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セシリア「わたくしが主役でしてよ」②
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meteor089
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セシリア「わたくしが主役でしてよ」②
41 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/09/12(月) 00:22:48.71 ID:xn3DaC+N0
朝から雨が振っては止んだりする落ち着かない天気。そんな休日のお話。
「一夏、これをお前にやろう」
今日は非番なのだろう、朝から千冬は部屋で上下ジャージでゴロゴロとテレビなどを見ていた。そしていつも通り、思い出したかのように同室になった弟を呼びつけて唐突に話を切り出すのだった。
「ん?なんだこれ……博物館のペア招待券……って」
「無教養なお前には丁度良い物だろう、セシリアでも誘って行って来るといい」
イギリス旅行を経て、セシリアと千冬はかなり私的に親しくなった。千冬もセシリアも学校ではオルコット、織斑先生と呼び合うが、非番となれば別。セシリアのことを千冬はセシリアと呼ぶし、セシリアもまた千冬のことを千冬さんと呼ぶ。
ともあれ、千冬はセシリアの事になると随分と優しい所が目立つようになっていた。それは実弟の一夏から見ても顕著で、今日のように二人の関係に手を差し伸べてくることも珍しいことでもない。
「千冬姉……ああ!ありがとう…………ぅえ!?ちょ、千冬姉!これ今日までじゃないか!」
それでも、千冬は千冬なのだが。
「それがどうした、どうせお前は一日家事をして過ごすつもりなのだろう?まったく、嘆かわしい。それでも思春期真っ盛りの男子か?セシリアが泣くぞ、連れて行ってやれ」
「だからって当日誘えってのはハードル高すぎるだろ……まあ……ありがとう、誘ってみる」
当日にいきなり誘われると諸々の都合で断らなければいけない場合も、何とかねじ込む場合もどちらにせよ心残りを生んでしまう可能性がある。一夏にはそれが少し不安だった。
セシリアは15歳の少女だが、既にオルコット家の若き当主でもある。イギリスに一緒に行った時も家の仕事に時間を割いていたし、時々片付けなければいけない仕事があるからと放課後や休日に部屋から出ずに端末と一日向き合っている日もある。ただのお嬢様ではない、背負った責任と釣り合った自信が支える高貴さが自分の恋人にあるというのは一夏にとっても少し自慢だ。
42 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/09/12(月) 00:23:37.99 ID:xn3DaC+N0
(用事が有っても、俺が誘ったら行くって言うんだろうな……)
それ自体は嬉しい、嬉しいのだが、セシリアの為にはならない。後で無理矢理時間を作らなければいけなくなって無理をするのはセシリアなのだ。二人で博物館、悪くない。一夏は博物館は嫌いではない、古代の二文字にキュンキュンとくる、きっとセシリアも喜んでくれるだろう。あの展示室の古い木のにおいはロマンを感じさせる。隣にセシリアがいる博物館はきっといつもの一人で行く博物館より楽しいだろう。
「……でも悪いかもしれないんだよなぁ」
「何が悪いのよ?」
いつの間にいたのか、鈴が両手を腰に目の前に立っていた。思わず漏れた呟きを聞かれてしまったらしい。
「一夏……そんな恰好してどこに行くつもり?」
ずいと一歩一夏に迫りながら、鈴が問う。その双眸にあるのは警戒の色。鈴にしてみれば休日は一日セシリアといられる貴重な時間。ただでさえ今朝も、起きて早々にいそいそと出かける準備をするセシリアにどこに行くのかと聞いたら『キスしてきますわ!』なんて満面の笑顔で言われてアテられて不機嫌なのだから。
「ど、どこだっていいだろ」
相変わらず一夏はこういう時の隠し事がめちゃくちゃ苦手だ。尤も、一夏が休日に外出着で行く場所なんてセシリアの所以外に無いのだけれど。
「ふーん……セシリアならさっきまでなんかパソコンに向かってうんうん唸ってたわよ?」
「……うっ……そ、そうか」
一夏にしてみれば、悪い想像が的中した形になる。しかも唸っているということは結構忙しいのだろうか。一夏は残念そうに眉尻を下げ、溜息を吐く。
鈴にしてみれば、悪い予想が的中した形になる。この反応から見て十中八九セシリアをデートに誘おうとしていたに違いない。彼氏の分際で親友同士のスイートタイムを邪魔しようとは不届き極まりない。
「なーによ?別に来週誘えばいいじゃない。大体あんた当日って乙女ナメてんの?シメられたいの?」
(なんて、来週はもうアタシと出かける約束してるんだけどねー!)
