248 名無しさん@ピンキー sage 2008/06/18(水) 21:42:07 ID:+BWCbjzv
ラビット1、投下開始!
ラビット1、投下開始!
内容ルカナナ。
もともと距離の遠い二人なんで、近づいていくまで文章が多いですが、
だんだんとルカに惹かれていくナナセをごらん下さい。
もともと距離の遠い二人なんで、近づいていくまで文章が多いですが、
だんだんとルカに惹かれていくナナセをごらん下さい。
249 プライベート・エンジェル sage 2008/06/18(水) 21:43:06 ID:+BWCbjzv
美星学園。
伝統文化や技術の習得、継承を主眼に置いた、フロンティアきってのスペシャリスト養成校。
設置されているのは芸能科、総合技術科、情報科、航宙科など8コース。全てが完全単位制を取っており、
生徒は所属している学科学年とは別に、任意の教養科目クラスに所属する事になる。
伝統文化や技術の習得、継承を主眼に置いた、フロンティアきってのスペシャリスト養成校。
設置されているのは芸能科、総合技術科、情報科、航宙科など8コース。全てが完全単位制を取っており、
生徒は所属している学科学年とは別に、任意の教養科目クラスに所属する事になる。
木炭画紙をこする音の他には、せきひとつ聞こえないデッサン室。
正面のテーブルに置かれた水差しとリンゴ、ワインボトルを見つめて、松浦ナナセはこのデッサンの難しい部分、
ワインボトルの表面に写る光と影の部分にかかろうとしていた。
正面のテーブルに置かれた水差しとリンゴ、ワインボトルを見つめて、松浦ナナセはこのデッサンの難しい部分、
ワインボトルの表面に写る光と影の部分にかかろうとしていた。
心にボトル表面の陰影をじゅうぶん焼き付けた彼女は木炭をスッと持ち上げると、
その印象が薄れぬようにすばやく、それらを一気に描きこんで写し取ると、
指を使って木炭の粉をこすり、ぼやけさせ、陰影に細かな階調を加えていく。
その指が止まり、テーブルの上のモチーフと見比べたナナセが、
「よしっ!」と小さくガッツポーズしたと同時に、授業の終わるチャイムが鳴りだした。
「よーし、完成した者は提出して。できてへん者は、二日後までに提出う―」
デッサン室の隅で座っていた教師が言うと、緊張の破れた生徒たちの声があふれた。
その印象が薄れぬようにすばやく、それらを一気に描きこんで写し取ると、
指を使って木炭の粉をこすり、ぼやけさせ、陰影に細かな階調を加えていく。
その指が止まり、テーブルの上のモチーフと見比べたナナセが、
「よしっ!」と小さくガッツポーズしたと同時に、授業の終わるチャイムが鳴りだした。
「よーし、完成した者は提出して。できてへん者は、二日後までに提出う―」
デッサン室の隅で座っていた教師が言うと、緊張の破れた生徒たちの声があふれた。
「あー、私できなかったー」
「俺もだよ。ボトルが難しいよな」
「ねえねえ、ナナセはできたの?」ナナセのそばにやって来た友人が声をかけた。
「できたよ。いちおう・・ね」描き上げた瞬間は自分のイメージを忠実に写せたと思うのだが、
完成した絵を落ちついて見返すといつも、こう描けばもっと巧くできたかもと思えて、達成感が薄れてしまう。
それはまだ自分の絵画表現に確かな自信がないからだったが、ナナセの画力は教師たちから、
すでに短時間でも情景をしっかり写し取れる段階にあると評価されていて、
あとは作品をコンクールなどで認められればその自信も固まるのだが、
何事でも前に出たがらないナナセの性格が、コンクール出品をためらわせていた。
「俺もだよ。ボトルが難しいよな」
「ねえねえ、ナナセはできたの?」ナナセのそばにやって来た友人が声をかけた。
「できたよ。いちおう・・ね」描き上げた瞬間は自分のイメージを忠実に写せたと思うのだが、
完成した絵を落ちついて見返すといつも、こう描けばもっと巧くできたかもと思えて、達成感が薄れてしまう。
それはまだ自分の絵画表現に確かな自信がないからだったが、ナナセの画力は教師たちから、
すでに短時間でも情景をしっかり写し取れる段階にあると評価されていて、
あとは作品をコンクールなどで認められればその自信も固まるのだが、
何事でも前に出たがらないナナセの性格が、コンクール出品をためらわせていた。
「松浦、ちょっとええか」芸術科の教師がやってきてナナセに声をかけた。
「はい、なんですか?」立ち上がった彼女に、教師が一冊のパンフレットを渡した。
「松浦。おまえ、このコンクールに作品を出すつもり、ないか?」
(第28回 全船団芸術コンクール"ネビュラ賞"のおしらせ)と書かれたパンフレットを見て、彼女は無言だった。
「はい、なんですか?」立ち上がった彼女に、教師が一冊のパンフレットを渡した。
「松浦。おまえ、このコンクールに作品を出すつもり、ないか?」
(第28回 全船団芸術コンクール"ネビュラ賞"のおしらせ)と書かれたパンフレットを見て、彼女は無言だった。
ナナセはこの賞なら知っていた。第一次星間大戦で地球が壊滅した時、世界中の美術館が、
それまで千数百年間蓄積された作品もろともすべて消し飛び、芸術という分野は、
もはや再興は不可能と言われるほどの損害を受けた。その状況で、コロニーや月面都市アポロにいて
壊滅の難を逃れた5人の芸術家たちが、「絵画復活」を志して立ち上げたのがネビュラ賞である。
それまで千数百年間蓄積された作品もろともすべて消し飛び、芸術という分野は、
もはや再興は不可能と言われるほどの損害を受けた。その状況で、コロニーや月面都市アポロにいて
壊滅の難を逃れた5人の芸術家たちが、「絵画復活」を志して立ち上げたのがネビュラ賞である。
「お前の絵は、コンクールでしっかり評価されるべきやと思う。無理にとは言わへんから、検討だけしてみてくれ」
「・・わかりました。ありがとうございます」
教師が去った後、パンフレットを眺めながら、ナナセはフッとため息をついた。
「・・コンクール・・かあ」
「・・わかりました。ありがとうございます」
教師が去った後、パンフレットを眺めながら、ナナセはフッとため息をついた。
「・・コンクール・・かあ」
#Another4 プライベート・エンジェル
「ナナちゃん、これは出してみないとダメだよ!コンクール」
カフェテリアで、ネビュラ賞のパンフレットを見たランカが言った。
「入選作以上は、船団を巡回して展示。銅賞以上は個展。これってほかの船団の人たちに、ナナちゃん
の絵を見てもらえるんだよね?」
