夢のENDはいつも目覚し! ◆.6msC4hQo6




   これは夢、これは夢、きっと漫画の読み過ぎだ。


僕は海岸沿いに歩きながら、魔法の言葉を唱えている。
自分の頬をつねると痛かった。でも、気のせいかもしれないので、現実である証拠にはならない。


   宇宙人に浚われて、首が吹き飛んで、人殺しを強いられるなんて非現実的だ。
   だから、これは夢、夢、夢なんだ。


「砂浜とお喋りしても、幸運のクローバーは見つからないわよ」


気付いたら、目の前に女の子がいた。黒髪からウサギの耳が飛び出していて、まるで本物だった。
顔や体格は妹のワカメよりも幼いのに、目線が自分と同じ高さである。
きっと高い靴を履いているのだろうと、足元に目を向けると、


彼女は宙に浮いていた。


僕は思わず、宇宙人だと叫んでしまう。

「私は生まれながらの地上の兎、宇宙で暮らした覚えはないわ」

少女はこちらを面白がるように覗き込む。
色々ツッコミたいのに、驚きの余波が続いて声が出ない。
地面を指差して、金魚のように口を動かしていると、

「身の置き場が針のムシロなら、空を飛ぶしかないじゃない」

彼女の素足は透き通った白。と言っても、兎のアルビノではなく日本人の人肌レベル。
宇宙人も人間と見た目はあまり変わらないのだと感慨に浸っていたら、レディの生足をジロジロ見るもんじゃないと叱られた。
そんなつもりはなく、浮いているのが珍しいだけと弁明する。

   第一、僕の好みは大人の女性、せめてお淑やかな同級生であって、
   キミは可愛らしくても、小さすぎて守備範囲外なんだけどね。

「ああ、貴方は外界の人間ね。私の住む幻想郷だと、空を飛ぶ存在なんて珍しくもなんともないわ」

彼女は僕の周りで低空飛行して、身を軽く捩じって地面に着地した。

「折角だから、自己紹介しましょうよ。じゃあ、まずは貴方からね」

ワイヤーアクションにもコンピューターグラフィックスにも見えなかった。間違いなく飛んでいた。

   うん、これは夢だね。これは頭の中の空想ゲーム。
   そう思えば、気持ちが楽になるし、きっとうまく行く。
   スピーチだって、聴衆を野菜と思えば緊張しないって言うじゃない。
   これは夢、これは夢。うん、これで大丈夫。


「ええと、僕は磯野カツオ、かもめ第三小学校5年3組在籍の平凡な小市民。
 特技は野球と姉さんに悪戯することかな。よろしく」
「私は因幡てゐ、てゐでいいわ。健康が趣味の妖怪兎よ」

彼女は少しませた口調で話してくれた。
幻想郷の迷いの竹林に住んでいて、月の民や他の妖怪兎と静かに暮らしているらしい。
お伽噺に聞こえるけれども、夢だから、そんな設定もありなのだろう。
ただ、彼女自身は妖怪と言うより、ごく普通の幼い女の子に見えた。
ポーキーは小さい子を殺し合いの場に投げ込んで、どうするつもりなんだろう。

てゐは僕の眼を見つめたまま、青い花柄のティーカップを渡してくれた。

「それはお近づきの印よ。カツオお兄ちゃん、男らしく飲んでくれると嬉しいな」

ダージリンの香りが漂い、陶磁越しに紅茶の温かさが伝わってくる。
好意に甘えて、カップを口の高さまで持ち上げた刹那、

――姉さん、寒い中の買い出しご苦労さん。冷めない内に飲むといいよ。

奇妙なデジャプを覚えて、途中で静止し、そのまま膝に置き直した。
てゐはその様子を気にすることなく、自分の紅茶を堪能している。

そして、続く情報交換。フランドールは好戦的な吸血鬼で超危険人物だそうだ。
話を聞けば聞くほど、幻想郷がこの島と同等の修羅の国に思えるのは何故だろうか。
ちなみに、僕の方は知り合いがおらず、先に誰とも会ってないので伝える情報はなかった。

「ひと口で良いから、飲むと身体があったまるよ。それとも私の淹れ方が下手だったのかな」

てゐは再び、お茶を飲むように勧めてきた。そこで僕は既視感の正体に気づく。
その気遣い、多少なあざとさ、数日前に姉さんに仕掛けた悪戯と似ている。
証拠不十分だけど、夢なので大胆に反撃してみる。

