FRONT of MAID  Short Short Story 001

(投稿者:クラリス・アクナ)

怒涛の貧乏人



  作戦内容:味方輸送部隊救援
  成功報酬:20メルト
  伝令員:グラハン・ゲルゲス・バル

  現在我が国の前線で補給物資が不足している。そこで私は物資を乗せたトラック隊を送ったのだが、
  前線をすり抜けたGと進路上で接触する危険が出てきた。大至急トラック隊を救援してほしい。
  噂は聞いている。もしトラック隊が全員無事であったなら追加ボーナスを出そう。前線の駐屯地から
  向かえばすぐ合流できるはずだ。

  作戦領域:東部国境戦線後方
  敵性戦力:ワモン型G×9
  作戦目標:味方輸送部隊の救援



「お仕事ですかぁ!(キラキラ」
「お、おぅ・・・。G-GHQからこの駐屯地に来た電文で、宛があんたに・・・」
「ありがとうございます! すみませんが、この場所まで連れて行って下さいませんか?」
「何!?」

少女と青年兵士のやり取りは、一つの電文から開始された。
ザハーラという熱と砂漠に覆われた地で、一つの物語が幕を開けようとしている。

「あ、あんたさっき前線から帰ってきたばっかりだろ? 休憩もしないで次行くってのか?」
「勿論です! それに急がないと駄目な内容じゃないですか! 送っていただくだけで構いませんので、お願いします!」

駐屯地の兵達の中でもひときわ目立って若い少女が、その次に若い兵士に頼み込んでいる。
一見すればニヤニヤする光景だが、頼み込む少女の背中にはちょっと異質なものが背負われている。
さっきまでそれを使って戦ってきたのであろう少女の顔は疲れているようには見えず、元気そうではあった。

「飯も食わずによくやるな・・・。メードってそんなに頑丈なのか・・・?」
「そうみたいですね~」

メードと言われた少女は、特に気にすることもなく、ただ青年が送ってくれることを只管祈願するだけだ。
青年の心配は彼女の顔にぶちのめされ、観念したように車で案内した。



現地はすでに戦闘状態に入っていた。
煙幕を使った近接防御行動をとっており、3台のトラックはワモンの牙に飲まれないようにと必死で車体を操っている。
前線をすり抜けてきたワモンだからか、外殻には浅い弾痕が多数刻まれており、トラック隊の兵士もマシンガンやライフルを放つが、多少のけぞる程度ですぐに動き始める。

「なんだあのトラック・・・。すごいテクしてるな」
「そうなんですか?」

補給物資を積んだ例のトラック隊は9体のワモン相手に絶妙なフェイントを仕掛けたりなどして一撃を上手くかわしている。
とはいっても3台それぞれ損傷しており、耐え切れそうになかった。

「この先で降ろしてください。後は私のお仕事ですから」
「トラックごと移動してるのに追いつけるのか?」

双方ともに100km/hを超えたスピードで移動している。
また、直線で移動していないため接近するだけでも至難の業であろう。

「んー、確かにちょっと早すぎるかな・・・」
「まだ実戦経験浅いのかあんた」
「えぇ・・・お恥ずかしながら・・・」
「メードってこっちにくる時は大体の訓練はしてるもんだと聞いてるけど?」
「う、私はちょっと事情がありまして・・・戦闘訓練は・・・」
「・・・あんたも大変そうだな」

この青年はあまり難しく考えはしなかった。
Gなどという正体不明の巨大生物にいつやられるかわからないこのご時世に、駐屯地防御の任務だけを受けている青年は出世欲も正義感も希薄で、なぜ軍隊に入ったのかといえば、就職先がほしかったという程度の考えであった。
両親のために仕送りをして、生活だけ保障されれば良いと思っていた。
が、このメードはなにやら目的があるらしい。
青年はひとつの気まぐれを思いつく。