「・・うん、そうなんですけど」
クラブハウスサンドを食べかけのまま、気乗りしなさそうなナナセは言った。
「ナナちゃん、絵、うまいもん。ぜったい大丈夫だよ。何事もやってみないとだよ?」
カフェテリアで、ネビュラ賞のパンフレットを見たランカが言った。
「入選作以上は、船団を巡回して展示。銅賞以上は個展。これってほかの船団の人たちに、ナナちゃん
の絵を見てもらえるんだよね?」
「・・うん、そうなんですけど」
クラブハウスサンドを食べかけのまま、気乗りしなさそうなナナセは言った。
「ナナちゃん、絵、うまいもん。ぜったい大丈夫だよ。何事もやってみないとだよ?」
はてしなくポジティブなランカの言葉を聞きながら、ナナセはため息をついた。
ミス・マクロスに応募して以来、ついに映画に出るほどになったランカを目の前に見ていると、
どんどん前に出ることを覚えた彼女の言葉が、ナナセにはちょっとまぶしく聞こえる。
ミス・マクロスに応募して以来、ついに映画に出るほどになったランカを目の前に見ていると、
どんどん前に出ることを覚えた彼女の言葉が、ナナセにはちょっとまぶしく聞こえる。
「・・いちおう、考えるだけ考えてみます。コンクール」ポツッとナナセがつぶやく。
「それがいいよ!私も応援するよ?」
ランカから返してもらったパンフレットのページを何気なくめくったナナセの目に、
【油彩画部門 テーマ「天使」】の一文が目に留まった。主に静物や風景画をものしてきた彼女にとって
こういうテーマは初挑戦で、それを考えると少し制作意欲が刺激される。
「・・天使・・か。油絵、久しぶりだな・・」
「それがいいよ!私も応援するよ?」
ランカから返してもらったパンフレットのページを何気なくめくったナナセの目に、
【油彩画部門 テーマ「天使」】の一文が目に留まった。主に静物や風景画をものしてきた彼女にとって
こういうテーマは初挑戦で、それを考えると少し制作意欲が刺激される。
「・・天使・・か。油絵、久しぶりだな・・」
ライブラリーで天使を題材にした絵画を調べ、そのほぼ全てが宗教画だと知ったナナセは、
無宗教な自分が同じ視点で天使というテーマを描くのは無理だと思った。ならこのテーマは一から考え
直す必要があり、 ナナセはいつの間にか本気で、このコンクールのための着想を探し求めていた。
(天使か・・天使は空を飛ぶもの・・空から降りてくる・・鳥・・そら)
無宗教な自分が同じ視点で天使というテーマを描くのは無理だと思った。ならこのテーマは一から考え
直す必要があり、 ナナセはいつの間にか本気で、このコンクールのための着想を探し求めていた。
(天使か・・天使は空を飛ぶもの・・空から降りてくる・・鳥・・そら)
空をイメージした彼女がふと見上げたその時、美星学園の校舎の突端から、
シュパッ!と鳥のようななにかが飛び立った。「・・あっ・・!」
航宙科の生徒がEXギアで離陸した瞬間を見たナナセの心に漠然としたアイデアの形が閃いた。
(でももう少し・・まだなにか足りない・・)
彼女が見つめる中で、学校のそばの森から飛び立ったハトの群れと共にゆっくり旋回して高度を下げる
その生徒がふいに、
「ナナセさーーん!」と手を振って声をかけ、太陽を背にしてゆっくり降りてきた。
「ルカ・・くん?」肩と腕に三羽のハトを留まらせたまま着地したルカ・アンジェローニが、ハトたち
にパンくずを与えたあと
「シモン。ヨハネ。ペテロ。お行き」とささやくと、彼らはまた飛び立っていく。
その手品のような光景をボーっと眺めているナナセに、ルカが言った。
「ずっと餌づけしてるから慣れちゃって。ボクが飛ぶと、ついて来るんです」
何かがナナセの心の中でバシッと固まった。彼の姓は・・アンジェローニ。アンジェロはイタリア語で
シュパッ!と鳥のようななにかが飛び立った。「・・あっ・・!」
航宙科の生徒がEXギアで離陸した瞬間を見たナナセの心に漠然としたアイデアの形が閃いた。
(でももう少し・・まだなにか足りない・・)
彼女が見つめる中で、学校のそばの森から飛び立ったハトの群れと共にゆっくり旋回して高度を下げる
その生徒がふいに、
「ナナセさーーん!」と手を振って声をかけ、太陽を背にしてゆっくり降りてきた。
「ルカ・・くん?」肩と腕に三羽のハトを留まらせたまま着地したルカ・アンジェローニが、ハトたち
にパンくずを与えたあと
「シモン。ヨハネ。ペテロ。お行き」とささやくと、彼らはまた飛び立っていく。
その手品のような光景をボーっと眺めているナナセに、ルカが言った。
「ずっと餌づけしてるから慣れちゃって。ボクが飛ぶと、ついて来るんです」
何かがナナセの心の中でバシッと固まった。彼の姓は・・アンジェローニ。アンジェロはイタリア語で
- エンジェル。
そして彼の名前はルカ。ナナセはなにかの本で読んだのを思い出した。ルカ、それが「すべての画家の
守護聖人」の名前である事を。
守護聖人」の名前である事を。
「ルカくんにっ!お願いがありますっ!!」とつぜんルカに勢いよく頭を下げたナナセの胸が、下にブルン
ッと揺れる。
「わっ!ビックリした!な、何です?ナナセさん」
「私に、ルカくんの絵を描かせて下さい!お願い!!」体を起こしたナナセの胸が、上にブルンッと跳ねた。
ッと揺れる。
「わっ!ビックリした!な、何です?ナナセさん」
「私に、ルカくんの絵を描かせて下さい!お願い!!」体を起こしたナナセの胸が、上にブルンッと跳ねた。
えええーーーーっというルカの叫びが響き、それに驚いたシモンとヨハネとペテロが、そばの木から飛び立った。
「きょうから絵のモデル?ルカがか?」カフェテリアで、しばらく飛行訓練は出られないかもと告げた
ルカに、ミハエルが言った。
「テーマが「天使」らしいです。何か恥ずかしいですけどね」
「へえ、天使か。いいじゃないか」アルトが、ルカを選んだナナセの意図を理解した口調で言った。
「私もわかる気がするな。ルカくんがハトを従えて飛んでるところ、確かにミスティックだもの」
シェリルも感心した。アーティストと言うのは分野が違っても、こういう芸術的着想を理解できるもの
らしい。
ルカに、ミハエルが言った。
「テーマが「天使」らしいです。何か恥ずかしいですけどね」
「へえ、天使か。いいじゃないか」アルトが、ルカを選んだナナセの意図を理解した口調で言った。
「私もわかる気がするな。ルカくんがハトを従えて飛んでるところ、確かにミスティックだもの」
シェリルも感心した。アーティストと言うのは分野が違っても、こういう芸術的着想を理解できるもの
