EP.1 探偵の独白
雨上がりのぬるい空気。
まだまだ暑いというのに、雨が少し降ると湿気が息苦しくなる季節。
木造建築の建物だからか、いつもよりも湿気ってがする。
妻の詩織が暑いわね、と手を仰いだ。
まだまだ暑いというのに、雨が少し降ると湿気が息苦しくなる季節。
木造建築の建物だからか、いつもよりも湿気ってがする。
妻の詩織が暑いわね、と手を仰いだ。
カラン。
入り口のドアにつけている鈴が鳴った。
私と妻はすぐにドアを見る。
私と妻はすぐにドアを見る。
……おや、いらっしゃい。
私の言葉に笑顔で会釈する二十代くらいの青年と、眉間に皺を寄せ無愛想な顔で少し頷く70代…いや、もう少し若いであろう男。
初めて見る顔だ。
初めて見る顔だ。
カウンターとテーブルのお席がありますが…
カウンターだ。
妻の言葉を切って、無愛想にそう言う男。
その様子に少し硬直する妻と、青年は目線があった。
青年はこの男の態度に慣れているようで、無言で謝っていた。
妻も察して笑顔で大丈夫ですよ、と笑った。
そんなやりとりをしている2人を放置して、男は真っ直ぐに左側にあるカウンター席へ。
まるで挑発するが如く、私の目の前の席に音を立てて座った。
青年は慌ててその左隣へ座る。
その様子に少し硬直する妻と、青年は目線があった。
青年はこの男の態度に慣れているようで、無言で謝っていた。
妻も察して笑顔で大丈夫ですよ、と笑った。
そんなやりとりをしている2人を放置して、男は真っ直ぐに左側にあるカウンター席へ。
まるで挑発するが如く、私の目の前の席に音を立てて座った。
青年は慌ててその左隣へ座る。
メニューはこちらです。
ん
ありがとうございます!
営業用の笑顔をしながらメニューを渡すと、男は青年に目配せをした。
当たり前のように青年がメニューを受け取り、どれにしますか?と男に問いかけている。
当たり前のように青年がメニューを受け取り、どれにしますか?と男に問いかけている。
おすすめはパンケーキですよ。
元パティシエの妻が作るので絶品で…
飲み物であれば、今日は良い豆が入ったのでコーヒーは如何ですか?
ブラックでも、ミルクを入れても香り高くて美味しいですよ。
元パティシエの妻が作るので絶品で…
飲み物であれば、今日は良い豆が入ったのでコーヒーは如何ですか?
ブラックでも、ミルクを入れても香り高くて美味しいですよ。
そう言うと、男は少し目を閉じた。
数秒後に決意したように口を開いた。
嫌な予感はした。
数秒後に決意したように口を開いた。
嫌な予感はした。
注文の前に、お前さん…………新庄信男で間違いねぇか?
………はい。……なぜ名前を?
妻は少し驚いた顔で男を見ている。
男は名刺を取り出した。
男は名刺を取り出した。
俺はこういうモンだ。
あっ、僕も失礼します!
カウンターのテーブルには二つの名刺が並んだ。
えっ……警察の方?と……探偵さん?
妻が戸惑うのも無理はない。
私も驚いている。
男が出した名刺には、“警視庁刑事捜査一課 第七係補佐 金澤 雄二”と。
青年が出した名刺には、“こもれび探偵事務所 百合川 樹”と書かれていた。
まさかこの歳になってまだ驚かされることがあるとは。
私も驚いている。
男が出した名刺には、“警視庁刑事捜査一課 第七係補佐 金澤 雄二”と。
青年が出した名刺には、“こもれび探偵事務所 百合川 樹”と書かれていた。
まさかこの歳になってまだ驚かされることがあるとは。
ご丁寧にありがとうございます。……そんな方々が、私に何か用ですか?
努めて冷静に言ったが、内心動揺が隠せなかった。
私は犯罪等に関わった覚えはない。
前の職業柄、恨まれることは多少あるので、探偵はあり得ても警察まで出てくるとは思えない。
私は犯罪等に関わった覚えはない。
前の職業柄、恨まれることは多少あるので、探偵はあり得ても警察まで出てくるとは思えない。
そうなると、恐らくは。
その男…金澤は少し詰まったような声で、ゆっくりと話し出した。
10年前、貴方が追っていた“シグマ”という男……本名梓宮鳴玄海という人物について、知っていることを話していただけませんか。
ああ、そうか。
あの嫌な予感は当たっていたのだ。
少しの沈黙の後に、私は目を瞑って溜息を吐いた。
あの嫌な予感は当たっていたのだ。
少しの沈黙の後に、私は目を瞑って溜息を吐いた。
………理由を、伺っても?
