(投稿者:トーリス・ガリ)
その日、GCYR御一行は収録でアルトメリアまで飛ばされていた。
飛行機に乗って移動中、真ん中辺りの右側の席で、一番窓側から
ライラ、
リリー、トリア、
マイナ。
トリアは飛行機酔いで深刻なマイナをずっと介抱していた。
空中戦に弱いマイナはそんなことを気にする余裕を持てずにウーウーうなって死んでいた。
ライラは目を輝かせて雲ばっかり見ていた。
リリーはライラと一緒に雲を見て喜んでいた。
「マイナさん、あの、だい、大丈夫ですか?」
「ぐ…………ぅ……」
「すっげー!! すっげーよほら見てリリー!! くも!! くもだぞー!!」
「おー、雲が下にあるー……トリアいっつもこんなの見てるの?」
「流石にここまで高くは飛ばないかな……あっ、マイナさん! ほら酔い止め! もう一回飲みましょ!」
こんな感じである。
ちなみに他のスタッフは大体先に着いていた。
パーソナリティの四人と同行するのはADの山本君他若干名。
その山本君組は少し後ろのほうに固まって全員熟睡していた。
持って行く物は大体先行組が持って行っていたので、山本君組はそれほど重い物を持たなくて済んだ。
ここからは特に面白いことがあったわけではないので、もう一方、アルトメリアの下の大陸、バストンの森の中に目を移してみよう。
「また会ったわね、
ノーマ」
「そう……また来たの……」
ここは樹海
バストン・フォレストの入り口。
樹海の女王アルラグネの友達ノーマと、そのライバルかどうかは知らないがよく喧嘩をしに押しかけてくる蜂のプロトファスマのソーニャがいつもどおり睨み合っている。
他の植物達を従えたノーマは機械剣を構え、手下を引き連れたソーニャには瘴気が集まる。
何度目かわからない戦いの火蓋はまたしても切って落とされた。
そしてその様子を、近くで物陰に隠れているアルラーナを通じて、最奥部のアルラグネが見ている。
「……何故、奪おうとするのデス」
無表情でポツリとつぶやくアルラグネに、ダミ声が口を挟んでくる。
「また羽虫共か。あの忠誠の先に何があるというのだ……」
「…………………………誰?」
「老樹だ」
「……………………
エクソダス」
「………………」
「ああ、あなたですか」というような反応だが、悲しくもエクソダスと呼ばれた彼はそれに慣れていた。
青い鎧の男、霧を纏いし老樹エクソダスは、あまりにもカオス過ぎて樹海のネットワークから逸脱した存在。
それだけに、女王と繋がらない彼はこうやってたまーに忘れられてしまうのだ。
ちなみに女王でもなければネットワークに繋がらないので、アルラグネの見ている光景を彼は知らない。
が、アルラグネの仕草を見ていれば、彼女が大体何をしていて何を見ているのかわかる。
「……まぁよい。……あれを見に行くにも飽きが来た」
などと言いつつマントを翻して女王に背を向けるエクソダス。
重い鎧を静かに揺らし、ガシャ、ガシャ、とゆっくり歩き出した。
「何処へ?」
「人の街へだ。たまにはよかろう」
「アルラーナを一人連れて行ってモ?」
「連れて行ってもらってモ?」
「……構わん」
言い終えると同時に辺りに霧が立ち込め、エクソダスはその中に消えていった。
そばにいたアルラーナもその後を追ってパタパタと駆けていき、同じく霧の中に消えた。
ガシャガシャという鎧の音も聞こえなくなっていた。
アルラグネはまたアルラーナの視線、ノーマとソーニャの戦いに気をかけ始めた。
「老樹……アレ止めてくれたっていいノニ……」
所変わってここはアルトメリア南の安いホテル。
GCYR御一行のその日の予定は「とりあえず移動」。
あとは各自自由行動でいいのだが、そんなこと言ったって時計見たらもう夜の7時32分なので、ホテルの中で次の日の収録に備えるしかなかった。
ちなみに空港に着いたときの様子はこんな感じ。
ライラは「もう一回のるー!!」とうるさかったが当然却下された。とりあえず食べ物で釣って解決。
リリーは途中で寝てしまって、起きたら着いていた。若干眠そうだが意識ははっきりしている模様。
マイナは御一行の一番後ろの方でうずくまって車輪だけ動かしてノロノロ進んでいた。だらしないとかシュールとかそんなこと言う余裕無し。
