邂逅、そして分たれる道 ◆n7eWlyBA4w



  <北条加蓮


 深夜の住宅地は光を掻き消しそうなくらい暗く、底冷えのする空気を湛えている。
 間隔の広い街灯から投げられる無機質な光は、闇を照らすどころか引き立て役に甘んじている。
 普段なら決して近付かないような場所、出歩かないような時間帯。
 それを恐ろしいと思えないのは、それ以上の異常さに私の心が麻痺してしまったからだろう。

 私は今まさに自分が握り締めている、見慣れないものに改めて目を遣った。
 残念ながら、マイクみたいなアイドルらしいものじゃない。
 それは人を殺す道具。こんなものを手にする日が来るなんて思いもしなかった。

 グリップはいわゆるピストルに似ていて、引鉄もちゃんと付いている。
 銃と違うのは、銃身の前の方のところに弓が水平に付いているのと、
 撃鉄(だったっけ?)の代わりに変な形のレバーみたいなものがあるところ。
 実際に見るのは初めてだけど、ボウガンの一種みたい。
 ボウガンと言ってもロビン・フッドとかウィリアム・テルが持っていそうな
 仰々しくて重そうなのじゃなくて、片手でも持てるような小ぶりのものだ。
 ピストルクロスボウという種類らしい。説明書の受け売りだけど。
 後ろに生えてる変なレバーは弦を小さい力で引っ張るためのテコらしく、
 実際に押し下げてみたら、少し力は要ったけど問題なく矢を番えることはできた。

 でも、アイドルになろうとする前の私なら、たぶんこの程度の力もなかっただろう。
 ということは、こうやって人殺しの準備が出来るのも日々のレッスンのおかげなのかな?
 なんだか複雑。ううん、冗談にしたって笑えない。
 ほんと、これがいつものマイクならどんなに良かったか。

 ディパックを背負ったまま、クロスボウを構えてみる。
 なかなか様になってるんじゃないかな? 自分じゃよく分かんないけど。
 これで迫り来る敵をバッタバッタとやっつけて、最後まで生き残る私。
 そして悪の黒幕も打ち倒し、プロデューサーを救い出すんだ。
 きっと感動の再会なんだろうな。二人共わんわん泣いちゃったりしてね。
 でもそうすれば元通り、あの輝くステージを目指して頑張る日々が戻って……。



 …………。



 バカみたい。



 現実逃避めいたその想像は、実際なんの現実味もなくて。
 本当の私の心は、その下らない妄想に目もくれずに膝を抱えて震えている。
 本当は、もう分かってる。頭の片隅では理解してる。
 こうやって戦う準備をしても、私は、きっと――


「――きっと、生き残れないな、私」


 その呟きは諦めの言葉というよりも、ただの現状認識。
 自分の置かれている状況にもうひとりの自分が客観的な評価を下しただけ。
 私はどこか他人事めいて、いずれ来る自分の死を認識してしまっていた。
 まるで何もかもを諦めていた昔の自分に戻ってしまったように。

 昔の私は、自分の力じゃ何もできないと思ってた。
 病室のベッドに横たわったまま、テレビの歌番組で輝きを振りまくアイドル達を、
 憧れと羨望と諦めと無力感が綯い交ぜになった目で眺めるだけだったあの頃。
 このベッドの周りをぐるりと囲んでいる真っ白いカーテンみたいに、
 私とあの人達の間は見えないカーテンで区切られているんだ、そう信じてた。
 なんてつまらない人生。なんてつまらない世界。
 頑張ったって仕方ない。夢を持つなんて下らない。
 カーテンの向こう側なんて無いのと同じなんだから。
 そう思おうとしていた私を、目をつむったままうずくまっていた私を、
 凛が、奈緒が、そしてプロデューサーが、向こう側に連れていってくれた。
 そして知ったんだ。信じればきっと、夢は叶うんだって――

