屏風の虎 -their roots- ◆Xdenpo/R4U
銃声を聞いたニケの行動は呆れかえるほど明快なものだった。
メロとブルーが思い思いに思考対策を練っている中、
メロとブルーが思い思いに思考対策を練っている中、
「インデックスたちがヤバイ! 急ぐぞメロ、ブルー!」
と、全く空気を読まずに一休を背負ったまま猛然と駆け出していったのだ。
咄嗟にメロが制止を促そうと声を張り上げたが時既に遅し。
質の悪いことに、ニケは空気を読まないどころか聞く耳まで放り捨ててしまっていたらしい。
人を背負っているとは思えないほどの速力で、見る見るうちに遠ざかるニケの背中。
普段のふざけた態度からすれば俄かには信じ難い力強さだ。行動の軽率さと併せて猪突猛進と言ってもいい。
苛立たしさを表に出し、メロが毒づく。
咄嗟にメロが制止を促そうと声を張り上げたが時既に遅し。
質の悪いことに、ニケは空気を読まないどころか聞く耳まで放り捨ててしまっていたらしい。
人を背負っているとは思えないほどの速力で、見る見るうちに遠ざかるニケの背中。
普段のふざけた態度からすれば俄かには信じ難い力強さだ。行動の軽率さと併せて猪突猛進と言ってもいい。
苛立たしさを表に出し、メロが毒づく。
「あの馬鹿……! 何の策もなしに突っ込む気か?」
『ケケケ、イイジャネーカ。
花火ミテーニ派手ナ自殺ショーガ見ラレルカモシレナイゼ? テカ見セロ』
「自殺ショーねぇ……。まぁそうなるかどうかは別として、
神社で何が起こっているのか把握しておくのは良いことだと思わない?
どうせニケが先走っちゃったんだから囮にでも利用しないと損よ」
『ケケケ、イイジャネーカ。
花火ミテーニ派手ナ自殺ショーガ見ラレルカモシレナイゼ? テカ見セロ』
「自殺ショーねぇ……。まぁそうなるかどうかは別として、
神社で何が起こっているのか把握しておくのは良いことだと思わない?
どうせニケが先走っちゃったんだから囮にでも利用しないと損よ」
傍らのブルーがメロの顔を上目遣いに覗き込みながら答える。
メロもまた吸い込まれそうなブルーの瞳に一瞬だけ目を向けた後、
戸惑うように僅かに視線を彷徨わせ、
メロもまた吸い込まれそうなブルーの瞳に一瞬だけ目を向けた後、
戸惑うように僅かに視線を彷徨わせ、
「……いや。ここは引き返すべきだな」
押し出すように返答した。
「どういうこと? いくらなんでも消極的過ぎじゃないかしら?
私は猛獣を檻の外から眺めてみましょうって提案しているだけなんだけど」
『ソウダゼ、メロ。マタ随分トラシクネーコト言ウンダナ』
私は猛獣を檻の外から眺めてみましょうって提案しているだけなんだけど」
『ソウダゼ、メロ。マタ随分トラシクネーコト言ウンダナ』
二人の抗議を受け、メロは改めて自分の思考の整理を始める。
消極的? 俺らしくない? 何を言っている、俺は俺だ。
広い視野で冷静に判断したからこそ、撤退という結論に至れたんじゃないか。
大体、ブルーもチャチャゼロも俺たちの現状というものを全く理解していない。
俺一人なら構わない。だが、今は一人では歩くことすらままならないブルーが一緒だ。
これではいざ襲われたときに即座に対応することなどできるはずがない。
皆が疲労困憊な現状、少しでもリスクを低減する選択を採るのは当たり前――、
(!? 何を考えているんだ俺は!?)
突如、自分の頭を思い切り打ち付けたい衝動に駆られた。
(……くそ、ブルーを切り捨てるという発想に嫌悪感を抱き始めているのか。
厄介だな、足手まといに思うことすら出来ないとは……。
この薬、ピークはいつだ? ゴールまでは?)
消極的? 俺らしくない? 何を言っている、俺は俺だ。
広い視野で冷静に判断したからこそ、撤退という結論に至れたんじゃないか。
大体、ブルーもチャチャゼロも俺たちの現状というものを全く理解していない。
俺一人なら構わない。だが、今は一人では歩くことすらままならないブルーが一緒だ。
これではいざ襲われたときに即座に対応することなどできるはずがない。
皆が疲労困憊な現状、少しでもリスクを低減する選択を採るのは当たり前――、
(!? 何を考えているんだ俺は!?)
突如、自分の頭を思い切り打ち付けたい衝動に駆られた。
(……くそ、ブルーを切り捨てるという発想に嫌悪感を抱き始めているのか。
厄介だな、足手まといに思うことすら出来ないとは……。
この薬、ピークはいつだ? ゴールまでは?)
『病状』は回復の兆しを見せない。
味覚以外の五感が、メロを嬲るようにひどくもどかしい波を伝え続けている。
常人ならば容易く理性を手放しそうな甘い奔流の中。メロはあえて苦行を選んだ。
味覚以外の五感が、メロを嬲るようにひどくもどかしい波を伝え続けている。
常人ならば容易く理性を手放しそうな甘い奔流の中。メロはあえて苦行を選んだ。
「……そう、だな。確かに神社の様子を探るのも悪くはない」
まどろむ快感の波に逆らい、崩れかけた「自分らしさ」を必死で掻き集めるという荒療治に出たのである。
俺の意志はこんなものに屈するはずがない、それを証明してみせると言わんばかりに。
俺の意志はこんなものに屈するはずがない、それを証明してみせると言わんばかりに。
「少々遠回りになるが、裏山の麓に沿って神社の裏手から侵入するぞ。
ニケを囮にするにしても捨て駒にするにしてもそのほうが都合がいいだろう」
「そうね、私もそれが妥当だと思うわ。その前に、メロ」
「何だ?」
ニケを囮にするにしても捨て駒にするにしてもそのほうが都合がいいだろう」
「そうね、私もそれが妥当だと思うわ。その前に、メロ」
「何だ?」
ブルーはメロのランドセルを指差しながら続ける。
「さっきの持ち物分配のときには言わなかったけど状況が変わったから言っておくわ。
シルフスコープを私に預けて欲しいの」
「あのゴーグルか」
「そうよ。私はあれの使い方を知っているの。
この先に何があるのか分からないんだから、用心に越したことはないでしょ?」
「……分かった、いいだろう」
シルフスコープを私に預けて欲しいの」
「あのゴーグルか」
「そうよ。私はあれの使い方を知っているの。
この先に何があるのか分からないんだから、用心に越したことはないでしょ?」
「……分かった、いいだろう」
僅かな沈思の後、メロはランドセルからシルフスコープを取り出し、ブルーに手渡した。
「ありがとう♪」
「預けたからには相応の働きをしてもらうぞ」
「任せといて。さあ、行きましょう」
「預けたからには相応の働きをしてもらうぞ」
「任せといて。さあ、行きましょう」
シルフスコープを装着しながら、ブルーは先を促すようにピタッとメロに身を寄せ、ほくそ笑む。
(ホホホ、やっぱり最初に会ったときよりガードが緩くなっているわね。
あまり重要視していないだけなのかもしれないけど、
少し頼んだだけで支給品を渡してくれるなんて。少しずつ運が回ってきたみたい)
対するメロは、
(普段の俺でもこの場面ならシルフスコープをブルーに預けたはずだ。
道具は扱える人間に持たせるのが当然。何も不自然なところはない。…………本当に、そうか?)
