放たれる度に適当な避雷針を用意すれば簡単に対処できるだろうと朝倉はそう考えたのだが、
「(――嘘っ!?)」
彼女の目の前で、美琴の放った電撃が”刀を避けて”ぐにゃりと曲がった。
自然界ではありえない軌道で避雷針を迂回した電撃の槍は驚愕する朝倉へと突進し、そして彼女はそれを避けられなかった。
自然界ではありえない軌道で避雷針を迂回した電撃の槍は驚愕する朝倉へと突進し、そして彼女はそれを避けられなかった。
「おっし!」
見事に電撃の槍が相手に突き刺さったのを確認して、美琴は小さなガッツポーズを取った。
彼女は電撃使いである訳だが、その名の通り電撃を発するだけでなく、電撃を”操作”することができるのだ。
一度は避雷針でガードされたのだが、だからこそ相手は次もそれで凌ぐであろうという美琴の予想は見事に当たり、
電撃もまた予想通りに命中した――かのように見えたのだが、
彼女は電撃使いである訳だが、その名の通り電撃を発するだけでなく、電撃を”操作”することができるのだ。
一度は避雷針でガードされたのだが、だからこそ相手は次もそれで凌ぐであろうという美琴の予想は見事に当たり、
電撃もまた予想通りに命中した――かのように見えたのだが、
「――嘘っ!?」
電撃を受けたはずの朝倉は崩れ落ちることなく、それどころか”右手を突き出して”悠々とその場に立ち続けている。
どうやらその白煙をあげる右手で電撃を受け止めてしまったらしいと知り、美琴の心臓がドクリと嫌な音を立てた。
まさか、あれはあらゆる異能を打ち消してしまうあの幻想殺し《イマジンブレイカー》なのか?
どうやらその白煙をあげる右手で電撃を受け止めてしまったらしいと知り、美琴の心臓がドクリと嫌な音を立てた。
まさか、あれはあらゆる異能を打ち消してしまうあの幻想殺し《イマジンブレイカー》なのか?
「(そんな力を持ってるのが何人もいるわけないでしょうが……っ!)」
再び美琴は電撃の槍を放つ。深く集中し、確実に相手の身体を打ち貫くようにと。
だがしかし、またしても電撃は朝倉の右手に吸い寄せられ、そこで受け止められてしまった。
だがしかし、またしても電撃は朝倉の右手に吸い寄せられ、そこで受け止められてしまった。
「(一体、どんな情報操作をすればこんな無茶苦茶な電撃が放てるのかしら?)」
美琴の放つ電撃を右手でキャッチしながら、朝倉は彼女の能力の出鱈目さに呆れ果てていた。
大電流を放出することもそうだが、何よりこうも意識的に電流を操作できることが常軌を逸している。
大電流を放出することもそうだが、何よりこうも意識的に電流を操作できることが常軌を逸している。
「(確率そのものを認識により意図した結果に収束させる? なんにしても人間の能力としては考えられない)」
そして、更に放たれてきた電撃を右手で受け止める。
この”右手”であるが、別に朝倉に幻想殺しが宿ったなどという訳では、勿論だがない。
彼女の取っている方法は至極単純なもので、右の掌の電気抵抗を極限にまで高めその部分を盾にしているのである。
的確にトラップできるのは彼女が制限なく操作し得る情報空間内に電流を誘導する仕掛けを施しているだけであり、
それにより飛んでくる電撃を右手で受け止め、焼き切れた瞬間に再構成することで攻撃をガードしているのだ。
この”右手”であるが、別に朝倉に幻想殺しが宿ったなどという訳では、勿論だがない。
彼女の取っている方法は至極単純なもので、右の掌の電気抵抗を極限にまで高めその部分を盾にしているのである。
的確にトラップできるのは彼女が制限なく操作し得る情報空間内に電流を誘導する仕掛けを施しているだけであり、
それにより飛んでくる電撃を右手で受け止め、焼き切れた瞬間に再構成することで攻撃をガードしているのだ。
「(……しかしこれじゃあジリ貧よね。彼女の能力がどれくらい持つのかわからないけど、なんだか押し負けそう)」
一見余裕に見えるが、朝倉としては厳しい状況だった。
右手の電撃殺しはスマートな方法に見えるが、実際はそこまで節約しないととても追いつかないというだけにすぎない。
