(投稿者:フェイ)
BGM:FIGHT(機動戦士ガンダムOO O.S.T2より)
「―――死んじまったか、案外あっけねぇもんだったな」
「いくぜお前ら。興がさめちまった」
フライに合図を送り、攻め込むつもりだった楼蘭の方角へと背を向ける。
部隊を動かすなら何かやってこい、ぐらいは言われそうだが、そんな事ゴーガ・ツ・ヴァエーには関係がなかった。
とにかく、早い相手と戦い、それを超えたかった。
その相手がこの程度では――。
と、ゴーガ・ツ・ヴァエーは、フライが何かを警戒するかのように動かないのに気づいた。
「……おぉいお前たち、早く――」
「待ちたまえ。まだお帰りいただくには早い時間だ――今しばらく付き合っていただこう!」
「…!!」
ゴーガ・ツ・ヴァエーが構えを取り直すのとほぼ同時、『敵』へと向かった二匹のフライが切り裂かれた。
二匹の亡骸の向こうに見えるのは、軍刀を構え
百八式飛行衆を駆る永花の姿。
その顔の左半分には鋭い傷跡が刻まれ、真っ赤な血に塗れ左目の開く様子は無く、しかしその右目は爛々と生気を湛え輝いていた。
「んなバカな! アンタの飛行機は今オレが…!」
「確かに…だが、捨てる神あれば拾う神ありといったところかな!」
永花の駆る飛行衆の側面、そこに描かれたナンバリングは『七』。
「さっきの奴と違う!?」
「その通り! 皐の飛行衆だ…!! 貴様らにやられた私の部下…皐のな!!」
「だがなぁ!!」
構えたゴーガ・ツ・ヴァエーはその羽を振るわせ始める。
次第に動きを早め、まるでホバリングしているかのような音が響き始める。
狙いを永花に定め。
「そんなスピードじゃあさっきと結果は同じなんだよ!!」
一気に加速。
飛行衆の出せる限界の速度を発揮したとしても到底避けることの出来ない速度。
しかし。
「ふっ…それがどうしたぁぁああっ!!」
「―――!?」
避けた。
今の一撃に手応えを感じることが出来なかったゴーガ・ツ・ヴァエーは緊急停止して振り返る。
「そんな馬鹿な! っうお!?」
動きを止めた瞬間を狙い、旋回しつつある永花からの砲撃。
まるで動きを読むかのように放たれる砲弾をかわしながら、ゴーガ・ツ・ヴァエーはあせる。
明らかに速度は自分の方が速い、それは疑いようの無い事実であり、相手が自らに翼を持つベーエルデー・メードでない以上それは覆しようが無い。
既存の航空兵器に拠る空戦メードでは、Gの中でも――いや、プロトファスマ中でも最も早い自らを超えられるはずが無い。
「どういうことだぁっ!!」
「ゴーガ・ツ・ヴァエー…確かに君は早い! さらにいえば軌道は最適にして正確だ――だがそれ故に読み易いな!!」
「……!!」
「おそらくは君自身もまだその速度を扱いきれて居ないと見える――――沈黙からすれば、肯定といったところか!!」
答えに詰まるゴーガ・ツ・ヴァエー。
心当たりはあった――彼自身プロトファスマとしてはまだ経験が浅く、今までこんな戦いをする相手とは戦った事はない。
正確な狙いか、牽制か、それを判断しかねている間に、射撃を行いながらまっすぐ接近してきていた永花は目の前に迫っていた。
「君は私の仲間を殺し、堪忍袋の尾を切った――逃げられると思わないでもらおうかっ!!」
「っく!!」
軍刀を避け一度距離を取るが、永花の追撃は止まない。
ゴーガ・ツ・ヴァエーは焦っていた―――。
「……!!」
同様、永花もまた、焦っていた。
常にこちらのペースを保ち、相手にまたあの衝撃波を出させる余裕を与えてはならない。
二度もかわせるような僥倖が起こるとは思えないし、なによりこの飛行衆を破壊されてはもう次はない。
それに気づかれぬよう、言葉を吐き続ける。
「いくら能力差があろうとも、経験の差で埋めてみせよう…!!」
「こいつっ…!」
飛行衆のエンジンが嫌な音を響かせるのに気づかれてはならない。
(あと少し―――あと少し持て!)
