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親心、恋心!?(3)~わかってみれば簡単で~

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mayusilvermoon

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親心、恋心!?(3)~わかってみれば簡単で~



クリスの恋するお相手を探るサロメ…
それは”クリスの想いを叶えてやりたい”そんな気持ちからの事であった。

でも、恋するお相手が気になって仕方が無いのはどうしてなのか…
自分の行動が意味する本当の答えを見つけるためにもサロメはクリスの許へと向かうのだった。





一方その頃、クリスはというと…

パーシヴァルたちと馬を走らせた後、自室でゆっくりと休んでいた。

「ふう…こんなときサロメが紅茶を持ってきてくれたらな…。」

そんな独り言を言いながらぼんやりと窓の外を眺めている。

「サロメ…仕事かな…。」

おそらく仕事をしているのであろうサロメのことを考える。

ブラス城でもそうだったが、こちらに来てますます忙しく働いているサロメである。
大丈夫だろうか…とやはり心配にもなる。
そして、こうして一人時を過ごしていると、今までとは格段に自分と過ごす時間が減った事を思い知らされる。
そして、クリスは言いようの無い寂寥感に襲われるのだ。


「あ、そういえば…」

不意にクリスは執務室にセシルがくれたメモを置いてきた事を思い出す。
あの時はそんなもの…と思っていたのだが、こんな気分のときにはメモ1枚でも縋ってみたくなるものだ。
そう思いはじめたら、あのメモのことがどんどん気になって仕方が無い。

「うーん…やっぱり気になる。」

もし執務室に行って、誰もいなかったらメモを回収すればいい。それでおまじないを実行したらいいんだ。
そして、もしサロメがいたら二人でティータイムにすればそれもいいじゃないか。

―うん。名案だ。

思い立ったら即実行で、先ほどの重い気持ちはどこへやら、クリスは軽快な足取りで部屋を後にした。





クリスが執務室へ行くとルイスが一人書類を整頓していた。

「あれ、ルイスだけか?」

クリスはきょろきょろと部屋を見回す。

「あ、クリス様。あれ、サロメ様は…?」

クリスはサロメがいるものだと思っていて、ルイスはルイスでサロメはクリスの許へと行ったものだと思っているから、開口一番、互いに見当違いな言葉を交わす。

「え…?サロメは…って?」

「はい。サロメ様は先ほどクリス様のところへ行くとおっしゃっていたんですが?」

「そうなのか。」


―お茶にでも誘おうとしてくれたのかな…


そう思ってクリスは首をかしげる。

「ええ。すれ違いになったのかもしれませんね。」

「そうか…。ではここでもうしばらくいることにするよ。」

探し物もあることだし、また部屋に戻ってすれ違いになっても厄介とばかりに、クリスはイスへと腰掛けた。

「あ、ではボクはこの辺で…。」

ルイスはそそくさと部屋をあとにする。本当によく出来た部下なのであった。





「…ない。…ない。どこにやったんだ…。」

机をひっくり返す勢いでクリスが部屋中を家捜ししている。
探しているものはあのメモ。
セシルに教えてもらったおまじないが書かれている紙片である。

「ルイスが整頓していたから棄ててしまったのかな。」

今は無残な有様なのだが、先ほどまで整然とされていた机を眺める。

「ふう…もう少し探すか。」





コンコン

「クリスさま。こちらにおいででしたか。」

ノックと共に現れたのはサロメだ。

「サロメ!?」

メモ探しに夢中になっていたクリスは慌てて戸口を振り返る。
そこにはサロメが呆然と立ちつくしでいた。

「どうか…されました…か?」

部屋には書類が散らばっており、先ほどサロメが仕事をしていた時点では考えられないひどい状態である。
後始末のことをを考えると表情が引きつってしまうのだが、サロメは必死でそれを抑えながらながらクリスに問いかける。

