少女/大人 ◆yX/9K6uV4E
私がまず確認したのは名簿であった。
焦りながら名簿に目を走らせ、何度も、何度も、確認する。
そうして、列挙された名前の中に、二人の名前が存在しない確認し、私は安堵した。
そう、私――
大石泉にとって大切な親友の名前がない事に。
私にとって、大切な、大切な、親友。
さくらと亜子。ずっと一緒だった友達。
こんな私に、友達で居てくれた二人だ。
アイドルだって、二人が居るからなろうと決めたんだ。
三人でなれるなら、いいと思えたから。
大切な二人が、もしこの場にいるのなら……そう考えるだけでも恐ろしい。
だから、私は二人が巻き込まれてなくて、本当に安心したのだ。
けれど…………まだ、安心できない。
プロデューサーが人質になっているのは知っている。
でも、私みたいにグループで活動しているアイドルだって居るんだ。
そのグループの誰かが人質になっている可能性だってある。
さくらや亜子が人質になっていない……なんて、誰が否定できるものか。
だから、安心なんて出来ない。
他に考えることだって沢山ある。
何で、私が選ばれたんだとか。
三人のグループの内で、私だけが何故?
自分で、頭がいいというのは気が引けるけれど、その頭脳を期待されて?
これでも留学の誘いが来る位にできるんだもの。
それはありえる筈だ。
……けど、考えたくないけど。
論理として、当然考えなければならないことがある。
さっきの逆だ。
私が、全く、期待されてないから。
アイドルとしての素質が、全くないから。
こんなところで殺し合いをして、果てても構わないから。
三人の内で、最も要らないから。
そう、思われたんじゃないかと思う。
違う、違うと頭を振って否定したいけれど。
私を励ましてくれるプロデューサーも、親友も居ない。
だから、そうなんじゃないかと思ってしまう。
そして、思いたくないのに。
考えたくないのに。
冷静な所で、自分を分析してしまう自分がいて。
その自分が囁くのだ。
―――お前は親友から、捨てられたんだって。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さて、まあ、情報交換は終わったわね」
「交換する情報も殆ど無かったですけれど」
「とりあえず、現状を確認するだけでも意味があるのよ」
「そういうもんですか」
「そういうものよ」
ある一軒家で、黙々と話あってる三人が居た。
まるで、家族会議のように顔に突き合わせて。
テーブルにはお茶と名簿などが載せられていた。
「……状況は良くないけど、三人合流できただけでもよしとしましょう」
そう溜め息を吐きながらも、あえて明るく言った女性は、
川島瑞樹といって。
落ち着いた妙齢の女性なのだが、何故か可愛さを売っているアイドルになっていた。
それが瑞樹と話をしていた少女――大石泉にとって非合理的に見えてしょうがない。
二十八歳という年齢なのだから、それに似合う売り方をすればいいのにと思ってしまう。
「果たしてそれがいいことか解からないですけど」
集まったことで、見つかりやすいデメリットだってある。
淡々に泉は事実だけを述べて行くだけだが、それに瑞樹が噛み付く。
「こら、若い子がそんなに悲観的にならないの!」
「それはそうですけど……」
「あ、私まだまだいけるわよ!」
「……もう、いいです」
瑞樹の言う事は最もなのだが、その後の言葉で台無しだ。
泉はそう思って、思わず溜め息を吐いてしまう。
「まぁー川島さんも、泉ちゃんもそんなカッカしないでさ、ちなみに川島さんはまだまだいけると思うよ!」
「貴方が言うと嫌味しか聞こえないわよ……」
「へ? そう?」
二人をフォローするように言うのが、家に集まった最後の一人であった野球のユニフォームを来た、
姫川友紀だった。
彼女は二十歳なのだが、外見は十五歳の泉と同じぐらい幼く見えて、瑞樹にとっては羨ましくて仕方ない。
それに友紀は気付く訳も無く、きょとんとするばかり。
「……ま、いいわ。とりあえず今後の予定を確認しましょう……大前提として殺し合いはしない。いいわね」
「はい、勿論」
「うん、当たり前だね!」
偶然にも、スタート地点から早々と合流できた三人だが、目的は既に決まっていた。
アイドルとして、人として、殺し合いはしない。
それは大前提として、アイドルとして、やってはいけない事であることを理解していたから。
「まず泉ちゃんは首輪を解除……だったかしら?」
「ええ、まずこれを何とかしないと、幸いそういう知識はありますので」
「そう、若いのに凄いわね。負けてられないわ」
泉が考えたのは、自分達を縛ってる一つである首輪を解除する事だ。
自分はプログラミングや、機械には強いという自負がある。
どんな難しい仕組みでも出来る、やらなければいけない。
そういう自負があったのだから。これは自分の仕事だと言い切れる。
まるで、自分の存在を示すように。
そんな泉は、瑞樹は何か思いながら見つめて、友紀のほうを向く。
「まず、友紀ちゃんは、グループのメンバーと合流……いいわね?」
