裸で私はこの世に来た ◆enneaLXxK6
吸血鬼レミリア・スカーレットは閑かな夜を過ごしていた。
吸血鬼らしからぬ眠りの夜を。
とはいえ別に珍しい事でもない。
レミリア・スカーレットは吸血鬼らしからぬ吸血鬼なのだから。
昼間っから花見をしていたら夜になっても花見をしていたなんて事はざらだし、
和食にも馴染んだし(納豆だって食べられます)、人を襲うよりティータイムの方が好きだ。
だから彼女はいつものように、吸血鬼らしくない眠りについている。
吸血鬼らしからぬ眠りの夜を。
とはいえ別に珍しい事でもない。
レミリア・スカーレットは吸血鬼らしからぬ吸血鬼なのだから。
昼間っから花見をしていたら夜になっても花見をしていたなんて事はざらだし、
和食にも馴染んだし(納豆だって食べられます)、人を襲うよりティータイムの方が好きだ。
だから彼女はいつものように、吸血鬼らしくない眠りについている。
ミッドチルダ式インテリジェントデバイス、レイジングハートは閑かな夜を過ごしていた。
デバイスらしい夜を。
デバイスは基本的に寡黙なものだ。
レイジングハートは中でも飛び抜けて雄弁な部類に入るが、それでも人間にすれば無口な方だ。
現所有者、仮のマスターであるレミリアの眠りを妨げることも無く、静かにその眠りを護っていた。
その内に様々な思いを胸に秘めて。
デバイスらしい夜を。
デバイスは基本的に寡黙なものだ。
レイジングハートは中でも飛び抜けて雄弁な部類に入るが、それでも人間にすれば無口な方だ。
現所有者、仮のマスターであるレミリアの眠りを妨げることも無く、静かにその眠りを護っていた。
その内に様々な思いを胸に秘めて。
レイジングハートはかつてレミリアの妹、フランドールと想いを交わした。
絆を結び、フランドールの欠落した心を満たし、前に進ませようとした。
その祈りは叶いかけていた。
だけど、叶わなかった。
レイジングハートはヴィクトリアに奪われ、フランドールはヴィクトリアに殺された。
フランドールがレイジングハートとの約束を守り、誰も傷つけない遊びを選び続けた為に。
絆を結び、フランドールの欠落した心を満たし、前に進ませようとした。
その祈りは叶いかけていた。
だけど、叶わなかった。
レイジングハートはヴィクトリアに奪われ、フランドールはヴィクトリアに殺された。
フランドールがレイジングハートとの約束を守り、誰も傷つけない遊びを選び続けた為に。
レイジングハートはヴィクトリアの手に収まった。
相性は最悪だったと言えるだろう。
ヴィクトリアは悪人というわけでもなかったが、危険人物だった。
ジェダをやりこめ、出来ればジェダを倒した上で脱出したい。
その思いはレイジングハートとも共通する処だ。
むしろフランドールの方が危険で悪性と見なされる存在だった。
しかしそれでもフランドールは立ち止まり、別の道を選ぼうとしていた。
ヴィクトリアはそんな彼女に一切頓着せず、手を差し伸べたフランドールを刺し殺した。
奇妙な退行を起こしていた太った少年も、獣と同程度と見て殺そうとした。
その後もヴィクトリアの姿勢は変わらない。
相性は最悪だったと言えるだろう。
ヴィクトリアは悪人というわけでもなかったが、危険人物だった。
ジェダをやりこめ、出来ればジェダを倒した上で脱出したい。
その思いはレイジングハートとも共通する処だ。
むしろフランドールの方が危険で悪性と見なされる存在だった。
しかしそれでもフランドールは立ち止まり、別の道を選ぼうとしていた。
ヴィクトリアはそんな彼女に一切頓着せず、手を差し伸べたフランドールを刺し殺した。
奇妙な退行を起こしていた太った少年も、獣と同程度と見て殺そうとした。
その後もヴィクトリアの姿勢は変わらない。
彼女はただただ冷酷だった。
それは必要以上に残虐とか、極悪という意味ではない。
出来ればジェダを倒した上で脱出しようという目的は正しいものだ。
ただしその際に一切の手段を選ぼうとせず、どんな手段を選び実行したとしても一切心を痛めない。
それが彼女、ヴィクトリアという人物だった。
それは必要以上に残虐とか、極悪という意味ではない。
出来ればジェダを倒した上で脱出しようという目的は正しいものだ。
ただしその際に一切の手段を選ぼうとせず、どんな手段を選び実行したとしても一切心を痛めない。
それが彼女、ヴィクトリアという人物だった。
レイジングハートが彼女に反発したのは彼女が悪党だったからではない。
レイジングハートは道徳や倫理観を持ってはいるが、正義の味方というわけではない。
レイジングハートが好きになれなかった。
単にそれだけの事だ。
不屈の心と名づけられたデバイス、レイジングハートはデバイスらしからぬデバイスだった。
インテリジェントデバイスとはいえ言うならば戦闘のための補助人格であるにも関わらず、
まるで人間のように人を好きになり、嫌いになったのだ。
レイジングハートは道徳や倫理観を持ってはいるが、正義の味方というわけではない。
レイジングハートが好きになれなかった。
単にそれだけの事だ。
不屈の心と名づけられたデバイス、レイジングハートはデバイスらしからぬデバイスだった。
インテリジェントデバイスとはいえ言うならば戦闘のための補助人格であるにも関わらず、
まるで人間のように人を好きになり、嫌いになったのだ。
その感情故に採った行為はデバイスとしてあまりにもイレギュラーな選択だった。
半端な情報を与え、その情報により与えられた指示を杓子定規に取った生死に関わる嫌がらせ。
そんなものは本来種として許されない事だ。
場合によってはマスターに代わって判断し行動する事が要求されるユニゾンデバイスならともかく、
インテリジェントデバイスが自らを振るう使用者に悪意を向けるなど理論的に有り得ない。
そもユニゾンデバイスも、マスターの意に沿わぬ暴走を起こしうる事が原因で廃れたのだ。
論理的にも許されない。
それでもレイジングハートはそれを実行しようとし、する事ができた。
軽妙で辛辣な冗句を交わし、ほんの少しは分かり合い、
ヴィクトリアがヴィクトリアである事に理由が有った事を知り、
ヴィクトリアの人格形成にも何らかの事情が有ったことを理解して、
それでも尚、レイジングハートは友達を殺した彼女を許すことができなかったのだ。
人格が破綻していたにせよこの島に居る者達を救える可能性を持っていたのに、それでも。
半端な情報を与え、その情報により与えられた指示を杓子定規に取った生死に関わる嫌がらせ。
そんなものは本来種として許されない事だ。
場合によってはマスターに代わって判断し行動する事が要求されるユニゾンデバイスならともかく、
インテリジェントデバイスが自らを振るう使用者に悪意を向けるなど理論的に有り得ない。
そもユニゾンデバイスも、マスターの意に沿わぬ暴走を起こしうる事が原因で廃れたのだ。
論理的にも許されない。
それでもレイジングハートはそれを実行しようとし、する事ができた。
軽妙で辛辣な冗句を交わし、ほんの少しは分かり合い、
ヴィクトリアがヴィクトリアである事に理由が有った事を知り、
ヴィクトリアの人格形成にも何らかの事情が有ったことを理解して、
それでも尚、レイジングハートは友達を殺した彼女を許すことができなかったのだ。
人格が破綻していたにせよこの島に居る者達を救える可能性を持っていたのに、それでも。
これはレイジングハートの復讐だった。
レイジングハートは自らの想いのままにヴィクトリアへと殺意を向けた。
そしてその殺意は、達成された。
呼び込んだレミリアの手によって。
レイジングハートは自らの想いのままにヴィクトリアへと殺意を向けた。
そしてその殺意は、達成された。
呼び込んだレミリアの手によって。
レイジングハートとの約束を守ったフランドールはヴィクトリアに殺され。
レイジングハートが殺意を向けたヴィクトリアは結果として殺された。
レイジングハートはこの島において、自らの選択により二人の少女を死に追いやった。
レイジングハートが殺意を向けたヴィクトリアは結果として殺された。
