「実験部隊」

(投稿者:ししゃも)







「対G研究所まで残り二キロ。それと、同研究所にエターナルコアの反応が一つあります」
 荒地を駆け抜けるジープに、四人のMAIDが乗っていた。運転席にはズィーが座り、助手席にはパニッシャーがMP40を構えている。後部座席には狙撃銃を持ったストレイトとSTG45を抱えているヴィレッタが周囲に異変が無いか見回していた。
 パニッシャーは、エターナルコアのエネルギーを利用して「会話」を伝導しているアドネイターの報告に首をかしげる。
「エターナルコアの反応だと」
「はい、そうです。恐らく、研究所を護衛していたMAIDでしょうか。作戦本部からは特務SS所属、エリルスの反応だと」
 単なる思い過ごしか、といわんばかりの表情のパニッシャーはMP40のコッキング動作を済ませた。それに倣ってヴィレッタもSTG45のコッキングを行い、初弾をチェンバーに送り込む。彼女の視線の先は、高い塀に囲まれた対G研究所に向けられていた。
「ズィー、ここで止めろ」
 対G研究所の正面ゲート手前で、パニッシャーは車両を停止させるようにズィーへ指示を送る。ギニーピッグを乗せた車両は、不気味な静けさを保った対G研究所を前に、誰もが一言も声を発しなかった。
「二組に分かれるぞ。ズィーとヴィレッタは正面から。私とストレイトは裏口から回る。各自、状況はアドネイターに知らせろ。いいな」
 真っ先に車両から飛び降りたパニッシャーは部隊に指示を出すと、そのまま早歩きで対G研究所の外周を回りながら、裏口へ向かう。その後ろをストレイトが追いかけた。
「行くよ」
 腰に四十五口径マグナムをぶら下げたズィーは両手の関節を鳴らしながら、正面ゲートを潜ろうと歩き出した。



M.A.I.D.ORIGIN's Part II 第一話「実験部隊」



「不気味なぐらいに静かだね」
 内部はさほど広くは無かった。ヴィレッタは同施設の縮図を事前に把握しており、ここが何処なのか、そして職員が避難していそうな場所も目星がついている。通路の壁に寄り添うようにして、ズィーとヴィレッタは慎重に進んでいた。
「パニッシャーより、ズィーへ。裏口から進入したが、職員及びGの気配は感じられない。ストレイトによると、瘴気の匂いも感じられないらしい」
「ってことは、Gは早々に撤退したと」
「まだ分からない。アドネイターによると、私たち以外のコア反応を感知している。ズィー、地下を調べてくれ。私たちはこのまま上階を調べる」
「了解」とズィーは応答し、後ろに居るヴィレッタに手合図で「ついてこい」と指示を送った。すぐに地下へと続く階段を見つけ、慎重に降りて行く。地下の中はちゃんと換気をしていないのか、湿気が溜まっていた。なんともいえない不快感がヴィレッタを包む。それは、ズィーも一緒だった。
 地下階は一層だけ。もしこの場所に誰かが居なければ、残るは上の階になる。だがパニッシャーからはそのような情報は入らず、ヴィレッタの不安は募るばかりだった。
「荒らされた形跡はあるな。目標は近いかもしれない」
 地下階のオフィスに散乱した書類や机を見て、ズィーは持論を述べる。ヴィレッタはそれに異議を唱えなかった。
 部屋の隅の個室。もうそこしか残されていなかった。扉の左右にズィーとヴィレッタが各々の得物を構えたまま、待機。ズィーはパニッシャーと連絡を取りながら、突入の時を待ちわびていた。
「そちらの状況は把握した。突入を許可する」
 パニッシャーからの返事。ズィーは無言でヴィレッタに「お前が扉を開けろ。私が突入する」と手合図を送る。ヴィレッタはそれを理解し、ドアノブに手をかけた。
 勢いよくヴィレッタは扉を開けると同時に、間髪を容れずにズィーの巨体が軽快な動作で部屋に突入。ヴィレッタはズィーを援護するため、すぐに部屋へ入った。
