(投稿者:Cet)
アルトメリア西部戦線より東に数百キロほどの場所にある小村、そこにある民家の一つに、ヴァン・フォッカーはいた。
彼は共同生活を営んでいた。そこにはかつての仲間の内の数人がいた。
「ジェームス。今帰ったぞ」
「おかえりギュンター。今日の収穫はどうでした?」
戦時下で足りなくなったものを掻き集め、売るという作業を繰り返す。
ギュンターが手の平を開いてみせる、そこそこの日銭が握られていた。
「まあ万事順調ってところじゃないかね」
「そうなら良いんですけどね実際」
フォッカーは窓際の少女を見遣った。
フレデリカは十九歳になっていた。まだ、十九歳だった。
「昼食にでもしますかね」
「了解」
ぴく、とフレデリカが反応する。
「鶏肉のソテー?」
「当たり」
ギュンターは紙袋の中で、紙に包まれたそれを取り出して見せた。
「それにしてもまあ、私はアレで良かったと思ってるんですよ」
「まあ、俺にしてもそれは一緒だけども」
「右に同じ」
ぽつりぽつりと皆が呟いていく。
「ところであの死体誰だったんです?」
「さあ……」
フォッカーは心底どうでもいいことを聞かれたような顔をしてみせた。
彼は死んでいた。
アルヒヴァールは折りあって、
アルトメリア連邦にかつての同僚であるパスカル・ローテが居住しているとの情報を得ることができた。
何でも、彼は同じく同僚であったレーヴェ女史と同居しているのだという。
アルヒヴァールは旅の準備を整える。
調べる分には俄然面白そうな話だ、などと彼女は意気込みながら、ベオングラドにある貸しオフィスの一室を後にする。
リオール・アイヒマンとテオドリッヒの二人は、亡命の日からというもの、一切行方を知られていない。
アカシアとアイシャの二人は、フォッカーらと行動を共にしていたが、アルトメリアへの亡命の暫く後、共に病気を得て亡くなったという。
............
クナーベは、
ファイルヘンに肩を支えられて、エントリヒの国境沿いに横たわる市街、その裏路地を歩いていた。
スーツの背中からは、血が滲んでいる。腎臓のある辺りから滴り落ちる血が、足を伝って流れ落ちていた。
二人の間に交わす言葉はなかった。
ただ、ひたすらに歩いて行くのは、生きるためであった。
クナーベは笑っている。
そこに、悲壮感の類は見当たらない。
それはファイルヘンにしても同じで、彼女もどこか、平然と状況を受け入れているような、そんな表情をしていた。
誰もが夢を見ていた。
夢と現実の境目を、どうにかして見定めようとしていた。
そんなものは無いのだと、今はもう気付いている。
最終更新:2009年11月13日 02:34