SILVERMOON
星に願いを!?
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星に願いを!?
「よし!ここらへんでいいかな!」
ビュッデヒュッケ城のロビーでは子供たちがどこからか笹を運んできて、階段の横に取り付けていた。
本拠地に皆がやってきてまだ間もないころのことである。
大人たちは、かつての確執からか共に戦う事になったとはいえ日常においてはまだまだ打ち解けたとはいえない状態であった。
しかし、子供達はそんな確執がない分、幾分打ち解けつつあった。
しかし、子供達はそんな確執がない分、幾分打ち解けつつあった。
とはいえ、まだまだ互いに距離を感じていたのだが、こうやって皆でひとつのことをやっているとその距離がだんだんとなくなっていくのがよくわかった。
「うん。いい感じだね!」
ロビーからルイスが、階段で手すりと笹とを結び付けているメルヴィルたちの指揮を執っていた。
殺伐とした雰囲気の中、どこか窮屈そうにしていた子供達が今は楽しそうに作業をしている。
「皆に言ってみてよかった。」
嬉しそうに微笑んでルイスがつぶやく。
昨夜、”異国では七夕という行事があるんだ”ということをサロメから聞き、皆の息抜きになればとルイスが子供達に持ちかけたのだ。
「それじゃあ、あとは飾り付けをして、皆に短冊に願い事を書いて飾ってもらおう」
「「「お~う!!」」」
ルイスの呼びかけに子供達は勢いよく返事をした。
「ほう…面白そうな事をやっているなあ。」
そんなところに一人の男が声をかけてきた。
「はい。皆さんにこうやって願い事を書いてもらっているんです。貴方もどうぞ。」
「ああ。そうだな。」
ルイスに短冊とペンを手渡され、男は所在無さげに頭をかきながらロビーの片隅へと歩いていった。
「願い事か…」
そうつぶやいて、しばらく思案した後サラサラと短冊に文字をしたためている。
書き終った後、また手が止まる。
書き終った後、また手が止まる。
「さすがに名前はマズイか。う~ん、あいつの名前にしておくか。」
傍から見れば何となく意地悪そうな笑みを浮かべ再びペンを走らせる。
そうして出来上がった短冊は笹に括り付けられ、笹の葉と共にひらひらと揺れていた。
そうして出来上がった短冊は笹に括り付けられ、笹の葉と共にひらひらと揺れていた。
この日はこうやって様々な人たちが短冊に思いをはせ、笹へとその願いを飾っていった。
「皆なにをやっているんだ?」
「あ、クリス様!」
クリスの登場にルイス達の顔がほころぶ。
「今日は七夕という日なので、ここにこうやって願い事を書いてつるすんですよ。」
「へえ…」
そういえばそのようなことを聞いたことがあるな…
あれはいつだったかな…
あれはいつだったかな…
色とりどりに飾られた笹を見上げながら、クリスは思いを馳せていた。
「きれいでしょう?クリス様!」
アラニスが楽しげに話しかける。
「ん?…ああ。きれいに飾られているな。」
「本当?やった~!」
クリスの言葉に、子供達が喜ぶ。
「そうだクリス様。」
「なんだ?ルイス」
「皆さんに書いてもらっているんですよ。クリス様もどうですか?」
「願い事か…。」
そう呟きながら、クリスは何ともなしに飾られている短冊に目をやった。
短冊に書かれた様々な願い事は多岐にわたっており、この城には個性的な仲間が揃っていることを顕著に物語っていた。
短冊に書かれた様々な願い事は多岐にわたっており、この城には個性的な仲間が揃っていることを顕著に物語っていた。
”背が高くなりますように”
これはヒューゴか。
”りっぱなお城になりますように”
これはトーマスかセシルだな…。
そんなことを考えながら見ているとなかなか面白いもので、クリスはついつい笑みを浮かべていた。