らしい。
「話はわかった。ッてことは、この俺が大天使ミカエルとして天使ルカの横に立てば、絵はすでに完成
したも同然・・だな」
「ミシェルお前、いまかなり面白いこと言ったぞ。自分で気付いてんのか?」
「大天使って言うより、堕天使って感じよね」
「・・かなりキツいな君たち・・冗談だよ。ジャマはしないぜ。なあルカ、がんばれよ・・色々とな?」
ルカの肩を軽く叩いたミハエルが、ニカッと笑って親指を立てた。
「あははは・・はい・・がんばります」
したも同然・・だな」
「ミシェルお前、いまかなり面白いこと言ったぞ。自分で気付いてんのか?」
「大天使って言うより、堕天使って感じよね」
「・・かなりキツいな君たち・・冗談だよ。ジャマはしないぜ。なあルカ、がんばれよ・・色々とな?」
ルカの肩を軽く叩いたミハエルが、ニカッと笑って親指を立てた。
「あははは・・はい・・がんばります」
「あの、ナナセさん。ボクは何を・・したらいいでしょうか」
「とりあえずいろいろなポーズをしてもらうね。そのスケッチを繰り返して、本作で使うポーズを決めるの」
二人は芸術専攻コースの一角にある、3メートル四方ほどの、個人制作用の小部屋にいた。
そこはナナセからコンクールへの出品を告げられた教師が用意してくれたアトリエ、という雰囲気だ。
「とりあえずいろいろなポーズをしてもらうね。そのスケッチを繰り返して、本作で使うポーズを決めるの」
二人は芸術専攻コースの一角にある、3メートル四方ほどの、個人制作用の小部屋にいた。
そこはナナセからコンクールへの出品を告げられた教師が用意してくれたアトリエ、という雰囲気だ。
「最初からそれらしいポーズは無理だから、簡単なとこからね。音楽かけるから、座って楽にして」
ナナセが背後に置いた小さなユニコンのプレイボタンを押し、静かな部屋の中に、やさしいタッチのピ
アノがたゆたう。
「シューマン・・"トロイメライ"・・」その旋律を味わうように目を閉じると、
ルカは重ねた手を右脚に乗せ、脱力して曲に聴き入る姿勢を取る。
ナナセが背後に置いた小さなユニコンのプレイボタンを押し、静かな部屋の中に、やさしいタッチのピ
アノがたゆたう。
「シューマン・・"トロイメライ"・・」その旋律を味わうように目を閉じると、
ルカは重ねた手を右脚に乗せ、脱力して曲に聴き入る姿勢を取る。
「そのまま動かないでね・・詳しいの?クラシック」
ナナセは木炭を取り、それがすべる音を旋律に加えながら、彼の全身スケッチを始めた。
「父によく聴かされました。父はボクを音楽か美術か、どっちかに育てたかったみたいだけど」
曲が"亡き王女のためのパヴァーヌ"に変わり、ルカは続けて言った。
「でも、いまのボクはコンピュータとメカマニアで、SMSの人間です。正反対ですね」
「音楽も芸術も、それを守る人がいるから広がるの。大事だよ。それって」
「そうですね。ボクの名前だけは、今でも立派にその通りですけど」
指を止めた彼女がルカを見ると、彼はナナセを見つめて笑っていた。
「うまくいきますよ。コンクール。画家の守護聖人ルカが言うんですから、まちがいないです」
「フフッ。そうだね。松浦ナナセ、がんばります」ナナセはかわいく微笑むと、スケッチを再開した。
ナナセは木炭を取り、それがすべる音を旋律に加えながら、彼の全身スケッチを始めた。
「父によく聴かされました。父はボクを音楽か美術か、どっちかに育てたかったみたいだけど」
曲が"亡き王女のためのパヴァーヌ"に変わり、ルカは続けて言った。
「でも、いまのボクはコンピュータとメカマニアで、SMSの人間です。正反対ですね」
「音楽も芸術も、それを守る人がいるから広がるの。大事だよ。それって」
「そうですね。ボクの名前だけは、今でも立派にその通りですけど」
指を止めた彼女がルカを見ると、彼はナナセを見つめて笑っていた。
「うまくいきますよ。コンクール。画家の守護聖人ルカが言うんですから、まちがいないです」
「フフッ。そうだね。松浦ナナセ、がんばります」ナナセはかわいく微笑むと、スケッチを再開した。
「わあ、こんなアイランドもあったんだね・・空気が全然ちがう」
ルカとナナセは、自然保護用アイランド、アイランド17の森の中にいた。
学園でポーズスケッチを5日間続けたあと、構図の中に自然の情景を盛り込む野外デッサンをしたいと言
ったナナセにここへ来る事を提案したのはルカで、森の匂いを味わいながら前を歩く彼女を見ると、
小部屋で根をつめていた間の気分転換もできそうで、ルカはそれがうれしかった。
ルカとナナセは、自然保護用アイランド、アイランド17の森の中にいた。
学園でポーズスケッチを5日間続けたあと、構図の中に自然の情景を盛り込む野外デッサンをしたいと言
ったナナセにここへ来る事を提案したのはルカで、森の匂いを味わいながら前を歩く彼女を見ると、
小部屋で根をつめていた間の気分転換もできそうで、ルカはそれがうれしかった。
「ねえルカくん、鹿がいるよ!」
その声に驚いて森の奥へ走っていった牝鹿を追って、ナナセは土の歩道から外れ、森へ入っていこうと
している。
「危ないですよナナセさん!奥まで入ったら!」自然保護区の森は、林道以外は人の手が入っておらず、
この森でもし彼女が迷ったらと思うと、ルカもその後を追うしかない。
「ナナセさーん!」
森に踏みこみ、デッサン道具をガチャガチャさせて彼女を探し回ったルカは、突然ポッカリと開けた空
き地に飛び出した。
その声に驚いて森の奥へ走っていった牝鹿を追って、ナナセは土の歩道から外れ、森へ入っていこうと
している。
「危ないですよナナセさん!奥まで入ったら!」自然保護区の森は、林道以外は人の手が入っておらず、
この森でもし彼女が迷ったらと思うと、ルカもその後を追うしかない。
「ナナセさーん!」
森に踏みこみ、デッサン道具をガチャガチャさせて彼女を探し回ったルカは、突然ポッカリと開けた空
き地に飛び出した。
まわりが薄暗い森の中で、光がスポットライトのようにそこだけ差し込む空き地は、
1本のコケむした倒木のそばに生えた若木がアクセントになった、絵画のように幻想的な雰囲気の場所だった。
「イメージ通り。こんな場所・・ホントにあるんだ」
呆然と空き地を見ていたルカの背後から声がして振り返ると、ナナセが彼と同じように、そこを見つめ
て立っていた。
1本のコケむした倒木のそばに生えた若木がアクセントになった、絵画のように幻想的な雰囲気の場所だった。
