優しさでは辛過ぎるから ◆3k3x1UI5IA
ザク、ザク、ザク。
工場からそう遠く無い場所、森のすぐそばで、小気味の良い音がリズミカルに刻まれる。
少女がバトルピックを振るう度に、地面が少しずつ掘り起こされ、穴が広がっていく。
午後の日差しの中、重労働のせいか額に汗が浮かぶ。けれども彼女は腕を止める素振りを見せない。
工場からそう遠く無い場所、森のすぐそばで、小気味の良い音がリズミカルに刻まれる。
少女がバトルピックを振るう度に、地面が少しずつ掘り起こされ、穴が広がっていく。
午後の日差しの中、重労働のせいか額に汗が浮かぶ。けれども彼女は腕を止める素振りを見せない。
「フェイトさん、私も手伝いましょうか? いえ――手伝わせて」
「…………」
「…………」
おずおずと、もう1人の金髪の少女が協力を申し出る。
つるはしを手にしたフェイトの沈黙を肯定と受け取って、イヴの髪が大きく変化する。
腕を広げるように左右に伸ばし、そのそれぞれの先端に、パワーショベルを模したような大きなアーム。
ちょっとした重機にも等しい2本の腕が加わることで、穴を掘る速度が一気に広がる。
これなら、目的とするサイズの穴が出来るまで、そう時間はかからないだろう――
眠るように動かぬ『少年』の体格も、そう大きくないことだし。
つるはしを手にしたフェイトの沈黙を肯定と受け取って、イヴの髪が大きく変化する。
腕を広げるように左右に伸ばし、そのそれぞれの先端に、パワーショベルを模したような大きなアーム。
ちょっとした重機にも等しい2本の腕が加わることで、穴を掘る速度が一気に広がる。
これなら、目的とするサイズの穴が出来るまで、そう時間はかからないだろう――
眠るように動かぬ『少年』の体格も、そう大きくないことだし。
「…………」
そして――そんな少女のすぐ側には、作業に加わらぬ、青い髪の少女が1人。
動かぬ少年の傍らで、膝を抱えている。
一見すると最も幼い彼女。確かにこの状況では出来ることも無いように見える。
だが彼女は、「状況に押し潰されそうになっているフリ」をしながらも、必死で頭脳を回転させていたのだった。
動かぬ少年の傍らで、膝を抱えている。
一見すると最も幼い彼女。確かにこの状況では出来ることも無いように見える。
だが彼女は、「状況に押し潰されそうになっているフリ」をしながらも、必死で頭脳を回転させていたのだった。
(最初から考え直すのよ、ブルー! 最初から……!)
ブルーは考える。イヴとの出会いから、今までの全ての状況と出来事を思い出して、必死で考える。
光子郎が最期に言い残した、「イヴがブルーを利用している可能性」。
それを頭に入れて、状況を整理し直せば……
光子郎が最期に言い残した、「イヴがブルーを利用している可能性」。
それを頭に入れて、状況を整理し直せば……
(分からない……やっぱり分からない!)
自分の観察眼を信じるなら、イヴは自分に心酔している。ブルーだけを頼りにしている。そうとしか思えない。
けれども、光子郎の遺言のせいで、今はその「自らの感覚」が信じられない。
イヴに、ブルーの観察力を上回る演技力がある可能性を捨てきれない。
首を刎ねられ、今はただ「身体と並べてあるだけ」の光子郎の顔を、ブルーは恨めしそうに見つめる。
どうせなら、死ぬ前にもう少し話を聞かせて欲しかったのに。大事な所で役に立たない男だ。
けれども、光子郎の遺言のせいで、今はその「自らの感覚」が信じられない。
イヴに、ブルーの観察力を上回る演技力がある可能性を捨てきれない。
首を刎ねられ、今はただ「身体と並べてあるだけ」の光子郎の顔を、ブルーは恨めしそうに見つめる。
どうせなら、死ぬ前にもう少し話を聞かせて欲しかったのに。大事な所で役に立たない男だ。
(何か無いの? 確かめる方法は!? 白黒はっきりつける方法は……!)
イヴが本当に従順な迷える子羊なら、ここで手放すのはあまりに惜しい。
イブが本当は牙を隠した黒い山羊なら、早めに始末しないと身の破滅に繋がる。
自分の感覚すら信じられず、思考も堂々巡りで結論が出ないなら、こちらから何か仕掛けるしかない。
何か策を仕掛けて、揺さぶって、向こうの本性を露わにするしかない。
そのためには……ブルーはすぐに1つの策を考え付く。
イブが本当は牙を隠した黒い山羊なら、早めに始末しないと身の破滅に繋がる。
自分の感覚すら信じられず、思考も堂々巡りで結論が出ないなら、こちらから何か仕掛けるしかない。
何か策を仕掛けて、揺さぶって、向こうの本性を露わにするしかない。
そのためには……ブルーはすぐに1つの策を考え付く。
(もしもイヴが私を利用しているというなら、私の「利用価値」というのは、つまり……!
そしてもしもイヴが嘘をついていないのなら、――したところで、彼女には離れる理由が無いはず……!)
そしてもしもイヴが嘘をついていないのなら、――したところで、彼女には離れる理由が無いはず……!)
ただその策を仕掛ける前に、安全の確保が必要だ。
万が一、「その策」を実行した直後に襲われても大丈夫なように、予め予防線を張っておかなくては。
穴を掘り続ける2人を横目に、ブルーはギュッとマフラーを握り締めた。
万が一、「その策」を実行した直後に襲われても大丈夫なように、予め予防線を張っておかなくては。
穴を掘り続ける2人を横目に、ブルーはギュッとマフラーを握り締めた。
* * *
(ブルーが本当は「悪い人」だったとしたら……色々と、前提が変わってくる……!)
