阿修羅姫 ◆yX/9K6uV4E



――――阿修羅修羅の舞







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





『みなさん、私の声が聞こえますか? もし私の声が聞こえたら、山頂の見晴台まで、来て下さいっ。
 私の名前は、島村卯月ですっ! えっと傍に私と一緒に組んでる渋谷凛ちゃんと本田未央ちゃんも居ます
 わざわざ呼びかけた理由は、一つですっ。


 ――――ぜったいっ、殺し合いなんて、しちゃ駄目です!


 なんで?って言葉はきっといらないですよね。
 だって、私たちはアイドルですからっ!
 みんなを笑顔にするために、私達はいつでも笑ってなきゃ駄目なんです。

 アイドルで居る事に、諦めちゃ駄目です!
 笑顔で居る事、それは基本ですよね、アイドルの。
 誰かを殺す事なんて……そんなことしたらきっと私達は笑えなくなっちゃう。
 だから、殺し合いなんて、しませんっ! 笑いましょう!

 私達、歌って、踊って、そして、笑って!

 全部は、私達が愛してるファンの為に!

 私達の魅力を、ファンに伝えるために、アイドルになったんだから!

 ファンのみんなに、愛されるアイドルに!


 ねえ、そのために皆、アイドルになったんですよね。
 夢に見た、アイドルに。憧れじゃ終わらせないために。

 だったら!

 こんなところで、諦めちゃ駄目なんです!


 明日の……ファンの笑顔の為にっ!



 ――――私達は、笑っていましょう!









     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






未だに、深い山の中で、拡声器の声がこだまする。
殺し合いはしないという甘えた、声が。
だけど、彼女は気にする事は無い。
その声をバックミュージックにして、彼女はする事だけを、するだけだ。


「全て、燃える愛になれ、赤裸に今焦がして――私が守ってあげる」


紡ぐのは、一つの歌。
大切な人に与えられた、歌。
彼女だけに、与えられた、歌。
その歌と、大切な人とした約束を胸に彼女は生きる。

そして、今は生きる残る為に、必要な事を行うのみ。


アイドルにとって欠かせない、レッスンというものを。
彼女はひたすらに行っていた。





     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「ホント、良かったです! 新田さん達が来てくれて」
「ええ、私達も一緒に居れる人達を探してたんですよ、ね。里美さん」
「はい~。本当三人が居て良かったですぅ~」
「良かった、良かった。しまむー呼びかけてよかったね!」

山頂にて、島村卯月が一通りの呼びかけが終わった後、やってきたのは、二人の少女だった。
一人は目を赤くしていた、榊原里美
その里美に袖を握られていた新田美波が二人目だった。
殺し合いに乗ってないということで、卯月達三人は安心しきって自然と笑みが出ている。
今は、五人して地べたに座りながら話し合っていた所だった。

「本当良かったですぅ~……新田さんがいてくれなかったどうなってたか……解からないですぅ~」

里美はそう言って身体を震えさせて、顔を青ざめさせる。
余程の恐怖があったのだろう。何があったのかは、卯月達には言ってくれなかった。
聞きたい気もしたが、恐怖を思い出させるのもよくないと思って、卯月達は一先ず置いておく事にした。

「しかし、新田さんはいい人だね、そんなさとみんを助けるなんてさ」

そんな風に、呼びかけた一人である本田未央は美波に笑いかける。
恐怖で混乱している里美を落ち着かせようと思うなんて、いい人にしか思えなかったから。
未央の言葉に、美波はとても複雑な表情で笑って。

「いえ……そんなことは無いですよ」

ただ、そう答える事しかしなかった。
美波のそんな様子に、未央は気付かず、ただ笑っていた。
その様子を、呼びかけた三人の内、最後の一人である渋谷凛は、一瞥して。

「……それで、これからどうするの?」

これから、どうするべきなのかを問う。
ただ、集まった……それだけでは何も出来ない。
偶然にも五人集まる事ができた。じゃあ、それから何をすればいい。
皆で生き残る為に、皆で帰る為に。
私達は何をすればいい?と凛は問いかける。

「……うーん………………どうしよう?」
「…………………………はぁ、だと思った」

やっぱり、と凛は思う。
笑顔でどうしようと言った卯月に、凛は苦笑いを浮かべる。
こういう子だと解かっていたから、まあそこが卯月のいいところなのだろうと思う事にして。
でも、とりあえず溜め息をつくことにした。