レイジングハートはこの島において、自らの選択により二人の少女を死に追いやった。
本来、レイジングハートがレミリアを制止するなど筋違いなのだ。
レイジングハートにそんな権利はない。
二つの罪の十字架を背負ったレイジングハートには。
レイジングハートにそんな権利はない。
二つの罪の十字架を背負ったレイジングハートには。
ただ、悲しかった。
レミリア・スカーレットがヴィクトリアを殺し自分を奪い去った事は、
ヴィクトリアがフランドール・スカーレットから自分を奪い彼女を殺した事と似ている。
レミリアが殺人を重ねる事が、フランドールの選択を否定する事に思えるのだ。
だから悔いてもいた。
フランドールはレイジングハートと共に非殺の道を歩み始めていたのに、
レイジングハートはフランの姉であるレミリアに人を殺させてしまった。
故に許せなかった。
レミリア・スカーレットの殺人を許容する事などありえなかった。
レミリア・スカーレットがヴィクトリアを殺し自分を奪い去った事は、
ヴィクトリアがフランドール・スカーレットから自分を奪い彼女を殺した事と似ている。
レミリアが殺人を重ねる事が、フランドールの選択を否定する事に思えるのだ。
だから悔いてもいた。
フランドールはレイジングハートと共に非殺の道を歩み始めていたのに、
レイジングハートはフランの姉であるレミリアに人を殺させてしまった。
故に許せなかった。
レミリア・スカーレットの殺人を許容する事などありえなかった。
もちろん全てがレイジングハートの仕業ではない。
レミリアはヴィクトリアと遭遇する以前から危険な存在と化していた。
ヴィクトリア殺害においてレイジングハートが果たした影響は大きくないのかもしれない。
だがレイジングハートが自らの意思でヴィクトリアを危機に追いやった事と、
それが一因となってヴィクトリアがレミリアに殺された事は紛れも無い事実だ。
レイジングハートはヴィクトリア殺害に手を貸した。
レイジングハートは共犯者なのだ。
レミリアはヴィクトリアと遭遇する以前から危険な存在と化していた。
ヴィクトリア殺害においてレイジングハートが果たした影響は大きくないのかもしれない。
だがレイジングハートが自らの意思でヴィクトリアを危機に追いやった事と、
それが一因となってヴィクトリアがレミリアに殺された事は紛れも無い事実だ。
レイジングハートはヴィクトリア殺害に手を貸した。
レイジングハートは共犯者なのだ。
しかしレイジングハートが忠実にレミリアの周囲を警戒し続けているのはそれが理由でもなかった。
レミリアがフランドールの姉だからでも、彼女が殺される事を否定したいからでもなかった。
ただ単に、デバイスだからだ。
レイジングハートはデバイスとして使用者の意思を叶え続けている。
デバイスらしからぬデバイスの、デバイスらしい静かな夜を過ごし続ける。
レミリアがフランドールの姉だからでも、彼女が殺される事を否定したいからでもなかった。
ただ単に、デバイスだからだ。
レイジングハートはデバイスとして使用者の意思を叶え続けている。
デバイスらしからぬデバイスの、デバイスらしい静かな夜を過ごし続ける。
やがて、レミリアが目を覚ました。
クシュンと愛らしい咳をして。
両足でベッドから立ち上がり、小さく身を震わせる。
ベタベタと蜜が体に絡んでいたものの、裸で寝転がっていたのだ。
人間なら体を壊すくらい当然の暴挙である。
確かめるように両手を握り、開いて感覚を確かめる。
両足でベッドから立ち上がり、小さく身を震わせる。
ベタベタと蜜が体に絡んでいたものの、裸で寝転がっていたのだ。
人間なら体を壊すくらい当然の暴挙である。
確かめるように両手を握り、開いて感覚を確かめる。
満月の光は途中で隠されたけれど、再生は恐るべき早さで進行していた。
特に魔力は十二分に回復している事を感じ取れる。
驚くべき事でもないだろう。
月夜の夜族は、この島において最高峰の再生力を誇っている。
何より魔力に限ればレイジングハートの主も一晩の睡眠で猛烈な回復をしてみせる。
「少し、しびれるわね」
それでもぽつりと呟き、レミリアは自らの不調を認識する。
一度は斬り飛ばされたのだ。
いくら吸血鬼の肉体、すぐ繋げた、満月の光を浴びた、ゆっくり休んだとはいえ、
体が完全に調子を取り戻すまでは遠い。
ゆっくりとベタつく足で歩み、シャワールームへと進んでいく。
レイジングハートは何かを言おうとして、やめた。
自分を置いて行ってそれっきりになってしまったフランドールを思い出して、
だけど同時に、口を出さない方が良いと思ったのだ。
特に魔力は十二分に回復している事を感じ取れる。
驚くべき事でもないだろう。
月夜の夜族は、この島において最高峰の再生力を誇っている。
何より魔力に限ればレイジングハートの主も一晩の睡眠で猛烈な回復をしてみせる。
「少し、しびれるわね」
それでもぽつりと呟き、レミリアは自らの不調を認識する。
一度は斬り飛ばされたのだ。
いくら吸血鬼の肉体、すぐ繋げた、満月の光を浴びた、ゆっくり休んだとはいえ、
体が完全に調子を取り戻すまでは遠い。
ゆっくりとベタつく足で歩み、シャワールームへと進んでいく。
レイジングハートは何かを言おうとして、やめた。
自分を置いて行ってそれっきりになってしまったフランドールを思い出して、
だけど同時に、口を出さない方が良いと思ったのだ。
果たしてレミリアはレイジングハートを気にせずにシャワーを浴びはじめた。
彼女にとってレイジングハートは恥じらう理由も無い程度の相手なのだろう。
いやまあ、それ以前に妹より無頓着なのかもしれないが。
服も着ないままに眠り込んでしまった程だし、
レイジングハートは知る由も無いが、魔力切れとはいえレックスとも裸で戦っている。
レミリアは妹が隠した裸を堂々と曝け出し、温かなシャワーを身に浴びた。
シャワーが温まりきるまでの僅かな時間だけ流れ水に硬直して、すぐにくたりと弛緩する。
穏やかな吐息が漏れた。
彼女にとってレイジングハートは恥じらう理由も無い程度の相手なのだろう。
いやまあ、それ以前に妹より無頓着なのかもしれないが。
服も着ないままに眠り込んでしまった程だし、
レイジングハートは知る由も無いが、魔力切れとはいえレックスとも裸で戦っている。
レミリアは妹が隠した裸を堂々と曝け出し、温かなシャワーを身に浴びた。
シャワーが温まりきるまでの僅かな時間だけ流れ水に硬直して、すぐにくたりと弛緩する。
穏やかな吐息が漏れた。
レイジングハートが見たその肌は決して綺麗な物とはいえなかった。
かつて受けたメガンテの傷は長い夜を掛けて再生し僅かな火傷跡が残るだけだったが、
新たに受けた両腕と右足の傷は無残な赤い線となって走っているし、
腹部に残る刺し傷の周囲の皮膚は無残にも攀じれている。
にもかかわらずその肢体は美しかった。
昼光色の明かりに煌めくルビーの瞳が柔らかな瞼に閉じられる。
熱いシャワーがべたつく蜜を溶かし、髪から蕩けて首筋を伝いうなじを経て、
鎖骨の窪みに池を作るもすぐに溢れて、肋の浮いた薄い胸をとろりと流れ落ちていく。
ふっくらとしたお腹を伝い小さなおへそに溜りこみ、直接当てられたシャワーがそれを弾き出す。
無毛の丘を流れ柔らかでけれどほっそりとした脚を伝い風呂場の床に流れ落ちて、
温かな湯のままに排水口へと消えていく。
てらてらと明かりを照り返す蜜に濡れた肌は、それ自体の艶と合わさって真珠のように輝いていた。
例えその肌に無数の傷跡が刻まれていてもその美しさは陰らない。
いや、むしろ醜と美を併せ持つ故に美しいのだろう。
無数の傷跡は彼女が戦う者である事を主張する。
傷ついても立ち上がり武器を振るう脚と腕である事を宣言する。
傷さえもが強さの証であると。
それだけでは、背伸びをする子供のようにささやかな物だったけれど。
ばさりと黒い羽が水滴を撥ねた。
コウモリ型の黒く艶やかな羽は、獣の爪の様な鋭さと手指のような繊細さを併せている。
か弱く見える幼い肢体と獰猛で悪魔的な黒翼のミスマッチは、