「イメージ通り。こんな場所・・ホントにあるんだ」
呆然と空き地を見ていたルカの背後から声がして振り返ると、ナナセが彼と同じように、そこを見つめ
て立っていた。
「きれいな場所ですね。ここにします?」そう言ったルカの手をナナセがいきなり握った。
「!」言葉も出ないルカの心臓が、柔らかな手の感触に触れて躍った。
「この場所が見つかったのは、きっとルカくんのおかげ。すごくいい絵ができる気がする」
(ボクはあの鹿に・・感謝したいけどな)こうして彼女の手を握れたのはあの鹿のおかげと思うルカは、
もし望むなら1トンのリンゴでも何でもあげたい気持ちだった。
「そうですね。がんばりましょう。ナナセさん」きゅっと握りかえして、彼は言った。
「!」言葉も出ないルカの心臓が、柔らかな手の感触に触れて躍った。
「この場所が見つかったのは、きっとルカくんのおかげ。すごくいい絵ができる気がする」
(ボクはあの鹿に・・感謝したいけどな)こうして彼女の手を握れたのはあの鹿のおかげと思うルカは、
もし望むなら1トンのリンゴでも何でもあげたい気持ちだった。
「そうですね。がんばりましょう。ナナセさん」きゅっと握りかえして、彼は言った。
(どうしよう・・できるかな)予想外に早く最上のモチーフを見つけたナナセは、
今日ここで、ほぼ下絵に近い構図を決めてしまおうか、迷っていた。
普段まったくやらない油彩画を作るために時間は少しでも必要で、構図さえ決まればそれに早く取りか
かれるが、
ここに来て、何だか自分が急ぎすぎているような思いが、どうしても心から離れないのだ。
いい絵のためにもっと考えるべきなのか、この場所を見つけた幸運に乗って突き進むか・・
迷うほど、目の前のキャンバスに下絵を描く最初のひと筆が入れられない。
今日ここで、ほぼ下絵に近い構図を決めてしまおうか、迷っていた。
普段まったくやらない油彩画を作るために時間は少しでも必要で、構図さえ決まればそれに早く取りか
かれるが、
ここに来て、何だか自分が急ぎすぎているような思いが、どうしても心から離れないのだ。
いい絵のためにもっと考えるべきなのか、この場所を見つけた幸運に乗って突き進むか・・
迷うほど、目の前のキャンバスに下絵を描く最初のひと筆が入れられない。
「いまなにか迷ってませんか?ナナセさん」その声にふっと顔を上げた彼女の胸がドキンッと跳ねる。
白い布を古代人の着るトーガ(長衣)のように体に巻きつけ、スソから裸足の足を出したルカが
倒木の上にちょこんと座って、ナナセを見ている。
ファンタジックなその光景に、彼女は目をパチパチさせて彼を見つめ返した。
「・・ルカくん・・そのかっこう・・」
「天使ってこういうイメージでしょ?これ、ベッドシーツです」
「すごい。そこまで考えてたの・・?」
「この方がイメージがわくと思って。でも背中の羽根はムリだったんで、そこは任せます」ルカは木か
ら身軽に飛び降りた。
白い布を古代人の着るトーガ(長衣)のように体に巻きつけ、スソから裸足の足を出したルカが
倒木の上にちょこんと座って、ナナセを見ている。
ファンタジックなその光景に、彼女は目をパチパチさせて彼を見つめ返した。
「・・ルカくん・・そのかっこう・・」
「天使ってこういうイメージでしょ?これ、ベッドシーツです」
「すごい。そこまで考えてたの・・?」
「この方がイメージがわくと思って。でも背中の羽根はムリだったんで、そこは任せます」ルカは木か
ら身軽に飛び降りた。
「このまま進めるかどうか、迷ってるんじゃないですか?」
「わかるの?ここでもっと考えたほうが、いい絵になる気がして・・」
「わかりますよ。ナナセさんは気付いてなかったと思うけどボク、ナナセさんをもう何年も何年も前か
ら、ずっと・・見てきましたから」
「えっ・・・?」さりげないルカの言葉にナナセの心臓がトクントクンと高鳴り、思わず頬がぽっと熱
を帯びた。
「わかるの?ここでもっと考えたほうが、いい絵になる気がして・・」
「わかりますよ。ナナセさんは気付いてなかったと思うけどボク、ナナセさんをもう何年も何年も前か
ら、ずっと・・見てきましたから」
「えっ・・・?」さりげないルカの言葉にナナセの心臓がトクントクンと高鳴り、思わず頬がぽっと熱
を帯びた。
「ナナセさんはここまで頑張ってきました。今さら迷うことはないです。したいようにすればいいですよ」
「ルカくん・・」ナナセの顔が、きゅっと引き締まった。
「ありがとう・・そうだね。やってみる。きょう、構図を決めるね」
「ハイ、できますよ。ナナセさんなら」
そう言うとルカは右手を宙に差し伸べ、腕の先に留まらせたハトたちと戯れているような自然な笑顔を見せ、
左手はまるでさっきの牝鹿がそこにいて、その頭を撫でているように伸ばされた。
「ルカくん・・」ナナセの顔が、きゅっと引き締まった。
「ありがとう・・そうだね。やってみる。きょう、構図を決めるね」
「ハイ、できますよ。ナナセさんなら」
そう言うとルカは右手を宙に差し伸べ、腕の先に留まらせたハトたちと戯れているような自然な笑顔を見せ、
左手はまるでさっきの牝鹿がそこにいて、その頭を撫でているように伸ばされた。
(そうなの?ルカくん・・これって、私のこと・・そう思っていいの?)
自然にポーズを決めた彼を見つめるナナセは、彼が言った言葉に、もっとこの絵をいいものに昇華する
力があるのを感じ取った。
(知りたい。ルカくんのさっきの言葉の意味・・それがわかれば)
「・・ルカくん・・少しポーズを変えてもらって・・いい?」ナナセの心臓がさらに高鳴り、熱くなった。
もしルカの言葉の意味が彼女の考え通りなら、これはそれに応えるに等しいのだから。
「そのまま顔をこっちに向けて。私を・・見て」
まっすぐナナセの瞳を射抜くルカの視線が、彼女の心をキュッと疼かせた。
(ルカくん、わかるよ。伝わってくる・・そんなに私のこと・・好きなの?)
自然にポーズを決めた彼を見つめるナナセは、彼が言った言葉に、もっとこの絵をいいものに昇華する
力があるのを感じ取った。
(知りたい。ルカくんのさっきの言葉の意味・・それがわかれば)
「・・ルカくん・・少しポーズを変えてもらって・・いい?」ナナセの心臓がさらに高鳴り、熱くなった。
もしルカの言葉の意味が彼女の考え通りなら、これはそれに応えるに等しいのだから。
「そのまま顔をこっちに向けて。私を・・見て」
まっすぐナナセの瞳を射抜くルカの視線が、彼女の心をキュッと疼かせた。
(ルカくん、わかるよ。伝わってくる・・そんなに私のこと・・好きなの?)