 しかし目の前には、ズィーの背中が立ちふさがっていた。勢いづけて飛び出したせいか、ヴィレッタは止まることもできず、そのままズィーの背中へ激突。
「痛っ」
 ズィーの背中に鼻を打ちつけたヴィレッタは思わず声を挙げてしまう。そして微動だにしないズィーの背中から顔を出してみると、薄暗い室内の隅に白衣を羽織った集団が縮こまっていた。
「ズィー、ヴィレッタ。何があった」
 こちらの異変にパニッシャーは気がつき、報告を求める。
「隊長、職員は無事です」
 こちらをGだと思っていたのか、戦慄していた職員たちは安堵の表情を浮かべている。ヴィレッタは現状の報告を聞くために、ズィーの背中から回り込んで集団に向かった。
「了解した。こちらはGと遭遇していない。職員に現状の報告を聞いた後、こちらへ通信をしてくれ。以上だ」
 そこでパニッシャーからの通信が終了する。ズィーは職員たちに向かったヴィレッタの後ろに付くと、周囲を警戒する。
「助かりました。MAIDの方ですね」
 集団の名から、メガネをかけた女性が一歩前へと出てくると、近づいてきたヴィレッタに話しかける。怯えている職員たちの中で、彼女だけは冷静さを保っているようにヴィレッタは見えた。
「ノイワール野営陣地から救援に参りました、ヴィレッタ軍曹であります。ご無事で何より」
「対G研究所の主任を勤めるメレンスです。助かったわ、ヴィレッタ軍曹」
 二人はお互いに自己紹介を済ませる。ズィーは何も言わず、ただ二人の会話を眺めているだけだった。
「それで、今の状況を説明してもらいたいのですが
「Gに襲撃された。それもかなり特殊なGだったわ」
「特殊なGですか」
 メレンスの言葉にヴィレッタは復唱してしまう。特殊なGというフレーズに興味を持ったのか、ズィーが近づいた。」
「瘴気を発生しないGと言いましょうか。どういった種族のものか確認できませんが、二足歩行だったから、恐らくウォーリア級だと思う」 
 ストレイトが瘴気を感じなかったことに、ヴィレッタは合点がいった。その疑問が晴れると、もう一つの疑問が脳裏を過ぎった。
「ちなみに、護衛していたMAIDは」
 アドネイターが感知していたエターナルコアの反応――この研究所を護衛していた特務SS所属のMAID、エリルスの安否をヴィレッタは尋ねる。
 彼女の問いにメレンスは目を伏せ、首を横に振った。ヴィレッタはそれ以上、エリルスについて言及するのをやめた。恐らく、エリルスたちを助けるために命を賭してGと交戦したのだろう。
(エリルスの死亡。それは、つまり)
 研究所に入る手前から反応していたエターナルコアの反応。研究所が襲撃されて約二時間が経過したときのことだ。恐らく一時間かその半分の間、この場所へメレンスたちが退避したと計算して――エリルスは恐らく襲撃されたと同時に、あるいは数十分後に死亡したとヴィレッタは逆算する。
 ギニーピッグが研究所に到達したとき、既に彼女は死亡していた。つまり、彼女のコア反応をアドネイターが感知することは絶対に無い。
「パニッシャー隊長、エリルスの死亡を確認。しかし、所属不明のコア反応が一つ」 
 ヴィレッタとエリルスの会話から事情を察したアドネイターが、切羽詰った声でパニッシャーに連絡する。それに続いて、ズィーとヴィレッタが「最悪な敵」に備えようと、得物に手を伸ばした。
 そのとき、出入り口のドアに近い壁が破壊された。圧倒的なパワーによってコンクリートの壁が粉砕され、灰色の粉塵を室内に撒き散らす。
 ヴィレッタは踵を返し、メレンスを庇うように前へ立った。
 次第に薄れていく煙から緑色に輝く二つの目が垣間見えた。徐々にそのシエルットが露になる。ズィーと同等の身長。左右に分かれ、丸太のように太く長い四つの腕。脚の関節が逆方向に折れ曲がっており、それらの外見的特長は人体の構造を無視していた。
「プロトファスマ」
