ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ

本当はずっと、子供のままで、幼いままで

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本当はずっと、子供のままで、幼いままで ◆UcWYhusQhw




「あーなんで、燃料が無いのよーー!」

日が昇り始めた頃、空港の格納庫に響く少女の大きな声。
少女――リリア――が一つの飛行機のコクピットの中で苛々とした声を上げていた。
理由は至極簡単で飛行機の燃料が一つも入っていないから。
その単純な理由がリリアをここまで怒らせていたのだ。
ぶすっとした表情でコクピットに深く身を沈める。

動くマネキンを排除した後リリアと同行者である宗介はマネキンを精査したが特筆すべき事は無く。
超常現象という一言で宗介は片付ける事はしなかったのだがリリアが理解できないものは理解できないという一言でマネキン調査は締めくくられてしまった。
結局マネキン騒ぎで手に入ったのはナイフ一つ。
そのナイフはリリアが護身用が持つ事になりマネキン騒動は終いとあいなった。

その後本来の目的である空港の調査となり、リリアは飛行機の燃料を調べる事になった。
リリアは満面の笑顔で燃料あったら運転していいと目を輝かせていったのだが結果はこの通り一つも燃料が無い。
リリアは落胆しながら、段々不機嫌になっていき今に至る。
要するに他の調査を宗介に丸投げして自分はコクピットの中でサボタージュ。
実に自堕落気味だった。

「はぁ……なんだかなぁ」

コクピットの中の椅子に全身預けながらただ天井を見ていた。
何だか心がもやもやして。
何だかすっきりしない。
宗介は頼りになる……と思う。
だけど、今の所脱出に関して何もメドは立っていないに等しい。
でも、自分は役に立ってもいない。
同じ頃自分の母親やその彼氏さん、ついでにあのヘタレも頑張っているかもしれないのに。
任せてもいいかもしれない。
でもそれは……結局の所解決にはならなくて。
ではその為に何をすればいいのか……リリアは考えて考えて。
結局思いつかない。
つまり……自分は流されて……

「リリア……君はそこにいたか。探したぞ」

リリアのとりとめも無い思考が低い声で急にかき消される。
リリアが顔を上げた先にいたのはあのムッツリ顔。
共に行動している相良宗介であった。
リリアは起き上がりやや不機嫌そうな顔で宗介を見る。

「何? どうしたの?」
「ああ、少し発見があったのだが報告しようと……」
「何、燃料があったの!? ねぇねぇ飛ばさせて!」
「い、いやそれは見つからなかったのだが……」
「……えー」
「露骨に嫌な顔を向けられても困るのだが」
「えー」
「……リリア、頼むから泣きそうな顔を向けられても……その反応に困る」
「ちぇ」

無いとは思ったが何となく腹が立ったのでリリアは宗介をからかってみる。
宗介の困っている顔にちょっと悪戯心が満たせた所でリリアはコホンと息をついて続きを促した。
宗介は少し溜め息をしながらもその発見したものを取り出す。

「これを発見したのだが……リリア、君宛なのだが……」
「何ー?……んーとーベゼル語とロクシェ語の混合文の手紙……随分面倒くさい事するのね」
「混合文?」
「……あー私は読めるわよー。うん、珍しいけどね」
「……?……いや、何だ、その言語は……?……俺は知らんぞ」
「……うん?……何って言われても……って?!」

宗介から受け取った手紙を難なくさらさらと読んでいくリリア。
宗介はリリアのいった言語に疑問を呈したが突如リリアが驚きの言葉を放つ。

「どうかしたのか」
「…………ママだ」
「ふむ?」
「ママの手紙。ママが残した手紙……ママ、ここに居たんだ」

驚きの内容とはその手紙を書いた主、アリソン・シュルツ。リリアの母親だった。
リリアがその言葉を紡いだ時、何処か哀しそうな表情を浮かべたがそれを宗介が気付くことはなかった。
リリアは驚きと、喜びと色々な感情が混じった不思議な顔を浮かべる。
そしてその手紙を強く胸に抱きしめ、目を閉じる。
その行為に宗介は驚きながらも黙って見守った。
きっとリリアにとって、大事な何かがあったんだと。
そう思って、静かに飛行機に背を預けリリアの回復を待つ。

