魔法少女サンファングの得意魔法、それは『レーザーを操るよ』。
光を操り、レーザーのように射出できる。他にも光を駆使し、様々なことが可能だ。
万全ならば、強力な魔法と言える。
光を操り、レーザーのように射出できる。他にも光を駆使し、様々なことが可能だ。
万全ならば、強力な魔法と言える。
(どこまで使えるかは未知数だけど……)
本来魔法少女サンファングは引退しているのだ。変身し、戦闘を行うことは不可能だと、魔法の国から断じられている。
現役時代のスペックをどこまで発揮できるかまるで分からない。
今この瞬間にも、変身が解除されるかもしれない。
現役時代のスペックをどこまで発揮できるかまるで分からない。
今この瞬間にも、変身が解除されるかもしれない。
(倒す必要は無い……っていうか、たぶん現役の頃でもこのエネミーを倒すのは無理……!
構えているだけで強いって分かるし……。
けど、大丈夫……! 時間さえ稼げれば……!)
構えているだけで強いって分かるし……。
けど、大丈夫……! 時間さえ稼げれば……!)
髑髏の黒騎士——ダークワンは刀を構え、慎重にサンファングの様子を窺っている。
通常エネミーにそのような高度な判断は出来ない。
やはり——強敵だ。
通常エネミーにそのような高度な判断は出来ない。
やはり——強敵だ。
(こうやって向かい合っているだけで時間が稼げるなら好都合だよ……!)
だが、そんなに世の中がサンファングの都合のいいように動くのなら——彼女は今でも現役のはずだ。
音も無く、ダークワンが踏み込む。
(は、速っ……!)
一瞬で、ダークワンは距離を詰めた。
サンファングは魔法の都合上、遠距離戦を得意とする。
剣が届かない距離を保ちつつ時間稼ぎをするという、サンファングの狙いは瓦解した。
剣が届かない距離を保ちつつ時間稼ぎをするという、サンファングの狙いは瓦解した。
振り下ろされるロングソード。
エネミーとは思えないほど洗練された一撃は、サンファングを確かに捉え——刃は空を斬る。
エネミーとは思えないほど洗練された一撃は、サンファングを確かに捉え——刃は空を斬る。
サンファングが行ったことは二つ。
光を用いた目潰し。
反射神経を駆使したバックステップ。
光を用いた目潰し。
反射神経を駆使したバックステップ。
辛くも斬殺を免れ、サンファングは息を零す。
速い。
が、ハスキーロアはもっと速かった。
太刀筋も鋭い。
が、抜刀金はもっと神がかっていた。
が、ハスキーロアはもっと速かった。
太刀筋も鋭い。
が、抜刀金はもっと神がかっていた。
サンファングの脳裏に焼き付いた、あの日のトラウマ。
その中に織り込まれている、二人の魔法少女の動きが、サンファングに現役と遜色ない反応速度を与えていた。
その中に織り込まれている、二人の魔法少女の動きが、サンファングに現役と遜色ない反応速度を与えていた。
(けど、魔力消費が激しい……。
目潰ししただけでこんなに疲れるなんて……。
昔みたいなペースでは……使えない……!)
目潰ししただけでこんなに疲れるなんて……。
昔みたいなペースでは……使えない……!)