答えの出ない自問を胸に歩を進め始めた。
(ホホホ、やっぱり最初に会ったときよりガードが緩くなっているわね。
あまり重要視していないだけなのかもしれないけど、
少し頼んだだけで支給品を渡してくれるなんて。少しずつ運が回ってきたみたい)
対するメロは、
(普段の俺でもこの場面ならシルフスコープをブルーに預けたはずだ。
道具は扱える人間に持たせるのが当然。何も不自然なところはない。…………本当に、そうか?)
答えの出ない自問を胸に歩を進め始めた。
* * *
ニケの背中に揺られながら、一休は考える。
今、ここにいるのは自分とニケという少年だけ。
用心深いブルーもメロもいない以上、逃げるなら今が好機だろう。
だが、……それでいいのだろうか?
恐らく、瓦礫の下にいた自分を助けてくれたのはニケだったのだろう。
逃げるということは、ニケに恩を返せないばかりか、仇を返すことになってしまう。
一休は散々迷った結果、
(もう少し様子を見てみましょうかね。神社で本当に戦が起こっているのかも定かではないですし。
果報は寝て待て、落ち着けば存外うまく事が運ぶかもしれません。あわてないあわてない)
心中で口癖を呟き、一休の気絶のフリは今しばらく続くことになる。
今、ここにいるのは自分とニケという少年だけ。
用心深いブルーもメロもいない以上、逃げるなら今が好機だろう。
だが、……それでいいのだろうか?
恐らく、瓦礫の下にいた自分を助けてくれたのはニケだったのだろう。
逃げるということは、ニケに恩を返せないばかりか、仇を返すことになってしまう。
一休は散々迷った結果、
(もう少し様子を見てみましょうかね。神社で本当に戦が起こっているのかも定かではないですし。
果報は寝て待て、落ち着けば存外うまく事が運ぶかもしれません。あわてないあわてない)
心中で口癖を呟き、一休の気絶のフリは今しばらく続くことになる。
* * *
暗幕に黄金の真円を貼り付けたような空の下。
閑寂たる境内に二人の少女が佇む。
一人は長い銀髪に黒いドレスを着こなした、人形のような少女。
もう一人は、頭からつま先まで硬質のジャケットですっぽり覆われた、外見からは性別の判断もできない少女。
後者がボソッと口を開く。
閑寂たる境内に二人の少女が佇む。
一人は長い銀髪に黒いドレスを着こなした、人形のような少女。
もう一人は、頭からつま先まで硬質のジャケットですっぽり覆われた、外見からは性別の判断もできない少女。
後者がボソッと口を開く。
「来たぞ、二人だ」
「あら、どうして人数まで分かるの?」
「……、女の直感だ」
「ふふ、面白いこと言うのね」
「あら、どうして人数まで分かるの?」
「……、女の直感だ」
「ふふ、面白いこと言うのね」
短い会話が終わり、グレーテルは獲物がやってくる正面へと視線を戻す。
その様子を見て取り、息を吐きながら胸を撫で下ろす千秋。喉が干上がるような緊張に耐え切れなくなり、
間を持たせようと首輪探知機に映った情報をグレーテルに告げたのはいいが、少し喋りすぎた。
グレーテルにはこのレーダーのことは黙っている。
だというのに、自分が敵の接近どころか、人数まで把握しているとなれば不審に思われないはずがない。
咄嗟に女の直感などというどうしようもない切り返しをしてしまったが、何とか誤魔化せたようだ。
懐にはレーダー。そして、グレーテルに気付かせないように忍ばせている支給品が、もう一つ。
分厚いコートの下で冷熱入り混じった汗を噴出しながら、千秋はただ時を待つ。
その様子を見て取り、息を吐きながら胸を撫で下ろす千秋。喉が干上がるような緊張に耐え切れなくなり、
間を持たせようと首輪探知機に映った情報をグレーテルに告げたのはいいが、少し喋りすぎた。
グレーテルにはこのレーダーのことは黙っている。
だというのに、自分が敵の接近どころか、人数まで把握しているとなれば不審に思われないはずがない。
咄嗟に女の直感などというどうしようもない切り返しをしてしまったが、何とか誤魔化せたようだ。
懐にはレーダー。そして、グレーテルに気付かせないように忍ばせている支給品が、もう一つ。
分厚いコートの下で冷熱入り混じった汗を噴出しながら、千秋はただ時を待つ。
玉砂利が蹴飛ばされる澄んだ音。
次いで、石畳を駆ける硬い音。
来訪者の到来を告げる音。
次いで、石畳を駆ける硬い音。
来訪者の到来を告げる音。
グレーテルの期待がいよいよ前方に集中した、
その瞬間。
千秋は隠し持っていた何かを自身の直上、拝殿の屋根へと放った。
勢い良く伸びる鎖、ロングフックショットだ。
「!」
意図を察して振り向くグレーテル。が、間に合わない。
千秋はロングフックショットの力で拝殿の屋根へと楽々登りあがり、
夜空をバックにグレーテルを見下ろし、一言。
その瞬間。
千秋は隠し持っていた何かを自身の直上、拝殿の屋根へと放った。
勢い良く伸びる鎖、ロングフックショットだ。
「!」
意図を察して振り向くグレーテル。が、間に合わない。
千秋はロングフックショットの力で拝殿の屋根へと楽々登りあがり、
夜空をバックにグレーテルを見下ろし、一言。
「勝手にやってろ、バカ野郎」
そう吐き捨てた後、千秋は屋根を更に駆け上がり、拝殿の裏側のほうへと消えていった。
「残念だわ。舞踏会には付き合ってくれないのね」
言葉の端に落胆を載せて呟く。
グレーテルとて愚かではない。千秋を信用する気なんてなかったし、
背後から撃たれる可能性だって充分に考慮して構えてはいた。
だが、さすがにここまで大胆な逃走手段を千秋が用意しているとは想定していなかったのだ。
サンライトハートの推力を使えば追いつくのは容易だが、それでは間もなく現れる獲物の相手ができない。
そんなグレーテルの葛藤を見越した上での逃走なのだろう。
グレーテルとて愚かではない。千秋を信用する気なんてなかったし、
背後から撃たれる可能性だって充分に考慮して構えてはいた。
だが、さすがにここまで大胆な逃走手段を千秋が用意しているとは想定していなかったのだ。
サンライトハートの推力を使えば追いつくのは容易だが、それでは間もなく現れる獲物の相手ができない。
そんなグレーテルの葛藤を見越した上での逃走なのだろう。
「まあ、仕方ないわね。せっかく口を開けているだけで料理が飛び込んでくるんだから、
今はそっちを存分に楽しむべきよね、兄様」
今はそっちを存分に楽しむべきよね、兄様」
胸を躍らせるグレーテル。
その期待に応えるように、鳥居前の短い階段を駆け上がり、坊主を背負った少年が現れた。
その期待に応えるように、鳥居前の短い階段を駆け上がり、坊主を背負った少年が現れた。
「インデックス! ヴィータ! 無事か!」
神社全体に響かせるように、叫び声をあげるニケ。
冷静という言葉を置き去りにしてきた彼は、2度3度と境内を見回すも、状況がまるで頭に入らない。
拝殿の中央の人影に気付いたのは、視線の往復が5回を数えた後だった。
ニケはその人影、銀髪の少女に歩み寄り問いかける。
冷静という言葉を置き去りにしてきた彼は、2度3度と境内を見回すも、状況がまるで頭に入らない。
拝殿の中央の人影に気付いたのは、視線の往復が5回を数えた後だった。
ニケはその人影、銀髪の少女に歩み寄り問いかける。
「丁度良かった。なあ、ここで女の子を3人見かけなかったか?