「大丈夫! みんなで集まったんだし、何でも出来るって!」


そう言って、元気に声をかけたのは、未央だった。
未央は、手を叩いて立ち上がり元気を出そうとする。
そう、未央はこういう子だった。

「みんなで、絶対……殺し合いには絶対にのらないんだー! と言い続ければ、きっと大丈夫!」

だってと未央は笑い。
当たり前のように、言葉を紡ぐ。


「私達アイドルなんだから!」

根拠の無い自信だと思う。
けど、何故かそれが凛には力強く見えて。
流石未央だな、って思って。

「えへへ、私もしまむーみたいに、呼びかけるぞー!」

未央は、手を空に突き出して、えいえいおーと声をかける。
それだけで、何か明るくなった気がした。
未央は見晴らし台まで、駆け出して、おーと声を張り上げる。

それは、何時もの日常のような気がして。
凛も笑みが溢れて。
ああ、こうやってしていけばいいんだ。
三人が、五人なって、もっと沢山になって。

諦めないと心に誓って。
みんなと一緒に、頑張ろう。


だって、私達はずっと一緒なんだから。
一緒にアイドルやってきたんだから。
きっと何も怖くない。







――――そう思ったのに。







「えへ、えへへ…………皆、諦めずに、ガンバ…………え……っ」



何か、叩くような乾いた、一つの音だけ、響いた。
なんだろうと凛は、未央を見ると。
お腹が不自然な風に、赤く染まっていて。


「あれ、あれ…………なんか……いた」


じわじわと、どんどん紅くなっていて。
目から、輝きが薄れていて。
それでも、無理に笑おうとして。



「しまむー……しぶりん―――」


大切な人達に呼びかけようとした、その刹那。
草むらから飛び出て、未央の後ろに駆け寄るものがいて。





―――すとん。




島村卯月と渋谷凛にとって、大切な仲間であり、大事な友人であった本田未央の首が




――――ごろごろ。




刎ねられ、転がり、大切な仲間達の方を、向いていた。


それが、ニュージェネレーションと言われた少女の終わりでしかなかった。



けれど、それでも、彼女は笑っていったけど。





【本田未央 死亡】









     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇








「はっ……?」


目の前の突然起きた惨状に、凛は間抜けな声しか、漏れなかった。
何が起きたのだろう? 何が起こってしまったのだろう?
どうして、どうして、未央の首が、地面に転がってるのだろう?
どうして、どうして、彼女は死んでしまったのだろう?

「やっぱり……切れ味がありましたね。良かったです」

一面の緑の地面を、真紅で染めて。
そんな真紅の中、くるくると大きな刃物を回して。
真っ赤な血を浴びながら、どうして未央を殺した少女は、笑ってられるんだろう。


「…………えっ……あ……きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

そんな凛を現実に戻したのは、里美の叫び声だった。
恐怖しか混じってない、アイドルらしくない叫び声。
だからこそ、凛を現実に戻すのには充分で。
其処にあった現実は、未央が目の前の少女に殺されたと言う、残酷な事実でしかなく。

「ゆか……り……ちゃん?」

その事実を引き起こしたのは、目の前の少女――水本ゆかり
凛もよく知ってるし、卯月の昔からの友達だったはずだ。
歌がとっても上手な絶対音感を持つ少女。
黒く長い、お嬢様然とした清楚なアイドルと人気を博している彼女が。

どうして、どうして、人を殺しているのだろう?

「……あぁ、卯月さん。お久しぶりです」
「……どうして?」
「どうしてって、そんな言葉……必要ですか?」

くすっと笑うゆかり。
そんな様子がどう見ても、やばい。
あの少女は、やばい。
そう、解かっているのに。

凛も、里美も、美波でさえも、動けはしない。

動かないと危ないのに、金縛りのように、動けない。
彼女達を縛り続けるのはたった一つで。
強大なその一つで、動けない。

脳裏にフラッシュバックするのは、転がった、未央の首。

ただ、圧倒的な、恐怖と言う感情で。

ゆかりと死への恐怖が、四人を地面に縛り付けている。

「……だっ……って、ゆかりちゃんは……アイドルで……どうして、殺しな」
「……まだ、そんな事言ってるのね……くすっ……ちょっと興が乗りました」
「……興?」
「直ぐ殺すつもりだったんですけど、折角だしお話に乗りましょう」

ゆかりの不可解な言動に、凛は尚更混乱してしまう。
何だ、この余裕は何だろう。
隙だといえるだろうに、誰もそれを突くことなんて、出来ない。

「お話……?」
「それは、甘い事言ってた卯月さんに対してですよ」

まるで、それは卯月に対する弾劾の言葉で。
冷めた目で、卯月を見つめていて。


「――――『アイドル』を舐めてるんですか?」


卯月の伝えた言葉、そのものを否定した。
侮蔑するように、卯月だけを見つめて。

「……な、なんで!? ファンの為に、ファンを笑顔にするために、するのがアイドルで、そのために笑ってなきゃ――」
「ですよね。そうしなきゃ、アイドルではいられない」
「なら――――」