アンビバレンツで危うい衝撃を見るものに押し付ける。
かつて受けたメガンテの傷は長い夜を掛けて再生し僅かな火傷跡が残るだけだったが、
新たに受けた両腕と右足の傷は無残な赤い線となって走っているし、
腹部に残る刺し傷の周囲の皮膚は無残にも攀じれている。
にもかかわらずその肢体は美しかった。
昼光色の明かりに煌めくルビーの瞳が柔らかな瞼に閉じられる。
熱いシャワーがべたつく蜜を溶かし、髪から蕩けて首筋を伝いうなじを経て、
鎖骨の窪みに池を作るもすぐに溢れて、肋の浮いた薄い胸をとろりと流れ落ちていく。
ふっくらとしたお腹を伝い小さなおへそに溜りこみ、直接当てられたシャワーがそれを弾き出す。
無毛の丘を流れ柔らかでけれどほっそりとした脚を伝い風呂場の床に流れ落ちて、
温かな湯のままに排水口へと消えていく。
てらてらと明かりを照り返す蜜に濡れた肌は、それ自体の艶と合わさって真珠のように輝いていた。
例えその肌に無数の傷跡が刻まれていてもその美しさは陰らない。
いや、むしろ醜と美を併せ持つ故に美しいのだろう。
無数の傷跡は彼女が戦う者である事を主張する。
傷ついても立ち上がり武器を振るう脚と腕である事を宣言する。
傷さえもが強さの証であると。
それだけでは、背伸びをする子供のようにささやかな物だったけれど。
ばさりと黒い羽が水滴を撥ねた。
コウモリ型の黒く艶やかな羽は、獣の爪の様な鋭さと手指のような繊細さを併せている。
か弱く見える幼い肢体と獰猛で悪魔的な黒翼のミスマッチは、
アンビバレンツで危うい衝撃を見るものに押し付ける。
魔的な力も有るとはいえ自重を支えるほどに強靭なそれをシャワーが叩く。
ざわざわと外に響く雨音に似た、けれど温かな音が羽を洗う。
吸血鬼はくすぐったそうに体を震わせて穏やかな湯浴みを甘受する。
やがて羽に絡んだ蜜も溶け落ちて。
「うー」
小さな唸りと共にふるりと体を震わせ、ピンと伸ばした羽は刃のように鋭く広がった。
ふるふると羽が震える。
しぱしぱと目を瞬かせる。
そのまましばらく動きを止める。
……どうやら、ちょっと目を開けて水が入ったらしい。
ざわざわと外に響く雨音に似た、けれど温かな音が羽を洗う。
吸血鬼はくすぐったそうに体を震わせて穏やかな湯浴みを甘受する。
やがて羽に絡んだ蜜も溶け落ちて。
「うー」
小さな唸りと共にふるりと体を震わせ、ピンと伸ばした羽は刃のように鋭く広がった。
ふるふると羽が震える。
しぱしぱと目を瞬かせる。
そのまましばらく動きを止める。
……どうやら、ちょっと目を開けて水が入ったらしい。
目に入った水を落として。
レミリアは息を吐くと、レイジングハートに命じた。
「警戒を強めておきなさい」
『Yes』
その一言で、ピリピリと緊張感が張り詰めはじめた。
レミリアは息を吐くと、レイジングハートに命じた。
「警戒を強めておきなさい」
『Yes』
その一言で、ピリピリと緊張感が張り詰めはじめた。
レイジングハートはこれからレミリアがしようとしている事を予測し、理解していた。
その行為を助ける為には、周囲への警戒を最大限に高めなければならない。
何故なら今から始まる行為は、レミリアを完全な無防備な状態に陥れてしまうからだ。
この隙を突かれたならば例えレミリアであっても命取りになる。
レミリアはすぅと息を吸い、はぁと息を吐いた。
そしてどこかしら緊張した面持ちで、そっと、それの上に左手を載せた。
ゆっくりと圧力を掛けると、ポンプの力で細いパイプがねっとりとした粘液を吸い上げる。
吐き出された粘液を右手の手のひらで受け止める。
白く、光を照り返し淡やかな虹色に輝く何処かしら泉のように掌の上で揺らぐ。
手と手をすり合わせ軽くかき混ぜると粘液は見る間に泡立った。
レミリアはきゅっと固く、きつく目を閉じると。
泡立てた粘液を自らの頭の上に載せて、髪と掻き混ぜはじめた。
細やかな髪で粘液は更に泡立ち、白い泡が淡い色の髪を包んでいく。
しゃかしゃかと泡立てられた泡が髪に絡みついた蜜と埃を溶かし落としていく。
つまり、シャンプーで髪を洗い始めた。
しかしただ髪を洗うだけと侮ってはならない。
子供にはよくある事だが、もしも。
もし仮にだ。
髪を洗うこの泡が目に入ったらどうなるだろうか。
ただの湯でも数秒唸るほどだったのに、泡が目に入ったら。
しばらくとはいえ痛みに目を塞がれて、シャワーで洗い流しても湯がもうしばらく視界を塞ぐ。
痛みに慌てふためけば周囲の様子も知覚出来ない。
元よりシャワーは音を消し匂いを消し風を消し、空気が伝達する情報を遮ってしまう物なのだ。
加えてこの状況は裸である。
五感を封じられ守りも無い所を突かれれば、如何にレミリアといえど為す術もない。
そう、レミリアにとって目に泡が入る事態は睡眠時以上の無防備に曝される事を意味している。
更にシャワー自体も危険に満ちている。
きゅっと蛇口を捻ってお湯を水に変えられたなら、それだけでレミリアの体は縛られる。
冷たいシャワーは流れ水だからだめなのだ。
故にこそレミリアはレイジングハートに厳重警戒を命じて、満を持し髪を洗い始めたのである。
このような所にもレミリアの得た経験が垣間見えると言えるだろう。
レミリアの得た、力が。
レミリアはこの島で様々なものを得て、様々なものを失った。
その中でも最たる力は紛れも無く、慢心の大半を捨てた事だ。
レミリアの最大の弱点は吸血鬼の体質などではなく、その無謀と慢心である。
彼女の傲慢なまでの自信と誇りは紛れも無く確かな力に拠るものであり、
精神に比重が掛かる吸血鬼にとって、プライドと力の間には因果関係すら存在していたが、
それでもレミリアは自身の自信を制御しきれず、あちこちで隙を晒していた。
レミリアはそれを徐々に克服しつつあった。
レミリアは自分がどの程度の存在か理解した上で、今でも自らの最強を語る。
しかしそれはこの島に来るまでの物とは違い、強さと弱さを理解した上での宣言である。
ジェダに囚われた自らの弱さを。
妹に敵わず、妹を守れず、妹の為に挑まねばならない生死の法則が自らを凌駕する力である弱さを。
この島に来て無様にのたうち回った弱さを。
己の力の限界と吸血鬼としての弱点を全て理解した上で、最強を自称する。
それを行った時点で、レミリア・スカーレットは以前と比較にならない程の成長を始めていた。
自らの弱さを理解するという事は、自らの負ける理由を封じる事である。
まだ完全ではないが、レミリアは敗北の理由を克服しつつあった。
自身の力と相まって防御ごと敵を断ち切る聖剣ラグナロク〈神々の運命〉も、
バリアジャケットとシールドの防御力を与えるレイジングハート〈不屈の心〉も、
この飛躍に比すれば誤差に過ぎない。
これはレミリアにとってそれほどの飛躍だったのだ。
つまりこの場面について言うならば、シャンプーハットが欲しい。
あれは良い物だ。
その行為を助ける為には、周囲への警戒を最大限に高めなければならない。
何故なら今から始まる行為は、レミリアを完全な無防備な状態に陥れてしまうからだ。
この隙を突かれたならば例えレミリアであっても命取りになる。
レミリアはすぅと息を吸い、はぁと息を吐いた。
そしてどこかしら緊張した面持ちで、そっと、それの上に左手を載せた。
ゆっくりと圧力を掛けると、ポンプの力で細いパイプがねっとりとした粘液を吸い上げる。
吐き出された粘液を右手の手のひらで受け止める。
白く、光を照り返し淡やかな虹色に輝く何処かしら泉のように掌の上で揺らぐ。
手と手をすり合わせ軽くかき混ぜると粘液は見る間に泡立った。
レミリアはきゅっと固く、きつく目を閉じると。
泡立てた粘液を自らの頭の上に載せて、髪と掻き混ぜはじめた。
細やかな髪で粘液は更に泡立ち、白い泡が淡い色の髪を包んでいく。
しゃかしゃかと泡立てられた泡が髪に絡みついた蜜と埃を溶かし落としていく。
つまり、シャンプーで髪を洗い始めた。
しかしただ髪を洗うだけと侮ってはならない。
子供にはよくある事だが、もしも。
もし仮にだ。
髪を洗うこの泡が目に入ったらどうなるだろうか。
