Memories Off ◆yX/9K6uV4E



――――かけがえのない想い、抱いて。











     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「ひゃあ!?」

ずるぺたーんという効果音が、聞こえてきそうなぐらい派手に、少女が転んでしまっていた。
少し木の根が露出していた所に、物の見事に引っ掛かったのは道明寺歌鈴であった。
ドジなのは何度も見ていたが、ここまでとは。
苦笑いと共に高垣楓は、思わずため息をついてしまう。

「ああっ!? また!」
「す、すいません~!」

慌て歌鈴を助け起こすのは、矢口美羽で。
楓はこの二人と一緒に、島を南下していた。
半日程居た飛行場を離れるのは、若干恐怖を感じたがそれでも出る必要があった。
留まっているばかりでは、出会いたい人には、絶対に出会えないから。

「あぅぅ~」

涙目になっている歌鈴を可愛いなと楓は思って。
くすっと笑いながら、手を差し伸べる。

「あ、ありがとうございます」
「いえいえ……いきましょうか」
「はい!」

そういって、歌鈴は朗らかに笑う。
どんな、失敗しても前向きに、精一杯な姿だ。
その姿は、楓が探している人物にかぶって見えて。

「……どうしました?」
「いえ……そろそろ、街が見えてくるかしら」
「ですね、遊園地に行ってみます?」
「うーん……どうしましょうね」

楓達は、歩きながら地図を確認する。
このまま、南下を続けると、まず最初に見えるのは遊園地であろう。
其処に誰かいるのだろうかと、楓は考えて。
遊園地にはあるのは、ジェットコースター、観覧車などのアトラクション。
他には、ショップやレストランなどであろうか。
後は……

「……シンデレラ、か」

ふと、思い浮かんだのは、メリーゴーランド。
もっと具体的にいうならば、その中にあるかぼちゃの馬車。
シンデレラである彼女は、魔法が解けて欲しくないと、怯えているのだろうか。
馬車の中に、しがみついているのであろうか。
楓は、少し前にあったことを思い出しながら、一人の少女の事を、思う。

あの、シンデレラであり、本当は恋する脆いただの少女である探し人は。


――十時愛梨は、今も、怯えているのだろうか。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「はいっ、オッケーです!」

パシャとという音と共に、撮影終了の合図がかけられた。
雑誌に載るグラビアの写真の撮影で、何故か学生服を着ている。
いや、そういうテーマなのだけれど。

「お疲れ様でしたー!」
「はい、お疲れ様です!」
「お疲れ様でした」

結構長時間の撮影だったけれど、愛梨ちゃんは元気良く挨拶している。
二人での仕事だったけれど、セーラー服が良く似合っていた。
流石ちょっと前まで現役だったけあるのかな。
ちょっとだけ、眩しい。

「はぁ」
「どうしました?」
「別になんでもないわ、似合ってるわ」
「ありがとうございますっ、楓さんも似合ってますよ」

そう言われて思わず自分の姿を見る。
ブレザーの制服をきた……女性?
それは正直……

「……どうなのかしらね」
「あ、あはは」

お互いに苦笑いを浮かべて、そしてバツの悪そうな表情を浮かべる愛梨ちゃんをみて、私はクスッと改めて笑った。
そしてそのまま、撮影スタジオを後にして、私達は楽屋に向かう。

「あ、そういえばエクレア作って持ってきたんですよ」
「わ、嬉しいわね」
「えへへ」

彼女が作るお菓子は本当美味しい。
流石趣味にするだけのものだけある。
ケーキ、アップルパイなどなど、どれも美味しくて、思い出して微笑んでしまう。

「……貴方が作るお菓子は、可笑しいくらい美味しいわ」
「……ふぇ?」
「いえ、なんでもないわ」
「そうですかー……今日は、エクレアを作ってきました!」
「わぁ」

そうして、楽屋に入って、愛梨ちゃんは冷蔵庫からエクレアを出す。
飲み物を用意して、私はエクレアにかぶりつく。
その瞬間、ふわっと香りが広がった。

「あ、珈琲味ね……でも市販の味と違うわ……美味しい」
「はいっ、ちょっと隠し味入れたんですが解ります?」
「……うーん、何かしら?」
「コーヒーリキュールです、大人の味ですよ」