どれくらいの時が立っただろうか。
短い様で長かったかもしれない。
リリアがゆっくりと目を開け、うーんと背伸びをしている。
寝ているわけでもないのに大きく伸びをして。

「………………さて、宗介。どうしよう?」
「はっ?」
「これから、どうしようって」

リリアはよっととコクピットから飛び降りながら宗介にそう聞いた。
手紙の事は何も言わずに、少し笑いながら。
宗介は迷いながらも聞く。

「……リリア、すまないがその手紙は……」
「……ママはママだったよ。それ以外には無いわ」
「いや…………………………そうか、了解した」
「うん」

答えになっていない答えを言いながらリリアは笑う。
宗介は問い返そうとして留まる、留まるしかなかった。
リリアの表情がそう、示していたから。
喜びとも、哀しみとも取れるなにものでもない不思議な表情を。
了解するしか、無かった。


「さてと、そうだ、宗介! いいのがあるの!」


そう悪戯そうに笑ったリリア。
何かをごまかすように話を変えて。
その目尻には微かな雫。









◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






空が完全に蒼くなっていた頃。
空港の倉庫の中で飛行機の隣で地べたに座っている二人。
近いのか遠いのか酷く微妙な距離を保っている宗介とリリア。
二人は黙々と何かを食べていた。

「甘くて美味しいわねー」
「肯定だ。適度の糖分の補給は体に良い」

シャクシャクと食べているのはイチゴのアイス。
リリアが持っていたハーゲンダッツのストロベリー。
甘い、苺のアイスだった。

ゆっくりと当たり障りの無い言葉をかけながら静かにそれを消費させていく。
宗介はリリアのこのアイスを食べるという行為が余り理解できず、ただ食べていく。
リリアは時たま笑いながらも食べるだけ。
そのまま会話も無く食べ終わるかと思った頃に

「……宗介」
「何だ?」
「宗介は親ってどう思う?」

リリアが静かに宗介に聞いた。
ゆっくりとアイスを食べながら。
宗介はその問いに眉をピクッと動かしながらもムッツリした顔を浮かべ。

「俺には両親は居ない」
「……あ、御免なさい」
「別に気にしなくてもいい」

リリアはその宗介の答えに少し怯えるように謝る。
しかし、宗介は特に気にせず言った。
本当に気にしていないのだから。

「でも……」
「本当に気にしないでいいんだ、子供の頃から居ない」
「そう……じゃあどうしていたの?」
「戦っていた、ゲリラや軍人として」
「そうなんだ」

宗介の本当に気にしていない様子にリリアは少しだけほっとする。
そして、それから宗介の経歴に少し興味を示し始めて会話を続け始めた。
宗介は素っ気ながらも答え始める。
所々リリアの常識では解らない所があったがそのようなものなんだろうと思って聞き流していた。

素っ気ながらも静かなゆっくりとした会話にリリアには安心感が生まれる。
始めて宗介との何処か楽しい会話だったのだから。
何処か距離が縮まっていくような感じがして。
ゆっくり笑みがこぼれた。

宗介もリリアの表情にムッツリしながらも少しだけ安心した。
リリアが何処か張り詰めていたような気がしたから。
そうしてコロコロ変るリリアの表情を見ながら会話を続けていく。



「へぇー宗介って立派な軍人だったんだ」
「それ程でもないが」
「でも、強いんでしょ?」
「……まぁ、三流ではない」
「そっか」

アイスがもう残り少なくなって後一口二口程度になっていた。
宗介とリリアの会話それに比べて随分弾んでいて、微妙な距離は縮まっていた。
リリアは宗介が思いのほか強いことを知って。

「じゃあ……」

リリアがまた少し近づいて。
顔を近づけて。


「私を護ってくれる?」


そう、特に表情も変えずに聞いた。
宗介は鳩が豆鉄砲を喰らった様に宗介らしくない驚きを見せた。
余りに唐突な問い。
宗介が何か言葉を紡ぐ前にリリアが大きく笑って


「……なーーーーーーんて。一応まだわたしを護ってくれる人は沢山居るの。ママや、その彼氏さん。ついでに……んーまぁあのヘタレも」
「……」
「宗介にも護る人居るんだしね。二人居るんでしょ」
「……肯定だ」
「そういう事よ」
「ふむ……」
「……何でもないわよ?」

