SILVERMOON

看病

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カルラ舞う(近江→舞子風味な近江×舞子)



「はい。ん? 扇か、どうしたんだ。……日曜? ………ああ、いいけど。……ああ、それじゃあ」

ピッ

俺は携帯を切った。

「舞子さんから電話ですか?」

ああ、一番聞かれたくない人に聞かれてしまった。

キッチンから日本酒と肴を持って剣持さんがこっちにやってきた。
こうしてエプロンつけて料理しているところを見たら誰も闇の死繰人だって信じないだろうな…
そうつくづく思うほど普段の剣持さんは穏やかでのんびりとしている。

「そうですけど…」

どうせまたからかわれるに決まっている。おれはさも大したことないというふうにさらっと答えた(つもりである)

本当のところ舞子から電話をもらえてうれしかったりするのだが…

「声が浮かれていますよ」

「うっ…」

お見通し…である。

「デートのお誘いですか?」

酒の肴に…といわんばかりの誘導尋問だ。

「別に…。ただ日曜日にバイクに乗せてくれ…って」

「それをデートと言わないんですか?」

「あいつはただ単にバイクに乗りたいだけだろうから」

ちょっと卑屈な言い方になってしまったな。
俺はあいつの男女を意識しない、気取らないところも…悪くないと思っている。

まあ、少しさみしいところではあるけど…

「そうですかね? 舞子さんはモテますからね~バイクを持っている友人なんて近くにたくさんいるんじゃないですか? それでも自分から近江君のところへ連絡してこっちに来られるんでしょう? それはやっぱりデートというんじゃないですか?」

「そうですかっ!?」

俺は剣持さんの期待させる物言いに、つい身を乗り出してしまった。

「ええ。それじゃあ今日は近江君の週末に乾杯といきますか」

「え!? 俺はいいです」

「そうですか~? そんなことではいつまでたってもお酒に強くなれませんよ」

強くなれない…それは困る

「じゃあ、一杯だけ」


最初は一杯だけのつもりだったんだけど、結局その日は明日が土曜日で休診ということもあって、つい朝まで飲み明かしてしまった。





「う~~~~~ん」

「39度…これは絶対安静にしておいてくださいよ…」

あろうことか俺は風邪を引いてしまったようである。
まあ、酔いつぶれてそのまま居間で寝てしまったのは俺だし、自業自得というやつなんだけど…

日曜のツーリングはむりだな…

扇…楽しみにしてただろうか…

……あ…電話しないと……

「舞子さんにはわたしから連絡しておきますから。君はゆっくり休んでおきなさい」

さっき飲んだ薬のせいだろうか…俺は剣持さんの声を遠くに聞きながら眠りへと誘われていった





ふと人の気配を感じて目が覚めた。

いったい今何時なんだろう…

あ…れ?なんで??

「あ、起きた?近江君」

そこにはエプロンをつけた扇がいた。

「扇…??」

「あ、まだ熱があるんだから起きちゃだめだよ。はい」

そう言っておれの額にひんやりとしたタオルを乗せてくれた。

「ありがとう…」

「冷たくて気持ちいいでしょ?」

そう言ってにっこりほほ笑む扇はめちゃくちゃ可愛くて…
俺はつい彼女の顔を見つめてしまった。

「どしたの? あ、おなか空いた?」

…いや、やっぱり扇だな。俺はちょっと安心してしまった。

「いや…扇、今何時だ?」

「ん~と、そろそろ11時かな」

「剣持さんは?」

「え…? 今日はどうしてもはずせない用事があるからって昨日電話くれたんだけど?」

はめられた…

「聞いてなかった?」

「ん…あ…いや、そういえばそんなこと言ってたかな…」

まあ、せっかくのセッティングだし…扇もわざわざ来てくれたんだし…いいか…

「それでね、どうせこっちに来ることになってたからわたしが看ますってことになったんだ」

「そうか…悪かったな。……それにせっかく約束してたのにな…バイク乗りたかったろ?」

「ん~ん。バイクは別にいいんだ」

「え…でも電話で…」

もしかして俺はえらく無粋なことを聞いていたりするのか?