その声は自分でもわかるくらいに震えていて、感情が大きく揺れ動いた。
それは恐怖、葛藤、懺悔……負の感情が織り混ざったもので、年甲斐もなくそのまましゃがんで泣きたい気持ちになった。
喉の奥には後悔の苦味と酸味を感じた。
胃の中が逆流して、独特の酸っぱい匂いが鼻腔を擽った。
妻もきっと見たことがない、怯えきった哀れな無様な私だ。
心配そうに駆け寄って、私の背を撫でた後に、少し敵意を持った目で彼等を睨む。
妻は少し正義感の強い人だから、夫である私を苦しめてると勘違いして、何か強い言葉を吐いてしまいそうだ。
目を細めて少し笑って見せると、どうにか敵意は収めてくれた。
それでも警戒心は強そうで、野良猫のようで愛おしい。
それは恐怖、葛藤、懺悔……負の感情が織り混ざったもので、年甲斐もなくそのまましゃがんで泣きたい気持ちになった。
喉の奥には後悔の苦味と酸味を感じた。
胃の中が逆流して、独特の酸っぱい匂いが鼻腔を擽った。
妻もきっと見たことがない、怯えきった哀れな無様な私だ。
心配そうに駆け寄って、私の背を撫でた後に、少し敵意を持った目で彼等を睨む。
妻は少し正義感の強い人だから、夫である私を苦しめてると勘違いして、何か強い言葉を吐いてしまいそうだ。
目を細めて少し笑って見せると、どうにか敵意は収めてくれた。
それでも警戒心は強そうで、野良猫のようで愛おしい。
金爺、まずお店に来たんだから注文しましょうよ!
お前アホか。この人の反応見て何でそんなこと言えんだ。
下手すりゃ俺らは店から出てけって言われても可笑しかぁねぇぞ。呑気で空気読めねぇにも程あるだろ。
下手すりゃ俺らは店から出てけって言われても可笑しかぁねぇぞ。呑気で空気読めねぇにも程あるだろ。
あまりにも場違いな百合川青年の朗らかさに、呆れたように眉間の皺を深くして金澤が窘めた。
百合川青年は、普通の人であれば怯えてしまいそうな金澤と妻の視線をあしらいながら続ける。
百合川青年は、普通の人であれば怯えてしまいそうな金澤と妻の視線をあしらいながら続ける。
僕パンケーキ食べたいっすねぇ…
お勧めなんですもんね!あ、でもコーヒー苦くて飲めないんでメロンソーダがいいです!
お勧めなんですもんね!あ、でもコーヒー苦くて飲めないんでメロンソーダがいいです!
クソガキ、話を聞け。
というかどうせ金持ってねぇから俺に払わせる気だろ。
というかどうせ金持ってねぇから俺に払わせる気だろ。
えっ、奢ってくれないんですか!?
公務員様様が!?2回り以上も歳上の、刑事様が……うわっ!?
もう刑事なんだかヤクザなんだかわからない目つきしてますよっ!子供が見たら泣き叫びますよ!
公務員様様が!?2回り以上も歳上の、刑事様が……うわっ!?
もう刑事なんだかヤクザなんだかわからない目つきしてますよっ!子供が見たら泣き叫びますよ!
