384 名無しさん@ピンキー 2008/09/14(日) 19:04:20 ID:7IAjx49c
〉380乙
〉380乙
久しぶりに覗いたので、被ったりしたらすまんですよ。
23話見てから書いたので、エロは匂わす程度で。
23話見てから書いたので、エロは匂わす程度で。
386 果実の雫 2008/09/14(日) 19:05:53 ID:7IAjx49c
シェリル・ノームにとって『歌う』という事は、当然の事だった。『シェリル・ノーム』
は歌手だ。ならば歌手にとっての仕事は歌うことなのだから。
けれど、それは間違っていた。
既に歌うという事は、シェリルという存在をこの世に残すこと―――そんな行為になっ
ていた。自分にはジーンを遺すことは出来ない。ならば、せめてミームだけでも。
シェリルという存在があったということ。
絶望の淵で人々を勇気づけ、理解しあい、そうしていつしか立ち上がった先で思い出し
てもらえるように。
それだけを願っていたはずなのに。
「アルト!」
「シェリル。お疲れ」
舞台袖に立っている青年に、シェリルは自分の声が弾むのを自覚した。
残り時間は少ない。ルカ・アンジェローニが差し出した分析結果は、かつてミシェルが
見せたそれ以上に精細で、だからこそ残酷なまでに現実的だった。
自分自身が、絶望の淵に沈まないために。僅かな希望に縋るために。せめてもの夢を。
そんなことを願ってしまった。
「どうしたの? 今日は確か、飛んでるはずじゃ……」
「ああ。俺の隊の出動回数が多すぎるからって、交代してくれたんだ。ちゃんと最初から
聞いてたんだぜ?」
「本当に?」
「嘘なんかつくかよ」
その腕を取って楽屋まで引っ張りながら、シェリルはスタッフ達に気軽に声をかけてい
く。ここに居るのは、シェリルの気概に応えた者たちばかりだった。第三次統制モードで
すら生活を賄いきれず配給制に移行した現在のフロンティアの環境下で、彼らは歌を伝え
ようと必死になっている。『シェリル・ノーム』の歌で、必死に生きようとしているのだ。
かつて、初めてフロンティアを訪れた時とはまるで違う。
小さなライブハウス。最低限の音響機器。それでも、歌は伝えられる。歌っていられる。
「……ねえ。どうだった?」
「最高さ。お前の歌は」
小さく呟くような声を、それでもアルトは聞き逃さない。胸を張らせるように、背を優
しく叩いて。そうして、誇るように答えるのだ。
「本当?」
「言ったろ。嘘はつかない。芸事なら、尚更にな」
「……ふふっ。そういう所、お父様にそっくりね」
怪訝そうな顔をしたアルトに、シェリルは笑う。楽屋のドアを開くと、腕を解いてドア
の外に立とうとしたアルトを、そのまま引きずり込んだ。
「お、おい。シェリル」
「なあに? 今さら何を気兼ねしてるの? 私のこと、全部知ってるくせに」
「……ッ」
笑いながら、それでも一応背を向けてステージ衣装を落とす。ワンピース型のそれは、
ステージ衣装といっても極々普通の服だ。三次元CGによるステージ演出なんて、現在の
フロンティアでは――否、今のシェリルには必要ない。声さえ届けば良い。歌さえ届けば
――多分それだけで十分だから。
は歌手だ。ならば歌手にとっての仕事は歌うことなのだから。
けれど、それは間違っていた。
既に歌うという事は、シェリルという存在をこの世に残すこと―――そんな行為になっ
ていた。自分にはジーンを遺すことは出来ない。ならば、せめてミームだけでも。
シェリルという存在があったということ。
絶望の淵で人々を勇気づけ、理解しあい、そうしていつしか立ち上がった先で思い出し
てもらえるように。
それだけを願っていたはずなのに。
「アルト!」
「シェリル。お疲れ」
舞台袖に立っている青年に、シェリルは自分の声が弾むのを自覚した。
残り時間は少ない。ルカ・アンジェローニが差し出した分析結果は、かつてミシェルが
見せたそれ以上に精細で、だからこそ残酷なまでに現実的だった。
自分自身が、絶望の淵に沈まないために。僅かな希望に縋るために。せめてもの夢を。
そんなことを願ってしまった。
「どうしたの? 今日は確か、飛んでるはずじゃ……」
「ああ。俺の隊の出動回数が多すぎるからって、交代してくれたんだ。ちゃんと最初から
聞いてたんだぜ?」
「本当に?」
「嘘なんかつくかよ」
その腕を取って楽屋まで引っ張りながら、シェリルはスタッフ達に気軽に声をかけてい
く。ここに居るのは、シェリルの気概に応えた者たちばかりだった。第三次統制モードで
すら生活を賄いきれず配給制に移行した現在のフロンティアの環境下で、彼らは歌を伝え
ようと必死になっている。『シェリル・ノーム』の歌で、必死に生きようとしているのだ。