皆の書いた様々な短冊を眺めているうちにクリスはひとつ気になった。
皆の書いた様々な短冊を眺めているうちにクリスはひとつ気になった。
「なあ、ルイス…その…」
クリスはおずおずとルイスに問いかける。
「はい?」
「み、みんなは何を書いていた?」
本当は気になる相手は一人なのだが、さすがに名指しは出来ないクリスである。
「え?ああ騎士の皆様ですか!ええと…そういえば何か書いていただいたかなあ…あんまりたくさんに人に書いてもらっているのでちょっと…。」
「そ、そうか。ならいいんだ。」
そういって気まずそうにしているクリスは、僅かに頬を染め、短冊のほうを気にしているのがありありと見て取れた。
「クリス様。この笹は今夜中はこちらに置いておきますから。」
「ん?あ、ああ。」
「クリス様も何か書いてくださいね!それじゃ」
そこまで言うとルイスは手際よく周りのものを片付け、その場を後にするのだった。
「あ、ルイスさんまだ飾りつけが~」
「いいから、後にしよう!」
半ば強引に皆を引き連れて去っていく。
クリスがゆっくりと短冊を見れるようにと計らう、察しのいいルイスなのであった。
クリスがゆっくりと短冊を見れるようにと計らう、察しのいいルイスなのであった。
さて、よい部下を持ったもので、一人残ったクリスは笹を掻き分けお目当ての短冊をさがしていた。
あいつのことだから…この戦いで勝利を収めるように…とか書いてあるんだろうな…
そう思いながらも気になるものは仕方が無い。クリスは一枚一枚短冊を見ていく。
あ、あった…これだ
ようやく彼の名が綴られた短冊を見つけ、高鳴る鼓動を抑えつつ、そっと裏返し内容を見る。
「………!!」
それを読んだ後、クリスの身体がわなわなと震えだす。
そしてくるりときびすを返し、彼の居るであろう広間へと駆け出した。
そしてくるりときびすを返し、彼の居るであろう広間へと駆け出した。
広間では例によって各地の代表が一堂に会し、あれやこれやと議論を交わしている。
バン!!!
そんな折、乱暴に広間の扉が開け放たれた。
何事かと皆がいっせいに入り口のほうを向く。
そこにはクリスが仁王立ちしていた。
何事かと皆がいっせいに入り口のほうを向く。
そこにはクリスが仁王立ちしていた。
皆の視線をものともせず、クリスは迷わず部屋に入っていく。
周りの人間が見えていないといったほうが正しいのか、クリスの視線の先はただ一人だけ…である。
周りの人間が見えていないといったほうが正しいのか、クリスの視線の先はただ一人だけ…である。
「クリスさん?」
「………」
周りの声など聞いてはおらず、一直線に視線の先の人物であるサロメに近づいていく。
そしてサロメの眼前でぴたりと足を止める。うつむき加減のため表情は見えないのだが、当然機嫌がいいわけではないのは明らかである。
そしてサロメの眼前でぴたりと足を止める。うつむき加減のため表情は見えないのだが、当然機嫌がいいわけではないのは明らかである。
「ク、クリス様…?」
尋常でない様子にサロメがおそるおそる声をかける。
「………」
しかしクリスは無言である。
「いかがされました?…クリス様?」
再びサロメがクリスに問う。
その言葉にクリスは顔をあげ、キッとサロメを睨みつけた。
その言葉にクリスは顔をあげ、キッとサロメを睨みつけた。
「サロメのバカっ!!!」
「……はっ……??」
突然、頭ごなしに怒鳴られて訳がわからずサロメは呆然とする。
”どうもサロメ殿がクリス殿のご機嫌を損ねる事をしたらしい…”
2人の様子をそのようにとらえたのだろう、広間に居た一同が興味津々といった目つきで遠巻きに二人を眺めている。
こ、これはマズイ…
「ク、クリス様ひとまず部屋へ参りましょう!話はお聞きしますから」
