こちら白竜工業対G兵装開発特務課!! 黒雷に刻まれし記憶

(投稿者:天竜)

「竜式ッ!下がるなら、お前も…!」

 それは、約一年半ほど前の話だ…。
 黒い雷を纏った剣を携えた、三メートル強の巨大な黒い鎧が、グレートウォール山脈で戦っていた。

「いや、俺はここで奴等を食い止める!」

 それは、その姿、構造共にメードと分類するには明らかにお粗末なものだった。
 しかし、その力はお粗末と言うには余りに強く、そうあざ笑った人間を黙らせていた。

「しかしっ!」

『竜式』という名前をもったそれは、『最強』と呼ばれた少女を守ると誓った。

「早く行け!俺と違ってお前さんは、人類全体の希望だ…その命、ここで失われるにはあまりに惜しい!!」

 何故彼がそう誓ったのか、今となってはそれを知る者はいない。彼にしか分からないだろう。

「竜式…!」

 しかし、一つだけ分かる事がある。

「へへっ…俺は、いつでもお前の傍にいる、必ず、帰ってくるからよ…!!」

 彼は、その誓いをその命を賭して守り抜き、

「だから」

 その少女の命を、救ったということだ。


「今度会えたら、一緒に酒でも飲もうぜ…!」


 それが、彼の最期の言葉。
 彼は機械だ、酒など飲める訳もない。
 それでも、彼はそう言った。

 重々しい金属音を立てて、それは駆け出した。
 戦場の爆音と、その金属音は全く違和感無く重なり、そのまま戦場へと消えていった…。

 彼の戦いを、一体誰が見ていたのだろうか?
 これは、知られざる、彼の戦いの真実の記録である。


こちら白竜工業対G兵装開発特務課!! 黒雷に刻まれし記憶



 数多のワモン級の中心で、竜式は自らの力を振るっていた。
 上層部の戦力の読み違いで、ジークフリートが孤立した、
 幾らジークフリートでも、彼我戦力差があまりに大きい。

 一方、竜式はグレートウォール戦線に待機していた。

 報を受けた竜式は、出撃を自ら社長に進言したのだ。

 社長は、彼の心を理解し、出撃を許可した。
 それが、当時窮地に立たされていた白竜工業を倒産に追い込む可能性がある事を、覚悟で。
 そして、部下達も、満場一致でそれを認めたのだ。

 竜式は、単騎で前線を突破し、ジークフリートの退路を確保した。
 そして、時間を稼ぐべく、そこに残ったのだった。
「へへっ…俺を、この竜式をなめるなよ…!!」
 竜式の眼に当たる部分に灯った紅の光が、一際強く輝く。
「ふんぬあああああああっ!!」
 左手が、一体のワモンを掴み、別なワモンに叩きつける。
 右腕が振り下ろした剣が、二匹のワモンをまとめて一刀両断にする。
「まだまだァ!!」
 横薙ぎに振るわれた剣が、周囲にいるワモンをバラバラに吹き飛ばす。
 背後から突進してきたワモンを踏みつける。もちろん、鎧であるが故に竜式は重い。
 グシャッという音と共に、ワモンは圧壊する。
 次の瞬間、竜式の前に立ち塞がったのは、ウォーリア級だった。四体ほどいる。
「ウォーリア級か…止められると思ってんじゃ…ねェぞ!!」
 竜式は突進してきた一体に剣を振り下ろす。
 ウォーリア級が、その重い斬撃に耐え切れずに真っ二つになる。
 背後から、もう一体が襲い掛かる。
「ぬんっ!」
 左腕の拳を、ウォーリアの腹部に捻じ込む。
 拳は、ウォーリアを貫いた。
「左右か…なんのこれしき!!」
 左右から同時に襲い掛かった二体を、身体で受け止める。
「ぬううううううううっ!!」
 そして、体当たりで強引に突破する。
 次の瞬間、振り向き様に振るわれた剣で、二体のウォーリアは上下に真っ二つになった。

「セオリーで行けば…次は…!!」
 ワモンを文字通り蹴散らしながら、竜式は近づく『何か』に気付いた。
シザースかッ!!」

 突進してくる『それ』を竜式は受け止める。
 しかし、『それ』は竜式の予想したものではなかった、いや、予想を超えたものだった。
 確かに、クワガタ状の顎、その甲殻、紛れも無く、『シザース』ではある。
 しかし、その剣のような顎は、二つ噛み合って本当の意味で剣となり、竜式を貫いていた。
「ぐ…この感じ…スポーン、か…!」
 竜式が突進してきたそのGを睨む。
 その茶色の甲殻は通常のそれよりも鋭角化しており、四足で歩行、残りの二本は刃のようになっている。
 そして何より、竜式を貫いたその『剣』が特徴的だ。槍、とも取れるが、その形状は紛れも無く剣のそれだった。

 竜式が負った損傷は決して小さくは無い、だが、
「…まだ、動ける!」
 竜式はそれを確認し、そのGを引き抜いて投げ飛ばす。
「ヘヘッ…生きて帰れないとは、思ってたが…
 思った以上の大物…運命って奴は、思った以上に面白いじゃねェか…!」