もし彼女の能力が万端なのならば周辺空間を丸ごと操作すればいい話で、しかしそれは制限のある現在は不可能である。
情報統合思念体とコンタクトできない今、攻性情報の補給も不可能であり、スタミナ勝負は避けたいところだった。
右手の電撃殺しはスマートな方法に見えるが、実際はそこまで節約しないととても追いつかないというだけにすぎない。
もし彼女の能力が万端なのならば周辺空間を丸ごと操作すればいい話で、しかしそれは制限のある現在は不可能である。
情報統合思念体とコンタクトできない今、攻性情報の補給も不可能であり、スタミナ勝負は避けたいところだった。
「(状況を動かさないとね――)」
朝倉はまた一発の電撃を右手でいなすと、大きく背後へと跳躍し事務机が固まっている上へと着地した。
革靴の底がトンと軽い音を立てると同時にまるで花弁が開くかのように周辺の机の引き出しが全て飛び出す。
そして、花の中から種子が飛び出すかのようにありとあらゆる文房具が浮かび上がり、光の槍と変じて――射出された。
革靴の底がトンと軽い音を立てると同時にまるで花弁が開くかのように周辺の机の引き出しが全て飛び出す。
そして、花の中から種子が飛び出すかのようにありとあらゆる文房具が浮かび上がり、光の槍と変じて――射出された。
ステンレス鋏。物差し。シャープペンシル。クリップ。関数電卓。ペーパーカッター。ステープラー。テープ台。筆箱。消しゴム。
鉛筆。インクカートリッジ。ポストイット。マグネット。ネームペン。アルミ定規。ダブルクリップ。安全ピン。スティックのり。
マグネットシート。鉛筆立て。木工用ボンド。瞬間接着剤。修正液。カッターナイフ。コンパス。分度器。パンチャー。
千枚通し。ラジオペンチ。紙ヤスリ。鉛筆削り。etc.etc. ――あらゆる文房具が凶器となり、美琴へと殺到する。
鉛筆。インクカートリッジ。ポストイット。マグネット。ネームペン。アルミ定規。ダブルクリップ。安全ピン。スティックのり。
マグネットシート。鉛筆立て。木工用ボンド。瞬間接着剤。修正液。カッターナイフ。コンパス。分度器。パンチャー。
千枚通し。ラジオペンチ。紙ヤスリ。鉛筆削り。etc.etc. ――あらゆる文房具が凶器となり、美琴へと殺到する。
「こんなものっ!」
反撃に驚きはしたものの、殺到した光の槍を全て自身からの放電で叩き落すと、美琴は心の中で安堵の息を漏らした。
多分あれは幻想殺しではないと、だんだんと感触で解ってきたのだ。相手が反撃に出たのもその材料になる。
そしてその反撃も別に対したことはなかった。
光の槍は電撃に叩き落とされると、どれもあっけなく元の文房具へと戻ってゆく。
多分あれは幻想殺しではないと、だんだんと感触で解ってきたのだ。相手が反撃に出たのもその材料になる。
そしてその反撃も別に対したことはなかった。
光の槍は電撃に叩き落とされると、どれもあっけなく元の文房具へと戻ってゆく。
「(物質操作系? テレキネシス……いや、変質がその正体。レベルは……3、4程度。うん、これなら問題無し)」
美琴は片手を振ると、床の上に散らばった文房具の中から金属製のものだけを磁力で手元に引き寄せた。
そして、磁力で連結した文房具の鎖をしならせると、蛇腹剣のように朝倉へと叩きつける。
超振動の唸りをあげる鎖剣は朝倉が立っていた机を易々と切り裂き、そこから更に文房具を足して逃げる朝倉を追いかける。
9つの机に、壁一面のロッカーを全滅させ、衝立と書類棚を5つずつを破壊して、数秒後。遂に鎖剣は朝倉を捉えた。
そして、磁力で連結した文房具の鎖をしならせると、蛇腹剣のように朝倉へと叩きつける。
超振動の唸りをあげる鎖剣は朝倉が立っていた机を易々と切り裂き、そこから更に文房具を足して逃げる朝倉を追いかける。
9つの机に、壁一面のロッカーを全滅させ、衝立と書類棚を5つずつを破壊して、数秒後。遂に鎖剣は朝倉を捉えた。
「(ほらやっぱり!)」
フロアの端にまで追い詰められた朝倉は、辛うじて切り裂かれるのを防ぎ、右手で鎖剣を掴んで押さえている。
