「……見事な太刀筋やったが――トドメは刺さなくてええんか? あとオレ、グラサンマンちゃうから。
すっかり定着しちゃってるようやけど、本当はコンマやから。デバイスとやらでもないし」
「本当は、殺したいくらい憎いよ……。
この人が居なければ、光子郎さんは死なずに済んだと思うし……。
でも、憎しみに駆られて命まで奪ったら、きっとそれは私たちの『負け』……。今は、これでいい……」
「それもそうやな……って、名前の方のフォローは無し?! おーいフェイトさーん?! もしもーし?!」
すっかり定着しちゃってるようやけど、本当はコンマやから。デバイスとやらでもないし」
「本当は、殺したいくらい憎いよ……。
この人が居なければ、光子郎さんは死なずに済んだと思うし……。
でも、憎しみに駆られて命まで奪ったら、きっとそれは私たちの『負け』……。今は、これでいい……」
「それもそうやな……って、名前の方のフォローは無し?! おーいフェイトさーん?! もしもーし?!」
手の中で喚き続けるサングラスを無視して、フェイトはブルーとイヴを眺める。
ブルーの方は……完全に気絶したらしい。意識を失って、倒れている。
両足に叩き込んだ斬撃は深く、おそらくもう自力では歩けまい。両腕もまともに動くまい。
とはいえ、急所は外したから、失血で死ぬことも無いだろう。
後々治癒魔法の治療を受ければ、社会復帰できるレベルである。その程度のダメージを意識して与えた。
まあ、もしかしたら屈辱的な「おきなわ」の傷痕は残ってしまうかもしれないが……
その程度は、フェイトのささやかな復讐、ということで許してもらおう。
ブルーの方は……完全に気絶したらしい。意識を失って、倒れている。
両足に叩き込んだ斬撃は深く、おそらくもう自力では歩けまい。両腕もまともに動くまい。
とはいえ、急所は外したから、失血で死ぬことも無いだろう。
後々治癒魔法の治療を受ければ、社会復帰できるレベルである。その程度のダメージを意識して与えた。
まあ、もしかしたら屈辱的な「おきなわ」の傷痕は残ってしまうかもしれないが……
その程度は、フェイトのささやかな復讐、ということで許してもらおう。
それよりもフェイトが気になったのは、イヴの方だった。
呆けたような表情で膝をつき、倒れたブルーを見つめたまま動けないイヴ。
フェイトはなるべく優しく、彼女の名前を呼ぶ。
呆けたような表情で膝をつき、倒れたブルーを見つめたまま動けないイヴ。
フェイトはなるべく優しく、彼女の名前を呼ぶ。
「――イヴ」
びくん、とイヴの肩が震える。その僅かな動きの中から、彼女の怯えが伝わってくる。
無理もない、とフェイトも思う。
コンマにとって大事な仲間だったビュティを手にかけてしまったのは、イヴだ。
フェイトにとって大切な存在だった光子郎を殺してしまったのも、イヴだ。
そしてブルーに攻撃命令を下され、一瞬迷ってしまったのも、イヴだ。
それでも全ては、ブルーのため。そう思っていたはずなのに、「役立たず」と罵られ見捨てられた。
無理もない、とフェイトも思う。
コンマにとって大事な仲間だったビュティを手にかけてしまったのは、イヴだ。
フェイトにとって大切な存在だった光子郎を殺してしまったのも、イヴだ。
そしてブルーに攻撃命令を下され、一瞬迷ってしまったのも、イヴだ。
それでも全ては、ブルーのため。そう思っていたはずなのに、「役立たず」と罵られ見捨てられた。
きっと今、彼女の中では無数の感情が入り乱れ、混乱の極みにあるのだろう。
どんな表情をしたらいいのか分からない、と言わんばかりの危うい表情で、口をパクパクさせている。
そんなイヴに、フェイトはあくまで優しく、限りなく優しく微笑みかける。
どんな表情をしたらいいのか分からない、と言わんばかりの危うい表情で、口をパクパクさせている。
そんなイヴに、フェイトはあくまで優しく、限りなく優しく微笑みかける。
「わた、わ、私……!」
「大丈夫よ。大丈夫だから。あなたが怯える必要は、ない」
「大丈夫よ。大丈夫だから。あなたが怯える必要は、ない」
母プレシアに訣別を告げられた時の自分もこんな表情をしていたのだろうか。
そう思うと、自然と自分が今すべきことが理解できた。彼女にかけるべき言葉が、迷わず出てくる。
そう思うと、自然と自分が今すべきことが理解できた。彼女にかけるべき言葉が、迷わず出てくる。
「どうして――どうしてフェイトさんは、私に――私を――」
「私もね……『ある人』の言うままに、罪を犯したことがある。人を傷つけたことがある……」
「え?」
「私もね……『ある人』の言うままに、罪を犯したことがある。人を傷つけたことがある……」