呆れたと身振り手振り添えながら大仰にゼスチャーを添えながら、内心の笑いを堪えて不機嫌さを隠さない声で一夏に来週を提案する。来週誘って『先約が……』と断られる一夏、そして一夏の誘いを断ったことで落ち込むセシリアを自分が慰める。即興にしてはいい組み立てが出来た。
43 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/09/12(月) 00:24:23.70 ID:xn3DaC+N0
大体、策抜きにしても当日誘いなんて馬鹿にしてる。恋人に誘われたら喜んで応じたい所だとしても、色々と入念に準備がしたいに決まっている。一日中髪型や化粧、香水のチョイスが正しかったのか迷い続けてデートを楽しむどころじゃない。
(……って、ティナが言ってた)
「いや、そりゃ俺だって……でも、千冬姉に今日までのチケット貰っちまったんだよ、さっき」
「さっきって……千冬さん相変わらず強引ねェ……ま、とにかくあきr――」
諦めなさい。そう言い掛けて、ピンときた。鈴の頭の中でかちゃりと鍵が開き、一つのルートが見える。
「――……し、仕方ないわねぇ、あんたが箒とか簪とか他の誰か誘っても面倒なことになるだけだし……それ、アタシが使ってあげるわ」
鈴は嘘はついていない、が、言っていない事がある。確かにセシリアは朝チューから帰って来てから、パソコンの前でうんうんと唸っている。―― マインスイーパーで。 要は、一夏の想像は杞憂であり、今日はセシリアはものすごく暇だった。当日誘われても何の杞憂も無く出掛ける事だろう。
「ええ!?お前とか?お前博物館なんて興味があったのかよ」
「はぁ!?博物館!?……いや、あんた、もうちょっと……あんでしょ、色々……この雨の中」
「いや、俺に言われても……千冬姉に言ってくれよ……」
「 だ い た い ! さっき言ったばっかりでしょ、あたし誘ってどーすんのよ!セシリアにばれたら頭ぶち抜かれるわよ?てゆーかセシリアを泣かせたらアタシが殺すわ!」
「……ぅ…………じゃあ、どうすんだよ?」
博物館と言うのは予想外だったが、仔細に変更は無い。あとはチケットを二枚ともゲットして一夏に見つからないようにセシリアを連れ出すのだ、それでいい。
「そのチケットを貸しなさいってのよ」
――本当に、それでいいのだろうか。
73 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/10/06(木) 01:22:42.04 ID:A2rxka6U0
「チケットを……?どうするんだよ」
「…………アタシが渡してきてあげる」
いい訳がない。
二枚とも自分のものにして、セシリアを誘って二人で博物館なんて、いいわけがない。楽しくない。セシリアが楽しいわけがない。セシリアが一番喜ぶのは雨の日であろうがなんだろうが一夏と一緒にいることだ。一夏の事を話すときのセシリアは本当に嬉しそうで、上機嫌。
「いぃッ!?い、いいよ別にそんなもん、誘うなら自分で誘うって!それに……セシリアも忙しいみたいだし……気を使ってくれてサンキュな、鈴」
どうしてお礼を言いながらそんなに切なそうな顔をするの。鈴は問い詰めたくなる気持ちを抑えながら、きゅっと拳を握る。そして自分の吐いた嘘というかヒッカケにすっかり騙されている一夏に、奥歯の噛み合わせが悪いような、もやもやとした苛立ちを覚える。イライラするなら策なんか弄さなければいい、と言ってしまえばそれまでだけれど。策を弄してでも自分がセシリアと居たい気持ちにウソはない。なのに一夏が何も気づかない事にはイライラする。
一夏はといえば、チケットを取り出して、字面を見る。間違いなく今日までの日付が刻印されており、明日になってしまえば紙切れになってしまうものだった。鈴はセシリアとは同室だし、何より二人ともとても仲がいい。些細な口喧嘩をしている姿も相変わらず見られるけれど、結局は大体いつも一緒に行動している。正直一夏としては羨ましい。
――それはとにかく。
鈴に任せれば、セシリアも首を縦に振ってくれるかもしれない。セシリアの仕事が大変なのだって判っている。なにせオルコット家に関わる者、企業の全ての責任が最終的には彼女にかかるのだから。でも、それでも、一夏もセシリアもまだまだ10代だ、初めてできた彼女と休日はイチャイチャしたい。あわよくばなんて思ってもしまう。
「いーから!アタシがセシリアに聞いて来てあげるってのよ!」
「だから!自分で言うからいいって言ってんだろ!」
「わたくしがどーかしましたの?」
「「~~~~ッ!!!???」」
ヒートアップしてきた鈴と一夏は、文字通り冷や水をぶっかけられたかのように声無き叫びをあげて身じろぎながら声のした方へそちらを見る。
74 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/10/06(木) 01:25:56.78 ID:A2rxka6U0
「……と、言ってみるテスツ」
「……」
「……む、どうした鈴、一夏。口などあけて。」
そこにいたのは金髪ロール髪の英国少女ではなく、銀髪ストレートの独逸軍人だった。
