うたかたの夢 ◆yX/9K6uV4E
―――――夢を見ていました。 幸せな……うたかたの夢を。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「「「ハッピーブライダル!」」」
そうして、夕暮れ時、私たちのイベントが終了した。
手には驚くぐらいのブーケが集まっていた。
私は、それを一緒に活動したアイドルに見せて、笑いあう。
「最高でしたね!」
「楽しかっタ!」
「ええ、本当に!」
そして、私――松山久美子。
その三人で行った、ブライダルのイベントは大盛況の内に終わったといっていいだろう。
和久井留美さんもヘルプで入っているけど、彼女は、教会の中だ。
私達はバージンロードで最後に、ファンのふれあいをする。
「ねえ、皆、楽しかっタ?」
「楽しかったよー! ナターリアちゃん!」
「そっカー! ナターリアも楽しかったヨー!」
ナターリアちゃんは元気に、手を振る。
ウェンディングがビックリするくらいに似合う。
元気一杯、その姿が羨ましい。
私に無い感じで。
「えへへ、皆ありがとうね!」
「響子ちゃん、かわいいよ!」
「うん、ありがとう♪」
響子ちゃんは、可愛い。
すっごく家庭的でみとれるぐらいに。
ひらひらしたドレスが似合うなんて、いいなぁ。
「久美子さーん、綺麗だよ!」
「ありがと! もっと見とれて♪」
「うおおお!」
私も、ドレスを着て、くるっと回る。
そしたら、盛り上がりも、最高潮で。
私は、大きく手を振る。
でも、そろそろ
「名残惜しいけど、もう時間、花嫁達は帰らなくちゃ♪」
「えー!」
「御免ね、でもありがとう!」
終わりの時間で。
私たちは思いっきり、ファンに手を振る。
ファン達は名残惜しそうに手を振っていた。
そしたら、ナターリアちゃんが。
「大丈夫ダヨ! ナターリア達はミンナのヨメダカラ!」
「うおー! 響子は俺のヨメー!」
「おー! キョーコはオレのヨメー!」
「ちょ、ちょっとナターリア!?」
「響子は俺の嫁ー!」
「えー!?」
そんな、壮絶な響子は俺の嫁コールが始まっている。
響子ちゃんは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。
突然の事にビックリしてるんだろう。
ナターリアちゃんは笑ってるだけだし。
私も、可笑しくて、笑っているけど。
「ミンナ、ハッピー!?」
「ハッピーだよ!」
「よかっタ!」
そういって、会場の盛り上がりは最高潮。
ナターリアちゃんは私と響子ちゃんにウィンクして、合図して。
「なら、ナターリア達は、ミンナのヨメだヨー!」
「うぉおおおおおおおお!!」
「皆、応援ありがとう! 私達皆の応援があるから、一番になれるんだ!」
「響子ちゃーん!」
「そして、何処までも、可愛く、キレイに、最高に輝ける!」
「久美子さーん!」
そうして、最後に三人で言葉を閉める。
「「「皆、最高の花嫁の夢を見せてくれてありがとう!!! そして、皆にこれからも、最高の花嫁の夢を見せてあげる!!!」」」
夕暮れに教会に。
そうして、最高に輝いた、花嫁達の夢が、其処に、咲いていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ファンの人達が去って。
夕暮れの教会のはずれで、私達三人は、ゆっくりと夕日を見ていた。
あっという間の時間で。
まるで夢でもみてるような、不思議な時間だった。
「全く……ナターリアがあんな事言うから、凄く恥ずかしかったよ」
「ウン?」
「嫁なんて……もう」
「いいじゃないの、面白かったわよ」
「久美子さん!」
「可愛かったし、皆お嫁さんにしたいんじゃないの?」
私は、そういう風に響子ちゃんをからかって、楽しむ。
そしたら、響子ちゃんは顔を紅くして。
ちょっと視線を泳がして。
「それは……そのー」
「うん?」
「お嫁になりたい人は……決まってるっていうか?」
「ひゅー、最近の子は進んでるね!」
響子ちゃん十五歳よね。
最近の子は速いなぁ。
…………いや、私もまだ若いと思うけどね。
うん。
「えへへ……」
「それって、プロデューサーの事だよネ!」
「ちょっ!? ナターリア!?」
「あ、やっぱりダ!」
「う、うぅぅ」
……うわぁ。凄いね。
ナターリアちゃんの無邪気な感じが流石というか。
聞いてる私まで、聞いていいんだろうかって思う。
「ナターリアと一緒ダ!」
「……ま、まあそうよね」
「……大変ね」
恋敵が親友ってのも、中々進んでいるというか。
最近の子って凄いわ。
うん。
「この場合どっちが結婚するのかしら?」
「……え?……どっちでしょう?」
「決まってル!」
ナターリアちゃんがすぐに答える。
それは
「両方共ダヨ!」
ああ、なんというか……らしい。
私は余りにも面白くて、苦笑いを浮かべる。
響子ちゃんは呆れながら。
「ええー……でもいいか」
「じゃあ、約束しよっカ!」
「何を?」
「二人は……プロデューサーと結婚するッテ!」
教会で、宣誓。
……ふふ。
本当、凄いなぁ。
「えぇ!?」
「さあ、シヨウ!」
「解ったわよ……もう」
そうやって、彼女達は教会の方を見る。
私は釣られて、見て、その、物陰に。
……彼女達のプロデューサーを見つけた。
物凄く照れくさそうに、出てこれなさそう。
「ナターリアは!」
「私は!」
「いいぞ、言っちゃえ!」
だから、盛大に茶化して、笑おう。
「「プロデューサーと一緒に、幸せになるって、誓います!」」
私は盛大に拍手して。
ナターリアちゃんは笑って。
響子ちゃんは真っ赤になって。
私は羨ましそうに、彼女達を見る。
本当幸せそうだ。
「じゃあ、久美子さんも!」
……はっ?
