(投稿者:エルス 原案:店長 様)
注意:この話は店長様の連載作品『華』と『
隠れ花を彩らせ』の後日談です。
『華』『隠れ花を彩らせ』とを読まれていない方はそちらを読んでからの方が分かりやすいかと思います。
また、この話の原案は店長様で作者がそれを失礼ながらスラスラとやっちゃったものです。
ごめんなさい。
―――■―――
「ふっふー。今から面白いことをしますよー?」
「
エルフィファーレ、頼みますから問題を・・・」
名づけて シリ×ルア 第一話(第二話は80%の確立で無い)
ルルアに春?! ならば見届けましょう♪by エル
何故俺まで・・・ by
シリル
「ということなんですよマクスウェルさん」
「何がということなのか、出会い頭に言われても分からないのだがエルフィファーレ」
最もですねーとクスリと上品な──どちらかというと何かを企んでいそうな女狐の──笑みを浮かべるエルフィファーレに、夕刻に呼び止められるマクスウェル。
マクスウェルの持つ彼女の印象は良くも悪くも引っ掻き回す存在である。
堅物で不器用なルルアとシリルをからかっては弄ぶかと思えば、さりげないフォローや細やかな気配りができる周到さを持つ、一言で言えば頭の切れる変人だ。
しかし、それよりも重要なのはどのような経緯になってもその状況を楽しもうとするたくましさを持っているということだ。
ある意味人生を楽しく謳歌しているメードだろう。
ただ、熱っぽい目線で一晩ともにしません?と言われた時はある種の危機と少女の後ろに蠢く魔性を覚えたものだが。
「やだなぁ、察してくださいよ。ルルアのことですよ♪」
「ルルアが一体どうしたと言うんだ?」
「駄目ですよ? 担当官たるもの、ちゃぁんとメンタルケアしてあげなきゃ♪
・・・つまり、デートしてあげてください」
「──何、だと」
出たなエル節。
と妙な単語が思い浮かぶ一方で驚愕を顔で現す彼に彼女は言葉巧みに逃げ道をふさぎ、堀を埋めていく。
駄目だ、あっという間に包囲網を構築され、こちらには新兵と旧い榴弾砲だけの状況―――と、何となくこの場を戦場に例えてみたりする。
まぁ、いろんな意味で人生経験豊富(?)な彼女にとって、中佐ぐらいなら口車でどーにでもしてしまえるのだろう。
……そもそも、正式な担当官ではないのだが…まぁ、端から見ればそうなるのか……。
―――あぁ、だから最近下士官達の目が冷たいのか……。
「まんざらじゃないんでしょ? ルルアは良い子ですから」
「むっ、まぁ、ルルアは、それは、良い子だとも」
エルフィファーレの言葉に、マクスウェルはこの場に居ないルルアのことを思う。
多くの戦友を戦いで失い、それでもまっすぐに生きてる彼女を。
傷つきならがもこうしてエルフィファーレとシリルを光ある場所に連れ戻したのは、
単に彼女の思いの強さが奇跡を生んだに他ならない。
そんな彼女に、何かしらの御褒美があってもいいじゃないだろうか?
いつしかマクスウェルもエルフィファーレの考えに乗り気になっていた。
それにしても、と彼は目の前の少女然としたメードに敬意を抱く。
機敏な感性からくる気配りのよさは、なにかと堅いルルアを助けてくれているのだから……。
「でしょ!? ですから……ごにょごにょ」
「ふむ・・・ふむ・・・しかし、本当に上手くいくものなのか?」
「この僕にお任せくださいな♪」
その後用意周到な彼女が”これで完璧!デート計画書”という冊子を取り出して、
先ほどの評価を少し改めないといけないかもしれないとため息交じりにクラーク・マクスウェルは肩をすくめるのであった。
★
エルフィファーレがマクスウェル中佐に計画を吹き込んだ次の日、エルフィファーレは次の行動に移っていた。
今度はルルアとの訓練を終えたシリルの元に、非常に機嫌がよさそうな微笑みを湛えての登場である。
あからさまなその彼女の表情に、普段から弄られまくりな彼の警戒心はマッハを超えて光の速さでMAXであった。
アレは絶対に何か企んでいる。
しかも絶対に禄でもないことを。
このままじゃ弄られる。
緊急退避だ。
パッセルホフ飛行中隊の何番だったか忘れたけどそいつみたいにこの場からベイルアウトするべきだ。
要するに、ニゲロニゲロニゲロニゲロ。
本能は眼前の小悪魔からの戦術的後退──つまり逃走──するべきだと踵を返したその瞬間、がっしりと袖を掴むエルフィファーレ。
シリル は 逃げ出した!
