SILVERMOON
アイはうらはら
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アイはうらはら
新しい炎の英雄が誕生して、幾日かの日々がたち、それに賛同する仲間達もどんどんとやってきて、ここビュッデヒュッケ城も炎の英雄と炎の運び手達の本拠地としてずいぶんと定着してきていた。
これはそんなある日の出来事である。
メイミの経営する湖畔のレストランは、景色の良い屋外で食事の出来る場所として、特に昼は数多くの客が訪れる場所である。
そして喫茶メニューも豊富であり、雰囲気も申し分ないということで、今日のような天気の良い昼下がりはここでデートというカップルの姿がよく見られるのだった。
しかし、
いかにもデート日和というこんな日のこんな時間だというのに客は一人だけ。
しかもその客はため息をつき、終始難しい顔をしている。
しかもその客はため息をつき、終始難しい顔をしている。
その雰囲気に圧倒されてかなかなか他の客が寄り付かない…という訳である。
そこに一人の女性がやってきた。
「あら…めずらしいわね…一人なんて。」
彼女は、一人業務妨害をしているその客に近寄っていった。
「はぁ……」
サロメは今日何度目かのため息をつく。
このような雰囲気のよい場所に行けば気分も晴れて考えもすっきりまとまると思い、メイミのレストランにやってきたのだが、いつまでたっても考えはまとまらないし、当然気分も晴れない。
とりあえず、と注文した飲み物もすっかり冷めてしまっていた。
「どうかされたんですか?」
ふいに頭上から声をかけられ、サロメは顔を上げる。
そこには、穏やかな微笑を湛えたアップルの姿があった。
そこには、穏やかな微笑を湛えたアップルの姿があった。
「アップル殿。い、いえ…何も」
サロメは慌てて取り繕うが、サロメが悩んでいることなどアップルにはお見通しである。
「何もない人がため息なんてつかないですよね。私でよかったら相談にのりますよ」
アップルはそういうと向かいの席に腰掛けた。
「お気遣い…痛み入ります。」
実際のところ、自分だけではかなり行き詰っていたのが事実なので、サロメはアップルの申し出をありがたく受け入れた。
「実は……」
「は?」
アップルは聞き返す。
「ですから…私は上司に嫌われているのではないかと…」
「上司…ってクリスさんのことですよね?」
「はい」
「そんなことないと思うんだけど…」
アップルは首をかしげる。
ゼクセン代表として連日の軍事会議にやってくるのはいつもいつもサロメであったし、それはクリスがサロメに全幅の信頼を置いている現われだと思っていた。
それに、クリスの様子を見るに、好意こそあるとしても、まさか嫌っているとは到底思えなかった。
「ですがっ…!」
サロメは強い語調で反論する。
それはいつものサロメらしからぬ物言いで、本気で悩んでることをうかがわせた。
それはいつものサロメらしからぬ物言いで、本気で悩んでることをうかがわせた。
「何か思い当たる節があるんですか?」
「はい。」
ぽつりぽつりとサロメが話し出した…
先日のことです。
私はゲド殿と酒場で酒を飲み交わしておりました。
「この間の件はありがとうございました。あわただしかったゆえゆっくりと話す機会もなくて」
「礼には及ばん…ワイアットのお墨付きだからな。協力は惜しまない。」
「そうおしゃられますな。
ゲド殿のおかげでここを守れ、ゼクセンとハルモニアの内通を断ち切ることが出来ましたからな。
ここの代金は私持ちにさせてもらいますぞ。」
ゲド殿のおかげでここを守れ、ゼクセンとハルモニアの内通を断ち切ることが出来ましたからな。
ここの代金は私持ちにさせてもらいますぞ。」
「それは助かるが…」
「……」
「……」
ゲド殿はご存知のように寡黙な方です。
それに、あまり人に聞かれたくない話だったので、酒場の片隅で小声で話しておりました。
それに、あまり人に聞かれたくない話だったので、酒場の片隅で小声で話しておりました。
「………どうやら用事があるようだな」
ゲド殿がめずらしく口許を緩めてそうおっしゃいます。
「は?」
何のことか分からずに聞き返すと、ゲド殿は周りに分からないように私の後ろを指差しました。
ちらりと振り返って見ますと、クリスさまが騎士たちと座っていらっしゃったのです。
ちらりと振り返って見ますと、クリスさまが騎士たちと座っていらっしゃったのです。
そのこと自体はよくあることなので全く問題はないのですが…
クリスさま…こちらを睨んでいまして……
あわててクリスさまのもとへと駆け寄って、”何かございましたか?”ときいたものの…
「知らない!」
の一点張りで…
ほとほと困っている私に対して
「いい酒の肴だ。」
ゲド殿はそう言って一人で飲み始めるし…クリスさまはクリスさまで私の問いには答えてくださらないし…
「う~ん…それだけじゃ嫌われているってことにはならないと思うけど?」
そこまで聞かされて、アップルはまたもや首をかしげる。
「…まだあるのです…」
どうやら思い当たる節は他にもあるようで、サロメは再び話し出した。
