SILVERMOON

勘違い

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サモナイ・ウィルアED後(星空の下の続き)



勘違い


「どうしましょう…。」

浴室でアティは悩んでいた。
悩んでいることは、今夜これからの事…である。

かつての教え子との再会を果たし、彼の気持ちも聞かせてもらえた。
もちろん自分の気持ちも同じだったから、長い間離れていたのになお自分のことを思っていたというウィルの言葉は涙が出るほど嬉しかった。

そして今夜から一つ屋根の下、彼との生活が始まるわけなのだが……

「や、やっぱり先生の私がリードしなくちゃいけませんよねぇ…。」

…と、それが彼女の悩みであった。

自慢じゃないが軍学校の頃から遊び一つしていないアティである。
廻りからのアプローチに全く気づいていなかっただけであるが、恋愛経験は皆無だった。

しかし、自分はウィルの先生なのである。
先生の威信にかけてもここはビシッと決めておかないといけないのだ。

「うん。今までもなんとか出来たじゃない。今回もがんばらなくちゃ!」

アティはザブンと勢いよく湯船の中で立ち上がり、こぶしを握り締める。

ウィルを首席で軍学校に入学させた事実でアティの教師としての自身も少なからずはあった。

もう先生と生徒じゃない…と言ったウィルの言葉もすっかり忘れ、先生としての使命感に燃えるアティなのであった。

しかし、使命感はあるものの何分初めてのことである。
やはり不安な気持ちがじわじわとアティを襲う。

「あう…でも……どうやって……」

先ほどの勢いはどこへやらで、アティは再び湯船につかるのだった。





「………」

一方その頃、ウィルは寝室でそわそわと所在無さげにしていた。
アティの家はシルターンの形式のもので、寝室と通された部屋は畳敷きで、先ほどアティが しいてくれた布団が二つきちんと並んでいる。

「まさか…こんな部屋だなんて…」

アティがあんなにあっさりと一緒に暮らすと言うものだから、すっかり別々の部屋だと思い込んでいたのだ。
もちろん別々の部屋とはいえ一つ屋根の下。
そういうことを前提に暮らすんだ…とは考えていたのだが。

だから先生にも釘をさしておいたのだが。

まさか、
いきなりこのようなおいしすぎる状況が待っているとはウィル自身も思ってもいなかった。


時間はいっぱいあるんだから、
それに今の自分をもっともっと見て、わかって……、そして僕を認めて欲しい。

その先のことは、それからで…いい。


そう、思ってたんだけど…この状況って…

ウィルは再び布団に目をやる。
きっちりと隙間無く並べられた2組の布団。
寝室とはいえまあまあの広さの部屋にもかかわらず、だ。


やっぱり

この状況って、

カナリ…うれしい。


まさか本当に今夜から一緒にね、寝る…なんてこと…。


そのシーンをふと頭に思い浮かべてしまい、ウィルはたちまち頬を染めた。

「なっ…僕は何を…!!」

そして今度はぺちぺちと自分の頬を叩いた。





「…先生、遅いな…」

アティが浴室に行ってからかなりの時間がたっていた。
体調が悪いのだとしたらと思うと、こんなに長い時間風呂に入っているのを放っておくわけにも行かない。


もしかして…これからの事が嫌で、どう断っていいか困っているんじゃ…


あまりの遅さにそんな思いが頭をよぎる。
しかし、仮にそうだとしたら余計に自分がなんとかしなくてはいけない。

ウィルは立ち上がり、襖を開け、浴室へと出て行った。





なかなか帰ってこないアティを心配しての行動だと自分に言い聞かせてはいるものの、こうしていざ脱衣室の前に立つと自分の鼓動が昂ぶっているのが分かる。


ガララ


ウィルはそっと脱衣室の戸をあけ、その先にある浴室に向かって声をかけてみた。

「…先生…?」

「……にゃあ」

…にゃあ?

ウィルは首をかしげる。
浴室は扉一枚先なのでよく聞き取れない。
ウィルはもう一度、今度は少し大きめに声をかけた。

「先生!?」

「…ふにゃあ…」

返事にならない返事に胸騒ぎを覚え、ウィルは慌てて扉を開けた。

「先生!入るよ!」

入ってみるとアティが湯船のなかでくたりとしている。
どうやらすっかりゆだってしまっているようだ。

「せ、先生っ!!」

濡れるのもかまわず慌てて駆け寄り、ウィルはアティの身を起こしてやった。

「はうぅ…頭がクラクラしますぅ……。」

アティがウィルの腕に寄りかかる。
アティの白い肌が目に飛び込んでくるが、必死にそれを見ないようにしてウィルはアティを抱えあげた。





「う…うう…ん。」

身じろぎををしながらアティがゆっくりと目を開く。
額がひんやりしているのが心地よい。

「あ、気がついた?」

声のする方向に目をやるとウィルがやさしく微笑んでいる。

「うん。もう大丈夫かな。」

ウィルの声とともに、額の心地よい感触が離れていく。
どうやら濡れた布を当てていてくれたようだ。

「あ、あれれ!?」

状況が把握できずにアティはきょろきょろと辺りを見回す。
そんなアティにウィルはくすりと笑みをこぼした。

「先生…お風呂でのぼせてたんだよ」

「え?え?!」

「さあ、お水…どうぞ。」

ウィルが用意しておいたグラスを差し出す。

「あ、うん…。」

そう言ってグラスを受け取るために身を起こすアティ。

「あ……」

一声だけ漏らした直後、ウィルは真っ赤になって顔をそらす。

「へ!?……あ、きゃあっ!!」

ウィルのただならぬ様子に目を落とすと、何と一糸まとわぬ姿ではないか。
アティはあわててシーツをかき寄せた。

「ごめん…。服…着せたほうがよかった?」

その一言にアティはぶんぶんと頭を横に振る。
顔はユデダコ状態である。
風呂場から運び出し、体を拭いて、寝させてもらっただけですでに恥ずかしいと言うのに、さらに服まで着せてもらっては形無しである。

