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星をみるひと

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星をみるひと ◆MjBTB/MO3I



白い灯台が、灯りを遠くまで照らしている。
わたしはその巨大な"それ"に寄りかかりながら、星を見ていた。
ここはどこ? と訊いたけど、星は何も答えてくれない。
わたしはそれでも良いと思った。訊いても何にもならないのは知っているから。
浅羽なら解るかな? わたしが、ここにいる理由。そして、わたしがここで生きる理由。

星の瞬くその世界には"敵"がいたはず。
だからわたしは基地にいた。そして浅羽が来てくれた。だから"あれ"に乗った。
生きる理由も死ぬ理由も見失っていた頃とは違う。わたしは自分の意思で、あれに乗った。
髪にまだ色があって長かった頃とはもう、違う。
浅羽の為なら全部大丈夫だって思った。

だからわたしは"敵を倒しに行った"のに。
ブラックマンタに乗って空へと還っていったはずのわたしは、何故だかここにいる。
どうして、わたしはこんな所にいるの? 浅羽なら解るかな? ねぇ、浅羽は知ってる?
ああ、そっか。ごめん浅羽、変なこと聞いて……わたし、今やっと解った。

ねえ浅羽。わたし、決めた。わたし、やる。
武器だってあるから。銃と刃物が一つずつ、ちゃんとある。
これならきっと浅羽の為に頑張った後、死ねるから。
わたしはこれから浅羽の為に精一杯生きて、精一杯死ぬ。
だって結局、わたしの命は浅羽の為にあるんだから。それはここがどんな場所だったとしても変わらない。
榎本の為の命じゃない。地球の為の命じゃない。わたしの命は浅羽の為だけにある。



だから今からわたしはこの命を――――"浅羽を生かす為"に使う。



わたしね、浅羽があの時「世界がどうなってもいい」って言ってくれたのが嬉しかった。
知ってるよ。"自分がやられて嫌な事を他人にしない"っていうのは常識だって。
だったらそう、"ギャクモシカリ"だよね。

世界なんて要らない。命なんていらない。
浅羽が生きて帰れれば、もうそれで良いから。
浅羽が死んでしまうなんて嫌、世界から消えてしまうなんて絶対嫌。

あの戦争の時と今いるこの世界のルールは違う。
この世界は、最後は一人しか生き残れない。
たくさんの人がいる中で、たった一人だけ……だから。

――――浅羽はきっと、わたしを褒めてくれないよね。
「浅羽以外の人間を殺す」なんて言ったら怒るよね。
「浅羽を最後の一人にする為なら何でもする」なんて言ったら嫌いになるよね。

でも、浅羽が生きていてくれれば良い。もうそれで良いから。
わたしは他に望まない。わたしは他に求めない。わたしは他に頼まない。
星がただ光るだけの毎日を送るように、わたしはここで浅羽の為に手を汚す毎日を送る。

あの日プールで出会った頃に戻れなくなっても、構わない。
わたしはそれでも構わないから、この銃と刃物で浅羽を最後の一人にしてみせる。
そうじゃないと、そうしないと今のわたしの命の意味が消えてしまうから。
だから「解って」とは言わない。「許して」とも言わない。
ただ、いつかわたしが人を殺そうとしている事を知った時……わたしの為に何かしないでいて欲しい。
浅羽は優しいから……そんな浅羽を見たら、わたしきっとどうすればいいか解らなくなるから。
ごめんね。

たくさんの星が瞬くその下で、わたしは静かに服を着替えた。
渡された袋の中に入っていた、水色と白のセーラー服とスカートを身に着けたらもう完了。
寄せ書きでいっぱいのパイロットスーツなんてもう着ていられない。もう捨てた。
だってもうわたしはブラックマンタのパイロットじゃないから。今日から"さつじんはんのイリヤカナ"だから。
……そろそろ行かなくちゃ。あの日からはもうさようならをしなくちゃ。

――――そうだ、最後に一つだけ。ねえ浅羽。ねえ、よく聞いて。





わたし、あさばがすき。





       ◇       ◇       ◇


その少女の名前は伊里野加奈。齢十五。職業は学生かつ軍人。

いつだったろう。地球人と宇宙人の果て無き争いの中で、彼女は特殊戦闘機「ブラックマンタ」のパイロットとなった。

人類の切り札。そんな役目を、彼女は幾人かの仲間と共に担っていた。

けれど、彼女はたった"それだけ"の為の存在だった。

故に時が経つにつれ、彼女は生きる意味も死ぬ意味も失い、戦いへと向かう意思も失っていた。

それは訓練中に死んでいく仲間を、自分達を取り巻く現実を目にした結果。残酷な世界を知った結果。

何もかもが、嫌だった。

だがそんなとき、彼女は出会った。浅羽という少年と出会った。

――――好きになった。戦う理由が出来た。

紆余曲折を経て、彼女は闘争と悪意の嵐と化した宇宙へと再び飛び立った。

地球の為ではない。"浅羽を守る為に死にに行った"のだ。

それから彼女は、どういう事かここに呼ばれた。結局宇宙での戦いがどうなったのかは彼女の記憶の中にも存在しない。

ただ、それでも彼女はここにいて、人を殺す為に今歩き出した。

彼女は再び、好きな人を護る為にたった独りで"全てと戦い始める"のだ。




【F-6/灯台/深夜】

【伊里野加奈@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康
[装備]:トカレフTT-33(8/8)+予備弾薬(弾数残り100%)、刺身包丁、北高のセーラー服@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:浅羽以外皆殺し。浅羽を最後の一人にした後自害する。
1:他の人間を探す。

【備考】
F-6灯台に伊里野加奈のパイロットスーツが放置されています


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