 Gの種類の一つである名前をメレンスは怯える口調で言った。ヴィレッタとズィーは表情こそおくびに出さなかったが、心の内では絶望的な状況に置かれていると確認する。
 プロトファスマ。Gがエターナルコアを取り込み、突然変異した種族。個体数は少ないものの、その力は圧倒的で「最強のG」と称されるほど。MAIDといえど、プロトファスマと渡り合える者は少ない。ズィーはともかく、ヴィレッタはプロトファスマと戦って生き残れるという自信は皆無だった。
「ウォオオオオオオオオオオオオオオ」
 プロトファスマは首を動かしながら咆哮をあげた。メレンスは尻餅を突くと、そのままヴィレッタから離れる。そして彼女を含めた職員たちはプロトファスマの咆哮に耐え切れず、耳を塞いでしまう。ヴィレッタとズィーはそれを我慢し、銃を構えた。
 だがヴィレッタは初めて見るプロトファスマに圧倒され、身じろぎしてしまう。その一瞬の隙をプロトファスマは見逃さなかった。
「えっ」
 瞬間移動と言うべきスピードで、プロトファスマがヴィレッタの眼前に接近。移動するときの予備動作を見逃さなければ、ヴィレッタでも対処できた。だが彼女は目の前の敵に対して萎縮し、失態を犯してしまう。
 そうこうしているうちにプロトファスマの右腕が横殴りにヴィレッタへ襲い掛かった。彼女はそれをしゃがむことで回避し、お返しとばかりにMP40のトリガーを引いた。
 ほぼゼロ距離での射撃。銃弾はプロトファスマの肉体に命中するものの、決定的なダメージを与えているとは思わなかった。その証拠にプロトファスマは痛がる動作をせず、顔をヴィレッタに近づけた。
 プロトファスマの不気味な顔がヴィレッタの視界を覆う。しかし、ズィーの掛け声と同時に銃声が鳴り響き、プロトファスマはヴィレッタから離れる。
「ちっ、外したか。無事かい」
「ええ、なんとか」
 態勢を立て直したヴィレッタはズィーの隣へ寄り添うと、マグナム弾を回避したプロトファスマにMP40の銃口を構える。プロトファスマは、自身が破壊した壁に近い位置へと立っており、逃走経路は確保している。ヴィレッタにしても、ズィーにしても、ここはプロトファスマに退却してもらうのが好ましいと思っていた。
「メードめ」
 犬が唸るような重低音の中、プロトファスマの口から言葉が発せられる。それは明瞭に聞き取りづらいものの、確かにプロトファスマは「メードめ」という言葉を口にした。
「ワタシの邪魔をするな」
 プロトファスマは捨て台詞を吐くと、もう一つの出入り口に向かって走り出した。ヴィレッタは瘴気こそ感じないものの、プロトファスマから発せられるプレッシャーが段々遠ざかっているのを確認。それが完全に消えると、深呼吸をして呼吸を整える。
 程となくして、パニッシャーとストレイトがヴィレッタたちと合流した。



 MAIDは死して尚、その身体にエターナルコアを宿している。死んだMAIDは二度と生き返らない。しかし、エターナルコアは物理的に破壊されない限り、その効力を失わない。
「回収、ですか」
「そうだ。MAIDおよびMALEの死亡が確認された場合、その遺体を回収し所属国へ送還することが義務付けられている」
 パニッシャーの背中を追うように歩くヴィレッタの手には、大人一人が収納できるジッパー式バックの取っ手を握っていた。
 二人はメレンス博士から事情を聞きだし、エリルスが死亡したとされる場所へ向かっていた。三階のオフィスルーム。そこが、プロトファスマによって殺されたエリルスの遺体がある場所。
 ズィーとストレイトは職員たちの護衛のため、待機。パニッシャーとヴィレッタが「回収」の任務に就いた。
「こちら、アドネイター。『リモートホスト』の活動限界になりました」
 ヴィレッタの頭の裏側から囁くようにアドネイターからの通信が入る。そのなんともいえない感触に慣れないヴィレッタは口元を歪ませる。
「了解。回復したら伝えてくれ。それまでは上空を視察。何かあったら無線で連絡を」