ただの湯でも数秒唸るほどだったのに、泡が目に入ったら。
しばらくとはいえ痛みに目を塞がれて、シャワーで洗い流しても湯がもうしばらく視界を塞ぐ。
痛みに慌てふためけば周囲の様子も知覚出来ない。
元よりシャワーは音を消し匂いを消し風を消し、空気が伝達する情報を遮ってしまう物なのだ。
加えてこの状況は裸である。
五感を封じられ守りも無い所を突かれれば、如何にレミリアといえど為す術もない。
そう、レミリアにとって目に泡が入る事態は睡眠時以上の無防備に曝される事を意味している。
更にシャワー自体も危険に満ちている。
きゅっと蛇口を捻ってお湯を水に変えられたなら、それだけでレミリアの体は縛られる。
冷たいシャワーは流れ水だからだめなのだ。
故にこそレミリアはレイジングハートに厳重警戒を命じて、満を持し髪を洗い始めたのである。
このような所にもレミリアの得た経験が垣間見えると言えるだろう。
レミリアの得た、力が。
レミリアはこの島で様々なものを得て、様々なものを失った。
その中でも最たる力は紛れも無く、慢心の大半を捨てた事だ。
レミリアの最大の弱点は吸血鬼の体質などではなく、その無謀と慢心である。
彼女の傲慢なまでの自信と誇りは紛れも無く確かな力に拠るものであり、
精神に比重が掛かる吸血鬼にとって、プライドと力の間には因果関係すら存在していたが、
それでもレミリアは自身の自信を制御しきれず、あちこちで隙を晒していた。
レミリアはそれを徐々に克服しつつあった。
レミリアは自分がどの程度の存在か理解した上で、今でも自らの最強を語る。
しかしそれはこの島に来るまでの物とは違い、強さと弱さを理解した上での宣言である。
ジェダに囚われた自らの弱さを。
妹に敵わず、妹を守れず、妹の為に挑まねばならない生死の法則が自らを凌駕する力である弱さを。
この島に来て無様にのたうち回った弱さを。
己の力の限界と吸血鬼としての弱点を全て理解した上で、最強を自称する。
それを行った時点で、レミリア・スカーレットは以前と比較にならない程の成長を始めていた。
自らの弱さを理解するという事は、自らの負ける理由を封じる事である。
まだ完全ではないが、レミリアは敗北の理由を克服しつつあった。
自身の力と相まって防御ごと敵を断ち切る聖剣ラグナロク〈神々の運命〉も、
バリアジャケットとシールドの防御力を与えるレイジングハート〈不屈の心〉も、
この飛躍に比すれば誤差に過ぎない。
これはレミリアにとってそれほどの飛躍だったのだ。
つまりこの場面について言うならば、シャンプーハットが欲しい。
あれは良い物だ。
* * *
一切油断の無い緊迫した警戒体制と精神集中の結果、レミリアは何事も無く入浴を終えた。
進化したレミリアの前にシャンプーハットなんて物は必要無かったのである。
有った方がより安全だった事は違いないが。
ともあれ。
レミリアは五百年を生きながら幼い肢体を晒して、堂々と部屋で着衣を捜していた。
「まったく、咲夜が居れば着替くらいさっと用意してくれるのに」
この島にはいない、普段自らに仕える完璧なメイドの名を愚痴る。
普段レミリアの屋敷のほぼ全ての雑務は、彼女が拾った有能なメイドに行われているのだ。
レイジングハートはその発言を聞いて、もしかするとそれが原因なのだろうかと物思った。
フランドールには危険だからと召使いを近づける事すらあまりせず、
レミリアは召使い達にあれこれ自分の面倒を見させていた分、羞恥心が薄いのかもしれない。
当人に聞いても答えの返りそうにない憶測だった。
進化したレミリアの前にシャンプーハットなんて物は必要無かったのである。
有った方がより安全だった事は違いないが。
ともあれ。
レミリアは五百年を生きながら幼い肢体を晒して、堂々と部屋で着衣を捜していた。
「まったく、咲夜が居れば着替くらいさっと用意してくれるのに」
この島にはいない、普段自らに仕える完璧なメイドの名を愚痴る。
普段レミリアの屋敷のほぼ全ての雑務は、彼女が拾った有能なメイドに行われているのだ。
レイジングハートはその発言を聞いて、もしかするとそれが原因なのだろうかと物思った。
フランドールには危険だからと召使いを近づける事すらあまりせず、
レミリアは召使い達にあれこれ自分の面倒を見させていた分、羞恥心が薄いのかもしれない。
当人に聞いても答えの返りそうにない憶測だった。
幸い、概ね丈の合う適当な下着と衣服は見つかった。
城では本来置いてある多くが強力な呪具だったせいか服一枚捜すに苦労したものだが、
この家から服を没収する程の理由は無かったのだろう。
赤い十字マークが描かれたシャツを頭から被り、もがもがと首を出す。
同時に開けておいた穴から黒い羽を出して背伸びをするみたいにピンと伸ばす。
それから白いショーツに脚を通して、ゆっくりと引き上げる。
少々困惑した様子で体を捻り、下着を摘んだ。
手を離すとゴムの弾力で緩やかに優しく腰を掴む。
フィット具合は良好だが。
『どうしました?』
「なんだか頼りない感じね」
レミリアが元居た土地ではふわふわと膨らむドロワーズが主流である。
こういった簡素なショーツは流行していない。
城では本来置いてある多くが強力な呪具だったせいか服一枚捜すに苦労したものだが、
この家から服を没収する程の理由は無かったのだろう。
赤い十字マークが描かれたシャツを頭から被り、もがもがと首を出す。
同時に開けておいた穴から黒い羽を出して背伸びをするみたいにピンと伸ばす。
それから白いショーツに脚を通して、ゆっくりと引き上げる。
少々困惑した様子で体を捻り、下着を摘んだ。
手を離すとゴムの弾力で緩やかに優しく腰を掴む。
フィット具合は良好だが。
『どうしました?』
「なんだか頼りない感じね」
レミリアが元居た土地ではふわふわと膨らむドロワーズが主流である。
こういった簡素なショーツは流行していない。
「まあいいわ。これは……ズボン、なのかしらね?」
首を傾げながら次の下衣を摘まみ上げる。
女物の服と一緒のタンスに入っていたのだから女性用には違いないが、
ズボンのような、しかし半ズボンよりも短い見慣れないボトムである。
いわゆるホットパンツと呼ばれるものだ。
好みを気にしなければスカートも見つからないではなかったが。
「面白そうだし、動きやすそうね」
実用性にちょっとした遊び心を交えて、脚を通す。
ほっそりとしなやかな脚が太股から露出した。
膝下までの黒いニーソックスを穿いても、膝から上は曝け出している。
しかしこうして明かりの元に現わにされたのを見ても、
幼い肉付きのぷにぷにとしたその脚が如何なる獣よりも強靭な脚力を秘めている事など
右足に穿たれた傷跡──彼女が戦う者である事から推察を重ねなければ分からないだろう。
未熟な脚線美を見せながら、レミリアは上着を掴みとる。
赤いその外衣には何故か見覚えが有るように思えた。
しばらく考え込んでからふと、思い出した様子で呟いた。
「ああ、思い出した。そういえば家の門番もこういう奴に任せてたんだ」
レミリアには縁も縁も無いし、この島に居る全体を見回しても主人の義妹程度の関係しか無い、
なんちゃって八極拳の使い手、有間都古のチャイナ服であった。
服だけで中の人が見当たらないのは、たまたま外出中だったとかそんな理由だろう。
首を傾げながら次の下衣を摘まみ上げる。
女物の服と一緒のタンスに入っていたのだから女性用には違いないが、
ズボンのような、しかし半ズボンよりも短い見慣れないボトムである。
いわゆるホットパンツと呼ばれるものだ。
好みを気にしなければスカートも見つからないではなかったが。
「面白そうだし、動きやすそうね」
実用性にちょっとした遊び心を交えて、脚を通す。
ほっそりとしなやかな脚が太股から露出した。
膝下までの黒いニーソックスを穿いても、膝から上は曝け出している。
しかしこうして明かりの元に現わにされたのを見ても、
幼い肉付きのぷにぷにとしたその脚が如何なる獣よりも強靭な脚力を秘めている事など
右足に穿たれた傷跡──彼女が戦う者である事から推察を重ねなければ分からないだろう。