「え?」
思い出すだけで、今でも胸の奥が痛くなる。
けれど、あの痛みを乗り越えてきたからこそ、今のフェイトが居る。
記憶の中の痛みを思いだしながら、フェイトは語る。
けれど、あの痛みを乗り越えてきたからこそ、今のフェイトが居る。
記憶の中の痛みを思いだしながら、フェイトは語る。
「その人は、とっても大切な人だった。誰よりも大事な人だった。
とっても厳しい人だったけど、それでも私にとっては生きる理由だった」
とっても厳しい人だったけど、それでも私にとっては生きる理由だった」
厳しく、理不尽で、過酷な要求ばかりしてきた母、プレシア・テスタロッサ。
どんなに努力しても、身を粉にして働いても、労いの言葉ひとつ貰えず、鞭で打たれ、叱責され。
それでも、たった1つの「優しい思い出」が彼女を支えていた。遥か昔の、偽りの記憶だけが心の支えだった。
たった1つでもいい、優しさを示されれば、理不尽な相手にでも依存してしまうことがある――
それは誰よりもフェイト自身が良く知っていること。
だから、イヴが陥った状況が、よく分かる。ブルーに依存してしまった心理が、手にとるように分かる。
どんなに努力しても、身を粉にして働いても、労いの言葉ひとつ貰えず、鞭で打たれ、叱責され。
それでも、たった1つの「優しい思い出」が彼女を支えていた。遥か昔の、偽りの記憶だけが心の支えだった。
たった1つでもいい、優しさを示されれば、理不尽な相手にでも依存してしまうことがある――
それは誰よりもフェイト自身が良く知っていること。
だから、イヴが陥った状況が、よく分かる。ブルーに依存してしまった心理が、手にとるように分かる。
「でも、私はあの人に見捨てられて……
そんな時、傍に居て支えてくれたのが、なのはたちだった。
敵だったはずの、なのはたちだった。今の私の、大事な友達」
そんな時、傍に居て支えてくれたのが、なのはたちだった。
敵だったはずの、なのはたちだった。今の私の、大事な友達」
今のイヴもきっと同じ。唯一の支えを失って、荒涼たる荒野に放り出されたような状況。
だから、今度は。
だから、今度は。
「だから――今度はきっと、私が誰かを支える番なんだと思う。
私が、イヴを支える番。
辛いことも苦しいことも、みんなで分け合えばきっとがんばれる。
1人じゃ背負いきれない罪でも、きっと耐えられる。
辛いことを忘れることができないなら、全部忘れず、ちゃんと背負って、償って、一緒に歩いていこう。
……ね?」
私が、イヴを支える番。
辛いことも苦しいことも、みんなで分け合えばきっとがんばれる。
1人じゃ背負いきれない罪でも、きっと耐えられる。
辛いことを忘れることができないなら、全部忘れず、ちゃんと背負って、償って、一緒に歩いていこう。
……ね?」
フェイトはゆっくりとイヴの肩を抱くと、イヴの言葉を待つ。
イヴの中で、様々な感情が渦巻いているのが分かる。今はきっと急かすべきではない。
フェイトの手の中に握られたコンマも、黙ってイヴの答えを待つ。
やがて、たっぷり1分ほど言葉を失っていたイヴが、ゆっくりと口を開いた。
イヴの中で、様々な感情が渦巻いているのが分かる。今はきっと急かすべきではない。
フェイトの手の中に握られたコンマも、黙ってイヴの答えを待つ。
やがて、たっぷり1分ほど言葉を失っていたイヴが、ゆっくりと口を開いた。
「わた、し……」
「……?」
「……?」
――何かが、ひっかかるような声だった。
不審に思って、相手の顔を見るべく、少し身を離したフェイトは、そして、
不審に思って、相手の顔を見るべく、少し身を離したフェイトは、そして、
ザクッ。
唐突に、首の真ん中に、熱さを感じた。
「かっ……ハッ……!?」
声が出ない。息が出来ない。電撃魔法など唱える間もない。痛みより先に、出血より先に視界が暗くなる。
見ればイヴの髪の一房が、いつのまにか鋭い金色の槍と化していて。
分子レベルのスケールで物体を寸断できるナノスライサー。
その鋭い切っ先が、フェイトの喉を貫き、甲状軟骨を貫き、食道を貫き、椎骨を貫き、延髄を貫き。
フェイトの後頭部あたりから、僅かに血に濡れた切っ先を覗かせていて。
間違いなくそれは、致命傷。
見ればイヴの髪の一房が、いつのまにか鋭い金色の槍と化していて。
分子レベルのスケールで物体を寸断できるナノスライサー。
その鋭い切っ先が、フェイトの喉を貫き、甲状軟骨を貫き、食道を貫き、椎骨を貫き、延髄を貫き。
フェイトの後頭部あたりから、僅かに血に濡れた切っ先を覗かせていて。
間違いなくそれは、致命傷。
(どうし、て……!? イヴ……?!)