一度は同意したゆかりに、卯月は更に言葉を重ねようとして



「綺麗事だけで、アイドルになれると思ってるんですか。甘いですよ、卯月さん」


ぴしゃりと、卯月を綺麗事だと、断じる。
卯月は青ざめた表情で、ゆかりだけを見つめていた。
凛はそれが、卯月が否定されたくないものを否定されたように見えて、何処か怖くて。


「…………私は本当に運がよく……皆より先に人気が出ることが出来ました」


確かに、そうだった筈だ。
デビューしてまもなく彼女は『純粋奏者』として、歌声を絶賛されていた。
澄んだ美しい歌だと、褒められて、人気アイドルに出世していった。

「けど、その為には、沢山辛い事や苦しい事を経験して……やっと、此処まで来れたんです」

人気が出るまでに積み重ねた苦労。
人気が出た後のバッシング。
それさえも、彼女はきっと乗り超えていった。
けれど

「それを表に出す事なんて……しなかった。しないでしょう?」

アイドルなら、ねとゆかりは言う。
辛くても苦しくても。
どんな時でも笑っている。
笑顔の下に、どんな涙が流れていても、決して見せることは無い。
見せてはいけない。

「だって、アイドルは笑顔でないといけないから」

そう、笑顔でないといけないから。
それが、アイドルなのだから。

「じゃあ、尚更……殺し合いなんて、しちゃ駄目ですよ!……そんなじゃ笑えな――」


卯月の一言を、ゆかりは―――



「それすら、乗り越えて『私達は笑わないといけない』」



笑って、答える。


「…………どんなに苦しくても、辛くても、資格が無くても」



どんな苦しくても
どんな哀しくても。
どんなに資格が無くても。


「待ってるファンの為に……私は覚悟を決めたんです。殺し合いすらも乗り越えて……戻る。
 そうして、幸せも悲しみも包み込んで……皆を笑顔にしなければならない。
 でも、その笑顔さえあれば、生きていける―――それが、アイドルでしょう?」


それが、ゆかりが決めたことだから。
それが、『約束』だから。


「だからね……くすくす……甘いんですよ、何も覚悟も無く笑ってる貴方の笑顔は――とても薄っぺら」

だから卯月の笑顔を薄っぺらしか見えないのだ。
覚悟も無く、ただ笑っていればいいなんて、言うならば。
それだけでアイドルだと言えるなら、みんなを笑顔をできるならば。
皆、最初からやってる。


「同じ事務所の仲間でも……私達はライバルだから…………貴方達は此処で終わってください」


そうして、ゆかりは銃を彼女達に向ける。
生きるために、生きて帰る為に。








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇








「わ、私は……そんなつも……りで……あぁ」

そうして、島村卯月はトレードマークの笑顔を失った。
言い返したいのに、何も言い返せない。
目の前で死んでしまった未央の影響もあり、自分を見失ってしまう。

「……やっぱり、所詮そんなものですか」

失望したと言いたそうに、ゆかりは卯月に銃を向ける。
まず、彼女からと言いたいように。
そして、トリガーに指をかけた時、

「…………させないっ」

地べたから、立ち上がって、ゆかりに体当たりしてくる少女が居た。
それは、卯月を守る為に恐怖を振り切った凛だった。
ただ、大切な仲間に死んで欲しくないから。
その一心で。

「……っ」

しかし、その決死の突撃もゆかりにすんでで避けられてしまう。
だが結果として、銃口が卯月から外れ、ゆかりに一瞬が生まれて

「ひ……あぁ……わ、わた……し……わたし……は!」

銃を向けられた恐怖からか。
自分を否定された故の放心か。
大切な仲間を殺された絶望か。



「わたしはぁぁ…………」



島村卯月は、今の現実から目を逸らして、茂みに一目散に逃げ出していった。
その表情は誰にも見ることが出来なかったけれど。


「い、いやぁああああ……おいて、おいていかないでぇぇ」


そして、地べたに這い蹲っていた里美が急に立ち上がり、もたつきながらも、卯月を追いかけていく。
怖かった、怖くて堪らなかった。
その事から逃れられるのなら、見かけなんて拘っていられなかった。
だから、直ぐに逃げ出した、逃げ出すしかなかった。
背後から撃たれる可能性なんて、考えずに。
ただ、今の現状から逃げたかった。それだけ。