一人はほぼ真っ裸で、君みたいに銀色の長い髪をしているんだけど」
「……あなたを、待っていたの」
一人はほぼ真っ裸で、君みたいに銀色の長い髪をしているんだけど」
「……あなたを、待っていたの」
は? と、ニケの心臓に変な鈍痛が走る。
脈絡のない返答に、どぎまぎしながら少女の顔を覗き込んでみれば、
火照るような熱い視線で出迎えられた。
……ふむ。
ニケが唸る。次いで一休を落とさないように背負いなおす。
更にその状態を保持したまま器用に右の拳をグッと突き上げる。
最後に表情を固めたまま、思った。
脈絡のない返答に、どぎまぎしながら少女の顔を覗き込んでみれば、
火照るような熱い視線で出迎えられた。
……ふむ。
ニケが唸る。次いで一休を落とさないように背負いなおす。
更にその状態を保持したまま器用に右の拳をグッと突き上げる。
最後に表情を固めたまま、思った。
(遂にぃっ!! 遂に俺の勇者カリスマは初対面の女の子を惹き付けるほどに高まったんだなあ……っ!!)
感動にむせび泣くニケ。
だが、彼の至福のときはこれだけでは終わらない。
だが、彼の至福のときはこれだけでは終わらない。
「私と……一つになりましょう」
「!?」
「!?」
少女はにこやかな笑顔で、途轍もない爆弾を投下してきた。
ニケの思考が弾け飛ぶ。
ニケの思考が弾け飛ぶ。
(お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉおっっっ!!?)
まさか! これが世に名高きsnegなのか!?
S・N・E・G! 通称ソレ・ナンテ・エ……なんだっけ?)
まさか! これが世に名高きsnegなのか!?
S・N・E・G! 通称ソレ・ナンテ・エ……なんだっけ?)
そこにいたのは笑いを忘れたら死んでしまう悲しい生き物だった。
ニケはがっつこうとする態度をひた隠し、大人の余裕溢れる落ち着いた声色を出そうとして、
結局失敗してしまったような半分上ずった声で返す。
ニケはがっつこうとする態度をひた隠し、大人の余裕溢れる落ち着いた声色を出そうとして、
結局失敗してしまったような半分上ずった声で返す。
「も、ももちろん、喜んで……!」
「嬉しいわ。では、これを受け取ってくださる?」
「嬉しいわ。では、これを受け取ってくださる?」
ははは、何でも来なさいと大きく胸を張るニケ。
しかし次の瞬間、一転して彼の顔は蒼白となった。
視界の中で空が断ち割られたからだ――眼前の鈍色によって。
息を呑むより先に後方へ跳躍。
直後、先ほどニケの立っていた場所に身の丈ほどの大槍が振り下ろされていた。
砕け飛んだ地面を見やり、ニケの全身が総毛立つ。
しかし次の瞬間、一転して彼の顔は蒼白となった。
視界の中で空が断ち割られたからだ――眼前の鈍色によって。
息を呑むより先に後方へ跳躍。
直後、先ほどニケの立っていた場所に身の丈ほどの大槍が振り下ろされていた。
砕け飛んだ地面を見やり、ニケの全身が総毛立つ。
「だああっ!? い、いきなり何するんだよ! 殺す気か!」
「? そうよ、何か問題があるかしら?」
「大有りだチクショー! 何が一つになりましょうだ!
純真無垢、いたいけな少年の心を弄びやがって! オレのトキメキを返せ!!」
「あら、弄んだつもりなんてないわ。私たちは人を殺して命を増やせるのだから。
never die, 殺した命と一つになって、永遠に生き続けるのよ。素晴らしいでしょう?」
「? そうよ、何か問題があるかしら?」
「大有りだチクショー! 何が一つになりましょうだ!
純真無垢、いたいけな少年の心を弄びやがって! オレのトキメキを返せ!!」
「あら、弄んだつもりなんてないわ。私たちは人を殺して命を増やせるのだから。
never die, 殺した命と一つになって、永遠に生き続けるのよ。素晴らしいでしょう?」
理解の埒外の言葉。ニケはそれを無理矢理頭の中に押し込み、暫し絶句した後、
「……う、くぅ……ひっく……」
突然、幼子のようにすすり泣きを始めた。
「ふふ、悲しむことなんて何もないわ。避けなければすぐに終わらせてあげるから」
「……ひっく……もう嫌だ……。会う女の子会う女の子ほとんどSばっかりじゃねーか……。
しかも今度はヤンデレ電波系なんてアブノーマルなジャンルときたもんだ。
うぅ、どこかにオレを癒してくれる心優しい普通の女の子はいませんかー?
勇者傷心中につき大安売り、今なら硬派なオレも簡単に落とせてお得ですよー。はぁ……」
「……ひっく……もう嫌だ……。会う女の子会う女の子ほとんどSばっかりじゃねーか……。
しかも今度はヤンデレ電波系なんてアブノーマルなジャンルときたもんだ。
うぅ、どこかにオレを癒してくれる心優しい普通の女の子はいませんかー?
勇者傷心中につき大安売り、今なら硬派なオレも簡単に落とせてお得ですよー。はぁ……」
盛大な溜息を落とし、一変。
それがスイッチであったかのようにニケは自信たっぷりに相好を崩す。
それがスイッチであったかのようにニケは自信たっぷりに相好を崩す。
「ふ、まあいい。このオレにケンカを売ってきたんだからたとえ女の子でも容赦はしないぜ。
――見せてやる、オレたちの結束の力を!! メロさん、ブルーさん、懲らしめてやりなさい!」
――見せてやる、オレたちの結束の力を!! メロさん、ブルーさん、懲らしめてやりなさい!」
ゆうしゃ は えんぐん を よんだ!
しかし だれ も あらわれない!
しかし だれ も あらわれない!
「……、……あっれー? メロさーん、ブルーさーん?」
まさに縋るための藁を探すような面持ちで辺りを見回す。
頬を伝う嫌な汗。
それが顎下にたまり地面に落ちるころ。
ニケはようやく一つの結論に行き着いた。
(しまったあああああ! あの二人置いてきちまったのかよオレ!!?)
頬を伝う嫌な汗。
それが顎下にたまり地面に落ちるころ。
ニケはようやく一つの結論に行き着いた。
(しまったあああああ! あの二人置いてきちまったのかよオレ!!?)
「――お祈りは済ませたかしら?」
一休を背負ったニケは倒れそうな勢いで横っ飛びをして、迫り来る突撃から辛うじて逃れる。
後方で破砕音。驚き振り向けば少女の大槍が石造りの灯篭を呆気なく打ち砕いた音だった。
次はおまえだ、とばかりに閃く銀色の刃。
訪れ得る未来を幻視したニケは、ごくりと生唾を飲み込み全力で逃走を図る。
後方で破砕音。驚き振り向けば少女の大槍が石造りの灯篭を呆気なく打ち砕いた音だった。
次はおまえだ、とばかりに閃く銀色の刃。
訪れ得る未来を幻視したニケは、ごくりと生唾を飲み込み全力で逃走を図る。
「ぐおおおおおおおおっ! 死ぬ、これはホントに死ねるぞ冗談じゃねー!!
