ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ
トリックロジック――(TRICK×LOGIC) 2
最終更新:
Bot(ページ名リンク)
-
view
トリックロジック――(TRICK×LOGIC) 2 ◆EchanS1zhg
【幕間 《melancholy girl x2》】
凄惨だと言えるかはともかくとして、もし目つきの悪いあの彼が見たならば悲鳴をあげるような現場がそこにもあった。
部屋の広さはそこそこ。畳敷きで中央にはつくりのしっかりしたテーブルが置かれている。
テーブルの上には包みの開かれたお菓子の袋や、発泡スチロールのトレイ、ペットボトルに瓶やコップなどが散乱していた。
いや、テーブルの上だけにはとどまらず、部屋中に包装紙が巻き散らかされ皿が積み上げられていた。
打ち上げでもあったのかそれは相当の量だったが、共通しているのはどれも綺麗に食べきられているということだ。
ポテトチップスの破片や肉汁が零れている程度ならいくらか散見できるが、しかし残っていると言ってもその程度でしかない。
テーブルの上には包みの開かれたお菓子の袋や、発泡スチロールのトレイ、ペットボトルに瓶やコップなどが散乱していた。
いや、テーブルの上だけにはとどまらず、部屋中に包装紙が巻き散らかされ皿が積み上げられていた。
打ち上げでもあったのかそれは相当の量だったが、共通しているのはどれも綺麗に食べきられているということだ。
ポテトチップスの破片や肉汁が零れている程度ならいくらか散見できるが、しかし残っていると言ってもその程度でしかない。
円形のアルミの台紙の上にはホールケーキが乗っていたのだろうと想像できる。
使い捨ての燃料を使う焼き網には、おそらく貝を焼いて食べたのであろう痕跡が残されていた。
テーブルの端から畳の上に落ちている鳥の骨はけっして骨格標本などではなく、丸焼きにされたその成れの果てに違いない。
使い捨ての燃料を使う焼き網には、おそらく貝を焼いて食べたのであろう痕跡が残されていた。
テーブルの端から畳の上に落ちている鳥の骨はけっして骨格標本などではなく、丸焼きにされたその成れの果てに違いない。
そしてその部屋には二人の人間が横たわっていた。
二人は同じ臙脂色の制服を着ており、また同じように長い黒髪を背中に流し、同じような格好で畳の上に横たわっていた。
片方は折りたたんだ座布団を枕に右側を下に身体を丸め、もう片方は大股を開き大の字で寝転がっている。
二人は同じ臙脂色の制服を着ており、また同じように長い黒髪を背中に流し、同じような格好で畳の上に横たわっていた。
片方は折りたたんだ座布団を枕に右側を下に身体を丸め、もう片方は大股を開き大の字で寝転がっている。
川嶋亜美と千鳥かなめ。
二人は、すらりと手足の長い姿がまるでモデルのような――というか片方は実際にモデルなのだが――所謂美少女であり、
この凄惨な現場をたった二人だけで作り出した、別腹というよりもはや別次元というべき胃袋を持った犯人なのである。
二人は、すらりと手足の長い姿がまるでモデルのような――というか片方は実際にモデルなのだが――所謂美少女であり、
この凄惨な現場をたった二人だけで作り出した、別腹というよりもはや別次元というべき胃袋を持った犯人なのである。
「………………ぅう、最悪」
「うぇえぇ…………、食べ過ぎたぁ…………」
「うぇえぇ…………、食べ過ぎたぁ…………」
――今現在は犯人というよりも被害者みたいな風であったが。これも自業自得か、はたまたは自爆というのか。
仮にここに警察が駆けつければ彼女達は無銭飲食および窃盗などの罪で逮捕されてしまうのだろうが、
しかしそんなことよりも、二人の白いおなかのぽにょっと出た部分が罪の証としてこれからしばらく彼女達を苛めるだろう。
また、明日の朝にでも鏡でテッカテカになったお肌を見れば、いかに自分たちが罪深い人間か自覚するに違いない。
仮にここに警察が駆けつければ彼女達は無銭飲食および窃盗などの罪で逮捕されてしまうのだろうが、
しかしそんなことよりも、二人の白いおなかのぽにょっと出た部分が罪の証としてこれからしばらく彼女達を苛めるだろう。
また、明日の朝にでも鏡でテッカテカになったお肌を見れば、いかに自分たちが罪深い人間か自覚するに違いない。
まぁ、ともかくとして。特異な状況ではあるが女性の尊厳的な意味合いを抜けばそれほど危機的な現場ではなかった。
「あー、よっこらせっと……ふぅ」
地面に括り付けられたガリバーみたいになっていたかなめが、親父臭いしぐさでのろのろと起き上がってきた。
そして部屋を見渡し惨状に溜息をひとつ。げっぷをひとつ。もうひとつ大きな溜息をついてようやく立ち上がる。
そして部屋を見渡し惨状に溜息をひとつ。げっぷをひとつ。もうひとつ大きな溜息をついてようやく立ち上がる。
「どうしたのぉ……?」
立ち上がったかなめの方へと横になったままの亜美が寝返りを打つ。
おなかの中のお菓子軍団もいっしょにでんぐりかえって口から激甘ブレスが漏れる。甘ったるさに亜美の顔が歪んだ。
おなかの中のお菓子軍団もいっしょにでんぐりかえって口から激甘ブレスが漏れる。甘ったるさに亜美の顔が歪んだ。
「んまぁ、喰ったら後片付けぐらいはしとかないとと思ってねぇ。このままじゃ寝れないし」
「そんなの別に他の部屋に移ればいいだけじゃん……亜美ちゃんめんどーい」
「そんなの別に他の部屋に移ればいいだけじゃん……亜美ちゃんめんどーい」
それもそうだけど。と言いつつ、かなめはひとつひとつ畳に落ちたゴミを拾い集める。
大いにアバウトで融通のきく性格ではあるが、別にルーズというわけじゃない。むしろその逆なくらいだった。
大いにアバウトで融通のきく性格ではあるが、別にルーズというわけじゃない。むしろその逆なくらいだった。
「でも誰もいないとはいえ勝手に人様のものをいただいちゃったわけだしさ。
それに……なんか、ここまで散らかってるのを見ると落ち着かないっていうか、ほっとくにしのびないというか……」