はっ倒すぞ
ええええええ、聞きました店主さん!?これっ、天下の警視庁の刑事様がっ!こんなにも善良な一般市民にはっ倒す、はっ倒すですって!……痛い痛い!ちょ、見えないところで足ぐりぐりしないでぇぇぇぇ
あんなにも緊迫とした空気だったというのに、まるでどこかの金田一が如く強面の刑事と若い探偵が言い争っている。
呆然とする私たちを見て、金澤は気まずそうに咳払いをした。
呆然とする私たちを見て、金澤は気まずそうに咳払いをした。
…すまんがこの馬鹿にパンケーキとメロンソーダを頼んでいいか。話をするしないは新庄さんに任せるからよ。
優しさを感じる声だった。
その表情は刑事ではなく、好々爺だった。
それでいて私への心配りも感じられて、不器用な人だと思った。
警察として名乗って、確実に必要があるからわざわざ隠居した私を追ってきたのに、話す話さないは私に任せる。
きっと仕事熱心だろうに、人に心を配れる人だ。
その表情は刑事ではなく、好々爺だった。
それでいて私への心配りも感じられて、不器用な人だと思った。
警察として名乗って、確実に必要があるからわざわざ隠居した私を追ってきたのに、話す話さないは私に任せる。
きっと仕事熱心だろうに、人に心を配れる人だ。
かしこまりました。
パンケーキとメロンソーダでございますね。金澤様はよろしいのですか?
パンケーキとメロンソーダでございますね。金澤様はよろしいのですか?
ん、じゃ……お勧めの珈琲をくれ。
ブラックで頼む。
ブラックで頼む。
私の言葉に少し驚いた顔をして、少し悩んだ後に注文を伝えてくれた。
自分のおねだりが効いて嬉しかったのか、百合川青年は上機嫌だ。
その様子をみて苦笑いする詩織。
自分のおねだりが効いて嬉しかったのか、百合川青年は上機嫌だ。
その様子をみて苦笑いする詩織。
お待たせしました、コーヒーのブラック、メロンソーダとパンケーキです。
うおっほぉぉ、キタキタァ!
ん
食事と飲み物の用意をしている間も、金澤さんは穏やかな目で私たちを眺めていた。
百合川青年はまるで劇でもみているかのような輝かせた目で見ていて、妻がパンケーキをひっくり返した時には歓声を上げて拍手までしていた。
妻はまだ警戒してはいたが、子供のような彼をみて流石に微笑んでいた。
パンケーキは2段重ねで少し厚みがある。
最近のものだとスフレのように溶けるパンケーキもあると聞いたが、この店ではふかふかとした温かみを感じるパンケーキだ。
四角いバターが乗せられ、蜂蜜が別の器に添えてある。
人によってはホットケーキと言うかもしれない。
ホイップと果物も追加できると言うと、大盛りで欲しいと百合川青年は言ったので、いつもより少しだけ大きい取り皿に、ホイップと蜜漬けの果物を添えた。
メロンソーダはシンプルで、爽やかな緑の中に熟れたさくらんぼが揺蕩っている。
コーヒーは香り高く、酸味よりも渋みや深みが強いコーヒーだ。
どちらかというと、煙を吸う人間が好きなコーヒーだと思う。
百合川青年はまるで劇でもみているかのような輝かせた目で見ていて、妻がパンケーキをひっくり返した時には歓声を上げて拍手までしていた。
妻はまだ警戒してはいたが、子供のような彼をみて流石に微笑んでいた。
パンケーキは2段重ねで少し厚みがある。
最近のものだとスフレのように溶けるパンケーキもあると聞いたが、この店ではふかふかとした温かみを感じるパンケーキだ。
四角いバターが乗せられ、蜂蜜が別の器に添えてある。
人によってはホットケーキと言うかもしれない。
ホイップと果物も追加できると言うと、大盛りで欲しいと百合川青年は言ったので、いつもより少しだけ大きい取り皿に、ホイップと蜜漬けの果物を添えた。
メロンソーダはシンプルで、爽やかな緑の中に熟れたさくらんぼが揺蕩っている。
コーヒーは香り高く、酸味よりも渋みや深みが強いコーヒーだ。
どちらかというと、煙を吸う人間が好きなコーヒーだと思う。
いただきますっ!
……頂きます
元気よくナイフとフォークを持って笑う百合川青年の言葉に釣られてなのか、そもそもの育ちが出ているのか。
節々に出る丁寧さが伺える。
大きく切り分け、たっぷりの蜂蜜とホイップ、果物も一緒にパンケーキをがぶりと頬張る百合川青年。
節々に力強さを感じる、血管が浮き出るような太めの指で、繊細なコーヒーカップを持ち、大人らしい風格を漂わせて音もなくコーヒーを飲む金澤さん。
年齢なのか、性格なのか。
はたまた両方か。
対比がどうも綺麗に見える。
その美しさを壊すように、二人は口に含んだ後に目を丸くした。
節々に出る丁寧さが伺える。
大きく切り分け、たっぷりの蜂蜜とホイップ、果物も一緒にパンケーキをがぶりと頬張る百合川青年。
節々に力強さを感じる、血管が浮き出るような太めの指で、繊細なコーヒーカップを持ち、大人らしい風格を漂わせて音もなくコーヒーを飲む金澤さん。
年齢なのか、性格なのか。
はたまた両方か。
対比がどうも綺麗に見える。
その美しさを壊すように、二人は口に含んだ後に目を丸くした。
おいっひぃ〜〜〜!