ぐらり、と視界が傾く。意識が遠のく。ほとんど出血することなく、奈落に向かって落ちていく。
最期の力で見上げたイヴは、血の涙を流しながら、機械のような無感情な顔で、何かを延々と呟いていた。
最期の力で見上げたイヴは、血の涙を流しながら、機械のような無感情な顔で、何かを延々と呟いていた。
「――全部、忘れる……今は殺人機械でいい……鬼でいい……優しさじゃ、辛過ぎるから……」
* * *
――もう鬼でいい。心の無い殺人機械でいい。
激しく揺れ動くイヴの精神は、激しい迷いと苦しみの末に、全ての感情を閉ざすことを選んでしまった。
激しく揺れ動くイヴの精神は、激しい迷いと苦しみの末に、全ての感情を閉ざすことを選んでしまった。
フェイトは、間違いなく優しかった。
でも優しさは信じられない。優しいと言うのなら、あの時のブルーだって優しかったのだ。
そのブルーが土壇場でイヴをモノ扱いし、家畜のように命令を下し、果てには見捨ててしまったのだから。
優しさは、信じられない。
傷ついた魂に心地いいからこそ、かえって怖い。身を委ねるのが恐ろしい。
元々、光子郎を殺した時点で、イヴはフェイトに対し、取り返しのつかない後ろめたさを抱いていたのだ。
フェイトが優しくすればするほど、イヴの心は逆に追い詰められて。
元より疲弊しきっていた精神は、とうとう限界を超えてしまったのだ。
でも優しさは信じられない。優しいと言うのなら、あの時のブルーだって優しかったのだ。
そのブルーが土壇場でイヴをモノ扱いし、家畜のように命令を下し、果てには見捨ててしまったのだから。
優しさは、信じられない。
傷ついた魂に心地いいからこそ、かえって怖い。身を委ねるのが恐ろしい。
元々、光子郎を殺した時点で、イヴはフェイトに対し、取り返しのつかない後ろめたさを抱いていたのだ。
フェイトが優しくすればするほど、イヴの心は逆に追い詰められて。
元より疲弊しきっていた精神は、とうとう限界を超えてしまったのだ。
また、フェイトの読みにはちょっとした誤算があった。
フェイトの過去とイヴの現状があまりに似過ぎていたので、その2つの間にあった差に気付かなかったのだ。
フェイトとイヴの間には、なのはとフェイトが築き上げていったような信頼関係が出来ていなかった。
繰り返される本気の戦闘は、時間は短くとも相手への深い理解を生む。だからなのはとは理解し合えた。
けれどイヴと過ごし言葉を交わした時間は、それに値するほどのものにはならなかったのだ。
そして――ブルーとイヴの関係は、フェイトとプレシアの関係より、遥かに弱く、脆かった。
当時のフェイトには、プレシアの他にはアルフとバルディッシュしか居なかった。
この3人だけが、まさにフェイトの世界そのものだったのだ。
しかし、イヴは元の世界に帰れればスヴェンがいる。トレインがいる。リンスなどの知り合いも多い。
この島での人間関係はあくまで一時的なもの。自然と、ブルーの裏切りの意味も変わってくる。
フェイトの過去とイヴの現状があまりに似過ぎていたので、その2つの間にあった差に気付かなかったのだ。
フェイトとイヴの間には、なのはとフェイトが築き上げていったような信頼関係が出来ていなかった。
繰り返される本気の戦闘は、時間は短くとも相手への深い理解を生む。だからなのはとは理解し合えた。
けれどイヴと過ごし言葉を交わした時間は、それに値するほどのものにはならなかったのだ。
そして――ブルーとイヴの関係は、フェイトとプレシアの関係より、遥かに弱く、脆かった。
当時のフェイトには、プレシアの他にはアルフとバルディッシュしか居なかった。
この3人だけが、まさにフェイトの世界そのものだったのだ。
しかし、イヴは元の世界に帰れればスヴェンがいる。トレインがいる。リンスなどの知り合いも多い。
この島での人間関係はあくまで一時的なもの。自然と、ブルーの裏切りの意味も変わってくる。
そしてもう1つの誤算は、イヴの特殊能力。その可能性の広さ。
フェイトは全てを忘れることなく、罪を背負い償えと言った。
辛いことでも忘れられないのだから、と言いきった。
けれど――本当にそうだろうか?