しかし、まわりこまれてしまった!
知らなかったのか? 魔王(エルフィファーレ)からは逃げられないのさ!
シリル は 心の中で叫んだ そんな馬鹿なチートがあって堪るかあああぁぁぁ!!
「いやですねぇ。顔合わせた途端に逃げるなんて」
「く、離せっ! 俺を弄ろうと画策するな!」
「まぁまぁ・・・実はですね」
ごにょごにょごにょ、と不必要なまでに体を密着させながら耳打ちするエルフィファーレに、シリルはまだまだ初心な心が早くも悲鳴を上げていた。
特に薄地のブラウス越しに感じる胸の柔らかさとか。薔薇の香水の匂いとか。それに紛れているシャンプーに匂いとk(ry
無論ワザとなのはいうまでも無い。
そしてシリルが必死になって顔がニヤけるのを堪えているのもいうまでも無い。
僅かに赤面しながら硬い表情を維持する彼に、エルフィファーレの甘い声──こちらも悪ふざけだが──で囁く内容は、少しばかり意外なものだった。
「てーっと、その極秘任務の為にペアを組めと?」
「ですです」
V4師団。 正式名
ヴェードヴァラム師団。
世界制服を謳うよく分からない組織。どちらかというと犯罪者集団というべきか只の変態集団というべきか悩む組織なんだが。
兎角、そんな集団が休日にグリーデルに現れるのだとか。
そこで幾人かのメードらに極秘の任務が下ったのだという。しかもみだりにしゃべるなという徹底振りで。
「ええと、それで俺かよ」
「そうですよー♪」
「まぁ、いいけどよ・・・」
思えばこの時彼女のことを疑ってみるべきだったのだ。
休日、彼に降りかかる不幸(?)をこの時点で回避することができたのだから。
しかし残念ながら、彼はついにエルフィファーレからの要請を受けてしまったのが運の尽きといえた。
★
そして休日がやってきた。
ところは
グリーデル王国がセントグラール。
今は秋に差し掛かってきた時期で、風は次第に涼しさから寒さへと移り変わってきていた。
そんな中、二人の男女が雰囲気よく歩いていた。
「その、中佐・・・これは?」
「君の努力に対する報酬、かな?・・・にしても、綺麗になったな」
「えぇ、エルフィファーレが、その」
普段のカッターシャツとパンツではなく、白っぽいシャツにGジャン、そして同じ紺色のジーンズとコーディネートされた彼女は向けられる目線に恥ずかしげに答えた。
注意深く観察すれば、薄めの口紅にうっすらとファンデーションが施されていることに気づく。
エルフィファーレがルルアのデートの為に手を出した──半分強制なのはいうまでもない──のだ。
マクスウェルもまた普通よりも着てくる私服に気を使ってたので、彼女に恥をかかせることは無かった。
エルフィファーレの手はいろんな意味で長かったのだ。
そこから二人はなんだかんだ言いつつもカフェテラスでコーヒーや甘いものを楽しんでいた。
マクスウェルがまさかの猫舌だったり、ルルアがパフェを食べて何時もより何倍も明るい笑顔を見せて喜んだりと、普段よりも上機嫌で浮ついた状態の二人を離れた席から眺める視線が、2対4つ。
傍から見れば、ゴシック調の服を着ている麗しい少女という光景。
やや暗い赤毛の子は膝までの紺色のパンツにフリルがあしらわれた白いシャツに、飾りリボンと薔薇をイメージした布がついたすごく小さな帽子を被っている。
もう一方は薄紫色をメインにすえたワンピースに無数の青紫と白のフリルやリボンが多数飾られたものを着て、その長い銀色の髪をヘッドドレスで覆っていた。
「ふふ、いい感じですねぇ」
「おい、もしかして任務っていうのは・・・嘘か?」
「やだなぁ。嘘じゃないですよー」
「まあいい・・・それよりこの格好は!?」
「しーっ、カモフラージュですよ」
その正体はエルフィファーレとシリルであった。
銀色の髪なのはカツラを被っているからであり、ヘッドドレスは激しく動いてずれ落ちないようにするためにつけている・・・とエルフィファーレが言い張った。
そして、女装しているのにシリルが普通にしていられるのはエルがシリルを弄りすぎた代償とも言えるかもしれない。