 竜式は、再びそのGに向けて剣を構える。
「時間稼ぎも十分…最期の相手はコイツか…ヘッ、悪くねェ。
 白竜工業対G兵装開発特務課、黒雷の機士、竜式…推して参る!!」
 竜式のその言葉に応えるように、竜式の剣から黒い雷が開放され、放出され始める。
 敵がそれに応えるように突進の体勢に入る。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
 竜式と敵が交差する。
 竜式の左腕が飛び、敵の腕の刃の一本が落ちた。
「まだまだァ!!」
 竜式は再び反転し、まだ体勢を整えていない敵に斬りかかる。
 敵が頭部の顎を剣にしてそれと切り結ぶ。
「ぐうううっ…テメェもたいした馬鹿力じゃねえか…だが!」
 竜式は、剣を強引に振りぬいた。
 敵は、切り結ぶ事が想定されていない事は姿勢的に明らかだ。
 読みどおり、敵は、吹っ飛ばされる。

 背後からワモンが迫る。
「邪魔だ、どけ!!」
 迫ったワモンを踏みつけ、そのまま駆け出す。
 敵も、突進の体制を整え、再び交差する。
「ぐおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
 竜式が、致命傷を負う。
 動力源の片方を担う、蒸気機関の基部をぶち抜かれていた。
 エターナルコアの動力の単独稼動でどれだけ動けるかは未知数であり、必要な出力も確保できないだろう。

 しかし、敵も剣の顎にヒビが入っている。もし、次の一撃を叩き込むことが出来れば、相討ちに持ち込めるかもしれない。
「もう一撃…持ってくれ…頼む!!」
 装甲の欠損で、エターナルコアの光が装甲の外に漏れている。
 その光は、いつもよりも一際強かった。
 まるで、その誇り高き最期を飾れと、竜式に力を貸しているかのようだ。

 竜式は、剣を構えた。
「…行くぜ!!」
 竜式は、敵に突進した。
 敵もそれに応え、最後の一撃を繰り出した。

 そして、一撃が、交差した…。

 敵の頭部の剣の顎の一方が砕け、竜式の剣は敵に深い傷を創っていた。
「………」
 敵が、転進する。止めを刺すには、至っていない。
 しかし、どうやら傷は敵の許容範囲を超えたらしい。

 ワモンもそれに連なるようにして退いて行った。

 竜式が、残った。

「ヘ、ヘヘ…倒せはしなかったが、どうやら『勝った』らしいな…」
 竜式の眼の紅の光が、かすかに笑った気がした。

「…おっしゃああああああああああああああああああ!!!!!」

 竜式が、勝利の雄叫びを上げる。
 そして、その直後、竜式の眼の光は、静かに消えた。

 その後、Gが撤退した戦線の調査隊は、その中央で立ったまま機能を停止している竜式を回収してきた。

 そしてジークフリートを単騎で救出したその功績がエントリヒ皇帝の眼に留まり、白竜工業はエントリヒに居を移すことになった。
 白竜工業も、倒産を回避できたのだ。

 そして…


 エントリヒ帝国首都ニーベルンゲの片隅には、ひっそりと、そして、明らかに異質な存在感を放つ町工場が存在する…。
 その名は、白竜工業。
 かつて楼蘭に居を置いていた、気難しい職人達の溜まり場…。

 その更に奥に、黒板と円形の机が存在する部屋がある。
「社長、何ボーっとしてるの?」
メイド服の黒髪少女が、奥に座っている白髪交じりの青年に尋ねる。
「ああ、ディナか…いや、お前が生まれる前の戦いを思い出していたのさ。会社が大分ピンチだった頃の、な」
青年が、笑顔で答える。そう、彼こそ、この白竜工業の若き社長、白竜獅遠である。
「私が生まれる前って言ったら…竜式がいた頃?」
「ああ、そうだ」
「私の剣も竜式のお古なんだよね…新調する事も出来たのに、物好きだね」

少女が屈託の無い笑顔で言う。

「けど」

少女は続ける。

「…それは、私が私である理由の気がするよ」

少女は静かに、そう言った。

「ん?」
獅遠が聞き返す。
「いや、何でもない」

少女の名はディナギア
竜式の『魂』、エターナルコアを持つメード。

彼女はまだそれを知らない。

しかし、彼女は竜式のもう一つの魂である剣を携え、戦場を駆け抜ける。
その姿は、竜式が帰ってきたかのようだった…。



 一つだけ分かる事がある。


「…俺は、いつでもお前の傍にいる、必ず、帰ってくるからよ…!!」


 彼は、その誓いをその命を賭して守り抜き、


「だから」


 今もその少女の傍にいるのである。


「今度会えたら、一緒に酒でも飲もうぜ…!」




To be Continued...


あとがき

まず最初に、ミリタリー期待してた人、申し訳ありません。
俺にミリタリー路線は無理です。せいぜいこんなのが限界です(爆)
戦闘がしょぼくて申し訳ありません。今の俺にはこれが限界です。
しかし、白竜工業でシリアス、書けるもんですね、書いてみたら意外とww
無茶苦茶熱血路線ですた(汗)
では、また。

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最終更新:2008年11月08日 22:23
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