「分かりました。失礼します」
 アドネイターは成層圏に限りなく近い場所で活動しており、瘴炉によって発達した視力によって高高度偵察機の役目を果たしている。彼女の能力「リモートホスト」はエターナルコアを媒体とした対象を捕捉したり、無線機を経由せずに通信が可能であった。しかしその能力は時間制限があり、一定時間以上の行使はアドネイターの崩壊を招く。
 ヴィレッタはアドネイターのリモートホストによって囁かれた「自己紹介」を思い出しながら、パニッシャーの後を追った。
「ここだな」
 オフィスルームに通じるドアの手前に辿りついたパニッシャーは立ち止まると、そのままドアノブに手をかけた。研究所内の電気供給があのプロトファスマによって破壊されており、室内は暗い。
 催促するよりも早くヴィレッタはジッポライターを取り出し、パニッシャーに手渡す。そして暗闇のオフィスルームに僅かながらの灯りが点された。
 職員たちの作業机や椅子がそこかしらに散らばっており、パニッシャーたちはそれらを大股で潜り抜けながら歩く。時々、空薬莢が転がる金属音が室内に響いた。
 ここでエリルスが戦っていた。ヴィレッタは心の中で、彼女があのプロトファスマと絶望的で孤独な戦闘を繰り広げていたと思い、胸が傷む。
「プロトファスマめ。酷いことしやがる」
 ヴィレッタの前を歩いていたパニッシャーは立ち止まるなり、感情に身を任せた言葉を言った。ヴィレッタはそんなパニッシャーの背中越しに、ライターの火で照らされるエリルスの悲惨な死体が数メートル先に見た。
 彼女は壁に凭れながら絶命しており、自身の血でメード服が赤黒く染められている。さらに右腕が引き千切られており、血肉がこびり付いた肩の骨が枝葉のように突き出していた。そして腹部には大きな穴がぽっかりと開いている。それは間違いなくプロトファスマの拳が貫通した証拠であり、その一撃でエリルスが絶命したといっても過言ではない。
「ズィー、エリルスの遺体を確認した。が、遺体の損傷が激しい。ストレイトを残してこっちに来てくれないか。後、照明器具を三人分用意してくれ」
 青ざめた顔色のヴィレッタを尻目に、パニッシャーは無線機を使ってズィーと連絡を取る。
「隊長、すみません」
 何かを堪えているヴィレッタは前屈みの姿勢でパニッシャーに懇願する。何を懇願しているのか瞬時に分かったパニッシャーはヴィレッタの背中を擦りながら、彼女を遺体から離れるように部屋の隅へ引き連れた。
 ある程度、遺体から離れたヴィレッタは倒れこむように両手を床に付け、吐瀉物を吐き散らす。その間にパニッシャーは、ズィーに水筒を持って来させるように指示を出した。
「すみません」
 吐き出すものを吐き出したヴィレッタは申し訳ない口調で平謝りをする。パニッシャーは何も言わず、そっとヴィレッタの背中を擦っていた。
「へっへへへ。お嬢ちゃん、そんなんじゃこの先思いやられるよぉ」
 突如、しゃがれた老婆の声が室内に響いた。ヴィレッタとパニッシャーは声の主に全くの面識がない。パニッシャーはSTG45のセーフティを解除し、素早く身構える。ヴィレッタは口元に付着した吐瀉物の残りを袖で拭き取りながら、腰に帯びている拳銃を抜き取った。
「おやおや。そんな物騒のものを構えないでおくれよ」
「君が敵ではないとしたら、まずはその姿を見せるべきではないのか」
 一歩も引き下がらない口調のパニッシャーは左右の腕を交差させながら、STG45と火が点ったジッポライターを構える。だが、パニッシャーには相手が見えなかった。暗闇という空間という単純な理由で見えないからではない。室内に居るという感覚を感じるものの、まるで透明人間かのように相手は姿を消していた。
「私の姿が見えないのかねぇ。そりゃ結構」
 こちらの考えていることを見透かしているように老婆の声がけらけらと笑う。