「……その先に待っていたのが、これ? いくらなんでもあんまりじゃない」

 乾いた笑いすら出てこなかった。
 この殺人ゲームの企画者はあまりにも悪趣味だ。
 私たちが必死で勝ち取ろうとした夢を、抱き続けてきた想いを、嘲笑っているの?
 お前らの世界なんてこんなに簡単に潰されてしまうほどちっぽけだって、そう言いたいの?
 悔しい。私たちの全てをドブに蹴落とすようなやり方が、たまらなく悔しい。
 それでも今の自分はあまりにも無力で、ただ言いなりになることしか出来はしない。
 プロデューサーが人質に取られている以上、何もかも投げ出すわけにもいかない。
 そうなれば嫌でも殺し合うしかなくて――きっと、私は生き残れない。

 ずっと入院してたんだから言うまでもないけど、私は元々体が弱い。
 最近は欠かさずにレッスンしてるからそれなりに体力は付いてきているはずだけど、
 あいにくこの場にいるのは全員アイドル。それくらいは基礎の基礎だろう。
 運動能力で他の人に勝てるなんて到底思えない。

 それに、どのみち、私に「彼女たち」が殺せるわけがない。

 渋谷凛と、神谷奈緒
 デビュー前のほんの駆け出しの時から、一緒に夢を追い続けてきた私の親友たち。

 凛は一見ぶっきらぼうで取っ付きにくい雰囲気だけど、本当はひたむきで真っ直ぐで、
 アイドルって仕事に本当に誇りを持ってるんだってことを私は知ってる。
 私や奈緒よりも一歩早くユニットとしてデビューした彼女の姿を街で見かけるたびに、
 いつか必ず同じ舞台に立ってやるんだって思ってたっけ。
 アイドル界のニュージェネレーション。その称号は、凛にこそふさわしいと心底思う。
 そんな凛の存在は、私たちの目標であり誇りだった。

 奈緒はそんな凛とは正反対に、感情豊かで親しみやすい性格の持ち主だ。
 気持ちに合わせてコロコロ変わる表情は見ていて飽きない。じっと見てると怒るけど。
 そんな彼女のカメラやファンを前にしても物怖じしない舞台度胸は、私も見習いたいと思う。
 舞台の上ではあんなに堂々としてるのに、普段はすぐ動揺が顔に出るのが奈緒だけど。
 プロデューサーのこと気にしてるの、バレバレなのに必死で隠そうとしたりね。
 全然素直になろうとしないから、ついつい後押ししちゃったりもしたなぁ。
 ……本当は私もプロデューサーのこと、ちょっと気になってるんだけどね。
 奈緒があんまりいじらしいから、ずっとこの気持ちは仕舞っておくつもりだけど。

 ……プロデューサー、か。


「こんなことならお見舞いに来てくれた時、もっと甘えとけばよかったかな……」


 私が無意識にそう呟いたのと、私の耳が背後からの物音を聞き付けたのは殆ど同時だった。

 無意識にクロスボウの銃把を強く握り込む。
 心臓を絞り上げられて血が逆流しているような戦慄が、私の皮膚を内側からささくれ立たせる。

 こんな時に、私は何を呑気なことを考えていたのだろう。
 いつどこから襲われるかも分からない、そんな単純なことを忘れていたなんて。
 自分は生き残れないだろうというぼんやりとした実感。
 自分の周りに再び見えないカーテンが引かれているような隔絶感。
 それでもそれは、自分がいつ死んでも構わないと自棄になれるほど確かなものではなくて。
 生きられるものなら生きていたい。死にたいなんて思うわけがない。

 背後の気配に全神経を集中させる。
 幸い向こうも余裕がないのか、微かな物音や息遣いまで伝わってきそうなぐらいだ。
 振り返りたい衝動を堪えて、気取られないように振舞う。
 相手が襲いかかってくるのなら、その瞬間に合わせて先にこの矢を撃ち込むしかない。
 人を射ることへの抵抗はある。殺してしまうかもしれない、そのことへの怖さもある。
 それでもこんなところで、何もできずに死んでしまうのは、そんなのは嫌だ。
 せめて、せめて二人ともう一度会いたい。会って話がしたい。
 それが今の私のささやかな願い。それを果たすまでは、死ぬものか。
 大丈夫、やれる。銃身をまっすぐ向けて引鉄を引くだけ。難しいことは何もない。
 襲撃者に気付かれないよう、私は大きく深呼吸した。