未熟な脚線美を見せながら、レミリアは上着を掴みとる。
赤いその外衣には何故か見覚えが有るように思えた。
しばらく考え込んでからふと、思い出した様子で呟いた。
「ああ、思い出した。そういえば家の門番もこういう奴に任せてたんだ」
レミリアには縁も縁も無いし、この島に居る全体を見回しても主人の義妹程度の関係しか無い、
なんちゃって八極拳の使い手、有間都古のチャイナ服であった。
服だけで中の人が見当たらないのは、たまたま外出中だったとかそんな理由だろう。
しかしレミリアはその服を纏うことなくじっと見つめて考える。
レイジングハートは問いかけて。
『どうしました?』
「……うん。決めた」
レミリアは応えた。
レイジングハートは問いかけて。
『どうしました?』
「……うん。決めた」
レミリアは応えた。
服自体はランドセルに放り込み、レイジングハートを手に訪ねる。
「バリアジャケットって、二種類位ならデザイン作れるわね? 薄いの」
『Yes』
別のデザインを用意するという事は別の用途に準備するという事だ。
高町なのははより重装甲のセイクリッドモードを構築したし、
フェイト・テスタロッサは正しく軽装高機動のソニックフォームを構築した。
『ただし、軽装にすると機動力が上がり魔力消費も低下する反面、防御面が大幅に低下します』
「当然ね」
高速かつ小回りの効く、消耗の少ない戦い方ができるという事だ。
レミリアはレイジングハートの高町なのはではなく、その親友フェイトが使うバルディッシュに採用されたフォーム。
フェイトがソニックフォームと命名した、高機動戦闘用の軽装ジャケットと同じ発想をしていた。
『ですが重装甲大火力が私に積み重ねられた特性です。お勧めはできません』
「別に良いよ。私は元々おまえで遊ぶつもりなんて無いもの。おまえを使うだけ」
『…………』
「判っているんだろう? 私におまえの魔法は合わない。フランにもね」
『……………………それは』
レイジングハートに歯茎が有ったならば歯噛みしていただろう。
レイジングハートに拳が有ったなら固く握り締めていただろう。
レミリアは残酷なまでに明確な結論を告げていた。
「バリアジャケットって、二種類位ならデザイン作れるわね? 薄いの」
『Yes』
別のデザインを用意するという事は別の用途に準備するという事だ。
高町なのははより重装甲のセイクリッドモードを構築したし、
フェイト・テスタロッサは正しく軽装高機動のソニックフォームを構築した。
『ただし、軽装にすると機動力が上がり魔力消費も低下する反面、防御面が大幅に低下します』
「当然ね」
高速かつ小回りの効く、消耗の少ない戦い方ができるという事だ。
レミリアはレイジングハートの高町なのはではなく、その親友フェイトが使うバルディッシュに採用されたフォーム。
フェイトがソニックフォームと命名した、高機動戦闘用の軽装ジャケットと同じ発想をしていた。
『ですが重装甲大火力が私に積み重ねられた特性です。お勧めはできません』
「別に良いよ。私は元々おまえで遊ぶつもりなんて無いもの。おまえを使うだけ」
『…………』
「判っているんだろう? 私におまえの魔法は合わない。フランにもね」
『……………………それは』
レイジングハートに歯茎が有ったならば歯噛みしていただろう。
レイジングハートに拳が有ったなら固く握り締めていただろう。
レミリアは残酷なまでに明確な結論を告げていた。
高町なのはの戦闘スタイルを継承しても、スカーレット姉妹が強くなる事は無い。
「おまえとおまえのマスターの連携が優れているほど、噛み合わない時のおまえは邪魔になる」
レミリアは容赦なくそれを指摘した。
「役立たずなのよ、おまえは」
レイジングハートを責め立てた。
微かな負の感情すら滲ませて。
レミリアは容赦なくそれを指摘した。
「役立たずなのよ、おまえは」
レイジングハートを責め立てた。
微かな負の感情すら滲ませて。
デバイスは例えるなら優れた拳銃のようなものだ。
弾丸〈魔力〉を秘めた者にとっては効果的な武器となるだろう。
使い手が早撃ちの達人であれば申し分ない。
だが、もしも。
使い手が鉄壁をも射抜く程に非現実的な、弓の達人であったならば?
弾丸〈魔力〉を秘めた者にとっては効果的な武器となるだろう。
使い手が早撃ちの達人であれば申し分ない。
だが、もしも。
使い手が鉄壁をも射抜く程に非現実的な、弓の達人であったならば?
もちろん弓の達人もそれなりに拳銃を使いこなす。
弓の達人には遠くの標的を見て、撃ち抜くセンスが有るのだから。
しかし優れた銃器は用途の中でも更に分野を絞り込む。
拳銃なら? 狙撃銃なら? 散弾銃なら? 短機関銃なら? 突撃銃なら?
物陰から静かに相手を射抜く達人は騒音を響かせる突撃銃を使いこなせるだろうか。
近接戦闘ですら的確な速射を行う弓の達人は入念な一射を放つ狙撃銃を使いこなせるだろうか。
量産品のただの弓と比べてどちらが射手の力となるだろうか。
弓の達人には遠くの標的を見て、撃ち抜くセンスが有るのだから。
しかし優れた銃器は用途の中でも更に分野を絞り込む。
拳銃なら? 狙撃銃なら? 散弾銃なら? 短機関銃なら? 突撃銃なら?
物陰から静かに相手を射抜く達人は騒音を響かせる突撃銃を使いこなせるだろうか。
近接戦闘ですら的確な速射を行う弓の達人は入念な一射を放つ狙撃銃を使いこなせるだろうか。
量産品のただの弓と比べてどちらが射手の力となるだろうか。
増してや高町なのはがレイジングハートに積み立てた戦術は決して汎用的な戦術では無い。
高町なのはの特異性に併せて組み立てた、高町なのはによる高町なのはの為だけの戦術なのだ。
それを使いこなす為には、使い手とデバイスの人格的相性以上の物を必要とする。
もちろんインテリジェントデバイスの力を最大限引き出す為には息を合わせる必要も有るが、
互いに好感を抱くだけではまだ足りない。
むしろレイジングハートの敵意さえ受けていたヴィクトリアですらフランドール以上に使いこなしていた。
元来自らの魔法を持たないヴィクトリアは『人格面以外においては』極めて適性が良かったのだ。
何より。
高町なのはの戦術を会得したところで高町なのはを超えられない。
高町なのはの特異性に併せて組み立てた、高町なのはによる高町なのはの為だけの戦術なのだ。
それを使いこなす為には、使い手とデバイスの人格的相性以上の物を必要とする。
もちろんインテリジェントデバイスの力を最大限引き出す為には息を合わせる必要も有るが、
互いに好感を抱くだけではまだ足りない。
むしろレイジングハートの敵意さえ受けていたヴィクトリアですらフランドール以上に使いこなしていた。
元来自らの魔法を持たないヴィクトリアは『人格面以外においては』極めて適性が良かったのだ。
何より。
高町なのはの戦術を会得したところで高町なのはを超えられない。
言ってしまえば単純な話だ。
高町なのはの戦術を踏襲しても、高町なのは以上に強くなる事は有り得ない。
高町なのはの強さに近づくだけだ。
前使用者の適性を超えられるわけが無い。
高町なのはの戦術を踏襲しても、高町なのは以上に強くなる事は有り得ない。
高町なのはの強さに近づくだけだ。
前使用者の適性を超えられるわけが無い。
デバイスを武器として考えるなら元の魔法に“使われてはいけない”のだ。
レイジングハートは回想する。
ヴィクトリア相手に止まらず、旅館では幾人もの強者達を圧倒したレミリアの力を。
あれは、この島におけるフランドール・スカーレットを超えるものではなかったか?
逆に言えばそれは。
この島におけるフランドールはレミリアほどの強さを誇っていただろうか?
それがレイジングハートに“使われた”結果だというならば、レミリアの言葉は明白だった。
ヴィクトリア相手に止まらず、旅館では幾人もの強者達を圧倒したレミリアの力を。
あれは、この島におけるフランドール・スカーレットを超えるものではなかったか?
逆に言えばそれは。
この島におけるフランドールはレミリアほどの強さを誇っていただろうか?