「……………………」
それに……なんか、ここまで散らかってるのを見ると落ち着かないっていうか、ほっとくにしのびないというか……」
「……………………」
集めたゴミをゴミ箱に……といっても客間の小さなゴミ箱じゃとても収まりきれそうにないほどゴミはある。
ならなにかゴミ袋の代わりになるようなものがないかとかなめはキョロキョロと部屋の中を見渡した。
と、そこで芋虫からこのまま蛹へと変化するんじゃないかと思われた亜美がのそのそと起き上がってきる。
それはさながらゾンビのようで、寝癖で前にたれてきた髪の毛がすこしホラーな雰囲気を醸し出していた。
ならなにかゴミ袋の代わりになるようなものがないかとかなめはキョロキョロと部屋の中を見渡した。
と、そこで芋虫からこのまま蛹へと変化するんじゃないかと思われた亜美がのそのそと起き上がってきる。
それはさながらゾンビのようで、寝癖で前にたれてきた髪の毛がすこしホラーな雰囲気を醸し出していた。
「ん、なに? どったの?」
「…………あたしも手伝うから……掃除」
「…………あたしも手伝うから……掃除」
いぶかしむかなめの前で亜美は髪を整えながら甘い息を吐く。文字通り、比喩でない甘い息を。
ふしめがちと表現すれば少女っぽかったが、しかし眼差しはちょっと虚ろといった感じでちょっと以上に危なっかしい。
ふしめがちと表現すれば少女っぽかったが、しかし眼差しはちょっと虚ろといった感じでちょっと以上に危なっかしい。
「……ふーん。川嶋さんって掃除とか得意なタイプ?」
「亜美ちゃんでいいよ。あたしもかなめって呼ぶし。
……掃除は、まぁ得意かな。亜美ちゃんなんでもできるし。それに、掃除は…………くんに教えてもらったから……」
「亜美ちゃんでいいよ。あたしもかなめって呼ぶし。
……掃除は、まぁ得意かな。亜美ちゃんなんでもできるし。それに、掃除は…………くんに教えてもらったから……」
言いつつ、亜美はふらふらとよろけると壁に背をついてふぅと小さな溜息をついた。
同じ大食い美少女といっても、人間火力発電所のかなめとセンチメンタルシュガーポットな亜美では身体のつくりに差がある。
食べた分だけ活力を取り戻したかなめと、溜め込んだ分だけ心身ともに重たくなった亜美との違いであった。
同じ大食い美少女といっても、人間火力発電所のかなめとセンチメンタルシュガーポットな亜美では身体のつくりに差がある。
食べた分だけ活力を取り戻したかなめと、溜め込んだ分だけ心身ともに重たくなった亜美との違いであった。
「大丈夫? 別にこれぐらいだったら私ひとりでするし、お布団しいてあげよっか?」
「えへへ……亜美ちゃん華奢な女の子だからぁ☆ …………うぇっぷ」
「えへへ……亜美ちゃん華奢な女の子だからぁ☆ …………うぇっぷ」
心配するかなめへと、亜美ちゃんは作り笑顔でウィンクしたまぶたから星粒をひとつキラリ-☆
で、途端に亜美の顔がまるで明け方の空のように薄蒼い色に染まった。
で、途端に亜美の顔がまるで明け方の空のように薄蒼い色に染まった。
「ああああああぁ~! ここで吐くな! 吐いちゃだめだってば!」
「ぉぷ……、ぅ…………吐いたら楽になれるかなぁ……? 全部吐いたらダイエットしなくてもいいかなぁ……?」
「は、早まらないで! ほらトイレいこ。それまでしっかりね。ほらこっち……靴履いて」
「うぅ……ありがとぅ…………」
「ぉぷ……、ぅ…………吐いたら楽になれるかなぁ……? 全部吐いたらダイエットしなくてもいいかなぁ……?」
「は、早まらないで! ほらトイレいこ。それまでしっかりね。ほらこっち……靴履いて」
「うぅ……ありがとぅ…………」
やはり食べすぎは食べすぎだったのだろう。
リバース寸前で真っ青のガクブルな亜美へとかなめは肩を貸してはげまし、ふたりは揃って客間を後にしていった。
リバース寸前で真っ青のガクブルな亜美へとかなめは肩を貸してはげまし、ふたりは揃って客間を後にしていった。
そして、不在の部屋ができあがり、惨状を惨状のままほったらかしにされた現場はしばらくの間そのままだった。
【第二殺害現場 《ガリガリモウジャ》 -実地検分】
そこもまた、まるでこれまでに足りなかった分を補うかのように血の色で塗りたくられた凄惨な殺害現場だった。
正方形に近い形の部屋の中、中央にテーブルを置いて奥と手前にひとつずつ死体が横たわっている。
奥の死体は仰向けに。手前の死体はうつ伏せにと、まるでシンメトリーのように。
そして激しい流血の跡が壁や床へと赤い線を走らせ、まるで部屋全体を狂気の芸術へと昇華させているようでもあった。
だがしかし、そんなのはただの印象で。
実際には工業製品のような、単純なロジックだけで組み立てられると理解できるそんな薄ら寒い現場でしかない。
奥の死体は仰向けに。手前の死体はうつ伏せにと、まるでシンメトリーのように。
そして激しい流血の跡が壁や床へと赤い線を走らせ、まるで部屋全体を狂気の芸術へと昇華させているようでもあった。
だがしかし、そんなのはただの印象で。
実際には工業製品のような、単純なロジックだけで組み立てられると理解できるそんな薄ら寒い現場でしかない。
「くそっ……、なんだって北村がこんな目にあっちまうんだ……! 畜生……ッ」
勿論のことだが、この台詞はこのぼくこと戯言使いのものではない。
冷たい言い方になるけれども、ぼくは見ず知らずの人の死体を前に憤るほど熱いキャラじゃないし、
北村なんて名前を――ここで亡くなっているふたりの名前のどちらだって知りはしない。
そして別にハルヒちゃんの台詞というわけでもない。彼女だって条件は同じだった。
この台詞は、ぼくたちにとっては新しい登場人物のものである。
冷たい言い方になるけれども、ぼくは見ず知らずの人の死体を前に憤るほど熱いキャラじゃないし、
北村なんて名前を――ここで亡くなっているふたりの名前のどちらだって知りはしない。
そして別にハルヒちゃんの台詞というわけでもない。彼女だって条件は同じだった。
この台詞は、ぼくたちにとっては新しい登場人物のものである。