 そして、何分、いや何秒だろうか。
 感覚も曖昧になるような粘つく時間が過ぎていった。

 不意に背後の気配が大きく動いた。
 自分の斜め後ろから、殺意が足音と共に一気に近づいてくる。
 間に合うだろうか? ううん、間に合わなかったら終わりだ。
 私は意を決して振り返り、ピストルクロスボウの先端を相手に向けて突き出した。
 相手が一瞬怯むのが分かった。それでも止まる気配はない。もうこちらも躊躇えない。
 私はただ無心に引鉄を引き絞ろうとして――


 そこで初めて、相手の顔を視界に収めた。



 「…………奈緒?」

 「加蓮…………?」



 それは会いたくて仕方なかった、だけどこの状況では一番見たくなかった顔。
 私の視線、そしてクロスボウの射線の先には凶器を振り上げたまま硬直する私の親友。

 神谷奈緒が、そこにいた。




  ▼  ▼  ▼



  <神谷奈緒>


 どうして、こんなことになってしまったんだろ。
 何度この問いを繰り返したか分からない。
 いくら考えたって絶対に答えが出るわけがないんだってことは、あたしにも分かってる。
 それでも問い続けざるを得ないくらいに、この現実は狂い切っていた。

 あたしが誰かを殺さなきゃ、プロデューサーは死ぬ。
 プロデューサーを助けようと思えば、凛や加蓮はあたしの手によって死ぬ。
 凛や加蓮を救おうとすれば、少なくともあたしは死ぬ。そして親友のどちらかも死ぬ。
 何もしなければプロデューサーは死ぬ。ただしそれであたし達が助かるわけでもない。
 あたし達が、今まで通りの幸せな世界に戻れる見込みは、ない。

 なんだよこれは。
 なんなんだよこれは。

 これがアニメなら大荒れ必至のシナリオだ。ただひたすらに絶望的なだけ。
 バッドエンドを回避する手立てが、初めから何一つ用意されていない。
 視聴者からは「製作者の醜悪な人間性が透けて見えるようだ」とか言われたりしてな。
 全くもってその通りだ。こんなことを考えるヤツが、まともな人間な訳はない。

 それでも、あたしは僅かな希望に縋っていたかった。
 あたし達がみんなで笑って迎えられる、そんなグッドエンドがあると信じたかった。

 そのためには、覚悟が必要だった。
 単に、決着を先延ばしにするだけかもしれない。
 その結果、もっと残酷な結末になるかもしれない。
 それでも、凛も加蓮もプロデューサーも、みんなを少しでも生き永らえさせるためには、
 『あたし自身がそれ以外を殺す』という選択以外思いつかなかったのだ。

 先にデビューした凛は別だが、あたしと加蓮は同じプロデューサーに担当されている。
 つまり今この状況では、プロデューサーはあたし達二人にとっての人質ということだ。
 これだと、あたしがいくら殺し合いに協力しようが、加蓮が仮に反抗的だったとしたら、
 結局プロデューサーは見せしめとして殺されてしまうことになってしまう。
 でも、それはたぶん逆だ。あたし達両方を上手く殺し合いに乗せたいのなら、
 片方だけのために一枚しかない切り札はそう簡単に切れはしないはずだ。

 つまり、あたしが殺し合いに乗りさえすれば、プロデューサーは少なくともすぐには死なない。
 そして、加蓮が無意味に手を汚す必要もなくなる。
 返り血を浴びるのはあたし一人でいい。加蓮にはそんな役は似合わない。


(プロデューサー……素直でなくてごめんな。かわいくないアイドルで、ごめんな。
 それでも、あんたはあたしが守るから。あんたも、加蓮も、殺させてたまるもんか)


 今までのプロデューサーとの関係を思い出して、後悔が洪水となって押し寄せそうになったので、
 あたしは頭を振って無理やりにそのことについて考えるのをやめた。
 今あたしに出来ることをしなかったら、きっともっと後悔するだろうから。