「……いや、アンタには言いたい事聞きたい事が一つや二つじゃないんだけれど……とりあえず、脅かさないでよね……」
そのゴツイ一眼レフで何を撮影するつもりなのか、なぜ寮内で登山用のザイルを肩にかけているのか。なぜキャッツアイばりのレオタード姿なのか、そもそもタイツにスク水はレオタードとも違う。ツッコミ所が歩いているようにしか見えないが、
「ふっ……たるんでいるからだ、アマチュアめ」
不敵に笑うラウラに、一夏も鈴も何も突っ込む気にはなれなかった。
「なんか、ごっそりとMPを削り取られた気分だわ……」
「……あぁ」
「大体、セシリアと私の声を聞き間違えるとは、情けない。いや……本当は私の声を求めているという事か?ふん、悪い気はしないが今日は私は忙しい」
ニヤニヤと口端上げて笑いながら、上機嫌のラウラが紡ぐ言葉は冗談なのか本気なのかわからない。でも、その部分への突っ込みは薮蛇かもしれない。鈴は一呼吸置いてから、半ば予想はついていることを改めて問う。
「忙しいって、そんな格好で何をするのよ?」
どうせ盗撮だろう。今日は誰を狙うつもりなのやら。鈴は適当に流す事に決めた。
「うむ、教官を激写しようと思ってな」
「死ぬ気ッ!?」
流すつもりだったが、まさかの大将首狙いに結局突っ込んでしまったのだった。
75 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/10/06(木) 01:31:25.89 ID:A2rxka6U0
「ああ、千冬姉なら部屋にいるぜ」
「一夏はどっちを売ってるの!?ラウラ?千冬さん?」
「ふっ、情報感謝するぞ我が嫁よ。それにしても……鈴。今日はツッコミのキレがいいな」
「誰のせいよ!?……てか、ああ、ボケだったのね。全く、なんだってのよ」
この神出鬼没の独逸忍者は、時々わかりにくいボケをする。流石に今夜の食卓が独逸少女の女体盛りになるかもしれないような暴挙には、彼女を教官と慕うこの少女がするはずも無い。それにしても随分と丸くなった。転入してきた当初はそれはもう、敵対心むき出しだったと言うのに。ほっとしながら鈴は軽く安堵の息を吐く。
「さて、では私は教官の元へ急ぐとしよう。さらばだ!」
「マジじゃない!」
ふっと、満足げな笑みを残して、ラウラが去ってゆく。残されたのはぜいぜいと息を切らせた鈴と、ラウラの背中を見送る一夏。
「なぁ、鈴」
ラウラの去っていった方向を見つめたまま、一夏がポツリと呟く様に鈴の名前を呼ぶ。そんな風に真剣な声を、このタイミングで聞くと思っていなかったから、鈴は自分の心臓が早鐘を打つのを感じながら、無言で顔を上げる。吹っ切ったつもりでも、セシリアの次に好きな相手は一夏であることに変わりは無いから、複雑な感情が鈴の思考を乱す。
「……な、何よ……あ、アンタとはもう終わってるんだから」
「ラウラのやつ、なんでスク水なんか着てたんだ?」
一瞬でもときめきかけた自分が本当にバカだった。いや、前からそう、ときめきかけたと思ったらイラっとさせられる。こんなのを選ぶなんてセシリアは本当に気が長い。
76 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/10/06(木) 01:35:05.05 ID:A2rxka6U0
(……や、あれは長いんじゃなくて短すぎて感情の波のスパンが短いのかしら……)
そういえば一夏にISを展開する時、発砲までするのはセシリアが多い。一夏の女性関係には全く働かない勘が、セシリアの嫉妬心には無駄に働いているのか、セシリアが手加減して当てていないのかはわからないが、幸いにして一発もあたったことは無い。そう考えると恐ろしく短気だ。でも、機嫌を直すのも一番早い。故にチョロイなんて言われるのだけれど。
「…………セシリアの殺気だけは敏感に察知してたのって、やっぱ結構前から気になってたって事なのかしら」
「ん?……いや、普通感じるだろ……セシリアのはなんていうか…………ぶっちぎりで恐いぞ?千冬姉のが抜き身の日本刀を構えられてる感じならセシリアのは障害物の何も無いところで弓を向けられてるみたいな……」
首を左右に振りながら即答する一夏に鈴はジト目を向ける。
「……あんた一体セシリアのどの辺が好きになったのよ……?」
鈴の問いに、一夏はみるみる頬を染めていく。真顔で問われるなんて思っていなかった、そんな顔をしている。もしかしなくてもきっとそんな所も好きなんだろう。一夏にはちょっとというかやっぱり少しMッ気があるのかもしれない。
「ど、どの辺って、い、いい言えるかよ……!」
「はぁ……ハイハイごちそうさま……まったく、話が逸れちゃったわ。それで、チケットよ!どーすんの?」
「っと、そうだったな……いや、やっぱ自分で誘いたいんだよ……でも……」
「だから一夏が誘ったらたとえほんとに忙しくても時間作るわよ、忙しいのに悪いなーとかそういうことならアタシが渡してきてあげるっての」
「……そうなんだよなぁ……でも俺が言わなきゃ………………」
