(投稿者:天竜)
今日も、朝日が昇る。
人類の戦いの歴史、今の人類とGとの戦い、全てを見続けてきた光…。
変わらずこの星を照らし続けてきた光…
それをバックに、凄まじい速度で平原を疾駆するのは、白銀の…
………自転車だった。
黒に近い紫髪をなびかせ、甲冑を着込んだ少女がそれを漕いでいる。
「ったく…旅は良いけど、何で移動手段が自転車なのよ!!」
少女が、不機嫌そうに叫ぶ。
その言葉と同時に、自転車が更に加速する。少女が漕ぐのを早めたのだ。
お分かりかと思うが、彼女は
ディナギア…
白竜工業の切り札だ。
「漕いでやろうじゃないのよ!全力でね!!」
彼女は、獅遠社長の命により、
シュヴェルテの死の真相を探すために旅立ったのだ。
以下は、その出発前のやり取りである。
白竜工業の入り口、玄関と言える場所にて…。
「取り敢えずある程度正体がばれないように装備は整えたけど…」
ディナの顔は頭部の兜に隠れて見えない。
どうやら、正体を隠すための装備のようだ。
「うむ、その姿のときはルビーアイズ・ナイトドラグーンと名乗れ」
「名前が仰々しいね」
ディナが苦笑する。
「ああ、心配するな、名前の意味はそのままだ。ルビーアイズ、ルビィとでも略すと良い」
獅遠が答える。
「了解!で?具体的には何処をどう探せば良いの?社長」
「まずは、
エメリンスキー旅団の足取りを追ってもらいたい。
俺とてそう多くの情報を手に入れて言っているわけではないが…恐らく今回の事件の鍵を握っている。
どうやら壊滅したらしいが…詳細は俺も掴めなかった。
だが、メードの失踪事件やら何やら、色々な事件の裏で、奴等が動いていたのだけは確かだ」
獅遠が、地図を取り出してディナに渡す。
「これは、壊滅した場所まで、補給可能な経由ポイントとなる町を含めたルートだ」
「つまり、このルートをまわれば良いんだね?」
「ああ、まずは、な。多分、追っているだけで何かは掴めるだろう。
その後の行動は、道中、自分で決めろ。
…しかし、この旅は非常に危険な旅になるだろう。
いつも戦場でGと戦う事とはまた別の危険が…今回の敵は人間だからな」
「大丈夫、人間なんて敵じゃないね!…社長は別だけど」
ディナが笑顔で言う。
「確かに、戦闘能力の問題なら、お前なら全く問題ないだろう。
ジークフリートなんかを真正面から相手にしない限りはな、フフ」
獅遠も頷くが、そのまま話を続ける。
「だが、人間は『強い』のではない、『恐ろしい』のだ」
「それ、どういう意味…?」
ディナが、その言葉に反応する。
強いから恐ろしいのではない、ならば、一体何故恐ろしいのか、言い知れぬ何かを感じた。
「お前は、自分の同胞を、しかも自分を信じている者を、
自分の利益の為に戦場のど真ん中に放り込んでGの餌にする事が出来るか?
人類の未来の、そして愛する者のために必死に戦う者を、ただ自分の懐を肥やすためだけに背後から討つ事が出来るか?」
「……!!!!」
「分かるな?あれほどの実力を持つシュヴェルテを殺したのはジークフリートではない、それは確かだ。
そして、それはGでもない…となれば『誰か』そして『何か』と」
ディナが、静かに頷く。
「それが、人の持つ愚かな欲望、そして、狂気……成る程、社長、また一つ勉強になったよ。
…私なんかが気をつけた所で意味は無いかもしれないけど…可能な限り気をつけるから」
「流石はディナ、理解が早くて助かる…今回の敵は狡猾かつ卑劣かつ非道だ。
…人間とは思えない所業の数々を目にする事になると思う。
だが、覚えておくが良い…それが本当の『人間』だ。
…今の、この世界では俺達のような人間がむしろ特別である事をな…悲しい事だが」
そう言い聞かせる獅遠の表情は、笑っていたがどこか寂しげだった。
「……社長……」
「…さて、俺からは以上だ」
獅遠が頷く。
「…社長、一つだけ、一つだけ約束して」
ディナが呟くように話す。
「何だ?」
「社長は、せめて、社長だけは…今のまま、正義の使者のままでいて…ほしい」
鎧の隙間から、ディナの眼が見える。その眼には微かな懇願の意が見えた。
「安心しろ、それが俺の、白竜工業社長としての俺の、そして俺自身の意思だ。