メロオオオオオオ! ブルゥゥゥゥゥゥ! いるんだろぉっ!
いたら返事してお願いします迷子の勇者が一人でぎゃーーーーっ!!?」
メロオオオオオオ! ブルゥゥゥゥゥゥ! いるんだろぉっ!
いたら返事してお願いします迷子の勇者が一人でぎゃーーーーっ!!?」
神聖たる神社にひどく不似合いな、間抜けな叫び声と炸裂音が響き続ける。
* * *
「はあ……はあ……、ど、どうにかまけたみたいだな」
大槍を振り回す少女と命がけの鬼ごっこを繰り広げ、ニケは社務所の一室に身を潜めていた。
とはいえ、それで少女をやり過ごすつもりはない。そもそも見つかるのも時間の問題だろう。
ここに来たのは未だ意識の戻らない一休を安全に隠したいがためだ。
できればメロたちに預けたいところだが、二人がどこにいるのか、
そもそも神社に向かってきてくれているのかも分からない。
また、一休を連れたまま神社の外まで逃げるのも危険性が高い、
そんな考えから至った結論がこの場所だった。
一時の安らぎに身を委ね、ニケは珍しく自己嫌悪に苛まれる。
とはいえ、それで少女をやり過ごすつもりはない。そもそも見つかるのも時間の問題だろう。
ここに来たのは未だ意識の戻らない一休を安全に隠したいがためだ。
できればメロたちに預けたいところだが、二人がどこにいるのか、
そもそも神社に向かってきてくれているのかも分からない。
また、一休を連れたまま神社の外まで逃げるのも危険性が高い、
そんな考えから至った結論がこの場所だった。
一時の安らぎに身を委ね、ニケは珍しく自己嫌悪に苛まれる。
「……ホント、オレってバカだよな。一休とか言ったっけ?
オレが一人で突っ込んだからオマエも巻き込んじまったし、
今ごろメロとブルーも怒るか呆れるかしてるんだろうな。
……ジュジュが死んだって聞いて、自分が思ってるより焦ってるのかもな。
インデックスたちが危ないって思ったときには頭が真っ白になって、
気付いたらここに来てたんだからさ」
オレが一人で突っ込んだからオマエも巻き込んじまったし、
今ごろメロとブルーも怒るか呆れるかしてるんだろうな。
……ジュジュが死んだって聞いて、自分が思ってるより焦ってるのかもな。
インデックスたちが危ないって思ったときには頭が真っ白になって、
気付いたらここに来てたんだからさ」
埃っぽいような焦げ臭いような畳の上に、
相変わらず女児用スク水と縄跳びを身に着けた一休を横たえる。
本当は今すぐ逃げたい。しかし一休を置いていくわけにもいかないし、
インデックスたちの安否も不明だ。
ニケはさきほどの大槍を軽々振り回していた少女を思う。
自分一人で勝てるのだろうか。
いつもは自分が敵を惹き付けていればククリがグルグルでモンスターを倒してくれていた。
最低限、撹乱さえできればククリが何とかしてくれていたのだ。
しかし、今は違う。
頼りになるのは自分の力と僅かばかりの支給品。それだけだ。
相変わらず女児用スク水と縄跳びを身に着けた一休を横たえる。
本当は今すぐ逃げたい。しかし一休を置いていくわけにもいかないし、
インデックスたちの安否も不明だ。
ニケはさきほどの大槍を軽々振り回していた少女を思う。
自分一人で勝てるのだろうか。
いつもは自分が敵を惹き付けていればククリがグルグルでモンスターを倒してくれていた。
最低限、撹乱さえできればククリが何とかしてくれていたのだ。
しかし、今は違う。
頼りになるのは自分の力と僅かばかりの支給品。それだけだ。
「……あれこれ悩むところじゃないよな。行くとするか!」
萎えそうな心を奮い立たせ、ニケは社務所の外へと飛び出していった。
ニケが去り、火が消えたように寂然とする社務所。
明かりもなく薄暗い屋内で、突如もぞもぞと蠢き始めたものがある。
一人残された一休が、両腕を拘束している縄を解こうともがいているのだ。
明かりもなく薄暗い屋内で、突如もぞもぞと蠢き始めたものがある。
一人残された一休が、両腕を拘束している縄を解こうともがいているのだ。
(にけさんには申し訳ないですが、やはり今のうちに逃げるとしましょう。
戦も本当に起こっていましたし……、荒事は慣れている人たちに任せて、
しがない小坊主は退散退散です)
戦も本当に起こっていましたし……、荒事は慣れている人たちに任せて、
しがない小坊主は退散退散です)
これまでずっと思案を巡らせていた一休の採った選択は、結局それだった。が、
「むむ、これは解き難いですね。こっちを緩めるとこっちが締まって……
ここを引っ張ると結びがきつく……、何と面妖な……」
ここを引っ張ると結びがきつく……、何と面妖な……」
両手を拘束された状態からの脱出はやはり困難だった。
* * *
拝殿前の広場。そこから境内全体を眺めていたグレーテルの口元に笑みが宿る。
見失ったはずの金髪の少年が物陰から現れてくれたからだ。
見失ったはずの金髪の少年が物陰から現れてくれたからだ。
「せっかくうまく隠れられたのに、自分から出てくるなんて潔いのね。
そういう人は好きよ」
「うわー、好きって言われるのがこんなに嬉しくないなんて初めて知ったぜ……。
逃げたいのはヤマヤマなんだけど、おまえにはインデックスとヴィータのこと聞かないとだから、――ッ!?」
そういう人は好きよ」
「うわー、好きって言われるのがこんなに嬉しくないなんて初めて知ったぜ……。
逃げたいのはヤマヤマなんだけど、おまえにはインデックスとヴィータのこと聞かないとだから、――ッ!?」
舌打ちと共にギィン! という金属音が境内の空気を震わせる。
無手だったはずのグレーテル、その両手に先刻のように突然大槍が出現し、一気にニケとの距離を詰めてきたのだ。
相対したニケも魔法剣キラキラ『自分の剣』を生み出し、大加速大質量の突撃を受け止める。
が、非力なニケの戦闘スタイルに受け止めるという選択肢は存在しない。
風に吹かれた紙吹雪のように勢い良く吹き飛ばされ、建物の壁に身体を打ち付ける。
衝撃で自分の剣は一瞬で消滅していた。
無手だったはずのグレーテル、その両手に先刻のように突然大槍が出現し、一気にニケとの距離を詰めてきたのだ。
相対したニケも魔法剣キラキラ『自分の剣』を生み出し、大加速大質量の突撃を受け止める。
が、非力なニケの戦闘スタイルに受け止めるという選択肢は存在しない。
風に吹かれた紙吹雪のように勢い良く吹き飛ばされ、建物の壁に身体を打ち付ける。
衝撃で自分の剣は一瞬で消滅していた。
「げほっ……、この、人の話くらい――」
言い終わる間もなく、上方45°から山吹色の箒星が落下してきた。
身を捻って側転したニケの悲鳴は壁の破砕音に掻き消える。
パラパラ飛び散る破片と一緒に、軽業師のようなバク転を2回。
距離をとったニケは立ち込める砂埃の向こうの人影、
この島でリリス以外に初めて出会った明々白々な敵の姿を凝視し、叫びを飛ばす。
身を捻って側転したニケの悲鳴は壁の破砕音に掻き消える。
パラパラ飛び散る破片と一緒に、軽業師のようなバク転を2回。
距離をとったニケは立ち込める砂埃の向こうの人影、
この島でリリス以外に初めて出会った明々白々な敵の姿を凝視し、叫びを飛ばす。
「なんなんだよ、なんでそんなことができるんだよ!?