トリアはマイナに付き添っていた。帰りもこんな感じなのかとか考えると中々に頭痛が痛い。
他のスタッフは全員スッキリしていた。
そして現在ホテルの中。
安い所なので豪華なものは無いが、それなりに快適。
各々部屋を与えられるのは当然だが、今はトリアの部屋にライラとリリーが「ババ抜きやろー」と押しかけてきていた。
そうなると当然流れ的にマイナも誘うべきかと思い、「ちょっと待っててね」とマイナの部屋に誘いに行ったトリア。
トントンとノックをしてみると、微妙にテンションの低いというか、なんか切ない感じの「はーい」が聞こえたので、何かあるなとトリアは思った。
「ま、マイナさん……えっと、もしかして疲れてました?」
「え、あ、そんなことありませんわよ?」
苦笑するトリア。トリアにそんなこと言ったって無駄だ。
何故ならトリアはそういうことを見抜くのが多分凄く得意だからだ。
「今わたしの部屋でみんなでトランプやるっていう話になって。気が向いたらでいいですからね」
やわらかく微笑んで部屋に戻っていった。
気を使わせてしまったかと少し反省したマイナだったが、今はトランプをやる気分になれないよう。
付き合いも大切だが、今はお言葉に甘えさせてもらうことにした。
ベッドに腰掛け、ぼーっと窓の外を眺め始める。
上は星空、下は街の明かり、まるで宇宙にでもいるようだったが、今のマイナの目にはそんなものは映っていなかった。
「先生……」
アルトメリアでの出張ロケと聞いて全員わくわくしていたのだが、意外や意外、一番嬉しかったのは実はマイナだった。
ここには彼女の師であり憧れの先輩である
ハイディがいるという、ごくシンプルな理由だ。
早く明日になって欲しい。眠ってしまえば、目を覚ましてしまえば明日になる。
だが心の中が落ち着かなくてそれが出来ず、ぼーっとしているように見えて実は脳内でコスモスとカオスが永き戦いを繰り広げていた。
「あーもう! なんなんですのわたくしはッ、こんなことなら来なきゃよかっ……ううん、来なかったら絶対後悔する……でもなんだかもう、なんかすごく、もう! 何!? わたくしは何!?」
(うわっ、ビックリした……何、なんか……なんかマイナがおかしいよ?)
(マイナあたまおかしくなっちゃったぞ……)
(い、いいのかなこんなことして……)
そしてマイナを連れて来なかったトリアから事情を聞いて覗き見敢行のライラとリリーがドアから聞き耳を立てていた。
トリアは大きな声を出すわけにもいかないし引っ張って連れ戻すにも音が出て気付かれたら気まずいので、後ろでオロオロしていた。
山本君組は寝ていた。
次の日。
現場一帯を包み込む霧、「フォフォフォ」という高らかな笑い声。
この状況、コレは最早ハイディどころではない。
「一度に四人相手と警戒していたが……クリスタルの力、こんなものではあるまい?」
「ぐ……めっちゃ悔しい……ていうかクリスタルって何!?」
「まさか貴様等自身が知らぬのか? ……それともアルラーナの情報が食い違ったか?」
「そんなコト無イ。そもそもクリスタルなんて言った覚えも無イ」
なんでか、もう一時間以上も戦っている。あれ? 収録は?
GCYRの収録を始めようと、近くの広い公園、その綺麗な池を背にしてセットを並べていたんだけれども、突然辺りに霧が立ち込めてきた。
同時に現れる緑色の小さな少女アルラーナ。
どう見てもGだったので、とりあえず生身の一般人は避難してメード四人でこれを迎撃しようと構えた。
情報に無いわけではないが、相手はほとんど未知のG。数で圧倒できるとも限らない。
マイナとリリーを前衛、ライラを中衛、トリアを後衛としてフォーメーションを組み立てる。
だが相手はアルラーナだけではなかった。
ガシャリという重厚な足音が聞こえ、同時に霧が少しずつ濃くなっていく。
辛うじて近くの光景は見て取れるが、まるで閉鎖空間に閉じ込められたかのような圧迫感を感じる。
青黒く飾りの多い鎧を纏った男、エクソダス。アルラーナは駆け寄り、そのちょうどいい形の左肩にぴょんと飛び乗った。
