揺れる意志、変わらぬ夜空 ◆yX/9K6uV4E
始まりは何時だって唐突だ。
ホント、アタシの都合なんてお構いなしにやってくる。
けれど、その度にアタシはアタシの決断をしてきたはずだった。
無くしたものもあったけれど、後悔はしなかった筈。
アイドルになった時だってそう。
其処にはアタシの確固たる意志があったはずだから。
スカウトされたとはいえ、最終的に決めたのは自分自身。
だから、ただアタシは前を向いていればいい。向いてるだけでいい。
そう思ってアタシは進んできた。
思いっきりアタシの歌を歌ってきた。
けど、けれど、これは、流石に迷うしか無かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あークソッ」
無数の星を散らばせた夜空の下、一人の少女が苛立っているように髪を掻き毟っていた。
薄い茶色の長い髪が乱暴に揺れて、さやさやと夜風に舞う。
少女の開始場所だった雑居ビルの屋上からは、むかつくくらい綺麗な星が見えて。
一瞬だけ見とれて、見とれた自分がなぜか許せなくて舌打ちを打つ。
そして、少女は屋上のフェンスに思いっきり寄りかかった。
なんか無性に身体がだるい。
気分はとっくに最悪で。
はーっと少女は思いっきり溜息をついた。
「何だってんだよ……ちっ」
少女――
松永涼は自分自身が苛立ってる事に理解しながらも、苛立ちを隠すことなんて出来なかった。
余りにも巫山戯た殺し合いなんかに巻き込まれて、苛立たない訳が無い。
言われてることはとても単純だ。
自分のプロデューサーを人質に取ったから、殺し合え。
最後に残った一人だけが生き残れる。
「ああ、実に解りやすいルールだよ。単純だ……けどな……悪趣味すぎんだろうが」
単純明快で、だからこそ悪趣味としかいえない。
よりによって、アイドル同士なんて考えた奴の気が知れない。
知りたくも無いけどと涼は呟いて、更にフェンスにもたれかかった。
「銃とか支給されても……上手く使えるか分かんないね」
涼に支給された銃はイングラムというものらしい。
短機関銃らしいが、果たして上手く使えるかどうか。
武器としては当たりだからいいと言えばいいのだろう。
けれど、だからこそ涼の決断を鈍らしてしまう。
「解ってる……生き残るにはやらないといけないって」
悪趣味な殺しあいだ。
巫山戯るなと思う。
生き残るためには殺さないといけない。
ほかのアイドルを、だ。
生き残るためには一人にならなければならない。
「………なら、なんであいつがいるんだよっ!」
ずっと感じていた苛立ちを篭めるように、涼は吼えた。
怒りと悲しみと苦渋に満ちた表情で。
今も、怯えてるかもしれない少女のことを考えながら。
涼は思いっきり、地面を蹴りつけたのだ。
地面を蹴ったって、何も変わりはしないのに。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アイドルになってプロデューサーから、一人の少女を紹介された。
アタシよりも、大分年下の少女……というより子供の女の子。
プロデューサーの背に隠れた臆病そうな子。
面倒くさそうな子だなと思って。
一緒に組む子だと紹介された時、なんの冗談かと思った。
相性だけ言ったら、多分最悪に近いだろうと思ったし。
オドオドして、プロデューサーの背に隠れたまま、顔を出そうとしない。
アタシを怖がってるというのぐらいは直ぐに解かった。
まあ、バンドやっていた頃からそういう顔だってのは知っていたし。
不良っぽいと言われてたのは事実だ。
だから、こういう大人しい子に怖がれるのは知っていたし、慣れてた。
アタシはこれ位普通だったんだけど、一緒に組むとなると話は別。
とても、やっていける気が自信が無い。
アタシは正直な気持ちをプロデューサーにぶつけた。
けど、プロデューサーはアタシに向かって、殆ど挑発する言葉を投げ方のだ。
――――また、独りになるのか?