ナノマシンを使えば、イヴは自分の身体を変化させることができる。自分の傷を治すこともできる。
だとしたら、記憶を消去することも出来るかもしれない――
記憶を司る海馬のあたりを上手いこと弄れば、嫌なことを全部忘れられるかもしれない――
ナノマシンが不調な今では無理でも、本来の調子さえ取り戻せば、その程度は出来るかもしれない――
イヴは、そう思い至ってしまった。ギリギリまで追い詰められた精神が、そんな答えを出してしまった。
フェイトは全てを忘れることなく、罪を背負い償えと言った。
辛いことでも忘れられないのだから、と言いきった。
けれど――本当にそうだろうか?
ナノマシンを使えば、イヴは自分の身体を変化させることができる。自分の傷を治すこともできる。
だとしたら、記憶を消去することも出来るかもしれない――
記憶を司る海馬のあたりを上手いこと弄れば、嫌なことを全部忘れられるかもしれない――
ナノマシンが不調な今では無理でも、本来の調子さえ取り戻せば、その程度は出来るかもしれない――
イヴは、そう思い至ってしまった。ギリギリまで追い詰められた精神が、そんな答えを出してしまった。
「お……おい嬢ちゃん、何やっとんのや! なんでフェイトの嬢ちゃんをやらなあかんねん!
おいこら聞いとるんか!? 正気に戻れや! なあ! おいちょっと」
おいこら聞いとるんか!? 正気に戻れや! なあ! おいちょっと」
ザクッ。
何やらサングラスがうるさく喚いていたが、イヴは振り向きもせず、無造作にナノスライサーを振り下ろす。
すぐに、静かになる。
血の涙を流し続けながらも、イヴの顔からは一切の感情が欠落したまま。
命持つサングラスの「死」にも、何の動揺も見せない。
何やらサングラスがうるさく喚いていたが、イヴは振り向きもせず、無造作にナノスライサーを振り下ろす。
すぐに、静かになる。
血の涙を流し続けながらも、イヴの顔からは一切の感情が欠落したまま。
命持つサングラスの「死」にも、何の動揺も見せない。
――イヴは思った。
心が痛むなら、もう心なんていらない。
鬼でいい。心のない殺人機械でいい。トルネオ・ルドマンの所に居た頃の自分に戻ろう。
そしてさっさとこの『ゲーム』を終わらせて、全てを忘れて、何事も無かったかのようにスヴェンの所に戻ろう。
そうだ、もしも記憶の消去が自分で上手く出来ないようなら、優勝時の「ご褒美」で消してもらってもいい。
心が痛むなら、もう心なんていらない。
鬼でいい。心のない殺人機械でいい。トルネオ・ルドマンの所に居た頃の自分に戻ろう。
そしてさっさとこの『ゲーム』を終わらせて、全てを忘れて、何事も無かったかのようにスヴェンの所に戻ろう。
そうだ、もしも記憶の消去が自分で上手く出来ないようなら、優勝時の「ご褒美」で消してもらってもいい。
ああでも、どうしよう。それでは自分から行動を起こすことができなくなる。
心を完全に閉ざすなら、考えることをやめるなら、誰かに代わりに考えてもらわなければ。
ちょうどあの頃のトルネオのように、殺人機械に命令を下す存在が必要になってくるわけで――
心を完全に閉ざすなら、考えることをやめるなら、誰かに代わりに考えてもらわなければ。
ちょうどあの頃のトルネオのように、殺人機械に命令を下す存在が必要になってくるわけで――
イヴの視線が、傷だらけで倒れているブルーに向けられる。
ほとんど表情のないまま、その口元が、僅かに吊り上がった。
ほとんど表情のないまま、その口元が、僅かに吊り上がった。
* * *
――意識を取り戻した時、最初に感じたのは太陽の眩しさだった。
逆光の中、2つのシルエットがこちらを見下ろしている。
片方は……イヴだ。陽光を透かして輝く金髪と、その髪形で分かる。
でも、もう1つは……? 頭についてるのは、丸い球体と、触角? この人影、どこかで見た気が……
逆光の中、2つのシルエットがこちらを見下ろしている。
片方は……イヴだ。陽光を透かして輝く金髪と、その髪形で分かる。
でも、もう1つは……? 頭についてるのは、丸い球体と、触角? この人影、どこかで見た気が……
「ホラ、治ッタゾ」
「そうね……。ブルーさん……大丈夫、ですか……?」
「そうね……。ブルーさん……大丈夫、ですか……?」
無機質な声が2つ。
感情の感じられない、しかし言葉だけは自分を気遣うイヴの声を受け、ブルーは頭を振りながら起き上がる。
見れば、すぐ側には蜂と少女を掛け合わせたような異形の生物。ジェダにQBと呼ばれていたあの生き物だ。