フェイトは考える。イヴと2人で光子郎のための墓穴を掘りながら、1人深く考え込む。
光子郎の遺体を放っておけずに始めた墓穴作りだったが、単調な作業は彼女を深い思索へと誘う。
そしてどうしても考えてしまうのは、光子郎が殺されたシーン、ではなく、その1つ前。
瀕死の光子郎の前で、鋭利なガラス片を片手に、底意地の悪い笑みを浮かべるブルーの姿だった。
光子郎の遺体を放っておけずに始めた墓穴作りだったが、単調な作業は彼女を深い思索へと誘う。
そしてどうしても考えてしまうのは、光子郎が殺されたシーン、ではなく、その1つ前。
瀕死の光子郎の前で、鋭利なガラス片を片手に、底意地の悪い笑みを浮かべるブルーの姿だった。
(見かけの年齢は、あてにならない……変身や幻術みたいに、いくらでも誤魔化す手段はある……。
もし、本当に「見かけ通りの子じゃない」とすると……イヴは、ブルーに騙されて操られてる……?)
もし、本当に「見かけ通りの子じゃない」とすると……イヴは、ブルーに騙されて操られてる……?)
そう考えれば、イヴの自己主張の少なさや、感情を押さえ込むような態度も、理解できる気がする。
そう思ってみれば、あの表情、あの態度。他ならぬフェイト自身がよく知っている。
母プレシアに命ぜられるまま感情を押し殺して戦っていた頃の自分と、今のイヴが被って見える。
そう思ってみれば、あの表情、あの態度。他ならぬフェイト自身がよく知っている。
母プレシアに命ぜられるまま感情を押し殺して戦っていた頃の自分と、今のイヴが被って見える。
ブルーがどうやってイヴを支配しているのかは分からない。
弱みを握っているのか、それともビュティの死の罪悪感につけこんでいるのか、現時点では分からない。
しかし、もしそうだと仮定して考えると、光子郎の死もまた違う意味を持ってくる。
弱みを握っているのか、それともビュティの死の罪悪感につけこんでいるのか、現時点では分からない。
しかし、もしそうだと仮定して考えると、光子郎の死もまた違う意味を持ってくる。
イヴが「傷を治そうとした」あの時、光子郎は何故か「風の剣」を使おうとした。全くもって不可解な行為である。
しかしあの時、光子郎が本当に攻撃しようとしていた相手がブルーだったとしたら?
イヴの動きに注意を取られ、フェイトはその時のブルーの動きを覚えていない。心理的な死角。
だからその時、もしブルーが再びガラスの破片を取り出していたら――
そして、それに光子郎が気付いていたら――
しかしあの時、光子郎が本当に攻撃しようとしていた相手がブルーだったとしたら?
イヴの動きに注意を取られ、フェイトはその時のブルーの動きを覚えていない。心理的な死角。
だからその時、もしブルーが再びガラスの破片を取り出していたら――
そして、それに光子郎が気付いていたら――
いやあるいは、光子郎にそういう反応をさせ、イヴが攻撃するように仕向ける策略だったのか。
自分の手を汚すことなく光子郎を殺し、イヴの心に負い目を負わせ、さらに支配を強固にする策だったのか。
……流石にそこまで来ると考えすぎかとも思うが、しかし今のフェイトには否定できない。
自分の手を汚すことなく光子郎を殺し、イヴの心に負い目を負わせ、さらに支配を強固にする策だったのか。
……流石にそこまで来ると考えすぎかとも思うが、しかし今のフェイトには否定できない。
(でも、これは全部推測……状況証拠さえも十分に揃ってはいない……。
何かもう一押し、この疑いを裏付けるものがあれば……!)
何かもう一押し、この疑いを裏付けるものがあれば……!)
フェイトはイヴを信じている。フェイトの前で一瞬垣間見せた、あの弱さを信じている。
自分もかつて、なのはたちに救われた。だからきっと、今度はフェイトがイヴを救う番。
何をどう仕掛けるべきか考えながら、フェイトは今はただひたすらにつるはしを振るった。
自分もかつて、なのはたちに救われた。だからきっと、今度はフェイトがイヴを救う番。
何をどう仕掛けるべきか考えながら、フェイトは今はただひたすらにつるはしを振るった。
* * *
そして、この場にいる最後の1人、イヴは――何も考えてなかった。
ただ頭を空っぽにしたくて、ナノマシンで作ったパワーショベル状のアームを振るい続けていた。
ただ頭を空っぽにしたくて、ナノマシンで作ったパワーショベル状のアームを振るい続けていた。
やがて少年1人を収めるだけの墓穴は完成し、
2つに分かれた少年の身体と首輪が丁重に横たえられ、
穴を掘った時と同様、無言のまま彼の上に土が被せられ、
木の枝2本を蔦で結び合わせただけの簡素な十字架が建てられ、
誰から言うともなく3人揃って黙祷を捧げ終えたところで――1人の少女が口を開いた。
2つに分かれた少年の身体と首輪が丁重に横たえられ、
穴を掘った時と同様、無言のまま彼の上に土が被せられ、
木の枝2本を蔦で結び合わせただけの簡素な十字架が建てられ、
誰から言うともなく3人揃って黙祷を捧げ終えたところで――1人の少女が口を開いた。
「フェイトさん、イヴさん。先に謝っておくわ。ごめんなさい。
私1つだけ、まだ2人に話していないことがあるの。
でも、2人も私に話してくれていないことがあるようだし――
こんな悲劇を繰り返さないためにも、お互いを信じて、手の内を全て明かしあいましょう?」
私1つだけ、まだ2人に話していないことがあるの。
でも、2人も私に話してくれていないことがあるようだし――
こんな悲劇を繰り返さないためにも、お互いを信じて、手の内を全て明かしあいましょう?」
* * *
(――よし、イニシアチブは握ったわ! このままあたしのペースで進めれば……!)
