私たちのチュートリアル ◆44Kea75srM



 みなさんはじめまして! 私、島村卯月といいます。
 さっそくですが、みなさんはアイドルに大事なものってなにかわかりますか?
 容姿? スタイル? 歌唱力? きっと人によって答えは様々だと思います。

 実のところ私にもまだわかりません。
 事務所の審査に合格してアイドルになって、レッスンを受けてライブをして、それでも答えは見つかりません。
 でもいつか、同じ事務所の仲間やプロデューサーさんと一緒にがんばって、トップアイドルになれば!
 きっと、きっと答えは見つかるはずだから……だから――!

「私、もっと輝きたいんです!」

 アイドルらしい、大きな声で!
 私、島村卯月は自分の主張を高らかに宣言するのです!
 あ、別にひとり言じゃありません。ちゃんと聞いてくれている仲間たちがいます。

「……うん。わかった。しまむーの言いたいことはよくわかったから」

 私のことを『しまむー』と呼ぶこの子は、本田未央ちゃん。
 いつも明るくて元気いっぱい……なんだけど今日はちょっとだけ元気がないみたい。
 外側にちょっとだけハネてる髪がチャームポイントで、白のブラウスに合わせたピンク色のパーカーがとっても似合ってます。
 未央ちゃんは同じプロデューサーさんのもとでお仕事をしている、大切なお友達なんです。

「どうしたの未央ちゃんテンション低いよ!? ほらおなかから声出して、元気も出していこーっ!」
「あ、うん。しまむーのそういうところ立派だなって思うけど、さすがにポジティブシンキングがすぎるっていうか、現実逃避がすぎるっていうか……ねえ、しぶりん?」
「うん……ちょっと、元気出せないかな」

 未央ちゃんが『しぶりん』と呼ぶ隣の彼女は、渋谷凛ちゃん。
 黒のロングヘアはいつ見てもつやつやです。服装は白のブラウスと黒のカーディガン。
 耳にはピアスをしてて、初めは怖い人なのかなって思っちゃったけど……中身はとってもかわいい人なんだよね。
 そんな凛ちゃんも、私や未央ちゃんと一緒にお仕事をしているアイドルの仲間です。

 私、島村卯月と、本田未央ちゃん、渋谷凛ちゃんは、三人一組のアイドルなのです!

 アイドルの女の子が三人揃ってやることといえばなにか……そう、それはもちろん、アイドル活動です!
 歌やダンスを披露するライブはもちろん、ファンのみんなと触れ合うためのイベントなどなど……熱湯コマーシャルだってやっちゃいます!
 まだまだ駆け出しの私たちは、とにかく経験あるのみ! だからどんなお仕事だってやってのけちゃうのです!


 そう、たとえば殺し合いとか!


 ………………とかー。
 …………とかー。
 ……とかー。


「………………ど、どどどぉおおおおおおおしよぉおおおおお未央ちゃああああああん」
「あ、戻ってきた。よしよーしお帰り卯月。私が抱きしめてあげるから思いっきりお泣き」
「うわーん!」

 ……そうでした。
 テンションで無理やり忘れようとしましたが、だめでした。
 私たちはいま、殺し合いを強要されているんです。
 やらなきゃ殺すと脅されて、プロデューサーさんを人質に取られて。
 アイドルが、アイドルを殺せって、そんなことをしろって。
 私、誰かを殺すかもしれないし、誰かに殺されるかもしれないんです。
 どうしよう……自分が置かれている状況を改めて自覚したら、涙が出てきたよ……。

「ぐすっ……未央ちゃん、紙とペン、取ってもらえる?」
「うん。いいよいいよ。はい」

 面倒見のいい未央ちゃんが、私のバッグからメモ用紙と鉛筆を取り出してくれます。
 つらいけど……現実はしっかり受け止めないとだめだよね。
 だから私は、いま自分にできることをしよう。

「……ねえ、しまむー?」
「なに、未央ちゃん?」
「なに書いてるの?」
「遺書」

 未央ちゃんの視線を感じながら、私は一人粛々と遺書をしたためます。
 私がアイドルになるって決まったとき、家族の誰よりも喜んでくれたおばあちゃん。
 ごめんなさい、卯月はアイドルのお仕事で先に天国に行くことになりそうです……。

「うぅう、ねえねえ未央ちゃん、遺書ってどう書き始めればいいの……? 拝啓? 敬具?」
「あぁう……わかった、わかったよ卯月。いろいろ間違ってるけどとりあえず落ち着こう。ね?」