ゴーガ・ツ・ヴァエーは、振りぬかれる軍刀を辛うじて爪で受け止める。
再びのつばぜり合い、しかし今回は永花の速度と、気迫が違った。
「――そういえば、君の名前を聞いておきながら未だ名乗っていなかったな…!!」
「んなっ」
「覚えておきたまえ――
楼蘭皇国『旗兵隊』の隊長にして…!!」
跳ね上がるように軌道を変えた軍刀がゴーガ・ツ・ヴァエーの爪を弾き、姿勢を崩させる。
すかさず、腰に回っていた永花の右手が逆手持ちにもう一本の軍刀を引き抜いた。
「今この瞬間、須佐之男命すらも凌駕する存在―――倉羽永花だっ!!」
斬っ!
閃いた軍刀がゴーガ・ツ・ヴァエーの右腕を切り落とした。
しまった、と永花は思う。
左眼が開けないが故に絶好の機会に必殺の一撃を外した。
だが、相手のバランスを崩したこのタイミング、こちらもまた、逃すわけにはいかない―――!!
「っがああっ!?」
「このまま―――その命を頂こうか、ゴーガ・ツ・ヴァエー!!」
プロトファスマがエターナルコアを取り込んだGであり、人型であるならば、その急所もまた同様のはず。
左手に持った軍刀を真っ直ぐ突き出そうとし。
途端、百八式飛行衆のエンジンが火を噴いた。
「っ!? っく…限界かっ……!?」
高度が落ち始める。
ゴーガ・ツ・ヴァエーからふらふらと離れ、墜落していく飛行衆の上からなんとか自動砲を撃つ。
しかし安定しない場所からの射撃と、片目故、照準はおぼつかない。
「あと一歩でプロトファスマを仕留められたというのに……口惜しいっ…!!」
服の首周りが真っ赤に染まるほどの血、意識が朦朧とし始め、飛行衆の操作すらおぼつかない。
遠く、ゴーガ・ツ・ヴァエーが何かを叫んでいるのが見えたが、もはや聞こえず。
「っく………一矢は……報いた、が………」
身体の力が抜けていく。
そのまま、百八式飛行衆の上に倒れこみ、只々墜落していく。
海面が――。
「永花さん!!」
海面寸前、水上を走る何かが飛行衆ごと永花を支えた。
まともに働かない頭のまま、相手を思い出そうとする。確か、水上メードの――。
「…凛翠、か………」
「はい! 今、茜さん達も援護に来ました! …他の方たちは?!」
「…生き残りは、私…だけだ。…情けないことにな…」
凛翠の顔が辛そうにゆがむ。
ぼやけ、良く見えないその顔に対し、安心させるように笑みを浮かべようとして。
「………そんな顔を、しないでくれ…それと、おそらく、奴らは退いていく…こちらも、撤退を…」
「…え? 永花さん?」
「…………」
「っ………!! こちら凛翠、旗兵隊隊長、永花を保護、重傷です!! 急ぎ医療隊の用意を! 繰り返します…!!」
「………これで、よし」
「大げさだ桐姫。眼球に異常はなかったのだし、一通りの治療は受けたよ」
「念のため。我慢なさい」
ぐるり、と顔の左半分を覆うように包帯を巻かれ、永花は苦笑する。
永花の予想通りその眼球に異常はなく、額から頬にかけて、鋭い一筋の切り裂き傷だけが残された。
その傷に、包帯の上から手をあて、俯く。
「…痛む?」
「ここではなく、精神がね」
自嘲するように呟く。
「優秀なメードを八人失い、同じく、貴重な百八式飛行衆を八機大破、一機を中破させ…おめおめと私だけが生き残ってしまった」
「……永花」
「わかっている。刺し違えてまで仇を取ろうとは思っていない。必ず彼女達の分まで、生きて戦い抜く。私の誇りにかけても、な」
その返答に桐姫はクスリ、と笑って手を差し伸べる。
手を取り、立ち上がった永花に苦笑いをしながら。
「仇ぐらいは取ってあげなさい」
「もちろんだ。機会があれば、必ず狙わせてもらう」
いつもどおりの調子に戻った永花に、桐姫は一束の書類を差し出した。
「…これは?」
「命令書よ。――部隊を失った隊長に、新しい働き口を用意してくれるらしいわ」
「――――華人、計画…」
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最終更新:2009年05月28日 21:05