「…………俺はどうすればよかったんだ?」
部屋の入り口で立ちすくみ顔に悔恨の情を浮かべているツンツン頭の彼の名前は上条当麻と言うらしい。
そしてその後ろ。死体を見ないように彼の背中へとしがみついて震えている女の子の名前は姫路瑞希と言うのだった。
そしてその後ろ。死体を見ないように彼の背中へとしがみついて震えている女の子の名前は姫路瑞希と言うのだった。
そう、先ほどの件の彼女も一緒なのだった。
ぼくとハルヒちゃんとは、あれから建物の中と入る直前に、あの凄惨な現場の前でこの二人組と行き遭ったのだ。
偶然……であるはずだけど、あまりの間のよさに我ながら驚いたというのが正直なところでもある。
犯人は現場に戻ってくるとはよく言うけど、まさかそのまま、しかもこんないい(?)タイミングでとは思いも寄らなかった。
もっとも、殺人の件に関してはまだそれを問いただしてはないし、
しかるに彼女が犯人だと確定したわけではないのでその点においてはなんとも言い切れはしないのだけど。
ぼくとハルヒちゃんとは、あれから建物の中と入る直前に、あの凄惨な現場の前でこの二人組と行き遭ったのだ。
偶然……であるはずだけど、あまりの間のよさに我ながら驚いたというのが正直なところでもある。
犯人は現場に戻ってくるとはよく言うけど、まさかそのまま、しかもこんないい(?)タイミングでとは思いも寄らなかった。
もっとも、殺人の件に関してはまだそれを問いただしてはないし、
しかるに彼女が犯人だと確定したわけではないのでその点においてはなんとも言い切れはしないのだけど。
「なんだかなぁ」
「どうしたの、いー?」
「いや別に。
お揃いの体操服姿なんかでいるとどうもあの二人、できの悪い兄としっかりした妹のように見えるよねとか思ってないよ」
「なによそれ。でも、まぁ……上条くんのほうはともかく瑞希ちゃんの方は逸材よね……うん」
「どうしたの、いー?」
「いや別に。
お揃いの体操服姿なんかでいるとどうもあの二人、できの悪い兄としっかりした妹のように見えるよねとか思ってないよ」
「なによそれ。でも、まぁ……上条くんのほうはともかく瑞希ちゃんの方は逸材よね……うん」
逸材か。確かにあんなものを押し付けられたら健康的な男子としてはとても冷静ではいられまい。
スタイルだけでなく顔も可愛らしい。実に保護欲をそそるタイプだ。ふんわりとした髪も相まって実に女の子という感じがする。
とまぁ、そんなことは本当にどうでもいいのだけど、ぼくが実際になんだかなぁと思うのは今この現状に対してだ。
スタイルだけでなく顔も可愛らしい。実に保護欲をそそるタイプだ。ふんわりとした髪も相まって実に女の子という感じがする。
とまぁ、そんなことは本当にどうでもいいのだけど、ぼくが実際になんだかなぁと思うのは今この現状に対してだ。
遭遇してから、ぼくたちは互いに害意がないことを示すとグロテスクな死体を避けて場所を移し、それぞれに自己紹介しあった。
正確に言うなら、ひどく怯えた様子の姫路さんは自分で自己紹介をしなかったから、彼女の名前は上条くんから聞いただけで、
ついでに言うならば、できるだけ丁寧に、特に転がってた死体の件については色々と聞き出して確かめたかったのだが、
上条くんが急いでいると訴えたので、先に述べた通りにそれも叶わなかった。
正確に言うなら、ひどく怯えた様子の姫路さんは自分で自己紹介をしなかったから、彼女の名前は上条くんから聞いただけで、
ついでに言うならば、できるだけ丁寧に、特に転がってた死体の件については色々と聞き出して確かめたかったのだが、
上条くんが急いでいると訴えたので、先に述べた通りにそれも叶わなかった。
彼いわく、この温泉施設の中で2回前の放送で名前が呼ばれた北村という人物と待ち合わせをしていたらしい。
それだけならばそれほど急ぐことでもないように思える――なにせ死体はいくら待たせても怒るわけでもないし――が、
千鳥かなめという女の子が上条くんより先行してここへと向かってきていたとのこと。
ならばまず彼女と無事合流して、それから改めて互いに話し合おうというのが彼のその場での主張だった。
それだけならばそれほど急ぐことでもないように思える――なにせ死体はいくら待たせても怒るわけでもないし――が、
千鳥かなめという女の子が上条くんより先行してここへと向かってきていたとのこと。
ならばまず彼女と無事合流して、それから改めて互いに話し合おうというのが彼のその場での主張だった。
そして、上条くんに先導されてぼくたちは件の北村くんが待っていたはずの客間へとたどり着き、
結果として想像以上に凄惨で無慈悲な殺害現場を発見したという次第である。
結果として想像以上に凄惨で無慈悲な殺害現場を発見したという次第である。
千鳥さんという女の子はそこにはおらず、出会うことは叶わなかった。
実はまだたどり着いてないのかもしれないし、もしくはたどり着いたがどこかに立ち去ったのかもしれない。
上条くんが来るのを待つといってもけっこうな時間が経っているらしいし、どちらの可能性もありえた。
誰も言葉には出さないが、千鳥さんが何者かに出くわし危機に陥っている――最悪、もう死亡しているということもありえる。
実はまだたどり着いてないのかもしれないし、もしくはたどり着いたがどこかに立ち去ったのかもしれない。
上条くんが来るのを待つといってもけっこうな時間が経っているらしいし、どちらの可能性もありえた。
誰も言葉には出さないが、千鳥さんが何者かに出くわし危機に陥っている――最悪、もう死亡しているということもありえる。
まぁ、そんなことよりも。そんな現状であり、ぼくがなんだかなぁと思っているのはこの現状であり、この流れだ。
つまり、目の前のイベント的に上条くん主導権――イニシアチブを取られているという状況。
このままでは次のターンの行動も彼の主張により決定されてしまうだろう。
つまり、目の前のイベント的に上条くん主導権――イニシアチブを取られているという状況。
このままでは次のターンの行動も彼の主張により決定されてしまうだろう。
