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鬼畜眼鏡

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鬼畜眼鏡 ◆MjBTB/MO3I



突然だが、島田美波は迷いを抱えながら走っていた。

あの殺人犯となる決意をした男から逃げて、彼の危険性を誰かに伝えたい。
その事には何の問題も無い。レーダーだって持っているから、誰かと遭遇するのは幾分容易だろう。
だがその"他人との邂逅に有利である"という事実が、存外迷いを生む結果となってしまっていた。

簡単に言えば、信用できるか否かという問題だ。
この街に来て最初に見つけた人間が殺人を表明した所為で、彼女は周りに対する不信感を覚えてしまったのである。
初めて出会ったのが瑞希や秀吉といった仲間や、その他の信頼に足る人間であったならそうはならなかっただろう。
しかしどれほど運が悪かったのか、この椅子取りゲームで過激に大暴れしてやろうという人間を目撃してしまった。
明らかに強い悪意を見せられてしまっては、流石の島田美波でも参ってしまっただろう。その事に罪は無い。

さて、そこでレーダーである。
現在島田はレーダーの光点に注目することにより、ある程度は相手の居場所を特定することが出来る。
故に前述の通り"他人と遭遇しやすくなるし、他人の目からの回避も容易になる"という有利を抱えている。
しかし他人に対する不信感に飲まれている今の彼女にとっては、複雑な思いを抱かせる有り難味の無いものだ。
何せ人に簡単に出会えるからこそ、逆に"果たして相手は信頼に値するのか"と深く考え込んでしまうのだ。
他人との遭遇の前にワンクッションを置く事が出来るからこそ起こる、どうしようもない迷いだ。
最初に見かけた人間が危険人物だった所為で、自分の"人を見る目"というものがいまいち信頼出来ないのである。

さて、学校からある程度離れたことを確認し、遂に「はぁっ……」とため息をついて立ち止まった。
どれくらい走っただろうか。というより、自分は結局どこに向かって走っていたのだろうか。
今自分がどこにいるのかわからない。相変わらず街中にいるのは確かなのだが。
後先を考えずに行動してしまった事に、少々の後悔と一抹の不安を覚える。
安心感欲しさにレーダーを見てみた。"近すぎず遠すぎず"という辺りに光点がある。
立ち止まっているのか、動く気配は無い。このまままっすぐ行けばぶつかるだろう。
この微妙な距離感に、島田はどうするか迷っていた。

と、その時だ。停止していたはずの光点が突如こちらに向かってきた。
しかもかなりのスピードだ。直線的な動きは止まる様子が無い。
まるで何かに乗っているかのようなそんな速さだ。まさか。

「車!?」

向かってきたのはバギーだ。凄いスピードでこちらに向かってきている。
"まさかひき殺そうとかいう魂胆か!"といった不吉さを覚えた為、島田は無意識に回避の体勢に移行する。
だがもう遅い。屋根の無い鉄の塊が自分の体に衝突した――――かと見紛うかのような寸止めで、バギーは急速停止をした。
ついついへたり込む島田。それを心配したのか、ドアを開いて男が出てきた。
えらく高身長なその男は自分よりも年上に思える。こちらが座り込んでいる所為で、巨大な姿が更に際立つ。
何者だ。やはり自分を狙ってきたとんでもない人間なんだろうか。

「失礼、大丈夫かね? ああ、いや怪しいものではないぞ?」
「怪しくなかったら……どうして車でウチに突っ込んでくるわけ……?」
「いや、近辺を調査していたのだが何も収穫が無かったからな。で、移動しようとしたら……ご覧の有様だよ」
「調査?」

調査、という言葉が少し引っかかった。まさか怪しげな事をしているのだろうか。
恐る恐る尋ねてみる。すると案外と普通な答えが返ってきた。

「ここが園原……つまり自分の住んでいる場所かどうか、他にも覚えのある街かどうかを調べていたのだ」

なるほど、そして収穫が無かったと。確かにそれなら車でかっ飛ばしたくもなるだろう。

「ところで、あー……」
「島田。島田美波」
「ああ、では島田クン。この場所に心当たりは?」
「無いかな……うん」

こうやって会話を続けている分には、怪しい人間ではないように思える。
こちらの言葉にも反応し、返答を返している。信頼が出来ない相手ではなさそうだ。

「ねぇアンタ……名前は?」
「ああ、申し遅れた。名は水前寺邦博! 園原電波新聞部部長、水前寺邦博だ! 宜しく島田クン」

よし、名前も名乗ってくれた。
正直この自己紹介から彼の濃さが少し漏れ出しているようで危険な香りを感じるが、今はそうは言ってられない。
今はとにかく自分がやるべき事を為さねばなるまい。相手の性格との多少の不一致に文句を言っている暇は無い。

「ウチ、今人を殺そうとしてる人を見つけたの!」

信じてくれるかどうかはわからない。とりあえず伝えるべき事だけは、伝えたかった。
ただそれだけだったが――――それを伝えた途端、水前寺の目の色が変わった。しまった、地雷だったのか。
水前寺は島田の両肩を掴んでぶるんぶるんと前後に振りながら「本当かね!?」と叫ぶ。