周りの様子を察したサロメがとりあえずこの場を立ち去ろうと提案する。
「ああ。望むところだっ!!」
クリスはその提案をすんなり受け入れ、その結果、二人揃って広間を後にするのだった。
残された面々は半ばあきらめ顔で二人を見送った。
「あーあ。まぁ~た、痴話ゲンカかな?」
気だるそうにシーザーがアップルに囁く。
「ええ。そうみたいね。やれやれ。」
アップルがそれに答え苦笑を浮かべた。
どうやらこの2人のドタバタ劇は、既に何度か繰り広げられており、城内に定着しつつあるようであった。
「さて、クリス様。一体いかがなさったんですか?」
部屋に戻って開口一番、サロメはクリスに事情を聞く。
一体何がクリスをこのようにさせたのか…まったく心当たりの無いサロメだった。
一体何がクリスをこのようにさせたのか…まったく心当たりの無いサロメだった。
「ふん!どうせ私は女らしくないさ!」
拗ねたように口を尖らせ、クリスは完全にむくれている。
そんな仕草もサロメにとっては可愛いばかりなのだが、きちんと原因を究明するまではそうも言っていられない。
そんな仕草もサロメにとっては可愛いばかりなのだが、きちんと原因を究明するまではそうも言っていられない。
しかし、女らしくないとは一体…
サロメは首をかしげる。
「…どういうことです??」
「まだ白を切るのか!?私は見たんだぞっ!」
「見たって…なにを?」
「七夕の短冊!」
「ああ、それがどうかしましたか?」
そういえばルイス達が飾り付けをしていた、と思い出す。
しかしそれとクリスの不機嫌が関係あるとは到底思えないサロメである。
しかしそれとクリスの不機嫌が関係あるとは到底思えないサロメである。
「どうかしましたかって…ここまで言ってもわからないのか!?」
なかなかかみ合わない会話にクリスの苛立ちもピークになる。
「……私が何かクリス様のお気に触るようなことを書いたとでも?」
心当たりは全く無いのだが、クリスの口ぶりからサロメはそう判断した。
「そのとおりだっ!」
「…では、見に行きましょう。」
まるで覚えが無い事でこのように不機嫌になられてはかなわない。
誤解を解くには実際見に行くのが一番である。
誤解を解くには実際見に行くのが一番である。
かくして今度は二人連れ立ってロビーへと向かうのだった。
「これだ」
クリスはサロメへ短冊を指し示した。
「どれどれ……」
その短冊に目を通していくうちにサロメは硬直し、見る間に顔面蒼白になっていく。
短冊はこのようなものである
”もう少しクリスが女らしくなりますように”
そして裏返すと ”サロメ” とご丁寧に署名までされている。
「こ、これは…私の字では…ございませんな…」
冷や汗を浮かべ、なんとか平静を装っている(つもりの)サロメはそうとだけ答えた。
いや、そうとしか答えられなかったのである。
いや、そうとしか答えられなかったのである。
その字にはよ~く見覚えがあった。
忘れるはずも無い。自分が騎士を目指しているときにさんざん見てきた筆跡である。
忘れるはずも無い。自分が騎士を目指しているときにさんざん見てきた筆跡である。
「…そうか。よく考えたらそうだよな…、うん…。」
それはまさに信頼の証であった。
何となく腑に落ちないものを感じながらもまさかサロメが口からでまかせを言うわけが無い、とクリスはサロメの言葉を受け入れた。
何となく腑に落ちないものを感じながらもまさかサロメが口からでまかせを言うわけが無い、とクリスはサロメの言葉を受け入れた。
「…だ、だが、だとしたら、誰がそんな事書いたって言うんだ?」
しかしながら、わざわざ”サロメ”と名乗ってまでこんな事を書く人物がクリスには思い浮かばない。
「……わ、わかりません。」
はっきりしっかりわかるのだけれど、そう言うしかないサロメであった。