更に言えば、もう目潰しも効果は無いだろう。
同じ魔法が二度通用するような相手では無いことは、引退魔法少女でも分かる。
同じ魔法が二度通用するような相手では無いことは、引退魔法少女でも分かる。
(大丈夫、手数の多さには自信がある……)
サンファングは、右掌に魔力を収束させる。
「あなたを、ハスキーロアの元へは向かわせない……!」
放つのはサンファングの十八番、レーザービーム。
細い、されど魔力が練り上げられたビームが、一直線にダークワンへと放たれる。
ダークワンは、剣を振ることさえ無かった。
ここまでの戦いで、サンファングの力量に気づいたのだろう。
上体を僅かに逸らし、レーザービームを回避する。
ここまでの戦いで、サンファングの力量に気づいたのだろう。
上体を僅かに逸らし、レーザービームを回避する。
そして、再びの踏み込み。
一度目よりも速度が増した、必殺の一撃。
一度目よりも速度が増した、必殺の一撃。
刀身に、サンファングの顔が映り込む。
勝利の笑みが、其処にあった。
放たれたレーザービームが、霧散することなく『折れ曲がる』。
サンファングの魔法は、レーザービームを出す魔法ではなく、レーザービームを操る魔法である。
放ったビームの軌道を変えることも——可能だ。
サンファングの魔法は、レーザービームを出す魔法ではなく、レーザービームを操る魔法である。
放ったビームの軌道を変えることも——可能だ。
無防備なダークワンの背中に、ビームが直撃する。
ビームは、ダークワンの纏う鎧に命中し——被弾部位を、僅かに焦がした。
ビームは、ダークワンの纏う鎧に命中し——被弾部位を、僅かに焦がした。
「え……?」
刀身に映った顔が、呆ける。
剣が振り下ろされた。
一撃。
たった一撃で、サンファングの命脈は断ち切られた。
たった一撃で、サンファングの命脈は断ち切られた。
血溜まりの中に、サンファングは倒れ込む。
ダークワンの鎧にビーム耐性があったのか。
否——単純に、サンファングの魔法は不安定であった。
発動は出来る、操ることも出来る。——出力のみが、現役時より大幅に弱体化していた。
もし、それに気づいていれば違う戦法を取っていただろう。
あるいは、もう一度同じ魔法を使えば、出力は戻っていたかもしれない。
否——単純に、サンファングの魔法は不安定であった。
発動は出来る、操ることも出来る。——出力のみが、現役時より大幅に弱体化していた。
もし、それに気づいていれば違う戦法を取っていただろう。
あるいは、もう一度同じ魔法を使えば、出力は戻っていたかもしれない。
一手、選択を誤った。
僅かに、不運が襲った。
僅かに、不運が襲った。
それだけで、人は死ぬ。
サンファングにとって、それは自明のはずだった。
サンファングにとって、それは自明のはずだった。
それでも、悔しさが募る。
無為に死ぬ。
沙奈の忘れ形見を、沙美を守れずに死んでいく。
無為に死ぬ。
沙奈の忘れ形見を、沙美を守れずに死んでいく。
悔し涙が溢れる。
立ち上がろうと四肢に力を籠めるが、糸の切れたマリオネットのように、動けない。
立ち上がろうと四肢に力を籠めるが、糸の切れたマリオネットのように、動けない。
沙奈もこんな気分だったのか。
ダークワンは、興味を失ったかのように、サンファングに背を向けた。
一流の遣い手であるダークワンは、生死の判別を誤らない。
致命傷を与えた魔法少女には目をくれず、黒騎士は当初の獲物の元へ向かおうとして。
一流の遣い手であるダークワンは、生死の判別を誤らない。
致命傷を与えた魔法少女には目をくれず、黒騎士は当初の獲物の元へ向かおうとして。
「悪ぃ、遅くなったな」
サンファングの視界に映ったのは、赤。
赤い装束。赤い槍。
纏う雰囲気さえも赤い、そんな魔法少女。
赤い装束。赤い槍。
纏う雰囲気さえも赤い、そんな魔法少女。
(よかった……間に合った……)
妖精の助力が期待できない中で、サンファングが直接連絡を取ったのは、抜刀金でもティターニアでもなく。
彼女の知る中で、『最速』の魔法少女だった。
彼女の知る中で、『最速』の魔法少女だった。
「スピード……ランサー、さん……」
掠れ声しか出ないことに憤りながらも、サンファングは必死に言葉を紡ぐ。
「ハスキーロアを……お願い……」
意識が重たくなっていく。もう痛みさえ感じない。
全身が冷たくなっていくのが分かる。
全身が冷たくなっていくのが分かる。
それでも。
「わかった」
その言葉は、確かに聞こえた。
微かな熱を抱いて、サンファングは永遠の眠りについた。
微かな熱を抱いて、サンファングは永遠の眠りについた。
【平瀬アキラ/サンファング 死亡】