「ほら、久美子さん、今凄く、凄く綺麗だよ! きっと最も見て欲しい人に、最も綺麗な服を見せられる……女の子の夢が、叶ってるからじゃないかな?」
……う。
それは、その。
あの人に見て貰うのは嬉しいけれど。
けど、それを面と向かって誓うのは。
恥ずかしいというか。
そんな、子供っぽくいえないというか。
「ソウダヨ! とっても、綺麗!」
「久美子さんにとって、花嫁になりたい人が、久美子さんも居るから、だから誓おう! 記念だよね♪」
ああ、もう。
絶対、言わせるつもりなのね……
叶わないなぁ。
もう、解ったわよ。
「解ったわよ、いってあげるわ!」
そうやって、空を見る。
半ばヤケだった。
「松山久美子は、もっと、もっと、キレイに、なる! 大好きな人に、相応しいと思う位に、キレイになってみせるわ!」
言ってやった。
だからもっとキレイになる。
それが私の夢。
私の幸せの夢だ。
そして振り返ると彼が居て。
私の顔が真っ赤に染まったのは、いうまでもなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「久美子! 久美子!」
「ううん……夢?」
「ぐっすり寝てたよ」
「ん………いつの間にか眠っちゃったみたい……寝顔、見てたの?……もう……」
そうして、夢は覚める。
あれ?と周りを見回してみると、夕日が見えて。
砂浜と海も見える。
私は砂浜に、ビーチベッドで横になっていた。
あ、そっか。
今は南国にバカンス……じゃない、撮影に着てるんだ。
さっき見ていたのは……ただの夢。
「見てたのは本当に寝顔だけ? でも少しぐらい、いいわ。この浜辺……今は私たちふたりだけだもの、ね?」
ちょっとだけを彼を茶化して、私は伸びをする。
不思議な、うたかたの夢だった。
すっと、胸に染み入って。
それは、なんだか幸せに、そして何処までも哀しくなるくらいに。
「ねえ――」
「ん? なんだ……って……うぉい!」
「いいの、暫くこのままで」
「お、おう……?」
そっと彼を抱きしめる。
胸に、彼の顔がうずまるが、気にしない。
やましいものなんて、ないの。
「……どうした?」
「解らない……なんか、凄く、泣きたいの。夢をみたの」
「悪夢?」
「ううん、最高の夢」
「じゃあ、なんで?」
「解らない、嬉しいのに、幸せなのに、何故か、哀しいの、涙が出てくる。可笑しいね」
そうして、私は涙が出始める。
まるで、何を失ったみたいに。
哀しくて、切なくて。
「夢って、なんか、とても、儚いものね」
「そうか?」
「だって、あんなに、輝いたのに、失ったと思ったら、途端に崩れてしまうように、感じるの」
「そっか」
うたかたの夢。
誰もが、輝いたのに。
誰もが、幸せだったのに。
途端に、はじけると。
何もかも、失ったように。
とても、切ない。
「だけどさ、それでも、夢をみるんじゃないかな」
「……そうなの?」
「だって、夢ってそれでも、輝くんだよ……今切ないけどさ」
「けど?」
「久美子の心、温かっただろ?」
何時か、終わる夢。
あのブライダルみたいに。
輝いた時間は終わるんだ。
それでも、その輝きは失うんじゃない。
いつまでも、輝くんだ。
それは、
「そうね……叶うと温かくて、素敵ね」
「だろ」
「だから、どんなものでも夢を見るんだ」
「そうね……そうかもしれないわ」
叶うと、温かい。
だから、夢を見る。
そう思って、私は強く彼を抱きしめる。
「プルメリアの花びらが、舞ってる……綺麗ね」
まるで何かを惜しむように。
まるで何かを祝福するように。
「素敵なバカンスになったね――。いい想い出になったと思うの。今の私のキレイな姿、ずっとその目に焼きつけておいてね?」
「おう、ずっと見ているさ」
私は、とてもキレイだと思う。
それは、あのときのように、恋をしているから。
そして、あの子達のように、輝いてるから。
「貴方と会って、私、生まれ変わっちゃったみたい。ようやく気付いたの……私を一番キレイにしてくれるのは……ふふっ♪」
彼は真っ赤になる。
私も真っ赤になってると思う。
――幸せになってね。
そんな声が聞こえた。
だから、私は、幸せになろうと思う。
だから、彼をもう一度、抱きしめて。
「忘れないでね。私をこんなキレイにしたのは、貴方よ」
何故か、茜色の空の向こうで。
大切な少女達が笑ってる気がした。
それは、とても、儚い。
幸せな夢の、お陰でした。
とても、輝いて、切ない。
けれど、温かい。
そんな、うたかたの夢。
最終更新:2014年02月27日 21:09