「さあ、もう寝ましょうか。」

「は、はい…そうですね。」

「おやすみ、先生」

どちらが先生でどちらが生徒かわからない、
そんないつものやり取りの後、ウィルはそっとアティの頬にキスを落とし布団へと入った。

「……おやすみ、ウィル。」

布団に入ってしまったウィルにそっと声をかけた。
そして、ふと横を見るときちんと夜着が置いてある。
ウィルが脱衣室から持ってきてくれたのだろう。
どこまでも気のつくウィルに感謝して、アティはそれをすばやくまとう。
それから明かりを消し、自分もまた布団へともぐりこんだ。

「………」

布団の中でアティは先ほどのウィルの様子を思い浮かべていた。

”もう寝ましょうか”

そういって微笑んでくれたウィルの表情はどこか寂しげな気がして、アティの心にひっかかるものがあった。
しかし湯船で相当体力を損なわれたらしく、それを回復させようとする睡魔によってアティの 思考に靄がかかっていった…





「………」

いったいどれほどこうしているだろう。

ウィルはまた寝返りを打った。

”もう寝ましょうか”とそう言って無理やり布団に入ったものの一向に睡魔は訪れてくれない。
振り払っても、振り払っても先ほどまでのアティの白い裸身が、吸い付くような肌の感触が頭の中から離れてくれないのだ。

「ふう……」

このままでは眠れそうも無い。ウィルはそろそろと身を起こした。
そして隣の布団で寝息を立てているアティに視線を落とす。

「……先生…」

小さく名を呼ぶ。

当然ながら返事はない。


ごめん、せんせい…。


心の中でそう呟き、ウィルはアティの唇を盗んだ。
そっと掠め取るような口付けの後、ウィルはアティから離れ、浴室へと駆け込んだ。



そして、十分に頭を冷やした後ウィルは再び布団の中に入った。



ペンタ君が一匹、


ペンタ君が二匹……



ぎゅっと目を閉じ、ひたすらペンタ君の数を数えるウィルだった。





ああーっ!


わたしの大バカっ!!



朝になって目が覚めて、アティはようやく昨夜のことを思い出していた。
先生として自分がリードしようと思っていたというのに、結果は無残なものだった。
風呂でのぼせて、ウィルに介抱させて、すんなりと眠ってしまったのである。

「こ、これじゃあ全然だめじゃない!」

「…何がだめなんですか?」

「あ、ウィル。」

不意に声がしてアティが振り返るとウィルがゆっくりと身を起こしている。

「おはよう先生。」

ウィルがにっこりと挨拶する。

「おはよう。」

つられてアティもにっこり笑う。

「……で?」

「え?」

しばしの沈黙。
ウィルの視線がアティに刺さる。


うう…やっぱり聞かれていました…?


聞かせるつもりじゃなかった言葉を聞かれてアティは冷や汗モノである。

「何がだめなんですか?」

「え?えーと。アハハ……。」

何とか誤魔化そうとアティは苦笑いを浮かべる。
しかしウィルの追求はやまない。

「……で?」

再びウィルの視線がアティに刺さる。

「ううっ…。」

もはやごまかすことは出来ないようで、仕方なくアティは口を開いた。

「……だって、ちゃんと出来ませんでした。」

「ちゃんと…って?」

ウィルが首をかしげる。

「こう…三つ指ついて”ふつつか者ですが……って…。」

「は……?」

ウィルはぽかんとした表情で口を開けている。


な、何か先生…勘違いしていない!?


「ねえ、先生。」

「はい?」

「どうして、一緒の部屋にふとんを並べたりしたの?」

「え…?だ、だってミスミさまが”そういうものだ”…っておっしゃっていたから。」

アティはミスミから、

”ウィルが帰ってきたらこうするのだ、これがシルターンでは当たり前のことじゃ”

などと色んなことを教えられていたのである。

「ハハ…ハ」

アティの口ぶりからそれを読み取ったウィルは乾いた笑いを漏らした。

「ええと、違いました?」

その様子にアティは訝しげに問いかける。

「いいえ。違ってません。」

ウィルは即答する。
せっかくミスミがアティに教えてくれたことである。
ミスミの助言に感謝しつつアティの勘違いを訂正しないウィルであった。





「ねえ、先生。」

「はい?」

またまたウィルがアティに声をかけた。

「先生は先生らしいのが一番だから…さ、僕らなりに焦らずにいこうよ」

自分にも言い聞かせるようにウィルはアティにそう言う。

「そうですね…。ありがとうウィル。」

にこっと笑ってみせるアティはいつもの明るさを取り戻していた。

「ずっと一緒…なんだから…。」

ウィルは少し照れながら言った。

「…はい。」

アティも頬を染めつつこくんと頷いた。



ウィルが思いを遂げる日もそう遠くないようである。




終わり









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