そして、俺は皇帝にもそれを誓ってきた…ディナ、俺は俺の正義を貫くぞ…約束する」
「…それが聞けて安心したよ…」
ディナが、静かに頷く。
「…お前が戻ってくるまでには俺も体を動かせる状態にしておくつもりだ」
「了解!ゆっくり休んで!社長は今まで頑張ったんだから、今度は私の番だよ!」
白竜工業の入り口の扉を開け、ディナギアが笑う。
「ああ…白竜工業の誇りを忘れず、行ってくるが良い!」
獅遠も笑顔で返す。
「行ってくっ…あのさぁ」
「ガクッ」
手を振ろうとしていた獅遠がこける。
せっかくかっこよく送り出せそうだったのに、ディナはそれをあっさりと遮ってしまった。
「…移動手段、コレ?」
ディナは、白竜工業の入り口前、つまり自分の目の前に置かれた白銀に煌めく自転車を見て呆れながら呟いた。
「…ギヤ比もメードの脚力に合わせて一から見直した。剛性も既に軍用の兵器のレベルを上回る程まで強化した。
ステアリングも高速走行に合わせて補正した。それ以外に何か問題があるのか?」
「…はぁ…まぁ、仕方ないか…」
ディナがため息をつき、自転車に乗り込む。
「じゃ、行ってくるよ…」
ディナが、微妙にやる気なさそうにそう言って、自転車を漕ぎはじめた。
そして、現在に至る。
「まったく…せめてバイクとかさぁ…」
ディナがぶつくさ言っているが、はっきり言って彼女は今、並のバイクでは追いつけないスピードで走っている。
「…と、そろそろ街が見えてきた!」
遠くに街が見える。止まろうと、取り敢えずブレーキをかける。
「…あ、あれ?」
前輪と後輪から火花が散っている。
「…まさか」
―――ギヤ比もメードの脚力に合わせて一から見直した。剛性も既に軍用の兵器のレベルを上回る程まで強化した。
ステアリングも高速走行に合わせて補正した。それ以外に何か問題があるのか?―――
獅遠の言葉が頭をよぎる。
言葉の中からも分かる。確かに『何か』を忘れている。重要な『何か』を。
何故、今の今まで気がつかなかったのだろうか。ディナは自分の迂闊さに苦笑した。
「問題大有り!問題大有りだよ!!」
ディナの叫びと共に、前輪のブレーキが吹っ飛ぶ。
続けて後輪のブレーキが火を噴く。
「ブレーキ!ブレーキ強化忘れてる!!」
しかし…何とも白竜工業らしい失敗である。
「そんな事を言ってる場合かって…私は今何に突っ込みを入れてるのさ!!!」
突っ込みを入れる以前に、このままでは町に突っ込んでしまう。
訳の分からない叫びを上げながら、取り敢えずハンドルを切って方向を変える。
―――そして
「えええいっ!!」
次の瞬間ディナは、自転車を放棄し、脱出した。
乗り手を失った自転車は、そのまま凄まじいスピードでどこかへと走り去ってしまった。
「…ふぅ、間一髪…急ごしらえなのが良く分かるよ、社長…病気を推してまで造ってくれたんだろうな…」
ディナが、朝焼けの彼方に走り去っていく自転車を眺めながら静かに呟く。
「社長、私は必ず目的を果たすから…!」
そして、ディナは町へと入って行った…。
それと同じ頃、酒場にて…
赤いコートの男が、酒を飲んでいる。
「まさか連中も俺がこんな近くをうろついているとはおもわねェだろ…」
そう言って笑う。
「…何の気まぐれだろうなぁ…酒が飲みたくなってここに来たが…」
そう言って、持っていた酒を飲み干す。
「…喧嘩の一つでも起こらねぇもんか…何とも暇だな」
ボソッと呟く。
それから暫くして…
「…一度飲んでみたかったのよね…」
少女の声で、男は振り向く。黒い甲冑を装備した少女。恐らくはメードだろう。
単独で行動しているところを見ると、間違いなく訳ありだ。
「…ここにある酒の中で可能な限り強い酒を…」
少女は男の隣に座ると、続ける。
「…ジョッキ一杯分」
隣に座っていた男がブッと噴出す。
「おいおい嬢ちゃん…それは…」
酒場のマスターも苦笑しながら応える。
「まぁ、そうだよね…なら、まず一杯分、ま、どうせすぐおかわりする事になるでしょうけど」
「あ、ああ、分かった」
酒場のマスターが一杯を差し出す。
少女が、それをグイッと一気に飲み干す。
「ぷはっ!やっぱ酒は良いわぁ…普段は楼蘭酒ばっかりだったけど、実は洋酒の方が好きなんだよね…もう一杯!」