 未央ちゃんは私から鉛筆とメモを取り上げ、遺書を書いても家族の人に届くかどうかわからないこと、
 生きてるうちから死んだ後のことを考えちゃだめだってこと、アイドルが鼻水垂らしちゃだめだってことを教えてくれました。
 あぅうう、さすが未央ちゃんだよぉ。優しくて頼りになって……と、私は未央ちゃんのくれたティッシュで鼻をかみつつ思うのでした。

「ところで、しぶりんはさっきからなにを見てるの?」

 未央ちゃんが凛ちゃんに聞きます。
 私が遺書を書こうとしていた間、凛ちゃんはずっとなにかの紙を眺めていたみたいです。

「このあたりの地図……私たち、いまこのへんにいるみたい」
「おお~、さすがしぶりんだ。そっかそっか、遊園地の観覧車があっちの方角に見えるから……」

 凛ちゃんが見ているのは、私たちがいまいる島の地図でした。
 未央ちゃんはコンパスを片手に、周囲の景色と地図を見比べて現在位置を確認します。
 未央ちゃん曰く、南西の方角に遊園地の大きな観覧車が見えるから、私たちがいるのは【E-6】の山の頂上みたいです。

「でも広いよねー、この島。私たちが無事に会えたのって、ものすごく運がよかったんじゃないかな」
「私もそう思う。でも、ちひろさんの言ってたことを信じるなら偶然っぽいけど……本当に偶然なのかな」
「ちひろさん……」

 ――私と、未央ちゃんと、凛ちゃん。
 同じユニットで活動している三人が見知らぬ土地でこうして合流できたのは、幸運以外のなにものでもありませんでした。
 三人とも最初は山の中にいて、それぞれバラバラに歩いていたんだけど……五分か十分くらいで、すぐに再会することができて。
 そのときはちょうど頂上付近にいて、上のほうに見晴台があるのを見つけた凛ちゃんの提案で、そこまでダッシュして現在に至るわけです。
 とにかく、まずは落ち着いて。三人で、これからのことを話し合おう、って。

「あぅうう……なのに私、いきなり取り乱しちゃったよぉ~……」
「って、しまむーがまたへこんでる! ああもうほら、お菓子入ってたからこれ食べて元気復活だよっ」

 あ~んと開けた口に、未央ちゃんがチョコバーを入れてくれます。うぅう、おいしいよぉ……。
 でもこれ、中に入ってるナッツが細かくて歯に引っかかる。そういえば歯ブラシって入ってたかな。
 なんて私がそんなことを考えていると、凛ちゃんが自分のバッグからがさごそとなにかを取り出して見せてくれました。

「それより二人とも、これ見てくれるかな。私のバッグに入ってたんだけど」

 私、未央ちゃん、凛ちゃん、見晴台の上で輪になって座る三人の中央に置かれたのは――なんだろう、これ。
 すごく長い、鉄の棒みたいなもの。先端が菱形になってて、真ん中の辺りに革製のベルトが付いてる。

「これ、なに?」
「わからない。武器だとは思うんだけど……」
「あ~……なんか、っぽくはあるよね」

 拳銃……? でも、それにしては大きすぎるよね。警察の人もこんな重たいものは持たないと思う。
 それに弾が出てくる穴も見当たらない。引き金はついてるけど……わからないや。

「こんなの持ってても、使えないし……」

 いつも落ち着いた声音の凛ちゃんが、堪えるような涙声で言います。
 これが、凛ちゃんに支給された武器。一人一人別々のものが配られるって、ちひろさんが言っていたもの。
 これで、殺し合いをしろって……でもこんなの、凛ちゃんはもちろん私も未央ちゃんも使えないよ。

「げ、元気出しなよしぶりん。ほら、こんなの持ってたってどうせ使わないんだし」
「でも、誰かに襲われたら……自衛のための手段は必要だと思うし……」
「そうだよね……せめて防犯ブザーとかだったらよかったのにね……」
「いやいやしまむー。そんなの鳴らしたって誰も助けに来ないって」
「助け……そう、だよね。誰も助けになんか、来ないよね……」

 凛ちゃんが自分の首筋にそっと手を触れる。釣られて、私と未央ちゃんも同じような仕草をした。
 私たちの首には、おしゃれなチョーカー――なんかじゃない、首輪型の爆弾が嵌められている。
 こういうアクセサリーをつけたことがないわけじゃないけど、でもあれは中に爆弾なんて入ってなかった。
 これが爆発したら、私たちの首はパーンって弾けて……弾けて……。