断っておくと、なにもぼくは率先して何事かの主導権を握りたいだとか、場を仕切りたいなどという性分がある人間ではない。
集団行動は苦手で、むしろ放っておいてくれ、一人勝手にさせてくれというのが基本のスタイルである。
しかし、今はぼく自身の狙いや役割がいつもとは少し異なる。
ハルヒちゃんの存在がそれだ。彼女を観察し、彼女を考察し、彼女を検証し、彼女を見極めて、彼女の有用性を実証する。
それが今現在のぼくの狙いでありこの事態における役割でもある。
故に、主導権を握るとは言わないまでもシチュエーションをコントロールできる程度の立ち位置は必要だ。
流されるままに流されてというのが本来のぼくではあるのだけど、今はそれじゃあ少し問題がある……ということ。
集団行動は苦手で、むしろ放っておいてくれ、一人勝手にさせてくれというのが基本のスタイルである。
しかし、今はぼく自身の狙いや役割がいつもとは少し異なる。
ハルヒちゃんの存在がそれだ。彼女を観察し、彼女を考察し、彼女を検証し、彼女を見極めて、彼女の有用性を実証する。
それが今現在のぼくの狙いでありこの事態における役割でもある。
故に、主導権を握るとは言わないまでもシチュエーションをコントロールできる程度の立ち位置は必要だ。
流されるままに流されてというのが本来のぼくではあるのだけど、今はそれじゃあ少し問題がある……ということ。
さて、とはいえここで大声をあげて『やぁ、ぼくに名案があるんだ』なんて言って先導するのは好ましくない。
他称ながら神様らしきハルヒちゃんを試すにあたって、ぼくがそうしていると彼女に気づかれてしまっては全てが台無しだ。
精密な実験にそれが必要であるように、正しい観測結果が欲しいのならば実験されているという認識すら不純物なのである。
なのでシチュエーションの設定にぼくの意思を潜ませつつも、それが介在するとは絶対に気づかれてはならない。
では、どうするかというと――
他称ながら神様らしきハルヒちゃんを試すにあたって、ぼくがそうしていると彼女に気づかれてしまっては全てが台無しだ。
精密な実験にそれが必要であるように、正しい観測結果が欲しいのならば実験されているという認識すら不純物なのである。
なのでシチュエーションの設定にぼくの意思を潜ませつつも、それが介在するとは絶対に気づかれてはならない。
では、どうするかというと――
「それで、ハルヒちゃん。ぼくたちはどうすればいいんだろう?」
――とまぁ、やっぱりこうするしかないわけで。
幸いなことにハルヒちゃん自身はリーダー気質かつわがままな女の子なので、主導権を握ることになんらいといがない。
そして、ぼくの意思決定を彼女に譲渡すれば、彼女の押しは2倍になるという計算。
鳴かずなら鳴いてと土下座だホトトギス。ややという以上になさけない気はするけれど、ようはハルヒちゃん主導の線狙い。
彼女に前面へと立ってもらい、目立たない位置からアドバイスという形でぼくが彼女の選択に調整を加える。
つまり、躊躇した上に長考してみたものの、結局今までと方針は変わらないということだった。
幸いなことにハルヒちゃん自身はリーダー気質かつわがままな女の子なので、主導権を握ることになんらいといがない。
そして、ぼくの意思決定を彼女に譲渡すれば、彼女の押しは2倍になるという計算。
鳴かずなら鳴いてと土下座だホトトギス。ややという以上になさけない気はするけれど、ようはハルヒちゃん主導の線狙い。
彼女に前面へと立ってもらい、目立たない位置からアドバイスという形でぼくが彼女の選択に調整を加える。
つまり、躊躇した上に長考してみたものの、結局今までと方針は変わらないということだった。
「どうすればって、そんなの決まってるじゃない。上条くんたちと一緒に千鳥さんを探しましょう。
もしかしたら怖いものを見てどこかで震えているのかもしれないし、怪我だってしてるかもしれないのよ」
もしかしたら怖いものを見てどこかで震えているのかもしれないし、怪我だってしてるかもしれないのよ」
うん、この流れだ。そしてぼくはぼくの思惑に従い微調整を加える。
「そんなに大げさに考えなくとも、案外こういうのは近くにいたりする場合もあるんじゃないかな?」
「うーん、それもそうねぇ……。たまたまトイレかなんかに行っててすれ違っただけってこともありえるかしら。
とりあえずこの温泉の中から探してみることにすればいいわよね。うん」
「うーん、それもそうねぇ……。たまたまトイレかなんかに行っててすれ違っただけってこともありえるかしら。
とりあえずこの温泉の中から探してみることにすればいいわよね。うん」
そう言って、ハルヒちゃんは部屋の中で死体へとシーツを被せている上条くんの下へと駆けていった。と、これでよし。
なにもしなくてもこの後に千鳥さんを探す流れは変わらなかったろうけど、誰が言い出すかには意味がある。
なにもしなくてもこの後に千鳥さんを探す流れは変わらなかったろうけど、誰が言い出すかには意味がある。
ひとつの杞憂が晴れたところで、上条くんについての印象を確認してみる。
どうやら少年らしい風貌とこれまでの言動を見る限り、見た目どおりに青い熱さと正義感を持った好青年のようだ。
多少の縁があった北村くんとやらだけでなく、筑摩小四郎とかいう忍者の人にもシーツを被せてあげている。
それだけでなく、その忍者の人が連れていたという立派な鷹――これも死んでいた――もシーツで包んでいた。
こういった善良さはぼくの周りでは貴重なので、せいぜい迷惑をかけずかけられない距離を維持させてもらいたい。
どうやら少年らしい風貌とこれまでの言動を見る限り、見た目どおりに青い熱さと正義感を持った好青年のようだ。
多少の縁があった北村くんとやらだけでなく、筑摩小四郎とかいう忍者の人にもシーツを被せてあげている。
それだけでなく、その忍者の人が連れていたという立派な鷹――これも死んでいた――もシーツで包んでいた。
こういった善良さはぼくの周りでは貴重なので、せいぜい迷惑をかけずかけられない距離を維持させてもらいたい。