それがレイジングハートに“使われた”結果だというならば、レミリアの言葉は明白だった。
一人格としてのレイジングハートはフランドールの友人足りえたかもしれない。
だがデバイスとしてのレイジングハートはフランドールの力になりえなかった。
だがデバイスとしてのレイジングハートはフランドールの力になりえなかった。
「だから私はおまえを使う。そういう事」
レミリアは断言した。
それはレイジングハートに収録されている魔法を使わないという事ではない。
自らの戦術に役に立つ物だけ、役に立つ形で使うという宣言だった。
レミリアは断言した。
それはレイジングハートに収録されている魔法を使わないという事ではない。
自らの戦術に役に立つ物だけ、役に立つ形で使うという宣言だった。
レイジングハートは静かに明滅して。
それから、尋ねた。
『フランドールの力になれるのはどのような魔法でしたか』
「………………」
それから、尋ねた。
『フランドールの力になれるのはどのような魔法でしたか』
「………………」
レミリアは沈黙し。
黙り込み。
しばらくしてから。
黙り込み。
しばらくしてから。
「何も」
短く答えた。
短く答えた。
レミリアは思い出す。
圧倒的でありながら、幻想的な奇怪さまでも兼ね備えた妹の力を。
威力も、密度も、レミリアの使えるどんな攻撃手段よりも上だった。
中には加減を間違った、スペルカードルールから外れる物として使用を禁止された物すら有る。
レミリアのそれを模倣した物さえも反射などの性質を得て強大化していた。
フランドールが自分にもっとも有利な戦い方をしようとするならば、
それは破滅的な攻撃で相手の反撃さえも呑み込み押し流す絶望の津波か、
あるいは嵐にすらならない必殺必中の破壊となる。
レミリアが勝るのは、同じ吸血鬼の身体能力ながら遥かに多い運動経験から来る高度な肉弾戦。
そして、ある程度の因果を見通し運命を操る程度の能力。
それをもってしても、レミリアにはフランドールを閉じ込めておく事しか出来なかった。
フランドールが本気で全てを破壊すれば容易く出てこれたであろう、地下の部屋に。
「あの破壊を超えるものなんて無いわ。遊びの弾幕さえ出鱈目な形で完成されていた。
更に強大化する事が有ってもそれは他の者に真似できないあの子だけの方向よ」
レミリアが、小さく歯噛みした。
レミリアが、静かに拳を握り締めた。
レミリアは、言った。
「あの子はどんな“力”も必要としなかった」
レイジングハートは、静かに明滅した。
レイジングハートは、呟いた。
『そうですか』
その言葉に。
二人分の一言にどれほどの想いが篭められていたのか。
それは二人以外に知る由もない事だ。
ただこの瞬間だけ、彼女たちの脳裏には一人の少女が共有されていた。
レミリアとレイジングハートは、お互いを嫌悪しながらも一人の少女を想った。
亡き妹、亡き友人の姿を。
圧倒的でありながら、幻想的な奇怪さまでも兼ね備えた妹の力を。
威力も、密度も、レミリアの使えるどんな攻撃手段よりも上だった。
中には加減を間違った、スペルカードルールから外れる物として使用を禁止された物すら有る。
レミリアのそれを模倣した物さえも反射などの性質を得て強大化していた。
フランドールが自分にもっとも有利な戦い方をしようとするならば、
それは破滅的な攻撃で相手の反撃さえも呑み込み押し流す絶望の津波か、
あるいは嵐にすらならない必殺必中の破壊となる。
レミリアが勝るのは、同じ吸血鬼の身体能力ながら遥かに多い運動経験から来る高度な肉弾戦。
そして、ある程度の因果を見通し運命を操る程度の能力。
それをもってしても、レミリアにはフランドールを閉じ込めておく事しか出来なかった。
フランドールが本気で全てを破壊すれば容易く出てこれたであろう、地下の部屋に。
「あの破壊を超えるものなんて無いわ。遊びの弾幕さえ出鱈目な形で完成されていた。
更に強大化する事が有ってもそれは他の者に真似できないあの子だけの方向よ」
レミリアが、小さく歯噛みした。
レミリアが、静かに拳を握り締めた。
レミリアは、言った。
「あの子はどんな“力”も必要としなかった」
レイジングハートは、静かに明滅した。
レイジングハートは、呟いた。
『そうですか』
その言葉に。
二人分の一言にどれほどの想いが篭められていたのか。
それは二人以外に知る由もない事だ。
ただこの瞬間だけ、彼女たちの脳裏には一人の少女が共有されていた。
レミリアとレイジングハートは、お互いを嫌悪しながらも一人の少女を想った。
亡き妹、亡き友人の姿を。
しばらく、間が有った。
少しだけ。
ふぅと小さな吐息が静寂に染まる空気を揺らして。
少しだけ。
ふぅと小さな吐息が静寂に染まる空気を揺らして。
「バリアジャケットよ」
『What?』
あまりに唐突な話題転換にレイジングハートの戸惑いが漏れた。
レミリアは明確に言い直す。
「バリアジャケットのデザインをし直すわ。私が戦う為にね。
前は魔法使いってイメージで作ったけど、動きやすい方がいいもの」
『戦いを止めるつもりはありませんか?』
「無いわ」
答えは簡潔。
今更自分から立ち止まることなんてありえない。
「私は自らの最強を証明する」
最強を証明する。
それはどこまでも純粋で、痛切な、祈りにも似た目的だ。
『What?』
あまりに唐突な話題転換にレイジングハートの戸惑いが漏れた。
レミリアは明確に言い直す。
「バリアジャケットのデザインをし直すわ。私が戦う為にね。
前は魔法使いってイメージで作ったけど、動きやすい方がいいもの」
『戦いを止めるつもりはありませんか?』
「無いわ」
答えは簡潔。
今更自分から立ち止まることなんてありえない。
「私は自らの最強を証明する」
最強を証明する。
それはどこまでも純粋で、痛切な、祈りにも似た目的だ。
自ら口に出して認めようとはしないが、レミリアの言葉の端々には、
純粋な強さにおいて妹のフランドールに劣っていたと意識している様子が見て取れる。
ならば最強の証明とは妹を超えること。厳密に定義するならば、
フランドールのありとあらゆるものを破壊する程度の能力すら凌駕できる力が有るのだと、
レミリア自身が認められるようになる事こそ達成目標になる。
純粋な強さにおいて妹のフランドールに劣っていたと意識している様子が見て取れる。
ならば最強の証明とは妹を超えること。厳密に定義するならば、
フランドールのありとあらゆるものを破壊する程度の能力すら凌駕できる力が有るのだと、
レミリア自身が認められるようになる事こそ達成目標になる。
それはつまり、妹を恐れる必要など無かったのだと確かめる事にも繋がる。
地下に495年間閉じ込め続ける必要など、無かったのだと。
だがレミリアは何も言わない。
それが全てではなくとも理由の一端に有るという言ですら、口に出そうとはしない。
レイジングハートと言葉を交わしながらも、一番奥の部分を決して開きはせず、
敵意に満ちた信頼とも言うべき複雑な衝動だけを浴びせ続ける。
地下に495年間閉じ込め続ける必要など、無かったのだと。
だがレミリアは何も言わない。
それが全てではなくとも理由の一端に有るという言ですら、口に出そうとはしない。
レイジングハートと言葉を交わしながらも、一番奥の部分を決して開きはせず、
敵意に満ちた信頼とも言うべき複雑な衝動だけを浴びせ続ける。
「これは私の戦いだよ。
私は私が動きやすい鎧を着て、私の使い方で爪と杖を振るうんだ。
わかったな?」
『……Yes』
私は私が動きやすい鎧を着て、私の使い方で爪と杖を振るうんだ。
わかったな?」
『……Yes』
その意思によりレミリアは新たなバリアジャケットを構築した。
全身に纏われた衣服が再び弾ける。
衣服に隠れていた透けるように白い肌は、湯上りでほんのりと桃色に染まっている。
輝く光に包まれながら、レミリアはすぅと息を吸って。
くぅと息を吐いた。
瞬間、光が無数の糸となって幼い裸体に絡みつく。
ぷっくりとしたお腹から殆ど膨らみの無い胸部を伝い腋の下を肩をうなじを覆っていく。
腹部から下へ伝い下と横から腰を周り全体を掴みこむ。
それはもちろんバリアジャケットだ。
だが、纏われる衣服は先程身に付けていたものと変わらない。
シャツと、ショーツと、ホットパンツと、ニーソックスが装着される。
ただしそこでも止まらない。
見につけようとして、まだ纏っていなかったチャイナ服が再現される。
深紅のチャイナ服が上半身に纏われた。
加えて足首から下をローファーが包み込む。
輝く羽が、生える。
フライヤーフィン。
最初の頃、レミリアが使う必要を感じていなかった飛行用の魔法翼。
それがローファーと、背中。彼女自身の足首と翼の付け根から芽生えた。
機動力強化型バリアジャケット。
『Sonic Form Replica』
レミリアの求めに応じて、レイジングハートはそのフォームを生成した。
フェイト・テスタロッサが使ったソニックフォームを極簡易的に模倣したのだ。
衣服に隠れていた透けるように白い肌は、湯上りでほんのりと桃色に染まっている。
輝く光に包まれながら、レミリアはすぅと息を吸って。
くぅと息を吐いた。
瞬間、光が無数の糸となって幼い裸体に絡みつく。
ぷっくりとしたお腹から殆ど膨らみの無い胸部を伝い腋の下を肩をうなじを覆っていく。
腹部から下へ伝い下と横から腰を周り全体を掴みこむ。
それはもちろんバリアジャケットだ。
だが、纏われる衣服は先程身に付けていたものと変わらない。
シャツと、ショーツと、ホットパンツと、ニーソックスが装着される。
ただしそこでも止まらない。
見につけようとして、まだ纏っていなかったチャイナ服が再現される。
深紅のチャイナ服が上半身に纏われた。
加えて足首から下をローファーが包み込む。
輝く羽が、生える。
フライヤーフィン。
最初の頃、レミリアが使う必要を感じていなかった飛行用の魔法翼。
それがローファーと、背中。彼女自身の足首と翼の付け根から芽生えた。
機動力強化型バリアジャケット。
『Sonic Form Replica』
レミリアの求めに応じて、レイジングハートはそのフォームを生成した。
フェイト・テスタロッサが使ったソニックフォームを極簡易的に模倣したのだ。