譲れないものがあるのだろう、一夏は眉根を寄せながら、再び取り出したチケットをじっとにらむ。テーマパークや恋愛映画のチケットならともかく、博物館のチケットでここまで思い詰めるそんな姿を見て、鈴は一夏の真剣さを感じて少しだけ嬉しく、少し悔しい。
「……一夏、いいじゃないそんなに悩まなくたって。あんた逆にセシリアがあんたを誘おうとして悩んでいたらどう思う?ったく、はじめはちょっと騙してやろうなんて思ってたけど……負けたわ、信じなさい、ちゃんとチケットはセシリアに渡すから。だから、あんたはいつも通りにしてりゃいいのよ」
「鈴……」
一夏は鈴に無言で頷き、チケットを一枚手渡す。
「ところで騙そうとしてたって何だ?」
「そこは流しなさいよ……」
77 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/10/06(木) 01:39:33.09 ID:A2rxka6U0
――――
「退屈ですわぁ……」
窓の外、再び強くなってきた雨足が時折窓に水の模様を描く。イギリスは気候的に見れば日本よりもっと寒冷で、雨も実際に多い。だからというわけではないがセシリアは雨が嫌いではない。机の上に開かれたノートのディスプレイには、ドイツ商人から三万日本円で購入した一夏の半裸盗撮画像を加工した壁紙が表示されている。
「一夏さん……」
惚けた声でその名を呼びながらそっとディスプレイを指でなぞる。同室の驚くほど口の軽い酢豚という親友は体を動かしてくると言って出て行ってしまったきりだ。
だからこそ、こんな煩悩全開の壁紙を設定してアンニュイな午後にも浸れるというもの。少しシャワーでも浴びようか、モニターに映る一夏に見られてると思いながら、羽織っている上品な桜色のカーディガンからするりと袖を抜き、彼の視線を妄想しながら一枚一枚と衣服を……――。
――バン
「ただいまー」
「ほあああぁぁぁあああっ!?」
半脱ぎのままバンとノートを閉じる。業務用のデータも入っているそれは開く時に静紋認証、開いてからの復帰に網膜認証を必要としているから閉じてさえしまえば不在時に覗かれる心配はない。
「……エロい恰好でなにしてんのよあんたは……は、はぁん?お邪魔だったかしら?」
呆れたように深々と溜息を吐きながら鈴が後ろ手に戸を閉める。にやにやと口端を上げて笑みながら近づき、半脱ぎでパソコン前、ナニをしていたの?と、文字通りの舐めるような視線をセシリアの体に這い回らせる。
「な、な!何を仰いますの?わたくしはただシャワーでも浴びようかなぁと思っておりましただけでしてよ?鈴さんこそどちらへ行かれてましたの?屋内トレーニングルームに行って来ると仰っていたわりに随分お早いですけれど!」
取り繕って話題を変えようとしていることがひしひしと伝わってくる慌てっぷりで、セシリアは早口にまくしたてる。シャワーを浴びようとしてたのなら脱衣所で脱げばいいし、慌ててノートを閉じることも無いだろうに。
「いや、行こうとは思ってたんだけど、そこで一夏と会ってね?」
「一夏さん!?まさか一夏さんがお見えになってますの!?――わたくしとした事が、こんな恰好で……ッ!す、すぐに準備をいたしますから少しお待ちになってもらってくださいましッ!!」
いそいそとクローゼットに向かうセシリアの反応を見ながら、鈴は軽く額を抑える。
「いや、一夏は連れて来ちゃい無いから落ち着きなさいよ。で、どうせアンタ暇でしょ?」
「どうして連れて来てくださらないんですのっ! …………ま、まあ、偶然お時間がある状況ではございますけれど……」
83 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/10/23(日) 00:25:25.85 ID:wxpvbyzd0
暇な事は朝っぱらからマインスイーパーをやっていたからよく知っている。わざわざ偶然だなんて断らなくてもいいのに。鈴は意地っ張りな親友の態度に、そんな所もかわいいなんて思いながら、ポケットから預かったチケットをぴらりと出す。
「あら!鈴ってばそれ、どうなさったんですの?」
チケットを見るや好感触の反応を返してきたセシリア。少しだけ博物館なんて色気がないかなんて思ったけれど本当に杞憂だったみたいだ。
「実はね、セシリア、これ――
「奇遇ですわね、わたくしも同じものを持っておりましてよ!一人で行くのもどうかと思っておりましたけれど、本当に丁度よかった。本日までのようですから早速参りましょう」
――……へっ?」
「奇遇ですわね、わたくしも同じものを持っておりましてよ!一人で行くのもどうかと思っておりましたけれど、本当に丁度よかった。本日までのようですから早速参りましょう」
――……へっ?」
食い気味に告げられたセシリアの嬉しそうな言葉に、鈴はチケットを持ったまま頬を引き攣らせる。
84 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/10/23(日) 00:25:59.83 ID:wxpvbyzd0
(え?今?え?持ってる??一夏が二枚持ってて、セシリアが一枚、え、あれ?うそ、なんで?)