「うんっ! 皆……絶対殺し合いなんてしてない……そう信じてる。皆で脱出したい」
友紀は胸に手を当て、祈るようにそう呟く。
彼女が所属しているグループ――FLOWERS。
花が似合うアイドルと言う事で、結成されたグループだが、あっと言う間にスターダムを駆け抜け、今や一大グループになっている。
プロダクションを代表するグループの一人が、友紀だった。
「……誰かが、グループの皆を生かそうと殺し合いに乗ってるかもしれないですよ」
「泉ちゃん!」
「有り得なくない、でしょ」
泉から友紀に出される、疑問。
瑞樹の制止の声にも泉は止めなかった。
当たり前の論理でしかない。
泉だって三人グループの一人なのだから。
親友が居たのなら……乗っていたかもしれないのだから。
「ううん……あたしはそうだとしても、皆を信じたい」
「そうですか」
「だって、『アイドル』だから。もし乗っていたりしたら……ぶん殴って、止めさせるよ……だって」
それでも、友紀はみんなを信じると言って。
乗っているなら、止めると言い切って。
「アタシ達は、大切な、仲間なんだからっ!」
仲間だから。
大切な仲間だから。
みんなを信じて、信じるからこそ、乗っているのなら止めてみせる。
止められると信じているから。
そこにあるのは、ただ、仲間への絶大な信頼。
それだけだった。それだけでいいのだから。
「…………仲間、か」
泉は、呻くように呟いて。
心の中のモヤモヤがどんどん広がっていて。
信じ切れない自分が、悔しくて。
どうしようもないくらい自分が矮小に見えてきて。
泣き出しそうなぐらい哀しくて。
「――ストップ。泉ちゃん。これ以上は考えない方がいいわよ」
そんな負の思考の連鎖を止めたのは、瑞樹だった。
泉を見つめる視線は正しく大人で。
「こんな状況なんだから、駄目な方ばかり考えてしまうのは当たり前。解かる?」
「…………はい」
「自分を責めては駄目よ。誰も悪くない。そうに決まってるんだから」
誰も悪くない。
そうだ、そうに決まってる。
泉もそう思いたい。
瑞樹は泉を優しく抱きしめて、囁く。
「難しく考えるのは大人の役目よ……任せなさい」
「川島さん……」
「私も……あの馬鹿な子に真意を聞きたいわ」
「馬鹿な子?」
「大人の話よ」
そう言って、瑞樹の呟きを追究する事はできなかった。
憂いの篭った言葉だけれど、きっと何かあるのだろう。
「あははっ! 川島さん、お母さんみたいだねっ!」
「ちょ、ちょっと友紀ちゃん、冗談きついわよ!」
「そっくりでしたよ!」
「ま、まだまだ若いわよ!」
友紀の茶化しで、場は和んで。
泉自体も何故か、心が落ち着く。
(誰も悪くない、か)
誰も悪くない。
そう、きっと、悪くない。
(今は信じるしかないよね、皆を)
泉は心の中で呟いて。
思うのは、二人の親友の事だった。
帰らなきゃ、二人のもとへ。
大切な、大切な親友なのだから。
【A-4/一日目 深夜】
【大石泉】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品1~2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いに乗らず、親友の下へ帰る。
1:そのためには首輪を解除
2:難しい事は…………考えないようにしないと
※さくらと亜子(共に未参加)とグループを組んでいます。
【姫川友紀】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品1~2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いに乗らない。
1:仲間を信じる。
2:万が一乗ってたら、止める
※FLOWERSというグループを、
高森藍子、相葉夕美、
矢口美羽と共に組んでいます。四人同じPプロデュースです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そう、やるのはあくまで大人よ。
あの馬鹿な子……ちひろは何を考えてるのか。
それを知るのは大人だけでいい。
誰も悪くないと考えるなら。
ならば、そうせざる終えなかった状況が、あるのだ。
誰も悪くない、けどこんなことやらなければならない。
そういった事情があり、そしてその事情は残酷でしかないのだろう。
理不尽で、哀しすぎる事情が。
きっと子供には聞かせられない事情があるのだろう。
だから、それを知るのは、私だけでいいだろう。
そのためにも、ちひろから聞く。
それがあの子の親友としての使命だろう。
さあ、頑張りましょ。
自分の為に。
泉ちゃんたちの為に。
プロデューサーの為に。
そして、大切な親友の為に。
【A-4/一日目 深夜】
【川島瑞樹】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品1~2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いに乗らず、親友に真意を聞く。
1:泉をよく見る
最終更新:2012年11月28日 21:44