荒木の旅 #1-1

(投稿者:A4R1)



……い…おー……」
「ん、んん…。」
「おーい!朝だよー!!」

だ、誰だ…?えらく若い男の声がするんだが…。
いつもの車の中で就寝したところまでは覚えているんだが、
はて、オイラと誰が一つの車の中でねんねこしてたやら。
考えても仕方ない。もっぺんねるか。

「あーもう!!」
「うお!?しゃっけぇ!?}
な、なんだなんだ!?胸元に氷かなんかを放りこまれた感じがする!つうか放りこまれた!!
「な、なにしただ!?」
紙コップの底で円を描いている青毛の男にめ息をつかれた。
コップの中から珈琲の香りが漂う。
朝なんだなぁ。オイラは寝起きの直後に飲み物を摂ると腹が確実に下るから困る。
「何って、トオの寝起きが相変わらず悪いんだもの。
 寝込み中にひと思いされたほうがいいっていうの?」
「よせやい。そんな趣向の持ち主じゃないって解ってるくせに…。」
なんか言い方も心なしか冷たい…。

しかし、取りきれずに溶け出して褌に染み込む氷水のように、じわじわと記憶がはっきりとしてきた。

たった今オイラに氷り入れの悪戯をかましたのは、ボディガード兼通訳の『セテ』だ。
青い。あおすぐる。
先日連絡船に乗ってた他のアラキのみんなに援護してくれたっけな。
オイラも戦いたかったなぁ…。
『今出ちゃだめ。トオの出番はまだ後。』
…ってお預けされたから、しょうがなしに航空機の運転を適当に、あ、いや、パイロットのおっちゃんの指示のもとおこなってたよ。
酔った。
多分お袋に聞かれたら怒られる…。

超巨大な空飛ぶGを沈めた後は、ノンストップでアルトメリア東部まで飛んだ。
ついた頃には真夜中だったから、カメラ女(名前何っつうんだっけ…)と別れたのち、
海上運輸で送って貰った車の中で一夜を…。
そんで、今氷を食らって目を覚ました。
そうだ、そうだ、平たくまとめるとこんな感じだな。うん。
オイラ一人で納得するのもどうかと思うが。

<アルトメリア市街・北部>

ひとまず車から降りて一伸び。
「トオ。」
「ん?」
「今日のお昼前には、キキ達がヨヨさんと落ち合う手筈になってるよね。」
「お、あぁそういやぁ…。」
親父のお古の腕時計が鈍く輝く。
針の先端が特に目立つようなニクい造りだ。

「えーと…今の時間…は…ん!?」
ガクッと顎が落ちてしまった。
街中の時計塔の時計と時間が違うじゃないか!!
「出発前に時計の針をちゃんとあわせたのに!!」
「トオ。時差を忘れてるでしょ…。」
「あ!そうだった!!」
セテの鋭い一言に「やっちゃった!!」と舌を出してみる。
「現地時間でお昼頃だからね。」
「じゃ、今は9時半か…ビビらせやがって…。」
「いや、誰もビビらせようとしてない。」

「しかし…セテはヨヨさんに会いに行くんだよな?」
「うん。まあね。」
「となると、当然キキ達とも会うわけだ。」
「当然。」
「でも、オイラは成り行き上、まだみんなと合流するわけには行かない…と。」
「そう。」
「…オイラ一人でこの地を孤独散歩せねばならんということになんのかな…。」
「がんばって。」
そう言ったセテの笑顔が…なんだか冷えてる…。

とりあえず車で街中を走ってみるか。
セテには持てるだけの銃弾とか身分証明品とか持たせたから大丈夫だろう。多分。
いつだったか、自動てき弾射出砲をだしたまま走ってたら、どこかの軍のお偉いさんが目くじら立てて追っかけてきたなあ。
そん時はセテが気がついて砲塔をしまって、軍の人が車両で追っかけてきて、
その人達、海だったか川だったかにぼっとんしちゃってたな。
あのおっちゃん達…あれ、だれだったかな…。ま、いいや。