「そうだな、とりあえずは千鳥のやつと合流しないと面目が立たねぇし。姫路もそれでいいか?」
「離れるのは危ないからみんな一緒に行動しましょう。
まずはこのフロアにある部屋から当たっていくのがいいわ。大丈夫、きっと無事に再会できるわよ」
「離れるのは危ないからみんな一緒に行動しましょう。
まずはこのフロアにある部屋から当たっていくのがいいわ。大丈夫、きっと無事に再会できるわよ」
と、どうやら話はすんなりまとまったらしい。これでハルヒちゃんの”言ったとおり”に千鳥さんが見つかれば万々歳だ。
さて、ハルヒちゃんを先頭に千鳥さん探しに出かける一行。
その一番後ろでぼくはこっそり部屋を振り返り、もう一度だけこの光景を脳髄に焼きこむようしっかりと凝視した。
目的は先ほどの現場と同じで、ここで何が起こったかを知り、それをその危機から身を守るための情報とするためである。
そしてこの現場の場合、先ほどの現場とはその必要性および重要性が全く違うレヴェルにあった。
その一番後ろでぼくはこっそり部屋を振り返り、もう一度だけこの光景を脳髄に焼きこむようしっかりと凝視した。
目的は先ほどの現場と同じで、ここで何が起こったかを知り、それをその危機から身を守るための情報とするためである。
そしてこの現場の場合、先ほどの現場とはその必要性および重要性が全く違うレヴェルにあった。
”素人が素人を偶発的に殺害した現場”と”プロがプロを計画的に殺害した現場”とでは言葉どおりレヴェルが違う。
筑摩小四郎という人は忍者であったらしいけど、その言が正しければ彼はある種のスキルの持ち主であったわけだ。
それが所謂”殺し名”などに匹敵するほどのものなのかはわからないが、なんにせよ彼の方はプロのプレイヤーなわけで、
その彼をただの一撃で、おそらくは真正面から撃破――死亡に至らしめているというのは、これは大きな脅威になる。
それが所謂”殺し名”などに匹敵するほどのものなのかはわからないが、なんにせよ彼の方はプロのプレイヤーなわけで、
その彼をただの一撃で、おそらくは真正面から撃破――死亡に至らしめているというのは、これは大きな脅威になる。
また、部屋の中には鷹以外にも”人間ではない”死体が転がっていた。
部屋の中央。戸口から覗き込めば二つの死体よりもよっぽど目に入ってくるのはウェディングドレス姿のマネキン人形。
こんなものがなんでここにあったのかは知らないけれど、それはなんらかの手段によって前面を破砕されている。
部屋の中央。戸口から覗き込めば二つの死体よりもよっぽど目に入ってくるのはウェディングドレス姿のマネキン人形。
こんなものがなんでここにあったのかは知らないけれど、それはなんらかの手段によって前面を破砕されている。
まるでマネキンの表面でいくつもの小さな爆弾が爆発したみたいな有様だったが、しかし爆発物を用いた形跡はなく、
ならばそれこそ、今こそ魔法や超能力がぼくの目の前に現れる頃合いなのかもしれない。
ならばそれこそ、今こそ魔法や超能力がぼくの目の前に現れる頃合いなのかもしれない。
「戯言だけで幻想(フィクション)の中を渡り歩けって言うのか?」
本当に、戯言だと言って何もかもを投げ出したくなるような、そんな恐怖と非現実とが存在する殺害現場だった。
【第二殺害現場 《ガリガリモウジャ》 -検証】
そして、登場人物は出揃った。
先ほどの殺害現場とは別の、けど同じ正方形に近い間取りの客間の中。
部屋の中央には同じように足の短い大きなテーブルが置かれており、ぼくたち”6人”はそれを囲んで対面していた。
部屋の中央には同じように足の短い大きなテーブルが置かれており、ぼくたち”6人”はそれを囲んで対面していた。
上座の位置には行方知れずとなっていた千鳥かなめさんが一同を見渡すように座っている。
彼女から見て右側には再会の際に一発殴られて頭にたんこぶをつくった上条くんがおり、
その隣には正座をして、未だ何も発言することなく妙に挙動不審な姫路瑞希さんが縮こまっていた。
対面には男女対応するようにぼくとハルヒちゃん。
ぼくは年下の人間ばかりという状況にやや居心地の悪さを感じているという程度だが、
ハルヒちゃんはというとまだ死体を目にした緊張が残っているようで、僅かながら顔がこわばっていた。
そして、6人目。
千鳥さんと対応する下座の位置には彼女と同じ制服を着た、同じように美人の川嶋亜美という女の子がいた。
彼女はここで千鳥さんと出会い意気投合したらしいけど、どうやら上条くんや姫路さんとも面識があるらしい。
彼女から見て右側には再会の際に一発殴られて頭にたんこぶをつくった上条くんがおり、
その隣には正座をして、未だ何も発言することなく妙に挙動不審な姫路瑞希さんが縮こまっていた。
対面には男女対応するようにぼくとハルヒちゃん。
ぼくは年下の人間ばかりという状況にやや居心地の悪さを感じているという程度だが、
ハルヒちゃんはというとまだ死体を目にした緊張が残っているようで、僅かながら顔がこわばっていた。
そして、6人目。
千鳥さんと対応する下座の位置には彼女と同じ制服を着た、同じように美人の川嶋亜美という女の子がいた。
彼女はここで千鳥さんと出会い意気投合したらしいけど、どうやら上条くんや姫路さんとも面識があるらしい。
簡単にまとめると、
体操服組の上条くんと姫路さん。制服組の千鳥さんと亜美ちゃん。そしてぼくとハルヒちゃんの3組6人だ。
体操服組の上条くんと姫路さん。制服組の千鳥さんと亜美ちゃん。そしてぼくとハルヒちゃんの3組6人だ。
しかし……、これは本筋とはなんら関係のない戯言なのだけど、出揃った女の子4人が4人ともすごい美少女である。
特に最後に登場した千鳥さんと亜美ちゃんはハッとさせられるような美人だ。
可愛らしい姫路さんを見て少し喜んでいたハルヒちゃんだったが、二人の登場の際には息を飲み、若干引いていた。
同じ美人系とはいえ、肩口までのセミロングのハルヒちゃんと違い、千鳥さんと亜美ちゃんは腰までのドストレートの黒髪だ。