そんなにあのおっさんに叶えてもらいたい願いがあるのか!?」
そんなにあのおっさんに叶えてもらいたい願いがあるのか!?」
槍が光を噴射し、またも一瞬で距離がゼロになる。
わずかに身をかわし突撃を避けるニケに対し、
踏み抜いた足を軸に、突進を遠心力に転化させて横薙ぎの追撃をかけるグレーテル。
ニケはこれをグレーテルの真上を跳び越すことで逃れる。
一瞬だけ互いに背中合わせの状況になり、すぐさま大槍の連続突きが小康状態を打ち崩す。
わずかに身をかわし突撃を避けるニケに対し、
踏み抜いた足を軸に、突進を遠心力に転化させて横薙ぎの追撃をかけるグレーテル。
ニケはこれをグレーテルの真上を跳び越すことで逃れる。
一瞬だけ互いに背中合わせの状況になり、すぐさま大槍の連続突きが小康状態を打ち崩す。
「ふふ、あはは! おかしいわ、みんなそう訊いてくるんだもの!
それが世界のルールだからに決まっているじゃない!」
それが世界のルールだからに決まっているじゃない!」
突きの合間にサンライトハートがエネルギーを解放。
扇状に放射された電光にニケが弾き飛ばされる。
ニケは苦悶の声を漏らしながら宙で受身の態勢をとり、どうにか両足で着地し大声で異を唱える。
扇状に放射された電光にニケが弾き飛ばされる。
ニケは苦悶の声を漏らしながら宙で受身の態勢をとり、どうにか両足で着地し大声で異を唱える。
「ッ痛、いきなり世界だとかスケールのデカイ寝言を言うな! あんなもんこの島だけのルールだ!
しかも『私は魔界の救世主、冥王だ……!』とか真顔でぬかすおっさんが勝手にほざいてるだけじゃねーか!
『春はこういうのが多いね』とか『かわいそうに昔はあんな子じゃなかったのよ』って反応すんのが普通だろ!!」
「いいえ、世界のルールだわ。ジェダなんて関係ない、ここに来る前から何も変わっていない。
これまでもこれからもずっと続いていく絶対の決まりごとなの」
しかも『私は魔界の救世主、冥王だ……!』とか真顔でぬかすおっさんが勝手にほざいてるだけじゃねーか!
『春はこういうのが多いね』とか『かわいそうに昔はあんな子じゃなかったのよ』って反応すんのが普通だろ!!」
「いいえ、世界のルールだわ。ジェダなんて関係ない、ここに来る前から何も変わっていない。
これまでもこれからもずっと続いていく絶対の決まりごとなの」
槍を正面に突き出し、突進するグレーテル。
「さっきからワケのわかんねーことを……!
こいつで止まれ! 光魔法――『カッコいいポーズ』!!」
こいつで止まれ! 光魔法――『カッコいいポーズ』!!」
ニケは宙へと浮き上がり、片足を上げ真っ直ぐに指を突き出し、最高の笑顔を輝かせる。
淡く辺りを照らす後背光。
見るものの心を奪い、悪しきものの行動を束縛する――それが光魔法『カッコいいポーズ』だ。
ただし、
淡く辺りを照らす後背光。
見るものの心を奪い、悪しきものの行動を束縛する――それが光魔法『カッコいいポーズ』だ。
ただし、
「ぐわああっ!?」
モンスター以外への効き目は無いに等しい。
グレーテルの勢いは全く衰えず、ニケは大槍に砕かれた地面ごと空へと巻き上げられ、遠方へと無様に落下する。
グレーテルの勢いは全く衰えず、ニケは大槍に砕かれた地面ごと空へと巻き上げられ、遠方へと無様に落下する。
「……くそー、やっぱリリスとかエヴァのときみたいにはいかねーか」
「くすくす、愉快だわ。ねえ、天国はとても楽しいところだそうよ。
あなたならきっと賑やかに過ごせるわ、そろそろ旅立つ準備はできたかしら?」
「まさか。オレが天国に行くのはギリを倒した後だって決まってるんでね、ストーリー的に」
「足掻いてもみっともないだけよ。天使はあなたを連れて行きたくてウズウズしているのだから!」
「くすくす、愉快だわ。ねえ、天国はとても楽しいところだそうよ。
あなたならきっと賑やかに過ごせるわ、そろそろ旅立つ準備はできたかしら?」
「まさか。オレが天国に行くのはギリを倒した後だって決まってるんでね、ストーリー的に」
「足掻いてもみっともないだけよ。天使はあなたを連れて行きたくてウズウズしているのだから!」
大槍の飾り布が光と同化。
爆発した光を蹴って、グレーテルが一足飛びでニケとの距離を縮めていく。
瞬間、ニケの顔にニィッと不敵な笑みが刻まれた。
爆発した光を蹴って、グレーテルが一足飛びでニケとの距離を縮めていく。
瞬間、ニケの顔にニィッと不敵な笑みが刻まれた。
「いい加減パターンだな、そう何度も飛ばされてたまるかよ! ――伸びろ、オレの剣!!」
突き出した右手から、ニケを模った黄金色の剣が一直線にグレーテルへと向かっていく。
サンライトハートの噴射で宙を駆けるグレーテルは突如伸びた奇怪な剣に虚を突かれる。
しかし彼女は冷静だ。迫り来るニケの剣を大槍で弾こうと振りかぶる。が、
「!?」
ぐにゃりと。
ニケの剣はロープのように自身をたわませ、槍の軌道から逃れた。
そのまま伸張を続け、未だ突撃の慣性で飛び続けるグレーテルの足に絡みつき――――
サンライトハートの噴射で宙を駆けるグレーテルは突如伸びた奇怪な剣に虚を突かれる。
しかし彼女は冷静だ。迫り来るニケの剣を大槍で弾こうと振りかぶる。が、
「!?」
ぐにゃりと。
ニケの剣はロープのように自身をたわませ、槍の軌道から逃れた。
そのまま伸張を続け、未だ突撃の慣性で飛び続けるグレーテルの足に絡みつき――――
「フィーッシュッッッ!!!」
一気に収縮。
足を力点にグレーテルの身体をバトンのように数回転させ、地面へと盛大に叩き落とした。
砂袋を捨てたような鈍い音。
くぐもった呻き声が、確かなダメージを与えたことをニケに確信させる。
足を力点にグレーテルの身体をバトンのように数回転させ、地面へと盛大に叩き落とした。
砂袋を捨てたような鈍い音。
くぐもった呻き声が、確かなダメージを与えたことをニケに確信させる。
「どうだ! オレの勝ちだっ!」
「……このくらいで、何を言っているのかしら?」
「……このくらいで、何を言っているのかしら?」
槍の噴射を利用し、素早く起き上がるグレーテル。
看過できない痛みを抱いているはずなのに、その所作に澱みは見られない。
看過できない痛みを抱いているはずなのに、その所作に澱みは見られない。
「もう同じ轍は踏まないわ。
あんな奇襲に頼ったのに私を殺せなかったあなたの負けよ」
あんな奇襲に頼ったのに私を殺せなかったあなたの負けよ」
槍を構えなおしながらの毅然とした宣告。それに対しニケは、
「……っぷ、ははっ、ははははははははははは!」
堪えきれなくなった何かを思う存分吹き出し始めていた。
未だ続く命がけの均衡、それさえもどうしたと笑い飛ばすかのように。
未だ続く命がけの均衡、それさえもどうしたと笑い飛ばすかのように。
「……何が可笑しいの?」
「はは、解ってねー。本当に解ってねーんだな、オマエ」
「はは、解ってねー。本当に解ってねーんだな、オマエ」
まるで指先で羽虫を押し潰すかのようにゆっくりと。ニケはグレーテルを指差し、きっぱりと断言する。
「――だからオレの勝ちなんだよ」
ゾクリと。
グレーテルの背を無数の怖気が這い回る。
何かをされた憶えはない。しかし、それがもし自分が気付いていないだけならどうなる?