「俺が車を寄せるから、あんたは後部席でやつらを相手してくれ」
「え?」
「時間もないし、実戦経験がないなら、俺がひとつだけ教えてやるさ。前の隊長から教わったワモンの戦い方だ」

青年はジープのハンドルを思いっきり切ると、トラック隊の下へ近づいていく。

「そんな、危険ですよ!」
「元々俺達歩兵ってやつはメードの手伝いをするような存在さ。あのクロッセル発祥のメイドっていうんだっけ? 俺達がそんな感じなんだろ」
「違いますよ! メードはメイドでもあるってエントリヒ様が言っています。私達は人を守るためのご奉仕をさせていただいていますから・・・」
「そのお手伝いさんが経験不足じゃ掃除とか任せられないだろ!」
「あ、確かに・・・」
「接敵するぞ!」
「わ、わかりました! どっ、どんとこい!」

どうせ長生きしない人生なら無茶やった方がいいと考えた青年は一人のメードを戦場へと誘った。
獲物を追うことに夢中だったワモンは側面からの奇襲に気づかないまま、メードの放った鉄拳で粉砕される。

『こちら第8877陸上輸送隊だ。あんた達が救援の者か!?』
「ザハーラ東部戦線55番駐屯地のガルハ一等兵と、メードの・・・」
プレ・リニアと申します!」

青年はさりげなく彼女の名前をはじめて聞いた。
伝令文を伝える時は単に「あのメードに渡して来い」といわれただけだったのを思い出す。

『救援感謝する! 煙幕があと2発しかないんだ、蹴散らしてくれ!』
「分かりました、お任せください!」
『作戦はあるか一等兵殿! 俺達は戦闘部隊じゃないから指揮権は無いんだ』
「えっと・・・、では接近するワモンをこちらが順次撃破します。隊列は縦一列で直線に!」
『狙われやすくならないか?』
「敵の行動をパターン化できますので。煙幕弾は緊急時にのみお願いします」
『了解した一等兵殿!』

通常の戦場ではありえない光景である。
いくらメードが単体における戦闘力に優れていようと、必ず厳密な軍事行動を取ることになる。が、彼女の場合、信頼されているのかどうかは不明だが、その行動原理がまるで傭兵のようなスタンスである。
一等兵である青年がこの現場で指揮権を持つこと自体が異常であり、そもそもこのような状況はあってはならない。
が、実際に起きてしまった状況は仕方が無い。

「ヒュレ・・・リーヤさんだっけ?」
「プレ・リニアです。発音難しかったですか・・・?」
「いや、悪い。えっと、6時方角から来るワモンを頼む。抜かれそうになったら教えてくれ。ジープを前に出して妨害する」

青年は年齢から見ればやや経験は豊富な兵士だった。
入隊してから一時期ザハーラの戦線で部隊が孤立し、トラックとジープで駐屯地を逃げ巡りまわった。
戦闘回数が増えるにつれて逃げ方とカウンターの方法だけは当時の隊長から散々教え込まれたのだ。
一人でも逃げ切れるようにと。

「早速きました!」
「頼む!」
「了解!」

獲物を自分達に絞ったワモン共は、餌ほしさに突進をかまして来る。
だが、メードが放つ鉄拳で顔面を吹き飛ばされた一匹はゴロゴロと地面を転がっていき、またすぐに別の一匹が地面を転がる。
バックミラーでみる彼女の戦いはメードいう戦闘兵器の意味を十分知らしめていた。
通常の重火器では通用しない相手を、ただの鉄拳で粉砕できてしまう存在。
単純な知能しか持ち合わせていないワモンは殴られる事などお構いなしに近づいては死んで行く。
作戦はあっけなく片付いた。