「そのまま・・ずっと私を見てて・・動かないで」木炭がためらいなくキャンバスに最初の一線を描き
出し、飛ぶように駆けめぐる。
ルカと視線を絡ませるたびに彼が目で伝えてくる思いの深さを感じて、
体も心も抱きしめられるような感覚を覚えつつ、彼女の手だけは機械のように情景を写し取り続ける。
(私すごくドキドキしてる・・見られるのが・・恥ずかしい・・)
無意識に脚をきつく閉じたナナセは、その意味も見すかされるようで、
絵を描くという理性的な行為と正反対の、エロティックな感情を感じながら、キャンバスを埋め続けた。
出し、飛ぶように駆けめぐる。
ルカと視線を絡ませるたびに彼が目で伝えてくる思いの深さを感じて、
体も心も抱きしめられるような感覚を覚えつつ、彼女の手だけは機械のように情景を写し取り続ける。
(私すごくドキドキしてる・・見られるのが・・恥ずかしい・・)
無意識に脚をきつく閉じたナナセは、その意味も見すかされるようで、
絵を描くという理性的な行為と正反対の、エロティックな感情を感じながら、キャンバスを埋め続けた。
「ふうっ・・できたよ。ルカくん・・」
森の中が目に見えて暗くなり始めた4時近く、ナナセは短くなった3本目の木炭を放り出し、ため息を吐
いた。
「ほら、やっぱり。ナナセさんならできると思ってました」
長時間のポージングを務めたルカがサクサクと草を踏んでやってきた一瞬、ナナセはこのまま草の上に
押し倒されても、自分はルカを受け入れるだろうという甘い予感を味わったが、
完成した下絵を見るでもなく、彼はあっさり言った。
「森の中は、すぐ真っ暗になります。ナナセさんも疲れたでしょうから、帰りましょう」
彼の態度は自分が感じた気持ちは何なのかと思うほどドライで、
夜の森の中でルカに抱かれる妄想を抱いたナナセは自分に思いっきり赤面したが、
それは彼が彼女のことを思っていないからではないのは、すぐにわかった。
森の中が目に見えて暗くなり始めた4時近く、ナナセは短くなった3本目の木炭を放り出し、ため息を吐
いた。
「ほら、やっぱり。ナナセさんならできると思ってました」
長時間のポージングを務めたルカがサクサクと草を踏んでやってきた一瞬、ナナセはこのまま草の上に
押し倒されても、自分はルカを受け入れるだろうという甘い予感を味わったが、
完成した下絵を見るでもなく、彼はあっさり言った。
「森の中は、すぐ真っ暗になります。ナナセさんも疲れたでしょうから、帰りましょう」
彼の態度は自分が感じた気持ちは何なのかと思うほどドライで、
夜の森の中でルカに抱かれる妄想を抱いたナナセは自分に思いっきり赤面したが、
それは彼が彼女のことを思っていないからではないのは、すぐにわかった。
来たときと同じようにイーゼルや絵の道具を担いだルカが彼女の手を握って、
暗い森の中を正確に、元の林道まで連れて行ってくれる途中、おずおずとナナセが絡みあわせた指を無
言で強く握り返したルカの笑みが、
(いまは何も言わないで)と伝えているように思えた。
暗い森の中を正確に、元の林道まで連れて行ってくれる途中、おずおずとナナセが絡みあわせた指を無
言で強く握り返したルカの笑みが、
(いまは何も言わないで)と伝えているように思えた。
そのまま自分の住んでいるアイランドまで送ってもらったあと、宙に浮いたような足取りで帰宅したナナセは、
布に包んだキャンバスや絵の道具を下ろすと、シャワーを浴びるためにバスルームに入り、
チュニックワンピースとカットソーを脱ぎながら、かすれたため息をついた。
(いままで弟みたいに思ってた・・やっぱり、男の子だな)
森の中でナナセが見たルカの瞳には間違いなく、大人の男の気持ちがこもっていて、
見た目は子供のような彼がずっと秘め続けていたそれを知った今、
ナナセはもうルカを今までと同じような視線で見ることができなくなっている。
布に包んだキャンバスや絵の道具を下ろすと、シャワーを浴びるためにバスルームに入り、
チュニックワンピースとカットソーを脱ぎながら、かすれたため息をついた。
(いままで弟みたいに思ってた・・やっぱり、男の子だな)
森の中でナナセが見たルカの瞳には間違いなく、大人の男の気持ちがこもっていて、
見た目は子供のような彼がずっと秘め続けていたそれを知った今、
ナナセはもうルカを今までと同じような視線で見ることができなくなっている。
服を脱いだあと、ブラを外してパンティを脱いだナナセはまた、頬がかっと熱くなった。
クロッチの中心にできた丸い染みが、自分を愛していると告げた男の優しく熱い視線に、
この身体がどう反応したのか、はっきり教えていた。
「はずかしい・・こんなに・・」ナナセはあわてて下着をランドリーに放り込むと髪のリボンをほどき、
いつもより熱くしたシャワーの下に立って目を閉じる。
クロッチの中心にできた丸い染みが、自分を愛していると告げた男の優しく熱い視線に、
この身体がどう反応したのか、はっきり教えていた。
「はずかしい・・こんなに・・」ナナセはあわてて下着をランドリーに放り込むと髪のリボンをほどき、
いつもより熱くしたシャワーの下に立って目を閉じる。
正直ナナセは、好きになった男には気持ちを伝えられず、接近してきた男の情熱にも心が揺れない、
自分の内気で、引っ込み思案な性格が嫌いでたまらない。
ルカはそんな彼女の性格も知っていながら、これ以上ないほどの強さでナナセの心を揺り動かすアプロ
ーチをしてくれた。
それを思うと彼女は、自分がどれだけのあいだ彼に見守られてきたのかを、あらためて実感してしまう。
(どうなるのかな・・私、どうすればいいの?ルカくん・・)
<<したいように・・すればいいですよ>>
その言葉と、帰りの森の中でルカが見せた笑みが脳裏に浮かんで、ナナセはハッと気付いた。
自分の内気で、引っ込み思案な性格が嫌いでたまらない。
ルカはそんな彼女の性格も知っていながら、これ以上ないほどの強さでナナセの心を揺り動かすアプロ
ーチをしてくれた。
それを思うと彼女は、自分がどれだけのあいだ彼に見守られてきたのかを、あらためて実感してしまう。
(どうなるのかな・・私、どうすればいいの?ルカくん・・)
<<したいように・・すればいいですよ>>
その言葉と、帰りの森の中でルカが見せた笑みが脳裏に浮かんで、ナナセはハッと気付いた。
ルカは待つつもりなのだ。いまコンクールに力を注いでいるナナセの心を乱さないために、
何年も秘めた想いをようやく伝えたあとで、その答えも求めずに、彼女のやるべきことが終わるまで、
何年も秘めた想いをようやく伝えたあとで、その答えも求めずに、彼女のやるべきことが終わるまで、
彼はまだ待てるのだ。
その気持ちをいじらしく感じると同時に、自分は彼にここまで愛されているのだという甘い実感が、ナ
ナセの心に染みこんでいく。
顔に湯を浴びながら、彼女は瞳を薄く開いた。
(ルカくん・・わかった。私、がんばって絵を描くね。それまで・・もう少しだけ待ってくれる?)
いったん気持ちの整理をつけたナナセは、体の汗を落とすためにボディソープを付けた手を
肩から胸へ、そして脚の間へ滑らせ、敏感になったそこに触れたとき、思わず鼻から声を漏らした。
「ふっ・・あ」
(やだ、こんなになってる・・ぜんぜん収まってない)
気持ちはともかく、まだいちばん深くに火種を残したこの体を鎮めないと、今夜は眠れそうになかった。
(・・もう・・しちゃおうかな、一回だけ・・)
そしてナナセはバスルームでたっぷり自分をじらしながらその行為を終わらせたあと、全裸でベッドに
倒れ、そのまま眠りこんだ。
その気持ちをいじらしく感じると同時に、自分は彼にここまで愛されているのだという甘い実感が、ナ
ナセの心に染みこんでいく。
顔に湯を浴びながら、彼女は瞳を薄く開いた。
(ルカくん・・わかった。私、がんばって絵を描くね。それまで・・もう少しだけ待ってくれる?)
