SILVERMOON

ウワサノフタリ

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 女王試験も中盤にさしかかったある真夜中、女王候補の一人レイチェルの部屋にはまだ明かりがともっていました。 
「う~ん…なにがいけないんだろ…」
 育成中の宇宙について調べている最中です。
 というのも、最近惑星がなかなか出来ないのです。このままではもう一人の女王候補アンジェリークに追い越されてしまうかもしれません。そんな危惧がレイチェルの頭に思い浮かびます。
 アンジェリークとはすっかり親友となり、彼女の秘められた実力も認めています。
 彼女のために女王補佐官になる。
 そういうストーリーを思い描いて悪くないかも…と思ったりもしていました。ですが、やっぱり天才少女と言われただけの自信というのも少なからずあります。
 簡単には負けていられない。
 大好きなアンジェのためにも全力を尽くすつもりです。
「あいつなら…わかるかな…」
 そんなそぶりを見せたことはないけれど、彼女が宇宙研究において唯一認め、そして淡い恋心を抱いている彼のことを考えてしまうレイチェルでした。
 素直に相談に行けば彼は研究院主任として女王候補の力になってくれることでしょう。でも彼の前ではつっぱってしまう、こと恋愛に関しては不器用なレイチェルなのです。
 しかも相手が相手だけに、知り合ってから結構時間もたっているにもかかわらず全くといって進展しない二人で、周りだけがやきもきしている状態です。 

 そうこうしているうちに空も白んできました。
「やばっもう寝なきゃ…惑星のほうは明日ルーティスのところに行って聞いてみよう…」



 そして翌朝…
 寮の食堂で二人の女王候補が朝食を取っています。いつもはきりっとしているレイチェルが今朝はなんだかぼ~っとしています。
 無理もありません。昨日はほとんど眠れなかったのです。
 そんな様子を察してかアンジェリークが心配そうにたずねます。
「レイチェル…遅くまで勉強していたの?」
「え…ま、まあね…でもワタシは平気だよっ! なんてったって天才なんだから!」
「うん! そうだよね! …でも…あんまり無理しないでね…」
「心配してくれてありがとっアンジェ♪ だからアンジェって好きだよっ☆」
 アンジェに対してはとっても素直になれるレイチェルです。
「えへっ…一緒にがんばろうね。レイチェルは今日何をするの?」
「うんルーティスに会いに行くつもりだよっ」
「わたしは学習をするつもり。」

 女王候補の新しい1日が始まります……!!



 レイチェルが王立研究院にやってきました。同僚の研究員たちが温かく迎えます。
「やあ! レイチェル! 久しぶり。元気でやってるかい?」
「レイチェル! がんばっているみたいだね!」
 王立研究院のメンバーが宇宙の女王候補に選ばれたのです。彼女は研究員たちの誇りでありあこがれです。
 そして女王試験の協力者として選ばれた、主任であるエルンストももちろん彼らの誇りでありあこがれで、ひそかにこの二人の恋の行く末を応援しているものが少なくありません。
 それは全く当人たちの知らないところではありましたが…
「やっほーみんな元気してた?」
 レイチェルがみんなに明るく声をかけます。…そしてエルンストにも…。
「元気?」
「ええ。見てのとおりですよ。ようこそ王立研究院へ、レイチェル」
 相も変わらずの事務的な対応。レイチェルは少し寂しく思います…。
「…ルーティスに会いたいんだけど?」
「…少し顔色が悪いようですが…? 今日のところは帰られたほうがいいかと…」
「ハートならちゃんとそろってるよっ!」
 レイチェルの体調が悪いことを、他の研究員たちは気づかなかったことを、エルンストはちゃんと気づいていました。しかしレイチェルはその前に冷たくされていることで頭に血が上ってそんなことは全く気づきません。
「…そうですか。そこまで言われては私もとめる権限はありませんね。…ですがくれぐれも注意してくださいよ? 別宇宙にいくにはひどい体力の消耗を伴いますからね」
「わかってるってば。さあ、あけて」
「では…扉を開きますよ!」
 レイチェルは扉の向こうの光の中へととけ込んでいきます…
「気をつけて…」
 誰にも聞こえないくらいの小さな声でエルンストがつぶやきました。



「遅いですね…」
 いつもなら戻ってくる時間をとっくに過ぎているのにレイチェルが帰ってきません。
 ふとエルンストの脳裏に先ほどのレイチェルが思い浮かびます。そういえばレイチェルが土の曜日以外に新宇宙へ行くことは初めてです。
 惑星が最近出来ていないのはルーティスの望みの予測が出来ないからなのか…
 いつもより顔色が悪かったのは深夜まで原因を追求していたから…?
 エルンストの思考がひとつの答えへとたどり着きます。
「まずい…!」
 そう言うや否やエルンストは新宇宙へと続く扉へと向かっていました。
「主任!?」
 研究員たちが慌てて呼び止めます。たとえ研究院主任といえど、よほどのことがない限り新宇宙へ行くことは許されてはいません。
「レイチェルを連れてきます。」
 そうきっぱり言い放ったエルンストの真摯な表情から研究員たちはすぐさま事態を把握しました。やっぱり主任はレイチェルのことが…と一同は(勝手に)確信しました。
「「「はいっ。こちらの対処はお任せください!」」」
 すっかり二人の応援団の研究員たちでした。



