「殺し——合わせる?」
意味が分からない、と真美は思った。
そんな権利は要らない。
そんな権利は要らない。
「——変な奴がいるの」
ポヨン、という音と共に、山羊のマスコットはシャボン玉の中に閉じ込められた。
「——何者なの?」
ジェイルフィッシュの詰問に、パンデモニカ(マスコットモード)はムククと笑い声で応えた。
「やぁ、僕、パンデモニカ。ちょうどいい、君たちも聞くといいさ。
七海真美が、いかに幸運なのかを、ね」
七海真美が、いかに幸運なのかを、ね」
そうして、パンデモニカは語った。
強制デュエル。
七海真美が名簿から指名した二人の参加者がリングに移動し、どちらかが死ぬまで戦う。
指名は1時間以内に決めなければならない。
そして——誰も指名しなかった場合、七海真美は呪いが発動し、死亡する。
強制デュエル。
七海真美が名簿から指名した二人の参加者がリングに移動し、どちらかが死ぬまで戦う。
指名は1時間以内に決めなければならない。
そして——誰も指名しなかった場合、七海真美は呪いが発動し、死亡する。
「ふざけるな、なのっ!」
ジェイルフィッシュは激高した。
いくら大人びているとはいえ、まだ10歳の幼い魔法少女である。
いくら大人びているとはいえ、まだ10歳の幼い魔法少女である。
パンデモニカの悪辣な提案は、ジェイルフィッシュから余裕を奪った。
真美は——沈黙した。
普段の彼女なら命を玩具にする提案に、激怒していたはずだ。
だが、友人二人の死が、真美の人間性に罅を入れていた。
真美は——沈黙した。
普段の彼女なら命を玩具にする提案に、激怒していたはずだ。
だが、友人二人の死が、真美の人間性に罅を入れていた。
(誰かを、殺し合わせる……)
ブラックブレイドを殺した魔法少女は、らいとちゃんを殺した魔法少女は、今、どうして居るのだろうか。
まだ、生きているのだろうか。
まだ、生きているのだろうか。
「…………真美っち?」
押し黙っている真美に、ジェイルフィッシュは心配そうな様子で声をかけた。
「パンデモニカ、さん……」
真美は震える声を出した。
「私の、友達を殺した魔法少女が誰か、分かりますか……?」
「真美っち、何言っているの!?」
「ムクク、復讐かい? パンデモニカ的には大賛成なのです。
君の友人を殺したのは」
君の友人を殺したのは」
「——聞いても意味ないと思うわよ、真美ちゃん」
パンデモニカの言葉を遮ったのは、このチームで最年長、顔の半分を漆黒に染めた異形の魔法少女、桐ヶ谷裂華だった。
「挙げられた名前が本当に仇か確認とれないわ。
善良な魔法少女を殺し合わせる鬼畜な運営なのよ、まったく関係ない名前を挙げて、デュエルが終わった後ネタバラシしてくる可能性もある」
善良な魔法少女を殺し合わせる鬼畜な運営なのよ、まったく関係ない名前を挙げて、デュエルが終わった後ネタバラシしてくる可能性もある」
「ムクク、マスコットは嘘をつかないのです。
だいたい、君がそれを言うのかい、ジャッ——」
だいたい、君がそれを言うのかい、ジャッ——」
「私を指名して、真美ちゃん」
「——え?」
俯ていた真美は、顔を上げた。
「裂華、さん?」
「ゲームに乗っている参加者、あるいは殺し合いで害になる参加者に、私は心当たりがあるわ。閉鎖空間なら逃げられることなく始末できる。
いい案だと思わないかしら」
いい案だと思わないかしら」
「けど……裂華さんを殺し合わせるなんて」
「本人が望んでるのよ。気に病むことないわ」
裂華、魔法少女名、ジャック・ザ・リッパーは殺人鬼である。
だが、彼女の言葉は打算によるものではない。ジャックポイントで満点に近い数字を叩きだした真美は、何としても自分の手で殺したい。なので、こんなミッションで自害されてしまうと非常に困る。
かといって、自害されるまえにさっさと殺してしまうのも勿体ない。
もっと美しく、もっと輝いてから収穫したい。
ジャックポイントは真美には劣るが、ここ最近の目標であったティターニアを殺してからでも、むしろ殺した後の方がいいとすらジャックは思っていた。
そういう心理からの、善意の提案。
だが、聞きようによっては自己犠牲とさえ受け取られる裂華の言葉は。
だが、彼女の言葉は打算によるものではない。ジャックポイントで満点に近い数字を叩きだした真美は、何としても自分の手で殺したい。なので、こんなミッションで自害されてしまうと非常に困る。
かといって、自害されるまえにさっさと殺してしまうのも勿体ない。
もっと美しく、もっと輝いてから収穫したい。
ジャックポイントは真美には劣るが、ここ最近の目標であったティターニアを殺してからでも、むしろ殺した後の方がいいとすらジャックは思っていた。
そういう心理からの、善意の提案。
だが、聞きようによっては自己犠牲とさえ受け取られる裂華の言葉は。
「私、私は——」
真美の心を深くかき乱すものだった。
もし、真美が本当に普通の少女であったなら、年上の少女の善意に乗っかり、ジャックを指名していたかもしれない。
だが、真美は人より純粋で、人より正義感が強く、正しく王道的魔法少女メンタルの持ち主だった。
友人に命をかけさせる判断を、下せない。
頭を掻きむしり、顔をくしゃくしゃに歪める。
自害すれば、全て丸く収まる。
でも、死にたくない。
裂華に任せれば、解決してくれる。
本当に? もし裂華が死んでしまったら?