うきうきと服を選んでいるセシリアが肩越しに振り返り、茫然としている鈴を見て呆れたように鼻で笑った。
「ちょっと鈴、まさかそんな恰好で行くつもりですの?さっさと着替えて行きますわよ」
「――は!いや、そうじゃなくて、ええと……一夏!一夏に貰ったのこれ!だから……」
一夏に貰ったのだ、なら一夏に返せばセシリアは一夏と行けるよね、となる筈。一夏にはチケットを渡してきてあげると言った以上、まさか『チケットを渡そうとした結果アタシがセシリアと行く事になりました』とは一夏に言い辛い。
「あら、そうでしたのね……お誘いいただければ喜んでお伴できましたのに…………やはり殿方は博物館はあまり好きではないのかもしれませんわね、今回の展示は特に、珍しい花や蝶の展示ですから」
セシリアが口にした展示内容にぎょっとして鈴はチケットを両手で掴んでよく見れば、確かに、世界中の珍しい花を集めた展示のものだった。まずい、一夏が行くのを面倒くさがりそうな展示内容だ。同時に、なぜセシリアがこれを持っているのかも理解が出来た。
――『展示協力:大英博物館』
自国の国家代表候補生が学ぶ日本で展示を行うから、自国の代表候補生に招待のチケットが送られるのは至極当然。鈴の元にも時折こういった招待のチケットが届く。
(バカ一夏……ッ!自分が誘おうとしてたチケットの内容くらいちゃんと読んどきなさいよ!!)
当然一夏にもこういった招待はある。あるのだけれど、基本的に一夏の手元にそれらが届くことは実は無い。世界唯一の男性IS操縦者である一夏が例えば特定の国から送られてきたチケットで催しに参加した場合、無用な軋轢を生みかねない。そのため、基本的に姉である千冬が全て接収していたからだ。だから、チケットの内容を読んでそこに大英博物館の名前があったとして、それがセシリアがすでにチケットを持っている事には繋がりにくい。もちろんそんな事は鈴が知る筈も無い事なのだけれど。
85 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/10/23(日) 00:27:37.99 ID:wxpvbyzd0
「鈴?まだ着替えていませんの……?早く行かないと……見ている時間が無くなってしまいますわよ?」
薄青のフリルワンピースに、袖口のレースがいかにもな白いファー付きボレロを羽織りストールを巻いたセシリアの表情が、一瞬不安げに陰る。鈴自身、あまり博物館で花や蝶の標本を眺めるタイプではない、それは自他共に認めるところ。もしかして、行きたくないのではないだろうか?セシリアがそんな風に思っているのが一瞬で伝わってきた。
(――くっ、一夏には悪いけれど)
「そ、そーね!あは、あはは、ちょっとラウンジで待ってて。すぐ着替えていくから!」
セシリアの表情が曇るくらいなら多少の不義理も仕方が無い。
行って待ってて!と言いながらセシリアの背中をぐいぐいと押して部屋から先に出させ、鈴は素早く自分専用のIS《甲龍》の片腕を部分展開し、プライベート・チャネルを開く。
「もしもし!?一夏!?」
≪うわっ、なんだ!?鈴か?どうしたんだそんなに慌てて……まさか!!セシリアに何かあったのか!?≫
実のところ、一夏には以前から拭えない不安が一つあった。イギリスに行ってから、ずっと、暗い水の底から何かがゆっくりと近づいてくるような、予感。普段はIS学園という場所柄も考えれば表に出てくるようなものではないけれど、鈴が一人でいるセシリアの所に行って、切羽詰まったようなトーンで返してきた時、その不安が一気に増大した。
「――えっ?」
が、そんな剣幕の一夏の声に、逆に気圧されてしまった鈴が戸惑いの反応を返すばかりだった。
≪――ぁ、いや。≫
「とにかく!いいから!今すぐアタシの言うとおりにしなさい!」
≪はぁ?いきなりなんだよ、なぁそれよりチケットは……≫
「うっさい!質問禁止!!博物館についてはセシリアなら行くから、いいから支度を整えてアタシの言うとおりにしなさいってば!!いい!まずは――」