フェイトとイヴ、2人の顔に一瞬浮かんだ動揺に、ブルーは手応えを感じ取る。
それはつまり、2人とも何らかの隠し事をしていて、その隠し事について後ろめたさを抱いているということだ。
まずは第一段階成功、と胸の内で呟いて、畳みかけるように次の矢を放つ。
それはつまり、2人とも何らかの隠し事をしていて、その隠し事について後ろめたさを抱いているということだ。
まずは第一段階成功、と胸の内で呟いて、畳みかけるように次の矢を放つ。
「まずは、イヴさん」
「えっ……わ、私、ですか!?」
「えっ……わ、私、ですか!?」
名指しされたイヴが身を強張らせる。僅かに見える不安の色は、やはりブルーを欺いているからだろうか?
思わず問い質したくなる気持ちを押さえ込み、ブルーはしかし全く違う質問をぶつける。
視界の隅ではフェイトが訝しげな視線を向けてくるが、こちらはひとまず後回し。
思わず問い質したくなる気持ちを押さえ込み、ブルーはしかし全く違う質問をぶつける。
視界の隅ではフェイトが訝しげな視線を向けてくるが、こちらはひとまず後回し。
「ここまで聞きそびれてしまってたれど、イヴさんの持つ『変身』の力について詳しく教えて欲しいの。
『ナノマシン』とか、『天使の翼』とか、『傷の治療』だとか。髪の毛の形が変わったりだとか。
断片的には見たり聞いたりしたけど、私、まだちゃんと説明して貰ってないわ。
どういう原理で、何が出来て、どんな欠点があるのか、包み隠さず教えて欲しいの」
『ナノマシン』とか、『天使の翼』とか、『傷の治療』だとか。髪の毛の形が変わったりだとか。
断片的には見たり聞いたりしたけど、私、まだちゃんと説明して貰ってないわ。
どういう原理で、何が出来て、どんな欠点があるのか、包み隠さず教えて欲しいの」
可能な限り無邪気な風を装って、ブルーはイヴの顔を見上げる。その表情の変化を追う。
どうやらイヴは、質問内容を聞いて少しだけホッとしたようだった。
ビュティを殺した時のことを聞かれるとでも思ったのだろうか? それとも、欺いていることがバレたとでも?
イヴの真意は分からないが、ともかく彼女は安心したせいか、思ったより饒舌に語り始める。
どうやらイヴは、質問内容を聞いて少しだけホッとしたようだった。
ビュティを殺した時のことを聞かれるとでも思ったのだろうか? それとも、欺いていることがバレたとでも?
イヴの真意は分からないが、ともかく彼女は安心したせいか、思ったより饒舌に語り始める。
「わ、私の『変身』というのは、私の身体に組み込まれた、無数の特殊な『ナノマシン』の力なの。
『ナノマシン』というのは、1つ1つは目に見えないくらい小さな機械で……」
『ナノマシン』というのは、1つ1つは目に見えないくらい小さな機械で……」
イヴは説明を進める。
ナノマシンはイヴの思念、その電気信号に従って動くこと。分子構造さえも組み替えてしまう力を持つこと。
そしてイメージに沿って身体を変化できること……実例としての『天使の翼』、『ハンマー』、『ナノスライサー』。
専門的なところは質問したブルーにもさっぱりだったが、しかし彼女は1つの確信を得る。
廃病院でのイヴとビュティの会話から、薄々考えていた仮説。それが一気に現実味を帯びる。
ナノマシンはイヴの思念、その電気信号に従って動くこと。分子構造さえも組み替えてしまう力を持つこと。
そしてイメージに沿って身体を変化できること……実例としての『天使の翼』、『ハンマー』、『ナノスライサー』。
専門的なところは質問したブルーにもさっぱりだったが、しかし彼女は1つの確信を得る。
廃病院でのイヴとビュティの会話から、薄々考えていた仮説。それが一気に現実味を帯びる。
「……と、私に出来ることは、これくらいかな……。
ただ、どういうわけかこの島に来てからはナノマシンが不調で、普段通りの調子で動かせないんだけど……」
「ということは――ひょっとして、その『ナノマシン』って、『でんき』に弱いの?
ビュティさんとスタンガンのことで揉めてたのも、ひょっとして……」
「!!」
ただ、どういうわけかこの島に来てからはナノマシンが不調で、普段通りの調子で動かせないんだけど……」
「ということは――ひょっとして、その『ナノマシン』って、『でんき』に弱いの?
ビュティさんとスタンガンのことで揉めてたのも、ひょっとして……」
「!!」
ビンゴだ。ブルーは思わず笑みが浮かびそうになるのを、必死で押し留める。
イヴの表情は、まさに痛いところを突かれた、といったもの。隠しきれない動揺と恐怖が滲んで見える。
ポケモンが時に弱点となる属性を持つように、イヴは『でんき』に弱い――それも恐らく、致命的なほどに。
そしてこの事実は、今のブルーにとっては好都合。
ブルーはさり気なく、しかし確認するように、フェイトの方を振り返って言い放つ。
あくまで何も考えてないかのような、天真爛漫な素振りを演じながら。
イヴの表情は、まさに痛いところを突かれた、といったもの。隠しきれない動揺と恐怖が滲んで見える。
ポケモンが時に弱点となる属性を持つように、イヴは『でんき』に弱い――それも恐らく、致命的なほどに。
そしてこの事実は、今のブルーにとっては好都合。
ブルーはさり気なく、しかし確認するように、フェイトの方を振り返って言い放つ。
あくまで何も考えてないかのような、天真爛漫な素振りを演じながら。
「だとしたら、もしもイヴさんとフェイトさんが戦ったら、イヴさん、負けちゃうね。
だってフェイトさんは『でんき』の魔法得意だって言ってたから。油断さえしてなきゃ、魔法で一発だもの。
2人が仲間同士で本当に良かったわ。そう思わない?」
「う、うん……そ、そうだね……」
だってフェイトさんは『でんき』の魔法得意だって言ってたから。油断さえしてなきゃ、魔法で一発だもの。
2人が仲間同士で本当に良かったわ。そう思わない?」
「う、うん……そ、そうだね……」
流石にこれはワザとらし過ぎただろうか? 問い掛けられたフェイトの表情は少し引き攣っている。
だが、ここは仕方が無い。多少不自然だと思われたとしても、この念押しは絶対に必要なのだ。
ここでこうやって念押ししておけば、この先イヴがブルーに襲い掛かってきたとしてもなんとかなる。
きっとフェイトが電撃魔法で倒してくれる――!