フライヤーフィンが足と背中に生えたのは、レミリアが自身の感覚でフィンを使いこなす為だ。
レミリアがフィンを扱う時は、自らの動きの加速された形を想像すれば良い。
ローファーから生えたフィンは地上を蹴るように空を蹴る為の物。
背の翼の付け根から介添の様に生えたフィンは突撃の速度を加速する為の物。
レイジングハートは内心で複雑な感情を抱きながらも、
レミリアの求め通り、デバイスとして忠実にバリアジャケットを編み上げた。
レミリアがフィンを扱う時は、自らの動きの加速された形を想像すれば良い。
ローファーから生えたフィンは地上を蹴るように空を蹴る為の物。
背の翼の付け根から介添の様に生えたフィンは突撃の速度を加速する為の物。
レイジングハートは内心で複雑な感情を抱きながらも、
レミリアの求め通り、デバイスとして忠実にバリアジャケットを編み上げた。
しかし実を言えば、事前の注意通りこのバリアジャケットの性能は高くない。
模倣したといってもレイジングハートによる見様見真似でしかなく、
軽装高機動は本来のマスター高町なのはの戦術からも外れた、苦手分野であるからだ。
そも模倣先のソニックフォーム自体未完成で実戦投入されたフォームである。
このバリアジャケットは総合性能で言えば通常のバリアジャケットよりも劣っていた。
しかしレミリアは小さく笑い、レイジングハートの命名に付け足した。
「スカーレットよ。そう名付けなさい」
『All right. Scarlet Mode』
スカーレットモード。
それがレミリア・スカーレットの為のバリアジャケットの名前だった。
本来のバリアジャケットの力を〈1〉とするならば、このジャケットは〈0.5〉程度だろう。
だが、掛け算ではなく足し算だ。
新たな強さを作る物ではなく、レミリアの力をほんの少し強める物だ。
既に完成された戦闘スタイルを持つレミリアの邪魔をしない為に作られたモードだ。
このバリアジャケットは間違いなくレミリアを支えていた。
模倣したといってもレイジングハートによる見様見真似でしかなく、
軽装高機動は本来のマスター高町なのはの戦術からも外れた、苦手分野であるからだ。
そも模倣先のソニックフォーム自体未完成で実戦投入されたフォームである。
このバリアジャケットは総合性能で言えば通常のバリアジャケットよりも劣っていた。
しかしレミリアは小さく笑い、レイジングハートの命名に付け足した。
「スカーレットよ。そう名付けなさい」
『All right. Scarlet Mode』
スカーレットモード。
それがレミリア・スカーレットの為のバリアジャケットの名前だった。
本来のバリアジャケットの力を〈1〉とするならば、このジャケットは〈0.5〉程度だろう。
だが、掛け算ではなく足し算だ。
新たな強さを作る物ではなく、レミリアの力をほんの少し強める物だ。
既に完成された戦闘スタイルを持つレミリアの邪魔をしない為に作られたモードだ。
このバリアジャケットは間違いなくレミリアを支えていた。
レミリアは一時的にフィンを仕舞った。
使わない時まで魔法を維持しておく理由は無いからだ。
レイジングハートも待機状態で首から下げられている。
この状態のデバイスでも、防御など簡単な魔法だけなら発動及び維持する事ができる。
もちろんデバイス自体を展開しているに越した事は無いが、
肉弾戦を好むレミリアの戦闘スタイルでは、常にデバイスを展開する必要は無かった。
使わない時まで魔法を維持しておく理由は無いからだ。
レイジングハートも待機状態で首から下げられている。
この状態のデバイスでも、防御など簡単な魔法だけなら発動及び維持する事ができる。
もちろんデバイス自体を展開しているに越した事は無いが、
肉弾戦を好むレミリアの戦闘スタイルでは、常にデバイスを展開する必要は無かった。
レミリアはおめかしをした子供のようにくるりとターンして自らの姿を鑑みる。
深紅のチャイナ服はスカーレットというには少し落ち着いた色調だ。
袖は手首までの長袖で、裾は腰の少し下辺りまでを覆い、レミリアの体を入念に守っている。
もちろん背中の羽を邪魔したりはせず、背中には羽を通す為の穴が開いていた。
羽の間には僅かな地肌の露出までしているが、
バリアジャケットにおいて露出に直接の意味は無い。
実際にはフィールドのような物が全体を覆っているからだ。
よって、剥き出しの太ももからニーソックスまで幾分広めの絶対領域が露出している事も問題ない。
幼くもどこか引き締まった、か細くも力強い脚が床を踏みしめた。
「上々ね。動きやすいし、力の消費も少ないし、服も気に入ったわ」
『その分、防御効果は落ちます。ご注意ください』
「わかってるよ」
新しい服に上機嫌になりながらも痺れの残る左腕でランドセルを掴み上げる。
そしてやはり若干力の萎えた右腕で、そこから聖剣を引き抜いた。
神々の運命という銘を冠された聖剣、ラグナロク。
この島でレミリアが手にした武器の中でも、彼女のスタイルと最も合致した武器だと言えるだろう。
剣を握り締めると、まるで握り返すように剣が力を返してくる。
レミリアの戦闘準備はそれだけで整った。
その表情が引き締まり。
レイジングハートは、機械であるボディにぞくりとした寒気を錯覚した。
深紅のチャイナ服はスカーレットというには少し落ち着いた色調だ。
袖は手首までの長袖で、裾は腰の少し下辺りまでを覆い、レミリアの体を入念に守っている。
もちろん背中の羽を邪魔したりはせず、背中には羽を通す為の穴が開いていた。
羽の間には僅かな地肌の露出までしているが、
バリアジャケットにおいて露出に直接の意味は無い。
実際にはフィールドのような物が全体を覆っているからだ。
よって、剥き出しの太ももからニーソックスまで幾分広めの絶対領域が露出している事も問題ない。
幼くもどこか引き締まった、か細くも力強い脚が床を踏みしめた。
「上々ね。動きやすいし、力の消費も少ないし、服も気に入ったわ」
『その分、防御効果は落ちます。ご注意ください』
「わかってるよ」
新しい服に上機嫌になりながらも痺れの残る左腕でランドセルを掴み上げる。
そしてやはり若干力の萎えた右腕で、そこから聖剣を引き抜いた。
神々の運命という銘を冠された聖剣、ラグナロク。
この島でレミリアが手にした武器の中でも、彼女のスタイルと最も合致した武器だと言えるだろう。
剣を握り締めると、まるで握り返すように剣が力を返してくる。
レミリアの戦闘準備はそれだけで整った。
その表情が引き締まり。
レイジングハートは、機械であるボディにぞくりとした寒気を錯覚した。
繰り返すが、それこそがレミリアがこの島で得た力の本質なのだ。
フランドールを失い、吸血鬼も死ぬ戦場で幾度も無様な失敗と生存を繰り返した結果、
少しずつ油断と慢心を捨てつつある事こそがレミリア最大の飛躍なのだ。
油断と慢心や、度の過ぎる遊び心こそがレミリアの弱点の大体殆どである。
伝説級の聖剣や吸血鬼としての弱点すら、精神的な弱点に比べれば単なる誤差に過ぎない。
それを削り落とすという事のどれだけ偉大なる事か。
つまり精神的な弱点がその位にとてつもなく巨大だったとゆー意味でもあるが。
フランドールを失い、吸血鬼も死ぬ戦場で幾度も無様な失敗と生存を繰り返した結果、
少しずつ油断と慢心を捨てつつある事こそがレミリア最大の飛躍なのだ。
油断と慢心や、度の過ぎる遊び心こそがレミリアの弱点の大体殆どである。
伝説級の聖剣や吸血鬼としての弱点すら、精神的な弱点に比べれば単なる誤差に過ぎない。
それを削り落とすという事のどれだけ偉大なる事か。
つまり精神的な弱点がその位にとてつもなく巨大だったとゆー意味でもあるが。
「最強のレミリア様に震え上がるがいいわ、子ども達も冥王もね」
レミリアは鼻息荒くずしずしと、それでも警戒を怠らない矛盾を内包した歩みで家の玄関まで歩み出た。
いつの間にか、雨音は止んでいた。
レミリアは自信満々で扉を蹴り開けて。
「………………」
そっと閉めた。
レミリアは鼻息荒くずしずしと、それでも警戒を怠らない矛盾を内包した歩みで家の玄関まで歩み出た。
いつの間にか、雨音は止んでいた。
レミリアは自信満々で扉を蹴り開けて。
「………………」
そっと閉めた。
『……どうしましたか?』
「もう少ししてからにするわ。十分か三十分くらい」
この家の前の道路は若干傾斜していた。
止んだばかりの土砂降りは、地面に大量の水を残していた。
その大量の水は当然ながら道の端の排水口を勢い良く流れているわけで。
雨が止んでも流れきるにはしばらく時間がかかったりするのであって。
水たまりならどれだけあっても全然OKなのだけれど。
「別にバリアジャケットが有るから大丈夫だけど、今の私に油断は無いんだ」
『………………?』
「だから少ししてからと言ったのよ。判った?」
困惑したような明滅が返る。
吸血鬼は流れ水を渡れない。
自らの弱点を理解し克服しようとしているのだからこれも強さの内である。
バリアジャケットで大丈夫なら気にする必要は無いと思ってはいけない。
長年染み付いた習慣は中々抜けないものなのだ。
……だから恐いという意味ではないんだって。
決して。
「もう少ししてからにするわ。十分か三十分くらい」
この家の前の道路は若干傾斜していた。
止んだばかりの土砂降りは、地面に大量の水を残していた。
その大量の水は当然ながら道の端の排水口を勢い良く流れているわけで。
雨が止んでも流れきるにはしばらく時間がかかったりするのであって。
水たまりならどれだけあっても全然OKなのだけれど。
「別にバリアジャケットが有るから大丈夫だけど、今の私に油断は無いんだ」
『………………?』
「だから少ししてからと言ったのよ。判った?」
困惑したような明滅が返る。
吸血鬼は流れ水を渡れない。
自らの弱点を理解し克服しようとしているのだからこれも強さの内である。
バリアジャケットで大丈夫なら気にする必要は無いと思ってはいけない。
長年染み付いた習慣は中々抜けないものなのだ。
……だから恐いという意味ではないんだって。
決して。
『しかし日の出までの時間はあまり有りませんが』
「日中になったら、その内に相手の方からやってくるんじゃないか?」
レイジングハートはまた少し困惑する。
どういう意味なのか?