「ごめん、僕はカフェインが苦手なんだ。
 気持ちだけ受け取るから、君が飲んでくれないかな」

と言って、中のお茶を彼女のカップに注ぎ足した。

「ふぇっ、えっ、えええっ!」

てゐは眉をへの字に下げ、ティーカップと睨めっこして固まっている。予想外の事態だったようだ。
名誉のために言うと、僕は全く飲んでないから間接キスではないし、彼女もそれは知っているはずだ。
やがて、少女は覚悟を決めたように頭を下げた。

「口に合わないものを強要して、ごめんなさい。
 実は私も人参ジュース派で、無理して飲んでたの。兎も人も自分に素直が一番ね」

少女は自分と僕の持っていたカップを手に持って、岸辺へ歩いていく。
そして、両方を逆さまにして、琥珀色の液体を海に流す。
僕の推理は当たった訳だ。見破れたのは偶然、いや、夢の中だから必然か。

「中に入れたのはタバスコ、わさび、それとも、もっと凄いもの?」

ただ、毒薬はないだろう。話した感じ、彼女は幼いし、殺しに乗れるタイプではない。
保護者が高名な薬師らしいので、遊び半分で使うこともないはず。

「あはは、見抜かれていたのね。いっそ、口をこじ開けて流し込めば良かったかしら」

一瞬の間をおいて、あっけらかんとした笑顔が返ってきた。

「力づくで成功させちゃあ、悪戯じゃなくてただの苛めだよ」
「私は格上にしか悪戯しない美学だから、その前の段階でポリシー破ってるんだけどね」
「それって、僕が年上として頼りないってことかな。ちょっと傷つくなあ」



その後は何事もなかったように会話を続ける。
健康マニアらしいので、父さんのやっていたヨガ体操を教えてあげる。
だが、彼女の反応は鈍く、心ここに在らず言った様子だ。

時折、神経質そうに視線を余所に向けて、周囲の様子を伺っている。
そういえば、ここは浜辺なので、上空からはこちらの様子が丸見えだ。
フランのこともあるし、長居したくないのかもしれない。

   そろそろ、本題に入った方が良さそうだね。僕には、とっておきの生存プランがある。
   彼女にうまく伝わるか不安だし、下手すると嫌われるかもしれない。
   でもまあ、たかが夢だし、失敗したらその時はその時だ。


僕はこっそり気合を入れてから、てゐに質問を投げかけた。

「ねえ、君はこれからどうしようと思っているんだい。殺し合いに乗るつもり?」

女の子のウサミミが「殺し」という単語にピクリと反応する。
けれど、今までにない、真面目で芯のしっかりした声で語ってくれた。

「私は生きたい。だけど、殺しはしたくない。だから、独りで逃げて逃げて逃げ切ってみせる」

他人との接触を最小限にして、誰にも見つからないようにひっそりと生き延びる。
群れるとしがらみや足手纏いも増えて、戦闘狂に捕まる危険性が強まる。
ならば、強者と弱者はバラバラに行動した方が、犠牲の総数は少なくなるかもしれない。
この島の人口密度からすると、悪くないやり方だろう。僕自身も弱者だとは思うけど。

ただ、そうなると、てゐはどうして僕なんかと接触したのだろう。
人畜無害に見えたからか、それとも、単なる夢のご都合主義なんだろうか。

まあ、どうであるにせよ、僕は年下の子をひとり放置するほど野暮ではない。
それに彼女の方針は僕のプランと微妙にかみ合わない。


「てゐらしい答えだね。悪いけど、それは二流の考え方だよ」
「他に何があるって言うの。じゃあ、貴方はどうするか教えて下さらない。一流の賢将さん」

てゐはほっぺたを膨らませて抗議する。小さい子の虚勢はちょっぴり微笑ましいが、この状況下では痛々しくもある。

「答えは簡単。殺し合いに乗ればいいのさ」

僕は人差し指を前に突き出して答える。てゐは唖然とした表情になり、すぐに軽蔑の眼差しに切り替わる。

「はあ。貴方、バカじゃないの。人間風情が妖怪に勝てると思っているのかしら。
 あのホールで観察しただけでも、吸血鬼の他に鬼の子とか魔法生物とかウヨウヨいたわよ」
「まあまあ、落ち着いて。話を最後まで聞けば納得できると思うから」


僕は口を動かしながら、人差し指で砂浜に文字を書く。


       ノ  ッ  タ  フ  リ 


要は『形だけでも戦いに乗っているフリをしろ』。
ポーキーは間違いなく、参加者を監視している。でないと、首輪で脅す意味がない。
具体的な方法は分からないけど、隠しカメラと盗聴器くらいはありそうだ。
でも、こうやって伝える分には、どちらにも引っかからないはずだ。漫画ならそうだ。