セシリアについて重大な事が有ったのではないようだ、ほっとしたのも束の間、どうも鈴のほうに焦らなければいけない要因が有るらしい。何が有ったのか一夏はとても気になったけれど、質問を禁止されてしまった以上何も言えず従うしかない。どっちにしろ、一夏にとってはセシリアが来るか来ないかの方が重要なのだから。
86 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/10/23(日) 00:28:17.01 ID:wxpvbyzd0
――――――
「鈴のやつ……なんだってこんな所に??セシリアがここに来るって事か……??」
鈴に指定されて、一夏は一人で学園を出て駅前にやって来ていた。駅の階段が正面に見える、ちょっとお洒落を気取った珈琲チェーン店の屋根のあるテラス席でセシリアを待つ。
生憎の雨だというのに街中は人が多い。この辺りではまだちらほらとIS学園の生徒らしき制服姿も見られる。三年生はもうすぐ卒業だ。
無為に待っていると、色んなことが頭に浮かぶ。まず一夏には現状疑問が多い。チケットをセシリアに渡してきてあげると言った鈴は、渡したとも渡していないとも言わずにここへ来るよう指令を出してきた。事情はあるのだろうけれど。
(ひょっとして、これはセシリアがシチュエーションを指定したって事なんじゃないか……?)
87 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/10/23(日) 00:28:57.59 ID:wxpvbyzd0
――――
不意に、背後からそっと手が目隠しをしてくる。ああ、セシリアの手だ。国家代表候補生として訓練も積んでいる彼女たちの手は、普通ならタコやマメができたりで荒れていてもおかしくは無い。むしろそれが普通だ。だが、専用機持ちはそこも普通と違う。それが専用機持ちが憧れの眼差しで見られる要因でもあるのだけれど。
ISには若干ながら搭乗者の生命維持機能が有る。細胞の活性化や体調維持にも僅かに有効なのだが、専用機とはその機能を24時間使用できるということだ。女子にとって垂涎の美容機器と言える。
セシリアの手は、更にその上でよく念入りに手入れされているから、肌の綺麗さでは群を抜いている。照れているのか少し控えめに目元に添えられているのも、セシリアらしい。これが箒ならば力が入っているだろうし、鈴は勢い余るだろう。シャルロットはうっかりかおっぱいが背中に当たるだろうし、ラウラは確実に目潰しにかかってくる。
「だぁれだ、ですわ」
一夏は思わず噴出しそうになってしまう。聞かれる前からセシリアだとは分かっていたけれどこんな時くらいその独特の日本語はやめればいいのに。ですわつけりゃいいってもんじゃないわよ!なんて前に鈴と言い合いしてたことをちょっと思い出す。
「セシリア」
「んもう、どうして分かったんですの?」
少し拗ねたような声色は、本当になんでばれるのか分かっていないのかもしれない、別にそれは正す必要はないだろう、そんな所もセシリアは可愛い、愛おしくて可愛い恋人。一夏はセシリアの手に自分の手を重ねて、離させて早くその顔が見たいと思ったけれど、不意に背中に添えられた感触に動きが止まる。
「……ふふ、わたくしは今何をしているでしょうか?」
88 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/10/23(日) 00:30:36.08 ID:wxpvbyzd0
セシリアは、自分の体型を同年代に比べれば小さいほうとは言っていた。でもそれはイギリスの話。実話、イギリス人の平均バストサイズはDである。しかもここ10年でBからDに急成長している。そしてこの平均はブラをつける全年齢で出す。つまり、イギリス人は現在若ければ若いほどでかい。実際、日本やフランスもその傾向はあり、現代人は平均的なバストサイズは上昇傾向にあると言える。
(そんな事ァどうでもいい!!こ、こここここれは!!)