敵は既にチェックメイトの布陣を敷いていて、あとは網にかかるのを待っているだけだとしたら?
この島には幾つもの超常現象が存在している。少年の得体の知れない自信をブラフだと断じるにはリスクが高すぎる。
現に彼は自分の武装錬金と同様、何もないところから剣を取り出していたのだから。
今もあの真っ直ぐに突き出した指から何かを放とうとしているのでは? と、警戒の色を濃くするグレーテル。
そんな彼女をよそに、ニケはグレーテルの顔へと向けていた指を、徐々に徐々に下げていく。
端正な顔、艶かしい首筋、穴の空いたドレスから覗く薄い胸部……それらをなぞる様に動くニケの指。
やがてそれはある一点を指すことでピタリと止まる。
スカートだった。ニケが叫ぶ。
グレーテルの背を無数の怖気が這い回る。
何かをされた憶えはない。しかし、それがもし自分が気付いていないだけならどうなる?
敵は既にチェックメイトの布陣を敷いていて、あとは網にかかるのを待っているだけだとしたら?
この島には幾つもの超常現象が存在している。少年の得体の知れない自信をブラフだと断じるにはリスクが高すぎる。
現に彼は自分の武装錬金と同様、何もないところから剣を取り出していたのだから。
今もあの真っ直ぐに突き出した指から何かを放とうとしているのでは? と、警戒の色を濃くするグレーテル。
そんな彼女をよそに、ニケはグレーテルの顔へと向けていた指を、徐々に徐々に下げていく。
端正な顔、艶かしい首筋、穴の空いたドレスから覗く薄い胸部……それらをなぞる様に動くニケの指。
やがてそれはある一点を指すことでピタリと止まる。
スカートだった。ニケが叫ぶ。
「おぉどろきの白さでしたあーーーーーーッッ!!!」
夜空に大呼。
清清しさすら感じる愚かな大呼が打ちあがる。
清清しさすら感じる愚かな大呼が打ちあがる。
「いやー、壮観だったぜ。釣り上げたら傘が開くみたいにこう、ブワァッ! と捲れるんだもんな~。
黄金の満月に照らされた真っ白な脚、そして下着!
黒いドレスとのコントラストにオレは代え難い芸術を見たッ!
これを勝利と言わずして何が勝利か!? オレは今自分が誇らしくてたまらない!
……しっかしエヴァといいオマエといい随分あだるとなお召し物ですね。
インデックスのもそんな感じだったか? とにかく布面積小さすぎだろ……。
ククリのぶかぶかパンツとは大違いだ。ん? もしかしてククリみたいなのが少数派ってことか?
大変だ! こいつは早くオレ直々に観察して調査せねばっ!」
黄金の満月に照らされた真っ白な脚、そして下着!
黒いドレスとのコントラストにオレは代え難い芸術を見たッ!
これを勝利と言わずして何が勝利か!? オレは今自分が誇らしくてたまらない!
……しっかしエヴァといいオマエといい随分あだるとなお召し物ですね。
インデックスのもそんな感じだったか? とにかく布面積小さすぎだろ……。
ククリのぶかぶかパンツとは大違いだ。ん? もしかしてククリみたいなのが少数派ってことか?
大変だ! こいつは早くオレ直々に観察して調査せねばっ!」
バーバラパッパパー♪ 【ニケの称号『すけべ大魔神』のレベルがあがりました】
「ふ、今回ばかりは思う存分褒め称えてくれたまえ天の声よ。オレの勝ち得た証をなあっ!」
「……くすくす」
「あれ? 下着見られたのにその余裕? ……なんか新鮮だな。
女の子はみんな例外なく暴力的なツッコミ入れるもんだと思ってたけど。蹴るとか殴るとかさ。
約一名はマンネリにならないようにするためか噛み付きで個性を主張してくるから困る」
「……くすくす」
「あれ? 下着見られたのにその余裕? ……なんか新鮮だな。
女の子はみんな例外なく暴力的なツッコミ入れるもんだと思ってたけど。蹴るとか殴るとかさ。
約一名はマンネリにならないようにするためか噛み付きで個性を主張してくるから困る」
グレーテルは軽く腹を抱えて心から楽しそうに朗笑する。
「あはははは……。本当に可笑しかったわ。こんなに笑ったのは久しぶり。
あなたみたいな人に会ったのは初めてかも」
「! フラグか!? じゃあこんな物騒なやりとりはやめて一緒にお茶でも――」
「くす、そんなに見たいなら早く言ってくれれば良かったのに」
あなたみたいな人に会ったのは初めてかも」
「! フラグか!? じゃあこんな物騒なやりとりはやめて一緒にお茶でも――」
「くす、そんなに見たいなら早く言ってくれれば良かったのに」
え?