確かに、普通の珈琲味とはちょっと違う。
お酒が入っている分癖があるけど、何処か深い感じがする。
癖になりそうな大人の味で。

「ふふっ……いけない味ね」
「えへへ……」

そう、愛梨ちゃんは、はにかむ。
朗らかな笑顔が、本当素敵だ。
この子は、自分のお菓子を食べてもらうと、本当に幸せそうな笑顔を浮かべる。
ここら辺、年頃の少女ね。

「けど、楓さん。長時間の撮影だったのに、こなれてますね」
「ええ……まあ、モデルだったからね」
「えっ!? 初耳です!」
「言ってなかったっけ……? だからグラビアは慣れてるのよ」

ふぇーと驚いたように、愛梨ちゃんは私を見つめる。
私はそんな珍しいかしらと思う。
まあ、珍しいのかな? この年だと。

「なんで、モデルからアイドルに?」
「……うーん、なんででしょうね」
「解らないんですか?」
「熱心にスカウトされたのが大きいからね」

そう、本当に熱心なスカウトだった。
こんなモデルをアイドルにしようとするなんて、驚きである。
ビジュアルだけじゃない、歌やダンスでも貴方は人を魅了できるって。
はぁと軽く流し続けていたのに、プロデューサーのしつこいの域に入りかけた熱心なスカウトに見事に負けてしまった。

「でもまぁ……これでよかったわ」
「よかった?」
「ええ、よかった、うん」

多分よかったのだ。
踊って、歌って。
そして、いろんな人に出会って。
楽しい、今、とても楽しい。
だから、これがいいのだ。

「……じゃあ、貴方はどうして、アイドルに?」
「私?」
「うん、シンデレラである貴方はどうして?」

逆に私は、問いかけると、彼女は首をかしげて。
ううーんと悩み始めている。
あれ、シンデレラになる位だから、すぐ出てくると思ったけれど。
確固たるやりたい理由とか、アイドルでいる理由が。


「………………そうですねぇ、私は――――」
「二人とも、撮影お疲れ様っ!」

やがて、彼女が覚悟を決めたように口を開いた時、丁度楽屋の扉が開いた。
タイミングがいいのか、悪いのか。
いや、このタイミングだと悪いかな。
私達のプロデューサーがやってきたんです。

「……あ、お疲れ様です、プロデューサー」
「おう、お疲れ。どうだった?」
「よかったですよ……プロデューサーもエクレアどうぞ!」
「お、サンキューな」

そのまま、愛梨ちゃんは何事も無かったように、エクレアを彼に渡しました。
ちょっと残念そうなほっとしたように。
私はそれを不思議そうに眺めているだけで。

「うん、美味しい」
「本当ですか!」
「ああ、流石だな」
「……えへへ」

愛梨ちゃんは本当嬉しそうで。
見てるこっちまで恥ずかしくなりそうだった。
……本当、こういう所は普通の少女と変わらないのに。
それでも彼女はシンデレラなのよね。

「さて、一段落したら、引き上げるぞ」
「はーい」
「はい、この後は一杯行く約束でしたよね」
「解ってますよ」

プロデューサーの一言で私達は楽屋から引き上げる準備をする。
その後、私とプロデューサーは今日のお疲れ様会という事で、呑みにいくのだ。
といっても、チェーンの居酒屋でしかないけれども。

「あ、いいなー私もいきたいー」
「駄目だ、未成年なんだし」
「うー……」

愛梨ちゃんは不服そうに、プロデューサーに抗議する。
愛梨ちゃんは忙しくて、最近はそういう打ち上げの時間すらとれてない。
ちょっとかわいそうだけれど、こればかりはね。
私は手で、ごめんねっと作って、彼女に謝る。
愛梨ちゃんはわかりましたぁーと不服そうに言って食い下がった。


けど、


「でも…………寂しいですよう」



そう、まるで小さな子犬のように、震えるように呟いていたのを



私は、忘れる事ができなかった。








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「……なんで、彼女はアイドルに……か」
「どうしました?」
「ううん、なんでもないわ」

楓が、何かを思い出したように呟いたのを、美羽は気になったが、追求はしなかった。
優しく微笑まれただけで、もう突っ込む気が無くなってしまう。
そういう雰囲気をもつ楓を、美羽は羨ましいな、と思う。

「ふぇぇ!?」
「……またぁ!?」

そう思った矢先、また歌鈴がこけそうになっている。
何も無い所でこけそうになるのは、もはや一種の才能なんだろうか。
美羽は助けに行こうとするが、ぎりぎり歌鈴は踏みとどまって