パイ並べしたら山田先生は先頭だ。箒はでかい。千冬姉もでかい。WAVE盛りすぎだろうなんて意見もあるがあれでいい。一夏はイギリスで生で見たりしてるがそれはそれとして。
箒は当てないが手を掴んで触らせる、シャルロットはうっかり当たってしまう。セシリアは当てるつもりで当てに来る。ラウラは当たらない。鈴は二組。これだ。
「そ、その……セ、セシリア……」
「ねえ、一夏さん……わたくし、何してますの?」
目を覆っていた手を外し、そっと肩に手を添えたセシリアが更に密着度を上げて、くる。二つの膨らみが更に押し付けられる。
右っぱい良し!左っぱい良し!
「――――!?」
ふと一夏は気付いた、いくらなんでも柔らかすぎやしないか?
「まさか、まさか……」
「ふふ……ノーブラですわ……」
「 !? 」
89 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/10/23(日) 00:31:08.67 ID:wxpvbyzd0
「ふん、どれだけ偉そうなことを言っても所詮は口先だけの頭でっかちな童貞坊やか」
「ビームマグナムを使う!」
ギシギシアンアン
90 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/10/23(日) 00:35:46.80 ID:wxpvbyzd0
――――
(なんつってな、なんつってな!)
カフェのテラスで妄想にふけり、鼻の下をのばす一夏の姿は大層気持ち悪かった。
(しかしそっか、もう卒業に向けてか……三年生は天下のIS学園っつっても大変だ。……ん、ってことは楯無生徒会長……は、二年なんだよなあの人……引退まであと一年近くあるのかよ……)
といっても、一夏の周りにはダリル先輩が一応三年生だが、あまりよくは知らない。楯無会長含め、ほぼ全員が進級するだけだ。
学園最強の称号であるIS学園生徒会長の席は、二年生にしてロシアの"国家代表"である更識楯無が就いている。代表候補生ではない、国家代表。代表候補生は代表候補生で間違いなくエリート(セシリア談)だが、別に一人ではない。二年にも三年にも代表候補生はいる。だが、流石に国家代表の資格を持っている在校生は現時点で楯無ただ一人だ。
(そもそも、三年中期であの人がすんなりと引退するのか?…………やめよう、考えるのは)
セシリアと付き合い始めてから、楯無から一夏へのアプローチは目に見えて減っていた。減ったと言っても以前と比べて、であって、相も変わらず神出鬼没。不意打ちの回数が一日数回から一日ゼロから二回に減った程度だけれど。
「い・ち・か・くぅ~ん」
ふわっと香るいい匂いが鼻を擽ると思うや否や、背中から肩口に回される腕、そして嫌が応にも背中に押しつけられる柔らかく大きなふくらみ。
「ぁっ……た、楯無会長……ッ!?」
「あらあ、おっぱいの感触でバレちゃったかしら?ふふふ、助平だね?一夏くん」
91 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/10/23(日) 00:37:03.75 ID:wxpvbyzd0
駅前での不意打ちははたから見れば所謂バカップル行為そのもので。当然のように周囲の視線がザクザクと一夏に突き刺さる。一瞬妄想具現化かなんて思った自分が一夏はあほらしいとさえ思っていた。
「こんな所で、どぉしたの?もしかしてナンパかしら?そんな事する子とは思わなかったわ~」
「ちがっ!違いますって!だから押し付けないでくださいィ!」
「あら、ナニを押し付けないで欲しいのかな~?」
確信犯に言葉を濁して言った所で何の意味もない。判ってはいるのだけれど、かといって一夏にはっきりおっぱい押し付けないでくださいとは言えるわけがない。ちょっとは嬉しいんだろう。本当は判っているんだろう?男なら。以前、弾に愚痴った時に血涙を流した弾に訥々と語られた言葉だった。
(まぁ……ちょっとは)
92 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/10/23(日) 00:37:43.95 ID:wxpvbyzd0
一瞬。
93 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/10/23(日) 00:38:36.99 ID:wxpvbyzd0
一瞬だ。
ほんの一瞬の気配。
94 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/10/23(日) 00:39:13.20 ID:wxpvbyzd0
光学兵器はその性質上、銃の機構内での粒子加速稼働がある。光線に破壊力を持たせる為にはどうしても必要なものだ。開発当初は稼働から照射まで数分もの粒子加速が必要なものもあったという。しかし技術発展によって現在の光学武器、特にISに搭載される光学兵装はそのタイムラグをほぼ解決したと言えるレベルまで短縮されている。
ただしそれは通常の光学兵器ならばである。口径を大きくすればする程、出力を上げれば上げる程に、どうしてもこの準備動作は大きくなる。
「あま~い」
ほんの一瞬、しかし、通常よりもほんの少しだけ長いラグは、楯無にとっては読めて当たり前のレベルになる。一夏と楯無の周辺に、文字通りの水のヴェールが一瞬で形成され、飛来した光線を受け止めた。水のIS。ロシア代表更識楯無専用IS《ミステリアス・レィディ》の《アクア・クリスタル》を部分展開、製造されたアクア・ナノマシンを展開した防御だ。屈折と反射角を散るように制御され、それでも高い熱量で一部蒸発させながら。文字通り光線が霧散する。
「うわっ!?な、なんだ!」
背中にふにょんふにょん楯無ッパイの感触を感じながら、突然の事態に一夏が楯無をかばいつつ、着弾した方向へ振り返ろう
――と……思った。
95 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/10/23(日) 00:40:25.20 ID:wxpvbyzd0
「あら、お待ちかねのお姫様の御到着かしら?これからデート?じゃ、愉しんできてね~」
するりと背中からおっぱいの名残と、柔らかな香りを残して楯無が離れ、すぅ……と靄の中に消えていく。え、ここで帰るの?