あれが本当に幻想殺しならば、触れた時点で鎖剣は解けているはずなのだ。しかしそうはなっていない。
超振動による切断は防いでいるようだが――と、美琴はそこで不思議な感触に気づいた。
あれが本当に幻想殺しならば、触れた時点で鎖剣は解けているはずなのだ。しかしそうはなっていない。
超振動による切断は防いでいるようだが――と、美琴はそこで不思議な感触に気づいた。
「(侵食――?)」
現在、鎖剣を互いに引っ張り合っているような状況だが、どうやら向こうの手元から物質の主導権が侵食されているらしい。
やはり相手の能力は物質変質系かと確信し、能力による綱引きをしながら美琴は次の一手をどう打つか思案し始めた。
やはり相手の能力は物質変質系かと確信し、能力による綱引きをしながら美琴は次の一手をどう打つか思案し始めた。
「(ああ、もうどうにもならないじゃない……!)」
どうにか文房具の鎖越しに相手まで能力の手を届かそうと朝倉は力を込めたが、しかしそれが叶うことはなかった。
侵食されると覚った美琴があっさりと電磁力による鎖を解いてしまったからだ。
悔し紛れに文房具を飛ばしてみるも、叩き落されただけで、その後に残ったのはフロアの端と端という距離だけである。
侵食されると覚った美琴があっさりと電磁力による鎖を解いてしまったからだ。
悔し紛れに文房具を飛ばしてみるも、叩き落されただけで、その後に残ったのはフロアの端と端という距離だけである。
「(遠距離じゃあ距離に制限のあるこっちには決め手がない。
とはいえ、近づこうにもあの電撃の雨は掻い潜れないし、近づいても電撃を防御しながらは戦えないし……)」
とはいえ、近づこうにもあの電撃の雨は掻い潜れないし、近づいても電撃を防御しながらは戦えないし……)」
朝倉の額に焦りからくる汗が浮かび頬を伝った。
先の放送で長門有希を倒しうる存在がいると認識したはずだが、実感まではしていなかったようだと今更ながらに知る。
どうやら目の前の電撃使いを打倒することは自分では難しいらしい。
逃げに徹すればおそらく逃げ切れるだろうが、しかしそれではせっかく得た協力者を失うことになってしまう。
いや、師匠などは間違いなく敵に回るだろうから失うだけではすまない。
それは避けなくてはならない。でなければ孤立無援に陥ることになり、その結果、自身の命も目的も全て水泡と帰してしまう。
先の放送で長門有希を倒しうる存在がいると認識したはずだが、実感まではしていなかったようだと今更ながらに知る。
どうやら目の前の電撃使いを打倒することは自分では難しいらしい。
逃げに徹すればおそらく逃げ切れるだろうが、しかしそれではせっかく得た協力者を失うことになってしまう。
いや、師匠などは間違いなく敵に回るだろうから失うだけではすまない。
それは避けなくてはならない。でなければ孤立無援に陥ることになり、その結果、自身の命も目的も全て水泡と帰してしまう。
「(――――あら? 運が向いてきたかしら)」
朝倉は、柱の影から”お腹を押さえながら”出てきた浅上を見つけ、顔面に喜色を浮かべた。
彼女の顔はすでに殺人鬼のそれになっており、わざわざ情報解析するまでもなく能力が使える状態なのは明らかだ。
あの電撃使いに対し、距離と防御を無視する”歪曲”が加われば戦いの天秤は引っくり返ること間違いない。
額に浮かんだ汗を情報操作で揮発させると、朝倉は指向性を持たせ浅上にのみ届く声を発して彼女に話しかけた。
彼女の顔はすでに殺人鬼のそれになっており、わざわざ情報解析するまでもなく能力が使える状態なのは明らかだ。
あの電撃使いに対し、距離と防御を無視する”歪曲”が加われば戦いの天秤は引っくり返ること間違いない。
額に浮かんだ汗を情報操作で揮発させると、朝倉は指向性を持たせ浅上にのみ届く声を発して彼女に話しかけた。
「(…………何を始めようっての? それとももう降参ってわけ?)」
当然、床の上に降りてひれ伏す格好をとった朝倉に対し、美琴はわけがわからないと攻撃を中断していた。
こちらに頭を下げ、両手をぴったりとついている様は土下座しているようにも見えるが、実際その通りなのだろうか?