「風邪で弱ってる近江君の寝顔なんて滅多にみられるものじゃないもんね」

扇はそう言って舌をだして笑った。

がっくり

う~ん…本音なのかはぐらかされたのか……

「けど、まあ…ありがとうな」

「今度何かごちそうしてね~」

「仕方ないな…バイクでどっかうまいもん食べに行くか」

「うん。あ、そうだお粥があるんだ。ちょっとでも食べないと」

「ああ。…ひょっとしておまえが作ってくれたのか?」

「うん。翔ちゃんにおしえてもらったんだけどね。持ってくるね」

いかんいかんと思いつつも…表情がゆるんでしまう。

風邪をひいてよかった…なんてあいつに言ったら怒るかな。

もう十分起きあがれるんだが、俺はとりあえず寝ておくことにした。

なにを期待してるんだろ、俺……

「起きられる?」

「ん…ちょっとつらいかな…」

「じゃあ頭だけ起こしてね」

そう言って舞子は俺の頭を起こし枕を一つ差し入れた。

結構手慣れてるなあ。
おじいさんの看病とかしてたのかな。

俺は舞子の動作一つ一つにどきどきしてるのに、あいつはぜんぜんそういうのが無いみたいだ…

「はい。あ~ん」

え、ほんとに食べさせてくれるのか?
まあちょっとは期待していたんだけど…

俺は真っ赤になって口を開ける。

熱だ熱のせいだからなっ!!

「……どう?」

神妙な顔つきで聞く舞子

「うまい」

「よかった。じゃ、もう一口」

結局用意された分を全部平らげてしまった。

まあ昨日からなにも食ってなかったからな。

「ごちそうさま」

「お粗末様でした」

そう言って片づけにキッチンへ向かう舞子を見送った。

あまりにも希望通りに事が進むものだから俺は風邪も悪くない…などと思い始めていた。

剣持さんに感謝かな。





「う~ん、翔ちゃんを疑う訳じゃないけどこの看病メモあってるのかなあ…」

舞子は翔子に相談して、看病の仕方をメモに書いてもらいそれを忠実に実行していたのだ。

「…まあいっか、近江君もいやそうにしてないし。病気の人にはあれくらいやさしくしてあげたほうがいいのかな♪」

そう一人ごちて、鼻歌混じりに片づけものをする舞子であった。

意識をしているかはわからないが明らかにこの状況を楽しんでいるようであった。





頭にひんやりとした布が当てられている感覚で目が覚めた。

あ…またうとうとしてしまったのか…

薬のせいか、頭は何となく起きていても目を開けられずにいた。

「もう、熱はひいたかな」

扇の声だ…

額の布が取り去られる。


えっ!?


扇の気配がすごく近くなって、俺は思わず目を開けた。

目をまん丸にして驚いてる扇の顔が目前にある。

「あ…熱ないかなあって思って……ん、大丈夫みたいかな」

「あ、ああ…」

このシチュエーションってチャンスじゃないか?

「お、扇…」

「ん?」

至近距離でにっこりほほえむ彼女にくらくらとなりながらも俺は扇の肩のあたりに手をのばした。

しばらくの沈黙を破ったのは玄関のチャイムだった。

「あ、何だろ?でてくるね」

そう言って何事もなかったかのように、扇は玄関に出ていった。

あとにはがっくりと肩を落とす俺だけが部屋にいた。

「何だったんだ?」

戻ってきた扇に聞いてみた。

「うん。荷物だった。剣持さん宛の」

「そっか…」

「ごめんね」

「え?」

「寝てたのに起こしちゃってさ」

そんなのは全然構わないのに、謝ってくる扇に、さっきまでの邪な考えが恥ずかしくなってしまう。

「俺、もう少し寝ているよ」

「うん」

ごめんな…扇…





「…で、どうでした?」

夕方、剣持さんが帰ってきたと同時に扇は帰っていった。扇の姉さんのほうが剣持さんと一緒に来たため二人連れだって帰っていったのである。

「ええ、もうすっかりよくなりました」

「そうじゃなくて舞子さんのことですよ」

「剣持さんこそデートですか?」

「君と舞子さんのために翔子さんと一肌脱いだというわけなんですがね?」

「あいつもからんでるんですか…」

じゃああんなことやこんなことも…2人の差し金?!

「絡んでるなんてとんでもない。舞子さんの看病ぶり、よかったでしょう?  彼女のアドバイスのたまものと感謝してくださいよ」

「…まあ、怒ってるわけではないですが……」

「しかし、おしかったですね~。あと一息だったのに」

「え?」

「あ」

しまった。という顔をする剣持さん

「け・ん・も・ち・さん?」

「いえね、扇のおばあさんがおもしろいものが見えるって…」

なんて事だ…風邪を引いていたとはいえ、見られていたのに気づかないなんて

もう怒る気も失せてしまった

おれはよろよろと立ち上がり、部屋へと戻っていこうとした。

「あ、近江君」

「…なんですか?」

「今のは冗談だったんですが…いったい舞子さんに何したんです?」

しれっとした表情で言ってのける剣持さん。

ま、またはめられたのか…。。。
ほんとにこの人は…

頭がくらくらする。熱がぶり返してきたみたいだ。

「…もう寝ます…」

「まったく、近江君はからかいがいのある…」

そう言いながら晩酌の用意をする剣持であった。


終わり



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