「……この波動、クリスタルか」
説明終わり。
「グロリアを正面から受け止めるなんて……」
「霧は常に貴様等を見ている。どれだけ速く動こうと霧駄なことだ」
動きが遅いと甘く見ていたが、何をしても軽くいなされる。
マイナの超重量の突撃をか細い剣でいとも簡単に弾き返し、リリーが高速・連続で繰り出す拳や足技を全て受け止め、トリアの射撃やライラの光弾を霧の瘴気の塊で飲み込む。
弾き返された衝撃でバランスを崩したマイナとリリーに圧縮した瘴気の波、瘴空波が襲い掛かる。
ライラとトリアにも同様に迫るが、間一髪で避ける。
マイナとリリーは避けきれず吹き飛ばされる。
「リリー!」
「マイナさん!!」
次が来るならと構えるトリア。
だが追撃しようと思えばできるのに、エクソダスはそれをせずただ笑っている。
そしてアルラーナもエクソダスの肩の上に座ったまま、「フォフォフォ」と笑って真似をしている。
真剣にやるつもりなど無いらしい。
「う、ぁ……くっそ、脚やっちゃったかな……あーもう、あいつらまだ笑ってるよ」
「こんなことって……あっ……あら……!?」
吹き飛ばされてなんとか受身を取ろうとしたリリーだが、その前に運悪く公園の花壇のレンガの残骸に右脚を取られてしまった。
立とうとすると激痛が走る。
得意の格闘はおろか、こうなってしまってはまず戦うことができない。
起き上がるために手をつこうとするマイナ。だがそれができずにまたバランスを崩し、転んでしまう。
見ると突撃武器として頑丈に出来ているはずのグロリア・クラウンが派手に折れ曲がり、それを持っていた腕も片方調子が悪い。
それほど力を込めて動いたようには見えなかった。ただ単にあしらっただけの筈だった。
第一、力で無理矢理押し返そうとしたところで、細く歪な剣が折れるだけ。
一体何をしたのだろうか。考えてわかることでもなかった。
ゆっくりと近づいてくるエクソダスに、いつの間にかチャージを終えたライラの光砲が飛ぶ。
だが一斉にかかってきて歯が立たなかったのだ。単発のエクレア砲を防げないはずが無い。
「クリスタルという物も存外口ほどにもない。暇つぶしになるかと思ったが、興が冷めたわ」
「だからクリスタルなんて言ってナイって言っテル」
急にあたりの空気が重くなったような感覚に襲われる四人。
同時に霧がどんどん濃くなり、マイナも、トリアも、ライラも、リリーも自分以外をぼやけたシルエットとしてしか視認出来ない程になってしまった。
ただ雰囲気が変わっただけではなかった。
霧の色がどす黒く変色し、皮膚がピリピリと刺激され、喉が奥まで焼かれるような不快感を感じる。
「……これは……何か変ですよ……!」
「みんなぁー! みんななんにもみえないよー!!!」
「霧に抱かれ朽ち果てるがいい……」
酸の霧だ。
特定の方向からベクトルを持って繰り出される攻撃とは違い、全方向に常に発生している攻撃。
避けること、防ぐことをを許さず、少しずつ確実に敵を死に近づける。
まるで死神だ。
「ぐっ……ぅ……まともに息も出来ませんわ」
「ぃ、一応……みんなそこにいるんだよな……?」
エクソダスの姿が見えない。それどころか、自分の足元すら霞んでいる。
どこからともなくあの笑い声が聞こえるが、黒い霧に視界を遮断されて誰が何処にいるのかもわからない。
上空で停滞しているトリアですら、霧に邪魔されて何も見えないのだ。
無闇に動き回ってもエクソダスの「目」から逃れることは出来ず、闇雲に攻撃すれば味方にあたる可能性もある。
完全に袋の鼠だ。
「なんと霧益なことよ……。大人しくしていればそのような醜態を晒さずに済んだというのに」
「お前達さえ何もシナケレバ普通の社会見学のママ何事も無ク帰れたかも知れなカッタ」
エクソダスとアルラーナ、特にアルラーナのその言葉を聞いて最初に違和感を感じたのはマイナだった。
「何? 社会見学ですって?」
絶体絶命のピンチというところでポロリと出てきた言葉に、戦いの中にいることさえ忘れてしまう。
続いてトリアとリリーにもハテナが浮かんだ。
社会見学とは? 他のGのように人を狩って食らうために来たわけではないのか?
