SILVERMOON
HAPPY HAPPY BIRTHDAY
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mayusilvermoon
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HAPPY HAPPY BIRTHDAY
「ふぁ……」
とあくびをひとつかみしめながら、クリスは読んでいた本を閉じる。
「もうこんな時間か…」
ちらりと部屋の時計を見る。
時刻はもう新しい1日を告げようとしている。
時刻はもう新しい1日を告げようとしている。
そろそろ休もうかと、そう思ったとき、
コンコン
小さいノックの音がする。
「…誰だ?」
わずかに扉を開け、訪問者を確認する。
「サロメ…?」
そこに立っていたのはサロメであった。
「クリス様。夜分遅くにすいません。」
「構わないさ。たまにはな」
申し訳なさそうにするサロメに対し、クリスはすんなりとサロメの訪問を受け入れた。
よほどのことがない限り、こんなことをしないということが分かっていたからである。
よほどのことがない限り、こんなことをしないということが分かっていたからである。
ただ、今日ばかりはよほどの理由があってのこと、という訳ではないのだが。
それを思うと自分を信頼してくれているクリスに多少なりの罪悪感が生じてしまい、このように恐縮している次第のサロメである。
「今日は、どうしたんだ?」
クリスがサロメに切り出す。
「どうしても、誰よりも早く伝えたいと思いまして…」
「…?」
サロメの言葉の意図が読み取れず、クリスは首をかしげる。
「そろそろ時間ですな。」
サロメは懐中時計を取り出し時刻を確認する。
「そろそろって?」
(そういえばもう日付が変わるが…)
「クリス様。お誕生日おめでとうございます。」
「……」
サロメの言葉にしばしぽかんとするクリス。
(誰よりも早く伝えたいって…この事なのか??)
そんなことで、わざわざ部屋に来るとは、いつものサロメからは思いもよらないことである。
「そうか。忘れていたよ。今日はそうだったな…」
そして思いもよらなかったことだから、嬉しさが心に広がる。
「ありがとう」
そう言って、サロメにふわっと微笑み返す。
そういえば、と
クリスは思い起こす。
毎年、サロメがこうやって自らの誕生日を祝福してくれていることを。
ここ数年はいつもいつもお前に気づかされているのだな……
数年前―
ゼクセン騎士団の一部隊は演習の目的で、国境近くまで進軍し、野営をする運びとなった。
皆が寝静まる中、南方の見張りを任せられたクリスは、一人火の番をしていた。
木の幹にもたれながら、揺らめく炎をじっと見つめる。
木の幹にもたれながら、揺らめく炎をじっと見つめる。
「クリス殿…」
ふいに自分を呼ぶ聞きなれた声にクリスは振り返る。
「サロメ殿か、貴方との交代の時間は1時と伺っていたが?」
サロメはクリスと共に一小隊を任されており、未だ若いクリスを様々な面でサポートするという役割を担っている立場にあった。
そのサポートは的確でクリスは彼に全幅の信頼を寄せ、そして感謝していた。
そのサポートは的確でクリスは彼に全幅の信頼を寄せ、そして感謝していた。
「すこし、寝付けませんで…」
そんな言い訳めいた言葉を返し、焚き火に1つ薪をくべる。
「それと、貴女にお伝えしたいことがありまして…」
そう言って、サロメはクリスの顔をじっと見る
「私に?」
何か?…とクリスは首をかしげる。
「ええ…。」
と頷くサロメ。
「聞くと今日は貴女の誕生日とか。」
「そうだったか??」
思いがけない言葉に、クリスは目を瞬かせる。
「ええ…たった今そうなりましたな。」
懐から出した時計を見やり、サロメがそう答える。
「すっかり忘れていたよ。余裕がまったくないようだ。」
クリスは苦笑をこぼす。
小隊を任された進軍は初めてのことであったので、自分が気づかないうちに相当気が張っていたようである。
小隊を任された進軍は初めてのことであったので、自分が気づかないうちに相当気が張っていたようである。
「肩の力を抜くことも大切ですよ。」
「そうだな…」
最もだ、とクリスが頷く。
「それで、ですな…お祝いを申し上げよう、と思いまして…」
「サロメ殿?」
サロメの言葉にクリスは顔を上げる。
サロメはクリスの足元に恭しくひざまずく。
そして、そっとクリスの手をとる。
そして、そっとクリスの手をとる。
「今宵、あなたが生を受けたことを女神に感謝すると共に…この1年、クリス殿にとってよき1年となるよう祈りをささげましょう。」
祈りの言葉と共に、サロメはクリスの手の甲に口付ける
「サロメ殿…」
サロメはクリスを見上げ、言葉を続ける。
「この1年…貴女のために助力することを、約束しましょう。」
サロメの言葉は嬉しくもあったが、新たな重責をクリスにかけてしまう。
「わたしは…父ではない。」
拒絶するように、クリスは首を振る。
「わかっております」
当然とばかりに答え、サロメは立ち上がる。
「だったら…どうして!?」
語気を強め、クリスはサロメに問いかける。
どうしてわたしに、そのような過度な期待をかけるのだ…
他の騎士などまるで認めようとしない女の身であるこのわたしに…
他の騎士などまるで認めようとしない女の身であるこのわたしに…
「わたしは剣を持たない身ゆえ、余計に分かるのです。クリス殿はワイアット様以上に立派な騎士になるお方です。ですからわたしはあなたの力になりたいと、そう考えます。」
クリスの重責を感じ取りながらも、クリスならそれを乗り越えられると思っているサロメである。
「買いかぶりすぎだ。」
再びクリスは首を振る。
「いずれ騎士達も、民も、あなたを認め、称えますよ。こう見えても軍師を称する身、わたしには先を見る目がある…と自負しております。」
「サロメ殿…」
「それともクリス殿はわたしに見る目がないとおっしゃいますか?」
サロメの力は十二分に信頼しているクリスである。
こうまで言われては否定するわけにもいかない。
こうまで言われては否定するわけにもいかない。
「わかったよ。」
降参した。というように、クリスは両手を軽く挙げてみせる
「ではわたしは貴公に先見の明があったということを皆に知らしめないとならないわけだな。」
「ええ、期待していますよ。」
笑みを交し合う二人である。
そして、そんなやり取りの後、交代の時間がとっくに過ぎた後も、ゼクセン騎士団の未来について大いに語り合う二人であった。
「明日は城の者達皆でお祝いをと思っております。ですが、少しでも早くお祝いの言葉だけでも…と思いまして。」
そしてそっとクリスの手をとる。
それは毎年のことだったし、尊敬の念を表すためにだとか、親愛の情を込めて、あるいは忠誠の意味を込めてと、
なにかにつけてそうするのが騎士の慣わしであるのだが…
「手の甲は、もう飽きた。」
「え…?」
そんなことを言ってのけ、意地悪く微笑んでみせるクリスに、クリスの手をとったまましばし固まってしまうサロメである。
まあ、サロメにとっては、クリスのそんなところもとても可愛らしいのだけれど…
そして…
散々迷いに迷った後
「クリス様にとってよい一年となるよう、このサロメ心よりお祈りします。」
そう言って
そっと、クリスの額に唇を寄せた…。
そんな二人の新しい1年は、間違いなくよい1年となりそうである。
おわり