Wild child◆9DPBcJuJ5Q
ラセツ族のアジト。異界の悪魔の拠点を模した不吉な建造物の中を、一人の少女が歩いていた。
少女は慣れた様子で歩を進めていき、迷うことなくアジトの一室に入った。
そう、少女はこの建物を知っている。正確には、この建物のオリジナルは彼女にとって馴染みのあるものだったのだ。
ドアを開けて、部屋の中へと入る。部屋の中には、よく分からない植物の鉢植えとベッドだけ。
窓があるだけ幾分マシだが、それでも生活感に乏しい殺風景な部屋だ。
これがこのアジトの実質的なリーダーの部屋だったと言って、信じる者がどれだけいるだろうか。
尤も、この少女が魔界の一角マーブルランドの支配権を獲得し、大魔王への独立と徹底抗戦を宣言した反乱軍の頭目である。
この事実の方が、俄かには信じ難いものではあるのだが。
「…………刹那」
この部屋の主の名を呟くが、応える者はいない。見えない所で筋トレをしている気配もない。
少女は忌々しげに、ガリッ、と左腕を掴んだ右手で掻き毟る。
自分がこのアジトにいたからもしや、という思いはあったが、やはりそう甘くは無いようだ。
ベッドに飛び移り身を任せてみる。やはり形だけ似せた偽物のようで、刹那の残り香さえも感じられない。
そんなことを考えた途端、少女を言いようの無い感覚が襲った。
側に誰もいない。自分に付き従う忠臣アスモデウスも、いけすかないフェンリルも、自分の名を呼んでくれる刹那やその仲魔も。
自分独りだけ。当たり前だったはず、久し振りに味わう孤独は、少女――エレジーを苛立たせた。
「……ムカツク」
言って、ベッドから起き上がると、エレジーは右手に魔力の炎を宿し、何の躊躇いもなく解き放った。
ほんの気紛れで放たれた一撃で、アジト全体が震え、部屋はベッド諸共に窓際の壁が吹き飛ばされた。
うこの事実もまた、エレジーを苛立たせる。
本来なら、今の一撃でこの部屋を跡形もなく吹き飛ばせたはず。少し力を入れるだけで、このアジトも苦もなく崩壊させられる。
なのに、それが出来ない。威力の上限が抑えられ、魔力の燃費が悪化している。
仮にこのアジトを潰そうとしたら、かなりの疲労を強いられてしまうだろう。
身に覚えの無い、唐突な弱体化。思い当たる原因は1つだけ。
「ちっ。あのジジイ、姑息な手を……!」
苛立ちと共に、ポーキーと名乗った子供のような体躯の老人への怒りが沸々と湧いてくる。
本当ならこの偽アジトにもっと八つ当たりしたいところだが、他にやるべきことがある。
蘇るのは、サウスロードの戦いでの記憶。
種族の覇権と生存を掛けた、戦争という名の殺し合い――否、滅ぼし合いだ。
圧倒的な力による蹂躙、一方的な殺戮しか知らなかったエレジーは、あの戦いで初めて殺し合いというものの凄惨さとおぞましさを思い知らされた。
ほんの少しの油断や慢心が命取りになり得るということを、嫌という程見せつけられた。
だから思ってしまう。刹那も、もしかしたら――と。
普段ならこんな心配はしない。刹那とて歴戦のデビルチルドレンだ、簡単に死ぬはずがない。
だが刹那は今、片腕を失ったばかりだ。
如何に刹那とて、隻腕では万一もあり得る。そんなことにさせたくない。そのためにも、一刻も早く刹那と合流して、助けたい。守りたい。
先程の激情とは全く異なる一途な、初心とも言える感情を自覚して、エレジーは偽アジトを後にした。
そういえばと、以前刹那に見せてもらったヴィネコンと似た感じの機械を取り出す。
使い方は既にアジトの中を歩き回っていた時に覚えたので、歩きながらそれを操って名簿のページを開き、ある人物の名前を再び見つける。
「要、未来……」
天使がドッペルゲンガーに擬態させた、甲斐刹那の大切な者。
あの刹那が、姿が同じというだけで傷付けるのを躊躇った相手。
そしてその姿を借りた偽物だからこそ、片腕を失っても立ち上がり、刹那自身の手でトドメを刺さなければならなかった、大きな存在。
「……会ってみたいな。もう1人のデビルチルドレン、刹那の……
大切な人」
行動指針に一つ加えて、他に知り合いの名前が無いことを確認し終えると、エレジーは一先ず人が集まりそうな島の中央へと走り出した。
その脚力は華奢な人間のものではなく、人間を超えた悪魔のもの。
穴の空いたラセツ族のアジトは、すぐに遠ざかっていた。
【B-3 ラセツ族アジト近くの荒野/深夜】
【エレジー@真・女神転生デビルチルドレン(漫画版)】
[状態]:健康、魔力消費(微小)、ムカツク
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・行動]
基本方針:刹那を探す
1:要未来に会ってみたい
2:制限がムカツク
3:取り敢えず島の中央に行って刹那を探す
※参戦時期は新装版第2巻での要未来のドッペルゲンガーとの交戦後です。ロール髪です。
※自身の制限について、威力の減少と魔力の燃費の悪化を自覚しています。
最終更新:2014年03月13日 19:49