そうして、二人のアイドルだった少女は、一瞬の隙を突いて、あっと言う間に姿を消してしまう。

「……くすっ」

そんな二人の姿を、ゆかりが浮かべたのは嘲笑。
獲物をしとめられなかった悔しさよりもあの二人への侮蔑が勝って。
そして、ゆっくりと銃口を、突進を避けられて尻餅をついていた凛に向ける。

「見捨てられちゃいましたね……凛さん」
「……っ!」

凛に浮かぶのは、一瞬の哀しみ。
けれど、


「護れたと思うから……私は、それでいい……私は、諦めない」


そうして、強く自分をもって、ゆかりをにらめつける。
だって、諦めちゃ駄目だ。
だって、私はアイドルなんだから。
いつまでも前に進むと決めたのだから。


「ええ、諦めちゃ駄目ですよ、凛ちゃん」

そして、その凛の強さは、もう一人の少女――新田美波を奮い立たせるのだ。


美波は、ゆかりに向けて、右手に持った銃を、ただ向けていた。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







アイドルってなんだろう。
初めてそう考えた時に、私が考えた事が一つあった。


アイドルって、ファンの皆に愛される者だって。


そのことに気付いた時、私は何か嬉しくなって、笑った気がするんです。
凄く幸せになった感じがして。

嬉しくて、嬉しくて。

私はその気持ちを大事にしようと思ったんです。


けれど……私は日々を過ごす中で、少しずつそんな気持ちが薄れていって。


私はいつしか、そういう幸せな気持ちを忘れたのかもしれません。



――――だから、私、新田美波はいとも容易く殺し合いに乗ることが出来たんでしょう。



そうして、わたしは幼い子に銃を向け。
怖がってる子を利用しようと考え。
拡声器の少女すらも、利用しようと考えた。


けれど、彼女の放送を聞いて、心に迷いが生じて。
ファンに愛される自分でないきがして。
死んでいった少女にいい人だといわれて。


「貴方だけは…………此処で、終わらせないと」


今、私は水本ゆかりに銃を向けている。
最初、彼女が未央ちゃんの首を跳ねた時、ヤバイと感じた。
この少女は、今排除しないと危険すぎると。
けれど、今はそれに加えて、アイドルを語った彼女が、許せないと思えて。


「貴方はアイドルじゃない…………此処で終わらせる」


殺し合いを乗り越えてこそのアイドル。
だからって、殺すって考えは駄目だ。
だって、皆を笑顔にするアイドルならば。
ゆかりが殺すアイドルは笑顔なのだろうか。
ちがう、そんな訳が無い。

そんなの、認めてたまるか。

それが、アイドルを捨てたはずの私に宿る、ちっぽけな矜持で。

私は、彼女から逃げずに、立ち向かっていた。
それが、アイドルとしての、誇りだから。


「凛ちゃん……逃げて」
「……でも!」
「いいから、早く! 貴方は生きて、アイドルじゃなきゃ駄目!」


今、ゆかりは何も言わずに、銃を向けている。
何処か冷めた目で、私を見ている。
凛ちゃんが体当たりをしたことで、凛に他の武器が無いと判断したからだろう。


「御免ね……凛ちゃん。本当は利用しようと思ってたの」
「……えっ」
「そんな事考えた、私はもう、失格……でも貴方は違う。だから、生きてくださいね?」


ちょっとした、懺悔。
許される事ではないけれど。
それでも、伝えないと、駄目なのだから。

「早くっ、逃げなさい……もう時間がないのっ!」

その私の強い言葉によって、凛は迷いながらも逃げ出す。
見捨てる事の申し訳なさを感じながらも、生きようとする彼女は。

私にはとても輝いてみえました。


「さて、ゆかりさん……どうして待ってくれたか解かりませんが、貴方は此処で終わらせます」


そして、私は躊躇いも無く、銃のトリガーを引く。
彼女だけは許すわけにはいかない。
音も無く発射された銃弾は――


「いえ、終わるのは貴方ですよ」


彼女に当たるわけも、無かった。
まるでゆかりはあたらないと核心してたように。
ゆっくり微笑んでいて。

「レッスン不足ですね……割と銃って反動あるんですから、片手で撃とうとしない方がいいですよ」


そう言って、彼女は両手で銃をしっかりと固定して、トリガーを引いた。
きっと彼女は放送の最中にでも何度も練習したんだろうなと思って。
かたと何か叩くような音がして。


私の胸に衝撃が走って、私は蹲るように、倒れこむ。




解かっていた、現実だ。


これで、私は、終わる。


けれど、これで、いい……のよね。


私は最後は、アイドルだったかな?