「あーくそ、甘いの苦手なんだけどな・・・」
「ふむふむ、バレンタインはビターがいいわけですねシリルは」
「るっせー・・・あとコーヒーよこせ」
コーヒーとチョコパフェを2人分頼んだのだが、
甘いのが苦手なシリルは数口ほど口に含んだら早々にパフェをエルフィファーレに渡す。
そのままエルが飲んでいたコーヒーを強奪するのだが・・・。
「この食べさしのパフェにしても、コーヒーにしても・・・間接キスですね♪」
「ぶふぅ!?」
ここでエルの鋭いツッコミが決まり、シリルは口に含んでいた少量のコーヒー噴出をしてしまった。幸運にも衣服には一滴も付いていない。
そして笑いながらハンカチでシリルの汚れた口元を拭ってやるエル。第三者視点ではさぞ素晴らしいだろう。勿論色々な意味でだ。
さて、そんなどっかのお笑いみたいなことをしている二人に気づく筈も無くルルアとマクスウェルはエルの考えた予定通り映画館へ入っていくのだった。
◆
「・・・それで、何で俺たちまで映画館に入るんだ?」
「あ、ほらシリル、今良いシーンですよ」
「誤魔化すなこら」
薄暗い映画館で前の前の前の前の左の左の左の席に並んで座っているルルアとマクスウェルを見ながら相変わらずのコントを披露する二人。
エルはルルアとマクスウェルが何を喋りあっているのか何をしてるのかを出来れば全て知りたいのだがそれが出来ないのでそっちを凝視し。
シリルは「あぁ、また騙されたな俺」とか思ってさっき買ってきたポップコーンを食べて炭酸飲料でそれを流し込んだりしてた。
「にしても、何だよこの映画。つまんねぇなぁ」
「そうですか?僕は良いと思いますよ」
「言うならスクリーンを見て言え、こん畜生」
そういうスクリーンは白黒のアニメーション映画が映写機のたてる音と共に流れていて、何かネズミみたいなキャラクターがブルドッグみたいな敵役に恋人を無理矢理
とられて追い掛け回してる、シリルから見れば物凄くありきたりで見なくても内容が分かるような映画だ。
なので、さっきからシリルは一応スクリーンを見ているが映画自体は見ない事にしている。
今、メインはポップコーンと炭酸飲料。あ、何かネズミが複葉機乗ってら。ブルドックも何かネズミの恋人連れて複葉機乗ってるし。
エルの方はスクリーンなんてお構い無しに何処から取り出したのか双眼鏡でルルアとマクスウェルの様子を逐次確認。
どんだけルルア大好きなんだよ、とシリルは心中呟く。
「ちゃんと見てますよー。ひどいなぁ、シリルは」
「るせぇ、言ってろ畜生」
「それ口癖になってますよ?」
「るせ・・・って、マジか・・・?」
「えぇ、自分に嫌なことがあったりすると『畜生』とか『クソ』とか絶対言ってます」
「・・・・・・」
「あれ?もしかしてルルアに直されたのに離反してまた戻ちゃったんですか?」
「・・・るせぇ」
「ほらまた」
「今のは違うだろ」
「女の子はそんな喋り方しませんよ?」
「俺は女の子じゃねぇだろーが」
「今は女の子じゃないですか~。さぁ女の子らしく演技してください」
「誰がするかよちくしょ・・・あぁ、く・・・・・・んだああぁぁぁ面倒くせぇ、もう口調なんて知るか!」
「そーですか、ならルルアにシリルの麗しい姿を納めた写真を見せるしか―――」
「ごめんなさい、出来るだけ努力してみます」
「正直者は好きですよ♪」
見ての通りシリルは「勝利」の「し」の字の「s」すら見えない完全敗北。
ここまで見事に負けるとヘタレの称号が与えられるらしいので頑張ってほしいが、女装して何を頑張れと言うのか。
そしてシリルがぎこちないながらも違和感のない女声を披露し、更に散々色々言っていたくせに極普通で少し丁寧な喋り方をし始めて
プライドがボロボロになり上映終了。
エルフィファーレ曰く「良い調子です」とのことだが、精神的に参ってるシリルには何の事やらさっぱりだった。
「さーて、次は港なんですけど僕は準備があるのでシリルはこの子達と仲良くやってて下さいねー」
「は?ちょっ、ま―――」