次は、そのフェイトを「押さえる」番だ。
だが、ここは仕方が無い。多少不自然だと思われたとしても、この念押しは絶対に必要なのだ。
ここでこうやって念押ししておけば、この先イヴがブルーに襲い掛かってきたとしてもなんとかなる。
きっとフェイトが電撃魔法で倒してくれる――!
次は、そのフェイトを「押さえる」番だ。
* * *
だが、言葉をかけられたフェイトの側は、この一言を全く違う形に捕らえていた。
(今のはひょっとして、念押しなの? いずれイヴを使って私を排除する時のことを考えて――!)
フェイトの仮説の中では、イヴはブルーに操られている。
そしてブルーは、もしもフェイトが邪魔になれば、容赦なく排除にかかるだろう。
これは「その時」のことを考慮に入れた、さり気ないイヴへの念押しなのか?
フェイトは電撃の魔法が使える。呪文を唱えさせたらイヴに勝ち目はない、
だから殺ると決めた時には油断している時を狙い、呪文詠唱の間も与えず一気に殺れ、と――!?
そしてブルーは、もしもフェイトが邪魔になれば、容赦なく排除にかかるだろう。
これは「その時」のことを考慮に入れた、さり気ないイヴへの念押しなのか?
フェイトは電撃の魔法が使える。呪文を唱えさせたらイヴに勝ち目はない、
だから殺ると決めた時には油断している時を狙い、呪文詠唱の間も与えず一気に殺れ、と――!?
(いくらなんでも、考えすぎかも……でも……!)
「イヴさん、もういいわ。ありがとう。次は――フェイトさん」
「え?! わ、私!?」
「え?! わ、私!?」
考え込んでいた所に声をかけられ、フェイトは思わず素っ頓狂な返事をしてしまう。
また機先を制された、と思う間もなく、目の前に突きつけられたのは光子郎が持っていたマフラー。
そしてブルーの口調は、イヴへの質問の時とうって変わって、どこか責めるような雰囲気の強いものだった。
また機先を制された、と思う間もなく、目の前に突きつけられたのは光子郎が持っていたマフラー。
そしてブルーの口調は、イヴへの質問の時とうって変わって、どこか責めるような雰囲気の強いものだった。
「光子郎は、嘘をついてたわ……ただのマフラーで、戦うことなんてできない、って。
でも、2人がお墓掘ってる間に、光子郎のランドセル調べさせてもらったの」
「!!」
「『風の剣』、という名前なんだってね。剣に変わる武器だけど、ときどき変なモノにもなっちゃう、って」
でも、2人がお墓掘ってる間に、光子郎のランドセル調べさせてもらったの」
「!!」
「『風の剣』、という名前なんだってね。剣に変わる武器だけど、ときどき変なモノにもなっちゃう、って」
ブルーが取り出したのは、支給品付属の説明書。フェイトの、そしてイヴの表情が変わる。
確かに墓穴を掘っている間、2人の意識はブルーから逸れていた。光子郎のランドセルも意識の外にあった。
光子郎が「嘘」をついた明確な証拠を手に、ブルーは淡々と言葉を紡ぐ。
確かに墓穴を掘っている間、2人の意識はブルーから逸れていた。光子郎のランドセルも意識の外にあった。
光子郎が「嘘」をついた明確な証拠を手に、ブルーは淡々と言葉を紡ぐ。
「こっちの人形も、本当はバクダンだって……フェイトさんは知ってたの?」
「それは……その……!」
「ふーん、知ってたんだ。教えてくれていれば、ひょっとしたら……。
でもいいわ、悪いのはフェイトさんじゃないから。許してあげる」
「それは……その……!」
「ふーん、知ってたんだ。教えてくれていれば、ひょっとしたら……。
でもいいわ、悪いのはフェイトさんじゃないから。許してあげる」
悪いのは光子郎だ、と言わんばかりの口調に、普段は穏やかなフェイトも流石に少しカチンと来た。
光子郎を嘘つき扱いした上に、彼の死も自己責任だとでも言いたそうな口ぶり。
しかし反論するより早く、ブルーは矛先をフェイト自身に向けてきた。
光子郎を嘘つき扱いした上に、彼の死も自己責任だとでも言いたそうな口ぶり。
しかし反論するより早く、ブルーは矛先をフェイト自身に向けてきた。
「それより、フェイトさんに聞きたいのは……フェイトさん自身の支給品のことよ」
「私の……支給品?」
「他の2つは分かるの。説明してくれたし、不思議な力があるんでしょう。
でも、『さとうきび』は……。あれにも何か隠された力とか、あるんじゃないの? 私たちに隠してない?」
「私の……支給品?」
「他の2つは分かるの。説明してくれたし、不思議な力があるんでしょう。
でも、『さとうきび』は……。あれにも何か隠された力とか、あるんじゃないの? 私たちに隠してない?」
そんなことは無い、と言いかけて、フェイトはあることを思い出す。
ランドセルを逆さまにして、食料や水と共に転がり出てきたのは――自分でもまだ読んでいなかった説明書。
ランドセルを逆さまにして、食料や水と共に転がり出てきたのは――自分でもまだ読んでいなかった説明書。
「ええっと……『さとうきびセイバー』?