いったん気持ちの整理をつけたナナセは、体の汗を落とすためにボディソープを付けた手を
肩から胸へ、そして脚の間へ滑らせ、敏感になったそこに触れたとき、思わず鼻から声を漏らした。
「ふっ・・あ」
(やだ、こんなになってる・・ぜんぜん収まってない)
気持ちはともかく、まだいちばん深くに火種を残したこの体を鎮めないと、今夜は眠れそうになかった。
(・・もう・・しちゃおうかな、一回だけ・・)
そしてナナセはバスルームでたっぷり自分をじらしながらその行為を終わらせたあと、全裸でベッドに
倒れ、そのまま眠りこんだ。
<<がんばって下さい、ナナセさん。絵ができるの、楽しみにしてます>>
翌日、小部屋のイーゼルにセットされたキャンバスの前で携帯メールを読んだナナセは、
キャンバスに描かれたルカの顔を、小指でチョンッとつついて微笑んだ。
(大丈夫だよ。私、がんばるね)
下絵は完成し、あとは本制作を残すだけになったここからは、ナナセが独りで作業する段階になる。
その孤独さを知っている彼女は正直、彼がここにいてくれたらいいとも思うのだが、
その反面、彼が、自分の邪魔はしないと言うだろうとわかっていた。
だからこの部屋にルカはいない。あの森の中で見つめ合ったときの表情のまま、キャンバスの中から彼
女を見ているだけ。
だがナナセにとって、いまはそれだけで充分だった。
翌日、小部屋のイーゼルにセットされたキャンバスの前で携帯メールを読んだナナセは、
キャンバスに描かれたルカの顔を、小指でチョンッとつついて微笑んだ。
(大丈夫だよ。私、がんばるね)
下絵は完成し、あとは本制作を残すだけになったここからは、ナナセが独りで作業する段階になる。
その孤独さを知っている彼女は正直、彼がここにいてくれたらいいとも思うのだが、
その反面、彼が、自分の邪魔はしないと言うだろうとわかっていた。
だからこの部屋にルカはいない。あの森の中で見つめ合ったときの表情のまま、キャンバスの中から彼
女を見ているだけ。
だがナナセにとって、いまはそれだけで充分だった。
小部屋の隅のユニコンのプレイボタンを押し、初スケッチのときルカに聴かせた"トロイメライ"が流れると、
ナナセはためらわず筆をとり、自分の気持ちをひと塗りひと塗りに込めながら、キャンバスを彩りはじめた。
ナナセはためらわず筆をとり、自分の気持ちをひと塗りひと塗りに込めながら、キャンバスを彩りはじめた。
「あら、ルカくん。絵のモデルはもういいの?」しばらくぶりにカタパルトデッキに現れたルカを見つ
けて、シェリルが声をかけた。
「はい。今日から本番の作品の色ぬりが始まるんで、モデルは終了です」
「それならそばで見ててあげたほうがいいんじゃない?」
「絵の素人がそばにいてもアレですし、ナナセさんを集中させてあげたいですから」
「うーん、それもそうね。やっぱりルカくんは、ナナセにはトコトン優しいのね」
意味ありげなニッコリ顔のシェリルが言うと、ルカはちょっと顔を赤くした。
「そんなことないですよ!それに」彼はカバンから袋に入ったパンくずを出した。
「しばらくハトたちに、エサをあげてなかったですから」
けて、シェリルが声をかけた。
「はい。今日から本番の作品の色ぬりが始まるんで、モデルは終了です」
「それならそばで見ててあげたほうがいいんじゃない?」
「絵の素人がそばにいてもアレですし、ナナセさんを集中させてあげたいですから」
「うーん、それもそうね。やっぱりルカくんは、ナナセにはトコトン優しいのね」
意味ありげなニッコリ顔のシェリルが言うと、ルカはちょっと顔を赤くした。
「そんなことないですよ!それに」彼はカバンから袋に入ったパンくずを出した。
「しばらくハトたちに、エサをあげてなかったですから」
ルカがそのメールを受け取ったのは、それから2週間が過ぎた、ある日のことだった。
<<ルカくんへ やっと絵ができました。ルカくんに最初に見せたいです。>>
(・・よかった。できたんだ。ナナセさん)絵の制作が大詰めに入ったナナセは
作品を自宅で制作すると学園に申請してこの1週間休学していたので、この知らせにルカはほっとため
息をついた。
とりあえず返信しようとしたルカはメール画面の下の方に、まだ文章があるのにふと気付いて画面をス
クロールさせ、 余白の下の下のほうに隠すように書かれたその文を見た瞬間、ピタッと立ち止まった。
<<なので、学校が終わったら私の家にきてくれる?住所はアイランド7の・・>>
そしてルカの心臓のビートがだんだん上がり始めた。
<<ルカくんへ やっと絵ができました。ルカくんに最初に見せたいです。>>
(・・よかった。できたんだ。ナナセさん)絵の制作が大詰めに入ったナナセは
作品を自宅で制作すると学園に申請してこの1週間休学していたので、この知らせにルカはほっとため
息をついた。
とりあえず返信しようとしたルカはメール画面の下の方に、まだ文章があるのにふと気付いて画面をス
クロールさせ、 余白の下の下のほうに隠すように書かれたその文を見た瞬間、ピタッと立ち止まった。
<<なので、学校が終わったら私の家にきてくれる?住所はアイランド7の・・>>
そしてルカの心臓のビートがだんだん上がり始めた。
「来てくれてありがとう。入って。ルカくん」
森でデッサンしたときと同じチュニックワンピースとカットソーを着たナナセが玄関でルカを迎えたとき、
そうしないよう念じていないと右手と右足がいっしょに出るほどアガりまくっていた彼は
それが声にも現れてしまい、照れくさい気分を味わった。
「おっ、おじゃまさせていただきます!」カクカクした動きでドアを通り抜ける彼に、ナナセはくすっ
と笑って玄関を閉める。
「なんか久しぶりだね、ルカくんと話すの」
「そうですね・・て言っても、2週間と半分ですけどね」
森でデッサンしたときと同じチュニックワンピースとカットソーを着たナナセが玄関でルカを迎えたとき、
そうしないよう念じていないと右手と右足がいっしょに出るほどアガりまくっていた彼は
それが声にも現れてしまい、照れくさい気分を味わった。
「おっ、おじゃまさせていただきます!」カクカクした動きでドアを通り抜ける彼に、ナナセはくすっ
と笑って玄関を閉める。
「なんか久しぶりだね、ルカくんと話すの」
「そうですね・・て言っても、2週間と半分ですけどね」
(私には・・すごく長かったよ)今そう言ってしまいたいのをナナセはこらえる。
「ね。絵はあっちにあるの。きて、ルカくん」横を通り抜けるナナセに手を握られて、
また心臓をドキドキさせつつ、布をかぶせたイーゼルの前に連れてこられたルカは、またちがった緊張
を覚えた。
布をつまんだナナセが告げる。「いい?ルカくん」
「はい。見せてください」
ナナセがゆっくり布をはずし、現れた絵を見たルカは緊張感を忘れ、ポツッとつぶやいた。