感情の感じられない、しかし言葉だけは自分を気遣うイヴの声を受け、ブルーは頭を振りながら起き上がる。
見れば、すぐ側には蜂と少女を掛け合わせたような異形の生物。ジェダにQBと呼ばれていたあの生き物だ。
「ゴホウビ、確カニ届ケタカラナ」
ブン。
短く言い残すと、QBは小さく羽を鳴らせてその場を飛び去る。
しばし状況が把握できなかったブルーは、改めて周囲を見回す。
短く言い残すと、QBは小さく羽を鳴らせてその場を飛び去る。
しばし状況が把握できなかったブルーは、改めて周囲を見回す。
――すぐ近くで、フェイトが死んでいた。
信じられない、といった風の表情を浮かべ、目を見開いたまま、静かに事切れていた。
意外と出血は少ない。首の中央にある傷も、かなり小さい。
これで目を閉じていたら眠っていると勘違いしたかもしれない、それくらいの死に方。
信じられない、といった風の表情を浮かべ、目を見開いたまま、静かに事切れていた。
意外と出血は少ない。首の中央にある傷も、かなり小さい。
これで目を閉じていたら眠っていると勘違いしたかもしれない、それくらいの死に方。
何故、フェイトが死んでいるのか? ――考えるまでもない。
何故、ここにQBがやってきたのか? ――考えるまでもない。
何故、自分はこうして無傷でいるのか? ――考えるまでもない。
ブルーは改めて自分の身体を確認する。
身につけていた白衣は、何箇所も「おきなわ」という文字の形に切り裂かれボロ布のようになっている。
けれど、その下の肌には傷1つない。腕も足もちゃんと動く。
何故、ここにQBがやってきたのか? ――考えるまでもない。
何故、自分はこうして無傷でいるのか? ――考えるまでもない。
ブルーは改めて自分の身体を確認する。
身につけていた白衣は、何箇所も「おきなわ」という文字の形に切り裂かれボロ布のようになっている。
けれど、その下の肌には傷1つない。腕も足もちゃんと動く。
「反応が遅れて、申し訳ありませんでした……これからは、このようなことは……」
「い、イヴがやったの? ひょっとして、さっきの『ご褒美』って、まさか」
「ナノマシン治療……上手くいかなくて……。勝手な判断して、ごめんなさい……。だから……」
「い、イヴがやったの? ひょっとして、さっきの『ご褒美』って、まさか」
「ナノマシン治療……上手くいかなくて……。勝手な判断して、ごめんなさい……。だから……」
イヴは感情の欠落した表情のまま、ブルーに頭を下げる。深く深く、頭を下げる。
その姿を見て、ブルーは。
その姿を見て、ブルーは。
(あ……あはは。ホホホ。ホホホホッ!)
思わず高らかに笑いだしたくなるのを、ブルーは必死に堪える。堪えきれず口の端が吊り上がる。
イヴは、ブルーが思っていた以上にブルーに忠実だったのだ。いや、忠実になったのだ。
この状況はそうとしか思えない。
反応こそ遅れたものの、ブルーの命令通りにフェイトに襲い掛かり。
相手が電撃魔法の使い手、という相性の悪さにも関わらず、素早い一撃で命を奪い。
そして『ご褒美』の権利を使ってまで、ブルーの傷を治して見せた。
この落ち着いた表情も、迷いが吹っ切れた、ということなのだろうか。いやきっとそうだろう。
イヴは、ブルーが思っていた以上にブルーに忠実だったのだ。いや、忠実になったのだ。
この状況はそうとしか思えない。
反応こそ遅れたものの、ブルーの命令通りにフェイトに襲い掛かり。
相手が電撃魔法の使い手、という相性の悪さにも関わらず、素早い一撃で命を奪い。
そして『ご褒美』の権利を使ってまで、ブルーの傷を治して見せた。
この落ち着いた表情も、迷いが吹っ切れた、ということなのだろうか。いやきっとそうだろう。
一時は「イヴはブルーを殺して『ご褒美』を貰おうとしているのでは?」とまで疑っていたのに。
あれも全くの杞憂だったわけだ。ここまで来ると、笑みも零れようというものである。
ブルーは立ち上がる。豊かな身体の上で、ボロ布となった白衣の成れの果てが揺れる。
あれも全くの杞憂だったわけだ。ここまで来ると、笑みも零れようというものである。
ブルーは立ち上がる。豊かな身体の上で、ボロ布となった白衣の成れの果てが揺れる。
「よくやったわ、イヴ。やれば出来るんじゃない。さっきは酷いこと言ってごめんね♪」
「いえ……」
「さて、マトモな服が欲しい所だけど……そうね、そこの死体の服、脱がせてくれる?