「セーフ! セーフですっ!」

満面の笑みで、こけなかった事をアピールしていた。
いや、こけそうになった時点で駄目な気がするんだけれど。
そう突っ込みそうになったけど、歌鈴が自慢げなので、いうのもやめた。

「いつも、美穂ちゃんや藍子ちゃんに助けてもらってましたけど……もう大丈夫です!」
「そういってまたこけないでくださいね……というか、知り合いだったんですね」
「はい、いつもお世話になってるんですよ、大切な友達です!」
「へぇー……そうだったんだ」
「藍子ちゃんと一緒にいるときは、なんだか楽しくて温かくなって、素敵な時間をすごせるんです……本当に大切な友人です」


歌鈴と自分のグループのリーダーである藍子が知り合いである事は、美羽は知らなかった。
でも、なんだか藍子が歌鈴の世話をしているのは容易に想像できた。
優しく、ほんわかと笑って。
そっと助けてくれるんだろうなと。
陽だまりのような笑顔で。

それは、もはや藍子の才能のようなもので。

「いいな……わたしは……」

そんな才能は……と自分で思って。

フラワーズが正式にデビューする前。


仮デビュー、研修期間という事で、何ヶ月もレッスンを重ねた、あの時の事を



美羽はゆっくりと思い出していた。








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇









「高森! ワンテンポ遅れてる!」
「は、はいっ!」
「また、其処で遅れてるな……まあ、いい休憩をとろう」
「……はい」

はーっはーっと思いっきり私は肩を揺らして大きな息を吐いていました。
藍子ちゃんが一歩遅れて、そこでダンスのレッスンは一旦休憩となる。
激しいダンスが売りの曲だった。その曲が踊れるよう、ひたすら私達は練習していた。
もう、何日もこの曲だった。

「はぁー……ふぅ……」

けど、どうしても、遅れてしまう。
藍子ちゃんが、どうしても遅れてしまうのだ。
元々激しくステップを踏むのが、藍子ちゃんは少し苦手だった。

「大丈夫? はい、水」
「あ、ありがとうございます」

そうやって水を渡したのは、友紀さん。
彼女は汗をかいてるものの、大して疲れてなさそうだった。
私達のなかで最も踊れる友紀さんは流石だ。
というより、踊りにかけては、凄い。
あんなに激しいステップ、そして立ち位置を変えるタイミングすら完璧だ。
彼女のソロのダンスパートはこちらでさえ息を飲んでしまう程の凄さだ。

「どうしても、あそこ難しいよねぇ」

そういったのは夕美ちゃんで。
ころころ笑いながら、水を飲んでる。
彼女はダンスもそつなくこなする方だ。
最も歌が得意なはずなのに、流石アマチュアアイドルだけあるのかな。

「は、はい……でも、頑張らなくちゃ」

私は……まあ、普通だった。
厳しいけど、練習すればできるのもあって。
ちょっと突っかかる所あるけど、それなりに。

「えへへ……っと!?」
「だ、大丈夫、藍子ちゃん!?」
「うん、大丈夫だよ」

立ち上がろうとした藍子ちゃんが、よろめいて。
それを夕美ちゃんがあわてて支えていた。
この二人は、やっぱり仲がいいな。

「……練習して、覚えないと……足引っ張ってるし」
「無理しなくてもいいんだよ?……疲れてるならやすも?」
「ううん……大丈夫。友紀さんアドバイスお願いします!」
「……本当無理しないでね。でも、おっけ、解った」

そういって、藍子ちゃんはまたステップを踏み出す。
もう既に、3時間ぐらい踊ってるのに、まだ頑張ろうとしている。
まだ、藍子ちゃんは笑ってる。凄いなと思う。
あんな厳しいのに、辛いのに。
彼女は、笑っている。

「…………凄いな」
「どーしたの? 美羽ちゃん」

藍子ちゃんと友紀さんがステップの練習しているのを、私と夕美ちゃんは二人で見ていた。
やっぱり友紀さんと比べると、藍子ちゃんは遅れる。
それでも、笑って、本当に笑って、楽しそうにやっていた。

「……厳しい練習なのに、笑って」
「そーだねえ……流石かな」
「よく、笑えるなって思うんです」

そういって、私は水を飲み干す。
本当、藍子ちゃんはよく笑える。
陽だまりのような笑みを浮かべていた。

「……楽しいからじゃないかな」
「えっ?」
「きっと心の底から、『アイドル』でいられるのが、楽しんだと思うよ」

夕美ちゃんは、笑って、藍子ちゃんを見てる。
尊敬するように、ずっと。

「アイドル……」
「そ、笑って……アイドルでいられる事が、楽しいんだと思う」

夕美ちゃんと、藍子ちゃんはとても仲良しだ。
だから、二人で、言葉を交わすことが多いんだろう。
きっと、わたしが知らない所まで、彼女は藍子ちゃんのことを知っている。