「ね。絵はあっちにあるの。きて、ルカくん」横を通り抜けるナナセに手を握られて、
また心臓をドキドキさせつつ、布をかぶせたイーゼルの前に連れてこられたルカは、またちがった緊張
を覚えた。
布をつまんだナナセが告げる。「いい?ルカくん」
「はい。見せてください」
ナナセがゆっくり布をはずし、現れた絵を見たルカは緊張感を忘れ、ポツッとつぶやいた。
「すごい・・これ、本当に・・ボクですよね?」
その絵を前に息を飲み、ルカはそれ以上言葉が出なかった。白い布をまとい、右手に2羽のハトを留まらせ、
左手は牝鹿の頭を撫でている天使。
空中にはその右腕に止まろうとするように、羽根を散らして力強くはばたく1羽のハト。
こけむした倒木と、成長への希望を表す若木のそばに立つ天使は、
キャンバスの手前側に向けて穏やかな笑みを浮かべながら頭上からの光の中に影を落とし、
奥深い緑の森と幻想的なコントラストを見せていた。
この絵はあの空き地を忠実に活写しているとルカは知っているが、こうして絵画にされると、とても現
実の場所には思えない。
その絵を前に息を飲み、ルカはそれ以上言葉が出なかった。白い布をまとい、右手に2羽のハトを留まらせ、
左手は牝鹿の頭を撫でている天使。
空中にはその右腕に止まろうとするように、羽根を散らして力強くはばたく1羽のハト。
こけむした倒木と、成長への希望を表す若木のそばに立つ天使は、
キャンバスの手前側に向けて穏やかな笑みを浮かべながら頭上からの光の中に影を落とし、
奥深い緑の森と幻想的なコントラストを見せていた。
この絵はあの空き地を忠実に活写しているとルカは知っているが、こうして絵画にされると、とても現
実の場所には思えない。
「どう・・?ルカくん。がんばって・・描いたんだけど」
彼の背後からナナセが不安げに聞き、絵を見つめて魅入られたように、ルカが応える。
「上手です。これしか・・言えなくてすいません。でもとにかく・・上手です」
「うれしい。ルカくんにだけは・・そう言ってほしかった」
その瞬間、心の堰が切れたナナセは布を床にパサッと落とし、後ろからルカの体を強く抱きしめた。
彼の背後からナナセが不安げに聞き、絵を見つめて魅入られたように、ルカが応える。
「上手です。これしか・・言えなくてすいません。でもとにかく・・上手です」
「うれしい。ルカくんにだけは・・そう言ってほしかった」
その瞬間、心の堰が切れたナナセは布を床にパサッと落とし、後ろからルカの体を強く抱きしめた。
ふいに柔らかで熱いものに背中全体を包まれてビクッとしたルカは硬直して、しどろもどろで言った。
「うわあっ!ななナナセさんっ!?あっ、あの、どど、どうしたんですか?」
「ルカくんのおかげだよ。ルカくんがこの絵を描かせてくれた・・」逃げ腰な彼をきつく抱くナナセの
胸がぐいぐい押しつけられる。
「ルカくんはあの時、私のこと・・ずっと見てたって言ってくれたよね。いつから?」
甘い湿り気を帯びてルカの耳をくすぐるナナセの声。
彼はそれを聞いて、慌てるのをやめた。
「・・いつからかは覚えてません。でも、最初に見たときから・・だと思います」
しゃべりながら、ルカはナナセの腕に手を添える。
「うわあっ!ななナナセさんっ!?あっ、あの、どど、どうしたんですか?」
「ルカくんのおかげだよ。ルカくんがこの絵を描かせてくれた・・」逃げ腰な彼をきつく抱くナナセの
胸がぐいぐい押しつけられる。
「ルカくんはあの時、私のこと・・ずっと見てたって言ってくれたよね。いつから?」
甘い湿り気を帯びてルカの耳をくすぐるナナセの声。
彼はそれを聞いて、慌てるのをやめた。
「・・いつからかは覚えてません。でも、最初に見たときから・・だと思います」
しゃべりながら、ルカはナナセの腕に手を添える。
「ずっと・・迷ってました。ボクは先輩たちみたいに格好よくないし、子供っぽいから、ナナセさんみ
たいなひとを好きになっていいのかなって」
「そんなことない・・私、うれしかったよ。こんなに私のことを思ってくれる人がいたんだって、わか
ったから」
ルカがナナセの腕の中で体を回して彼女の方を向き、ナナセはあの日森の中で見たのと同じまなざし、
彼女を守り抜くと誓った男の視線をもういちど受け止めた。
「あの時は、困らせたくなかったんで、言えませんでしたけど」
最後に少しだけはにかんで、ルカは告白した。
「ボク、ナナセさんが好きです」
「ルカくん・・」ナナセはルカの手を握り、彼の身長に合わせて屈みながら目を閉じて、ルカのキスに
唇をまかせた。
ちゅっちゅっと優しく吸われるたびに、腰からナナセの体を骨抜きにするような甘いしびれが走り抜け
、理性がどんどん散っていく。
彼女は自分の想いが唇からルカに流れていけばいいと願い、強く抱かれながらキスし続ける。
たいなひとを好きになっていいのかなって」
「そんなことない・・私、うれしかったよ。こんなに私のことを思ってくれる人がいたんだって、わか
ったから」
ルカがナナセの腕の中で体を回して彼女の方を向き、ナナセはあの日森の中で見たのと同じまなざし、
彼女を守り抜くと誓った男の視線をもういちど受け止めた。
「あの時は、困らせたくなかったんで、言えませんでしたけど」
最後に少しだけはにかんで、ルカは告白した。
「ボク、ナナセさんが好きです」
「ルカくん・・」ナナセはルカの手を握り、彼の身長に合わせて屈みながら目を閉じて、ルカのキスに
唇をまかせた。
ちゅっちゅっと優しく吸われるたびに、腰からナナセの体を骨抜きにするような甘いしびれが走り抜け
、理性がどんどん散っていく。
彼女は自分の想いが唇からルカに流れていけばいいと願い、強く抱かれながらキスし続ける。
「んっ・・ぷ・・はあっ・・」つうっと唾液の糸を引きながら唇を離したナナセは、髪のリボンをシュ
ルッとほどいて床に放り出し、
自分からルカを挑発する自分にゾクゾクしながら、彼の手を取って指先にキスし、半開きの潤んだ瞳で
彼を誘った。
「ねえルカくん・・ルカくんは、どんな私でも・・好きでいてくれる?」
「ボクがドキドキしすぎて死ななければ・・ですけど・・アハハ・・」
「ふふっ。そしたら私・・ルカくんが死んじゃわないように・・気をつけるね」
はあっ・・とため息を吐いたナナセはメガネを外して妖艶に微笑むと、
ルカに見せつけるようにゆっくり、ワンピースとカットソーを脱ぎ捨てた。
ルッとほどいて床に放り出し、
自分からルカを挑発する自分にゾクゾクしながら、彼の手を取って指先にキスし、半開きの潤んだ瞳で
彼を誘った。
「ねえルカくん・・ルカくんは、どんな私でも・・好きでいてくれる?」
「ボクがドキドキしすぎて死ななければ・・ですけど・・アハハ・・」
「ふふっ。そしたら私・・ルカくんが死んじゃわないように・・気をつけるね」
はあっ・・とため息を吐いたナナセはメガネを外して妖艶に微笑むと、