リリアは本当に表情を浮かべずに最後の解けかかったアイスの一口を食べる。
幸せそうな笑みを浮かべてご馳走様と静かに呟いて。
未だに驚いている宗介を尻目に立ち上がった。

「さて、アイスを食べたら冷えちゃった」

パンパンと服の汚れを取りながら一人そう呟く。
大きな伸びをしてそして。

「トイレ行って来る」

そう短く告げて。

足早に宗介に背を向け走って行く。

宗介はポカンとしながらも見送って。
やがて気付く。

「まて、リリア。其方にトイレは無い」

宗介も最後の一口のアイスを食べてリリアを追った。
空は完全に蒼くなり……朝を告げようとしている。








◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






宗介が足早におってリリアを見つけた。
リリアは一つの飛行機のコクピットに身を埋めている。
宗介は未だに宗介の存在に気付いていないリリアに言葉をかけようとして……止まった。


「ママ……ママ……」

リリアのか細い声が聞こえたから。
泣いているのかは宗介には判断できない。
でも、とても不安そうな声で。
宗介が聞いた事ない声で。
そう、呼んでいた。


「大丈夫?…………大丈夫?…………」


母親の心配を。
唯一無二の親を。
ただ心配していた。
不安で、不安で仕方なくて。


「怖い………………」


その恐怖は殺し合いへの恐怖か。
母親が死んでしまう恐怖か。
それは宗介には解らないけど。


「ママ………………会いたい」


そして、宗介は理解する。

結局の所、リリアは。

人目を憚らず、泣いて叫んで母親を無事を祈って再会を望み言い続けない程には大人であって。
でも、それでも、恐怖に襲われて母親を心の底から求めてそれを抑えられない程には大人ではなかったのだ。

大人になろうとしている少女でしか……無かった。

また、宗介は解らざる終えなかった。

リリアにこの殺し合いを、恐怖を植えつけたのは何よりも『自分』である事を。
これが夢のようなものではなくて、余りにも近い現実である事を。
それを知らしめたのは宗介自身である事を。
そう、宗介が襲って後一歩まで殺そうとしたのだ。
命が奪われる恐怖を。
今、共に行動していた自分が与えてしまった。

それなのに、リリアは笑って宗介に行動と共にしている。
リリアは許して、宗介に恐れをもっていない。

宗介はその事に心で驚き……悔しくなった。
リリアという少女を今改めて知って。
そしてその少女は今、震えている。
でも、宗介には何も出来ない。

何をすればいいか、その術を知らないから。

宗介は何も言わず……そして窓から見える空を見上げる。
空は蒼くなっていて朝になろうとしている。

この微妙な距離のまま……宗介はリリアが落ち着くまでここにいようと思った。
リリアの震える声だけが静かに響いて。
そして、宗介の中にリフレインする言葉。

『私を護ってくれる?』

それだけが何故か頭に強く響いて。

宗介の思考を奪っていた。

宗介はリリアに何をすればいいか迷い。
リリアは宗介に対して何故この言葉を吐いたか解らず。


昇り始めた光が朝を告げようとした。




【B-5/飛行場/一日目・早朝(放送直前)】

リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツ@リリアとトレイズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式(ランダム支給品0~1個所持)、ハーゲンダッツ(ストロベリー味)@空の境界×6、アリソンの手紙
[思考・状況]
0:????????
1:ママ……
2:宗介と行動。
3:トレイズが心配。
4:アリソン、トレイズ、トラヴァスと合流。

【相良宗介@フルメタル・パニック!】
[状態]:健康
[装備]:サバイバルナイフ、IMI ジェリコ941(16/16+1)
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品0~2個所持)、予備マガジン×4
[思考・状況]
0:??????????
1:リリアにが落ち着くまでここにいる
2:リリアと行動。
3:かなめとテッサとの合流最優先。

【ハーゲンダッツ(ストロベリー味)@空の境界】
幹也が式に贈ったアイス、ストロベリー味。
現実世界にあるハーゲンダッツと特に変わりはない。



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