「皆が微笑んでくれるような、アイドル……優しい気持ちになってくれるように……って」
「なんですか?」
「藍子ちゃんの目標…………きっとなれると思うんだ」
「そうなんですか?」
「……だって、あんなに、優しく楽しく笑えてるんだもん……凄いよ……だから、藍子ちゃんは『アイドル』なんだ」

そういって、わたし達は藍子ちゃんを見る。
陽だまりのような笑顔が其処にあった。
見てるだけで、温かくなるような、笑みが。

「こうですか!?」
「そう! 其処で一回、回ったら、手を大きく振って!」
「はいっ!」
「うん、上出来っ! じゃああたしの速さについてきて!」

友紀さんが、ステップを踏んで、そして、かなり速いスピードでスピンする。
ほぼ完璧な動きで、惚れ惚れする。
その後、藍子ちゃんも負けじとついてきて。

「出来た!」
「そうっ!」

そうして、見事、出来た。
彼女は、やっぱり笑っていた。

「よーっし! 次は私も入るよ!」
「夕美ちゃん! 一緒に頑張ろう!」
「うん、藍子ちゃんには負けないからね!」

いいな、凄いなって私は思う。
あんなふうに、笑いたいなって。
笑えてるのかなってわたしは思う。
自然に笑える才能が、わたしにあるのかな。

人を、惹きつける天性のような笑みが。


わたしもあんな風に笑いたくて。
わたしは笑ってみた。
鏡を見る勇気は無くて。


前を向くと、其処には、優しい笑みがあった。


胸がきゅっと、つかまれるような……そんな感覚に襲われたんです。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「……もしかして、あの時から始まっていたのかな?」
「ほえ?」
「なんでもないよっ」

美羽が何かを呟いて、歌鈴は首を傾げるが、やはり大きく気にする事は無かった。
ずっと心に気にかけてることがあるから。
だから、いつも以上に、何度もこけそうになった。
大丈夫かな、彼女は、笑っていられるかなと。
心に思う人だけをひたすら、考えていた。

(美穂ちゃん……)

歌鈴の親友である小日向美穂
朗らかな笑みを浮かべて、ほんわりした彼女。
裏切って、しまった、親友。
大切な、大切な、親友。

「……ふぇ?!」
「……ふぅ……仕方ないですね」
「あ、ありがとうございます」

またこけてしまったが、美羽が苦笑いを浮かべながら優しく手を差し伸べる。
歌鈴も苦笑いを浮かべながら、差し伸べた手に

「……あっ?」
「うん?」
「い、いえ」

その瞬間、重なった顔。
まったく同じ表情で彼女も手をさし伸ばしていてくれた。

優しく、笑いながら。
一緒に歩いていた親友。
けれど、大好きな人が一緒になってしまった故に。


裏切ってしまった親友。


――小日向美穂のことを、道明寺歌鈴は思い出していた。








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇









「ふぇ!?」
「……大丈夫!?」
「うん、躓きそうになっただけから」
「ならいいけど……」
「ありがとっ、美穂ちゃん」

わたしたちは、二人で買い物に出かけていました。
オフで、日向ぼっこをしながら、のんびりと。
そんな、親友との大切な時間です。

「今日は何処に行く? 歌鈴ちゃん」
「美味しい、あんみつ食べれるところ、藍子ちゃんから聞いたの! いいかな?」
「わっ、いいなーあんみつ……美味しいもんね」
「うん……えへへ」
「あんみつ……うふふ」

今日は藍子ちゃんから教えてもらった甘味処にいくのが一つ。
絶品のあんみつが食べれるらしいんです。
……あんこの甘さは好きだから……楽しみだなぁ。

「後、髪飾り買いたいのと……後、そろそろ近いからね、プレゼントも」
「……えっ、何が?」
「もう、美穂ちゃん、忘れたの?」
「ほぇ……?」
「……好きな人なんだから、忘れちゃ駄目だよ?」
「ふぇ!?」