投げつけられた言葉。
私のトラウマを刺激するには充分すぎて。
衝動的な怒りと恐れに動かされて、プロデューサーの胸倉を思い切り掴んでいた。
その事は、アタシにとっても禁忌だったというのに。
プロデューサーの後ろで、紹介された女の子が震えていたけど、気にもせず。
そして、アタシは言ってやった。
「上等だ、やってやるよ」
今思えば、発破をかけられたんだろう。
それに私はまんまと乗せられたようなもんだった。
カッとしてたのも正直ある。
けど、後悔はしてなかった。
見返してやると思っていたから。
そうして、アタシは背中で怯えている少女――
白坂小梅と組む事になったのだ。
――――で、組んでみて。
思いのほか、馴染んで、しまった。
アタシ自身が正直ビックリした。
一緒に歌を歌ったり、ダンスを踊ると、驚くくらい息が合うのだ。
小梅がアタシに合わせたり、アタシが小梅に合わせたり。
小梅と一緒にやってると、とても楽しかった。
もっともっと先までいける。
そう、思うぐらいに。
まんまと、プロデューサーの思惑通りになったわけけど。
楽しいから、いいやと思ったから。
それと、意外な共通点があった。
それは趣味で、ホラー映画鑑賞というものだった。
一緒にみたりで楽しかったさ。
……まあ、小梅はもっとガチで若干引きそうになったことがあったけど。
……そう、楽しかったのだ。
トラウマがどうでも良くなるくらい。
小梅は、可愛い子だった。
最初怯えていて、懐こうとしなかったけど。
それでも趣味が一緒で、その話で盛りあがったりすると、懐き始めて。
優しくて、恥ずかしがり屋で。
それでも、笑顔がいい子だった。
だから、護ってやりたいと思った。
そう、アタシにとって。
小梅という存在は『アイドル』としての松永涼の大切なピースになっていたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「小梅……ちっ、何で居るんだよ」
涼は、大切なパートナーの名前を呼ぶたびに、思わず舌打ちしてしまう。
逡巡して、それでもなお自分の行く道を定められない原因の少女。
今もきっと怯えているだろう。
お化けよりよっぽど死が近いこのリアルに。
そう思うと、涼は段々苛立ってきてしまう。
「護らなきゃ……小梅は……アタシが……」
そう、小梅は涼自身が護らなきゃいけない。
自分の手で護らないといけない。
そう誓ってるし、そうしたいと思う。
「けど、生き残れるのは、一人だ」
そう、生き残れるのは一人だけ。
小梅と自分が生き残ったとしても、最終的に殺しあわないといけない。
解かっている。解かっているがそれを口にして確認したかった。
口にした所で、何も変わらないだけど。
「ふざけんなよ……ふざけんなよ」
何度も納得しようとして、結局できやしない。
ぐしゃぐしゃと髪を乱暴にかいて、落ち着こうとする。
涼は、思いっきり息を吐いて、前を向く。
そして
「とりあえず……小梅を探そう」
涼は、初めて決断を鈍らせたのだった。
何にせよ、小梅と合流できなければどうしようもないと思って。
そういう言い訳をして居る事から、目を背けて。
「選べないよ……選べる訳ないだろ」
護る事、殺す事。
握ったイングラムをくるくると回して。
「出来る訳が無い、出来る訳がないだろ!」
生き残るためには、小梅を殺さないといけない。
そんな事出来る訳が無い。出来る訳が無い。
だから、
「なんで……なんだよ……なんで、なんだよぉおおおおおお!」
どうにも、ならない思いを、叫ぶしか、出来なかった。
涼の叫びが、夜空に響き続けて。
けれど、空は変わらず、星が輝き続けてるだけだった。
【B-4 雑居ビル屋上/一日目 深夜】
【松永涼】
【装備:イングラムM10(32/32)】
【所持品:基本支給品一式、不明支給品0~1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:小梅と合流 小梅を護る?
1:小梅と合流する。
最終更新:2012年11月16日 20:35