「港で待ってますよー」
映画館を出るなりエルは走り出して行って、何処からともなく出現した身長130cmもない子供二人とシリルだけが残された。
子供二人はシリルが推測するにメードで、しかも双子だ。二人は物凄く似ていて、違う点と言えば背負ってるリュックサックの色と雰囲気だ。
シリルから見て右の子はリュックの色が水色でどことなく暗そうな雰囲気。そして左の子はリュックが赤茶色でこれもどことなく明るい雰囲気。
兎も角、面倒事が増えたのは目に見えて明らかであって、漫才コンビのようにこっちそっちのけで二人だけの会話をしている二人を見て、シリルは溜息と共に呟いた。
「あぁ・・・畜生」
それは傍から見れば綺麗なお姉さんが双子の妹に悩んでいる、という光景であって、この後すぐシリルは生まれて始めて口説かれる事になったのだった。
■
ルルアとマクスウェルにばれないようについていくと、潮風が吹く港に到着した。ちょうど近くに公園があるので、二人はそっちに行ったのだがシリルは付いていかなかった。
まず漫才を繰り広げている後ろの二人を止めなければ、どうにもならないと思ったからだ。
ちなみに、漫才というのはまずリュックが水色な方が何か言って、それに赤茶色の方がツッコム、といった具合だ。
まず聞いていればそんなに害はないのだが、尾行しているのにずっと喋りっぱなしというのはおかしい。
なので、ルルアとマクスウェルのデートを見るより先にこの二人を黙らせなければいけないのだ。
「なんか嫌な予感するなー」
「お前はいつもそればっか。朝ごはんのときにも嫌な予感したんだろー」
「うるさいやい。ボクの予感はあたるんだぞー」
「そういってあたったことないだろー」
「う、うるさいやい」
「ほらほらー、どんな予感がするのさー」
「う、うぅ・・・」
こうしてシリルが考えてる合間にも二人の漫才(いや、まて、これどうみても赤茶色が水色弄ってるだけかもしれない……)は続いている。
「いい加減うぜぇぞ、水色と赤茶色」
「お前こそうぜぇー。アタシはグラっていうんだぞー」
「ボクはラントだぞー」
こういうのが双子の連携プレーというのか、早速変なところでの仲の良さを披露した二人。
子供が苦手なシリルにとって、こういう幼いタイプは苦手なのだ。何と言っても、幼さ故の目敏さとか好奇心とかが自分の領域に土足でズカズカ入られるようで、嫌なのだ。
何が何でも、たとえルルアが昔の怒りっぽい感じに戻ったとしても、子供だけは、嫌だ。
「どうでもいいけどな、黙って俺の言うことを聞け。良いか、黙れ、じゃないとエルに言いつけんぞ」
なので、シリルはあえて自分ではなく自分より上のエル(この際プライドは捨てる……いや、もう既にプライドボロボロなんだよ…)を話しに出してみる、と。
みるみる内に二人の顔が青ざめていき、最終的には二人で抱き合って互いを励ましあってブルブル震えるという予想以上の事になった。
そこでシリルは思うわけだ。
あぁ、被害者って俺だけじゃないんだ―――と。
「うぅぅぅぅー」
「はぅぅぅぅー」
しかし。
と、シリルは心の中で呟いて、腕を組んで考える。
こいつらは一体何処でエルと知り合ったのだろうか?シリルの知っているエルは、後輩などという存在はいないと思っていたので、この二人が何者なのか分からない。
もしかしたらこいつらもエルと同じ諜報員か何かなのかもしれないが、それにしてはエルとは雰囲気が違いすぎているし、見た限り隠密行動なんて出来そうにない。
ならなんだろう。エルと知り合っていて、そしてエルの怖さというか恐ろしさというか一種の魔王的な感じが分かる……そんな立場が、あるのか?
更にシリルは目を閉じて考える。まてよ、エルが諜報員なら所属は諜報機関であって情報戦が展開される。そしてそれは取って取られての戦場ではなく、いかにして一方的に取るかが求められる場所だ。
そして、諜報機関であるが故に敵の諜報員を始末することも求められる。つまり二人はそういう役職についていたのではないか?