それにしても…どうやって建ててるんだかわからなくなるぐらいでかい建物がいくつも建ってんな。
行けども行けども似たような建物が並んでる。
やべぇなぁ、異国の地で一人ぼっちでうおーさおーしてる男なんてみじめすぎるぞ…。
かといって、今はたいして腹はへってないし、プリンもまだいいかな…。
あ、そうだ、お袋の行きつけの服の直し屋にいってみっか!!
「あの子」が働いているだろうから顔出してみるか。
持ってて良かった主要都市ちづ!!オイラに必要なお店のみ詳細な位置を書いてあるから、コイツが単独行動の生命線だ。
みんなが主に働いているお店とかも、マークを付けてあるからわかりやすいぞ!!やったね、とうちゃん!!
え~い、目印を探さねば現在位置がわからーん!!


AM 09:58

<暗い脇道>

えー…。
地図とポリスマンの導きではこの道を抜けた先が最も近道みたいだ、が…。
裏路地…スラム街…影分多すぎ…うわわべぇこえぇこの道。
強面のあんちゃんとか大挙して押し寄せてきたらチビりそう。何とか出来ない事もないとは思うけど。
そんなことより、朝とは思えない程薄暗いし、なんか臭うし…。暑くて開けていた窓を閉め…
「お?」
首に大型カメラを提げた、いいガタイの人が見えたじゃないか。
壁に背をもたれてうなだれていて顔は見えないが、誰かなのは解った。

「後藤さんじゃないスか!」
その人の前に駐車して声をかけたら、ゆっくりと顔を上げ、
「やぁ、久しぶりだ。俺の妹が世話になっているな。」
楼蘭離れした楼蘭の顔つきが渋いねダンナ!!
おふくろさんがアルトメリアのカズも…って、アイツは顔をあまり露わにしなけど全然濃くない。
「あの子の頑張りがあったからオイラもなんとかGと渡り合える事ができるようになってんスよ。
 逆にオイラが世話になちゃってると思うんですがどうか。」
「いや、妹の技術を疑わずに活用してくれたのは君が最初だったからな。
 写真に収めた生物の急所をものの数秒で予想する事に疑問を持つ者が多かったが、
 セテ君やクク君、リリ君にヨヨさん…最も良く活かしてくれるのは、今は君や君のMAID達ぐらいだ。」
そう言われ手をがっしり握り合った。

手ぇでけえなぁ。半袖から飛び出した腕の太さとたくましさと言ったらないね。
妹と違って退路をこじ開ける手法を取り入れてる人だからだろうな…。
オイラもそこそこ体は鍛えてるけど、この人もまたすげぇ。
どっかの基地が倒壊した時に、がれきの下になったにもかかわらず、
自ら瓦礫をどけ、負傷した兵士やらなんやらを全員救出した事があるらしいんだもの。
パワフルでホットなソウルとバデーを兼ねそろえてんよ。
この人ならオイラの使う機関銃も普通に扱って戦えそうね。
(二階堂の)ゲンちゃんも機関銃を試し撃ちした事があるけど、
あの子はものの数秒で脱臼しちゃったしなぁ…。
幸い後日完治したけど、タフさって…大事なのね…。


「それにしても、なぜこんなとこに立ってたんすか?」
「うむ、君が担当していたMAIDの一人が俺の所に来た。」
アラキのみんなの中の誰かかぁ。心当たりは…あるんだかないんだか…。
殆ど世界各国で
「その子は、君とそろそろ合流したいというような事を口にしていてだ…。」
「!?」
後藤さんの話は途中っぽいが、
恐れ多くもとこからともなくの殺気を感じたために身を少し引いt

 ぅぐぁ


 …!おい!!しっかりするんだ!!」
はて、先程起きたばかりだというに、またしてもワタクシはすやすやしてしまったか。
「いや…まさか本当に命中するだなんて…。」
アタイを呼び覚まそうとなさっているのはおなごでありましょうか。
しかし、寝ようにもとんと眠気様が参られませぬ。
ただ、この地に身を伏すのもひとs
「えーい!とにかく起きなさい!!」
「はぎゅあッ!?」

今ッ!?我の天を地を裂く激痛が頭上よりッ!?