『助かった。恩に着る』
「早く物資を送り届けてあげてください。皆さん待ってますよ」
『ありがとう。だが・・・』
「?」

並走する輸送部隊の兵士が言葉を濁す。どこか不安気な様子が無線機から伝わる。

『実は先ほどの戦闘で我々が持てる装備が大半なくなってしまった。弾薬が心もとない』
「? 物資の弾薬って使えないんですか?」
「バカだなぁ。送り届ける物資を空にして運ぶヤツがいるのか」
「あぁ、すみません・・・。うっかりしてました」
『君達は仲が良さそうだね。護衛を頼みたかったが、どうやらお邪魔らしい』

無線機からクスクスと笑う兵士達の声が漏れる。

「あぁいえ、そういう関係ではありませんよ」
「・・・・・」

リニアの言葉に少しばかり期待した青年だったが、実際さらりと言われてしまうと案外傷つくものだと思った。

『では頼むよ。届ける場所までは結構距離があるが大丈夫か?』
「はい! お任せください」
「!? ちょっとまて、このまますぐ行くのか!」

青年は焦る。
彼女は自分が知る限り12時間以上ぶっ通しで戦場に出ている。
途中に小休止こそはさんでいるが、飯を一切口にしていない。また、連続で戦闘した場合、大抵は仮眠をとる時間が必要だ。
メードは人間より頑丈ではあるが、G-GHQの戦闘規定として、必ず睡眠をとってコア出力を定期的に安定させる必要があるらしい。
過去にメードがそれで出力不安定状態になって戦死したという。

「伝令では救援でよかったはずだ」
「でも、みなさんが最後までご無事に目的地にたどり着けないと、報酬がもらえませんからね」
「いくらなんでもがんばりすぎだろ・・・」
『で、どうする? 移動中の休憩なら最後尾のトラックの荷台がいいだろう。少しだけスペースが開いている』
「すみません」
「・・・・・」

リニアが青年の肩を叩いてにっこりと笑う。
それが最後の頼みになると分かった青年はジープを最後尾のトラックにつけて、リニアはそのまま荷台に飛び乗った。
軽くなったジープが今の青年の心を表している。

「ありがとうございましたガルハさん。また会えればいいですね」
「どうして俺の名前を?」
「戦闘前の無線で言ってらっしゃいましたよ」
「あぁ・・・あれか」

クスクスと笑うリニアはスカートのポケットからなにやら取り出した。
ものすごく小さい石だが、やや白みのある光を放っている。彼女はそれをぱっと放し、青年はそれを受け取った。

「これは?」
「お守りのようなものです。ちょっとだけ良い事があるかもしれません。大切にしてあげて下さいね」
「・・・・・」

薄い光を放つが、その光はどこか安らぎを感じる、何か懐かしい気持ちになった。
今まで戦闘で気が立っていた自分の心が落ち着いていく。

「すごい石だな・・・」
「エターナル石と言います。これからのご武運を引き上げてくれますよ」
「へぇ・・・」
『一等兵殿。取り込み中すまないが、あなたの所属する駐屯地からどんどん離れていくぞ。このまま付いてくるかい?』
「しまった・・・っ」

トラック隊もこの辺の土地勘はあるのだろうか、青年が所属する駐屯地から離れていることを知らせてきた。ジープのメータを見るとガソリンが程よく減っている。

「お別れですね。それではまた会いましょうガルハさん」
「そっちこそ気をつけてな。プレ・リーヤさん」
「また間違えましたね」
「あぁごめん・・・」
「いえ、それでは」

リニアは深々とお辞儀をすると、トラック隊は左に進路を取って、東部戦線の北部へと向かった。
物資が届きづらい場所として有名なところで、もっとも膠着状態が続いている戦線である。
そんな場所へ赴く彼女は、彼の視界からトラックが消えるまでお辞儀をしていた。

「次会えるなら、お互い生きていると良いな。プレ・リニヤ」

未だに慣れない発音の名前だが、次ぎに会う時はちゃんといえるようにしておこうと、自分に約束した。
















最終更新:2009年11月01日 03:37
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