銃の使い方さえ覚えれば折り紙で鶴を折る以上に楽な力で人を殺せる。さらに幼いということは常識を知らないということで、教えさえすればそれを当然として受け入れる面がある。
充分ありえることだ。
そこまで推理してシリルが目を開けると同時に、どっかの誰かさんの金髪が目に入って、頬を軽く吸われる感覚がした。
目を横に持っていって見れば、案の定、どっかで男装してきたエルだった。金髪のかつらとベレー帽を被っていて、地味な服を着ている。
そんなでも、傍から見ればお姉さんが弟に頬っぺたにキスされてるという何とも羨ましい光景だろうが、シリルの思考がぶっ飛ぶには充分な破壊力と
うるさい二人が「おぉー!」とか尊敬とかそこらへんに似た目線を送るのに充分な魅力がある、所謂ダブルパンチ的な何かな力があった。
「な、ななな・・・何やらかしてんだテメェ!」
「はいは~い、女の子はそんな乱暴な口調じゃないですよ?」
「ぅぐっ・・・な、何やってるんですかエル…」
「ははは、シリルの女声って少しルルアに似てますね♪」
「ハ?・・・・・・そうなのか?」
「そうですよー。喋り方といい、恥ずかしがるタイミングといい、ルルアそっくりです」
「何か・・・褒められてんだけど、喜べる内容じゃないな…」
それはそうだとも。女装して誰かに似てるなんて言われたら逆に男としてのプライドなんちゃらで怒る所だ。
んが、シリルはもう慣れちゃいけないのに慣れちゃったため呆れるという普通なリアクションをとったのだ。
もうそのまま女装して生きちゃいなYO!とか、男の娘で生きれば良いじゃない、とか今考えた人は腹筋20回と腕立て20回やってこい。いや、何となく。うん。ごめん
「そうですか?喜んで良いのに……」
「おいこら」
「あぁ、グラとラントは仕事に戻って良いですから、さようならー♪」
「へ?」「ほへ?」
「戻 っ て 良 い で す よ ?」
「はひえぇぇー!」「ふあああぁぁー!」
何かゴゴゴ・・・としか表現しようのないドス黒いオーラが現れると同時にあのちっこい二人組みは奇声を上げて逃げた。
どの位の速度でかというと、速い動物として名高いチーターも見たら目が200kmくらいぶっ飛ぶような速度でだ。ついでに脾臓とか肝臓とかも飛んでくぞ。多分。
「相変わらず、すごい魔王っぷりで」
「何か言いましたか?」
「いえ、言ってません」
「ならよろしいです」
満面の笑みでそう言うエルフィファーレの背中からは、やはりあのオーラが出ていて、動物的本能でシリルは避けた。
「――って言うと思ってたんですね♪」
「ふげぇらへぇっ!?」
「大丈夫ですよ、ルルアとマクスウェルさんのツーショットは撮りましたし、V4師団のこともさっきの二人に任せましたから、二人でゆっくり遊びましょうね?」
「・・・・・・もぅ勝手にしてください」
突然の不幸にシリルは自然と自分の見ている風景が急に霞んでいくのを感じ、それが泣いているのだと言う事に気づくと、何で俺ばっかりと思った。
まぁ、自分がエルフィファーレに何をしてルルアをどんな気持ちにしたのかとか考えればこれは極当然の事なんだ。
そしてついでにV4師団が来るって嘘じゃなかったのかなんて最早自分にはどうでも良いことを考えたりした。
自分がこれから何されるかなんて考えなかったのは、それはもうなんとなく安心しちゃったからで。
「それじゃあ、”ドキッ!リルちゃんコスプレ計画”スタートですよ♪」
「はっ・・・え、ちょ、ま―――」
「レッツゴーです。ほらほら、僕と一緒に楽しみましょ♪」
そこでシリルはエルの顔を見たわけである。
まぁ、予想通りの満面の笑みをエルは見せてくれるのである。
もっとも、シリルからすればそれは魔王が正義の勇者をひっとらえてさてこれからどうしようか何て考えてる時の笑みにしか見えないのだが。
■
後日
「ということで、シリルは僕のするがままにナースさんとか巫女さんとかの格好になっちゃいまして」
「何がということで、なのかいきなり言われても困るんですが・・・そんな事があったんですか」
朝の7時30分。ルルアとエルは部屋で喋りあっていた。
嬉しそうにその時に撮ったであろうシリルの女装写真をルルアに見せながら、エルはところでと言葉を続けた。
「マクスウェル中佐とはどうだったんです?」