「あ、え…えーと。」

当然ながら答えられずにクリスは視線を泳がせる。

「もしかして…これをお探しですか?」

書棚からサロメが一枚のメモを取り出す。
そのメモはまぎれもなくセシルからもらったあのメモである。

「あっ!!」

クリスは真っ赤になってそのメモを奪い取る。

「大切なものなんですね。」

しみじみとサロメがつぶやく。

「え?あ、ああ…うん。」

小さく頷く。

「おまじないの紙だと…聞きました。」

「えっ!???」

その言葉に驚かされ、クリスは思わず顔を上げる。

「なにかの暗号かとアップル殿に見ていただいたらそのように聞かされまして…。」

「あ、あ、あの…そのっ…だな…。」

クリスはますます真っ赤になってしまう。


そんなクリスを見ていると…
やっぱりクリスの思いを叶えてやりたいという気持ちが先行するサロメである。

ただ…

その想い人を告げられたときに実際に現実を突きつけられたときにも、その気持ちだけでいられるかは…正直自信が無かった。

それでもやはり

自分だけはどこまでもクリスの味方で理解者であり続けたい。
そう思うのだった。



「お好きな方がいらっしゃるのですね。」

「え…?」

「…クリスさまが思いを寄せられている方がどなたであれ私は応援させてもらいます。」

クリスのためを思えばこそのサロメの言葉なのだが、
当のクリスにとって、サロメの物言いはどこか保護者じみて聞こえる。
それは”所詮、子供のようなものなんだ”と言われている様で、クリスは胸を締め付けられる。


だけどまだ”保護者”ならいい。


クリスにはもう一つ引っかかるところがあった。


”どなたであれ”…ってどういうことなんだ。

私のことなど他人事で、サロメにとっては”どうでもいい”ってことなのか?


そんな思いが渦巻いて、クリスはサロメに確認する。


少しでもいい…否定してほしい…と。


「では…サロメ。それがお前の気に入らない相手だったとしても応援するというのか?」

「クリスさまが願うのなら協力は惜しみません…。」

「お前の…お前の意思はどうなんだ?」

「え?」

「お前は…それでいいんだ。
私がどこの馬の骨と分からないものと結ばれたとしても…それでいいと言うんだな。」

サロメを困らせていることはわかる。
こんなことを言うからますます子供だって思われてしまう。
でも…言わずにはいられない。

「そんなことは言っておりません。」

サロメはきっぱりと否定する。

「でも、”どなたであれ”って言ったじゃないか!」

「それは、”クリスさまが思いを寄せられている”からです。私はクリスさまの想う方ならばまちがいはないと信じております。」

なおも食い下がるクリスにサロメは諭すように語り掛ける。
真剣な眼差しで、優しいながらもはっきりとした口調で。

サロメのそんな言葉に、そんな様子に、クリスは胸の締め付けが和らいだ気がした。
どこまでも自分を信じるといってくれるサロメの無償の思いに気づかされ、クリスの心が満たされていったのだ。