「本当! 本当! 逢坂と川嶋ってのと、あと……櫛枝、だったかな?」
「素晴らしい! まさかこんな場所で早速何かしらの情報をゲットするとは!
 実に素早く的確な良い働きだぞ島田クン! いや、島田特派員と呼ぶべきか!」
「……は?」

テンションがいっそう上がったこの水前寺は勢い良く言葉を並べていく。
その流れが急激であり高速である為、島田は置いてけぼりを食らってしまった。
このままでは飲み込まれるは必至。何とか食らいつこうと努力を試みる。
故に島田は

「何よ特派員って! ウチをどうしようっていうの!?」

という旨の質問をぶつける事にした。
すると水前寺は「よくぞ訊いてくれた! では答えよう!」と再び高揚感に身を任せるかのように叫び、言葉が続く。

「良いか島田特派員、"一回しか言わないからよく聞け"とまでは言わないがよく聞いてくれたまえ!
 おれは今からこの見知らぬ街から園原へと帰り、新聞部にこの出来事を持ち帰る為の計画を実行する!」

演説をするかの様に堂々と言葉を並べていく。
自分に酔っているのかそれともこれが素なのか。島田にはそれがよくわからない。

「その為に必要なのは力を持った組織! つまりは平和的に帰還する為に作る、所謂"秘密組織"というものだ!
 そして組織を作るには人材が必要……そこで! 現場で効率良く大胆に行動出来る特派員が必要となるのだよ!」

秘密組織。そして特派員。
まさか自分がそんなものの一員になる事に決定したというのだろうか。
冗談じゃない。ここまでふざけた組織はFクラスだけで十分だ。
こちとらアキや瑞希達にも会いたいというのに。大体、秘密組織ってアンタ。
濃い。なんて濃いキャラなんだろう。出会ってしまった事を軽く後悔した。
島田の頭の中に拒否と嫌悪の言葉が浮かんでくる。相手に放つにも躊躇してしまう程に。
それを知っては知らずか「何、心配ない」と水前寺は声をかけてきた。何が心配ないのか。

「名前は既に決まっている。今ここで発表しよう」

そういう問題ではない、というありきたりなツッコミをする気すら失せた島田。
生暖かい目で水前寺を見守ることにした。正直疲れているのだ。
Fクラスの住人を相手にしているときのように、"いちいちツッコミを入れる"という行動を取るのはしばらく遠慮したい。
島田は切にそう願い、そう考えていた。いたのだが。

「名前は解り易い方が良い! 何故なら人は第一印象にある程度は左右されるからだ!
 かつ、出来るなら呼びやすいほうが良い! 名前が長くなれば略すのは当然の流れ!
 さぁではこれを踏まえて名乗らせてもらおう……我々が属する秘密組織、その名は!

 "水前寺邦博と特派員諸氏が 大手を振って帰還する為に 総力を結集する団" だ!」

頭が痛い。なんだこのネーミングセンスは。だがそれだけでは終わらない。
水前寺が更に「略して!」と続けやがったからだ。ここまで来るともう既に辟易の極みである。
略して何よ、略して何なのよ。もうツッコまないから言ってみなさい。





「"SOS団"!」





思わず「馬鹿じゃないの」とツッコんでしまった。
ツッコまないと決意したばかりだというのに。

「なん……だと……? 素晴らしい名前だろう! 最早二番煎じが生まれそうなクオリティではないか!」
「本気!? アンタみたいなネーミングセンス持ってる奴なんていないわよ! 絶対ありえないから!
 いたら裸で校庭を十周してやるわよ! "緑色の火星人が追いかけてくるー!"って叫びながら十周!」
「ぐぅッ! あの浅羽特派員の妹を髣髴とさせる強気……それでこそ出会ったかいがあるというものだ島田特派員!」
「だから特派員言うな! Halten Sie den Mund!(黙って!)」
「Sie reden vielleicht in Japanisch!(日本語で構わん!)」

もう嫌ださっさと帰りたい、と島田は心底そう思った。


       ◇       ◇       ◇


さて、すったもんだで島田は水前寺と同行するはめになってしまった。
遺憾の意と彼女は言う。だが別行動を取りたいと言ったところで相応の言い訳が思いつかないので別れるのは無理だ。
何しろ「自衛の為の武器も持っていない特派員の単独行動を許すわけにはいかない。危険だ」と真剣な表情で言われてしまったのだ。
事実、しかもまさに痛いところを直接突かれてしまっては反論出来ない。指図を受ける義理は無いが、正直自分の命は惜しい。
それを理由にしぶしぶ乗車したもののテンション駄々下がりだ。対して水前寺のテンションは下がる事を知らない。

「とりあえず園原新聞部の活動は一時休止。作戦に集中するため、SOS団の活動に専念する。
 島田特派員の力添え、そしてチャンスを逃さぬ行動力があれば全ては上手く行くとおれは確信しているからな。
 さぁ行くぞSOS団、さぁ行くぞ島田特派員。我々ジャーナリストは巨大な悪意に屈するわけには行かないのだからな!」