「え、いや、それは、そうですね・・・楽しかったです。日常があんなに楽しいなんて、普通の人たちに憧れちゃいそうですよ」
「そうじゃなくてキスとか、こうベッドの上の―――」
「なんでいっつもそっち方向に話を逸らしたがるんですか貴方はっ!!」
「いやだなー、聞いてみただけじゃないですか♪」
「全く、少し買い物とかをして食事した程度ですよ」
「そーなんですかー。それは良かったです♪」
「・・・・・・にしても、今日は機嫌が良いですね、何かあったんですか?」
「いえ、何もありませんよ」
「・・・・・・なら良いんですが・・・」
エルがご機嫌の時というのは何かやらかした後か何かやらかす前と決まっている。
そして何もないと言うときはルルア自身か、もしくはシリルに何かある時に言うのだ。
ルルアがこれから何が起きるのだろうと考え、溜息をついた。
と、その瞬間部屋のドアが吹き飛ぶんじゃないかという勢いで開くと、顔を真っ赤にしているシリルが現れた。
「あらシリル、女性の部屋に入る時にはノックをしないと―――」
「だんまりやがれえぇっ!こんの魔王があぁっ!!」
ほら、やっぱり何か起きた。
ルルアは額を押さえ、拳を握り締めて怒っているシリルと何時も通り笑っているエルを見守る事にした。
いや、見守る、というよりは傍観すると言った方が近いだろう。というより、傍観している。手を出すと火傷どころじゃすまなそうだ。
シリルとエルが喧嘩してる時に係わると碌なことがないとルルアは学んでいるのだから。
「お、おおお前な・・・な、なな、何考えて兵隊に俺の写真売りつけてやがんだぁ!?」
「良いじゃないですか、それなりのお小遣いになったんですから」
「俺の許可は!?」
「取ってませんけど、ばれてないんですから良いじゃないですか」
「良いわけねぇだろ、表出ろこん畜生!」
「あーまたらんぼうしてー」
「うっせぇ!さっさと来やがれ!今日という今日こそはぶっ飛ばしてやる!」
「いやー、おーかーさーれーるー」
エルの事態を楽しんでいるかのような棒読み台詞を最後にドアは乱暴に閉じられ、部屋はルルア一人だけとなった。
遠ざかっていく筈の騒々しさが更に騒々しくなっていくということは、ノリの良い兵士が面白がって野次馬根性を発揮し始めたとこなんだろう。
「あぁ・・・・・・大丈夫でしょうか、シリル・・・」
苦笑いしながらシリルを心配するルルア。体格的にも力の強さでもシリルが勝っているが、今までエルに勝ったシリルを一度も見た事がないし、
エルはシリルに対してたまに物凄く容赦がないので、まぁ心配なのも頷ける。
ちなみに今回と似たパターンが以前あったのだが、その時は・・・
ハイキックやらニー・バットやら踵落としやら散々やられた後、膝十字固めに入りギブアップと泣いて叫ぶシリルを一度放して更に立ち上がろうとした
瞬間コブラツイストを決め、もうプライドも体もボロボロなシリルはギブアップと謝罪をしていたのだが、最終的にまた放されてフラフラと立ち上がった
時に必殺とでも言いたげなドロップキックを喰らって完敗したのだった。
まぁでも、コブラツイスト決められた時にシリルは背中に柔らかい心地の良い感覚とエルの太腿が自分の太腿に絡みついたりして強烈な痛みが無ければニヤけていそうな気持ちだったのは秘密だ。
ちなみにその時兵士たちで行われた賭けは賭けとして成立しないほどレートがエルに偏っていたという。
「・・・止めないと、可哀想ですよね・・・やっぱり・・・」
ここでマクスウェル中佐指揮の大隊にアンケートを取った場合、可哀想とも思わないが30%、女に手を上げたのだから当然が20%、これ位やられないと俺達の
怒りが有頂天で鰻上りで天井無しになるのでこれ位当然氏ね畜生が45%、俺には関係ないが5%あたりだろう。
まぁ、言ってしまえばシリルは結構恨みをかっているようです。
そりゃ傍から見れば充分以上に可愛いエルと姉のようなしっかり者で優しいルルアがいるんですから、当たり前ですよね、うんうん。嫉妬するよ誰だって。
「はぁ・・・全く、しょうがない弟子を持ったもんですよ・・・」
呆れきった表情を見せながら溜息をついたルルアはやはり立ち上がって喧嘩中と思われる二人の仲裁に行くのでした。
まぁ、オチとしては結局仲裁する前にシリルがボロボロになってたんだけどね。
終わる
関連項目
最終更新:2009年10月08日 22:05