ぼくは髪型で人を差別するような人間ではないが、しかしキャラとしてこの”武器”の有無はとてもじゃないが無視できない。
特に最後に登場した千鳥さんと亜美ちゃんはハッとさせられるような美人だ。
可愛らしい姫路さんを見て少し喜んでいたハルヒちゃんだったが、二人の登場の際には息を飲み、若干引いていた。
同じ美人系とはいえ、肩口までのセミロングのハルヒちゃんと違い、千鳥さんと亜美ちゃんは腰までのドストレートの黒髪だ。
ぼくは髪型で人を差別するような人間ではないが、しかしキャラとしてこの”武器”の有無はとてもじゃないが無視できない。
ゆえに、常にアイムナンバーワンなハルヒちゃんとはいえ、引け目を感じたとしてもそれはいたしかたないことだろう。
無論、こんなことは決して口にしない。Mを自覚しているぼくだけど、嫌われ主義者でも自殺志願でもないのだから。
この壁はハルヒちゃんが自分で乗り越えられるよう、ぼくは戯言を封印してただ見守るだけしかない。
無論、こんなことは決して口にしない。Mを自覚しているぼくだけど、嫌われ主義者でも自殺志願でもないのだから。
この壁はハルヒちゃんが自分で乗り越えられるよう、ぼくは戯言を封印してただ見守るだけしかない。
閑話休題。
では、これからの流れを追う前に、ひとまずあれからこれまでの顛末をさらりと振り返ることにする。
あれからとは二人の死体があった部屋を4人揃って後にしてからのことで、これまでとは今この瞬間のことである。
では、これからの流れを追う前に、ひとまずあれからこれまでの顛末をさらりと振り返ることにする。
あれからとは二人の死体があった部屋を4人揃って後にしてからのことで、これまでとは今この瞬間のことである。
ハルヒちゃんはトイレにでもと言ったが、実際にあの後すぐ千鳥さんと亜美ちゃんはすぐ近くのトイレで発見された。
正確には廊下を歩いていたら、トイレから出てきた二人にばったりと出くわしたのだ。
あまりのあっけなさに拍子抜けしたが、苦難を伴うよりかははるかにいい。
そして揃いの制服を着た美人姉妹みたいな二人の登場に、見蕩れること一瞬。
ぼくはそのままことの成り行きを後ろから見守ることにした。探していたのは上条くんで、ぼくがしゃしゃり出る場面じゃない。
正確には廊下を歩いていたら、トイレから出てきた二人にばったりと出くわしたのだ。
あまりのあっけなさに拍子抜けしたが、苦難を伴うよりかははるかにいい。
そして揃いの制服を着た美人姉妹みたいな二人の登場に、見蕩れること一瞬。
ぼくはそのままことの成り行きを後ろから見守ることにした。探していたのは上条くんで、ぼくがしゃしゃり出る場面じゃない。
「いつまでもどこほっつき歩いていたのよ……この馬鹿ッ!」
そう。わざわざしゃしゃり出て暴行を受ける必要はない。
探し人であった千鳥さんはというとどうやら少々暴力的なツッコミ属性持ちであるらしく、
謝罪の意思を土下座で示した上条くんに、空手の下段突きの要領でブラックアウトしそうな拳骨の一撃である。
探し人であった千鳥さんはというとどうやら少々暴力的なツッコミ属性持ちであるらしく、
謝罪の意思を土下座で示した上条くんに、空手の下段突きの要領でブラックアウトしそうな拳骨の一撃である。
「……まぁ、お互い無事でなによりだけどね」
まぁ、このいつどこで誰から襲われるともわからない状況。さらには近くに死体もある場所にレディを待たせたのだから
ゲンコツ一発で済んだのは幸運だろう。むしろここは千鳥さんの度量の大きさを褒め称えるところだ。
うん。彼女には絶対に逆らわないようにしよう。と、ぼくはひっそり心の中でそう決めた。
ゲンコツ一発で済んだのは幸運だろう。むしろここは千鳥さんの度量の大きさを褒め称えるところだ。
うん。彼女には絶対に逆らわないようにしよう。と、ぼくはひっそり心の中でそう決めた。
「ところで見ない顔が増えてるんだけど、どちらさま?」
その後、ぼくたちは彼女らの使っていた部屋に移り、でたらめに散らかっていたその部屋の惨状に仰天した。
現実的である分、さっきの部屋よりか酷く見えるというか、なんというか。
現実的である分、さっきの部屋よりか酷く見えるというか、なんというか。
で、何故か全員で掃除することになった。
ちなみに、男女6人もいれば掃除が苦手な子もいそうなものだったが、この6人においては皆掃除が得意だった。
ぼくはどちらかというと掃除よりも、掃除をしないで済むように部屋を汚さないタイプだけども、
ハルヒちゃんも姫路さんも、若干粗暴そうな一面を見せた千鳥さんも、こういうことは苦手そうな亜美ちゃんにしてもだ。
ちなみに、男女6人もいれば掃除が苦手な子もいそうなものだったが、この6人においては皆掃除が得意だった。
ぼくはどちらかというと掃除よりも、掃除をしないで済むように部屋を汚さないタイプだけども、
ハルヒちゃんも姫路さんも、若干粗暴そうな一面を見せた千鳥さんも、こういうことは苦手そうな亜美ちゃんにしてもだ。
そして、上条くんはというと、なんというかぼくと一緒だった。主義ではなく……その、使い走りっぷりが。
こういう場合において男が使役されるのは自然なんだけど、なんというか理不尽に対する受け入れっぷりみたいなものが
若くして年季が入っているというか、不幸慣れしているというか、その姿にどこか共感や哀愁を感じてみたり。
こういう場合において男が使役されるのは自然なんだけど、なんというか理不尽に対する受け入れっぷりみたいなものが
若くして年季が入っているというか、不幸慣れしているというか、その姿にどこか共感や哀愁を感じてみたり。
と、また少し話が脱線してしまったが、経緯としてはこんな感じである。
そしてぼくたちは改めて簡単な自己紹介をし、これまでと今現在、そしてできればこれからのことを話し合うこととなったのだ。
そしてぼくたちは改めて簡単な自己紹介をし、これまでと今現在、そしてできればこれからのことを話し合うこととなったのだ。
「――それで当麻。あんたはこのか弱い女の子であるかなめさんをほったらかしにして、今まで何してたのよ?」