「っつー…。」
そのショックを知覚した甲斐あって、めでたく(瞼的意味で)開眼かつ身を起こす事が出来た。
間違いなく長物の銃で殴られた。頭蓋骨にひびが入ったんじゃねーかこれ。
まだ視界やら脳味噌やらがぐわんぐわんなっている…。あー、いってぇ…。
一番痛むのが右のこめかみ…?
「うわッ!?血!?」
触ったらなんか赤くてべとべとする水状のナニかが手に付いた!!
気持ち悪ッ!!何ぞ!?
「なに非殺傷染料弾頭を忘れちゃってるのよ!!」
誰よ!さもうんざりしているかのような言い方してんのは!!
「アンタね!対して綺麗でもないオイラの顔をかっ飛ばそうとしたのはッ!!」
「いつもは避けてたじゃないのアンタ」
ため息つかれた…。
「…よけること前提で撃つだなんてひどい…。」
何故ぶち当たってしまったんだろ。実弾だったら死んでいたな…。
「ボケ起こして鈍っちゃったのかしら。」
「藤十郎君、さっそくヌヌ君におちょくられるか。」
後藤さんの苦笑いがやるせない…。


髪の右の方を横結いしている群青色のまいどのヌヌ。
この子は狙撃がすごく得意なんだったな。
その腕前を買う人はいるらしいけど、この子は大きい組織の依頼を受けることはあっても、
組織に長い間居着くのを好まないんだよ。
流しの狙撃手とでもいえばいいのかしら。
あまりの優秀さに、他の組織に雇われるのを恐れて、この子の任務が済んだら始末しようとしたとこもあるほどだとか…。
まぁあくまで噂だけどね。噂。
もし本当だったら、この子よく今日まで生き延びられたねー。すごいなー。
用心暗殺とかしてそうに見えるけど…やってそう。
その狙撃手の商売道具である狙撃銃でオイラは殴られたに違いない。嗚呼、まだ頭が痛い。

「ヌヌ…」

「ところで、どうして突然オイラに会いに来るって何事なの?」
「プリンが食べたい。」
「やっぱりな…。」
「それは二番目なんだけどね。」
「プリンより大事な事って何よ!?言いなさいよ!!」
「籐十郎君落ち着くんだ。」
「一週間後にアルトメリア東部の湾岸都市で舞踏と器楽の祭典があるんだけど、そこの警備に行くのよ。」
「世界各国の著名なダンサーやミュージシャンが集まるあのフェスティバルか!
 祭典自体には特に決まった題名は決められてはいないが。」
「参加者や客をGから守るって事だよね?う~ん…。」
「神の兄もダンスで参加するらしいから気になっちゃったからさ。トウジュウもどうさ?」
「相撲の四股はダンスに含まれるか?」
「「否。」」
「…ちぇ。」
「君はあれをダンスだと思っていたのか…。民族舞踏の一つだと考えれば遠くもないが…なぁ…。
 しかし、舞台上で披露しても過半数の人間は唖然とするだろうな。」
「いや、出演者としてじゃなくて、私みたいに出演者の警護につくって事よ?」
「ヌヌの服のような物を着ろとな!?」
皮製のセミロングコートにミニスカート…!!
狙撃主のたしなみなのか!?これが!?
「ちッがーう!!しかもこれ私服だから!!
 トウジュウは自分にあった物を着なさい!!」
「そ、そうか…。」
考えてみたらミニスカートを履いて任務に付いているのを、
(神の)カズに見られたらワンパンチで奥歯を砕かれるだろうし…。
「しかし、Gから保護をするのが君の役割だというのはいいとして、藤十郎君はどうする?
 君(ヌヌ)は一撃で仕留めるからいいとして、さしもの彼でも、一撃ではGは止められないと思うが…。」
「トウジュウは主に人に集中すればいいでしょ。
 毎回、決まったダンサーに決まった集団が集るのよ、
 それで、そいつらを追っ払うために舞台照明の陰からそいつらを狙撃する手はずになってるのよ。」
「狙撃か…毎回相当な数を動員する祭典だから、人の切れ目は無いに等しい。
 誤射を起こそうものならパニックで済みそうにないと思うが…。」
「誤射をしないようにするしかない。
 それか、パニックにならないように祈るしかない…。」
「…大変だな…。」
「テヘヘ…。」
「トウジュウ、そこテレるところじゃない…。」