これは美味いな…………
素直な賞賛に、思わず妻と顔を合わせてにっこりしてしまった。
ありがとうございます。
ふかふかで、あまくて、幸せの味がします……っ!
僕ここでお昼寝したいです!!!
僕ここでお昼寝したいです!!!
リスのように頬を膨らませながら、美味しそうに食べる様子。
そんな百合川青年に、喉詰まらせるなよと優しい声で話しながら、味わうようにコーヒーを飲む金澤さん。
昼寝するような微睡を、幸せなこの空間を感じながら、私は瞼を閉じた。
そんな百合川青年に、喉詰まらせるなよと優しい声で話しながら、味わうようにコーヒーを飲む金澤さん。
昼寝するような微睡を、幸せなこの空間を感じながら、私は瞼を閉じた。
パンケーキ、お好きですか。
はいっ!ここのは特に美味しいです!
何というか、良い意味でお家の贅沢なおやつって感じです!
何というか、良い意味でお家の贅沢なおやつって感じです!
ええ、私も大好きなんです。
………彼は、メニューを見るだけで顔を顰めるほど大嫌いみたいでしたけどね。
懐かしむように、そう言うと二人は動きを止めた。
妻も驚いたように私を見た。
何かを話そうとして、口を閉じて二人を見る。
二人は顔を見合わせた後、金澤さんはコーヒーカップを置いてこちらを見た。
妻も驚いたように私を見た。
何かを話そうとして、口を閉じて二人を見る。
二人は顔を見合わせた後、金澤さんはコーヒーカップを置いてこちらを見た。
………会ったことが?
………はい。
彼を調べていたら……どうも、調べられてることに気付いたようで。
彼を調べていたら……どうも、調べられてることに気付いたようで。
思わず手をさする。
彼を思い出すと、悪寒がする。
この世のものとは思えない美しさと、見透かすような目線。
丁寧な口調なのに何処か見下すような態度と、明らかに感じる近づいてはいけない雰囲気。
彼を思い出すと、悪寒がする。
この世のものとは思えない美しさと、見透かすような目線。
丁寧な口調なのに何処か見下すような態度と、明らかに感じる近づいてはいけない雰囲気。
なのに、何故か惹かれるのだ。
まるで火に寄せられる蟲のように。
その身を焦がすと、分かっていながら。
まるで火に寄せられる蟲のように。
その身を焦がすと、分かっていながら。
沈黙でそんなことを思い出しながら、金澤さんの目を見る。
……もう一度、お聞きします。
お二人が彼を知りたい理由は、何故でしょうか?
お二人が彼を知りたい理由は、何故でしょうか?
その言葉に唾を飲み込んだ音が聞こえた。
緊張したような顔で、百合川青年は金澤さんを見る。
金澤さんは、ほんの僅かに目を細めて話しだした。
緊張したような顔で、百合川青年は金澤さんを見る。
金澤さんは、ほんの僅かに目を細めて話しだした。
………うちの組織としての話をすると、単純に行方不明者だから探してんだ。
行方不明?
ああ。
行方不明になったのが2ヶ月前の7月8日だ。
行方不明になったのが2ヶ月前の7月8日だ。
………行方不明?
金澤さんの言葉に、思わず言葉が出た。
金澤さんの言葉に、思わず言葉が出た。
…………それは、どこから行方不明に…?