 ディパックから引っ張り出した支給品を強く強く握り締める。
 あたしの武器は、アメリカ軍が使ってるとかいう片手サイズの斧だった。
 兵隊さん方がこんなちっぽけな武器で戦ってるっていうのなら頭が下がる限りだ。
 せめてナイフなら、もうちょっと気休めにもなったかもしれないのに。
 それでも、あたしには余裕がなかった。更に言うなら選択肢もなかった。
 得物がどんなに不利で頼りなくても、やるしかなかったのだ。
 あたしの大事な人たちのために。


  ▽  ▽  ▽


 最初の相手は、あたしが決意してからほどなくして現れた。
 しかし暗くて様子は見えなかったけど、あまり周囲を警戒してるみたいには見えない。
 しばらく住宅の隙間を縫って後をつけたが、少なくとも気づかれてはいないような気がした。
 少しずつ相手との距離を詰めるたび、比例するように心臓の音が自分で聞こえるほど大きくなる。
 トマホークを握る手が汗ばんでグリップが滑りそうになり、慌てて服で拭った。
 自分がどれだけ動揺しているか、嫌でも実感してしまう。
 初めて殺人を犯そうとするのに、動揺しない方がどうかしてるんだろうけど。
 改めてこれからやろうとしてることを考えると、全身に鳥肌が立つ思いだった。
 それでも、やると決めたんだ。もう、躊躇うわけには行かないんだ。 


(プロデューサー、凛、加蓮……軽蔑してくれていい、今だけはあたしに勇気をくれ!)


 意を決して、あたしはトマホークを振りかぶり一気に物陰から飛び出した。
 こんな小さい刃でも、背後から全力で殴りつければ十分。そのはずだった。
 誤算は二つ。相手の反応が予想よりだいぶ早かったこと、相手の武器が銃のようなものだったこと。
 一瞬無意識に怯んでしまったが、今更止まれない。もうここまで来たら躊躇えない。
 私は全力で凶器を振り抜こうとして……




 本当に、どうして、こんなことになってしまったんだろ。




 気がついた時には、あたしは転がるように走り出していた。
 もつれそうになる両足で強引に大地を押さえつけて、ただ不乱に走っていた。


(殺しかけた……殺しかけた、殺しかけた、殺しかけた、殺しかけた……ッ!)


 北条加蓮。あたしの、大事な、大事な親友を。よりにもよって、このあたしが。
 少しでも死から遠ざけようとして、死なせまいとして、その結果がこれか。
 絶対に死んで欲しくない相手を自分の手で。バカじゃないのか、あたしは。
 自分の愚かしさを、間の悪さを、事前に気付けなかった迂闊さを呪った。

 背後で加蓮が何か叫んでいる。聞こえない。聞こえちゃいけない。
 親友を殴り殺そうとしたあたしに、応える資格なんてもうないんだ。
 加蓮はきっと、私を許そうとするだろう。一緒に生き抜こうと願うだろう。
 でも、それに甘んじてしまったら、あたしは自分自身を許せなくなりそうだった。

 何時の間にか、自分が泣いているのに気付いた。
 今のあたしの顔は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってるんだろう。
 とてもファンには見せられない。もちろんあたしの、大事な人たちにも。
 いや、今のあたしそのものを、誰にも見られたくなかった。 

 こうなった以上、加蓮のもとには戻れない。
 もちろん素知らぬ顔で凛に会うなんてことも出来ない。
 そして、ここで挫けたら、自分の決意の何もかもが無駄になってしまう。
 僅かに残っていた退路は完全に断たれてしまった。

 もう、進み続けるしかない。

 加蓮の死のイメージが脳裏に焼き付く。もしあたしでなく、他の人間が同じことをしたら。
 その想像はさっきまでと比べ物にならないほど鮮烈にあたしの脳を支配している。
 皮肉にも、自分の手で殺しかけた経験が、彼女を死なせたくないという想いを強めていた。
 絶対に死なせない。もちろん凛もだ。
 そして、プロデューサー。あたしが乗れば、死なずに済むんだよな?
 もう同じ間違いはしないから。絶対にうまくやってみせるから。
 だからさ……絶対に、あたしの前で死んだりしないでくれよ……。

 次第に加蓮の声が背後に置き去りにされていく。
 気付かないふりをして走った。必死で走った。
 その先に辿り着くだろう場所にも幸せなんてないと知りながら、ただひたすらに。


(死ぬなよ、加蓮……死ぬなよ、生きろ、絶対に死ぬな……!)