これはまたそれから数日後のことです。
私はクリスさまへ午後の紅茶をもって行こうと、執務室へ急いでおりました。
その道すがら、私はナッシュ殿に呼び止められました。
その道すがら、私はナッシュ殿に呼び止められました。
「サロメ殿…」
「おや、ナッシュ殿…どうされました?」
「実は……」
「なっ…それは本当ですか?」
ナッシュ殿はハルモニアの情報をお持ちの方です。
私はナッシュ殿と時間を忘れて話し込んでいたのです。
ほんの目の前には執務室があったのですが、ナッシュ殿もお忙しい方なので、結果的にはクリスさまを随分とお待たせしたようでして…
ほんの目の前には執務室があったのですが、ナッシュ殿もお忙しい方なので、結果的にはクリスさまを随分とお待たせしたようでして…
かちゃ
ドアの開く音が聞こえ、私たちは会話を止め、振り向きました。
振り向いた先にはクリスさまです。
振り向いた先にはクリスさまです。
「やあクリス。」
いつもの調子でナッシュ殿がクリスさまに声をかけます。
「ナッシュ…サロメと何を…?」
「いや、ほんの世間話ですよ。」
「世間話?」
「そうそう。そんなに睨むと美人が台無しだ。サロメ殿もあきれてますよ」
「なっ!!」
「わ、私はそんな!」
当然ですが私はクリスさまに対してあきれるなんてことはありませんし、あわてて否定の意を唱えました。
しかしナッシュ殿は聞いてるのかいないのか…私の言葉などおかまいなしでして…
「では邪魔者は退散しましょうか。どうやらお姫様は待ちきれなかったようだ。サロメ殿はお返ししますよ。」
ひらひらと手を振って、冗談交じりにナッシュ殿はその場を立ち去ろうとします。
「ナッ、ナッシュ!!!」
何を怒っていらっしゃるのか、クリスさまは真っ赤になってナッシュ殿を引き止めて、二人は廊下の片隅でなにやら小声で話し込んでいます。
「あてっ」
何度か言葉を交わした後、
クリスさまにこつかれて大げさに痛がりながら、去っていくナッシュ殿に
クリスさまにこつかれて大げさに痛がりながら、去っていくナッシュ殿に
「自業自得だ。」
と、クリスさまはそのようにおっしゃっていました。
「クリスさま…一体何を話されていたのです!?…」
「なっ!何でもないっ!!!」
一体何を話していたのかとクリスさまに聞いたのですが、
クリスさまは真っ赤になってそう怒鳴って、そっぽを向く始末。
クリスさまは真っ赤になってそう怒鳴って、そっぽを向く始末。
その後紅茶を飲んでいる間も終始むすっとされてまして…
後になって、
ナッシュ殿に話の内容を聞いても、最重要機密事項だからと取り合ってもらえないのです。
ナッシュ殿に話の内容を聞いても、最重要機密事項だからと取り合ってもらえないのです。
「へえ…。最重要機密事項ねぇ…」
アップルはこみ上げてくる笑いをこらえて、つとめて冷静に受け答えする。
「そうなのです……それから………」
「ふうん。なるほどね~。」
半ばあきれ気味にアップルは相槌を打つ。
その後、サロメのいう”思い当たる節”をさんざん聞かされた結果だから、アップルといえどあきれるのも仕方ないことだろう。
「私には、何がクリスさまのご機嫌を損ねているのかがさっぱりわからないのです。」
「そ、そうね…」
深刻な様子のサロメに対し、アップルはどう返答しようかと考えあぐねていた。
「アップル殿…同じ女性である貴殿なら何か分かるのではありませんかっ!?」
わらをも縋るといったところだろうか、サロメは身を乗り出さんばかりの勢いで、向かいに座るアップルへ詰め寄る。
「え、え~と…」
ズカズカズカ
「サロメっ!!」
サロメの頭上に怒号が響く。
何事かとサロメが振り返ると、サロメの悩みの張本人であるクリスが立っていた。
何事かとサロメが振り返ると、サロメの悩みの張本人であるクリスが立っていた。
「クリスさま!?」
「評議会から書類が来ているぞっ!」
その様子はサロメから見るとやっぱりご機嫌斜めのように見えてしまう。
「はい!今すぐ」
”ああ…やっぱり…”
と思いつつもこれ以上怒らせるわけにはいかないと、サロメは姿勢を正し、即答する。
「ほら、早く!」
待ちきれないのか、クリスはサロメの手をとると、くるりときびすを返し来たときと同じく急ぎ足で去っていった。
そんな二人を唖然として見送るのは一人残されたアップルである。
そしてぽつりと本音を漏らす。
「これって…どう考えても…やきもち…ね」
これはサロメへの返答でもあったのだが、当然サロメに聞こえるはずはない。
「ブラス城にいるときは独占していたんでしょうね…」
そう考えるとクリスの行動の数々は全て納得のいくもので…
「やれやれ…すっかりあてられちゃったわね」
そうつぶやいてアップルは席を立ち、大きく伸びをする。
そして二人が去っていった先を見やる。
そして二人が去っていった先を見やる。
「ご愁傷様、フフっ…。」
真剣に悩んでいるサロメには悪いのだが、あまりのほほえましさに笑わずにはいられないアップルだった。
そんなわけで、
サロメの悩みが解決するのはまだまだ先のようである。