斬りつけることで『おきなわ』の傷を相手に残す、肉体精神双方に同時攻撃できる武器……って、ええ?!」
「ちょっと待って、まさか、フェイトさんも知らなかったの?」
「だって、どう見ても武器に見えなかったし、他にも武器はあったし……こんなのが剣だなんて……!」
斬りつけることで『おきなわ』の傷を相手に残す、肉体精神双方に同時攻撃できる武器……って、ええ?!」
「ちょっと待って、まさか、フェイトさんも知らなかったの?」
「だって、どう見ても武器に見えなかったし、他にも武器はあったし……こんなのが剣だなんて……!」
なんで自分が謝らなければならないのだろう、と一種理不尽なものを感じながら、フェイトは言葉を濁らせる。
これが、このさとうきびが、剣?! いったいそんなこと、誰が想像できると言うのか。
モゴモゴと言い訳をするフェイトを横目に、そしてブルーはさらッと話題を変えた。
これが、このさとうきびが、剣?! いったいそんなこと、誰が想像できると言うのか。
モゴモゴと言い訳をするフェイトを横目に、そしてブルーはさらッと話題を変えた。
「でも、フェイトさん自身が気づいてなかったなら、仕方ないわね。そんなに気にしないで。
最後は、私の番ね。実は、私――」
最後は、私の番ね。実は、私――」
* * *
なんとか条件は整った。ブルーは、ここで勝負に出ることを決意する。
「最後は、私の番ね。実は、私――」
思わせぶりに言葉を切って、2人に対して背中を向ける。
まるで祈るような仕草で、組んだ両手を顔の前に掲げる。
そして2人からは見えないように唇の中に押し込んだのは――手の中に握りこんでいた、赤い飴玉。
まるで祈るような仕草で、組んだ両手を顔の前に掲げる。
そして2人からは見えないように唇の中に押し込んだのは――手の中に握りこんでいた、赤い飴玉。
ボンッ! と白い煙が上がる。
白い煙がブルーの小さな身体を包み隠す。
そして煙が晴れたそこにあったのは――10年の年月を飛び越えた、発育のいい「女」の身体。
羽織っていたSサイズの白衣が、特に胸のあたりではちきれんばかりになっているが、構わず振り返る。
目を丸くするフェイトとイヴに、2人よりも年上の外見となった彼女は、申し訳なさそうに頭を下げる。
白い煙がブルーの小さな身体を包み隠す。
そして煙が晴れたそこにあったのは――10年の年月を飛び越えた、発育のいい「女」の身体。
羽織っていたSサイズの白衣が、特に胸のあたりではちきれんばかりになっているが、構わず振り返る。
目を丸くするフェイトとイヴに、2人よりも年上の外見となった彼女は、申し訳なさそうに頭を下げる。
「あたし本当は、これが本当の姿なの。さっきまでのは、魔法というか、あたしの特殊能力で……。
イヴちゃんの『変身』と違って『あの格好』にしかなれないし、連発も効かないし、これしかできないんだけど」
イヴちゃんの『変身』と違って『あの格好』にしかなれないし、連発も効かないし、これしかできないんだけど」
堂々と、一部に嘘を交えて説明しつつ、さりげなくイヴの表情を観察する。その変化に神経を集中させる。
この直後の彼女の態度如何に、ブルーの運命かかかっているのだ。
この直後の彼女の態度如何に、ブルーの運命かかかっているのだ。
青い年齢詐称薬の効果を打ち消し、本来の姿に戻る――。
これが悩んだ末にブルーが見い出した、「イヴの本心を見抜くための策」だった。
もしも本当にブルーに心酔しているなら、実はそうなるまでの過程に「幼い容姿」はほとんど関与していない。
だからここで正体を明かしても、驚かれはするだろうが、拒まれる理由は無い。態度は変わらないはず。
一方、イヴがブルーを利用する気でいたなら……4歳児の姿で無くなったブルーに、利用価値はない。
怒りを滲ませるか、裏切られたと嘆くか、落胆するか、舌打ちするか、それとも――襲ってくるか。
いずれにせよ、何らかの反応は隠しきれずに出るだろう。その一瞬を、見逃さずに捉えてみせる。
もちろん、年齢詐称薬のことは伏せて――。
詐称薬に触れると、支給品の説明でも嘘をついたことを認めねばならないし、横から奪われる危険もある。
幸い「見た目の年齢を変える能力を持つ」という嘘は、この島においてはそれなりに説得力があるはずだ。
魔法使いやナノマシン能力者も居ることだし、最初の大広間で殺された女性も似たような力を使っていた。
年齢詐称薬を飲み込む瞬間さえなんとか誤魔化せば、それ以上追及されないはず。
驚きの色を隠しきれない2人に向かって、ブルーは言葉を重ねる。
これが悩んだ末にブルーが見い出した、「イヴの本心を見抜くための策」だった。
もしも本当にブルーに心酔しているなら、実はそうなるまでの過程に「幼い容姿」はほとんど関与していない。
だからここで正体を明かしても、驚かれはするだろうが、拒まれる理由は無い。態度は変わらないはず。
一方、イヴがブルーを利用する気でいたなら……4歳児の姿で無くなったブルーに、利用価値はない。
怒りを滲ませるか、裏切られたと嘆くか、落胆するか、舌打ちするか、それとも――襲ってくるか。
いずれにせよ、何らかの反応は隠しきれずに出るだろう。その一瞬を、見逃さずに捉えてみせる。
もちろん、年齢詐称薬のことは伏せて――。
詐称薬に触れると、支給品の説明でも嘘をついたことを認めねばならないし、横から奪われる危険もある。
幸い「見た目の年齢を変える能力を持つ」という嘘は、この島においてはそれなりに説得力があるはずだ。
魔法使いやナノマシン能力者も居ることだし、最初の大広間で殺された女性も似たような力を使っていた。
年齢詐称薬を飲み込む瞬間さえなんとか誤魔化せば、それ以上追及されないはず。
驚きの色を隠しきれない2人に向かって、ブルーは言葉を重ねる。
「でも――私が黙っていたのは、このことだけよ。あとは全部本当。
この島に放り込まれてすぐに襲われて、だからあたし、とっても怖くって……!