「レイチェル!! いたら返事してください!!」
 ここは新宇宙。エルンストがレイチェルを探していますがなかなか見当たりません。
「レイチェル…」
 言いようのない不安がエルンストを支配していきます。
 もし彼女の身に何かあったら…わたしは…。
「ん…あれは?!」
 目の前に光の霊が近づいてきます。
「もしやルーティスなのですか!? レイチェルの居場所を案内してくださると…!?」
 返事も確かな実体もありませんが、もはや頼るものは何もなくすがる思いでついていくことにしました。
「レイチェル…今行きます…」



 エルンストは光の霊の導きでレイチェルの元へとたどりつきました。体調が優れない上に、新宇宙へ向かった負担でしょうか、レイチェルは倒れ、起きることが出来ないようです。
「レイチェル…全く、無茶をするからですよ」
 そう言いながらエルンストはレイチェルを抱き起こします。
「う~ん……!! エ、エルンスト!?」
「どうですか? 気分のほうは…」
「うん…迎えに来てくれたんだ…ありがと」
 いつになく優しくいたわるように声をかけるエルンストに、やはりいつになく素直にこたえるレイチェルでした。 
「さあ。帰りますよ」
 そういってエルンストはレイチェルを軽々と抱き上げました。
「え?! ちょ、ちょっと??」
「少し我慢してください。こんな状態のあなたを歩いて帰らせるわけには行きませんからね」
 こんなおいしいシチュエーションを正当化するためか、はたまた自分の気持ちを押さえるためか、まるで自分に言い聞かせるようにきっちりと理由付けるのはやはりエルンストらしいというところでしょうか…
 そんなところがレイチェルにはちょっぴり寂しいところでもあるのですが。
「……そうよね。女王候補だもんね」
「女王候補でなくても…いえ…なんでもありません」
 すねるようにつぶやくレイチェルにエルンストはつい本音がこぼれそうになり、あわてて訂正しようとします。けれどレイチェルにはしっかり聞こえていました。
「エルンスト…」
 ここなら誰も見ていないという安心感も手伝ってか、レイチェルはうれしさのあまりエルンストの首に両腕を絡めます。
「うわっ!?だ、抱きつかないでくださいっ」
 これにはやはりうろたえまくるエルンストですが、レイチェルはお構い無しです。
「ありがと……ね……」
「………レイチェル??」
 どうやらそのまま眠ってしまったようです。



 研究院へ帰りつくころには、エルンストの腕の中がよほど心地いいのか、レイチェルはすっかり眠りこけていました。
「おかえりなさい。主任」
 研究員たちがあたたかく迎え入れます。
「しっ…。よほど疲れているのでしょう…彼女が眠っていますから…」
「レイチェル…無理をして…」
 みながレイチェルのことを心配しています。そして研究員の一人がいいました。
「ひとまず研究院の裏手の宿泊棟に連れて休ませてあげてはどうでしょう?」
「そうですね…きっと彼女のことだから事が公になるのは本意ではないでしょう。では、だれか…」
 そういってエルンストは研究員たちを見まわします。
 しかし…
「「「行ってらっしゃい主任!! こちらのことはお任せください!!」」」
 エルンストが連れていって当然、というような反応しか返ってきません。さすがのチームワークです。こんなときくらいしか二人の仲が進展しそうもないことを皆わかっているのです。
「……わかりました。アンジェリークが来たら明日以降に来るように伝えておいてください」
「「「ごゆっくり~」」」
(なにが”ごゆっくり”なんだか…)
 心の中で部下たちに悪態を吐くエルンストでありました。



 そしてところ変わってエルンストの私室です。なにやら苦戦している模様のエルンストがいました。
「まったく…何故このような機能的でないものを履いているのか…」
 どうやらレイチェルのロングブーツを脱がせるのに手間取っている様子です。
 悪戦苦闘の末、ブーツを脱がし終えて、レイチェルをベッドに横たえます。ふと目をやると実に無邪気で幸せそうな寝顔です。
 こうやって黙って眠っているところをみればやはり16歳の少女、か…
 いつもは彼女が天才であるがゆえについ対等に扱ってしまっているエルンストですが、今日ばっかりは彼女の弱さに気づかされます。こんなにも若いのに新宇宙の女王候補という重責を負っているのです。本人は認めたがらないでしょうが心労もあることでしょう。
「レイチェル…」
 ちいさくそうつぶやくとエルンストはそっと彼女の頬に触れました。そして…




 レイチェルはずっと夢を見ていました。
 それはとてもとても幸せな夢… 
 自分が眠れる森の美女でエルンストが王子様。大好きなエルンストにキスで起こしてもらうところで夢はおわってしまいました。