驚く周囲の人間を尻目に、少女は順調に杯を重ねる。
「楼蘭酒、か…」
隣の男が、まるで故郷を思い出すように呟く。
「しかし…かなり良い飲みっぷりだな、こいつぁ」
既にジョッキ一杯分以上は飲み干している。
「まだまだ行けるよ!おかわりッ!」
意識には全く異常は見られないが、頬が紅く、ほろ酔い独特の色気を放っている。
頭部の鎧に遮られて入るが、恐らく、相当の美少女だろう。
周囲の驚愕を集めながら、彼女の一気飲みショーは三十分ほど続いた。
「ふぃー…飲んだ飲んだ」
少女が代金を置き、店を出る。
その隣に座っていた男は、店の隅に座って、
少女を凝視していた男たちが立ち上がって彼女を追うように出て行くのを見逃さなかった。
「おう、代金ここに置いとくぜ、邪魔したな」
紅いコートの男も、それに続いて外に出た。
案の定、トラブルになっている。
「おうおう、随分な重装備だが、その酔っ払った状態で何が出来る…。
その鎧の下の柔肌、拝見させてもらって良いよなぁ…?」
少女が、男たちに囲まれている。
しかし、あまりに直接的なこの台詞…男たちの品性が疑われる。
「下衆共が…私が酔っ払ってると?笑わせないで…この程度…」
少女が鼻で笑う。
「…喧嘩する邪魔にはならないね!!」
その言葉の通り、一斉に襲い掛かった男たちを、少女は意ともあっさりと片付けてしまった。
「お前、やるじゃねえか…」
「まだいる!?」
少女が、その声に振り向く。隣に座っていた紅いコートの男だった。
「…別に俺は敵じゃねえよ」
紅いコートを着た男が苦笑する。
「あ、そう…」
「まさか…メードだったとはな…」
倒れた男の一人が立ち上がる。
「気を失ってなかった!?」
少女が咄嗟に振り向く。
「なら、こいつを試してみるか…!!」
男が見慣れぬ銃を取り出し、引き金を引いた。
「ッ!?」
「何ッ!?」
少女が、咄嗟に紅いコートの男を突き飛ばす。
銃から発せられた光が、少女に直撃する。
その直後、少女がその場に膝をつく。
「力が…入らないッ…!?」
メードとしての自らの力の源、エターナルコアの出力が落ちているのだ。
体の力の低下と同時に、酔い、というものも回ってくる。
「くうっ…貴様ら…何を…した!?」
「へっ…一発限りの失敗作、とか言って売りつけられたが…意外と効くじゃねえか…。
何やら、メードのエターナルコアの出力を抑えるんだとよ。で、俺達の自由になるような体にする、と」
「止め…ろ!!」
少女が男を睨む。
「言葉に気を付けろ!怯えた声で『やめてください御主人様』だろ!?
ヘヘヘ…今夜はこいつで一晩中宴会だ…どうだ?お前も一緒に」
男が、紅いコートの男に言う。
「…悪くねぇ…そうだな、派手なパーティーと行こうじゃねえか!!」
意識が遠のいていく少女が最後に見たのは、紅いコートの男が、銃を持った男に殴りかかった所だった…。
少女が目を覚ましたのは、夜だった。
「…ん…ッ…」
平原にテントが張ってある。
「起きたか」
少女の横に、紅いコートの男が座っていた。
「私を、助けてくれたの…?」
薄れている意識の中を掘り起こし、状況を確認する。
「まぁな…失敗作ってのは本当のようで、もう普通に動けるだろ?」
「…ありがとう、助かったよ」
少女が、朦朧とした意識のままで頭を下げる。
「いや、俺も奴が許せなかっただけさ」
男が答える。
「名前、聞いても良い?」
「…リューマ」
男が名乗ったその名前を、彼女はどこかで聞いた事がある。
思い出しながら、男を眺める。
そして、所持品の一つ、大型の銃を見て、少女の顔色が変わる。
「リューマ…それに、その銃…ま、まさか!!」
少女が思わず叫んだ。
「ど、どうしたよ!?」
男が慌てる。
「も、もしかして、もしかすると、あなたは、龍馬…リューマ・ジ・グリード殿!?」
リューマ・ジ・グリード…白竜工業の銃器の偏執狂、土岐の友人にして、
彼が手塩にかけて作り出した銃を授けられた数少ないメードの一人だ。
「お、俺の事を知ってんのか?」
男が彼女の形相に冷や汗をかきながら尋ねる。
「土岐から噂は聞いてるよ!自分と同レベルの銃好きだって!