果たして向こうがそんな相手なのかという疑問もあり、電撃で気絶させるのが手っ取り早いかと美琴が考えたその時、
自身に不可思議な力がかかり始めていることに気づいた。
こちらに頭を下げ、両手をぴったりとついている様は土下座しているようにも見えるが、実際その通りなのだろうか?
果たして向こうがそんな相手なのかという疑問もあり、電撃で気絶させるのが手っ取り早いかと美琴が考えたその時、
自身に不可思議な力がかかり始めていることに気づいた。
「(――曲がる?)」
今までは気にもとめていなかったあの陰気そうな少女が柱の影から出ていると気づいたのはその瞬間だった。
サイコキネシスだろうか? いや、何にせよ攻撃を受けている。それも一瞬で終わるものだ。ならば逃げなくてはならない。
サイコキネシスだろうか? いや、何にせよ攻撃を受けている。それも一瞬で終わるものだ。ならば逃げなくてはならない。
「(嘘っ!?)」
なのに足が動かなかった。まるで”床に張り付いてる”ようだと思ったところで美琴は全てを覚る。
「(――あいつ。――土下座じゃなくて、”床全体”を変質させて――……)」
柱の傍で浅上が「凶(まが)れ」と呟くと同時にそれは始まり、美琴が気づいたその半秒後にそれは終了した。
にも拘らず、美琴がまだ死んでいないことに、朝倉は彼女としては初めてのことだろうか、舌打ちをした。
「しぶといわねぇ……!」
繋がってさえいれば距離の制限には引っかからないと気づいたのは警察署に来て壁越しに窓を強化した時のことだ。
それを応用して床から相手の足を固定し、そこに浅上の歪曲を仕掛けるというのは名案だと彼女自身は思ったのだが、
しかしレベル5である御坂美琴の人生にピリオドを打つにはまだ少しだけ足りなかったらしい。
それを応用して床から相手の足を固定し、そこに浅上の歪曲を仕掛けるというのは名案だと彼女自身は思ったのだが、
しかしレベル5である御坂美琴の人生にピリオドを打つにはまだ少しだけ足りなかったらしい。
「なんでもできるって、相手にしてみるとこんなにも厄介だったなんて……」
美琴がいたはずの場所には、今は彼女の靴しか残っていない。
ならば彼女はどこに行ったかというと、天井に両手をついてぶら下がっており、スケートのようにすいすいと移動している。
何が起きたかを説明するのは難しくない。
美琴は曲げられそうになった瞬間に電磁力を使って天井の中に走る鉄骨へと自分の身体を引き上げたのだった。
その場に、”床に固定された靴だけ”を残して。
ならば彼女はどこに行ったかというと、天井に両手をついてぶら下がっており、スケートのようにすいすいと移動している。
何が起きたかを説明するのは難しくない。
美琴は曲げられそうになった瞬間に電磁力を使って天井の中に走る鉄骨へと自分の身体を引き上げたのだった。
その場に、”床に固定された靴だけ”を残して。
「(曲がれ、曲がれって……闇雲に使っても当たらないに……ああ、これも課題だわ。ほんと頭が痛くなっちゃう)」
そして、美琴は浅上の歪曲を避ける為に鉄骨をレールに、天井を縦横無尽に動き回っている。
歪曲は視界内に自由に発生させられるという強力な攻撃だが、その発生までに僅かなタイムラグがあるのが欠点だ。
加えて、視界の中にしか発生させられないという都合から、横や縦の動きに対応しきれないところがある。
それについては向こうも気づいたのだろう。
天井を走る動きがでたらめなものから少しずつパターン化しているのが、傍から見ている朝倉にはわかる。
歪曲は視界内に自由に発生させられるという強力な攻撃だが、その発生までに僅かなタイムラグがあるのが欠点だ。
加えて、視界の中にしか発生させられないという都合から、横や縦の動きに対応しきれないところがある。
それについては向こうも気づいたのだろう。
天井を走る動きがでたらめなものから少しずつパターン化しているのが、傍から見ている朝倉にはわかる。
パンッという大きな破裂音が鳴り、浅上の真上にあった蛍光灯が割れてガラス片が彼女の上に降り注いだ。
美琴が天井を走る電線を経由してそこに高電圧をかけた結果だろう。
美琴が天井を走る電線を経由してそこに高電圧をかけた結果だろう。
