翌日、帝国軍務省に置いて全国司令官総会が開催された。
念頭の言葉、方針の確認から始まり、今年の
グレートウォール戦線の進捗状況が報告されていく。
新年度に置いては新型兵器を多数導入し少しでもMAIDの負担を減らし、
Gを1匹でも多く排除する旨が全司令官一致で確認された。
通常なら、この提案のみで終わりそうなところだったが、
第一師団長シュトゥックハウゼン大将はある案を提出した。
「シュトゥックハウゼン大将、この提案は本気かね」
「無論です。この提案は部下をはじめ、多数の兵士の総意です。
もはや彼らのようなならず者が我々と同じ組織構成員であることは耐えがたき屈辱!
軍務大臣、皇帝陛下に奏上し、許可をご進言いただきたい!」
シュトゥックハウゼンは一呼吸して座ると、グレゴールに目配せしたように思われた。
やがて軍務大臣グリンメルスハウゼン上級大将は吐息しつつこう述べた。
「卿らの要望は取り下げるにはあまりに熱く、総意であることを認めざるを得ない。
本日午後にヴォーディン宮へ奏上し、皇帝陛下にご提案し、御前会議にて決定するであろう。
良くぞ申し立ててくれた、卿らの見識と国家を憂う大志、このオットー・フォン・グリンメルスハウゼン、無駄にはしない!」
グレゴールの熱い志は上司を動かし、それが他師団の司令官を動かし、ついには軍務大臣まで動かしてしまったのだ。
志を通すというのはなんと心地いいことなのかと、グレゴールは武者震いが止まらなかった。
その後会議は終わったが、グレゴールは別室へと通された。
先日の件についての査問が行われるということだった。
(まぁ当然だろう、始末書ですむならまだいいが、謹慎か減法は覚悟の上だな)
部屋の真ん中のいすに座り、グレゴールがそんなことを考えていると、査問官が席につく。
「グレゴール・フォン・シュタイエルマルク中将、これより先日の暴行事件についての査問を始める。席につきたまえ」
査問官から促され、グレゴールは席についた。
以下やり取り
「この査問は形式的なものであり手短に済ませたい。卿は先日エメリンスキー旅団の兵士に襲われたそうだな?」
「ええ、ですが彼らは自らの不注意で事故を起こし、しかも巻き込んだ運転手や商店主に謝罪もせず、
あまつさえ注意されたことに逆上して暴行に及んでいたのです。
自分はヴォルケン中将と共に夕食をとっておりましたが、その場を見たので、仲裁を試みました。
しかし、彼らはそれにさえ逆上して手を出してきたため、やむなく反撃した次第です」
「うむ、卿の言には一理ある。ヴォルケン中将も同様の証言をしているし、
多くの住民や警察官も目撃証言を寄せてくれている。
エメリンスキー旅団についての悪評は常々寄せられていたわけだが、
我々としても明確な証拠がないものについては動けなかった。
しかし、それも終わりだ。先日師団司令部に証拠の文書が寄せられてな。
彼らを告発できる材料は整ったというわけだ。
さて、卿の行動には何の落ち度もない。
むしろ正当防衛が成立する。よって卿は無罪、軍務への影響もなんらない。
なお、対エメリンスキーについては御前会議にて対処部隊が決定される。
卿の大隊も支援部隊として動いてもらうことになる、駐屯地へ移動命令を出しておきたまえ。
ただし、内密にな」
「わかりました。では失礼します」
そういうと、グレゴールは査問室を後にし、師団司令部へと帰った。
司令部へ帰ると上官たるシュトゥックハウゼン大将へと報告を行う。
「そうか、不問か。まぁ君の気性は知られておるからな」
「しかし、師団長、ご無理な要望をお聞きいただきその上上奏していただくなど、感謝のきわみです」
グレゴールは頭を下げつつ言う。
「君と私の間柄ではないか。さて、部隊は整った。君の駒をそろえる番ではないかね」
シュトックハウゼンは教官時代と変わらない鋭い比喩でグレゴールに諭して見せた。
「いわれるまでもありませんとも」
そういうとグレゴールは電文を飛ばすべく電信室へと駆けていく。
いっぽう、軍務大臣はヴォーディン宮へ赴き、皇帝へ弾劾案を上奏した。
緊急の事態であり、早急に軍事御前会議が招集された。
集まったのはマクシムム皇帝、ギーレン宰相、ベルクマン親衛隊長官、グリンメルスハウゼン軍務大臣、
ヴェストヴァーレ統帥本部総長の5人である。
国家元首、軍政両方のトップ、帝国軍三長官が集まったわけだ。
1つの部隊が皇室への不敬を働く以外のことで弾劾案を上奏されるということも意外である。
「陛下、宰相閣下。司令官総会におきまして、エメリンスキー旅団に対する弾劾決議案が採択されました。
ゆえに私はこの案を上奏いたした次第です。」
軍務大臣は恐縮しつつ口火を切る。
「エメリンスキー・・・あぁのならず者共がぁ、まぁだ存続していたということに驚くのぉ」
皇帝は落胆をにじませながら吐息する。
「陛下、膿と言うのは必ず出るもの、国家機構であってもそれは例外ではありえません。
ことに、エメリンスキー旅団は軍部隊であり、旧ヴォストラビア帝政軍の燃えカスです。
おのずと利用しようとするものが出てくるのは必然です、前親衛隊長官のように」
ギーレン宰相はいつもの冷徹さを少しもそぐことなく淡々と述べる。
「ごほん! ともかく、膿をかき出し、この帝国を刷新するは我々の仕事。
陛下、宰相閣下。この局面、我々にお任せください」
席払いをしつつベルクマン長官が続ける。
「うぅむ、親衛隊と軍部、双方協力しこの難局を乗り切ってくれ。
さぁて、ジィークの活躍ぶりを見ねばならんでな」
そういうと、皇帝は退席した。
「グリンメルスハウゼン軍務大臣、卿にも厳命する。
エメリンスキー旅団を排除した後は、綱紀粛正を心がけよ。
兵士将校司令官に至るまで徹底せよ!
彼らのようなならず者が存在しえたということは、1部のゆがみが招いたということを、ゆめゆめ忘れないことだな」
ギーレン宰相はそう吐き捨てると退室した。
「心得ました、宰相閣下・・・さて、ベルクマン殿、共同作戦ということだ。
各々協力してことに当たるとしよう」
「心得た。宰相閣下の厳命を根底に据えてかかろう、卿の国防軍に対する手腕も期待しているぞ」
軍務大臣と親衛隊長官も語りながら去った。
「はぁ・・・また何も言えなかった」
存在感の薄いポストであることを痛感しつつ、統帥本部総長のその場を辞したのだった。
最終更新:2009年02月20日 11:30