「「「…………」」」

 気づけば、私も未央ちゃんも凛ちゃんも無言になっていました。
 私たちはみんな、殺し合いをするつもりなんてない。
 誰かを殺すのも、誰かに殺されるのも、絶対にイヤ。
 だけど、それでプロデューサーさんを殺されちゃうのも……イヤ。
 プロデューサーさんにはいっぱいお世話になったんだもん。
 絶対、絶対助けたいって、そう思うけど……私たちにそんな、ヒーローみたいな力はない。

「ねえ……これからどうする?」
「どうしようか……」

 こういうとき、私たちの先頭に立ってくれるのはいつも未央ちゃんか凛ちゃんだった。
 その二人が『どうしよう』って言ってる。二人が『どうしよう』なのに、私が『どうしよう』じゃないわけがなかった。
 本当に、どうしよう。どうすればいいんだろう……?

「あ、あの、さ。しまむーにはなにが配られてたの?」

 沈黙を破ったのは、未央ちゃんからの質問でした。
 そういえば、私はまだ自分のバッグの中身を確認していません。
 そうだ。なにか役に立つものが入っていれば、助けを呼べるかも……!?
 たとえば、スマホとか! 取り上げられちゃったけど、電話があれば110番できるもんね。

「これ……」

 そして、私はそれを探り当てたのでした。
 カッコイイ革製の鞘に収められたそれは……包丁。
 うちのキッチンにもある、いたって普通の、包丁でした。

「…………」

 再び無言になっちゃう私。未央ちゃんも凛ちゃんも、かける言葉が見つからないみたいでした。
 ううん。だめ、だめだよ、こういうの。黙ってたら暗くなっちゃう。アイドルはいつだって明るくなきゃ。
 私なんて、二人に比べたら明るさだけが取り柄みたいなところあるしっ。話題……なにか、話題……。

「あ、なんかこれあれだよね。サスペンスもののドラマみたい!」

 私がおもいっきり明るくしたテンションで言うと、未央ちゃんが反応してくれました。

「サスペンスって……ああ、そうだね。殺人事件とかで定番の凶器だよね」
「そうそう。ついカーっとなっちゃった私が、これで未央ちゃんをブスーッと」
「私が被害者なの!?」
「未央ちゃん……私、昨日見ちゃったんだ。未央ちゃんが凛ちゃんと二人で町を歩いてるところ」
「えっ……? 昨日?」
「昨日は私と約束してたよね。私というものがありながら、未央ちゃんは凛ちゃんと……」
「あっ。ああ~、なるほど。そういう設定」
「未央ちゃんを殺して私も死ぬー!」
「や、やめてしまむー! わ、わ……ぐわー!」

 グサーッ!
 ……なんてことはさすがにしませんが。
 私が包丁をちょっと前に突き出すと、未央ちゃんしっかり死んだフリをしてくれました。

「み、未央ちゃんが悪いんだからね……」

 意識して震えた声を出す私。鏡はないけど、きっと顔は真っ青に違いありません。
 す、すごい……自分の演技力が恐ろしい。
 まだ舞台やドラマ出演の経験はないけど、いつかそういうお仕事もしてみたいなあ。
 もちろん、そのときは犯人役じゃなくてヒロインで!

「卯月。それ、危ないから早くしまおうよ」
「あ、うん。そうだよね」

 凛ちゃんがクールに注意してくれる。そうだよね、これは遊ぶものじゃないもんね。
 せっかく鞘がついてるんだから、これにしまって~……と。
 プッ。

「指切ったーっ!」
「わー!」


 ◇ ◇ ◇


 未央ちゃんが、左手の人差し指に絆創膏を貼ってくれました。
 絆創膏は未央ちゃんの支給品。木製の可愛らしい救急箱に入ってたみたいです。

「二人とも、ふざけすぎ」
「「ごめんなさい」」

 凛ちゃんの前で正座して反省する私と未央ちゃん。
 たしかにいまのはふざけすぎでした……いまはそんな場合じゃないのにね……あはは。

「……ねえ、そろそろ真剣に話し合おうよ」

 凛ちゃんの声。
 抑揚のない、真剣って感じがひしひしと伝わる……そんな声。
 私と未央ちゃんは正座のまま、ぎゅっと手のひらを握り込みます。

「私たち、いま絶体絶命だよ。助けも呼べないし、自分の身を守る手段もない。プロデューサーも人質に取られて……どうするの?」
「そんなの……私だってわからないよ。しぶりんもわからないし、しまむーだってわからないでしょ?」
「……うん。包丁なんかあっても、自分が怪我するだけだし……もし誰かに襲われたら……」