―まったく…おまえというやつは…


クリスは、ふっと苦笑に近い笑みを浮かべる。


―まちがいないと言うんなら、ちゃんとその言葉に責任をとってもらうからな。


「”信じている”ってそんな事…確認もせずに言ってもいいのか?」

クリスは念のためもう一度確認する。

「はい。構いません。」

「相手が誰であれ全面的に応援するんだな?」

これが最終確認だ。

「はい。たとえ万の民を敵に廻したとしても。」

サロメの言葉にクリスは深く頷いた。
サロメは無意識で言っている言葉でも、今のクリスには愛の告白に聞こえる。

「お前がそこまで言ってくれるならお前にだけ教えるから耳を貸せ。」

「はい。」

サロメは少しかがんでクリスに顔を寄せる。

コホン。

少しばかり頬を染め、クリスはサロメの耳許に口をよせ囁く。


「…サロメ。」


……

………


「はい。何でしょう?」

「……だから、…サロメだ。」


……

………

「はい?だから、…何でしょう?」

なかなか言い出さないクリスに疑問を感じながらも、クリスの呼びかけには返答するサロメである。

しかしながら、クリスは呼びかけているつもりなどあるはずもなく、まったく解かっていないサロメにいらいらを募らせる。

「だーかーらー……」






「えええええっ!!!???」

予想だにしないクリスの答えにサロメは驚きの声を上げ、よろよろとソファへへたり込む。
一方のクリスは真摯な眼差しでサロメを見つめる。

「わ、私…ですか??」

自分を指差し、口をパクパクさせるサロメである。
はっきりいって情けない事この上ない表情である。

「ああ。」

はっきりきっぱりそう言ってクリスはこっくり頷く。

「応援してくれるんだよな?」

勝ち誇った笑みを浮かべ、ずいとサロメに近寄るクリスである。

「あ、そ、…それはですな…」

顔面は紅潮し、視線はさまよい、額には汗さえ浮かべている。
さきほどあんなにきっぱりと”誰であろうと応援する”と言い切った人物とは思えない動揺振りである。

「私が選んだ相手だ。間違いないんだろ?」

サロメに乗りかからん勢いでクリスはソファの背もたれに両腕をつく。

「い、いや…その…」

サロメは訳がわからずしどろもどろになってしまう。





「そう…だったのですか。」

そうつぶやいて、サロメは紅茶を一口流し込む。
せっかく淹れた紅茶だが、まるで味がわからない。
しかも顔がやたら熱い。


全く状況が把握できていなかったサロメは、とりあえず落ち着いて話をしようと紅茶を淹れることにしたのだ。
そして、今しがたクリスの話を聞かされた次第である。


わかってみれば簡単なことで、自分がすっかり嫌われていると思っていたことは、クリスがやきもちを焼いていただけだということもクリスの口ぶりから判明した。

「そうだぞ。こっちに来てからはなかなか一緒の時間が無いし…お前は他の人と仲良くしているし…。」

「申し訳ありませんでした。」

サロメは深々と頭を下げる。
よくよく考えるとサロメが誤る理由はないのだが、ついつい誤ってしまうサロメであった。

「いや、仕方ないってわかってるんだ…。でもどうしてもお前のことが気になって、気になって…。」

離れてみて初めてはっきりと自覚したということらしい。
クリスは僅かに頬を染め、照れ隠しなのかうつむき加減で紅茶を口にする。

こうして二人して赤面しつつ、ソファに並んで紅茶を飲む姿は、いつもの二人からは想像もつかない光景である。



―クリス様も…私のことが気になっていたとおっしゃるのですか…
  それでは、お互い様だったというわけですな…


サロメもようやく自分の中の答えが見出せた気がしていた。

「クリス様…私も…」


―私も…気になって、気になって……




「ああっ!!」

何かを思い出したというのか、サロメは突然大きな声をあげる。
現実というものは厳しいもので、二人だけの何ともいえない甘い空気はとたんに消え去った。

「ど、どうした!?」

サロメの声にクリスは驚く。

「その…気になるで思い出したのですが…」

サロメは何とも気まずそうな表情を浮かべている。

「何?」

「申し訳ありませんっ。出過ぎた真似だとは思ったのですが…」

「え?え?」

突然謝りだされてクリスは訳がわからない。

「クリスさまの想い人がどうにも気になって仕方がありませんで…」

「ええ?」

「その…皆に聞いて回って…」


「えええ~!???」

驚きと恥ずかしさのあまり、クリスは真っ赤になって大声をあげた。




「も、申し訳ありませんっ!!」

ひたすら平謝りのサロメである。
もっとも、恥ずかしいのはサロメも同じで、いやサロメのほうがはるかに恥ずかしいだろう。

どうやら一人ずつに弁明していかないといけないようである。
聞いた相手のほとんどは二人の気持ちに気づいているとはいえ、そんなことがばれているとは全く自覚していない二人であった。





「まったく、皆にどう説明したらいいんだ。」

「申し訳ありません。ここは私のほうからきちんと申し上げておきますので。」

憤慨するクリスに対し、すっかり小さくなっているサロメである。
そんなサロメを見ていたらクリスからふつふつと一つの疑問がわいてくる。



確か、サロメ…気になって仕方がない…って言った。

それって…

それって…



「私の好きな人…そんなに気になった…か?」

クリスは身体ごとサロメのほうへと向き直り、おそるおそる聞いてみる。もちろん目一杯期待を込めて。

「え?あ…そ、そうですな。」

急に聞かれて、思わず素になって答えてしまうサロメである。
しかし、そんな答えだけではクリスの期待通りとはいかない。
クリスはさらに突っ込んで聞いてみる。

サロメの目をじっと見つめて…。

「どうして…気になるんだ?」


―どうして…


―どうしてだろうか…

サロメは思う。


その答えは…クリス様が気づかせてくれました。

今なら、わかります。



「…クリスさまと同じ理由。ですかな…」

そう言ってサロメはにっこりと微笑み、両手を差し伸べる。

そしてクリスは、一瞬の迷いも無くその腕の中に飛び込んだ。


(終わり)








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