『あなたは多くの敵を作りました。集団で包囲される危険もあります』
「望むところよ。纏めて掛かってくれば一回で済むし、私の最強を証明するには良い舞台だ」
『………………』
レイジングハートはしばらく思考回路を回転させ、結論に至った。
レミリアの望みが最強を証明する事だというならば、相手が強くなるのは望むところなのだ。
それを叩き潰してこそ最強を名乗れる。
そしてふと、気づいた。
『レミリア』
「なに?」
レイジングハートは僅かな戦慄さえ覚えながら、尋ねた。
“派手に戦いながら殺害数がさほど多くない様子なのは、それが目的で加減していたのか”と。
その問に、レミリアは沈黙した。
言葉の無い、答え。
沈黙の中でレイジングハートは確信する。
ある種の場面において、沈黙は肯定を意味する。
レミリアが自ら話そうとしないのはつまりそういう──
「日中になったら、その内に相手の方からやってくるんじゃないか?」
レイジングハートはまた少し困惑する。
どういう意味なのか?
『あなたは多くの敵を作りました。集団で包囲される危険もあります』
「望むところよ。纏めて掛かってくれば一回で済むし、私の最強を証明するには良い舞台だ」
『………………』
レイジングハートはしばらく思考回路を回転させ、結論に至った。
レミリアの望みが最強を証明する事だというならば、相手が強くなるのは望むところなのだ。
それを叩き潰してこそ最強を名乗れる。
そしてふと、気づいた。
『レミリア』
「なに?」
レイジングハートは僅かな戦慄さえ覚えながら、尋ねた。
“派手に戦いながら殺害数がさほど多くない様子なのは、それが目的で加減していたのか”と。
その問に、レミリアは沈黙した。
言葉の無い、答え。
沈黙の中でレイジングハートは確信する。
ある種の場面において、沈黙は肯定を意味する。
レミリアが自ら話そうとしないのはつまりそういう──
「そ、その通りよっ」
『………………』
少し遅れて、無茶苦茶焦った声で答えが返った。
それはもう、小学校で先生に難しい問題を当てられた生徒が自棄になって適当答えたら
たまたまそれが正解で先生とクラスメイトからの感嘆の視線に色々耐え切れ無くなったみたいな感じで。
「全ての運命は私の手の内に有るのよ。何もかもね」
『………………』
ついでに「え、この位出来て当然でしょ」とか「前からこのくらいは楽勝さ」な感じのおまけが付いた。
まああれだ。
多分、そう。
『………………』
少し遅れて、無茶苦茶焦った声で答えが返った。
それはもう、小学校で先生に難しい問題を当てられた生徒が自棄になって適当答えたら
たまたまそれが正解で先生とクラスメイトからの感嘆の視線に色々耐え切れ無くなったみたいな感じで。
「全ての運命は私の手の内に有るのよ。何もかもね」
『………………』
ついでに「え、この位出来て当然でしょ」とか「前からこのくらいは楽勝さ」な感じのおまけが付いた。
まああれだ。
多分、そう。
結果オーライって事なのだろう。
【G-1/ちょっと良い家/2日目/早朝】
【レミリア・スカーレット@東方Project】
[状態]:腹部に小さな刺し傷、左腕痺れ、右腕握力低下、右足痺れ有り。
[装備]:ラグナロク@FINAL FANTASY4
レイジングハート・エクセリオン(待機フォルム)@魔法少女リリカルなのは(カートリッジ残数4発)
[服装]:バリアジャケット(赤いチャイナ服、ニーソックス、ローファー。太ももは露出)
[思考]:出撃はちょっとだけしてから。もうちょっとだけ。
第一行動方針:基本的に出会った奴は全て叩きのめす。
第二行動方針:日中は自分から行くより敵を呼び込んで待ち受けたい。ただし気分と状況による。
基本行動方針:島の全て(含むジェダ)を叩きのめし最強を証明する。
[備考]:レイジングハートは、ヴィクトリアの持ち物や情報をほとんど把握していません。
(特に、アイテムリストの存在を知らないため、自分をどうやって使ったのかが大きな謎になっています)
ヴィクトリアは死亡したと思っています。レミリアに対しては嫌悪や罪悪感諸々が入り交じっているようです。
グラーフアイゼンはレミリアに対して複雑な感情を持っています。レミリアはアイゼンを無くしました。
【レミリア・スカーレット@東方Project】
[状態]:腹部に小さな刺し傷、左腕痺れ、右腕握力低下、右足痺れ有り。
[装備]:ラグナロク@FINAL FANTASY4
レイジングハート・エクセリオン(待機フォルム)@魔法少女リリカルなのは(カートリッジ残数4発)
[服装]:バリアジャケット(赤いチャイナ服、ニーソックス、ローファー。太ももは露出)
[思考]:出撃はちょっとだけしてから。もうちょっとだけ。
第一行動方針:基本的に出会った奴は全て叩きのめす。
第二行動方針:日中は自分から行くより敵を呼び込んで待ち受けたい。ただし気分と状況による。
基本行動方針:島の全て(含むジェダ)を叩きのめし最強を証明する。
[備考]:レイジングハートは、ヴィクトリアの持ち物や情報をほとんど把握していません。
(特に、アイテムリストの存在を知らないため、自分をどうやって使ったのかが大きな謎になっています)
ヴィクトリアは死亡したと思っています。レミリアに対しては嫌悪や罪悪感諸々が入り交じっているようです。
グラーフアイゼンはレミリアに対して複雑な感情を持っています。レミリアはアイゼンを無くしました。
【スカーレットモード】
フェイト・テスタロッサのソニックフォームを簡易的に模倣したジャケットのモード。
要するに防御力を落とし、魔力消費も抑えめで機動性を少し上げたモードである。
模倣したといってもレイジングハートによる見様見真似の急づくりであり、
普段のレイジングハートの戦術からは外れる為、本来のソニックフォームとは比べるべくもない。
模倣先のソニックフォーム自体未完成で実戦投入されたフォームであるため、
総合力で言えば通常のバリアジャケットよりも大きく劣る。
既に完成された戦闘スタイルを持つレミリアの邪魔をしない為のモードである。
フェイト・テスタロッサのソニックフォームを簡易的に模倣したジャケットのモード。
要するに防御力を落とし、魔力消費も抑えめで機動性を少し上げたモードである。
模倣したといってもレイジングハートによる見様見真似の急づくりであり、
普段のレイジングハートの戦術からは外れる為、本来のソニックフォームとは比べるべくもない。
模倣先のソニックフォーム自体未完成で実戦投入されたフォームであるため、
総合力で言えば通常のバリアジャケットよりも大きく劣る。
既に完成された戦闘スタイルを持つレミリアの邪魔をしない為のモードである。
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