かつて、初めてフロンティアを訪れた時とはまるで違う。
小さなライブハウス。最低限の音響機器。それでも、歌は伝えられる。歌っていられる。
「……ねえ。どうだった?」
「最高さ。お前の歌は」
小さく呟くような声を、それでもアルトは聞き逃さない。胸を張らせるように、背を優
しく叩いて。そうして、誇るように答えるのだ。
「本当?」
「言ったろ。嘘はつかない。芸事なら、尚更にな」
「……ふふっ。そういう所、お父様にそっくりね」
怪訝そうな顔をしたアルトに、シェリルは笑う。楽屋のドアを開くと、腕を解いてドア
の外に立とうとしたアルトを、そのまま引きずり込んだ。
「お、おい。シェリル」
「なあに? 今さら何を気兼ねしてるの? 私のこと、全部知ってるくせに」
「……ッ」
笑いながら、それでも一応背を向けてステージ衣装を落とす。ワンピース型のそれは、
ステージ衣装といっても極々普通の服だ。三次元CGによるステージ演出なんて、現在の
フロンティアでは――否、今のシェリルには必要ない。声さえ届けば良い。歌さえ届けば
――多分それだけで十分だから。
律儀に後ろを向いているアルトの背を、鏡越しに眺める。女と見まごう長い髪。整った
顔立ちは、生半な女優よりも美しいだろう。
「ねえ」
「なんだ? もう着替え終わって……まだ着替えてないのかよ!」
半裸のままで、シェリルはほんの少しばかりの勇気を振り絞って、振り返る。
一度は振り向き、慌てて背を向けたアルトに近寄り、トン、と額を押し付けた。
「……シェリル?」
両腕で抱きしめる。広い背中は、やはり彼が男なのだと思い知らせる。
「なあ、シェリル。どうしたんだよ」
「甘えてるの」
「はぁ!?」
「……なによ。私だって、こういう事の一つくらいはしたかったのよ」
「背中で良いのか?」
「ん。こんな風に誰かの背中に抱きつけるのを、ずっと夢見てた」
自分には背中しかなかった。どんな時でも。いつでも。ギャラクシーの片隅で生きてい
た時から、自分には『他人』しか居なかった。誰もが自分に背を向けていたから。だから、
ずっと遠くでそれを眺めていた。まるで遠く遠く、星を見るように。幻を見るように。夢
を見るように。
「……なあ、シェリル」
「え?」
ぐるり、と抱きしめていた体が半回転する。
気がつけばシェリルは胸板に押し付けられていた。背中に回った腕が自分を抱きしめ、
髪にキスするようにアルトが顔を近づけている。
「……それならやっぱり、こっちの方が良いだろ」
「ちょ、ちょっと」
「それとも、嫌か?」
「い、嫌っていうか。その」
「ん?」
顔が見えないのが救いだった。身長差のおかげで、アルトの胸板しか見えない。アルト
にもきっと自分のつむじしか見えていないだろう事が救いだった。
「その、……恥ずかしい、から」
「半裸で背中に抱きついた時点で恥ずかしいだろ。普通」
「それは良いのよ! わ、私が自分で抱きついたんだから!」
「お前はやっぱり良くわからんなぁ」
溜め息混じりのアルトの呟きに、シェリルは自分の顔が熱くなるのが分かった。
「俺は裸で抱きついてる時点で十分に恥ずかしいと思うぞ」
そう呟くアルトが、ぎゅっと強く抱きしめる。息苦しいほどくっつきあった時、気がつ
いた。
「……アルト。おっきくなってる」
「男だから仕方ないんだよ!」
素肌に触れる布の感触。硬く、熱くなっている。アルトの白い肌が、真っ赤になってい
た。
顔立ちは、生半な女優よりも美しいだろう。
「ねえ」
「なんだ? もう着替え終わって……まだ着替えてないのかよ!」
半裸のままで、シェリルはほんの少しばかりの勇気を振り絞って、振り返る。
一度は振り向き、慌てて背を向けたアルトに近寄り、トン、と額を押し付けた。
「……シェリル?」
両腕で抱きしめる。広い背中は、やはり彼が男なのだと思い知らせる。
「なあ、シェリル。どうしたんだよ」
「甘えてるの」
「はぁ!?」
「……なによ。私だって、こういう事の一つくらいはしたかったのよ」
「背中で良いのか?」
「ん。こんな風に誰かの背中に抱きつけるのを、ずっと夢見てた」
自分には背中しかなかった。どんな時でも。いつでも。ギャラクシーの片隅で生きてい
た時から、自分には『他人』しか居なかった。誰もが自分に背を向けていたから。だから、
ずっと遠くでそれを眺めていた。まるで遠く遠く、星を見るように。幻を見るように。夢
を見るように。
「……なあ、シェリル」
「え?」
ぐるり、と抱きしめていた体が半回転する。
気がつけばシェリルは胸板に押し付けられていた。背中に回った腕が自分を抱きしめ、
髪にキスするようにアルトが顔を近づけている。