 せめて、ささやかで自分勝手な願いだけは彼女に届いてくれることを祈りながら。




【G-4/一日目 深夜】

【神谷奈緒】
【装備:軍用トマホーク】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品0~1(武器ではない)】
【状態:健康、混乱】
【思考・行動】
基本方針:もう後には引けない。プロデューサーと親友を死なせないため戦う。
1:凛と加蓮以外の参加者の数を減らしていく
2:もっと強い武器が欲しい
3:凛や加蓮とは出来ることならもう会いたくない、巻き込みたくない


※明確な目的地を持たずに移動している状態です。



  ▼  ▼  ▼



「奈緒! 待って、待ってよ奈緒!」


 逃げるように走り去る奈緒の背中に少しでも近付こうと、私は必死で追いながら彼女の名を呼んだ。
 それでも一歩を踏み出すたびに二人の距離は確実に遠ざかっていく。
 自分の体力のなさを今ほど呪ったことはなかった。

 奈緒に殺されかかったという事実は、実のところ私にとって重要ではなかった。
 信じている親友の手に掛かって死ぬところだったのに、その衝撃は頭の隅に追いやられていた。

 だって、それよりもずっと辛いことに私は気付いてしまったから。
 目と目が合った時の、奈緒の表情――くしゃくしゃになった泣き顔を見た瞬間、分かってしまったから。
 奈緒は、私を殺すつもりなんてなかったし、これからもそうしたくないんだって。
 プロデューサーと、それから私達のために、殺し合いに身を投じようとしてるんだって。

 きっと私たちの誰にも知られたくなかったんだろう。だから振り向いてもくれないんだ。
 奈緒は優しいから。いつもの態度も、本当の気持ちを表に出せない裏返しだって分かってるから。
 だから今も本当の気持ちを隠して、強がっているんだろう。
 こうするしかないんだって歯を食いしばって、戦おうとしてるんだろう。
 でも……私は、奈緒にそんなこと望んでいない。


「奈緒ーーーーーっ!」


 きっと奈緒の耳には届かないだろうと心の何処かで理解しながら、私は叫ばずにいられなかった。
 奈緒に、私の大切な親友に、人殺しなんてして欲しくない。
 それに殺し合いに加わったら、きっと奈緒自身も危ない目に遭うに違いない。
 死んでしまう。殺されてしまう。それが怖くて、私は声を振り絞った。
 それでも、奈緒の背中はどんどん小さくなっていく。私の存在を振り切ろうとするように。
 あんなにずっと一緒にいたのに、今はただの言葉一つも届かない。

 私の心を覆っていた見えないカーテンは、今や皮肉にも引き裂かれていた。
 今の自分は、このどうしようもなく残酷な現実に素肌を晒していた。
 奈緒の、ここにいない凛の、そしてプロデューサーの、掛け替えのない未来が切り刻まれていく、
 その事実が確かな実感として私を押し潰そうとしていた。
 それは自分自身の死よりも確かで、どうしたって堪えようのない恐怖。



「うっ……うう、ううっ……奈緒っ……」



 それでも私は、自分ひとりではどうしようもなく無力で。



「凛……どこにいるの凛? 奈緒が、奈緒が死んじゃうよぉ……」



 ただ子供のように泣きじゃくることしか出来ないのが、私にはたまらなく悔しかった。



【G-4/一日目 深夜】

【北条加蓮】
【装備:ピストルクロスボウ】
【所持品:基本支給品一式×1、専用矢(残り24本)、不明支給品0~1】
【状態:健康、精神的ショック】
【思考・行動】
基本方針:自分の身よりもまず、親友を危険に晒したくない。
1:奈緒を探して、無茶を止めさせたい
2:凛に会いたい


前:悪者とプリンセスのお友達なカンケイ 投下順に読む 次:太陽のナターリア
前:悪者とプリンセスのお友達なカンケイ 時系列順に読む 次:太陽のナターリア
神谷奈緒 次:My Best Friend
北条加蓮

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年11月16日 19:15