妻は首を傾げた。
意味のわからない質問だろう。
百合川青年は金澤さんを見て、金澤さんはさらに目つきが鋭くなった。
意味のわからない質問だろう。
百合川青年は金澤さんを見て、金澤さんはさらに目つきが鋭くなった。
………成る程、予想通りあんたは知ってるわけか。
シグマという男が本来どういう暮らしをしていたか。
シグマという男が本来どういう暮らしをしていたか。
……えぇ。
となると、多分ここから話す内容は驚くべき内容だと思うな。
下手すりゃ知らねぇかもしれねぇ。
下手すりゃ知らねぇかもしれねぇ。
金澤さんは、4枚の写真を見せてきた。
………っ
知ってる顔は?
…………彼が、シグマですよね。
記憶に焼きついている、端正な顔の青年の写真を指さした。
他は知ってるか?
……すみませんが、分かりません。
記憶力は良い方だと自負しているが、他の3名は何も分からなかった。
特に人の顔は一度見たら忘れないのに。
改めて残りの3人の顔を見る。
ガタイの良い、短髪で気の良さそうな40代くらいの男。
長髪で穏やかな顔をした、男性と同年代であろう女性。
10代黒髪長髪で、眼鏡をかけた少女。
特に人の顔は一度見たら忘れないのに。
改めて残りの3人の顔を見る。
ガタイの良い、短髪で気の良さそうな40代くらいの男。
長髪で穏やかな顔をした、男性と同年代であろう女性。
10代黒髪長髪で、眼鏡をかけた少女。
………この3人の組み合わせに、一瞬思い出すことがあったが、顔が違うと思い直した。
だが、次の金澤の言葉で引っ込めた記憶が呼び覚まされた。
だが、次の金澤の言葉で引っ込めた記憶が呼び覚まされた。
この男は奥村蓮。シグマの父親だ
…………え
父親?
そんなわけがない。
彼の父親は…
そんなわけがない。
彼の父親は…
つっても、シグマが幼少期から昨年までは会ってすらもいなかったらしい。
新庄さん、あんたがシグマのどこまでを知っているかはわからねぇが…戸籍上はこの男が実の父親だ。
んでこの女が後妻だな。
この娘はシグマとの異母兄妹ってことになる
新庄さん、あんたがシグマのどこまでを知っているかはわからねぇが…戸籍上はこの男が実の父親だ。
んでこの女が後妻だな。
この娘はシグマとの異母兄妹ってことになる
……幼少期から会っていない?
後妻?
その言葉に、嫌な予感が連続して頭を支配していく。
あの時の嫌な予感が。
彼の言葉が。
それらはある事実へと結論づけていく。
予感を確信へと変えるピースをはめていく様は、難解なクロスワードを解いた時のような達成感と、恐怖を感じる。
最後のピースをはめるために、私の罪を証明するために、私は金澤さんに質問をする。
後妻?
その言葉に、嫌な予感が連続して頭を支配していく。
あの時の嫌な予感が。
彼の言葉が。
それらはある事実へと結論づけていく。
予感を確信へと変えるピースをはめていく様は、難解なクロスワードを解いた時のような達成感と、恐怖を感じる。
最後のピースをはめるために、私の罪を証明するために、私は金澤さんに質問をする。
彼等は、………………無事ですか?
金澤さんは驚いた顔をした。
百合川青年も動揺していた。
百合川青年も動揺していた。
私の予想通りであれば……
彼が、目的を達成したのであれば。
彼が、目的を達成したのであれば。
……良い結果ではなかったはずだ。
諦めにも近い。
彼ならありえる。
ましてや、彼が言っていた目的であれば。
彼ならありえる。
ましてや、彼が言っていた目的であれば。
金澤さんは、溜息をついた後に話し出す。
……奥村家族は、生きてはいるがアレはもう正気じゃねぇな。
言っちゃ悪りぃが、生きた死体だ。
彼等の証言が全て真実であるなら…
シグマが全てを狂わせて行方をくらませている。
言っちゃ悪りぃが、生きた死体だ。
彼等の証言が全て真実であるなら…
シグマが全てを狂わせて行方をくらませている。
………ああ、…………
そう、ですよね。
彼なら……………ふはは………
そう、ですよね。
彼なら……………ふはは………
……あなた…
思わず頭を抱えてしまった。
じわりと浮かぶこの涙は、何のための涙だろうか。
後悔?
安堵?
いいや、きっともう手遅れだ。
この後に及んで私は……
じわりと浮かぶこの涙は、何のための涙だろうか。
後悔?
安堵?