「……それならやっぱり、こっちの方が良いだろ」
「ちょ、ちょっと」
「それとも、嫌か?」
「い、嫌っていうか。その」
「ん?」
顔が見えないのが救いだった。身長差のおかげで、アルトの胸板しか見えない。アルト
にもきっと自分のつむじしか見えていないだろう事が救いだった。
「その、……恥ずかしい、から」
「半裸で背中に抱きついた時点で恥ずかしいだろ。普通」
「それは良いのよ! わ、私が自分で抱きついたんだから!」
「お前はやっぱり良くわからんなぁ」
溜め息混じりのアルトの呟きに、シェリルは自分の顔が熱くなるのが分かった。
「俺は裸で抱きついてる時点で十分に恥ずかしいと思うぞ」
そう呟くアルトが、ぎゅっと強く抱きしめる。息苦しいほどくっつきあった時、気がつ
いた。
「……アルト。おっきくなってる」
「男だから仕方ないんだよ!」
素肌に触れる布の感触。硬く、熱くなっている。アルトの白い肌が、真っ赤になってい
た。
「なんだ。アルトも恥ずかしいんじゃない」
「恥ずかしくない奴がいるか!」
怒鳴るアルトを見て、シェリルはなぜか喉が鳴った。ククッと笑い声が漏れる。
それは段々と強くなって、そのまま吹き出した。
「あ、あはははっ」
「……お前なぁ。今の状況、やばいって分かってんのか?」
「あははっ。……良いわよ。別に」
涙目になりながら、それでもシェリルはぐっとアルトの首筋に腕を回した。体重と腕力
でアルトを引き下ろす。
ぐ、と重なった唇。アルトは驚いたように目を見開き、そしてすぐに目を閉じた。
シェリルもまた、目を閉じていた。唇を忙しなく奪い合いながら、アルトの服を脱がせ
ようとする。
「……ッはぁ」
離れたアルトが熱に浮かされたような目で自分を見る。そこには余計な感情なんて一つ
も無い。同情も憐憫も。あるのはただ、強い欲求。求めようとする気持ちだけ。
「私だって、欲しいんだから」
「――ッ」
もう一度、奪う。奪われる。髪に差し込まれ、乱暴なほどに掻き抱かれる。
楽屋の鍵を閉めなくて大丈夫だろうか。
そんな考えが一瞬だけ浮かんで、結局シェリルはそのままそれを忘れることにした。
「恥ずかしくない奴がいるか!」
怒鳴るアルトを見て、シェリルはなぜか喉が鳴った。ククッと笑い声が漏れる。
それは段々と強くなって、そのまま吹き出した。
「あ、あはははっ」
「……お前なぁ。今の状況、やばいって分かってんのか?」
「あははっ。……良いわよ。別に」
涙目になりながら、それでもシェリルはぐっとアルトの首筋に腕を回した。体重と腕力
でアルトを引き下ろす。
ぐ、と重なった唇。アルトは驚いたように目を見開き、そしてすぐに目を閉じた。
シェリルもまた、目を閉じていた。唇を忙しなく奪い合いながら、アルトの服を脱がせ
ようとする。
「……ッはぁ」
離れたアルトが熱に浮かされたような目で自分を見る。そこには余計な感情なんて一つ
も無い。同情も憐憫も。あるのはただ、強い欲求。求めようとする気持ちだけ。
「私だって、欲しいんだから」
「――ッ」
もう一度、奪う。奪われる。髪に差し込まれ、乱暴なほどに掻き抱かれる。
楽屋の鍵を閉めなくて大丈夫だろうか。
そんな考えが一瞬だけ浮かんで、結局シェリルはそのままそれを忘れることにした。
「……なぁ」
「なぁに?」
楽屋のシートの上に寝転びながら、アルトの髪を弄ぶ。シェリルは、その黒髪を慈しむ
ように指先で撫で回す。
「絶対バレてるって。これ」
「そりゃ、ライブ終わってからずっと篭もってればねえ」
「……どうすんだよ。これから」
「別に良いじゃない。私は気にしないわよ?」
顔を両手で覆うアルトに、シェリルは気にした風もなく笑う。
「だって、そうでしょう? アルト以外になんて思われようと、どうだって良いわ。
シェリル・ノームという歌手はみんなのためにあるわ。けれど」
アルトの髪から手を離し、耳元へと唇を寄せる。
「シェリル・ノームっていう女は、あなたと共に在るのよ」
そう囁いた。
「なぁに?」
楽屋のシートの上に寝転びながら、アルトの髪を弄ぶ。シェリルは、その黒髪を慈しむ
ように指先で撫で回す。
「絶対バレてるって。これ」
「そりゃ、ライブ終わってからずっと篭もってればねえ」
「……どうすんだよ。これから」
「別に良いじゃない。私は気にしないわよ?」
顔を両手で覆うアルトに、シェリルは気にした風もなく笑う。
「だって、そうでしょう? アルト以外になんて思われようと、どうだって良いわ。
シェリル・ノームという歌手はみんなのためにあるわ。けれど」
アルトの髪から手を離し、耳元へと唇を寄せる。
「シェリル・ノームっていう女は、あなたと共に在るのよ」
そう囁いた。