もちろん、ポーキーの科学力なら、心の中まで読んでいてもおかしくない。
ただ、自分の夢でしかないのに、そこまで心配したらきりがないので止めておく。


てゐはさりげなく視線を一瞬だけ下げると、僅かに緊張を緩ませる。

「じゃあ、最後まで聞かせて貰えるかしら」
「えっと、この島は60人で殺し合うのに広すぎないかな。他人に会うのもひと苦労だよ。
 これが鬼ごっこなら、僕は禁止エリアだらけになるまで体力を温存するね」
「力を制限されてなきゃ、妖怪達には丁度良い大きさなんだけどねー」

彼女は両腕を引っ張って背筋を伸ばす。

「だから、ポーキーは殺し屋のためにテコ入れしてくるよ。間違いないね」
「何人も殺した参加者にボーナスを渡したりしそうね」
「うん、それはいいアイディアだね。でも、もっと手っ取り早いのは禁止エリアかな。
 上手く設定すれば、参加者を危険地帯に誘導することができるよ」
「ああ、そっか。ただ、逃げるだけ、隠れるだけだとポーキーの餌食になる訳ね」

だからこそ、やる気を出したふりをして、仕事の手を抜きまくる。名付けてサボリーマン作戦。
周りには乗ってないふりをしつつ、ポーキーにはギリギリ最低限のノルマしか果たさない。
結局、乗ってるのと同じだけれども、そこはてゐを説得するための言葉の綾だ。

子供は遊びの天才だ。馬鹿げた殺し合いもゲームに見立てれば攻略法が浮かんでくる。
殺しをごっこ遊びみたいに考えるのはちょっと心地悪いけど、夢だからしょうがない。

「放送は6時間ごとだから、そこまで効果は見込めないけどね。
 だから、それに……えっと、ただの勘違いでした」

僕が得意げにアイディアを披露しようとしたら、
てゐから、鋭い目でこれ以上言うなというアイコンタクトを送られた。
確かに、自分で自分の首を絞めても仕方がない。押し黙ると、代わりに彼女が話を続ける。

「うーん、殺しに乗れって話にも一理ある、かなあ。でも、私はそんなに強くないよ」
「大丈夫、僕らは弱いから、直接誰かを襲うことは少ないと思う。
 ただ、ちょっと工夫をすればよい。偽の情報を渡して同士討ちさせるとかね」

僕はティーカップを飲む仕草をして見せる。

「あー、やっぱり、まだ怒ってる?」
「別に、君の才能を誉めただけだよ。僕も普段から似たことやってるし、責める理由はないね。
 嘘は二人で付いた方が信用してもらいやすいし、僕と共同戦線を組まないかな。
 本当に危なくなった時は、僕を見捨てて逃げても構わないよ」

てゐに言ってないけれど、このプランには欠陥がある。
殺せる状況では殺さないと、ポーキーに見透かされてしまう。
だからと言って、彼女に直接殺しをさせるわけにはいかない。僕が自分の手を血に染めるしかない。
あの子をこの道に誘ったのは僕なのだから。


    まあ、いっか。どうせ夢の中のことだし。
    いっそ、悪役を演じるのも悪くはないね。
    殺しても殺されても恨みっこなしさ。



「似たような、ねえ……。いいわ、取引しましょうか」

彼女はランドセルから、黒光りし、触角の生えたヘルメットを差し出してきた。

「名前はそのまま、ゴキブリ帽。頭に被ると逃げるのが速くなるそうよ」
「へえ、見た目はただのジョークアイテムなのに……夢の中って、本当に何でもありだね」
「夢、何のこと?」

彼女に怪訝な顔をされた。ウサギだけに耳が良いようだ。独りごとには気を付けないと。

「いや、こっちの話」
「あ、そう。これは趣味じゃないし、カツオにあげるわ。
 ただの人間が妖怪兎の足に付いてくるのは、これくらい必要よ。
 その代わり、貴方の支給品と交換してくれないかしら」

彼女はこちらを見つめたまま、砂の文章に付け加える。


       ノ  ッ  タ  フ  リ 

        ソ  ウ  ス  ル


一刻おいて、素早く砂を被せ、筆跡をかき消した。

    ◆   ◆   ◆


私は因幡てゐ、幻想郷全ての妖怪兎を支配する地上の妖怪兎、
神話の時代から生き続け、大兎大明神本人とも噂される幸運の素兎だ。

他の参加者に近づいたのは、『人間を幸運にする程度の能力』の制限を調べるためだった。
実は妖怪でも動物でも幸運にできるのだけど、人間と銘打っているのは私の拘りだ。

ターゲットは、そこまで賢くなさそうな坊主刈りの少年。
もしも、迷いの竹林で私にあったなら、そこを抜け出すだけで与えた幸運を使い切ってしまうだろう。

本当はもっと無力な少女を演じようと思ったけれど、ウサミミ尻尾付きの容姿だと逆に怪しまれかねない。
なので、少し譲歩して、空を飛べるだけの幼い妖怪という設定で通すことにした。