そんな感想しか浮かばない間の出来事だった。
少女が下着を脱ぎ去り両手で黒いスカートをつまみ上げ、
月光とニケの視界に余すことなくその中身をさらけ出したのは。
少女が下着を脱ぎ去り両手で黒いスカートをつまみ上げ、
月光とニケの視界に余すことなくその中身をさらけ出したのは。
「ちょ、え!? 何やって! ……るん、だ、……よ?」
中を見てしまった瞬間。
ニケの喉は一瞬で干上がり、言葉を閉ざした。
人は理解できないものを言葉にすることはできない。
それでも無理に解釈を与えるなら、虫だ、とニケは思った。
少女の下腹部。そこに毒虫が巣食っていた。少なくともニケの目にはそう見えたのだ。
性別の違いがどうというレベルはとっくに超えている、あえて論ずるなら性別ではなく生物のレベルでなければ話にならない。
あれが同じ人間の下腹部だと一目で当てる人間がいたらそいつの神経をまず疑う、そんな惨状だった。
フルーツケーキを想像して欲しい。丸くふんわりしたスポンジに、
みかん、パイン、もも、チェリーなどの色とりどりのフルーツを埋め込んだあれだ。
あれに入っている果物全てをくすんだ赤、煤けた青、腐った紫、焦げた黒に彩色したゴキブリなどの害虫に置き換えれば、
ニケの見た地獄に近いものが完成する。
毒々しい色で歪に膨らんでいたそこは身体の皮膚と一体化した毒虫が、
肉を突き破って外に出たがっているように見えた。
ニケの喉は一瞬で干上がり、言葉を閉ざした。
人は理解できないものを言葉にすることはできない。
それでも無理に解釈を与えるなら、虫だ、とニケは思った。
少女の下腹部。そこに毒虫が巣食っていた。少なくともニケの目にはそう見えたのだ。
性別の違いがどうというレベルはとっくに超えている、あえて論ずるなら性別ではなく生物のレベルでなければ話にならない。
あれが同じ人間の下腹部だと一目で当てる人間がいたらそいつの神経をまず疑う、そんな惨状だった。
フルーツケーキを想像して欲しい。丸くふんわりしたスポンジに、
みかん、パイン、もも、チェリーなどの色とりどりのフルーツを埋め込んだあれだ。
あれに入っている果物全てをくすんだ赤、煤けた青、腐った紫、焦げた黒に彩色したゴキブリなどの害虫に置き換えれば、
ニケの見た地獄に近いものが完成する。
毒々しい色で歪に膨らんでいたそこは身体の皮膚と一体化した毒虫が、
肉を突き破って外に出たがっているように見えた。
「――――ぅ、ぁ」
ニケは何も言うことができなかった。
息を吸っても吐いても喉から込み上げる吐瀉物が全て堰き止める。
声など出せようはずがなかった。
口を開けば唾液胃液と元の形も解らない消化物が出てくるのが目に見えていたのだから。
身体をくの字に折って涙を目蓋に溜め込みながら両手で口を押さえる。
たったそれだけだった。ニケに許された自由は。
息を吸っても吐いても喉から込み上げる吐瀉物が全て堰き止める。
声など出せようはずがなかった。
口を開けば唾液胃液と元の形も解らない消化物が出てくるのが目に見えていたのだから。
身体をくの字に折って涙を目蓋に溜め込みながら両手で口を押さえる。
たったそれだけだった。ニケに許された自由は。
「ねえお兄さん? どう? 見たかったんでしょ? 嬉しい? 満足した? ねえったら!
ふふ、ふふふ、……アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!」
ふふ、ふふふ、……アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!」
グレーテルはあまりに予想通りの反応に呵呵大笑と嘲った。
そう。自分のソコを見た人間、明るく眩しい世界にいる人間は皆眼前の少年と同じ行動を採るのだ。
咳き込み内蔵物をぶちまけ地面に蹲って腹が空になっても口から胃液を垂れ流し続ける。
どんなにいきり立ったモノも一目で不能にする極上のトラウマ。
ポルノとスナッフビデオに出演させられ続け、磨り減り過ぎて買い手のつかなくなった商品価値の残骸がコレだった。
そう。自分のソコを見た人間、明るく眩しい世界にいる人間は皆眼前の少年と同じ行動を採るのだ。
咳き込み内蔵物をぶちまけ地面に蹲って腹が空になっても口から胃液を垂れ流し続ける。
どんなにいきり立ったモノも一目で不能にする極上のトラウマ。
ポルノとスナッフビデオに出演させられ続け、磨り減り過ぎて買い手のつかなくなった商品価値の残骸がコレだった。
「分かったかしら? ココにあるのはルールに連なる世界の色。
私の見ている世界はみんなこんな色なの。
大人はみんな私たちがどれだけ面白い殺し方、殺され方をするのかにしか興味はなかった。
そしてあの人たちの望みどおりにならなければ夜通し蹴られ続けるの。
身体中の穴という穴から血を垂れ流して、それをベッドに眠ったことなんて何回あったのかも憶えていない。
そんなとき気付いたの。人を殺して世界が回る。世界が回って人を殺す。
それがルールなんだって。だからあなたにも死んでもらうの、私たちが永遠に生き続ける為に。
回される側には絶対にならない、人を殺して殺して殺し続けて私たちがずっとリングを回す側に居続けるのよ」
私の見ている世界はみんなこんな色なの。
大人はみんな私たちがどれだけ面白い殺し方、殺され方をするのかにしか興味はなかった。
そしてあの人たちの望みどおりにならなければ夜通し蹴られ続けるの。
身体中の穴という穴から血を垂れ流して、それをベッドに眠ったことなんて何回あったのかも憶えていない。
そんなとき気付いたの。人を殺して世界が回る。世界が回って人を殺す。
それがルールなんだって。だからあなたにも死んでもらうの、私たちが永遠に生き続ける為に。
回される側には絶対にならない、人を殺して殺して殺し続けて私たちがずっとリングを回す側に居続けるのよ」
そしてグレーテルは目を細めてまた嗤った。とうとう蹲ったニケ、光り輝く世界を唾棄するかのように。
ニケは未だに口を押さえて鼻だけで荒く長い呼吸を繰り返すだけだった。
閉め切った口の中がカエルのそれのように膨らみ、手を離せば決壊するのが容易に見て取れる。
もうこれでいいだろう、とグレーテルは思った。
地に臥した少年はずっと吐き気と戦っているようだが、別に回復を待ってやる義理はない。
ありきたりで、けれど惨めで楽しいショーを見られたのだからこのまま殺してしまおう。
そんな結論を下し、止めを刺そうと一歩を踏み出した瞬間。
よろよろと。
ゆっくり、ニケが立ち上がった。
片手で口を押さえ、リハビリ中の患者のようなたどたどしい動きで。
そうして思い切り天を仰ぎ――――、
ゴクリと。
吐き出しかけていたものを無理矢理胃の中に押し込んだ。
ニケは未だに口を押さえて鼻だけで荒く長い呼吸を繰り返すだけだった。
閉め切った口の中がカエルのそれのように膨らみ、手を離せば決壊するのが容易に見て取れる。
もうこれでいいだろう、とグレーテルは思った。
地に臥した少年はずっと吐き気と戦っているようだが、別に回復を待ってやる義理はない。
ありきたりで、けれど惨めで楽しいショーを見られたのだからこのまま殺してしまおう。
そんな結論を下し、止めを刺そうと一歩を踏み出した瞬間。
よろよろと。
ゆっくり、ニケが立ち上がった。
片手で口を押さえ、リハビリ中の患者のようなたどたどしい動きで。
そうして思い切り天を仰ぎ――――、
ゴクリと。
吐き出しかけていたものを無理矢理胃の中に押し込んだ。
「っはあ、はあ、はあ……」
新鮮な空気がひどく懐かしい。呼吸を整えながら、ニケは思う。
込み上げたものを吐き出してしまえば、少女の言い分を全て認めてしまうことになる。
少女の言う世界のルール、ジェダの定めたルールに絶対に勝てなくなってしまう。
そんな気がした。
だから、絶対にここを譲るわけにはいかなかったのだ。
瞳にありったけの力を掻き集め、ニケはグレーテルを睨みつける。
込み上げたものを吐き出してしまえば、少女の言い分を全て認めてしまうことになる。
少女の言う世界のルール、ジェダの定めたルールに絶対に勝てなくなってしまう。
そんな気がした。
だから、絶対にここを譲るわけにはいかなかったのだ。
瞳にありったけの力を掻き集め、ニケはグレーテルを睨みつける。
「はあ、はあ、はあ……。もう、終わりか?
