Prologue 8 : Overture

(投稿者:怨是)





 ジークハイル!
 まず、諸君らに簡潔な結論を述べよう!
 エントリヒ帝国、そしてこの世界は深刻な腐敗に包まれつつある!
 我々はその腐敗に呑まれつつある!

 一つ目として、この世の理を乱すであろう、面妖な魔術を使うメード共の台頭。
 それによって生まれる、歪んだ存在の割拠するこの現状。
 彼らはいずれ人類同士の戦争においてその能力を振りかざし、必要以上の破壊力によってこの大地を不毛なものへと変えてしまうだろう。

 そしてそのような魔術に手を出した技術者共も同罪である。
 本来ならばメードは、そのコア・エネルギーによって生まれる強靭な身体能力のみで充分な戦果を上げられるのだ。

 グレートウォールの守護女神であるジークフリートが!
 かつてエントリヒ帝国の軍神として伝説を残したブリュンヒルデが!
 自らの実力を以ってして、それを証明しているではないか!
 にもかかわらず。
 にもかかわらずである!

 彼ら、歪んだ精神を持つ技術者は、面妖な能力に手を出した。
 純粋なる力を一粒たりとも信じようとせず、いずれは災禍に包まれるであろうその力に手を出したのである!

 これを怠慢と云わぬのならば、何を怠慢とするか!
 我々は彼らを断罪せねばならない。
 彼らの怠慢に正義の鉄槌を下し、平和への礎を確固たるものにせねばならない!



 二つ目として、過剰に武装したMAIDの台頭。
 必要以上の武装は周辺国に無用な警戒心を抱かせ、国家間の緊張を無闇に煽る。
 このまま無駄な開発が進めば、過大な火力による破壊活動は免れられない。

 我々が目指すのは平和であり、いたずらに人類の不幸を呼ぶような巨大な炎などでは断じてない!
 本来ならばMAIDとは、人類を守護し、敵となるGを打ち砕く、守り神で無くてはならない。
 そこにゴテゴテと付け足すといった無意味な愚行を勝利の女神が許すだろうか?

 大地を焦土に変えてしまいかねない過剰な火力を垂れ流し、
 植物は枯れ果て、動物達は汚れた大気に咽て倒れる。
 そのような人類史上最大の自滅行為とさえ呼べる愚行を祖国の英霊達が許すだろうか?!

 答えは否! 否である! 地獄へ落ちる他に道は無い!
 自重を知らぬ一部のMAIDに対し、我々は毅然として対応せねばならない!



 そして三つ目は野蛮な容姿を持つ、亜人を利用したMAIDの出現。
 彼らを見よ。原始的な体毛、曲がった背筋。
 その目に知性は感じられず、常に鼻の曲がるような臭気を漂わせる。
 彼らに国の守りは務まるはずもなく、やがては人類に牙を剥く!

 これこそ、絶対零度において凍らぬものが存在しないという事実と同じく、明確な摂理である!


 またMAIDの出現に伴いどこからともなく現れた、害虫の分際を弁えずに人の姿を真似る存在!
 彼らはプロトファスマと呼ばれ、我々の生活に音も無く浸入し、虎視眈々と餌として我々を喰い殺そうとしている!

 彼らは進化の過程で生まれた失敗作である。欠陥品である。
 いや、進化の系譜にすら存在していない。
 彼らは地獄より呼び寄せられた悪魔の化身である!



 これらのような危険な存在を放置すべきではない。
 これらの存在は、いずれはMAID同士の戦争を、我々人類の制御する範疇を超える段階にまで激化させるであろう。
 本来ならいつ何時であっても保たれるべき秩序を、闇雲に掻き乱して破壊するだろう。
 いずれGを打ち倒し、血への渇望を抑えきれなくなった彼らは、更なる戦禍を、いたずらに拡大させるであろう!
 そしてその犠牲になるのは、紛れもない。
 ……我々、人類だ。
 彼らを許してはならない。

 皇帝陛下は仰った。
 “MAIDを不幸にする者に、ジークフリートを愛する資格など無い”と。
 言葉そのものは正しい。
 が、陛下は現状を嘆いておられるのではない。
 皇帝陛下もまた、奇妙な呪術によってその心を病んでしまわれたのだ。

 正統なる愛国者であり人類博愛主義者である我々は、ジークフリートを不幸になどしていない。
 この世界を取り巻く環境全てが! この世界に生まれた腐敗が!
 それによって生み出された、悪しき大気が!
 MAIDを、そして人類を不幸に陥れんとしているのだ!

 腐敗は人を愛さない。
 同じく、MAIDも愛さない。
 腐敗というものは人類を敵視し、堕落の渦へと叩き落とすべく、常に眼を光らせている!
 その摂理にすら気がつかなくなり、我々を見放して敵視するまでに狂ってしまわれたのだ。我々がかつて愛した皇帝陛下は!

 そう。かくして!
 かくして残念な結果となってしまった!
 が、全てが終わった訳ではない。

 ここで今、過去に思いを馳せるのだ。
 我々は今まで何かを成し遂げていたか。
 これもまた、答えは否である!

 数多の杭を叩き、地中に埋めてきた!
 だがしかし! これは序章に過ぎなかったのだ!

 状況を改善するのなら、皇帝陛下の狂気が発覚した今である!


 諸君!
 義憤をその拳に込めて決起せよ!
 これは闘争である!
 この世界にはびこる、数多の理不尽との闘争である!

 断罪せよ! 破壊せよ!
 災禍の元を断つために!
 ニヴルヘイムは常に口を開けている!
 彼らの肉片を粉々に切り刻まんとして、常に待ち受けている!


 各自、正義の剣をその拳に握り締め、是正の使命を全うすべく闘争を開始せよ!
 正しき秩序は一人の英雄の手によって、世界を救った英雄の手で全人類が統治されることによってこそ生まれる!
 正しき平和は、全人類が正しき武器を手にし、悪魔に魂を売り渡した社会に生み出された理不尽に打ち勝つことで生まれる!
 完膚なきまでにこの理不尽を叩き潰し、安寧なる秩序を自力で掴んだその時にこそ、人類の本当の勝利が訪れるのだ!


 ――今この瞬間より、我々国防陸軍参謀本部は……軍事正常化委員会と名を改める!
 ジークハイル!
 ハイル・エントリヒ!



(1944/7/12 グスタフ・グライヒヴィッツ元内務大臣の演説より)


最終更新:2009年02月17日 01:50
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