(投稿者:フェイ)
BGM:UPROAR(機動戦士ガンダムOO O.S.T2より)
倉羽永花はよく夢を見る。
それは、かつて所属していた
楼蘭皇国の部隊『旗兵隊』の夢。
最悪の相手と遭遇した―――あの日の夢。
「―――水仙ーっ!!!」
フライとの激突によりプロペラを損傷、傷つき落ちてゆく
百八式飛行衆。
その上に乗っていたはずのメード、水仙はフライの強靭な顎に引きちぎられた自分の左半身を信じられないような眼で見た。
安定を失った水仙の身体は、墜落しつつある百八式飛行衆から落下した。
超高空から落下し水面に叩きつけられた身体は四散、そのまま水中に潜んでいた水中型Gに捕食されていく。
「くっう……!!」
気を取られていた隙に接近してきていたフライに対し回避行動を取る。
なんとか肩を削られるだけにとどめ、すれ違いザマに軍刀を一閃。
切り裂かれたフライは先ほどの水仙と同じように水面へと落下していく。
しかし、未だ周囲には数え切れないほどのフライ―――そして永花以外のメードの姿は、殆ど見えなくなってしまっていた。
通信回線を開き、叫ぶ。
「無事なものは答えろ!」
『―――ちら、皐っ――――と、鬼灯がやられっ―――』
『こちら芙蓉――っ、薊とともに、永花隊長、合流しまっ――』
『―長っ、永花隊長っ! 敵が多すぎ―――――ああああああああああ――――』
「葛っ!? 葛ァッ! …っく、芙蓉、薊!!」
遠くで水しぶきが立ったのを微かに視認。
それが葛だったのかどうかを確認する術は、もはやない。
近くに現れた芙蓉と薊を視認すると、着いてくるように手で合図し、フライの集団から離れる。
「……皐! 応答しろ! 一度合流して体勢を立て直す!!」
『駄目ですっ、座標が―――っ……!! なんで、フライがこんなっ―――』
「落ち着け! 落ち着いて対処すれば適わない相手ではない―――皐っ?!」
『ひっ――――あ』
ぐしゃり、と嫌な音と共に最後の通信が切れた。
遥か遠く、乗り手を失った『七』のナンバリングをされた百八式飛行衆が、自動で水面へと着水するのが見えた。
(私達の旗兵隊が、ここまでやられるとは……なるほど、油断は禁物か!)
「芙蓉、薊、ついて来い!!」
「はいっ!!」
永花は声を上げながら『一』のナンバリングを持つ百八式飛行衆を一気に降下させ、それに追従する形で芙蓉と薊の飛行衆も続く。
そして永花は飛行衆の進行方向とは逆、水面に背を向ける格好で九十七式自動砲を構える。
急な方向転換に、しかし遅れることなく着いてこようとしていたフライはその正直さえゆえに砲弾に貫かれた。
一匹の撃墜に喜ぶことなく、永花は次々と狙いを定め、一歩遅れる芙蓉と薊へ肉薄するフライを撃墜する。
見る見るうちに近づく水面に構うことなく引き金を引き続ける永花。
「……!」
水面に激突する寸前のタイミングで飛行衆を操作。
機首を上げた飛行衆は水面スレスレの低空飛行へと移行する。
追ってきていたフライの何匹かが、その速度のまま水面へと叩きつけられ、衝撃に耐え切れず砕け散る。
方向転換についてきたフライと、正面から迫るフライ、追従する味方へと多方面に気を配って。
「隊長、このフライ…!」
「ああ――確かに時折強力な固体が出現するが、これは――!」
「ハッハッハ!! アンタ…なっかなかやるじゃねぇか!!」
「!?」
声のしたほうへ顔を向ける。そこに居たのは、一人の男。
赤い髪を逆立て、タキシードを着込み、その背にフライと同じような羽を生やした男。
男がバッ、と手を振るとフライがその動きをピタリと止める。
「―――プロトファスマか…!」
「そのとぉりぃっ!!」
男はビシィッと―――もしかして格好良いと思っているのだろうか―――自分を親指で指差す。