服を破かないよう、血がつかないよう、気をつけて」
「はい……」
「いえ……」
「さて、マトモな服が欲しい所だけど……そうね、そこの死体の服、脱がせてくれる?
服を破かないよう、血がつかないよう、気をつけて」
「はい……」
ブルーの命令に従順に、イヴはフェイトの死体から服を剥ぎ取りにかかる。
別にブルーとしてはイヴのナース服を奪っても良かったのだが、それではイヴが着る服が無くなってしまう。
イヴが死体の服を脱がせている間に、ブルーは遺されたフェイトのランドセルを漁る。
別にブルーとしてはイヴのナース服を奪っても良かったのだが、それではイヴが着る服が無くなってしまう。
イヴが死体の服を脱がせている間に、ブルーは遺されたフェイトのランドセルを漁る。
「脱がせ終わりました……」
「こっちに頂戴。それから……これはイヴが持ってなさい。使い所は任せるわ」
「こっちに頂戴。それから……これはイヴが持ってなさい。使い所は任せるわ」
イヴからフェイトの衣類を受け取り、代わりにランドセルから出したバトルピックを押し付ける。
イヴの能力ならこんなもの無しでも戦えるが、どうせブルーが振るうには重過ぎる武器。
ポケモンバトルでもそうだが、戦闘時に選べる選択肢は多い方がいい。意外な技が身を救うものなのだ。
そういえばアタッシュケースについても聞いておきたいが……まあ、これは後回しでいいか。
ブルーはさっさと白衣の残骸を脱ぎ捨てると、渡された服を身につけ始める。相手はイヴだ、恥じらいはない。
イヴの能力ならこんなもの無しでも戦えるが、どうせブルーが振るうには重過ぎる武器。
ポケモンバトルでもそうだが、戦闘時に選べる選択肢は多い方がいい。意外な技が身を救うものなのだ。
そういえばアタッシュケースについても聞いておきたいが……まあ、これは後回しでいいか。
ブルーはさっさと白衣の残骸を脱ぎ捨てると、渡された服を身につけ始める。相手はイヴだ、恥じらいはない。
「これから、どうしようかしらね」
「私は、ブルーさんに従います……」
「この2人、工場の秘密がどうとか、エネルギー源が謎だとか、色々言ってたけど。
あれって本当に意味あるのかしら? どう思う、イヴ?」
「さあ……? 私には、分かりません……ところで、このサトウキビ、どうしましょう?」
「私は、ブルーさんに従います……」
「この2人、工場の秘密がどうとか、エネルギー源が謎だとか、色々言ってたけど。
あれって本当に意味あるのかしら? どう思う、イヴ?」
「さあ……? 私には、分かりません……ところで、このサトウキビ、どうしましょう?」
着替えながらの取りとめもない話。ブルーはすぐに服を着終わる。
多少体格が合ってないため、胸ははちきれんばかりに張り、少し動くとおへそも見えてしまう。
けれどもまぁ、さっきまでのボロ布よりはよほどいい。これで他の参加者とも接触できる。
もっともこの格好では、4人は居るというフェイトの知り合いに出会えばまたややこしいことになりそうだが。
どこかでチャンスがあれば、また別の服を探そう――ブルーはそう心に決めて。
首元にマフラー状態の『風の剣』を巻くと、イヴに命令を下す。
多少体格が合ってないため、胸ははちきれんばかりに張り、少し動くとおへそも見えてしまう。
けれどもまぁ、さっきまでのボロ布よりはよほどいい。これで他の参加者とも接触できる。
もっともこの格好では、4人は居るというフェイトの知り合いに出会えばまたややこしいことになりそうだが。
どこかでチャンスがあれば、また別の服を探そう――ブルーはそう心に決めて。
首元にマフラー状態の『風の剣』を巻くと、イヴに命令を下す。
「さとうきび? そうね、そんなものへし折っておきなさい。ムカツクから。
さ、とりあえず移動するわよ。こんなところ誰かに見られたら厄介だしね」
さ、とりあえず移動するわよ。こんなところ誰かに見られたら厄介だしね」
* * *
――ブルーは知らない。気付いていない。
イヴの本当の心を。本当の気持ちを。
イヴの本当の心を。本当の気持ちを。
(……当面はこれでいい……)
人の形をした「鬼」は、命令に忠実にさとうきびをナノスライサーで叩き折ると、主人の後を追って歩き出す。
ブルーはイヴを利用しているつもりなのだろう。そのことは百も承知だ。
しかし、今やそれはイヴにとっても同じこと。
現在のイヴにとって、ブルーは「主人役」として価値があるから従っているだけなのだ。
ブルーはイヴを利用しているつもりなのだろう。そのことは百も承知だ。
しかし、今やそれはイヴにとっても同じこと。
現在のイヴにとって、ブルーは「主人役」として価値があるから従っているだけなのだ。
(私は鬼……私は殺人兵器……。兵器には、使う人が必要……)
たとえば誰かが剣で人を斬っても、剣そのものは罪を問われない。剣そのものは悲しまない。
殺人の罪も、罰も、罪悪感も、全て「剣を振るった人間」が背負うべきもの。
そしてブルーならちゃんと振るってくれるだろう。そう判断したからこそ、従っているのだ。だから。
殺人の罪も、罰も、罪悪感も、全て「剣を振るった人間」が背負うべきもの。
そしてブルーならちゃんと振るってくれるだろう。そう判断したからこそ、従っているのだ。だから。
(もしも、より良い「兵器の使い手」が現れたとしたら。もしも、最後の2人になったとしたら。その時は……!)