だけどあたしに出来るのは小さくなることだけだったから、せめて警戒されないように、って……」
「そうだったんだ……」
この島に放り込まれてすぐに襲われて、だからあたし、とっても怖くって……!
だけどあたしに出来るのは小さくなることだけだったから、せめて警戒されないように、って……」
「そうだったんだ……」
必死な表情で弁解を重ねる風を演じるブルーに、イヴはしかし、怒りも落胆もせず、やがて優しく微笑んで。
落ち着いた表情で、こう言った。
落ち着いた表情で、こう言った。
「どんな格好だろうと、ブルーさんはブルーさんだから。
こっちこそ、ナノマシンの説明が遅くなって、ごめんなさい……」
こっちこそ、ナノマシンの説明が遅くなって、ごめんなさい……」
怒りもなく、憎しみもなく、落胆もなく、そして深く考えを巡らせるだけのタイムラグもなく。
ただイヴは、許容と、「自分を見捨てないで下さい」とのメッセージに満ちた視線を送ってくる。
これは、つまり。
ただイヴは、許容と、「自分を見捨てないで下さい」とのメッセージに満ちた視線を送ってくる。
これは、つまり。
(……賭けに勝った、ということなのかしら? やっぱりイヴは、あたしのことを頼っている……!)
この一言を得るために、どれだけ考えて予防線を張ったことか。
ナノマシンの弱点の確認。支給品の説明を利用してかけた、フェイトに対するプレッシャー。
フェイトに対する「支配」はまだ弱いが、それでもフェイトの性格上、いざとなれば守ってくれるだろう――
そこまで考えた上での、大勝負。その賭けに勝ったのだ。
ナノマシンの弱点の確認。支給品の説明を利用してかけた、フェイトに対するプレッシャー。
フェイトに対する「支配」はまだ弱いが、それでもフェイトの性格上、いざとなれば守ってくれるだろう――
そこまで考えた上での、大勝負。その賭けに勝ったのだ。
ブルーは己の勝利を噛み締めて――だから、その場にいる「もう1人」の不審げな視線に、気付かなかった。
フェイトが内心で1つの確信を得ていたことに、気付かなかった。
フェイトが内心で1つの確信を得ていたことに、気付かなかった。
* * *
――そして実はこの時、もう1人。
フェイトにもイヴにもブルーにも気付かれず、すぐ近くで一部始終を「聞いていた」者が、「もう1人」いた。
「彼」はそして1つの結論に達する。
限られた情報から、「誰が本当は悪い奴なのか」を正確に見抜く。
いつもはおちゃらけている「彼」も、密かに正義の怒りに燃える。
フェイトにもイヴにもブルーにも気付かれず、すぐ近くで一部始終を「聞いていた」者が、「もう1人」いた。
「彼」はそして1つの結論に達する。
限られた情報から、「誰が本当は悪い奴なのか」を正確に見抜く。
いつもはおちゃらけている「彼」も、密かに正義の怒りに燃える。
けれども、「彼」には事態に介入すべきタイミングが分からなくて――
それ以前に、自ら事態に働きかけるような力を、「彼」は持たなくて――
だから、「彼」の出番がこの後すぐ回ってくるとは、「彼」自身も予想だにしてなかった。
それ以前に、自ら事態に働きかけるような力を、「彼」は持たなくて――
だから、「彼」の出番がこの後すぐ回ってくるとは、「彼」自身も予想だにしてなかった。
* * *
一番の懸念事項が解決されれば、改めて見えてくるものもある。
イヴに対する疑いから解放されたブルーは、ふとあることを思い出した。
それは、前々からずっと気になっていた、あのアタッシュケースのこと。
イヴが従順な奴隷だと判断できた今、手持ちの「戦力」について正確な情報を把握しておきたいと思った。
イヴに対する疑いから解放されたブルーは、ふとあることを思い出した。
それは、前々からずっと気になっていた、あのアタッシュケースのこと。
イヴが従順な奴隷だと判断できた今、手持ちの「戦力」について正確な情報を把握しておきたいと思った。
「ところでイヴちゃん、ビュティが持ってたランドセル貸してくれる?」
「はい……しかし何ですか、いきなり?」
「ホホホ、大したことじゃないわよ。ちょっと思い出したことがあってね」
「はい……しかし何ですか、いきなり?」
「ホホホ、大したことじゃないわよ。ちょっと思い出したことがあってね」
首を傾げながらも素直にランドセルを渡してきたイヴに、ブルーは砕けた調子で微笑みかける。
アタッシュケースについて直接質問するのは、まだマズかろう。
理由は分からないが、イヴはそれに触れられることを相当嫌がっている。下手に触れるべきではない。
だが、元々あの鞄はビュティの支給品。
なら、ビュティのランドセルの中には支給品に同封される説明書が入ってるはず――そう考えたのだ。
アタッシュケースについて直接質問するのは、まだマズかろう。
理由は分からないが、イヴはそれに触れられることを相当嫌がっている。下手に触れるべきではない。
だが、元々あの鞄はビュティの支給品。
なら、ビュティのランドセルの中には支給品に同封される説明書が入ってるはず――そう考えたのだ。
そして彼女は、先ほどフェイトがやったのと同じく、ランドセルを逆さにひっくり返して。
その拍子に、食料や水、地図やコンパス、いくつかの説明書に混じって、何か「変なもの」が転がり出た。
その拍子に、食料や水、地図やコンパス、いくつかの説明書に混じって、何か「変なもの」が転がり出た。
「――うおっ、イテテッ! こら、もっと丁寧に扱わんかい!