蒸発した霧は雨の中にゆっくり晴れる。ここで振り返らなかったら、余計に地獄を見るな。どこと無く冷静に判断している自分がいると思いながら、一夏はゆっくりと駅の階段のほうを振り返った。
「…………」
片手に傘、片手は大口径狙撃用特殊レーザーライフル《スターライトmk-Ⅲ》を持った蒼いISの腕。隣には額を片手で押え、やはり傘を持ってがっくり項垂れる鈴。もしかしなくても、イギリス代表候補生セシリア・オルコット(激怒)がいた。
「……一夏ぁ~……ほんっとアンタってさぁ……」
本当に、何と言葉をかけていいものか、大きくかぶりを振りながら時々隣にいるセシリアをチラ見しながら、鈴が静寂を破り、疲労感たっぷりのため息を吐く。
96 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/10/23(日) 00:41:15.20 ID:wxpvbyzd0
「――ちが
「違うとしても……一夏さん?」
……はい」
「違うとしても……一夏さん?」
……はい」
弁解しようとした一夏の言葉に、セシリアの声が被る。雨音だけが必要以上に大きい。
「……今朝もあんなに愛を確かめ合いましたのに……」
「えっ!?」
今度は鈴が驚く番だった。毎朝、休日も欠かさず朝と寝る前は二人きりで会ってるのは、セシリアと同室の鈴にとってはもうずっと繰り返されてる日課であり、別段驚くことではない。いくらでもいちゃいちゃしてればいい、セシリアのシャワーに乱入できるのは自分だけで、一緒のベッドで寝てるのも自分だけだ。だがちょっと今のは聞き捨てならない。
「――ッ!待て!鈴!!誤解だ!《双天牙月》を展開するな!」
《双天牙月》、鈴の《甲龍》に搭載された二対の青竜刀型の近接武器を無言で赤い前腕部と共に展開する鈴を見れば、今のセシリアの言葉で余計な推測をしたことが嫌と言うほど分かる。
「…………誤解? 何が誤解なんですの!?……一夏さんは……一夏さんは……誤解と捉えていると仰いますのッッ!!」
「ぃいッ!!セシリア!?ち、ちが 今のは……!」
セシリアの両肩後ろの空間に、大きなシルエットが二つ現れる。セシリアの専用IS《ブルー・ティアーズ》の象徴的武装であるシールドバインダーが展開される。そのすらりとした末広がりの形状は遠目から見ても美しく映えるのだが。以前のイギリス帰省の際に搭載された総合強化パッケージ《クイーンズ・グレイス》によって増設されたBITにより、そのシルエットには威風さえ漂う。
(セシリアの誤解を解こうとすれば鈴がキレ、鈴の誤解を正そうとすればセシリアの逆鱗に触れる!!)
もう冬を感じさせる気温だと言うのに、一夏の背に嫌な汗が浮かぶ。
97 :IS ifストーリー Cecilia Alcot ◆l5R7650ANI [sage saga]:2011/10/23(日) 00:42:03.68 ID:wxpvbyzd0
「…………ち、ちが
「ですから……違 う と し て も と申し上げておりますわ、一夏さん」
――いや、頼む!聞いてくれ!!セシリア!!」
「ですから……違 う と し て も と申し上げておりますわ、一夏さん」
――いや、頼む!聞いてくれ!!セシリア!!」
誤解であっても、振り解こうとはしていなかった、セシリアが違うとしてもと怒っていると言うことはそういう事だ、そう一夏は分析する。どこから見られていたのだろう。否、こういうときにどこからかはあまり重要ではない。
「一夏ァ!歯ぁ食い縛りなさい!」
「一夏ァ!歯ぁ食い縛りなさい!」
「ちょっ!歯を食い縛れって言いながら刃物を振りかぶるな!鈴もちょっと頼むから聞いてくれええぇぇええ!!」