御免なさい――――さん。



走馬灯が巡る。



パパ、ママ――さん――


ファンの皆さん


新しい世界を見せてくれて、ありがとう

幸せを、ありがとう



笑顔を、ありが――




【新田美波 死亡】








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇








銃声が聞こえた。
きっと、新田さんは死んだのだろう。
私を逃がして、彼女は、死んだ。
なんで、逃がしてくれたかわからない。

けれど、涙が出てきそうだった。
怖いし、哀しい。

けれど、泣いちゃ駄目だ。


生きなきゃ、未央の分も、新田さんの分も。
でも、涙が止まらない。


「うぁ……うあぁぁぁぁぁ」


振り返らず、前を向いて。
真っ直ぐに、見つめて。


それでも、私は、走ることを、止めなかった。
それでも、私は、生きることを、止めなかった。


託された、希望を胸に。


涙を流しながらも、私は、走っていた。


だから、いつまでも……見守っていて。




【E-6/一日目 黎明】


【渋谷凛】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、RPG-7、RPG-7の予備弾頭×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生きる
1:今は逃げる。


※卯月と里美とは逃げた方向が別です


【島村卯月】
【装備:拡声器】
【所持品:基本支給品一式、包丁】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:???????????????
1:??????????????????



【榊原里美】
【装備:なし】
【所持品:なし】
【状態:健康、安堵】
【思考・行動】
基本方針:死にたくない
1:怖い、卯月を見失わない

※凛とは逃げた方向が別です





     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「うーん、二人ですか……まあ、仕方ないですね」

そして、惨劇の後、ゆかりは一人溜め息をつく。
殺せる三人を逃がした。少し勿体無い。
銃弾をケチらず一掃するべきだったか。
それとも無駄な話をしないで置くべきだったか。

悔やんでも仕方ないかとゆかりは、結論付けて、淡々と美波が握っていた銃を回収する。

後は何か回収できるものがないと見ると、デイバックが無造作に置かれていた。
里美がバックを持たず逃げ出したのだろうとゆかりは気付くと溜め息をまた吐く。
使えない人だなぁと思いつつも、自分の有利になるものなので、有難くもらっておく事にした。

「わぁ……これは……」

そして、そのデイバックの中に入っていたのは、純白のドレス。
スカートはミニで、ダンス用でもあるのか動きやすそうで邪魔にはならないだろう。
ゆかりはそれを見て

「死に装束みたいですけど……いいですよね」

着替える事を決めた。
どうせ、今まで来ていた制服は血まみれで、少し気持ち悪い。
しかもこのドレスにしろ、返り血で染まるんだから関係ないことだった。
そのまま、ゆかりは制服を脱ぎ捨てて、直ぐに着替えを終えた。
ついでに邪魔にならないように髪をゆって、ポニーテールに。

「もう一つは……刀ですかね」

もう一つ入っていたのは、純粋な武器。
白鞘に入った刀で。
ゆかりはそれを腰にさして、使うことを決める。

(……今は放送まで休憩しましょうか。山下る訳にもいかないですし)

ゆかりはそこで一息ついて、休む事を選択する。
此処まで山を登ってきたのだし疲労はあったのだから。
焦る必要性はない。淡々と減らしていければいい。


(――――さん、きっと許してくれないですよね)

思うのは、大切なプロデューサーの事。
大切な約束をした、人の事。

多分、きっと自分のしたことは許さないだろう。
怒って軽蔑するかもしれない。
鮮血に染まった自分を。


けれど、それで構わない。
最後の瞬間に、あなたの瞳を見つめられるのなら、犯す罪残さず、地獄の神に許しを乞おう。


「それでも……私は、貴方だけの為に」


たとえ、血に濡れたとしても。


この想いは、



けして、穢れぬように。





【E-6 見晴台/一日目 黎明】

【水本ゆかり】
【装備:マチェット、白鞘の刀、純白のドレス】
【所持品:基本支給品一式×2、シカゴタイプライター(43/50)、予備マガジンx4、コルトガバメント+サプレッサー(6/7)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:プロデューサーを助ける。アイドルとして優勝する
1: 一先ず休憩


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前:私たちのチュートリアル 本田未央 死亡
本田未央補完エピソード:ほしにねがいを
渋谷凛 次:彼女たちが辿りついたセブンワンダーズオブザワールド
島村卯月 次:彼女はどこにも辿りつけない
前:蜘蛛の糸 榊原里美
新田美波 死亡
新田美波補完エピソード:ヴィーナスシンドローム
前:彼女たちのためのファーストレッスン 水本ゆかり 次:安全世界ナイトメア

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最終更新:2014年02月27日 21:18