「(あの子。能力者相手の戦いに慣れている……けど、私達はそうじゃない)」
次の瞬間。電撃の槍が空中を走って浅上の身体を貫いた。
朝倉に向けられていたものよりかは遥かに弱そうであったが、しかし浅上はあっけなく倒れてしまった。
所詮は道具止まりでしかない者のあっけないやられかただと朝倉は思う。
朝倉に向けられていたものよりかは遥かに弱そうであったが、しかし浅上はあっけなく倒れてしまった。
所詮は道具止まりでしかない者のあっけないやられかただと朝倉は思う。
「(浅上さんの能力を見切り、目潰しを仕掛けた上で止めの一撃だなんて、感心しちゃうなぁ……)」
今更だが、美琴が常に纏っている電磁場が浅上の歪曲を避けるのに有用だったのだと朝倉は観察の中で気づく。
電磁場が発生するのは電撃を使用する際の副産物みたいなものだが、周囲の空間に満ちている波があるからこそ
彼女は空間に対して発生する攻撃にいち早く反応することができるのだろう。
電磁場が発生するのは電撃を使用する際の副産物みたいなものだが、周囲の空間に満ちている波があるからこそ
彼女は空間に対して発生する攻撃にいち早く反応することができるのだろう。
「名案だと思ったんだけど……」
歪曲で止めを刺そうと思ったこと自体が今回の失敗の原因ということらしい。
「それであんたはどうするの。今度こそ降参? さっきから突っ立ったままみたいだけど」
天井から机の上に降りて、美琴はただこちらを見続けているだけの朝倉を見下ろし、声をかける。
先程気絶させた空間歪曲能力者――おそらくは彼女もレベルに当てはめれば3か4程度だろうか――と戦い始めてから
なんでもできる宇宙人とやらは攻撃を仕掛けることを止めてしまっていた。
もしかしたら、空間歪曲を使う女が勝つかもしれないと見守っていたのかもしれないが、それももうない。
先程気絶させた空間歪曲能力者――おそらくは彼女もレベルに当てはめれば3か4程度だろうか――と戦い始めてから
なんでもできる宇宙人とやらは攻撃を仕掛けることを止めてしまっていた。
もしかしたら、空間歪曲を使う女が勝つかもしれないと見守っていたのかもしれないが、それももうない。
「降参するって言うんだったら、彼女みたく優しく気絶させてあげるけど?」
どんな相手でも殺したくないというのが美琴の本心であったが、相手が降参しても油断しないくらいには現実派でもある。
なので、優しく気絶というのが彼女の譲歩しうる最上のラインだ。
その後はふんじばるなりして――ちょうどよいのでこの警察署の拘置場にでも突っ込んでおこうかと思っている。
勿論、相手は能力者なのでそれ相応の用心というものが必要だろうが。
なので、優しく気絶というのが彼女の譲歩しうる最上のラインだ。
その後はふんじばるなりして――ちょうどよいのでこの警察署の拘置場にでも突っ込んでおこうかと思っている。
勿論、相手は能力者なのでそれ相応の用心というものが必要だろうが。
「答えないんだったら、もう――」
「――決着をつけましょう」
「――決着をつけましょう」
あまり歓迎したくない返答に、美琴は眉根を寄せた。
「あのね。知っていると思うんだけど、さっき上に上がって行った人が私達のリーダーみたいなものですごく怖いのよ」
「だから何? あいつに忠誠誓ってて降参はできないってこと?」
「というよりも、あの人の方があなたより怖いという感じかな。
だから私としては、もし勝てないのだとしても降参するよりかは、あなたにやられたって結果があった方が助かるのよね」
「何その不良みたいな上下関係……馬鹿馬鹿しい」
「まぁまぁ、そう言わないでよ。こっちだってここに来て色々と苦労しているんだし。
それで勝負を受けてくれるかしら? あなたが負けてくれるのなら嬉しいし、そもそも負ける気なんてないんだけどね」
「だから何? あいつに忠誠誓ってて降参はできないってこと?」
「というよりも、あの人の方があなたより怖いという感じかな。
だから私としては、もし勝てないのだとしても降参するよりかは、あなたにやられたって結果があった方が助かるのよね」
「何その不良みたいな上下関係……馬鹿馬鹿しい」
