SILVERMOON

終点と起点~S side

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mayusilvermoon

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終点と起点~S side











「この戦いが終わったとしても…」

最近よく考えてしまう。


わたしは何も変わらずにありたい

彼のひとが真の紋章の恩恵……いや、呪縛から解き放たれないとしても





「終わりましたな…。」

窓の外からはわずかながらの月の明かりが差し込んでいる。
月の高さからもうずいぶんと夜も更けてしまったことがうかがわれた。


「そうだな…。」

私の言葉にクリス様はそう一言だけ返すだけであった。

長かった戦いもついに終わりを告げ
山積みの書類も片付き、
ようやくひと息ついたところだった。

クリス様は終始伏し目がちで、
ティーカップを両手で包むように持ちゆっくりと紅茶を飲んでいる。
その仕草は、何か言いたくて、けれども言い出せず思案している
そんな風に私には映った。

私もクリス様にかけるべき言葉を模索して
所在無さげに面白くもなんともない窓の外などをみている始末である。

おそらく、明日からはまたいつもどおりの”ゼクセンの騎士”としてのの日常に戻っていくだろう。

だが…クリス様は…



きっと思い悩んでおいでなのだろう…

クリス様の負担を軽くしたくて、何か言わなくては…と思いあせり、

「サ、サロメ…
「クリス様…

クリス様が何か言おうとされているのを邪魔してしまう結果である。

「サロメから言って」

「い、いえ、クリス様からどうぞ」

クリス様の気遣いにあわてて譲ったものの
互いの間の悪さにおかしさがこみ上げてしまう

そして

「ふふっ。」

クリス様の笑みをきっかけに

「参りましたな…」

ついつい苦笑してしまった。



「ではわたしから言うよ。」

クリス様はじっと私を見据えられた。
先ほどの会話で少々気が楽になったもののその真剣な面持ちに身が引き締まる思いがする。


「……お前は、ゼクセンに…わたしの許にずっといてくれるか?」

「もちろんです。クリス様がそうお望みであれば…。
私が忠誠を誓うのはあなただけです」

私はなにを当然の事を…とすんなり答えたのだが
どうやらクリス様にはそれを分かっていただけなかったようで、

「忠誠を誓ったからと…そんな言葉に縛られなくてもいい…。」

「え?」

そんな思いもよらないことを言われるものだからわたしは一瞬聞き間違いかと問い直した。

「おまえのしたいようにすればいい。」

「クリス様、おっしゃる意味が…」

「父もわかってくれる。いつまでも…私に縛られなくても…いい…から。」

紡ぐ言葉も絶えがちにクリス様はうつむく。

「クリス様…」

表情は読み取れないがクリス様のその仕草と言葉で
わたしははようやくクリス様の真意を読み取ることができた。



―ああ。この人は…

 私が、あなたがワイアット様の娘だから支えてきた…と、そうお考えなのか



少しでもクリス様の不安をやわらげたくて
私はクリス様の傍らへと進みクリス様の肩に手を置きクリス様へと話しかける

「私はいつでも自分のしたいようにしておりますよ。」

「サロメ…」

見上げるクリス様の瞳を見つめ、私は私の意思をゆっくりと伝えた。

「あなたがワイアット様のご令嬢であることや、
真の紋章を宿しておられること…

そんなことは関係なく、
クリス様…あなただから私はこうしてお側にいたい…と考えるのです。」

口調はあくまでもやさしく、だがこの思いをきちんと伝えたくて
ゆっくりと、そしてはっきりと諭すようにクリス様に話しかける



「そうか…」

クリス様はゆっくりと頷き、私の手に自身の手を重ね合わせる。
その手のぬくもりを感じながら、手放したくない…
そのような邪な思いに駆られそうになる

そんな思いを振り払い、クリス様に確かめる。

「クリス様こそ…これからもゼクセンに、騎士団長としていてくださいますか?」

「ああ。そのつもりだ。」

「…重荷にはなっていませんか?」

「もう、大丈夫だ。民の望む騎士となろう」

「クリス様…」

「わたしは騎士であることに誇りを持っている。それ以外に考えられない…」

はっきりとそういうクリス様からは強い意志が感じられた。


「ただ…な」

そう言葉尻を濁し、クリス様は右手を掲げる。
そこにはワイアット様から受け継がれた真の紋章が鈍い光を放っていた。

「これは…わたしには重過ぎるよ…」


その言葉を聞いたとき、
わたしは自分の立場だとか、そんなことを考える余裕など吹き飛んでしまった。

「クリス様…」

ただ、彼女への想いがどうしようもなく湧き上がり、私はクリス様を後ろから抱きすくめてしまうのだった。







これから、私たちはどうなっていくのだろうか……

わたしの想いは変わることはなく、

そして

いつも通りの日常が続くに違いないのだけれど

きっと


新しいふたりがはじまることだろう。


今までの間柄には終わりを告げて……








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