もうこれ以上、誰一人、友達を喪いたくない。
友人の死。命の天秤。
真美の心は、砕ける寸前だった。
だが、真美は人より純粋で、人より正義感が強く、正しく王道的魔法少女メンタルの持ち主だった。
友人に命をかけさせる判断を、下せない。
頭を掻きむしり、顔をくしゃくしゃに歪める。
自害すれば、全て丸く収まる。
でも、死にたくない。
裂華に任せれば、解決してくれる。
本当に? もし裂華が死んでしまったら?
もうこれ以上、誰一人、友達を喪いたくない。
友人の死。命の天秤。
真美の心は、砕ける寸前だった。
「ムクク、早く決めないと、死んじゃうよ?」
パンデモニカの煽りが、ますます真美の心を責め立て。
——音も無く、梟が舞い降りた。
その場に居た全員が、パンデモニカさえも、突如現れた梟に視線が吸い寄せられる。
梟は感情を感じさせない瞳で、三人と一匹を一瞥すると
その場に居た全員が、パンデモニカさえも、突如現れた梟に視線が吸い寄せられる。
梟は感情を感じさせない瞳で、三人と一匹を一瞥すると
【僕様は全知全能・テンガイ
このメッセージを聞いてる君は選ばれし者
生き残るチャンスを与えられた強き者——】
このメッセージを聞いてる君は選ばれし者
生き残るチャンスを与えられた強き者——】
全知全能からの伝言を、その場の者に聞かせ始めた。
数時間前にテンガイが放った使い魔たち。その一匹が、真美の元に辿り着いたのだ。
テンガイの傲慢で一方的なメッセージはその場の者に様々な反応を起こさせた。
ジェイルフィッシュは胡散臭そうに眉を顰め。
裂華は呆れたように肩を竦め。
パンデモニカは楽しそうに耳を傾け。
真美は——。
数時間前にテンガイが放った使い魔たち。その一匹が、真美の元に辿り着いたのだ。
テンガイの傲慢で一方的なメッセージはその場の者に様々な反応を起こさせた。
ジェイルフィッシュは胡散臭そうに眉を顰め。
裂華は呆れたように肩を竦め。
パンデモニカは楽しそうに耳を傾け。
真美は——。
「——ふざけないで」
怒っていた。
「心臓さえ無事ならいいとか……優勝を掴めとか……この人、殺し合いを何だと思ってるの……!」
「真美っち……?」
「真美ちゃん……?」
「どうして、葉月ちゃんも、らいとちゃんも死んで……こんな人が……!」
「まさか……」
「真美ちゃん、落ち着いて、それは、それは駄目よ……!」
二人の静止の声は、真美には届かない。
「パンデモニカ、指名する相手が決まったよ」
「ムクク、誰だい?」
「【テンガイ】と、そして……」
ジェイルフィッシュと裂華は、真美の口を塞ごうとした。
訓練を受けている魔法少女と、殺人鬼の魔法少女。
訓練を受けている魔法少女と、殺人鬼の魔法少女。
本来、真美を取り押さえるのは容易いはずだった。
——真美が平常であったなら。
バチン、と飛び掛かった二人は——弾き飛ばされた。
真美はその場から動いていない。彼女の周囲から『漏れ出した』濃密な魔力が、二人の練達者を退けたのだ。
生まれた時間は一瞬だった。
その一瞬で、良かった。
——真美が平常であったなら。
バチン、と飛び掛かった二人は——弾き飛ばされた。
真美はその場から動いていない。彼女の周囲から『漏れ出した』濃密な魔力が、二人の練達者を退けたのだ。
生まれた時間は一瞬だった。
その一瞬で、良かった。
「私、【七海真美】が、デュエルに参加する……!」
ジェイルフィッシュが、裂華が手を伸ばし——その手が真美に触れる前に、彼女は姿を消した。
「そんな、真美っちが……」
「何てこと……!」
梟がほう、と鳴き、次の瞬間、ナイフが脳天に突き刺さり沈黙した。