「ちょっと…。」
「どしたヌヌ?」
俺の後ろのほうにちょいと指をさしているが。
「こんな所に不釣り合いな格好の人ね、あの人…。」
一人の女性かー。
「あれは…ウェディングドレスか?」
「式場から抜け出したのかしら。それはそれでロマンティックかも!!」
「着替えも無いのかあの人。」
「そこは気にするところじゃないでしょ…。」
外国の挙式の事はほとんど知らんが、あんな感じのバカでかいスカートを履くと言うのは聞いた覚えがある。
でも、あんなにおっぱいの谷間を強調していいもんなのか?純粋にデケぇ。
大人の通過儀礼と言うだけあんのかな。鼻の下がいやがおうにものびんなコレ。
やべぇ、歩くたびに揺れているのがわかる!!
90間ぐらい(約164m)の距離だけどハッキリ見える!
ヌヌのは…(チラ見)。そこまででは…。
「トウジュウ…何か言いたいの?」
「いやまさかそんなあははははぁー。」

射殺す視線をオイラに向ける女の奥にいる男性が不思議そうな顔で言う。
「式場から抜け出したにしては、いささか落ち着きすぎている気もするが?」
「追っ手を振り切ったんじゃないかな?」
裏路地ながら見晴らしのいい地形で、身を隠す事も容易だし脇の小道も沢山あるだろうから、
潜伏とか強襲の可能性がかなり高いから、普通は慎重にかつビクビクしながら歩く人が多いんだけど…。
「やけに嬉しそうな顔でこっちに来てるんじゃない?」
「つーか、オイラを見てるんじゃね?」
「そうか?」
「ヌヌ、立ち位置交換してくれ。」
「え?」
突然の提案に呆気にとられたヌヌを持ち上げてとりあえず場所を交換してみたが…、
あぁ、間違いなくオイラを見つめてる…。
「や、やっぱりオイラをみてう…。」
「落ち着くんだ。」
「来たよ。」
「…なんか加速してね?」
赤嫁さんが突然走り出した!
「あのドレスを着たまま両手を振り上げダッシュしているが…。」
「は、速い!!」
身形からは考えられない地揺れが増している!!

その時
彼女の 顔を 見てしもうた

飢えた鹿の如き目で涎をだだ漏れさせておる顔が…!!
それは真紅の(っぽい)ドレスに吸われとる…。
己の唾を啜り尚紅い輝きを増してゆく(単にテカっているだけだとも思うが)

け、獣じゃ!!獣が野放しにされておるぞ!!

とうとう数間程にまで距離が縮まったと思った瞬間、彼女がオイラ目がけヘッドからダイビングを敢行して来た!!
我が生涯において前例の無い状況に対応が遅れた…。
押し倒される瞬間の衝撃に、大きい違和感を感じたが、
ドレス+体重×速度…いやまだなにかある!!
あぁ、でも何かを判断する前に地面に背が着いてしまった!!
ドレスの裾が地面に着いた時に、布ではない硬質的な物体がぶつかり合う鈍い音が聞こえた。
何故?ほうぁい?

そんなすぐ簡単に考えがつくわけない!!