ぐい、と機首を挙げ、相手の方へと肉薄する永花。
軍刀を構え振りぬくのを、ゴーガ・ツ・ヴァエーは片手で受け止めてみせる。
つばぜり合いに力を入れながら永花は、叫ぶ。
「ならば問おうゴーガ・ツ・ヴァエー……このフライの集団の指揮は君か!」
「イエスだ!」
「では……君を許すわけにはいかなくなったな!!」
「だったらどうする!!」
「君を倒す!!」
「ハッハーッ!! 無理だなぁ!!」
次の瞬間、左へと回りこんでいた芙蓉が構えたアサルトライフルが火を噴いた。
同時に、永花の背後から飛び出した薊が軍刀を下突きに構えて飛び掛り、永花はつばぜり合いのまま相手を留め。
しかし三人の目の前に、既にゴーガ・ツ・ヴァエーの姿はなかった。
「っ、なに……どこに…!」
「後ろだ、芙蓉!!」
「なっ…」
「そぉの通りぃっ!!」
瞬時に移動したゴーガ・ツ・ヴァエーが芙蓉の真後ろへと出現する。
芙蓉が振り向こうとしたタイミングにはもう遅い。
強烈な蹴りが芙蓉の背へと突き刺さった。
「っが……!?」
「薊!!」
「了解です!!」
空中へと放り出された芙蓉を薊へと任せ、永花は牽制に右手で構えた自動砲を撃つ。
しかし、瞬間的に加速するゴーガ・ツ・ヴァエーの動きの前に数発の牽制は無意味。
即座に間合いを詰められると、すれ違いザマに右肩が爪に引き裂かれる。
「なんとっ…?!」
「遅いなぁ! 全くもって遅すぎる!!」
そのまま通り過ぎたゴーガ・ツ・ヴァエーは一度距離をとり、滞空する。
そして次第に距離を取るように加速を始める。
「何を…」
「見せてやるぜ…惚れるなよ? 俺の速さになぁ!!!」
その言葉を残し、ゴーガ・ツ・ヴァエーの姿が消えた。
否、消えたように見えたのは、単純に眼で追いきれなくなったのだ。
「―――!!」
永花は百八式飛行衆の機首を挙げ、地面に対して垂直にし、叫ぼうとした。
――今すぐ、防御体制を。
いつの間にか、ゴーガ・ツ・ヴァエーが三人の後ろに居た。
衝撃波が、走る。
「っぐおおおあああ?!」
強烈な衝撃波が、百八式飛行衆の陰に隠れた永花の身体を打ち付けた。
直撃を受けた飛行衆はその衝撃を受け、粉々に砕け散る。
「薊っ、芙蓉っ!!!」
支えを失い、空中へと投げ出される身体。
粉々になった飛行衆の向こうに見えた光景は、全身を粉々に吹き飛ばされた、芙蓉と薊―――だった、もの。
「っ~!!」
目の前に、ゴーガ・ツ・ヴァエーが迫っていた。
「へっ、運が良いのか勘が良いのか……まぁどっちにしろ、アンタも同じところに今からいくんだがな!」
大きく振りかぶられた手には、幾度も永花の軍刀を受け止めた爪がその鋭さを見せていた。
慌てて身を仰け反らせるも、空中という自由の聞かない状況では、些細な抵抗にしか過ぎない。
左の額から眼、頬にかけてを思いきり引っかかれた。
「ぐ、なんと、おおおおおおおっっ!!」
「良く避けた!! だがここまでだな!!」
どうやら眼球までは達していないようだが、血が思い切り噴出し左側の視界は完全に奪われた。
さらに、無理に動いたのがよくなかったのか、身体が完全に重力に捕まった。
一気に身体が落下していく。
「うお、おおおおおあああああっ…!!!」
ゴーガ・ツ・ヴァエーの姿がどんどん遠くなっていく。
永花は軍刀を持たない左の手を必死に伸ばすが、届かない。
水面が近づく、敵が遠のく。
手を伸ばす、必死で手を伸ばす。
倒さなければならない。
仇をとる。
部下達を、仲間達を殺されて、そのままにするわけには行かない。
必ず。
必ず仇を――――!!!
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最終更新:2009年05月28日 21:07