だったら今度はこっちの番だなぁッ……!」
だったら今度はこっちの番だなぁッ……!」
グッと、ニケは右の拳を届かぬ距離にいるグレーテルに向かって突き出す。
臨戦態勢をとるグレーテル。
ニケはそれを確認した上で、それでも。
握った拳をパッ、と開いた。
まるで握手を求めているかのように。いや違う、事実彼女の手をとろうとしているのだ。
グレーテルが驚愕に僅か表情を歪めるのを無視して、ニケは叫ぶ。
臨戦態勢をとるグレーテル。
ニケはそれを確認した上で、それでも。
握った拳をパッ、と開いた。
まるで握手を求めているかのように。いや違う、事実彼女の手をとろうとしているのだ。
グレーテルが驚愕に僅か表情を歪めるのを無視して、ニケは叫ぶ。
「オレの名前はニケだ! オマエの名前は!?」
「……? 名前なんて憶えてないわ。ここにはグレーテルって書かれているけど」
「じゃあグレーテルって呼ぶぞ! グレーテル! オレは勇者だ!
無理矢理担がれただけのダメ勇者だけど、最近ほんの少しだけ世界を救おうって思えてきたんだ!
けど今のオレにはオマエやジェダの言うルールをぶち壊す方法が思いつかない!
だからこう言うぞ!」
「……? 名前なんて憶えてないわ。ここにはグレーテルって書かれているけど」
「じゃあグレーテルって呼ぶぞ! グレーテル! オレは勇者だ!
無理矢理担がれただけのダメ勇者だけど、最近ほんの少しだけ世界を救おうって思えてきたんだ!
けど今のオレにはオマエやジェダの言うルールをぶち壊す方法が思いつかない!
だからこう言うぞ!」
ニケは一呼吸置いて言い聞かせるように声を振り絞る。
「そんなクソみたいな世界捨てて逃げちまえよ!
オマエがいた場所なんて全部捨ててオレがいた場所に一緒に来い!」
「何を言っているの? 私は今の世界もルールも好きよ。
臓物の感触も、半死体に釘を打って脊髄反射させて遊ぶのも、
かち割った頭から流れた脳漿と血が混ざり合ってピンク色のスープになる様も大好きだわ」
「そんなものよりもっとずっと好きになれるものがあるかもしれないだろ!!
まずはオレのいた世界を見てみろよ! オレはもうオマエのいる世界を見たぞ!
こんなちっぽけな島で1日で40人も死ぬ腐りきった世界だった! ジュジュを殺した最悪の世界だった!
オレはこんな世界嫌だね! さあオレは選んだぞ、今度はオマエの番だ!
オマエが自分の目で見比べて好きなものを選び取る番だ!!
オマエ知らないだろ!? 花の国のチョコの木とか龍の定期便とかアラハビカの祭りとか!
一度キタキタ踊りでも見てみるか? 無性にオヤジを殴り飛ばしたくなるから!
それで殴り飛ばしたあとには、きっと世界のルールがどうとか肩肘張るのがアホらしくなる!
世界には数え切れないほどバカバカしいものが溢れかえっているんだからなっ!!」
オマエがいた場所なんて全部捨ててオレがいた場所に一緒に来い!」
「何を言っているの? 私は今の世界もルールも好きよ。
臓物の感触も、半死体に釘を打って脊髄反射させて遊ぶのも、
かち割った頭から流れた脳漿と血が混ざり合ってピンク色のスープになる様も大好きだわ」
「そんなものよりもっとずっと好きになれるものがあるかもしれないだろ!!
まずはオレのいた世界を見てみろよ! オレはもうオマエのいる世界を見たぞ!
こんなちっぽけな島で1日で40人も死ぬ腐りきった世界だった! ジュジュを殺した最悪の世界だった!
オレはこんな世界嫌だね! さあオレは選んだぞ、今度はオマエの番だ!
オマエが自分の目で見比べて好きなものを選び取る番だ!!
オマエ知らないだろ!? 花の国のチョコの木とか龍の定期便とかアラハビカの祭りとか!
一度キタキタ踊りでも見てみるか? 無性にオヤジを殴り飛ばしたくなるから!
それで殴り飛ばしたあとには、きっと世界のルールがどうとか肩肘張るのがアホらしくなる!
世界には数え切れないほどバカバカしいものが溢れかえっているんだからなっ!!」
ニケは一息で捲くし立てた。
グレーテルに異論を差し挟む隙を与えず、持論を押し通すために。
そんな彼の想いは、
グレーテルに異論を差し挟む隙を与えず、持論を押し通すために。
そんな彼の想いは、
「ふふ、だから? 何? それがどうしたの?
急に盛った犬みたいに興奮されても滑稽なだけだわ。
あなたが言っているのは常に嬲られ蹂躙され続ける『回される側』の考えよ。
『回す側』にいる私たちがそんな願いを聞く必要なんて全くない。私たちはnever die, 永遠なのだから」
急に盛った犬みたいに興奮されても滑稽なだけだわ。
あなたが言っているのは常に嬲られ蹂躙され続ける『回される側』の考えよ。
『回す側』にいる私たちがそんな願いを聞く必要なんて全くない。私たちはnever die, 永遠なのだから」
やはり、届かない。
グレーテルに光を差し伸べるには、彼女はあまりにも深いドブの底に沈み過ぎている。
だったら、とニケは思う。
グレーテルに光を差し伸べるには、彼女はあまりにも深いドブの底に沈み過ぎている。
だったら、とニケは思う。
「やっぱ、すんなり聞くわけねーか。けどな、あいにくオレは弱いものいじめが大好きでね。
食わず嫌いしてるヤツの口にガバガバと嫌いなもの押し込むと指差して笑いたくなる。
それでそいつが『食ってみると意外と美味い』とか言い出したら、
そうだろそうだろオレの言うとおりだっただろって鼻高くするのがもっと好きなんだよ。
だから弱すぎて可哀想なオマエにもそうするって決めた。
オマエの言うルールにも少しだけ付き合ってやるよ。
付き合ってボコボコにしてオレのいた世界に引きずりこんでやる!
どうしても元の場所に閉じこもっていたいならその後にするんだなッ!!」
食わず嫌いしてるヤツの口にガバガバと嫌いなもの押し込むと指差して笑いたくなる。
それでそいつが『食ってみると意外と美味い』とか言い出したら、
そうだろそうだろオレの言うとおりだっただろって鼻高くするのがもっと好きなんだよ。
だから弱すぎて可哀想なオマエにもそうするって決めた。
オマエの言うルールにも少しだけ付き合ってやるよ。
付き合ってボコボコにしてオレのいた世界に引きずりこんでやる!
どうしても元の場所に閉じこもっていたいならその後にするんだなッ!!」
だったら、自分も同じドブに浸かって精一杯手を伸ばせばいい。
ドブ掃除をするにしてもドブの中で宝を探すにしても。
外から傍観しているだけでは何も変わらない。
泥に塗れた人間だけが、本当に欲しいものを手に入れる可能性に近づけるのだから。
ニケは懐からタロットのようなカードを取り出し、前方へと強く掲げた。
ドブ掃除をするにしてもドブの中で宝を探すにしても。
外から傍観しているだけでは何も変わらない。
泥に塗れた人間だけが、本当に欲しいものを手に入れる可能性に近づけるのだから。
ニケは懐からタロットのようなカードを取り出し、前方へと強く掲げた。
「力を借りるぜ、――――『剣』(ソード)!!」
手中で魔力が螺旋状に収束する。
ベールを脱いで現れたのは、天使の羽の意匠を凝らしたレイピアのような長剣。
互いの意地をかけた、本当の戦いが幕を開ける。
ベールを脱いで現れたのは、天使の羽の意匠を凝らしたレイピアのような長剣。
互いの意地をかけた、本当の戦いが幕を開ける。
* * *