但しライラはまず話の根本からしてあんまりよくわかっていなかった。
「ちょっと待ってよ、社会見学って何だよ? 街に繰り出したのってそういう目的なの?」
「他に何がアル?」
これが普通の人間やメードならば話が早いが、相手が相手だけにその言葉の真意を疑ってしまう。
「えっと、じゃああなた達は……その、観光に来たんですか?」
「そうだ。……貴様等、よもや今まで私を蟲共と同じ破壊者と思っていたか?」
つまり、別に迎撃態勢に入らなくてもよかったわけである。
無駄に命を奪われそうになったわけである。
「そんな……今までわたくし達は……え、でも……そんなぁ……」
「……わたし達が勝手に襲い掛かってきたっていうことになる……のかな……」
「え!? 何さ!? ボク達が悪いの!? わけわかんないよマジで!」
「う???」
不吉さすら感じさせた黒い霧が晴れる。
脱力。この一言に尽きる。
戦意を喪失し……というよりは、なんかもうやる気無い感じになってその場にへたり込んだ。
但しライラは最後まで話が理解できなかった。
ともあれ、この戦いはマイナ、トリア、ライラ、リリーの敗北直前で無効試合となったのである。
そんなことがあって、結局その日の収録は中止。時計は夜の6時を回った。
ゲストが到着する前に山本君が連絡を取って帰ってもらったのは不幸中の幸いか。
ちなみに今回来るはずだったゲストは
ジェシカ。
ラウンドスターズの話なんかも聞けると思ったが残念でした。
代わりといってはなんだが、なんかエクソダスとアルラーナの部屋を山本君の自腹で用意して、同じホテルに泊まることになった。
ちなみに戦闘中の怪我は、マイナは部品交換、リリーはテーピングで済ませた。
「アルラーナトランプやろトランプ!」
「トランプ? それはナンダ?」
「えっとね……なんて言えばいいんだ……まぁいいや、やりながら教えるからまずやってみよ!」
リリーの部屋ではライラとアルラーナとリリーが異様に仲良し。
昨夜楽しんでいたトランプにアルラーナを混ぜてやっている。
一方トリアの部屋では、エクソダスとトリアでまったりというかなんというか雑談。
「思ったよりも窮屈さは感じぬな」
「体も大きいですしね。屋内で暮らしてたわけじゃないんですよね?」
「樹海に天井など霧意味……して、あの騎士はいいのか?」
「後でちょっと様子を見てきますね」
鎧は脱がないのかと聞きたかったトリアだが、なんとなく聞いてはいけない雰囲気を醸し出していたため、聞けなかった。
紅茶を勧めようと思ったが、鎧のままだしやめておいた。
更に一方マイナの部屋。
ホテルに戻った途端マイナの様子がおかしいことにはっきりと気付いたのはトリアだけだった。
エクソダスとアルラーナもなんとなく気付いていたようだが、そんなに気にはしていなかった様子。
当然のようにトリアはマイナを気遣って、気の利いた嘘を言って一人の時間を作ってくれた。
『あ、確かマイナさん、会社関係の書類があったんですよね?』
何のことだかさっぱりわからず聞き返したマイナに「忘れてたんですか?」なんて言って、目では合図のようなものを送っていた。
結局トリアに負けて、というか自分に負けて部屋に来てしまった。感謝。
「会えるわけないか……わかってたけど」
だったら会えないなりに手紙でも、とペンを取るマイナなのだった。
だが、書けば書くほど恥ずかしい文章ばかり出来上がるのでやっぱりやめた。
を繰り返しているうちに机に突っ伏して夢の中に旅立っていった。
更に更に一方山本君組は、各々の部屋でこの上ないほどに寝ていた。
色々あったようだが、なんにせよコイツラ寝過ぎだ。
更に更に更に一方。
森のアルラグネさん宅ではまだ喧嘩が続いていた。
「あなたは……しつこい。いつまで……そうしている……つもりなの? 本当……に」
「そっち……こそ……息が……切れてる……じゃない……?」
休憩も挟まず戯れる腐れ縁の二人。
いくらなんでも昨日からずっとやっていれば疲れもするだろう。
いや、疲れたならやめて寝れ。
丸一日中暴れられて一番迷惑なのは当然アルラグネ。
「いい加減やめて欲シイ……頼むカラやめてクダサイ……」
ちなみに軍隊でつれてきた蜂達は付き合いきれずに「もう先上がらせてもらいますからね。ホント疲れたんで」と言って帰っていき、植物達は既に寝ていた。
更に更に更に更に一方。
「何よ何よ何よッ!!! せっかくラジオに出られると思って楽しみにしてたのよ! トラブルってどういうことよ! ふざけるなっていうのよ!!! 何よトラブルって! ……え? Gが来た? ……そんなのさっさと蹴散らして……え? 惨敗? ハッ! 連合のメードは置物かっての!!! 要するにラジオにばっかりかまけて腕が鈍ってたんでしょ? 無様を通り越して哀れよね! ……何? 酒臭い? 八つ当たりするな? 黙って聞きなさいよこのっ! このっ……くー……すぴー……」
不幸中の幸いとか言ったが、ジェシカには寧ろ幸い中の不幸だったようだ。
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最終更新:2009年03月12日 22:51