オレの素敵ボディに傷がついたらどないしてくれるんや!」
オレの素敵ボディに傷がついたらどないしてくれるんや!」
唐突に喚きだしたその「小さな生き物」に、3人は思わず目が点になる。
それはサングラスだった。突き刺さりそうな三角形のレンズを持った、不思議なサングラス。
そこに貧弱な手足が生えて、地面に寝そべったまま勝手なことを喚き散らしている――
すぐさまその正体を思い出したイヴが、彼の名を叫ぶ。
それはサングラスだった。突き刺さりそうな三角形のレンズを持った、不思議なサングラス。
そこに貧弱な手足が生えて、地面に寝そべったまま勝手なことを喚き散らしている――
すぐさまその正体を思い出したイヴが、彼の名を叫ぶ。
「ええっと――グラサンマンさん!」
「ちょっ、だからグラサンマンちゃうから! コンマだから! 前にも一度ちゃんと名乗ってるし!
いや今はそれよりもやな、こうして出てきちまった以上、オレにも黙っておれんことが……!」
「ちょっ、だからグラサンマンちゃうから! コンマだから! 前にも一度ちゃんと名乗ってるし!
いや今はそれよりもやな、こうして出てきちまった以上、オレにも黙っておれんことが……!」
そしてその喋るサングラスは、ビシッ! と小さな手でブルーを指差して。
声だけは威勢良く、堂々と啖呵を切ってみせた。
声だけは威勢良く、堂々と啖呵を切ってみせた。
「やいやいそこのニセ幼女! おまえの策略は全てこのコンマ様がお見通しや!
ビュティがヤられてしもたのも、元はと言えばおまえのせいやろ?! オレには分かっとるからな!」
ビュティがヤられてしもたのも、元はと言えばおまえのせいやろ?! オレには分かっとるからな!」
* * *
工場前に開けた広場に、じりじりと午後の日差しが照りつける。
コンマの告発に、フェイトとイヴの視線はブルーに集中する。
そしてブルーは……動けない。
手の平に乗る程度の小さな怪生物?の恫喝に、動けない。
コンマの告発に、フェイトとイヴの視線はブルーに集中する。
そしてブルーは……動けない。
手の平に乗る程度の小さな怪生物?の恫喝に、動けない。
(こいつが、ビュティと交換したっていうサングラス!? 自我と知性があるの!?
すっかり忘れてた……イヴは「無くした」と言ってたのに……本当に使えない子……!
いや、それよりも重要なのは、こいつが何を聞き何を知っているか……それを見極めないと……!)
すっかり忘れてた……イヴは「無くした」と言ってたのに……本当に使えない子……!
いや、それよりも重要なのは、こいつが何を聞き何を知っているか……それを見極めないと……!)
知らず知らずのうちに脂汗が滲み出してくる。
天国から地獄へ、というのはまさにこういうことを言うのだろう。
せっかくイヴが忠実な手駒であることを確認できたというのに、横からこんな奴が出てくるなんて――!
ブルーはすぐさま反論しようとするが、口の中が粘ついてすぐに声が出ない。
ようやく出た言葉も、切れ味のない、どう聞いても不審感しか抱かれないような口調になって。
天国から地獄へ、というのはまさにこういうことを言うのだろう。
せっかくイヴが忠実な手駒であることを確認できたというのに、横からこんな奴が出てくるなんて――!
ブルーはすぐさま反論しようとするが、口の中が粘ついてすぐに声が出ない。
ようやく出た言葉も、切れ味のない、どう聞いても不審感しか抱かれないような口調になって。
「な、何を根拠に、そんなことを――! あ、あなたが何を知ってるというのよ?!」
「フンっ! トボケたって無駄やで!
病院からここまでの一部始終、ぜ~んぶランドセルの中から聞かせてもろたからな!
そりゃ、半分はビュティのアホの自滅やけどなぁ! 直接手ェ下したのはイヴの嬢ちゃんやけどなぁ!
おまえがはっきり言うたこと、全部覚えとるで! 『全て分かってるわ』やら『全て忘れましょう』やら……!
ありゃ要するに『おまえの計画通り』ってことと違うんかい! えぇ!?」
「フンっ! トボケたって無駄やで!
病院からここまでの一部始終、ぜ~んぶランドセルの中から聞かせてもろたからな!
そりゃ、半分はビュティのアホの自滅やけどなぁ! 直接手ェ下したのはイヴの嬢ちゃんやけどなぁ!
おまえがはっきり言うたこと、全部覚えとるで! 『全て分かってるわ』やら『全て忘れましょう』やら……!