あ、自己紹介が遅れたね!私は白竜工業所属メード、ディナギア!」
少女が名乗り、頭部の鎧を外す。
彼女の横から降り注ぐ月の光と、まだ抜けていないアルコール分のおかげで、必要以上に色気が増幅されている。
「本当は正体を隠せと言われてたけど…恩人には正体を明かしておくよ」
そう言ってディナは笑った。
「そうか、お前、あそこのメードか…道理で楼蘭酒…」
リューマが思い出し笑いをする。名前の通り、エントリヒに移転する前は楼蘭に居を構えていた。
「あはは…白竜工業には洋酒は置いてないからね…」
「しかし、良い飲みっぷりだったぜ?」
「私、酒は大好物なんだよ!」
ディナが全く曇りのない笑顔で答える。先程の事を全く意に介していないらしい。
「…おい、危ないところだったの、分かってんのかよ?」
「だってさ、助かった事を今更ともかく言っても始まらないじゃん」
「あのなぁ…ああもう、まぁいい」
リューマが苦笑する。
「…で、お前は何故あんな所にいた?こんなさびれた町にいるような奴じゃないだろ?お前は」
「リューマ殿になら話せるね…これは社長の命令。
シュヴェルテ謀殺の真相を探すためにエメリンスキー旅団の足取りを追え、ってね」
「成程な…」
リューマが頷き、話を続ける。
「いきなり真相を知っている奴に会えてよかったな、お前」
リューマが少しダークな笑顔で言う。
それはそうだろう。エメリンスキー旅団を壊滅させたのは彼が所属する部隊、
『SevenCardinalSins』なのだから。
「え?」
「単刀直入に言うぜ…エメリンスキー旅団を壊滅させたのは、俺達だ」
「マジ?」
ディナが聞き返す。
「ああ」
リューマが頷く。
「…ナイス!ベリーグッド!」
ディナが満面の笑みで親指を立てる。
「は?」
予想外な反応にリューマがきょとんとする。
「社長の説明から推測するに、奴等相当な悪党じゃん!同情の余地無し、ぶっ殺しちゃってよし!」
「…お前、あの社長と違って随分とノリ良いな」
リューマが若干圧倒されながらも言う。
「ハハ…社長は真面目に見えるけど結構ノリは良いんだよ?」
「そうなのか…まぁ、社長とはじっくり話した事はなかったからな…」
「今度白竜工業に遊びにきなよ!会社上げて歓迎するからさ!」
ディナがはしゃいでいる。
「へっ、行けたら行くのも悪くねぇな、退屈はしなそうだ」
リューマが頷く。
「…しっかし…旅に出て一日目でこれは私としても驚きだよ。
…ねぇ、真相を知ってるなら教えて…シュヴェルテは、どうなったの?」
ディナが真剣な表情に戻って尋ねる。
「…俺が助けなければお前はどうなっていたか、それが答えだ」
「……了解、つまり、殺された事になってはいるけど、生きてる、と。しかも、あんな目にあってる、と」
ディナが静かに頷く。
「こりゃ…今はまだ、社長に伝えるべきじゃないね、こりゃ…倒れるわ」
ディナが苦笑する。
「ふはっ、違いねェ」
リューマが苦笑に苦笑で返す。
「リューマ殿、これからどうするの?」
「ちょいと、近々『パーティー』が起こりそうでな、その会場を探してんだ」
そう言ってリューマが不敵に笑う。
「…もしかして、それって私にも関係あり?」
「へへ、ご想像にお任せするぜ。お前に会えたのは偶然だし、お前がここにいるのも偶然だ。
が、少なくともルートも目的地も一緒だな、こいつは」
「…パーティーの定員は?」
ディナが不敵に笑いながら尋ねる。
「んなもんあるかよ」
「そうだね…私も乗っからせてもらっていい?パーティーは
一人でも多いほうが楽しいでしょ?」
そう言ってディナがウィンクする。
「おうよっ!お前、本気でノリがいいな!気に入ったぜ!」
「リューマ殿…私もあんたが気に入った!ド派手に暴れようじゃないのさ!!」
そう言ってディナがガッツポーズをする。
「おうよ!ド派手なパーティーと行こうぜ!」
「もっちろん!…あ、そだ」
ふと、ディナが思い出したように話を続ける。
「今、私一応偽名使ってるから、ルビーアイズ・ナイトドラグーンって…ルビーアイズって呼んどいて」
「分かった、よろしくな、ルビーアイズ!」
一通り、会話が終わった所で、リューマが話を切り出す。
「…ところで聞きたいんだが、何か俺がバイクでお前を運んでいる途中で、
何かありえない壊れ方をしてる自転車の残骸を見かけたんだが、お前それが何だか知らないか?」
「…じ、実はそれ、私が乗ってきたんだ…」
「は?」
終わり
あとがき
コラボ企画第二段です。
取り敢えず出会わせてみました。
何か今まで書いた中では一番面白い話になったかもしれません。
さて…とりあえず、ディナギアが頭の鎧を外して笑うあのシーンは誰か絵で書いてほしいなぁ、と。
ほろ酔い+ムーンライトのコンボは我ながら反則です(爆)
最終更新:2008年12月22日 22:27