彼女へのツッコミは各自心の中ですませておくように――ということで、ぼくたちの話し合いはこんなところから始まった。
これはぼくが提案させてもらったのだけど、千鳥さん、上条くん、姫路さん、亜美ちゃんの4人は顔見知りであるみたいだけど、
ぼくとハルヒちゃんは向こうから見たら完全な新顔にすぎない。
なので、お互いに馴染みあう準備期間という意味でも、まずはこれまでの経緯なんかを報告しあえばという話。
実際としては、いきなり殺人などというヘビィな話題に突入しては、信用のない新参のぼくたち二人はデフォで立場が危うい。
そういうところを懸念したというのが本音。人間、知らない人間に対しては思った以上に冷酷になれるものだから。
これはぼくが提案させてもらったのだけど、千鳥さん、上条くん、姫路さん、亜美ちゃんの4人は顔見知りであるみたいだけど、
ぼくとハルヒちゃんは向こうから見たら完全な新顔にすぎない。
なので、お互いに馴染みあう準備期間という意味でも、まずはこれまでの経緯なんかを報告しあえばという話。
実際としては、いきなり殺人などというヘビィな話題に突入しては、信用のない新参のぼくたち二人はデフォで立場が危うい。
そういうところを懸念したというのが本音。人間、知らない人間に対しては思った以上に冷酷になれるものだから。
「あー……、話せば長くなるんだが。というか、上条さんからも重大な相談事があったりしまして……」
「ちょっと、これ以上イライラさせないっての。相談事ならいくらでも聞いてあげるからハキハキ喋る」
「ちょっと、これ以上イライラさせないっての。相談事ならいくらでも聞いてあげるからハキハキ喋る」
まずは改めてぼくたちは自己紹介しあった。
そして、詳しい部分は割愛するが所謂パラレルワールド論――各自、出身世界とその認識についてあれこれ。
ここはハルヒちゃんが大きく喰いついたところなんだけど、割愛するとして。
その後、千鳥さんから順にこれまでの経緯を簡単に説明して、今の話題は上条くんが遅刻した理由についてだった。
そして、詳しい部分は割愛するが所謂パラレルワールド論――各自、出身世界とその認識についてあれこれ。
ここはハルヒちゃんが大きく喰いついたところなんだけど、割愛するとして。
その後、千鳥さんから順にこれまでの経緯を簡単に説明して、今の話題は上条くんが遅刻した理由についてだった。
「まぁ、話すけどよ。
あれから、教会の地下に落っこちてから……えーと、あれはなんて言うんだけっかな。ああ、そうそう”カタコンベ”だ」
あれから、教会の地下に落っこちてから……えーと、あれはなんて言うんだけっかな。ああ、そうそう”カタコンベ”だ」
カタコンベとは所謂地下墓所のことである。
ここが日本であると仮定するならかなり珍しいものだが、上条くんは不気味さに怖気づくことなくそこを突破し、
その先にあった下水道を伝って東進。地図で見れば1kmほどを踏破してあの学校の前でようやく地上に出れたらしい。
と、それをさも武勇伝のように語る上条くんに向けてハルヒちゃんが手をあげて問いかけた。
ここが日本であると仮定するならかなり珍しいものだが、上条くんは不気味さに怖気づくことなくそこを突破し、
その先にあった下水道を伝って東進。地図で見れば1kmほどを踏破してあの学校の前でようやく地上に出れたらしい。
と、それをさも武勇伝のように語る上条くんに向けてハルヒちゃんが手をあげて問いかけた。
「ねぇ、ちょっといいかしら?」
「なんだ? えーと、涼宮さん」
「その前のことなんだけど上条くんと千鳥さんは外っかわの壁を調べに行ってたのよね?」
「ああ、それはさっき話したとおりだけど、なにか気になるようなところがあったか?」
「壁の話のところでなにか悪寒を感じたって言ってたでしょ? それで、地下墓所を通った時もなにか気配があったって。
上条くんはやっぱり超能力者だからそういう……その、超感覚みたいなのが備わっててわかるのかしら?」
「なんだ? えーと、涼宮さん」
「その前のことなんだけど上条くんと千鳥さんは外っかわの壁を調べに行ってたのよね?」
「ああ、それはさっき話したとおりだけど、なにか気になるようなところがあったか?」
「壁の話のところでなにか悪寒を感じたって言ってたでしょ? それで、地下墓所を通った時もなにか気配があったって。
上条くんはやっぱり超能力者だからそういう……その、超感覚みたいなのが備わっててわかるのかしら?」
異世界の話をして以降、ハルヒちゃんの好奇心および探究心スイッチはオン状態だ。
そこらへん、今は別に後回しでもいいんじゃないかな? と思わくもないが、下僕の身ゆえぼくは口をつむぐ。
なによりこの対話の目的は互いに馴染むこと。ならば多少の遠回りはむしろ歓迎するところで、
ぼくとしてはハルヒちゃんがこの世の不思議を肯定する方向に向かうのは好ましいところでもあったりする。
そこらへん、今は別に後回しでもいいんじゃないかな? と思わくもないが、下僕の身ゆえぼくは口をつむぐ。
なによりこの対話の目的は互いに馴染むこと。ならば多少の遠回りはむしろ歓迎するところで、
ぼくとしてはハルヒちゃんがこの世の不思議を肯定する方向に向かうのは好ましいところでもあったりする。
「あぁ……いや、期待させちまって悪いが俺自身は無能力者(レベル0)なんだ。
だから涼宮さんが期待してるような能力ってのはぶっちゃけると、これっぽちもない。
悪寒とか気配ってのは、説明が難しいけど実際、その場ではそう感じたってだけなんだ」
「そっか……、まぁいいわ。じゃあ私も後でそこに行って確認してみるから。
いー、あなたも覚えておきなさい。施設調査リストに教会の地下墓所を追加よ」
だから涼宮さんが期待してるような能力ってのはぶっちゃけると、これっぽちもない。
悪寒とか気配ってのは、説明が難しいけど実際、その場ではそう感じたってだけなんだ」
「そっか……、まぁいいわ。じゃあ私も後でそこに行って確認してみるから。
いー、あなたも覚えておきなさい。施設調査リストに教会の地下墓所を追加よ」