ワイアット様…何故に私の名前など…
心の中でその字の主に恨み言を言うサロメである。
しかしながら、クリスに犯人探しなどされてもますます面倒な事になってしまう。
ここは何とか納得していただかないと!…とサロメは心に硬く誓った。
しかしながら、クリスに犯人探しなどされてもますます面倒な事になってしまう。
ここは何とか納得していただかないと!…とサロメは心に硬く誓った。
「クリス様…」
先ほどまでは2人して短冊を覗き込んでいたのだが、おもむろにサロメがクリスのほうへと向き直る。
「な、何だ?」
間近で、真剣な表情で見据えられクリスの胸がドキンと脈打つ。
「このような言葉を気になさらないで下さい。」
親心というのも重々わかるのだが、サロメにとってはやはりクリスこそ大切で…ワイアットには申し訳ないがサロメは短冊の願い事をきっぱり否定した。
「サロメ…でも…」
クリスもやはり女性である。気にするなといわれてもどうしても気になる。
サロメの言葉は嬉しいが素直に頷けず、言葉尻を濁した。
サロメの言葉は嬉しいが素直に頷けず、言葉尻を濁した。
「クリス様…。私はクリス様は今のままで居てくださるのが一番いいと思っております。」
「え?」
「その言葉だけではいけませんか?」
そう言ってサロメは優しく微笑むのだった。
「今のままで…いいの、か?」
おずおずとクリスがたずねる。
「はい。」
サロメは深く頷いた。
「ちっとも女らしく、ないぞ?」
クリスは再び確認する。
「そんなことはございません。クリス様に女性らしい一面があること、何よりもこのサロメ承知しております。」
「そ、そうかな…」
サロメの言葉に不安な気持ちが拭われ、すっかりその気になってきてうれしそうに頬を押さえている。
そんな様をサロメは眩しそうに見つめる。
そんな様をサロメは眩しそうに見つめる。
「そういうところがとても可愛らしくて、私は好き………あ。」
ついぽろっと本音が出てしまい、サロメは慌てて口をつぐむ。
だが時既に遅し。クリスは聞き逃していなかった。
「今…何て?」
クリスが身を乗り出してサロメに詰め寄る。その声は期待に満ち満ちている。
「あ、え…ええとですな…。」
あらぬ方向を向いてごまかそうとするのだが、完全に赤面しているその状態では誤魔化しようが無かった。
「こっちを向け」
すっとクリスが手を差し出し、サロメの顔を自分の正面に向け、じっと見つめる。
「今…好きっていった?」
「い、いえ…その……」
視線をさまよわせ、しどろもどろになるサロメ。
「サロメ。私の目を見て答えるんだ。今…言ったよな?」
「………はい…。」
クリスの真剣なまなざしに、サロメはとうとう観念して白状する。
その言葉を聞いてクリスは満足げに微笑んだ。
その言葉を聞いてクリスは満足げに微笑んだ。
そして
「私もだ。」
耳元でこっそりと囁いて、真っ赤になっているサロメの頬に軽く口付けた。
「ク、クリス様!?」
思いがけない不意打ちにサロメは腰を抜かしそうな勢いでうろたえている。
「ふふ。そうか~好きか~♪」
そんな言葉をつぶやきながら軽やかな足取りで部屋へと戻っていくクリスである。
「サロメ?何してるんだ早く部屋に戻って紅茶にしよう。」
くるりと振り返り、硬直して動けなくなっているサロメに声をかけた。
「は、はい。只今。」
すっかり上機嫌なクリスを見て、サロメは短冊の事をこれ以上追及されなくて良かったと心底ほっとした。
まあ、思いがけず本音をこぼしてしまったが、クリスの様子を見ているとそれもまたよかったと思えてくる。
まあ、思いがけず本音をこぼしてしまったが、クリスの様子を見ているとそれもまたよかったと思えてくる。
そしてクリスと紅茶を楽しむために足早に部屋へと向かうのだった。
(終わり)