「まぁまぁ、そう言わないでよ。こっちだってここに来て色々と苦労しているんだし。
それで勝負を受けてくれるかしら? あなたが負けてくれるのなら嬉しいし、そもそも負ける気なんてないんだけどね」
ふぅん。と、美琴はまだ幼さの残る顔に凶暴な笑みを浮かべた。
変に愛想のいい宇宙人が述べたことは嘘に違いない。本当が混ざっていたとしても、それでも方便には違いないはずだ。
宇宙人の望みはたった一つ。戦い続けたらジリ貧で押し負けるから、大威力による一発勝負がお望みなのだ。
なので、さっきから力を温存して手を出してこない。こんな挑発めいたことも言ってみたりと――狙いは見え見えである。
だからそんな誘い――
変に愛想のいい宇宙人が述べたことは嘘に違いない。本当が混ざっていたとしても、それでも方便には違いないはずだ。
宇宙人の望みはたった一つ。戦い続けたらジリ貧で押し負けるから、大威力による一発勝負がお望みなのだ。
なので、さっきから力を温存して手を出してこない。こんな挑発めいたことも言ってみたりと――狙いは見え見えである。
だからそんな誘い――
「いいわ。その誘い乗ってあげる。
私の通り名がなにかってこときっちりその身体に刻んであげるから、せいぜい死なないように踏ん張りなさい」
私の通り名がなにかってこときっちりその身体に刻んであげるから、せいぜい死なないように踏ん張りなさい」
――正々堂々と真正面から打ち砕く。
「(どうやら、うまくこちらの誘いに乗ってくれたみたい。……本当、一時はどうなることかと思ったわ)」
朝倉は安堵の溜息を小さくつくと、左腕を光の触手に変じて美琴と対峙する。
美琴もまたスカートのポケットから何かを取り出して構えるようであった。
美琴もまたスカートのポケットから何かを取り出して構えるようであった。
「(乗った理由は彼女としてもあるみたいね。あの呼吸、どうやら相当に消耗しているみたい)」
美琴の小さく上下する肩を見て朝倉はくすりと笑う。
とはいえ、見た目にはそう感じられない朝倉にしても消耗の度合いは人のことを言えたものではなかった。
警察署全体に結界を張ったこともあるが、そこにこの能力者との戦いも加わり持っていた攻性情報は底をつきかけている。
光の槍に換算すれば後10本出せるかどうかも怪しいといったところであった。
とはいえ、見た目にはそう感じられない朝倉にしても消耗の度合いは人のことを言えたものではなかった。
警察署全体に結界を張ったこともあるが、そこにこの能力者との戦いも加わり持っていた攻性情報は底をつきかけている。
光の槍に換算すれば後10本出せるかどうかも怪しいといったところであった。
「(でも、ぎりぎり間に合ったかな。これも日頃の行いというものよね)」
美琴が取り出していたのはメダルらしい。それがどのような使い方をされるのか、想像するのは難くない。
互いに、己の放てる最強の攻撃の姿勢を取り、無言の時間が数秒流れた――。
互いに、己の放てる最強の攻撃の姿勢を取り、無言の時間が数秒流れた――。
「……じゃあ、いくわよ」
「うん、いつでもいいわ。どうぞご遠慮なく」
「うん、いつでもいいわ。どうぞご遠慮なく」
更に無言の時間が数秒ながれて――美琴の持っていたメダルが澄んだ音を立てて上に弾かれた。
急速に、美琴の周囲を取り巻く電圧が高まり、紫色の雷光が断末魔を思わせる勢いでのたうち狂うのを朝倉は見る。
フロア内全体に電磁波が広がり、反応した金属がパチパチと明るい火花を立てて室内を満天の星空としたのを朝倉は見る。
複雑に制御された磁力線が美琴の指先から精密に編みこまれてゆき砲身を作ってゆくところを朝倉は見る。
弾かれたメダルが掌に戻ってくる瞬間、爆発的に電圧が高まり、大電流が砲身に沿って流れるのを朝倉は見る。
弾丸となるメダルが砲に沿って走り、一瞬にして音速を越えるのを朝倉は見る。
発射されたメダルが前方の空気を圧縮し、圧縮された空気がプラズマ化してメダルを溶かすのを朝倉は見る。
そしてその超高温のプラズマが勢いをそのままにこちらへと飛んでくるのを朝倉は見て――
目の前にまで来たそれに対し、朝倉は”右手”を突き出し――
――反射した。