「あぁ…麗しの籐十郎様とこのような地で巡り合う事が出来るだなんて…夢にも思いませんでした…。」
「へ?あ、いや、面識ありましたっけ?」
「籐十郎君…覚えは無いのか?あいたた…。」
よろけて尻餅をついた後藤さんがお尻をさすっているのが見えた。
「い、いやぁ、全く身にも覚えが無いんでうが…。」
存じません。全く存じません。
名も知らぬドレス姿の女性に乗られ、参ったな頭ん中漂白されたように真っ白だよ。
これが洗脳ですか。わかりました。
気が付いた時には抱きつかれてしまっていたから手のほどこしようが無い。
彼女の胸部のソレは…ダメだ、オイラの胸板では判別できない。

「これが私を目覚めさせる香り…。」
いきなりオイラの胸に顔を埋めてきた。
こんな事したのはオイラの生涯でお袋、智代ちゃんに続いて三人目だ。ホントに何者よ、アナタ。
ぷぅんと化粧品の香りが漂ってきた。(お袋が五年前使ってたのと全くおんなじの匂い…。)
後藤さん、無表情でオイラ達を撮影しないでください。
妹さんのように嬉々と撮影してくれる方がまだ気が楽になれるんですが。
助けを請うために当たりを見ると、ヌヌが壁から自分の上半身を抜き取ったのが見えた。
ふらついてるけど…まぁ、怒った目つきになるわなそりゃ。

「もう離れない、離さない!!」
なんだか彼女の抱き付きが締め付けに強化されてるっぽいんだけど。
「いでっでででで離してぇぇぇ!!」
胸骨が締め上げられたのか!?心臓付近に激痛がぁァ!!
「あっがぁあーー離してぇェ!!」
だめだ!なんかブツブツつぶやいていてオイラの声がちっとも耳に入ってないみたい!!
腕ががっちりホールドされて、足は謎の重量に押さえられてぴくりとしか動かない。
見た瞬間に怪しさがプンプンしてたが、これではっきりした!
間違いない!この子は「まいど」だ!!
「まずい!離すんだ!!」
「あぁっ…!?」
後藤さんの叫びでお嫁まいどがすっとんだ!?
「あんの女ぁ、私を飛ばし退けてたわ…!!」
「ヌヌ…助かった…。」
「廃棄された木材の山に突っ込んでしまったのは不幸だが、煉瓦にぶち当たるよかはましだろうか…。」
「私はともかくトウジュウこそ大丈夫?ミシミシ聞こえてたけど…。」
「まだ骨に弾力性があるから大丈夫だと思う。」
両肩を回し胸を反らせて見たけど、開放されて臓器に傷がつく心配は無くなったな。多分。
「それも心配だが、ヌヌ君、きみは彼女を殴り飛ばしはしなかったか…?」
「ん?あ、え?」
その手にしっかと握られている狙撃銃を見て、あれ?と言いたげな顔になってるけど、
キミ、銃床をガッツリ彼女の右顎にぶち込んでたぞ…。

「しょ、初対面の人に一撃を見舞うなんてどんな神経をしてらっしゃるの!?」
殴られたほうの頬を押さえながら叫ぶ。
「死んだ目で相手の上半身をつぶしかけた人が言えるセリフ?それ。」
オイラ自身、おにゃのこが好きで好みだと思った時はそれなりににやけっ面にはなるけど、
この子…全身の質量を無視して宙に浮くんじゃないかと思うほど、
とろ~りとした笑みを顔面いっぱいに満たしてた…。
正直、初めて殺傷以外での身の危険を初めて感じた気がする。
今は打撲と痛みで悲しげな歪みが出来上がってしまってる…。
「オ、オイラの子が飛んだプレーンを…。今治療を…。」
「それは後ほど。」
や、やっべぇ、落ち着いてはいるがキレた口調ジャマイカ。
「で、でも手当てぐらいはしないと今後の活動に影響が…。」
両者ケンカ腰だけど、コワいからやめて…。
「不届き者を沈めた後にしてくださいませ…!!」
って、スカートの後ろ側になんで手を突っ込みました?
「籐十郎様と私の間を裂く者を、粉砕致します…!!」
「へ?え、ちょま」
そう言うなり、オイラのとは違う型の銃機関銃を両手に一丁ずつ取り出して、
さらに両肩にロケット砲、それも二連装のを搭載しちゃったよ!!
ああ…もうダメ…。
(ご、後藤さんッ!!避難するよろし!!)
(了解。)
どう考えても人間一人に対して使う火力じゃないぞこれ!!
つーか、まいどでも一人でこんなに運用するなんていう話は聞いた事ないんですが!?
この集中砲火を喰らったら人間とかGとかまいどとか関係無し、問答無用で破砕される。あぁ、そりゃ確実なくらいに。

