SILVERMOON

あなたのもとへ

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mayusilvermoon

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「レオナード様!ただいま帰ってきました。」

金の曜日の夕方にさしかかろうという時刻、
宇宙への旅を終えたその足でエンジュはレオナードの執務室に訪れた。

「よ~ォ、エンジュ。相変わらず元気が有り余ってるようだなァ。」

「えへへ。元気だけが取り柄ですから。」

久々に想い人の顔が見られたうれしさからかお互いニコニコ顔で言葉を交わす。
めずらしくレオナードが執務室の机に向かい仕事をこなしている事も、エンジュにとってはうれしさを倍増させる要因だった。
実のところは数日分ため込んだ仕事を一気に片付けているだけであるのだが。

「もうすぐこっちも片付くからちょっとだけ待ってろ。」

そうエンジュに声をかけたのちに、レオナードは再び書類へと目を落としサラサラとサインを走らせている。

「はい。あ、じゃあコーヒー入れてきますね。」

「おう、サンキュ。」

レオナードの声を後ろに聞きながら、執務に集中している彼を邪魔しないようにエンジュはそっと私室のキッチンへと向かった。



「よし、今週分は片付いたな。」

レオナードは椅子から立ち上がり大きく伸びをする。

「じゃあこれ、レイチェルんとこ頼むぜ。」

「かしこまりました。」

守護聖補佐に先ほどの書類の束を渡し、レオナードは軽くウインクをする。

「それでは、わたしはこれで。」

「ああ、よろしくな。」

要するに、邪魔をするなという合図である。
すっかり心得ている守護聖補佐は軽く一礼し退室していった。



「やれやれ、や~っとゆっくりできるぜ。」

仕事も終え、ていよく部下も追い払ったレオナードは私室へのドアを開けた。

「あ、レオナード様。ちょうどコーヒーがはいりましたよ。」

「あァ…」

タイミングよくエンジュがキッチンからトレイを持って出てくるところであった。
にっこりとレオナードにほほえみかけるエンジュ。
レオナードは黙り込み、その様をただぼんやりと見つめる。
柄じゃないとわかっていながらもエンジュがこうしてそばにいることで、レオナードは自分の乾いた心が満たされていくのを感じていた。

ずっとここにいてくれりゃあどんなにか…

「レオナードさま?」

「あ、あァ、何でもねェよ。さて…、と。聖天使サマのありがたいコーヒーをいただくとしますか…ってな。」

「もう、別に普通の味ですよ~。」

切り替えの早さはさすがというべきか、レオナードはすぐさまいつものペースに戻し、エンジュをからかいながらソファへと腰かけた。



コーヒーを飲みながら、宇宙で見てきたことなど会えない間にあったことなどとりとめもなく言葉を交わす。
こうして二人で話し込んでいると時間があっというまにすぎてしまうもので、気づけば外はもう夜の帳が下り始め、宮殿内の人の気配もずいぶんと減っているようだった。

―そろそろ帰る時間か……

頭ではわかっているのだが、もう少しだけ彼女と一緒にいたいという思いがあり、レオナードはそれを切り出せずにいた。
その思いはエンジュも一緒なのか先ほどから時折何か言いたげなまなざしを向けるもののなにも言わないままだった。

「ん?」

エンジュへの言葉を探しながらなんともなしに室内を見回していたらふと目に入るものがあった。
ソファの横にちょこんとおかれたトートバッグ。
エンジュがよく持ち歩いているものよりは一回り大きいものだ。

「どっか、行くのか?」

「えっ?」

「カバン、いつものより大きいやつだよな?」

そういって先ほどのバッグを指差す。

「あ、その…。」

レオナードの問いかけにエンジュは言葉を濁す。
心なしか頬を染めてもじもじしている。

「ん?なんだァ?俺様には言えねェコト?」

責めているつもりはないのだが、エンジュが何か隠しているのかと思うとついつい語調が荒くなってしまう。
エンジュの全部を知っておきたいし、本当ならずっと自分のそばに置いておきたいほどなのである。
それをしないのは、彼にしては相当にめずらしい事なのだが、まだ幼すぎるエンジュとその置かれている立場のことを思い、踏みとどまっているだけなのだ。

「いえ、あの……週末だけでも……、レオナード様とずっと一緒にいたいなって思ってですね、えっと……。」

恥ずかしさで顔を見られないのか、うつむいたままもごもごと告げるエンジュ。
表情はうかがえないが耳のあたりまで真っ赤になっているのがわかった。
予想外のエンジュの大胆発言に当のレオナードはぽかんとした表情で言葉を失っていた。

―コイツ、俺の館に泊まろうってのか?

「あの……だめ、ですか?」

頬を染め上目がちに自分をうかがうエンジュの様子は恋する乙女そのもので、
レオナードは今更ながら彼女が聖天使である以上に一人の少女であり自分の恋人であるということを再認識させられた。

「だめなわけねーだろ?」

恋人のかわいすぎるお誘いに、今すぐにでも襲いかかりたい衝動がわきあがるが、そこはぐっと抑える。
そして、レオナードは隣に座るエンジュの肩を抱きよせ、耳元にささやいた。

「ずっと一緒にいたいのは俺だってそうなんだからよ、歓迎するぜ?」

「レオナード様!」

ほっとしたような表情でエンジュは再びレオナードを見上げた。
二人の視線が交差する。

「イヤだっつっても絶対に帰さねェよ。」

「はい、絶対帰さないでくださいね。」

念を押すエンジュへの返事の代わりに、レオナードはエンジュのうっすらと開かれた唇に口づけをおとした。

外はもう、随分と暗くなっている。

だが、二人の夜はまだまだはじまったばかりであった。






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