ルカに見せつけるようにゆっくり、ワンピースとカットソーを脱ぎ捨てた。
ルカの胸に頭を乗せて眠っていたナナセがふと目を覚ますと、もう部屋は真っ暗で、
時計は深夜を回っていた。
彼を起こさないようにベッドから出て、闇の中で二人が脱ぎ捨てた服や下着が床一面に
散らばっているのを見たナナセは自分の乱れかたと、
ルカの意外すぎるほどに男性的なリードぶりを思い出し、顔をボッと真っ赤に染めた。
(ルカくん、ちょっとスゴかったな・・)
時計は深夜を回っていた。
彼を起こさないようにベッドから出て、闇の中で二人が脱ぎ捨てた服や下着が床一面に
散らばっているのを見たナナセは自分の乱れかたと、
ルカの意外すぎるほどに男性的なリードぶりを思い出し、顔をボッと真っ赤に染めた。
(ルカくん、ちょっとスゴかったな・・)
服を脱ぎ捨てた後でナナセはルカをシャワーに誘い、湯を浴びながらたっぷりお互いを弄りあったが、
先に求めてしまったのは彼女のほうだった。
ベッドでしてほしいという彼女の言葉を無視したルカにシャワールームで後ろから貫かれたとき、
弟のような見た目の彼とバックで交わるという背徳感がナナセの性感をいきなり限界まで突き上げて、
そこから主導権を取った彼のするままに、ナナセはこれ以上ないほど淫らに声を上げ、胸を揺らして腰
を振り、舐め、舐められ、抱き合った。
(最初からこんなにいっぱいされて、恥ずかしい・・)
ベッドですうすう眠っているルカの天使のような寝顔にキスをしたナナセの脚の間から、
生理に似たぬるんっとした感じとともに、ルカが彼女のなかに残したものがトロリと流れ出た。
(んっ・・ルカくんの・・出てきちゃった)
ナナセはそのまま静かにシャワールームに入り、ゆっくりとシャワーを浴びたあとベッドに戻ると、
ルカにできるだけくっついて、ふたりで朝まで眠った。
先に求めてしまったのは彼女のほうだった。
ベッドでしてほしいという彼女の言葉を無視したルカにシャワールームで後ろから貫かれたとき、
弟のような見た目の彼とバックで交わるという背徳感がナナセの性感をいきなり限界まで突き上げて、
そこから主導権を取った彼のするままに、ナナセはこれ以上ないほど淫らに声を上げ、胸を揺らして腰
を振り、舐め、舐められ、抱き合った。
(最初からこんなにいっぱいされて、恥ずかしい・・)
ベッドですうすう眠っているルカの天使のような寝顔にキスをしたナナセの脚の間から、
生理に似たぬるんっとした感じとともに、ルカが彼女のなかに残したものがトロリと流れ出た。
(んっ・・ルカくんの・・出てきちゃった)
ナナセはそのまま静かにシャワールームに入り、ゆっくりとシャワーを浴びたあとベッドに戻ると、
ルカにできるだけくっついて、ふたりで朝まで眠った。
「松浦お前・・スゴいやないかこの絵。ホンマようできとる!これやったら入選は間違いあらへんぞ!」
絵の周りに集まって、ワイエスを思わせる写実だとか、この光と陰の表現はフェルメールのほうが近い、
などと次々とほめちぎる美術の教師とクラスメートたちの言葉が照れくさくなったナナセは、
出品の細かい手続きや額装などは適当に教師にお願いして、そそくさと教室を出て行こうとした。
絵の周りに集まって、ワイエスを思わせる写実だとか、この光と陰の表現はフェルメールのほうが近い、
などと次々とほめちぎる美術の教師とクラスメートたちの言葉が照れくさくなったナナセは、
出品の細かい手続きや額装などは適当に教師にお願いして、そそくさと教室を出て行こうとした。
「あっ、おい、松浦!題名教えてくれ、この絵の題名!」
「題名・・ですか?」描き上げるのに夢中で、言われるまで題名のことをすっかり忘れていたナナセは、
教師がくれた申込用紙の題名欄を見て、ちょっと考えた。
「題名ナシじゃもったいないやろ、この絵は。ええのが浮かばんなら、後でも・・」
「大丈夫です。題名、これにしてください」ナナセはさらさらとその題名欄を埋めて用紙を返すと、
お願いしますと一礼して教室を出て行った。
教師がその題名を見て、つぶやいた。
「おお。こら、ええ名前の天使やな。画家の守護天使・・か」
【我が天使 ルカ・アンジェローニの肖像】と、そこには記されていた。
「題名・・ですか?」描き上げるのに夢中で、言われるまで題名のことをすっかり忘れていたナナセは、
教師がくれた申込用紙の題名欄を見て、ちょっと考えた。
「題名ナシじゃもったいないやろ、この絵は。ええのが浮かばんなら、後でも・・」
「大丈夫です。題名、これにしてください」ナナセはさらさらとその題名欄を埋めて用紙を返すと、
お願いしますと一礼して教室を出て行った。
教師がその題名を見て、つぶやいた。
「おお。こら、ええ名前の天使やな。画家の守護天使・・か」
【我が天使 ルカ・アンジェローニの肖像】と、そこには記されていた。
「どうでした?ナナセさん」廊下の角でナナセを待っていたルカが声をかけた。
「ん・・何かほめられすぎて恥ずかしくなったから、逃げてきちゃった」
「アハハ。ボクがほめるより、絵に詳しい人のほうがうまくほめるのに」
意識して腕どうしが触れるような近さで歩きながら、ナナセが言った。
「ほめるのに上手も下手もないよ?上手だと思ったら上手だね、って言うだけで、うれしいんだけどな」
「そういうもんかな」
「そういうもんです。ねえルカくん。これからもう一枚描くんだけど、今度はそばで、描くのを見てて
くれる?」
「もう一枚?いいですけど、今度はなにを描くんです?」
くるっとルカに向き直ったナナセが、唇に指を当てて微笑み、ウィンクした。
「見るまでな・い・しょ・です」
「ん・・何かほめられすぎて恥ずかしくなったから、逃げてきちゃった」
「アハハ。ボクがほめるより、絵に詳しい人のほうがうまくほめるのに」
意識して腕どうしが触れるような近さで歩きながら、ナナセが言った。
「ほめるのに上手も下手もないよ?上手だと思ったら上手だね、って言うだけで、うれしいんだけどな」
「そういうもんかな」
「そういうもんです。ねえルカくん。これからもう一枚描くんだけど、今度はそばで、描くのを見てて
くれる?」
「もう一枚?いいですけど、今度はなにを描くんです?」
くるっとルカに向き直ったナナセが、唇に指を当てて微笑み、ウィンクした。
「見るまでな・い・しょ・です」
開いた窓から風が吹き込んで、カーテンが波を打つ制作用の小部屋。
イーゼルに乗せられたキャンバスにはルカの天使像が描かれているが、その絵には人物がもうひとり描
イーゼルに乗せられたキャンバスにはルカの天使像が描かれているが、その絵には人物がもうひとり描
き足されていた。
それは天使の後ろの倒木に座り、全身に白い布をまとって微笑む、ナナセの姿だった。
それは天使の後ろの倒木に座り、全身に白い布をまとって微笑む、ナナセの姿だった。
了