 それは夢なのにひどく現実的で…





「ん…あ、エルンスト?」
 これは夢のつづき…?
 目を開けるとそこには至近距離でエルンストの顔がありました。
「ああっ、レイチェル!? 目がさめましたか…?」
 慌ててレイチェルから離れ、ずれてもいない眼鏡を直し出すエルンストです。
「??…へんなエルンスト…」
 けれど、なんだか悪い気はしませんでした。
 そして、すっかり体調の回復したレイチェルは自室に戻ることにしました。
「ありがとエルンスト。もう大丈夫だから帰るね」
「ええ。では送っていきましょう」
 宿泊棟を2人連れ添って出るところを見ている人がいたなんて全く気づいていないエルンストとレイチェルでした。

「女王候補とかつての同僚との密会か~!これはスクープやで~」



 翌朝レイチェルが朝食の場に現れるとアンジェリークが血相を変えて駆け寄ってきました。
「レイチェル!! こんな所にいていいの!? 準備とか…あの…その…」
「はあ? どういうこと??」
 サッパリ訳のわからないレイチェルですが、アンジェリークは続けます。
「わたしはなにがあってもレイチェルの味方だからね。レイチェルが決めたことだったら止めないよ…だから…」
 話しながら悲しくなってきたのかアンジェリークはぽろぽろ涙をこぼします。
「ちょ、ちょっとどうしたんだよ?! わたしが何を決めたって??」
「昨日ね、庭園でみなさんがうわさしているのを聞いたの…」
 えぐえぐ泣きながらも訳を話し始めます。
「レイチェルがエルンストさんといい仲で、駆け落ちするって…エルンストさんがレイチェルを抱きかかえて自分の部屋に連れ込んでったって…」
「はあ~~~???!!!」
 どうやら昨日の出来事を複数のものが目撃して、その噂話を総合して尾ひれをつけた結果のようです。聖地にはめずらしい色恋沙汰のうわさ話はなかなか収まってくれず、レイチェルとエルンストは誤解を解くのに相当苦労したとか…




 ……そして後日談……


「まったく…今回の件はお互い災難でしたね…」
 ここは研究院の休憩所。レイチェルとエルンストがお茶を飲んでいます。もちろんほかの研究員は気を利かせて席を外しています。その周到な気の利かせようは、噂の発信源はあななたちでは?とエルンストに疑惑の念を抱かせてしまうほどです。
「まあね…でも悪くなかったかもね」
「え…?」
 意外なレイチェルの返答にエルンストは聞き返します
「だって、こうやってエルンストとも自然に話せるようになったし、エルンストの恋人だったら…うれしい誤解…だよ…」
 そういったかと思うと、レイチェルはソファから身を乗り出してテーブルのちょうど反対側に腰掛けているエルンストの唇に自分の唇を軽く触れ合わせました。
「なっ、なっ…!!??」
 すっかりパニックのエルンストにレイチェルはウインクして平然とこたえます。
「ワタシのファーストキスを奪っておいてその態度はないんじゃない?」
「初めてだったとは…はっ…!!いや、その」
 見事にレイチェルの誘導尋問に引っかかってしまったエルンストで…

 あのとき…レイチェルを自室で休ませているとき、レイチェルの寝顔を見つめているうちに愛しさのあまりついキスをしてしまったのでした。思えばこのとき初めてエルンストは自分がレイチェルのことを好きなことに気づいたのでありました。
 しかし彼女は女王候補…
 このキスと自分の想いは心の中にしまっておこうと思っていたのですが…
「やっぱり、あれは夢なんかじゃなかったんだね…」
 先ほどとはうって変わって真剣な面持ちでエルンストを見つめるレイチェルの表情はまさに恋する乙女そのものです。そんな彼女の表情をはじめてみたエルンストはなんだかどぎまぎしてしまいます。でも、どぎまぎしながらも彼女にこんな表情をさせられるのは自分だけだろうかと思うとうれしかったりもします。

「3回目は…エルンストから…して」
 そう言ってそっと目を閉じるレイチェル。
「レイチェル…」
 優しく、そして甘く、愛しい人の名をささやきながら、彼女の肩に手を置き、ゆっくりと顔を近づけていきます…。
「エルンスト、安定度の件で聞きたいことがあるんだが…」
 突然ドアが開けられ、二人は硬直してしまいます。そのときの体勢はどう見てもキスをする寸前で、弁解の余地は全くありませんでした。
「あ…いや、その…邪魔をした」
 そういって声の主ヴィクトールはくるりときびすを返し部屋から立ち去ろうとします。
「ま、待ってくださいっ…」
 思わず呼び止めてはみたものの、どうしていいのやらわからないエルンストであります。
「大丈夫だ。俺は何も見ていないし、誰にも言わん。安心してくれ」
 見られたのがヴィクトールでよかったと思わずホッと胸をなでおろす2人でした。
「恩に着ます。もうあんな騒ぎはこりごりですから」
「しかし、噂話は当てにならんと思っていたが本当だったとはな。…で、いつなんだ駆け落ちは」
「「しませんっ!!!」」

 最後まで誤解されている二人でした。

 おわり


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