「ぬnぉぁッ!?」
ヌヌに退避、抵抗、土下座のどれをさせりゃいいんだか考えていたら、
ファリアちゃんのロケット砲の片方が爆発して、間髪いれずにもう一方の砲身も炸裂を起こした。
彼女が膝を付いてゆっくりと後ろに反って崩れる様は、黒百合ちゃんの能力と何かが似通った恐ろしさを感じる。
「ヌヌ君がロケット弾を撃ち抜いたのだろうか?
 彼女が発砲したのが見えたが。」
「あの剣幕からしてやらなきゃやられそうな感じだったからやっといた。
 ユッケになるのはまだごめんよ。」
「よせやい。」
彼女は深い溜め息をついて狙撃銃のボルトを操作して安全装置をかけた。
「当のランチャーの所有者だが、目を回してしまっているようだな。」
「気絶で済んだ…ってことでいいのコレ?」
煙を垂れ流している筒を肩に付けたまま目を回している女を覗き込みながらオイラが尋ねられた。
ランチャーを肩に乗せるためのクッションの部分に、片仮名で「ファリア」と書いてあるお名前シールが貼られていた。
持ち主であるこの子の名前なんだろうか?
「見た限り…損傷は無いように見えるが…ふぅ…これはお医者さんに見て貰った方がいいかも。」
視認出来ない傷害はお手上げだ。聴覚の神経はオイラにゃ治療できない。
銃創の治療が…精一杯だよ…。

「この状況でそれで済んでしまっている事に限らず疑問は多々あるが…。」
「これって、私が悪かったのかな…。」
ヌヌの口元が引きつっている。
彼女のやった事を否定するとオイラの上半身はスポンジ絞りされてたわけだし、
しかし、よその…誰の子なのかわかんないけど、勝手に銃器を壊すのもどうかなぁ…。
ヌヌが危機と判断して壊したのは解るけど…うーぬ…。
砲身の損傷は大した事は無いか。
車内の修理用品を使えば直せるッぽいな。
壊れたまんま返すと訴えられるんだろうなぁ。絶対。
どこか腰を据えられる場所があればそれが一番だけど…どうすっかな…。

「とにかく、ここでグズグズするのは得策じゃあない。
 この周辺の住人は好戦的な者が…」
「おい!こっちだ!!」
バイクのエンジン音が一つ、二つ、いやそれ以上か!!
怒鳴り声も混ざって聞こえる。
「ああぁ…やっかいな事になりそうだ…。」
「ここから離れたほうがいいわ!!」
自らが張り倒したまいどを座席に押し込みながらヌヌが叫んだ。
「そ、そうだ!オイラのまいどが働いている店がある!そこに向かおう!!」
「店の名前は?」
「えー…(確認)…『べあ たっち』だ!!」
「bear touch…衣類の販売・修繕等を執り行う店か。」
「行ってみましょ。」
「おし、飛ばすぞ!!」
「いやぁー!!」
「ど、どうした!?」
車のエンジンが…歓喜の声をあげている…!!
「始まるわ…地獄のドライブが…!!」

「移動の手段に恐れは抱かない。それが記者魂<ジャーナリスト・スピリッツ>」


 


関連項目

最終更新:2010年02月14日 21:29
ツールボックス

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