 冷静に考えて、逃げるしかない。
 逃げても、誰も助けてくれない。だから逃げ続けるしかない。
 でも逃げ続けたって、事態が好転するわけじゃない。
 この島からは逃げられないし、プロデューサーさんも助けられない。
 こんな絶望的状況の中で、私たちにできることって……なんなんだろう。

「私は、戦おうと思う」

 言葉を探している私の耳に、凛ちゃんの声が届いた。
 私と未央ちゃんは、戸惑い顔で凛ちゃんと向き合う。

「た、戦うって……しぶりん。それって、ちひろさんの言うとおり殺し合いをするってこと? ほ、他のアイドルのみんなと……」
「そ、そうじゃないよ。襲われたら、戦うってだけで……だってそうしないと、一方的に殺されるだけだし」
「で、でも凛ちゃん! それでもし、相手の子が死んじゃったりしたら……」
「それは、正当防衛ってことになるから……たぶん」

 凛ちゃんらしくない、弱々しい声が胸に響く。
 わかる……わかっちゃうよ。
 いつもクールで大人びてる凛ちゃんだけど、不安な気持ちは私や未央ちゃんと同じなんだ。

「私は、プロデューサーが死ぬのも、卯月や未央が殺されちゃうのもイヤ。自分が死ぬのも。
 だから、なにもしないでいるのが耐えられない。意味もなく殺されるくらいなら、いっそ……っ」

 吐き捨てるように言って、凛ちゃんがきつく唇を噛む。
 悲しそうに、悔しそうに。
 隣を見ると、未央ちゃんも同じような仕草をしていた。

 私も……ううん。
 私『も』じゃ、だめ。
 私『が』、二人を――

「――大丈夫」

 ほにゃ、と。
 私は、二人の前で笑ってみせた。

「諦めなければ、きっとなんとかなるよ。……って、これ凛ちゃんの受け売りなんだけどね。ほら、覚えてる?」

 凛ちゃんがきょとんとした顔を浮かべる。その目には涙が見えた。
 さすが凛ちゃん、泣き顔もすっごく様になってるけど……けど、凛ちゃんには笑顔のほうが似合うと思うから。

「私たち、三人一緒に事務所の書類審査に合格して……だけど本当は手違いで、落とされそうになったでしょ?」
「あ、覚えてる。私たちそこで知り合って、トレーナーさんの計らいで追試を受けることになったんだよね」
「うん。街頭で100人分の署名を集めるってやつで、通りがかった人とかにいっぱい声かけたりして……」
「でもぜんぜんだめで、私もしまむーも諦めかけたんだよね。あっ……そっか、そのときだ」

 私たちがアイドルになる前の話。私たちがアイドルになれるかどうかの瀬戸際だったとき。
 私たち三人の中で、最後まで諦めなかった子。他の二人に『がんばろう』って励まし続けてくれた子。

「諦めるなんて、凛ちゃんらしくないよ。私たちは、殺し合いなんてしたくない。
 みんなと一緒に、プロデューサーさんも一緒に、生きて帰りたい。
 だから、そのためにできることを探そう。みんなで、がんばってみよう。
 私たち、いつだって力を合わせてがんばってきたんだもん。それでなんとかなったんだもん」

 凛ちゃんのやわらかほっぺに手を伸ばす。

「だから、ほら! 笑顔、えーがーおー」

 左右でつまんで、ブニーっと引っ張って。

「う、うりゅき。ひゃ、ひゃい」
「うりゃうりゃうりゃ~」

 凛ちゃんの表情が、しだいにほぐれていく。
 その様子を見ていた未央ちゃんの顔も、見慣れた笑顔に戻っていった。
 二人の笑っている姿を見て、私もまた笑みがほころぶ。

 プロデューサーさんもトレーナーさんも、所長さんやちひろさんだって言っていた。
 アイドルに大切なものはいろいろあるけれど、つらいときはなによりも『笑顔』だって。
 だからこんなときこそ、私たちは笑っていようと思います――だって、私たちはアイドルだから!

「……ありがとう、卯月」
「こちらこそだよ、凛ちゃん」
「ぶー。なんか二人だけで通じあってるー」
「そ、そんなことないよ。未央ちゃんと私も、ほら、通じあってるー」

 未央ちゃんの手を握ってバンザイ。
 もう片方の手で凛ちゃんの手を握って、バンザーイ。

「う、卯月……これ恥ずかしい」
「恥ずかしくないよ。ほら、バンザーイ」
「えへへっ。なんか楽しいよね、こういうの」
「み、未央まで……」

 未央ちゃんが凛ちゃんの手も握って、三人でバンザーイ!
 よーし、元気出たぞーっ!
 私たち三人、こうやって手を取り合えば、できないことなんてないよねっ。

「……なんか私だけ思いつめてたみたいで、馬鹿みたい」
「あははっ、凛ちゃんが一人でがんばりすぎなんだよ」
「卯月なんて、最初の説明のとき教室で熟睡してたものね」
「えっ!?」
「あ、見てた見てた。ちひろさんが現れたところで、ようやく『ぴゃ!?』とか言って飛び起きたんだよね」
「机によだれも垂らしてた」
「え、えぇえええ~っ?」

