諦めないこと、笑顔でいること

(投稿者:捜査官候補生)

――――。
――――――。

目の前にあるのは見慣れた天井。見慣れた部屋。
そうだ、ここは自分の部屋だ。
名前、名前……なんだったかな――――
そうだ、風蓮。
これが私の名前だったかな?
うまく思い出せないなぁ……まあ、いいや。

自分は清潔なベットの上に横たわっている。身体には何本ものチューブや点滴が繋いである。辺りを見回すために首を動かすと激しい激痛が襲う。
なぜ、ここでこのようなことになってるのか思い出してみる――、そうだ、あの時――。



「――――ッ!?」
フライから攻撃を受けた足の下にあった百八式飛行衆がバランスを崩し海面に落ちていく。そういえば先ほどの報告を聞いてなかった。あの強力な楼蘭皇国の部隊、陸軍独立侍女兵連隊第四小隊『旗兵隊』がフライと呼ばれる『G』に壊滅状態に陥られたということを――。
そもそも陸軍がフライ等の空中の敵に戦うのが間違っているのである。元来、この国ではその様なタイプの敵は海軍が受け持つもっている。勿論、事情がある。海軍の人手が圧倒的に不足しているのだ。その中で飛行衆を持ち、精鋭の部隊である『旗兵隊』が援軍に来たわけなのだが――。
あの腕の立つ部隊があそこまでの状態になったのだ。こちらが海軍だとしても分が悪すぎる。
そこまでの相手に自分、そして自分の部隊がかなうはずもない。
だが、上からの命令は『出撃』という二文字。そして『撤退ヲ許サズ』という一文付だった。

考えてる場合ではなかった。目の前に水面が近づいていいる――忍者タイプのMAIDならこんな場合には受身なりなんなりとって着水のダメージを減らすか驚異的な跳躍力で他の飛行衆に乗り移ったりするものなのだが――。

その判断を誤った。
脚が恐怖で動かなかった。自分の命が危機に迫ってるのに死の恐怖により脚が動かなかった。これにより飛び移ることは出来なかったのだ。受身をとるにしても身体が反転してしまって受身を取るにはきつい体勢だ。

――――着水。
身体に激痛が走る。いくらMAIDとは言え、身体は生身の人間だ。あの高度から落ちれば無事ではすまない。
息が出来ない。声もでない。目の前には破壊された飛行衆とその操縦者のバラバラになった肢体。
息が出来ない状況も含めて、さらに頭の中が恐怖で染まる。死体には慣れたと思ったのに。直視すれば身体が恐怖ですくんでしまうなんて――――

――――消失。


そうだ、あの時自分はフライに撃墜されて、海水の中に落ちたっけ?
でもなんで自分の部屋にいるんだろう。助かったんだろう。
ぼんやりした意識の中、テーブルの上にある新聞が眼に入った。
今回の戦闘を記事に書いているようだ。

鬼灯、芙蓉、水仙、薊…………『旗兵隊』の面々。
特に親しいわけではなかったが陸軍――特に飛行衆を持つ部隊は海軍とも合同で演習を行っていた。その時にメンバーとは軽く雑談を交わしていた。
それが、全員死んだらしい。自分の部隊からも何人か重傷者がでてるとも見える。
本当なら役に立たない自分が死んだほうが何倍もマシだっただろうに。

目の前に自分がいる。
幻? 夢?
「アンタがあの時、別の飛行衆に飛び乗って戦えば何人かは救えたかもしれないのに」

え?

「あのまま動かなければ海に落ちて運がよければ助かるかもしれない。確実に死ぬ戦場よりはマシだよね
……それに着水した時、意識さえ保てばまだ戦えたのに。誰か助けられたかもしれないのに」

違う。あんな相手にまともに戦って無事ですむわけがない。自分のせいじゃない――自分の――。

「自分のせいじゃない? 自分は諦めなかった? 諦めなければ何でも許されるの? 部隊にはMAIDじゃない一般の兵もいたのに。MAIDは普通の人間より戦場では上位にたって指揮をとるはず」

自分も普通の人間を3人ほど部下として従えてたっけ……飛行衆の二人の操縦者。そして一般の人間ながらかなりの剣術の腕前をもって飛行衆の上に一緒に乗っていた人。
名前は――――。

「思い出せないんだ?」

違う、思い出せる――。

「結局は部下の命も――同僚の命も――大切じゃないんだ。自分が一番可愛いんだ。アンタはそういう女」

違う、違う、違う――!

「こんな奴が私の身体を使っているなんて死んだ自分は報われないよ……どうせなら返してよ。無理なら
せめて――死んでよ」

私の身体――? どういう――

――――四散。
目の前にいる自分の身体が突然四散した。その身体には深々と刃がささっている。
「ご無事ですか?」

聞き覚えのある声――この声は――。

「我ら、風蓮隊。風蓮様の危機に遅れながら到着いたしました」

――みんな…?

「俺は風蓮ちゃんに萌え萌えなんだよ、お前なんて偽者だ!」
「偽者め、お前なんか消えろ! 俺の上司は風蓮様だ!」
「貴女様はもう、死にました――ここは貴女様がくるべきところではない――」

四散していく目の前の自分恨めしげにこちらを見ている。そしてそのまま四散して行った。

「ご無事で何よりです。勿論、私たちも生きてはおりませぬが」
「もう一度萌え萌えなお顔見たくて黄泉の世界から――」
「それはお前だけだよ……黄泉の世界から見ていて、なにやら良からぬ奴ががささやいていたのでつい……」

思い出した。この三人は私の部下だった人だ。

「失礼……実を言いますと先ほどの幻は風蓮様の元の身体、すなわちある意味『本物の貴女』です。
しかし、現在のその身体は彼女ではない。風蓮様のモノ」

元の持ち主……。
「私は今まで伏せておりましたが、その元の主の知人、いえ、従えていた者でした。普通のMAIDは事故死、病気死等の不慮に死んだ者を家族に同意を求めて使用しております。しかし、彼女は口には出せませんが少々非常識な方法で身体をMAIDにさせられています。ですからその身体を使う風蓮様やMAIDに何か含むところがあったのでしょう」

――――そうだった……んだ。自分のことしか私考えていなくて。

「風蓮様、自分を恥じることはありません。私たちが死んだのは己の技量が足りなかっただけです。風蓮
様は精一杯やりました」
「そうですよ」
「風蓮ちゃんに泣き顔なんて似合わないよ。笑顔笑顔」

みんな……私の指示が的確ならもっともっと生きていたはずなのに――。
じゃあ、みんなへの罪滅ぼしとして――私はどんな時にも諦めない、挫けない。もう泣き顔は見せない。
……これでいいかな? 本当はもっと何かしないといけないのけど……

「そうだよ。それでこそ風蓮ちゃんだよ。じゃあ最後に――」

うん、わかった……じゃあ――

「そうです、それでこそ風蓮様です――もう、一人でいけるはずです。その最高の笑顔があれば」

――――。
―――――。
目が覚めた。さきほどのは夢だったのだろうか?


よく見るといつの間にか目の前にお粥が置いてあった。痛む首を台所に向けると、見慣れた黒髪のポニー
テールの少女と忍者服を身に着けた少女。

ああ、凛翠とかざまちゃん、寝込んでる自分にありがとう。
そうだ、自分にはまだこんなにいい友人もいるじゃないか。

でも、たとえさっきのが夢だとしても――――誓ったんだ。


もう二度と泣き言なんて言わない。もう誰も死ぬところなんて見たくない。

だから、笑顔で元気にこれからも行こう。
最終更新:2009年02月11日 00:33
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