いいや、きっともう手遅れだ。
この後に及んで私は……
……刑事さん、私ね……
今、たまらなく悲しいんですよ。
何故だと思います?
今、たまらなく悲しいんですよ。
何故だと思います?
…………新庄さん……
私はね、恐らく誰よりもシグマという男を調べ、誰よりも近づいた自信があります。
それは探偵という立場で、あくまで依頼で、彼を知りたかったから。
そして調べていく程に、興味が湧いたから。
それを、彼は愉快そうに見ていました。
その上で、彼は自分を語る前に言ったんです。
“貴方は私を憐れまないで下さいね”と。
それは探偵という立場で、あくまで依頼で、彼を知りたかったから。
そして調べていく程に、興味が湧いたから。
それを、彼は愉快そうに見ていました。
その上で、彼は自分を語る前に言ったんです。
“貴方は私を憐れまないで下さいね”と。
……その約束を、たった今違えてしまった。
私はその事に悲しんでいるんです。
可笑しいでしょう。
彼がまた人を狂わせたことを、それを止めなかったことを後悔して苦しむべきなのに。
可笑しいでしょう。
彼がまた人を狂わせたことを、それを止めなかったことを後悔して苦しむべきなのに。
今私は彼を憐んでいる。
なんて可哀想なのだと。
そして、それよりも……
浮かんだのは、彼の約束を……
違えてしまった、ことだ……
浮かんだのは、彼の約束を……
違えてしまった、ことだ……
戸惑っている妻。
少し恐ろしそうに私を見る百合川青年。
眉間の皺を深くした金澤さん。
その顔を見て、少し冷静になったが熱は止まらない。
少し恐ろしそうに私を見る百合川青年。
眉間の皺を深くした金澤さん。
その顔を見て、少し冷静になったが熱は止まらない。
…きっと、私も彼に狂わされたんです。
彼は人魚のような人だ。
興味本位で調べた程度の私ですら、もう忘れられない。
あの声を、あの気味が悪いくらいの美しさも、もう忘れられない。
彼の唄に囚われたら、彼がその気になれば、そのまま光のない深海に引き摺り込まれる。
………恐ろしい。
恐ろしいのに、どうも哀れで。
彼が、なのか。
私が、なのかはもう、分かりませんが。
彼は人魚のような人だ。
興味本位で調べた程度の私ですら、もう忘れられない。
あの声を、あの気味が悪いくらいの美しさも、もう忘れられない。
彼の唄に囚われたら、彼がその気になれば、そのまま光のない深海に引き摺り込まれる。
………恐ろしい。
恐ろしいのに、どうも哀れで。
彼が、なのか。
私が、なのかはもう、分かりませんが。
深く深く溜息をついた後に、私は百合川青年に声掛ける。
………貴方は、金澤さんとは別件ですか?
っ、……はい。
僕は、探偵業を営んでいます。
その中で、シグマという男の行方と、その過去を調べています。
僕は、探偵業を営んでいます。
その中で、シグマという男の行方と、その過去を調べています。
私の奇行に恐れを抱いているのか、少し緊張した声で話している。
金澤も話し出した。
金澤も話し出した。
……コイツと俺ぁ腐れ縁でな。
ちょっと昔俺が世話焼いてた事もあって、俺がシグマを調べようってタイミングで聞いてきたんだ。
ちょっと昔俺が世話焼いてた事もあって、俺がシグマを調べようってタイミングで聞いてきたんだ。
………調べよう、というのは?
ここからは他言無用だが、と付け足した上で教えてくれる。
さっきも言った通り奥村一家はこのシグマという男に狂わされている。
散々イカれた人間や犯罪者を扱ってきたが、その中でも特にイカれてた。
驚くべきは、その一年前は普通の家族だった事だ。
奥村蓮の会社の同僚、奥村節子が近所付き合いしていた隣人、奥村恵の同級生……
聞き込みをしても、本当にここ一年で可笑しくなっていったと。
明らかに異常だった。
散々イカれた人間や犯罪者を扱ってきたが、その中でも特にイカれてた。
驚くべきは、その一年前は普通の家族だった事だ。
奥村蓮の会社の同僚、奥村節子が近所付き合いしていた隣人、奥村恵の同級生……
聞き込みをしても、本当にここ一年で可笑しくなっていったと。
明らかに異常だった。
シグマが壊したんだ。