* * *
優しさに怯えた少女は、深い闇の中に堕ちて真の鬼と化した。
優しさを演じた少女は、忠犬と信じて恐るべき鬼を抱え込んだ。
歪な三角関係はその数を減らしてさらに歪な形となり、そして2人は……。
優しさを演じた少女は、忠犬と信じて恐るべき鬼を抱え込んだ。
歪な三角関係はその数を減らしてさらに歪な形となり、そして2人は……。
【A-3/森の中/1日目/午後】
【ブルー@ポケットモンスターSPECIAL】
[状態]:健康(傷は全て「ご褒美」で完治)、14歳モード、イヴを完全に支配したと思い込み慢心気味
[服装]:フェイトの普段着(微妙にサイズ合ってなくてヘソが見えてる&胸がキツキツ)
[装備]:風の剣(マフラー状態)@魔法陣グルグル
[道具]:支給品一式(食料少し減)、支給品一式×2[フェイト][光子郎]、
チョークぎっしりの薬箱、年齢詐称薬(赤×3、青×3)、G・Iカード(『聖水』『同行』)@H×H、
Lのお面@DEATH NOTE、ジャスタウェイ@銀魂、マジックバタフライ@MOTHER2
[思考]:ホホホッ! 結果オーライってとこね! 本当にツイてるわね、あたしってば!
第一行動方針:とりあえず、これ以上のトラブルを避けるために工場から離れる。
第二行動方針:イヴを支配し、利用して生き残る。
第三行動方針:生き残るためには手段を選ばない。
第四行動方針:フェイトの知り合いと遭遇してしまう前に、どこかで適当な服を手に入れておく。
第五行動方針:レッドやグリーン、イエローのことが(第三行動方針に矛盾しない程度に)心配
基本行動方針:バトルロワイアルからの脱出、元の世界への帰還(手段は問わない)
[備考]:
イヴのナノマシンの能力をあらかた理解しました。
ブルーは、双葉を始末したであろうと思っています。
フェイトの知人(なのは達)と、リリカルなのは世界の魔法についての知識を得ました。
光子郎たちの工場についての考察を一通り聞いています。ただし、あまり重要性を感じていません。
イヴの心変わりに気付いていません。
イヴは自分に心酔し、命を投げ出してでも守ってくれるものとばかり思っています。
【ブルー@ポケットモンスターSPECIAL】
[状態]:健康(傷は全て「ご褒美」で完治)、14歳モード、イヴを完全に支配したと思い込み慢心気味
[服装]:フェイトの普段着(微妙にサイズ合ってなくてヘソが見えてる&胸がキツキツ)
[装備]:風の剣(マフラー状態)@魔法陣グルグル
[道具]:支給品一式(食料少し減)、支給品一式×2[フェイト][光子郎]、
チョークぎっしりの薬箱、年齢詐称薬(赤×3、青×3)、G・Iカード(『聖水』『同行』)@H×H、
Lのお面@DEATH NOTE、ジャスタウェイ@銀魂、マジックバタフライ@MOTHER2
[思考]:ホホホッ! 結果オーライってとこね! 本当にツイてるわね、あたしってば!