ありゃ要するに『おまえの計画通り』ってことと違うんかい! えぇ!?」
コンマの剣幕に、マズイ、とブルーは思った。
イヴは青い顔をして震えだすし、フェイトも険しい表情でこちらを見ている。
このままではマズい。せっかく危険を犯してまで絆を確認したのに。なんでこんなグラサン1つに。
あまりの焦燥に、ブルーの視界がぐにゃりと歪む。激しい眩暈を覚える。足元が崩れていくような錯覚。
マフラーを握る手の中に、じっとりと汗が滲む。
そう、マフラー。光子郎のマフラー。風の剣。一連の流れの中でブルーが持ったままになっていた「武器」。
――黙らせないと。
とりあえずは一刻も早くこのサングラスを黙らせないと。後のことは何とでもなる。きっと何とかなる。
熱に浮かされたような頭で、ブルーはそして、素早く腕を振り上げて――
イヴは青い顔をして震えだすし、フェイトも険しい表情でこちらを見ている。
このままではマズい。せっかく危険を犯してまで絆を確認したのに。なんでこんなグラサン1つに。
あまりの焦燥に、ブルーの視界がぐにゃりと歪む。激しい眩暈を覚える。足元が崩れていくような錯覚。
マフラーを握る手の中に、じっとりと汗が滲む。
そう、マフラー。光子郎のマフラー。風の剣。一連の流れの中でブルーが持ったままになっていた「武器」。
――黙らせないと。
とりあえずは一刻も早くこのサングラスを黙らせないと。後のことは何とでもなる。きっと何とかなる。
熱に浮かされたような頭で、ブルーはそして、素早く腕を振り上げて――
ガキッ!!
甲高い音と共に、剣の姿になったマフラーが、硬い「何か」に止められる。
疾風のような速度で割り込んできたのは、右手にさとうきびを構えたフェイト。
彼女が左手で掬い上げ守ったのは、例の喋るサングラス・コンマ。
一見すると冗談のような光景。見るからに切れ味良さそうな剣が、何の変哲もないさとうきびに止められて。
けれど、フェイトの表情には冗談の色など欠片もない。燃えるような目でブルーを睨みつける。
疾風のような速度で割り込んできたのは、右手にさとうきびを構えたフェイト。
彼女が左手で掬い上げ守ったのは、例の喋るサングラス・コンマ。
一見すると冗談のような光景。見るからに切れ味良さそうな剣が、何の変哲もないさとうきびに止められて。
けれど、フェイトの表情には冗談の色など欠片もない。燃えるような目でブルーを睨みつける。
「あなたって人は……! いったいどこまで……!」
「ふぇ、フェイト!? い、いや違うの、これは……!」
「イヴを苦しめ、ビュティって人を殺し、瀕死の光子郎さんを死なせ……!
もう、許さない!」
「ふぇ、フェイト!? い、いや違うの、これは……!」
「イヴを苦しめ、ビュティって人を殺し、瀕死の光子郎さんを死なせ……!
もう、許さない!」
あの大人しいフェイトのどこにこれ程の憎悪が潜んでいたのか。
むき出しの憎しみを叩き付けられ、ブルーは思わず1歩下がる。
あの目を見れば、一目で分かる。もう言い訳も説得も通用しない。
ビュティの死はブルーにも計算外、とか、光子郎の死はブルーとは無関係、などと真実を告げても通じまい。
こうなった以上、ブルーにとって数少ない命綱は……!
むき出しの憎しみを叩き付けられ、ブルーは思わず1歩下がる。
あの目を見れば、一目で分かる。もう言い訳も説得も通用しない。
ビュティの死はブルーにも計算外、とか、光子郎の死はブルーとは無関係、などと真実を告げても通じまい。
こうなった以上、ブルーにとって数少ない命綱は……!
「イヴ! 命令よ! フェイトをやっつけて!」
「で、でも……!」
「『でも』じゃないっ! さっさとしなさい!」
「……イヴさん。そこをどいて。グラサンマンさん、力を貸して」
「おう、存分に使え、オレの力! オレもこいつだけは許せん!」
「で、でも……!」
「『でも』じゃないっ! さっさとしなさい!」
「……イヴさん。そこをどいて。グラサンマンさん、力を貸して」
「おう、存分に使え、オレの力! オレもこいつだけは許せん!」
フェイトが額に載せるようにサングラスをかける。
ポケモントレーナの観察眼に頼るまでもなく、フェイトの身に力がみなぎっていくのが傍目にも分かる。
あまりに危険な状況。
ポケモントレーナの観察眼に頼るまでもなく、フェイトの身に力がみなぎっていくのが傍目にも分かる。
あまりに危険な状況。
「くっ……この役立たずがっ! もういいわよッ!」
青い顔のままオロオロと動けないイヴに業を煮やし、ブルーは舌打ち1つすると、背中を向けて逃げ始める。
逃げながら手に取ったのは、1枚のカード。GIのスペルカード・『同行』を使って逃走するつもりなのだ。
が――遅い。
コンマの力を借りたフェイトの前では、その逃げ足はあまりに遅い。
『同行』のカードで逃げるために必要な20mの間合い、それを許さず、逆に一気に距離を詰める。
逃げながら手に取ったのは、1枚のカード。GIのスペルカード・『同行』を使って逃走するつもりなのだ。
が――遅い。
コンマの力を借りたフェイトの前では、その逃げ足はあまりに遅い。
『同行』のカードで逃げるために必要な20mの間合い、それを許さず、逆に一気に距離を詰める。
「身体強化機能特化型融合デバイス、『グラサンマン』――逃げられると思わないでッ!!」
閃光一閃。
風よりも早く駆けたフェイトが一瞬のうちにブルーの眼前に回りこみ。
身構える間すら与えず伝説の剣『さとうきびセイバー』が正確無比な狙いで嵐のように叩き込まれ。
ブルーの腕に、足に、胸に、背中に、無数の『おきなわ』の傷を刻みながら、彼女の身体を弾き飛ばす。
大きく宙を舞ったブルーの身体が、どさり、と崩れ落ち――後は、沈黙。
風よりも早く駆けたフェイトが一瞬のうちにブルーの眼前に回りこみ。
身構える間すら与えず伝説の剣『さとうきびセイバー』が正確無比な狙いで嵐のように叩き込まれ。
ブルーの腕に、足に、胸に、背中に、無数の『おきなわ』の傷を刻みながら、彼女の身体を弾き飛ばす。
大きく宙を舞ったブルーの身体が、どさり、と崩れ落ち――後は、沈黙。
* * *