 笑い声が納まった後、エリルスの手前。まるで擬態したカメレオンが本来の色に戻ったかのように、何もない空間からフードを被った何かが姿を現した。身長が150センチあるかないかぐらいの、ローブのような一体型の服を着た謎の人物。ヴィレッタをそれを狙い撃とうとすが、パニッシャーはそれを制する。
「ひっひひひ。そう怖い顔しなさんな、お嬢さんがた」
 老婆の声は身体を震わせながら笑い、目深に被ったフードから顔を出した。
 ライターの火で照らされる、白い包帯で二重三重に巻かれた顔。不気味に大きく見開いた両目が唯一、その人物が人間であることを照明していた。
「あっしの名はスカベンジャー。しがないMAIDでござんす」
 けっけけけ、と自分を名乗ったMAID――スカベンジャーは顔と同じように包帯が巻かれ、肌が露出してない右腕をエリルスに突き出した。
「何をするのだ」
「そりゃ見てからのお楽しみですわ」
 STG45の照準を自身に合わせたパニッシャーに対し、スカベンジャーは包帯で巻かれた左腕で「待った」のポーズを取る。直後、エリルスに向けられているスカベンジャーの右手から赤黒い炎が発光し、暗闇の室内に禍々しい光を与えた。圧倒されたヴィレッタは両手を使って、光を遮る。
 パニッシャーは目を細くし、スカベンジャーを睨みつける。
「あっしは死んだMAIDのコアを回収することが仕事なんでね」
 息絶えたエリルスの胸から十字の形をした宝石――エターナルコアが抽出される。MAIDが、MAIDたる由縁の結晶。
 眩い光を放つエターナルコアはスカベンジャーの右手へ吸い寄せられ、彼女はそれを握り締める。すると赤黒い光が弱まり、室内は元の暗闇へ戻った。
「そこを動くな」
 パニッシャーの怒号。それに続いてヴィレッタもスカベンジャーに拳銃の銃口を再度、向ける。
 エリルスのコアを抜き取ったスカベンジャーに、パニッシャーは怒りを堪え切れなかった。ヴィレッタも同様に歯軋りをしながら拳銃のトリガーを引こうとしている。なぜエターナルコアを抜き取ったことでパニッシャーたちは怒りを抑えられないか理解できない。上手く表現できないが、スカベンジャーの行動は墓荒らしであり、死者を冒涜していた。
「穏やかじゃないねぇ」 
「エリルスのコアを床に置け。その後、両手を上げて跪くんだ」
 明確な敵意がこもったパニッシャーはスカベンジャーに命令を促す。
「もし命令に従わなかった場合、発砲を辞さない」
 トリガーに指をかけ、威圧感を与えるパニッシャーに対しスカベンジャーはタチの悪い冗談を聞いたかのようにしゃがれた声で笑うだけだった。それに見かねたヴィレッタが威嚇発砲をしようとする。
「スカベンジャー、お遊びも程々にしておかないとな」
 パニッシャー、ヴィレッタ、スカベンジャー。この三人ではない、別の女性の声が聞こえた。それはスカベンジャーの右側、部屋の隅から。靴底が床に当たる音が静まり返った室内に響き、パニッシャーたちに向かっているのが分かった。
 パニッシャーはその方向にライターの火を向ける。
「私のMAIDが粗相をしたようだね。すまない」
 暗闇から姿を現したのは、白衣を着た長身の女性。腰まで届く長い茶髪。そして、感情を失ったかのように気力のない表情をしていた。
 出入り口が一つしかないオフィスルームで、スカベンジャーと同じように突然現れた女性にパニッシャーとヴィレッタは強い警戒心を抱く。しかし女性は二人のプレッシャーを感じていないのか、身じろぎをしない。
「自己紹介をしよう。私の名はアドルフ・ガブリエーレ。EARTH直属のMAID技師だ」
 長身の女性、アドルフ・ガブリエーレは淡々と自己紹介を済ませた。






最終更新:2011年07月23日 01:08
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