第一行動方針:とりあえず、これ以上のトラブルを避けるために工場から離れる。
第二行動方針:イヴを支配し、利用して生き残る。
第三行動方針:生き残るためには手段を選ばない。
第四行動方針:フェイトの知り合いと遭遇してしまう前に、どこかで適当な服を手に入れておく。
第五行動方針:レッドやグリーン、イエローのことが(第三行動方針に矛盾しない程度に)心配
基本行動方針:バトルロワイアルからの脱出、元の世界への帰還(手段は問わない)
[備考]:
イヴのナノマシンの能力をあらかた理解しました。
ブルーは、双葉を始末したであろうと思っています。
フェイトの知人(なのは達)と、リリカルなのは世界の魔法についての知識を得ました。
光子郎たちの工場についての考察を一通り聞いています。ただし、あまり重要性を感じていません。
イヴの心変わりに気付いていません。
イヴは自分に心酔し、命を投げ出してでも守ってくれるものとばかり思っています。
【イヴ@BLACK CAT】
[状態]:左腹部に銃創(処置済み・回復中)、全身に中程度の打撲(回復中)、疲労感大、思考停止状態
[服装]:ナース服
[装備]:スタンガン@ひぐらしのなく頃に、バトルピック@テイルズオブシンフォニア、
[道具]:支給品一式(食料少し減)、支給品一式[ビュティ]、アタッシュ・ウェポン・ケース@BLACK CAT、
G・Iカード(『左遷』)@H×H、神楽の傘(弾0)@銀魂、血塗れの自分の服
[思考]:もう「鬼」でいい……心の無い殺人機械でいい……今この島でだけは……!
第一行動方針:「命令をくれる主人役」として、ブルーを利用。当面彼女に奉仕し、守る。
第二行動方針:「主人役」にはできるだけ他参加者の抹殺を進言し、なるべく早く全ての戦いを終わらせる。
第三行動方針:ブルーより良い「主人役」候補が見つかれば、状況次第で「乗り換え」も考える。
基本行動方針:マーダーチームの戦闘要員として行動し、最後の最後に「主人役」に牙を剥いて優勝する。
そして全てを忘れて、元の世界に戻る。
[備考]:
3人殺したことによる「ご褒美」は、ブルーの傷の治療に使用しました。
ブルーが「4歳児の姿」になるのは、ブルー本人が持つ特殊能力だと信じています。
[状態]:左腹部に銃創(処置済み・回復中)、全身に中程度の打撲(回復中)、疲労感大、思考停止状態
[服装]:ナース服
[装備]:スタンガン@ひぐらしのなく頃に、バトルピック@テイルズオブシンフォニア、
[道具]:支給品一式(食料少し減)、支給品一式[ビュティ]、アタッシュ・ウェポン・ケース@BLACK CAT、
G・Iカード(『左遷』)@H×H、神楽の傘(弾0)@銀魂、血塗れの自分の服
[思考]:もう「鬼」でいい……心の無い殺人機械でいい……今この島でだけは……!
第一行動方針:「命令をくれる主人役」として、ブルーを利用。当面彼女に奉仕し、守る。
第二行動方針:「主人役」にはできるだけ他参加者の抹殺を進言し、なるべく早く全ての戦いを終わらせる。
第三行動方針:ブルーより良い「主人役」候補が見つかれば、状況次第で「乗り換え」も考える。
基本行動方針:マーダーチームの戦闘要員として行動し、最後の最後に「主人役」に牙を剥いて優勝する。
そして全てを忘れて、元の世界に戻る。
[備考]:
3人殺したことによる「ご褒美」は、ブルーの傷の治療に使用しました。
ブルーが「4歳児の姿」になるのは、ブルー本人が持つ特殊能力だと信じています。
【フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはA's 死亡】
【コンマ@ボボボーボ・ボーボボ 死亡】
【コンマ@ボボボーボ・ボーボボ 死亡】
[備考]:
A-3工場前に光子郎の墓(名前は書かれていません)が作られています。彼の首輪も埋められています。
光子郎の墓の前に、裸のフェイトの死体が転がっています。
フェイトの死体の側に、
折れたさとうきびセイバー@ボボボーボ・ボーボボ、破壊されたコンマ@ボボボーボ・ボーボボ
ボロボロの白衣(『おきなわ』の文字の形に何箇所も切り裂かれている)@現実? が転がっています。
A-3工場前に光子郎の墓(名前は書かれていません)が作られています。彼の首輪も埋められています。
光子郎の墓の前に、裸のフェイトの死体が転がっています。
フェイトの死体の側に、
折れたさとうきびセイバー@ボボボーボ・ボーボボ、破壊されたコンマ@ボボボーボ・ボーボボ
ボロボロの白衣(『おきなわ』の文字の形に何箇所も切り裂かれている)@現実? が転がっています。
≪148:MOTHER/2発の銃弾/金糸雀の逆襲 | 時系列順に読む | 150:The worst selection≫ |
≪148:MOTHER/2発の銃弾/金糸雀の逆襲 | 投下順に読む | 150:The worst selection≫ |
≪130:世界は皮肉に満ちていた(前編) | ブルーの登場SSを読む | 158:運命のルーレット廻して(前編)≫ |
≪130:世界は皮肉に満ちていた(前編) | イヴの登場SSを読む | 158:運命のルーレット廻して(前編)≫ |
≪130:世界は皮肉に満ちていた(前編) | フェイトの登場SSを読む |