ハイハイと返事をして、ハイは1回でいいとぼくはハルヒちゃんに怒られる。
映画館からこの温泉。そして学校へと向かうのなら、その先は図書館、教会と並んでいるわけだし特別面倒なことでもない。
先送りになっていた世界の端についての調査も行えるなら、ハルヒちゃんの提案に反対する理由はなかった。
映画館からこの温泉。そして学校へと向かうのなら、その先は図書館、教会と並んでいるわけだし特別面倒なことでもない。
先送りになっていた世界の端についての調査も行えるなら、ハルヒちゃんの提案に反対する理由はなかった。
「施設調査って涼宮さんたちは何をしているの?」
と質問したのは議長ポジションにいる千鳥さんだ。
ちなみに、彼女は通っている高校にて生徒会副会長を務めているらしく、ならば議長役は適任であった。
ちなみに、彼女は通っている高校にて生徒会副会長を務めているらしく、ならば議長役は適任であった。
「調査は調査よ。地図に書かれた施設を回ってこの事件を解決するためのヒントがないか探しているのよ」
「元々はそういう施設を回っていれば誰かに出会えるんじゃないかってことだったんだけど、
この前に寄って来た映画館でちょっと発見があってね。そういえば学校にもなにかあったなって思い出して――」
「そう。それだったら片っ端から足を運んで調査していこうって思いついたわけなのよ!」
「元々はそういう施設を回っていれば誰かに出会えるんじゃないかってことだったんだけど、
この前に寄って来た映画館でちょっと発見があってね。そういえば学校にもなにかあったなって思い出して――」
「そう。それだったら片っ端から足を運んで調査していこうって思いついたわけなのよ!」
ハルヒちゃんはオールマイティそうでいてけっこう抜けてるところがあるので、その分はぼくがフォロー。
関心を持った上条くんと千鳥さん相手に、ぼくは映画館で見つけたものとその不思議さを説明した。
関心を持った上条くんと千鳥さん相手に、ぼくは映画館で見つけたものとその不思議さを説明した。
「ああ、魔方陣みたいのなら俺も学校で見たな。そうか……、オーパーツ的なものか」
「ここがあの狐面のおじさんの言うとおりの世界なんだったら、そういうのを調べる方が解決に近そうよね」
「ここがあの狐面のおじさんの言うとおりの世界なんだったら、そういうのを調べる方が解決に近そうよね」
そうでしょう。とハルヒちゃんはここにきてはじめて機嫌をよくした。
上条くんや千鳥さんにしても、一見具体性のありそうなこの方針は魅力的に見えるらしい。
人探しも兼ねられるなら各施設を渡り歩くのも悪くないと、そんな流れへと彼らの心は傾いていた。
上条くんや千鳥さんにしても、一見具体性のありそうなこの方針は魅力的に見えるらしい。
人探しも兼ねられるなら各施設を渡り歩くのも悪くないと、そんな流れへと彼らの心は傾いていた。
「涼宮さんの案はいい感じね……と、そうそう、それであんたの方の話はどうなったのよ。
どうして当麻が姫路さんと一緒なのかとか、まだ聞いてないわよ」
「ああ、そうだったな。こっちが本題だ。それで学校の前に出た俺は、姫路が廊下を歩いているのを見つけて――」
どうして当麻が姫路さんと一緒なのかとか、まだ聞いてないわよ」
「ああ、そうだったな。こっちが本題だ。それで学校の前に出た俺は、姫路が廊下を歩いているのを見つけて――」
脱線していた話は本筋へ戻り、そして本題へと突入する。
ちょうど学校の前に出た上条くんはそこでふらふらと学校の中を徘徊している姫路さんを窓越しに発見したらしい。
早く温泉に向かわねばとは思ったらしいが、彼女にしても尋常な様子ではない。
迷いはしたが結局、上条くんは彼女に声をかけることにしたのだ。
で、そこで問題となるのが姫路さんのその時の尋常ではない様子だったのだけど……。
ちょうど学校の前に出た上条くんはそこでふらふらと学校の中を徘徊している姫路さんを窓越しに発見したらしい。
早く温泉に向かわねばとは思ったらしいが、彼女にしても尋常な様子ではない。
迷いはしたが結局、上条くんは彼女に声をかけることにしたのだ。
で、そこで問題となるのが姫路さんのその時の尋常ではない様子だったのだけど……。
「――つーか、裸だったよね。その子」
意地悪そうな声は、これまで話しに加わらず退屈そうにしていた亜美ちゃんのものだった。
「はぁ!? それって何があったのよ?」
千鳥さんの声が大きくなる。それはそうだろう。女の子が裸で歩いていたなどと、それは尋常じゃない話だ。
どうしてそんな事態に姫路さんは陥ってしまったのか。そしてその後、上条くんは裸の女の子とどうしていたのか。
などと、掻き立てられる妄想に場の空気が少しだけ冷たくなった。凍りつく、その前兆のように。
どうしてそんな事態に姫路さんは陥ってしまったのか。そしてその後、上条くんは裸の女の子とどうしていたのか。
などと、掻き立てられる妄想に場の空気が少しだけ冷たくなった。凍りつく、その前兆のように。
ぼくとハルヒちゃんはどうしてその時、姫路さんが裸だったのかを知っている。
推測はまだ推測でしかないが、少なくとも現場に残されていた彼女の制服だけは紛れもない真実の一片だ。
そして、出会ってからの彼女の、なにかを恐れるようにおどおどとしたその態度もまた真実を語っていた。
推測はまだ推測でしかないが、少なくとも現場に残されていた彼女の制服だけは紛れもない真実の一片だ。
そして、出会ってからの彼女の、なにかを恐れるようにおどおどとしたその態度もまた真実を語っていた。
隣のハルヒちゃんが息を飲むのがわかった。
ここから先、何が語られるのかを思い浮かべているのだろう。そして、それを受け止められるのかということを。
果たして。
果たして、ならばぼくはどうなのか。ぼくは殺人者を許容できるのだろうか――?
ここから先、何が語られるのかを思い浮かべているのだろう。そして、それを受け止められるのかということを。
果たして。
果たして、ならばぼくはどうなのか。ぼくは殺人者を許容できるのだろうか――?