まずは幸運を与えて、彼に毒の紅茶を薦めてみる。
飲まずに助かったのは予想通り。いつもより運気が低いのも、想定の範囲内。
問題は私自身を能力の対象にできなかったことだろう。そのせいで悪事がばれてしまった。

このような能力制限ならば、今後の方針を少し変える必要が出てくる。

私は平凡な人間よりも強いし、低級の妖怪や妖精に負ける気はしない。
だが、幻想郷のバトルマニア達に比べると、肉体は頑丈ではないし、
必殺のスペルカードも、軌道の読みやすい見掛け倒しと揶揄されている。
なので、この島で猛者相手に勝ち抜けるとは思えない。

だから、私は天狗に負けない足を生かして、逃げ回るつもりだった。
あとは適当な情報を流して、強者同士を潰し合わせればよい。
だが、自分を幸運にできないとなると、単独行動のリスクは高まる。
逃げ疲れて隠れている時に、格上の相手に見つかったら一巻の終わりだ。

ならば、誰かの運を高めて、それを盾代わりにするのが良いのだろうか。
ただ、当の肉盾が助かり、代わりに私が死ぬ可能性もあるので難儀である。
私だけを守ってくれる、強い参加者を見つけたい。でも、そんなに都合よく見つかるのか。

どちらにせよ、目の前の少年は私の望むスペックを満たしていない。
第一、私の本性を知っている以上、もう使い物にならない。
周囲に目撃者がいないことを確認して迅速に殺害する、つもりだった。


その時、磯野カツオは『殺しに乗ったふりをしろ』という奇妙な提案をしてきた。

私の目には、そのプランは魅力的だった。
やることは当初の予定と大差はない上、嘘がばれても責任を彼に押し付けられる。
彼も多少は頭も回るようなので、あれを装備させれば、足手纏いにだけはならないだろう。
いざとなれば、肉盾として処分すればよい。

ただ、カツオの人格が未だに掴めない。
飄々としていて、殺人の催しを他人事のゲームのように楽しんでいる。
幻想郷にそういうタイプは何人もいる。でも、過信はあれど実力に裏付けられたもの。
彼は当たりの支給品を引いたのか、元から大物なのか、それともただのバカなのか。
はっきり言って、得体の知れない少年を信用するのはリスキーだ。


それでも、私はこの少年と手を組むことにした。いや、してしまったというか。
自分はお師匠様や頼れる部下から引き離されて、訳の分からない殺しを強要されて、
心が弱っていたのだろう。寂しかったのだろう。

彼を殺そうとしたのに、軽く流して貰えたのも少し気が楽になった
ということもあり、甘い誘惑についつい釣られてしまった。
こういう時は自分の弱さがつくづく嫌になる。

でも、自分の命が一番大切。それだけは譲れない。私はどんな手段を使っても生き残ってみせる。



【D-6 /深夜】

【磯野カツオ@サザエさん】
[状態]:健康
[装備]:ゴキブリ帽子
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2
[思考・行動]
基本方針:あらゆる手段で生き延びる
1:殺しに乗ったフリをする。ただし、いざとなったら本当に殺す
2:偽りの情報で他の参加者をかく乱する
※これを夢だと思い込んでいる、もしくは自己暗示をかけています
※てゐを非力な年下で力のない妖怪と思い込んでいます

【因幡てゐ@東方Project】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、毒殺ティーセット、ランダム支給品1~2
[思考・行動]
基本方針:あらゆる手段で生き延びる
1:殺しに乗ったフリをする。ただし、いざとなったら本当に殺す
2:偽りの情報で他の参加者をかく乱する
※ゴキブリ帽子とカツオの何かの支給品と交換しました
※『人間を幸運にする程度の能力』の制限を一部確認しました。自分には使えないようです。
  そのほかの制限は他の書き手にお任せします。


【毒殺ティーセット@名探偵コナン】
青酸カリと紅茶入りポット、ティーカップのセット。解毒剤のケーキはない。

【ゴキブリ帽@ドラえもん】
かぶると苛められっこに襲われた時に素早く回避、逃げることができるヘルメット。不意打ちにも対応可能。

≪035:暴走! チャージマン研! 時系列順に読む 037:月明かりの道しるべ
≪035:暴走! チャージマン研! 投下順に読む 037:月明かりの道しるべ
野比のび太の登場SSを読む 044:情報交換(大嘘)
泉研の登場SSを読む

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2014年03月13日 19:38