そう言いながら運転席でハンドルを捌く相手に対し、助手席に座った島田はもう返答すらしなかった。
何せ相手のテンションは全速力。少なくとも今はそれに着いていくだけで精一杯なのだ。
そもそもこんな風に一緒に行動しているだけでもげんなりものなのだが仕方が無い。
ちなみに

「で、どこに向かうつもりなの?」
「学校だ」
「学校、って……ウチの話聞いてた!? 危険なんだってば!」
「だが実際のところ島田特派員の情報は主観的かつ不明確な部分も多い。少なくとも誤解を招きかねないほどにはな。
 島田特派員の情報の真偽を確かめなければ今後の行動に支障を来すかもしれない。我々には"真実を掴む義務"があるのだ」
「う……それはまぁ、そうだけど……わかったわよ。でもウチは"Vorsicht"……は日本語で、えっと」
「"警告"?」
「そうそれ! 警告はしたからね!?」
「Jawohl!(了解!) では納得してくれたところで、急いで真実を掴むぞ島田特派員」

といった会話を経て、現在は学校へと向かっている。
"急いで学校へ行き、真実を確かめる事が重要である"と説く水前寺に流されるような形で島田は同行している状態だ。
だが島田も水前寺の論には納得出来る部分があるとは思ったし、そういう部分は頼りになるとは思う。
問題はその他の部分が駄目過ぎる事であって。

と、そんなことを考えていた彼女は唐突に違和感を覚えた。
水前寺曰く"シズという人の持ち物"だというバギーは、彼の意に反して進む速度が微妙なのだ。
流石に自転車の方が速いとまでは言わないが、急いでいるのならば明らかに不都合極まりない。
先程自分に突っ込んできた時とは悪い意味で段違いだ。一体何故なのだろうか。この男の行動には疑問が付き物過ぎる。

「しっかし遅いわね。急ぎたいならなんでもっとスピード出さないの?」
「出さないのではない、出せないのだ。こういった種の車の運転など初めてだから加減を誤ると先程のようになるからな。
 ……だが島田特派員の言う事は尤もだな。今重視すべきは速さである事は明白だ……よし、すっ飛ばすから気をつけたまえ!」
「え……? え、いいいい今なんて!?」

景色が流れる速度が徐々に速くなっていく中、不安要素がたった今生まれた事を島田は見逃しも聞き逃しもしなかった。
まさかとは思うが、もしもの為に一応訊き返してみよう。戦慄しながら「今、なんて言った?」と訊ねてみる。

「いや、だから飛ばすので気をつけろとな。何せこんな本格的なバギーをこれ程までにすっ飛ばすなんぞ今日が初めてだ。
 後四年もすれば法的に免許も取れるのだがな……まぁ今はこんな事をぼやいても仕方がない。残念だがそれが現実だよ」

やっぱりだ。彼は今、"こんな車は初めて運転する"と言った。確かに今そう言った。
これは不幸にも幻聴ではないと自分は理解している。二度も聞いてしまっては、もうそれは現実だ。
つまり彼は無免許運転であって、そして危険な行動を現在進行形で起こしているわけで。
そしてその危険な行動につき合わされている自分は実際に助手席に乗せられているわけで。
更にバギーの速度は着々と増しており、もう降りるに降りられない状況になっているわけで。

「そうじゃない! バギーを運転したこと無いって……そもそも無免許運転って……どういう事なのよこの鬼畜眼鏡!」
「便利だと思ったから乗っているだけであって、特に悪意を抱いているわけではないぞ? 心配するな、反省点は活かしている」

ピー、ピー、ピー。島田の脳内にて警告ランプ発令開始。
Evakuieren Sie bitte.(撤退せよ) Evakuieren Sie bitte.(撤退せよ) Evakuieren Sie bitte.(撤退せよ)
これは演習ではない。繰り返す、これは演習ではない。

「いやあああああっ! やだっ、やだやだやだあ! 降ろしてっ! 助けてアキぃーっ!」
「落ち着け島田特派員! SOS団の誇りを忘れるな! 君は素晴らしき特派員なのだぞ!
 なぁに、必要な運転スキルは軽トラとそう変わらんさ…………た  ぶ  ん  な  !  !」
「Helfen Sie mir! Helfen Sie mir!(助けてっ! 助けてえっ!)」

島田特派員、大号泣。




【E-3/路上/深夜】

【水前寺邦博@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康、シズのバギーを運転中
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、シズのバギー@キノの旅、不明支給品0~2
[思考・状況]
基本:島田特派員と共に精一杯情報を集め、平和的に園原へと帰還する。
1:学校へ移動中。高須竜児の一連の真偽を確かめる。

【島田美波@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康、シズのバギーの助手席に搭乗中
[装備]:レーダー(電力消費小)
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:水前寺邦博と嫌々ながら行動。吉井明久姫路瑞希の二人に会いたい。
1:誰  か  助  け  て  。
2:高須竜児が逢坂大河、川嶋亜美、櫛枝実乃梨の三人を狙っていた事を伝えるのは保留。


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