美穂ちゃんは本気で忘れてそう……
美穂ちゃんが大好きな人なのに。
駄目だよ? 美穂ちゃん。
もうすぐ……

「プロデューサーの誕生日だよ?」
「あっ!?」
「大好きな人なんだから……もう、駄目だなぁ」
「うぅぅ……歌鈴ちゃんに心配されるなんて」
「それって、どういう意味ー?」
「な、なんでもないよ! でもありがとう!」
「どういたしまして……なに買うの?」
「何が喜ぶのかなぁ……」

美穂ちゃんは顔を赤く染めながら、ずっと思案している。
本当、恋する乙女だなぁ、美穂ちゃん。
プロデューサーを好きなって、すっごい解りやすいんだもん。
わたしでさえ、苦笑い浮かべちゃうくらい。

「えへへ……決めた!」
「何にするの?」
「内緒っ!」
「えー!」
「えへへ!」

でも、恋する、美穂ちゃんは女の子のわたしからみても、可愛い。
顔を真っ赤にしながら、そうやって、大好きな人を想う彼女は素敵だと想う。
だから、精一杯応援してあげたいと……おも…………


――――本当に?


そうやって、心の中で、悪魔のわたしの声が聞こえる。
どきっとした。
とても、とても。


――――好きなくせに、好きなくせに。


ちがう、違うんです。
わたしは好きになっちゃいけない。
親友の背を押してあげたいんです。
大切な、親友の背を。
大好きな美穂ちゃんを。
応援した……


――――じゃあ、プレゼントを買わなきゃいいのに。


っ?!
そ、そんなつもりで。
わたしはただ日ごろのお礼を。
したいだけだから。
そうなんです


――――振り向いてほしいんじゃ



うるさいっ!
うるさいっ! うるさいっ!


わたしは……わたしは!


「ひゃあ!?」
「わ! 歌鈴ちゃん、だ、大丈夫?」
「……ふぇ」
「大丈夫、血は出てないよ……ほら」


わたしは、こけて。
美穂ちゃんは優しく微笑んで。
親友を心配するように手を差し伸べる。


わたしは、それをとろうとして。
とらずに、

「だ、大丈夫だよ」
「そう? ならいいんだけど」

立ち上がりました。
美穂ちゃんは何も知らずに笑っていました。


「じゃあ、いこう! あんみつあんみつ」
「ふふっ……歌鈴ちゃんったら食い意地はって」
「ちーがーうー!」
「どう、違うのかな?」
「美穂ちゃんだって楽しみなくせに!」
「あ、ばれてる?」
「ばれてます!」
「えへへっ」


そうやって、歩き出す。
心の声を無視することが出来ずに。
親友の顔が何故か直視できなくて。




そうして、わたしは、親友を、裏切る




――――その一歩を踏み出してしまったんです。








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇










「……ごめんね」
「……どうしたのかしら?」
「いえ、なんでもないんです!」

歌鈴は楓の声に、ハッと振り返って、前を見る。
楓は不思議そうに笑いながら、指をさす。


「道が見えてきたわよ、未知なる、道がね」
「あっ、本当だ」
「多分これを南下すれば、南の町、遊園地につくわ」
「じゃあ、向かいましょう」
「そうね……そうしましょう」


そうして、三者は、道に沿って歩き出す。

三者は、心に残る絆に思いを馳せながら。



絆を、想いを信じて、重みに感じながら、



それでも、歩き出して行く。




――――かけがえのない想いを、抱いて。




【D-4 /一日目 午後】


【高垣楓】
【装備:仕込みステッキ、サーモスコープ】
【所持品:基本支給品一式×1、ワルサーP38(8/8)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:アイドルとして、生きる。生き抜く
1:アイドルとして生きる。
2:まゆの思いを伝えるために生き残る。
3:……プロデューサーさんの為にちょっと探し物を、ね。



【矢口美羽】
【装備:歌鈴の巫女装束、鉄パイプ】
【所持品:基本支給品一式、ペットボトル入りしびれ薬、タウルス レイジングブル(1/6)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:フラワーズのメンバー誰か一人(とP)を生還させる。
1:とりあえずフラワーズの誰か一人は絶対に生還させる。
2:これからのことを相談する。



【道明寺歌鈴】
【装備:男子学生服】
【所持品:基本支給品一式、黒煙手榴弾x2、バナナ4房】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:プロデューサーの為にアイドルとして生き残る。
1:プロデューサーに会うために死ねない。
2:美穂を自分から探し出す、そして話し合う。


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矢口美羽
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最終更新:2013年07月05日 09:33