 あ、あれっ。なんか急に、私がいじられる流れに?
 あっ、でもでも、こういうのって、いいかも。
 なんだか、いつもの日常が戻ってきた感じで。
 うん……絶対、取り戻そう。私たちの、日常。

「よーし、がんばるぞーっ! ……あれ?」

 大きな声で大きく意気込んで――そのとき視界の端に入ったあるものが、私をハッとさせました。
 未央ちゃんのバッグからはみ出て見えた、ラッパみたいな機械。
 どこかで見たことがあるような、でも日々の生活じゃあんまり見ないような、これってもしかして。

「未央ちゃん、これって……」
「ああ、それ? なんか救急箱と一緒に入ってたの。そんなのなにに使うの~!?って感じなんだけどね」
「ううん……これ、使えるかもしれないよ!」

 頭の上で『?』マークを浮かべる未央ちゃんと凛ちゃん。
 そんな二人に、私は得意満面な笑みを見せます。
 島村卯月――グッドアイディアをひらめきました!


 ◇ ◇ ◇


 私の手にあるもの……それは『拡声器』と呼ばれるもの。
 学校の集会なんかで、先生が大きな声を出すために使うあれです。
 マイクとは違うからこれで歌うことはできないけど。
 けど……みんなに『呼びかける』ことはできる!

「これで、みんなに殺し合いをやめてもらうよう呼びかける。みんな私たちと同じくらいの女の子なんだもん。
 きっと、私たちみたいに戸惑ったりしてる子が大勢いるはずだよ。
 まずはそういうみんなで集まって、それから助けを呼ぶ方法を考えよう。一人より三人、三人より十人だよ!」

 私がそう提案すると、二人も快く賛同してくれました。
 そうだよね。冷静に考えてみれば、ここにいるのはみんなアイドルなんだもん。
 殺し合いをしろって言われて、すぐにできる子がいるはずないよ。

「すー……はあ~……」

 見晴台の中央に立って、深呼吸。
 そう、ここは山の頂上。
 麓までは届かないかもしれないけれど、私たちみたいに山の中にいる人になら、きっと声は届くはず。
 ここはアイドルとしての声量の見せ所。日々のレッスンの成果を活かすときです!

「いくね、未央ちゃん凛ちゃん」

 頷く二人。
 私は拡声器のスイッチを入れて、大きく口を開いて、広大な山々に向かって――

『――み、みなさん! 私の声が聞こえまひゅはっ!?』

 噛んだ。

「……………………orz」
「ど、ドンマイしまむー!」
「テイク2いこう、テイク2!」

 あんまりな失敗に膝をつく私。
 未央ちゃんと凛ちゃんが励ましてくれなかったら立てなかったかも……。
 ううん、弱気はだめだよね。
 改めて、深呼吸……すぅ…………はー…………よしっ!

『みなさん、私の声が聞こえますか? もし私の声が聞こえたら、山頂の見晴台まで――』



【E-6/一日目 深夜】

【島村卯月】
【装備:拡声器】
【所持品:基本支給品一式、包丁】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:みんなで一緒に助けを呼ぶ方法を考える。
1:拡声器で参加者を呼び集め、みんなで力を合わせる。

【渋谷凛】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、RPG-7、RPG-7の予備弾頭×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:みんなで一緒に助けを呼ぶ方法を考える。
1:拡声器で参加者を呼び集め、みんなで力を合わせる。

【本田未央】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、救急箱】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:みんなで一緒に助けを呼ぶ方法を考える。
1:拡声器で参加者を呼び集め、みんなで力を合わせる。

※本田未央の支給品【救急箱】の中身は以下のとおりです(どれも少量)。
絆創膏、消毒液、風邪薬、胃薬、目薬、軟膏、包帯、カット綿、滅菌ガーゼ、眼帯、ピンセット、爪切り、
ナイロン袋、ソーイングセット、三角巾、はさみ、綿棒、電子体温計、虫よけスプレー、かゆみ止め、
リップクリーム、ポケットティッシュ、テーピングテープ、瞬間冷却パック、ポイズンリムーバー


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最終更新:2012年11月19日 04:24